西暦2021年4月2日 13:04 ゴルソン大陸 日本国西方管理地域 ゴルシアの街 陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯地 通信室
「こりゃあ、面倒だな」
FAXが吐き出した命令書を見た佐藤は、思わずそう呟いた。
その声音は余りにも重々しく、傍らで待機していた二曹は不安そうな表情を浮かべる。
「一尉、増援部隊は何時頃到着するのでしょうか?」
「護衛と共に、明日には到着予定だそうだ。
まあそれはどうでもいいんだ。作戦の方だよ、問題は」
彼は重々しい声音のまま、さらに憂鬱そうにため息を吐いた。
「どのような作戦なのでしょうか?」
「どっかのバカがとんでもない事をやらかしやがった。
俺たちは、その後始末をさせられるそうだ」
命令書には、空爆が許可されない理由が書かれていた。
それは、必ず特定の人物を殺害し、それを確認しなければならないからと記されている。
水爆を使用するのでもない限り、都市部への攻撃で特定の人物を確実に抹殺する事は難しい。
直接死亡を確認できる銃殺や刺殺とは違い、空爆の場合にはひょっとして、もしかしたらがついてまわり、絶対に殺害したと確認することが出来ない。
強力な放射線で確実な死が保障されるのではという意見も上層部ではあったそうだが、魔法というこの世界特有の要素がある。
放射線障害に魔法が無力であるという絶対の保証は無いのだ。
「どっかのバカ、と言いますと?」
「どうやら日本人らしいが、詳細は不明だ。
都市内部に潜入している海兵隊から連絡があった。
現地民やグレザール帝国軍と友好的な関係を築き上げ、様々な情報を提供しているそうだ」
この世界の人間は、基本的に欧州系の白人種で構成されている。
そのため、生活習慣や社会常識を会得した合衆国軍の兵士であれば、潜入工作員として紛れ込む事が可能なのだ。
「タロウと呼ばれる日本人男性一名、周囲には常に一個小隊ほどの護衛がいる。
近日中にグレザール帝国本土へ移動予定」
「まずいですね、それは」
まずいなんていう生易しい状況ではない。
未開の地における現地の物品を使用した生存方法や、公衆衛生の概念などさまざまな知識を提供しているらしい。
このまま放置すれば、必ず国益を損ねる結果を招く。
それだけは間違いない。
「それで私たちが出動を?」
「俺たちだけではない、第一や第二基地からも増援が来る。
総勢三個大隊の旅団で完全に包囲し、対象人物を殺害、現地のグレザール帝国軍も殲滅せよとさ」
「現地のって、確かあそこには一個師団ほどの敵戦力があるのでは?」
二曹の疑問はもっともである。
城塞都市ダルコニアには、グレザール帝国軍の五大軍団の一つ、白銀の騎士団が駐屯している。
その数およそ数千名。
騎兵をメインに据えた騎馬軍団である。
もちろん、開かれた平地で戦闘するのであれば砲爆撃により三十分以内に殲滅が可能だが、今回は市街戦である。
騎馬隊の衝撃力を殺せるのはいいが、その代わり余計に数が増えた無数の歩兵が相手となる。
89式自動小銃は確かに強力な兵器だが、それを扱う自衛官は剣で切られても矢が刺さっても死んでしまうのだ。
「誘い出して殲滅が出来ればとても良いのだが、こちらの世界の人間が付いているとなると厄介だな。
素直に城門から全軍出撃してくれるとは思えん」
「街を囲んで、兵糧攻めにしてしまえばいいのでは?
一年も続ければ、確実に全員を無力化できますよ?」
二曹の提案は民間人の死傷を考慮に入れたものだったが、確実性はある。
冷蔵保存技術がないこの世界では、それほどの長期間に渡って食料を保存する事はできない。
確かに一年も兵糧攻めを続ければ、敵の人数も手伝って確実な無力化が出来る。
「駄目だ」
しかし、佐藤はその提案を却下した。
「伝書鳩やそのような何らかの生物を使って情報だけでも流されたらどうする?
あるいは、テレパシー的な魔法で情報を流されたらお手上げだ」
「なるほど、確かにそれは考えていませんでした」
議論を続けるほど、自分たちが出動しなければならない理由が見えてくる。
考えてみるまでもなく、前線の兵士たちが思いつく事など上層部が考え付かないわけがないのだ。
「現地の民間人はどのようにするのでしょうか?」
内心で微かに嫌な予感を抱きつつ二曹は尋ねる。
現在の日本国では、日本国民以外の人間についてあまり関心を持っていない。
「もちろん、民間人の無意味な殺戮は命じられてはいない」
佐藤の回答は、二曹の嫌な予感を肯定した。
「つまり、意味がある、必要がある場合にはそれも行う必要があるわけですね」
「そうだ、例えば集団が悲鳴を上げつつ街から逃げ出す、といった場合には、適切な対応を行う許可が出ている」
特定の人物を必ず殺害しなければならない。
そのような作戦で、民間人の集団が街から逃げ出そうとする。
その時、包囲している部隊は何をしなければならないのか。
停止を命ずる、当然だ。
では、止まらなかったら?
「こちらの静止に従わない場合には」
「そうだ」
佐藤は暗い表情で後を続けた。
「こちらの静止に従わなかった場合、我々は街から逃げ出そうとする全ての者を殺害しなければならない」
同日同時刻 ゴルソン大陸 グレザール帝国 城塞都市ダルコニア
「タロゥ!」
不意にかけられた声に俺は振り向いた。
視界一杯に豊かな胸が広がっている。
「あべしっ!?」
間抜けな声が出たとしても仕方がないだろう?
振り向いたら乳、これでまともな対応が取れる男が何人いるだろう。
「シンディさん、飛びつかないで下さいっていつも言ってるでしょう?」
胸の谷間から抗議の声を出す。
昔のゲームに出てくる女戦士そのものの露出製の高い格好をしている彼女は愉快そうに笑った。
「だってさぁ、タロウが浮かない表情なんだもん。私だったらいつでもいいんだよ?」
「や、やめてくれよ」
いたずらっぽく笑うシンディに、思わず赤面してしまう。
「私はタロウだったら・・・いいのにな」
微かに聞こえてくる呟きに、さらに顔が赤くなる。
「ちょっと!」
じゃれあっている俺たちのところに、鋭い声がかけられる。
「振り返ると、修道女の格好をした女性が立っていた」
「まるで初めて会ったような事をいわないでちょうだい!」
怒られてしまった。
ベタな展開ではあるが、考えている事を口に出す癖は直さないとな。
「あらぁ?ルースったら随分と機嫌が悪いじゃない。もしかして、焼いてるのかしら?」
よせばいいのにシンディが挑発すると、直ぐにルースは乗ってきた。
「だ、だーれが何を焼いているのかしら!?私は別に、そう!公衆の面前で、未婚の男女が接触している事を叱りにきただけよ!」
「あら、そう。それならぁ」
ルースの言葉に、シンディはニヤリと笑って俺を抱きしめる。
「丁度あなたもいる事だし、私たちここで今から結婚しますー!」
「ばっ!何をばかかなことととをっ!」
とんでもない事を言い出したシンディに、ルースは混乱しつつ抗議した。
「タロウは貴方のような剣を振り回すしか能のない人では駄目よ!
そう、べ、べつに私とは言わないけど、学のある人間じゃないと」
「ちょっとー剣を振り回すしかとは随分なお言葉じゃないのさ!」
「嘘は言ってないわよ!」
「いい度胸ね!じゃあ、ここで決めましょうよ!私とあなた、どっちがタロウに相応しいのか!」
「良いわよ!そして貴方は一人寂しく剣を磨くことになるわけだけどね!」
「言ったわね!あんたこそ教会で神様に永遠の忠誠を誓っていればいいのよ!」
女三人姦しいとはいうけれど、二人でこれじゃあ三人になったときはどうなるんだよ。
「ねえねえ」
袖を引かれて振り返ると、ショートカットのエルフが目に入る。
「あの二人、またやってるし放っておこうよ」
彼女はにこやかな笑みを浮かべ、俺の腕に抱きつく。
「あっちでさ、精霊たちとお茶会をしない?
タロウの弓の腕の上達も見たいといえば見たいし」
腕に当たる柔らかな感触がたまらない。
たまたま開拓団からはぐれた俺を助けてくれたこの三人は、どういうわけか俺の事を気に入ってくれているらしい。
「アニタぁ!抜け駆けするなぁ!」
歩き出した俺の後ろから、シンディの叫び声が響いてきた。
その後、四人であれこれ話しながら、町外れにある林に到着した。
直ぐに、木々から精霊たちがやってくる。
「やっぱり、凄いわねぇ」
俺の周りに集まる精霊たちを目にして、アニタはため息をつきながら言った。
理由は分からないが、俺は精霊に好かれるらしい。
アニタが近くにいないと全く見えないのだが、どうやらいつでもそうなのだそうだ。
「さすがは勇者様、ってことなのね」
シンディが感心した様子で俺を褒める。
ちょっと知っている事を披露しただけなのに、この三人も、グレザール帝国っていう国の騎士団長も、俺の事を勇者と呼びだした。
別に、俺が知っていることなんて、日本人なら誰でも知っているようなことばかりなんだけどな。
「そんな、勇者だなんてやめてくれよ」
「とんでもないわ!」
照れ臭くて思わずそう言った俺の言葉をルースが大声で否定した。
「私たちが知らない、思いも付かなかった事を知っていて、そして精霊にとても好かれる。これが勇者様でなくてなんなのよ!」
「俺に聞かれてもなぁ」
「まあ、少なくとも本物の勇者は、自分で自分の事をそうは呼ばないわよ」
和気藹々としていた所に、白銀の騎士団(俺はこのカッコイイ名前が気に入っている)の主席魔道士であるセレーが声をかけてきた。
「これはセレー様、ご機嫌麗しゅう」
畏まった様子でシンディが挨拶する。
普段はおちゃらけているが、彼女も立派な騎士の一人なのだ。
「元気そうで何よりねシンディ。二人もね。申し訳ないけど、今日もタロウを借りるわよ」
ごめんなさいね。直ぐに終わるから」
セレーは色気たっぷりの笑みを浮かべてそういうと、俺の手を握った。
どうでもいい、いや、大変に重要な事に、この年齢不詳の美人魔道士は、凄い色気を持っているのだ。
しかも、二人の時には、いや、まあ、同じ事は実はみんなとも、って、俺は何を言ってるんだ。
「さあタロウ、いきましょう?」
「三人ともまたあとでなぁ!」
俺は元気良く三人に挨拶し、セレーと城に向けて歩き出した。
いろいろとする前に、まずは俺がみんなの役に立ちそうな事を、色々と話してからじゃないと駄目だからな。
「こりゃあ、面倒だな」
FAXが吐き出した命令書を見た佐藤は、思わずそう呟いた。
その声音は余りにも重々しく、傍らで待機していた二曹は不安そうな表情を浮かべる。
「一尉、増援部隊は何時頃到着するのでしょうか?」
「護衛と共に、明日には到着予定だそうだ。
まあそれはどうでもいいんだ。作戦の方だよ、問題は」
彼は重々しい声音のまま、さらに憂鬱そうにため息を吐いた。
「どのような作戦なのでしょうか?」
「どっかのバカがとんでもない事をやらかしやがった。
俺たちは、その後始末をさせられるそうだ」
命令書には、空爆が許可されない理由が書かれていた。
それは、必ず特定の人物を殺害し、それを確認しなければならないからと記されている。
水爆を使用するのでもない限り、都市部への攻撃で特定の人物を確実に抹殺する事は難しい。
直接死亡を確認できる銃殺や刺殺とは違い、空爆の場合にはひょっとして、もしかしたらがついてまわり、絶対に殺害したと確認することが出来ない。
強力な放射線で確実な死が保障されるのではという意見も上層部ではあったそうだが、魔法というこの世界特有の要素がある。
放射線障害に魔法が無力であるという絶対の保証は無いのだ。
「どっかのバカ、と言いますと?」
「どうやら日本人らしいが、詳細は不明だ。
都市内部に潜入している海兵隊から連絡があった。
現地民やグレザール帝国軍と友好的な関係を築き上げ、様々な情報を提供しているそうだ」
この世界の人間は、基本的に欧州系の白人種で構成されている。
そのため、生活習慣や社会常識を会得した合衆国軍の兵士であれば、潜入工作員として紛れ込む事が可能なのだ。
「タロウと呼ばれる日本人男性一名、周囲には常に一個小隊ほどの護衛がいる。
近日中にグレザール帝国本土へ移動予定」
「まずいですね、それは」
まずいなんていう生易しい状況ではない。
未開の地における現地の物品を使用した生存方法や、公衆衛生の概念などさまざまな知識を提供しているらしい。
このまま放置すれば、必ず国益を損ねる結果を招く。
それだけは間違いない。
「それで私たちが出動を?」
「俺たちだけではない、第一や第二基地からも増援が来る。
総勢三個大隊の旅団で完全に包囲し、対象人物を殺害、現地のグレザール帝国軍も殲滅せよとさ」
「現地のって、確かあそこには一個師団ほどの敵戦力があるのでは?」
二曹の疑問はもっともである。
城塞都市ダルコニアには、グレザール帝国軍の五大軍団の一つ、白銀の騎士団が駐屯している。
その数およそ数千名。
騎兵をメインに据えた騎馬軍団である。
もちろん、開かれた平地で戦闘するのであれば砲爆撃により三十分以内に殲滅が可能だが、今回は市街戦である。
騎馬隊の衝撃力を殺せるのはいいが、その代わり余計に数が増えた無数の歩兵が相手となる。
89式自動小銃は確かに強力な兵器だが、それを扱う自衛官は剣で切られても矢が刺さっても死んでしまうのだ。
「誘い出して殲滅が出来ればとても良いのだが、こちらの世界の人間が付いているとなると厄介だな。
素直に城門から全軍出撃してくれるとは思えん」
「街を囲んで、兵糧攻めにしてしまえばいいのでは?
一年も続ければ、確実に全員を無力化できますよ?」
二曹の提案は民間人の死傷を考慮に入れたものだったが、確実性はある。
冷蔵保存技術がないこの世界では、それほどの長期間に渡って食料を保存する事はできない。
確かに一年も兵糧攻めを続ければ、敵の人数も手伝って確実な無力化が出来る。
「駄目だ」
しかし、佐藤はその提案を却下した。
「伝書鳩やそのような何らかの生物を使って情報だけでも流されたらどうする?
あるいは、テレパシー的な魔法で情報を流されたらお手上げだ」
「なるほど、確かにそれは考えていませんでした」
議論を続けるほど、自分たちが出動しなければならない理由が見えてくる。
考えてみるまでもなく、前線の兵士たちが思いつく事など上層部が考え付かないわけがないのだ。
「現地の民間人はどのようにするのでしょうか?」
内心で微かに嫌な予感を抱きつつ二曹は尋ねる。
現在の日本国では、日本国民以外の人間についてあまり関心を持っていない。
「もちろん、民間人の無意味な殺戮は命じられてはいない」
佐藤の回答は、二曹の嫌な予感を肯定した。
「つまり、意味がある、必要がある場合にはそれも行う必要があるわけですね」
「そうだ、例えば集団が悲鳴を上げつつ街から逃げ出す、といった場合には、適切な対応を行う許可が出ている」
特定の人物を必ず殺害しなければならない。
そのような作戦で、民間人の集団が街から逃げ出そうとする。
その時、包囲している部隊は何をしなければならないのか。
停止を命ずる、当然だ。
では、止まらなかったら?
「こちらの静止に従わない場合には」
「そうだ」
佐藤は暗い表情で後を続けた。
「こちらの静止に従わなかった場合、我々は街から逃げ出そうとする全ての者を殺害しなければならない」
同日同時刻 ゴルソン大陸 グレザール帝国 城塞都市ダルコニア
「タロゥ!」
不意にかけられた声に俺は振り向いた。
視界一杯に豊かな胸が広がっている。
「あべしっ!?」
間抜けな声が出たとしても仕方がないだろう?
振り向いたら乳、これでまともな対応が取れる男が何人いるだろう。
「シンディさん、飛びつかないで下さいっていつも言ってるでしょう?」
胸の谷間から抗議の声を出す。
昔のゲームに出てくる女戦士そのものの露出製の高い格好をしている彼女は愉快そうに笑った。
「だってさぁ、タロウが浮かない表情なんだもん。私だったらいつでもいいんだよ?」
「や、やめてくれよ」
いたずらっぽく笑うシンディに、思わず赤面してしまう。
「私はタロウだったら・・・いいのにな」
微かに聞こえてくる呟きに、さらに顔が赤くなる。
「ちょっと!」
じゃれあっている俺たちのところに、鋭い声がかけられる。
「振り返ると、修道女の格好をした女性が立っていた」
「まるで初めて会ったような事をいわないでちょうだい!」
怒られてしまった。
ベタな展開ではあるが、考えている事を口に出す癖は直さないとな。
「あらぁ?ルースったら随分と機嫌が悪いじゃない。もしかして、焼いてるのかしら?」
よせばいいのにシンディが挑発すると、直ぐにルースは乗ってきた。
「だ、だーれが何を焼いているのかしら!?私は別に、そう!公衆の面前で、未婚の男女が接触している事を叱りにきただけよ!」
「あら、そう。それならぁ」
ルースの言葉に、シンディはニヤリと笑って俺を抱きしめる。
「丁度あなたもいる事だし、私たちここで今から結婚しますー!」
「ばっ!何をばかかなことととをっ!」
とんでもない事を言い出したシンディに、ルースは混乱しつつ抗議した。
「タロウは貴方のような剣を振り回すしか能のない人では駄目よ!
そう、べ、べつに私とは言わないけど、学のある人間じゃないと」
「ちょっとー剣を振り回すしかとは随分なお言葉じゃないのさ!」
「嘘は言ってないわよ!」
「いい度胸ね!じゃあ、ここで決めましょうよ!私とあなた、どっちがタロウに相応しいのか!」
「良いわよ!そして貴方は一人寂しく剣を磨くことになるわけだけどね!」
「言ったわね!あんたこそ教会で神様に永遠の忠誠を誓っていればいいのよ!」
女三人姦しいとはいうけれど、二人でこれじゃあ三人になったときはどうなるんだよ。
「ねえねえ」
袖を引かれて振り返ると、ショートカットのエルフが目に入る。
「あの二人、またやってるし放っておこうよ」
彼女はにこやかな笑みを浮かべ、俺の腕に抱きつく。
「あっちでさ、精霊たちとお茶会をしない?
タロウの弓の腕の上達も見たいといえば見たいし」
腕に当たる柔らかな感触がたまらない。
たまたま開拓団からはぐれた俺を助けてくれたこの三人は、どういうわけか俺の事を気に入ってくれているらしい。
「アニタぁ!抜け駆けするなぁ!」
歩き出した俺の後ろから、シンディの叫び声が響いてきた。
その後、四人であれこれ話しながら、町外れにある林に到着した。
直ぐに、木々から精霊たちがやってくる。
「やっぱり、凄いわねぇ」
俺の周りに集まる精霊たちを目にして、アニタはため息をつきながら言った。
理由は分からないが、俺は精霊に好かれるらしい。
アニタが近くにいないと全く見えないのだが、どうやらいつでもそうなのだそうだ。
「さすがは勇者様、ってことなのね」
シンディが感心した様子で俺を褒める。
ちょっと知っている事を披露しただけなのに、この三人も、グレザール帝国っていう国の騎士団長も、俺の事を勇者と呼びだした。
別に、俺が知っていることなんて、日本人なら誰でも知っているようなことばかりなんだけどな。
「そんな、勇者だなんてやめてくれよ」
「とんでもないわ!」
照れ臭くて思わずそう言った俺の言葉をルースが大声で否定した。
「私たちが知らない、思いも付かなかった事を知っていて、そして精霊にとても好かれる。これが勇者様でなくてなんなのよ!」
「俺に聞かれてもなぁ」
「まあ、少なくとも本物の勇者は、自分で自分の事をそうは呼ばないわよ」
和気藹々としていた所に、白銀の騎士団(俺はこのカッコイイ名前が気に入っている)の主席魔道士であるセレーが声をかけてきた。
「これはセレー様、ご機嫌麗しゅう」
畏まった様子でシンディが挨拶する。
普段はおちゃらけているが、彼女も立派な騎士の一人なのだ。
「元気そうで何よりねシンディ。二人もね。申し訳ないけど、今日もタロウを借りるわよ」
ごめんなさいね。直ぐに終わるから」
セレーは色気たっぷりの笑みを浮かべてそういうと、俺の手を握った。
どうでもいい、いや、大変に重要な事に、この年齢不詳の美人魔道士は、凄い色気を持っているのだ。
しかも、二人の時には、いや、まあ、同じ事は実はみんなとも、って、俺は何を言ってるんだ。
「さあタロウ、いきましょう?」
「三人ともまたあとでなぁ!」
俺は元気良く三人に挨拶し、セレーと城に向けて歩き出した。
いろいろとする前に、まずは俺がみんなの役に立ちそうな事を、色々と話してからじゃないと駄目だからな。