自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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神聖グレザリア暦1340年 六代目皇帝の月13日 城塞都市ダルコニア 派遣兵団総司令部

「早く!賢者の書を運ぶのよ!」

 日ごろの余裕がある表情を捨てたセレーが叫ぶ。
 その命令に、慌しく書籍を運ぶ兵士たちの動きが早まる。

「シンディ、タロウを任せましたよ」
「この命に代えても」

 旅装束に身を固めたシンディが跪きながら答える。
 なんだよこれ。

「沖に敵の軍艦が出たぞ!」

 兵士たちの叫び声が聞こえ、遠くからは航空機の爆音が聞こえてくる。
 あれは基地祭で聞いたことがある。
 航空自衛隊のF-2だ。

「さあタロウ、時間がありません」

 怖い顔をしたルースが俺の腕を引っ張る。

「なんで、なんで自衛隊がここに攻めて来るんだよ」

 爆発音。
 宮殿からそれほど遠くないであろう場所から響き渡ってくる轟音。
 絶叫。何かが崩れる音。

「シンディ、ルース、勇者様を連れて逃げるのよ。早く!」

 さっきやっつけたのに、また来たのかよ。
 この街にそれほど必死になる何があるって言うんだ?

「タロウ!」

 シンディに腕を引っ張られる。
 痛いじゃないか。

「海に近寄っちゃ駄目ですよ!」

 俺はセレーに改めて警告しつつ走り出した。


「ゴエー艦に気をつければいいのよね!わかっているわ!」

 騎士たちに命令を出していたセレーが振り返って答えてくれる。
 うん、やっぱり彼女は美人だなって、何を考えてるんだ俺は。

「艦砲射撃にだよ!」
「ええ、それにもね!大きい建物から人を離しておくわ!」

 21世紀の軍隊がどういう戦い方をするかは短い時間だけどしっかりと伝えた。
 何回か徹夜もして紙にも残した。
 これできっと、グレザール軍は負けはしない。
 んでもって、負けなければセレーたちは出世できるし、勝てなければ自衛隊も諦める。
 あとはグレザール帝国をセレーたちの力で共和国にして日本と和平。
 完璧じゃん。

「シエンセントーキだ!」

 空を監視していた兵士が叫んだ。
 大変だ。空自は本気で空爆をするつもりだ。

「こっちへ来るぞ!対空魔法用意!」

 監視塔の上から兵士が叫ぶ。
 あちこちで弓や杖が空へと向けられる。
 その狙いは適当ではない。

「十五番から十八番の間!よく狙え!準備!」

 俺が考えた対空攻撃は、いわゆる弾幕と言う奴だ。
 とにかく放てるだけのすべてを大体の方向へ向けて、みんなで一斉に撃ちまくる。
 その方向を決めるために、大勢の精霊たちに頼んで方位を確認し、あちこちの建物に印をつけている。
 ジェット戦闘機は確かに強いだろうが、低い高さで決まった方向へ向かってくるならやっつけられるはずだ。

「勇者様は早く宮殿の地下へ!あそこが一番安全です」

 シンディが叫びつつ俺の腕を引っ張る。
 確かに、あれだけ深い場所ならばきっと大丈夫だ。
 自衛隊はバンカーバスターをもっていないし、燃料気化爆弾もなかったはずだ。

「シンディ!急ごうぜ!俺たちじゃあ空には何も出来ないからな!」

 数人の兵士たちと共に、彼は宮殿の地下へと駆け出した。
 そこには、自衛隊の想像を超えた魔法施設がある。



西暦2021年4月14日 10:30 ゴルソン大陸 城塞都市ダルコニア沖合1300m 海上自衛隊護衛艦「かずさ」

「隊司令、時間です」

 腕時計を見ていた艦長が報告する。
 延長に延長が重ねられた自衛隊幹部でありながら今年で定年を迎える予定である。

「うん、それでは始めようか」
「全艦増速、左対地戦闘用意!」

 この戦隊に参加しているのは三隻の護衛艦。
 いずれもが二門の127mm54口径単装速射砲を装備している。
 全てを合わせた破壊力は一個自走砲大隊に相当するとも言える。
 何しろ、発射速度毎分40発の砲が合計六門だ。

「CIC戦闘準備よろし、目標データ送信中」」
「左舷対地戦闘よぅーい、CIC指示の目標ぉー!」

 独特の抑揚を付けた命令と復唱が交わされ、艦内は慌しく戦闘準備が整えられていく。
 海士たちが与えられた部署へと駆けつけ、次々に水密扉を閉じる。
 今のところ護衛艦に損傷を与えられる敵戦力は確認されていないが、自衛隊の辞書に油断という文字はない。

「艦砲射撃準備完了、全艦戦闘準備よろし」

 復唱が行われ、全ての艦砲が市街地を向く。
 対空戦闘にも用いられる砲だけあり、その動きは奇妙なまでにスムーズで軽やかである。

「撃ち方始め」

 全ての準備が整った艦橋で、戦隊司令は短く命じた。

「撃ちぃー方はじめぇー!」

 号令が響き渡り、艦内中に発砲に備えるためのブザーが鳴り響く。
 安全装置が解除される。
 そして発砲。
 127mm砲は20世紀初頭の戦艦たちに比べると随分と頼りない外見をしている。
 だが、それでも12.7cmの砲弾とそこに込められた高性能爆薬は、人体や建造物を破壊するのに十分な性能を持っている。
 合計六門の艦砲たちは、事前の計画に基づいて設定された目標へ向けて砲撃を開始した。 
 目標までの距離はおよそ5km。
 一昔前の機関砲のような勢いで放たれ続ける砲弾たちは、音速を超える速度で市街地へ向けて飛び続ける。


グレザリア帝国暦1490年 二代目皇帝の月13日 城塞都市ダルコニア 派遣兵団総司令部

 はじまりは突然だった。
 撤退作業が続く総司令部付近の建物。
 頑丈な石材で作られたそれが、突然爆発したのだ。

「何事!?」

 撤収作業を指揮していたセレーは爆発の瞬間を見逃した。
 しかし何かが起こっている事だけは理解していた。

「セレー様!敵の攻撃です!沖の軍艦が何かを飛ばしています!」

 水の精霊たちに万が一の消火をさせようと待機させていたアニタが飛び込んでくる。
 彼女が口早に報告している間にも、風を切る音と爆発が連続して発生している。

「うろたえないの!風の精霊を使って飛んでくるものを跳ね返しなさい!」

 人間の魔術師ならば数名がかりでやっとの事でも、エルフならば一人でできる。
 この世界の常識である。
 もちろん、一人で厳しければ人間も手伝えばよい。

「駄目です!重すぎて、それに早い!」

 アニタがそこまで叫んだところで、彼女の後ろで爆発が発生した。
 瞬時に飛び出した数名の騎士たちのおかげで、セレーは全てを目に出来た。
 総司令部の入り口の向こうで発生した閃光。
 次の瞬間、失禁をこらえきれない凄まじい轟音が響き渡り、同時に目に見えない速さで砕かれた石材と煙が押し寄せる。

「あぐおぅ」

 未だかつて出した事のない奇妙な声を出しつつ、彼女は後ろに向けて強く吹き飛ばされた。
 吹き飛ばされつつも彼女は気絶していなかった。
 もっとも、その視界に入ってきた光景は、気絶していたほうがよほどましなものだった。
 まず最初に煙から現れたのは、全身を引き裂かれたアニタだった。
 エルフらしい小柄な彼女は、人間と同じ赤い血を切断された胴体や腕、足などから迸らせつつ飛来した。
 その首は、胴体から捻り取られているにもかかわらず、何かを叫ぼうと口を動かしていた。
 ほぼ同時に、自分を守ろうと咄嗟に飛び出した騎士たちが登場する。
 魔法防御の施された頑丈な鎧を胴体各所にまとったまま、彼らは爆発の圧力に間接が負け、四肢が切断されている。
 幾多の戦場で地獄を目にしてきたセレーはそれでも意識を保っていたが、直後に飛来した誰かの腕が顔面に激突し、ようやく失神するという幸運を手にした。



 もちろん艦砲射撃は今も継続されており、逃げ惑う人々はセレー以上の地獄を目撃していた。
 ある騎士は、港の守りに付いたまま周囲の兵士たちや資材、むしろ港湾施設ごと砲撃で砕かれた。
 気がつくと、無数の兵士たちを従えていたはずの彼は、赤黒い何かに取り囲まれていた。
 精神が崩壊しかけた彼が最後に見たのは、物凄い速度で自分に接近する丸い何かだった。
 角ばっていない鉛筆やボールペンを目に向けて見るとわかるが、自分に向けて飛来する砲弾は、視認できる部分の関係から円に見えるといわれている。
 別の兵士は、監視についていた塔の基部を砲撃で破壊された。
 同僚たちと共に空中に投げ出され、いかなる作用か地面を見つつ落下する事になる。
 逃げ出そうと背中を向けて走る別の兵士が見え、臆病者と罵ったところで彼の視界は暗転した。
 もちろん、それきり意識が戻る事はない。
 別の魔術師は、すっかり数の減った同僚たちと飛来する何かに対して魔法を唱え続けていた。
 ファイヤーボールは相手が早すぎて当てられない。
 風の精霊を呼び出し、精神の限りを尽くして攻撃を逸らそうとするも力が足りない。
 彼は絶望していた。
 周囲にいるのは帝国を担う騎士団の一つ、その有力な魔術師たちである。
 それが十人も集まっているにも関わらず、敵が無数に放つ攻撃の一つたりとも止められない。
 敵が全力を尽くした決戦のつもりでない限り、これではグレザール帝国に勝ち目はない。
 そして、タロウから聞いた話では、ここに来ているのは自分たちでも勝てると目された敵軍のごく一部である。
 彼はカガクという恐るべき力を確認した。
 それは誰でも同じ結果が得られる、材料さえ揃えば直ぐに実現できる力。
 二千年以上という帝国暦よりも長い歴史でチキュウという世界の人々が積み重ねてきた結果の集大成。
 何でも出来るわけではないが、出来る事は誰でも同じ結果になる。
 それがいかに恐ろしい事か。
 頭上に飛来した砲弾が炸裂するその瞬間まで、彼の脳内にはカガクに対する対策が無数に練られていた。
 もっとも、その脳髄は直後に発生した爆発によって粉砕されてしまったのだが。

 被害を受けているのは軍人たちだけではない。
 とある家族は聞いた事の無い轟音に自宅で怯えつつ、屋根に直撃した砲弾の爆発によって全滅した。
 路地裏に隠れていた花売りの少女が爆風によって切り刻まれ、同じく近くにいた浮浪者も絶命させる。
 悲鳴を上げ、荷車を引きつつ移動中だった商人が、彼の命より大切な商売道具ごと虐殺される。
 近隣住民が集まった集会所が直撃を受け、そこにいた二十世帯が全員致命傷を負う。
 重傷を負った数人の大人と子供が、立ち込める粉塵に咳き込む事すらできずに死を待つ。
 避難中の区画に数発の砲弾が落ち、その時そこにいた百人余りを全滅させる。
 民家という民家が軒並み叩き潰され、商店が燃え上がり、公共設備が砕かれ、軍事施設が崩壊する。
 逃げ惑う人々の頭上に爆装したF2スーパー改が現れ、開けた場所や無傷の建造物めがけて爆弾を投下していく。
 周囲に展開した部隊が迫撃砲を次々と放ち、十分な殺傷能力を持った砲弾を降らせていく。
 弾庫に砲弾を満載した護衛艦隊は、休むことなく砲弾を放ち続ける。
 最初から圧倒的劣勢だったが、とにかくグレザール帝国軍に組織的抵抗は不可能だった。
 無秩序に見えて、彼らの攻撃はある程度以上の大きさか高さがある建造物を中心に行われていた。
 事前に構築された防空網は全くの無駄だった。
 航空機を除き、グレザール帝国軍の射程に接近する者はいなかったからだ。
 タロウの中途半端な知識に基づいて構築された対空射撃システムは、高速で駆け抜ける支援戦闘機相手には不十分な能力しかなかった。
 そして、彼らにとっては大変に不運な事に、自衛隊は決して対地攻撃能力に特化した組織ではないが、無防備な中世の市街地を破壊するのには十分な火力を持っていた。


「ああ、ああ」

 次々と発生する振動に、ルースは成す術を持たなかった。
 彼女は現在、避難民たちと共に教会で動けなくなっている。
 本来であればタロウのそばにいなければならないのだが、そこへ誘導するための兵士たちがいつまでも来ないからだ。
 彼女を護衛するための兵士たちが、至近距離に着弾した127mm砲弾によって血煙と化している事を彼女は知らない。

「ルース様!賢く偉大な神に仕える神官たるルース様!我らをお導きください!」

 帝国臣民たちに囲まれ、彼女は困惑していた。
 教会は、大きく分けて二つに分かれている。
 派閥が対立しているというのではなく、民間人に教えを与える組織と、軍と共に敵を倒す組織の二つに分かれているのだ。
 彼女は前者ではなく、後者に属している。
 闘う力を持たない民間人などを奮い立たせる方法など皆目見当が付かない。

「神よ、我々に力を。
 残虐なる敵に抗うための力を」

 困り果てた彼女は、両手を掲げて救いを求める言葉を発した。
 いつもならばここで、彼女の言葉を借りて指揮官たちが号令を発するのだが、避難民で溢れているこの場でそれをしてくれる人物はいない。
 彼女は自身の言葉だけで、怯える避難民たちを落ち着かせなければならない。

「神よ!」

 彼女はさらに声を張り上げた。
 圧倒的な暴力に晒されている中で、攻撃魔法も優れた武術も持っていない彼女にはそれしか出来ない。

「神官様に続くんだ!」

 誰かの叫びが聞こえる。
 見れば、いつの間にか紛れ込んでいた一人の兵士が両手を掲げている。

「皆のもの、神官様に力を貸すのだ」

 一人の老人が、震える腕を必死に掲げようとしている。
 その周囲では、家族らしい中年の女性、子供たちが後に続いている。

「神よ!」
「神よ我々に力を!」

 恐怖に怯えていた群集は、姿かたちも分からない神という存在に救いを求めて一致団結した。
 悲鳴は消え、身動きの取れるものたちは誰もが祈りを捧げ、神へ救いを求める言葉だけを口にした。

「ああ、神よ、ありがとうございます」

 全身を縛り付けていた恐怖はいつの間にか消えていた。
 ルースは、その事だけでも十分に神に感謝していた。
 そんな彼女に対する返答は、明り取りの窓からやってきた。
 ガラスが砕ける音を耳にし、彼女は後ろを振り向いた。
 正確には、振り向こうとした。
 それはかなわず、何者かに強く突き飛ばされる。
 フードが飛ばされてしまいそう。
 人生の最後で彼女が考えたのは、そんな事だった。
 直後、彼女は続けて飛び込んできた砲弾の爆発に巻き込まれ、四肢を吹き飛ばされつつ飛来した石材に頭部を砕かれた。

西暦2021年4月14日 10:30 ゴルソン大陸 城塞都市ダルコニア 作戦エリアD2

「いいぞいいぞ!悪党どもを吹っ飛ばしてしまえ!」

 墜落した機体の中で、ヘリオス74に搭乗していた隊員が歓声を上げていた。
 彼の視界で一番大きい石造りの建物が、内部に飛び込んだ砲弾によって破裂している。
 それはルースが避難民たちと逃げ込んだ教会であったが、彼にそんな事はわからない。
 もっとも、目の前で大勢の仲間が奪われた直後だけあり、そうだと知ってもやはり彼は歓声をあげただろう。

「やはり無線は駄目です」

 破損した機体に足を挟まれた副操縦士が報告する。
 彼は両足が動かせないが、手だけは何とか動かすことが出来た。
 そのため、周辺警戒を行う隊員に代わり、本部との通信を再開しようと試みていたのだ。
 ちなみに、機体後部にいた他の隊員たちは、あるものは空中で放り出され、別なものは機内に飛び込んできたローターによって刻まれている。

「そうか、モルヒネはもっといるか?」

 歓喜の表情を浮かべたまま、彼は尋ねた。
 助け出す事は自力では不可能。
 無線が壊れているために救援は呼べない。
 つまり、自分たちは絶体絶命である。

「スマンなぁ、俺にもっと力があれば助けてやれたんだが」
「過去形で言わないで下さいよ」

 申し訳なさそうに告げる隊員に、副操縦士は激痛をこらえつつも苦笑して答える。

「介錯は任せろよ」
「だから死ぬ事にしないで下さい!」

 まるでギャグ漫画のようなやり取りをしている間にも、沖合いの護衛艦から放たれ続ける砲撃は止まらない。
 少しでも人間を殺傷できるようにと、故意に大きい建物を狙って放たれ続ける砲撃は、殺害人数という意味では確かに大きな効果を挙げていた。
 その大半が非武装の民間人であったが、自衛隊に取ってその事実は些細な誤差どころか計画通りである。

「小銃、置いてってくださいよ」

 不意に、彼は言う。
 死亡した隊員たちから弾倉を集めようと考えていた機長は、一瞬動作を鈍らせる。

「拳銃だけで十分じゃないのか?」
「三つも四つも小銃を持って行ってどうするんですか?
 自分も陸上自衛官です。射撃ぐらい出来ますよ」

 その言葉に、隊員は胸の中に溜め込んでいた息を吐き出す。
 破壊された機体から銃撃を繰り返しつつ離れていけば、目の前の副操縦士が助かる可能性も少しは増えると思ったのだが。

「パイロットでも、自衛官は自衛官ってことだな」
「差別反対、ですよ。さあ、自分にも小銃を下さい。
 ああ、それと拳銃も。自分のは使えそうもないんです」

 繰り返しになるが、副操縦士の足は破損した機体に挟まれている。
 彼の肉体を包み込んでいる機体の残骸は、何も足だけを挟んでいるわけではない。

「弾が尽きるのが先か、敵が乗り込んでくるのが先か。
 いや、その前に砲弾が降ってくるかな?」
「その前に救援が来るかもしれませんよ。アイタタ」

 悲観的な意見のみを述べる陸曹を励ますように副操縦士は希望的観測を述べ、激痛に顔を歪ませる。
 彼らの生存確率は、算出する必要がない程に低かった。


西暦2021年4月14日 10:40 城塞都市ダルコニア近郊 陸上自衛隊佐藤戦闘大隊指揮所

「第二次攻撃が始まりましたね」

 轟音を立てて頭上を通過した支援戦闘機を見上げつつ、二曹は佐藤に声をかけた。
 第四次攻撃が終了するまで突入の予定がない彼らは、現在のところ包囲網の維持と迫撃砲での無差別砲撃以外の仕事が無い。

「あとで突入する我々の仕事が少しでも減った事を祈ろう」

 双眼鏡で全てを見つつ、佐藤は簡潔な感想を述べた。
 現在の彼らには現在位置の固守以外の任務は無い。

「とりあえず迫撃砲を撃ちまくれ。
 一人でも多く殺しておかないと、あとでこっちが苦労する」

 市街地へ無差別砲撃を指示している指揮官らしい言葉を告げて、佐藤は双眼鏡を構えなおす。
 今の彼には、自分の言葉が現実世界に与える影響を目視する必要がある。

「二曹、作戦要綱を確認しても良いか?」
「はい、第四次攻撃終了後、直ちに突入。
 万難を排し、目標人物の捜索と殺害に当たれ、です」

 簡潔でわかりやすい命令である。
 石造りの町に四回に分けて全面攻撃を加えた後ならば、予め対策を立てていない限りはそこにいた連中はかなりの損害を受けているだろう。
 願わくば、顔だけでも良いから識別可能な形で対象人物をあっさり発見できるといいのだが。

「増援はどうなっている?」
「ヘリで一個中隊がこちらへ向けて移動中。
 第四次攻撃終了までには到着予定です。
 それと、敵がさらに抵抗を見せた場合に備え、特科大隊が普通科中隊の護衛つきでこちらへ移動中です。
 なお、これに先行し、合衆国海兵隊より一個砲兵中隊が空輸にて移動しています」

 それだけいれば大丈夫だろう。
 現状でも包囲をなんとか維持しているところに増援が来るのだから、何も問題はない。
 佐藤がそのような事を考えている間にも、砲爆撃は継続されている。
 また一つ石造りの建物が倒壊し、また別の建物が直撃を受けて破裂している。
 今までで何人死んだかな。そして、これからで何人死ぬかな。
 おや、また大きな建物が炸裂したな。
 形状からして、屋内に人がいたとすれば50人はいただろう。
 対象がいたとしたら、瓦礫に埋まっていない事を祈るばかりだな。

 他人事のように佐藤が感想を漏らしている間にも攻撃は継続されている。
 護衛艦隊は砲弾を振りまき、支援戦闘機はありったけの爆弾やミサイルを叩きつける。
 そして包囲部隊からは途切れる事のない迫撃砲弾による嫌がらせが継続される。
 神の視点から見ると、この街に対する自衛隊の攻撃はとても有効だった。
 既に軍人4,296名、民間人6,914名が死傷し、その数は現在進行形で増え続けている。
 その具体的な数は知らないにしても、この攻撃に参加する自衛隊員たちは、この街がひどい有様になっていることは十分承知している。
 しかし、彼らには自己の判断で攻撃を中止する権限など存在しない。
 ついでに言えば、この作戦に参加している現場指揮官、つまり包囲部隊、飛行隊、護衛艦隊の各指揮官たちは、徹底した攻撃を行う必要性を知らされている。
 結果として、鉄の暴風はさらに吹き荒れることになる。

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