西暦2020年1月16日 04:52 ゴルソン大陸 陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地 第一会議室
「状況を説明する」
交代が終わったばかりの俺たちは、現在完全装備でこの部屋に集合していた。
居並ぶ幹部たちに混じり、海自や空自も来ている。
「夜間偵察中のヘリオス78が撮影した映像だ」
室内の照明が落とされ、スクリーンに映像が出てくる。
暗闇に閉ざされた世界に、一つだけ明かりがある。
飛行に伴う振動を感じさせないスムーズな接近とズームが行われ、その正体が明かされる。
「こりゃあ、酷いな」
誰かが一同を代表して感想を述べた。
私語に対する叱責はなかった。
非武装の民間人に対する大量虐殺行為。
問答無用の国際法違反だ。
「襲われている村落は、事前に得た情報によるとダークエルフの村落らしい。
なお、ダークエルフとは森を離れたエルフの事を指しているそうだ。
彼らは、えー、ドワーフという種族と共に行動する事が多いらしく、ここの村落でも共同で暮らしているそうだ」
年配の三佐が報告書を困惑しつつ読んでいる。
まあ気持ちはわかるよ。
お?吉永一佐が立ち上がったな。
「彼らダークエルフとドワーフは、火や森を切る事に対して全く気にしないらしい。
また、ドワーフに至ってはもともと大地の精霊ということで、自前の炭鉱や鉱山を持つほどだという。
そういった資源を見つけ出すことにも長けているそうだ。
そして、両者共に人間ではないという事で、この世界の連中とはあまり折り合いが悪いという。
我々の友人として暖かく迎え入れるには十分な要素を兼ね備えている」
やれやれ、国益を重視する事はいいが、そこまで露骨に表現しなくてもいいだろうに。
と、なると、こんな時間にお偉方が勢ぞろいして、しかも俺たちが完全武装で非常呼集された理由は一つか。
「大陸派遣隊は、全くの人道的見地から平和維持活動を実施する。
これは本国の承認済みだ。
疲れているところを申し訳ないが、全力を尽くして欲しい。以上だ」
「敵軍の状況を説明する」
再び年配の三佐が前に出る。
「画像解析によると、敵は連合王国の連中だ。
我々は平和維持活動のために出動するのであり、これに楯突くもの、あるいは従わないものは平和の敵だ。
容赦なく殲滅せよ。
これは本国からの命令でもある。以上だ」
その後は具体的な作戦の説明になった。
俺たちは先行するAH-64DJが交戦した後に着陸。
速やかに市街地に突入し、敵を排除。
ドワーフおよびダークエルフとの接触を持てとの事らしい。
簡単に言ってくれるぜ。
西暦2020年1月16日 05:20 ゴルソン大陸 陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方上空
<イブニングライナー01より各機、安全装置解除、攻撃用意>
暗視装置に照らし出された世界は、燃え上がる建造物に照らされて極めて明るい。
二番機のガンナーは、全ての火器の安全装置を解除した。
この対空砲火がない世界ならば、さぞかし爽快な攻撃が出来るだろう。
楽しみだぜ。
<イブニングライナー01より各機、敵地上部隊を視認した。
各機は所定の方針に従い、最善と思われる平和維持活動を実施せよ>
<イブニングライナー03、攻撃開始>
最右翼を進んでいた僚機が、いきなり多連装ロケットを発射した。
今日の俺たちは、装甲目標ではなく、軽装甲車輌を含む地上部隊を制圧するための装備だ。
一瞬で敵陣に着弾し、明るい光が周囲を照らす。
凄い大軍だな。
およそ800から1000。
完全にこの村を包囲している。一人も逃がさずに殺戮する気だな。
<こちらイブニングライナー06、撃ちます>
競うように最左翼の僚機が発砲する。
機関砲を乱射しつつロケットの一斉発射。
よくもまあそんなことをして姿勢を崩さないものだ。
暗視装置の一角が異様に明るくなり、正体を考えたくないものが飛び散っているのがわかる。
<こちらイブニングライナー03、うひょお、お祭り騒ぎだな>
一瞬で現場上空を通過する。
真っ赤に燃え上がる街。
街路に見えた人影は、武装しているようには見えなかった。
正確には、倒れている人影は武装しているようには見えなかった。
<中央の塔に敵が集まってる!ああ、こちらイブニングライナー04だ!>
そのまま村を跳び越したりはせず、周囲を睨むように散開する。
機関砲が、ロケットが火を噴き、この村を取り囲むように展開していた人間の群れに地獄をプレゼントする。
盾を構えた連中が、弓を構えた連中が、土煙の通過と同時に消え去る。
<攻撃の手を緩めるな。全員殺せ!>
<イブニングライナー02、きちんと名前は名乗れ。こちらはイブニングライナー05>
<敵は弓矢程度しか撃ってこない。敵脅威は極めて低い模様だ!撃ちまくれ!>
<イブニングライナー02!名乗れと言っている!!>
初めての戦闘に興奮した各機が通信を交わしている。
うん、怯えているよりは遥かにマシだ。
冷静に部下たちの様子を眺めつつ、コールサイン『イブニングライナー01』は地上を眺めた。
中央の8階建てと思われる塔を中心に放射状に広がるこの村は、塔以外全ての建築物が炎を吐き出している。
塔の周囲には敵軍と思われる集団が多数おり、どうやら生存者はこの建物に立てこもっているようだ。
<イブニングライナー01より各機、塔の周辺を狙えるか?>
すぐさま否定的な答えが返ってくる。
多少なぎ払う事は出来るが、建物に近づきすぎている連中は狙えない。
万が一にでも弾が当たってしまえば、大変な事になる。
彼らは、この塔の中に立てこもっているであろう人々を救出するために来たのだから、それは許されない。
地上部隊はまだなのか?
手早く周波数を切り替えると、イブニングライナー01の操縦者は無線へと呼びかけた。
<こちらイブニングライナー01だ。地上部隊はまだか?>
<本日も桜空輸をご利用いただきまして誠にありがとうございます。
こちらは機長です。降下地点まであと一分少々となりました>
まったく陽気な機長だ。
離陸前からこの調子だったが、まさか戦場でもこの調子とはね。
<こちらイブニングライナー01、地上部隊はまだか?>
ああよかった、このまま戦闘が終わっちゃうのかと思ったよ。
まぁ、終わってくれて構わんが。
こちらはちょいと離れた場所を移動中。
まったく、連中は大したもんだな、人間相手にまったく躊躇なく発砲してやがる。
先行する戦闘ヘリ隊から連絡が入る。
えっと、周波数は向こうが合わせてくれてるからこのままでいいんだよな?
<こちらエヴァーズマン。感度良好。なんでそっちは電車で、こっちはBHDなんだ?>
<こっちがその系統の名前じゃあ縁起が悪いだろ?>
こっちだって縁起が悪いわい。
<まあごもっともだ。それでスーパー61、用件は?>
<その名前はやめろ。市街地、というほど広くはないが、そこの中央に塔がある。
敵軍がなぜかそこに集中している。敵しかいないかどうかを確認して欲しい>
<了解した。こちらは村の東から突入する。周辺の掃除を頼む>
<わかった。オワリ>
最後だけ規則に従った形式で通信は終了した。
既に部下たちの戦闘準備は完成している。
さあ地上戦だ。誰一人死なずに帰還するぞ。
<こちらは機長です。これより降下を開始します。
シートベルトをしっかりとしめ、安全装置をご確認下さい。
なお、当機の定員は決まっている。減る事は許さない、以上だ!>
機長のアナウンスと同時に、ヘリは急激な降下を開始した。
見る見るうちに地面が接近し、そして急減速の後にヘリは地面へと降り立った。
「よし、始めるぞ」
ドアが開かれ、俺たちは戦場へと足を踏み入れた。
「状況を説明する」
交代が終わったばかりの俺たちは、現在完全装備でこの部屋に集合していた。
居並ぶ幹部たちに混じり、海自や空自も来ている。
「夜間偵察中のヘリオス78が撮影した映像だ」
室内の照明が落とされ、スクリーンに映像が出てくる。
暗闇に閉ざされた世界に、一つだけ明かりがある。
飛行に伴う振動を感じさせないスムーズな接近とズームが行われ、その正体が明かされる。
「こりゃあ、酷いな」
誰かが一同を代表して感想を述べた。
私語に対する叱責はなかった。
非武装の民間人に対する大量虐殺行為。
問答無用の国際法違反だ。
「襲われている村落は、事前に得た情報によるとダークエルフの村落らしい。
なお、ダークエルフとは森を離れたエルフの事を指しているそうだ。
彼らは、えー、ドワーフという種族と共に行動する事が多いらしく、ここの村落でも共同で暮らしているそうだ」
年配の三佐が報告書を困惑しつつ読んでいる。
まあ気持ちはわかるよ。
お?吉永一佐が立ち上がったな。
「彼らダークエルフとドワーフは、火や森を切る事に対して全く気にしないらしい。
また、ドワーフに至ってはもともと大地の精霊ということで、自前の炭鉱や鉱山を持つほどだという。
そういった資源を見つけ出すことにも長けているそうだ。
そして、両者共に人間ではないという事で、この世界の連中とはあまり折り合いが悪いという。
我々の友人として暖かく迎え入れるには十分な要素を兼ね備えている」
やれやれ、国益を重視する事はいいが、そこまで露骨に表現しなくてもいいだろうに。
と、なると、こんな時間にお偉方が勢ぞろいして、しかも俺たちが完全武装で非常呼集された理由は一つか。
「大陸派遣隊は、全くの人道的見地から平和維持活動を実施する。
これは本国の承認済みだ。
疲れているところを申し訳ないが、全力を尽くして欲しい。以上だ」
「敵軍の状況を説明する」
再び年配の三佐が前に出る。
「画像解析によると、敵は連合王国の連中だ。
我々は平和維持活動のために出動するのであり、これに楯突くもの、あるいは従わないものは平和の敵だ。
容赦なく殲滅せよ。
これは本国からの命令でもある。以上だ」
その後は具体的な作戦の説明になった。
俺たちは先行するAH-64DJが交戦した後に着陸。
速やかに市街地に突入し、敵を排除。
ドワーフおよびダークエルフとの接触を持てとの事らしい。
簡単に言ってくれるぜ。
西暦2020年1月16日 05:20 ゴルソン大陸 陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方上空
<イブニングライナー01より各機、安全装置解除、攻撃用意>
暗視装置に照らし出された世界は、燃え上がる建造物に照らされて極めて明るい。
二番機のガンナーは、全ての火器の安全装置を解除した。
この対空砲火がない世界ならば、さぞかし爽快な攻撃が出来るだろう。
楽しみだぜ。
<イブニングライナー01より各機、敵地上部隊を視認した。
各機は所定の方針に従い、最善と思われる平和維持活動を実施せよ>
<イブニングライナー03、攻撃開始>
最右翼を進んでいた僚機が、いきなり多連装ロケットを発射した。
今日の俺たちは、装甲目標ではなく、軽装甲車輌を含む地上部隊を制圧するための装備だ。
一瞬で敵陣に着弾し、明るい光が周囲を照らす。
凄い大軍だな。
およそ800から1000。
完全にこの村を包囲している。一人も逃がさずに殺戮する気だな。
<こちらイブニングライナー06、撃ちます>
競うように最左翼の僚機が発砲する。
機関砲を乱射しつつロケットの一斉発射。
よくもまあそんなことをして姿勢を崩さないものだ。
暗視装置の一角が異様に明るくなり、正体を考えたくないものが飛び散っているのがわかる。
<こちらイブニングライナー03、うひょお、お祭り騒ぎだな>
一瞬で現場上空を通過する。
真っ赤に燃え上がる街。
街路に見えた人影は、武装しているようには見えなかった。
正確には、倒れている人影は武装しているようには見えなかった。
<中央の塔に敵が集まってる!ああ、こちらイブニングライナー04だ!>
そのまま村を跳び越したりはせず、周囲を睨むように散開する。
機関砲が、ロケットが火を噴き、この村を取り囲むように展開していた人間の群れに地獄をプレゼントする。
盾を構えた連中が、弓を構えた連中が、土煙の通過と同時に消え去る。
<攻撃の手を緩めるな。全員殺せ!>
<イブニングライナー02、きちんと名前は名乗れ。こちらはイブニングライナー05>
<敵は弓矢程度しか撃ってこない。敵脅威は極めて低い模様だ!撃ちまくれ!>
<イブニングライナー02!名乗れと言っている!!>
初めての戦闘に興奮した各機が通信を交わしている。
うん、怯えているよりは遥かにマシだ。
冷静に部下たちの様子を眺めつつ、コールサイン『イブニングライナー01』は地上を眺めた。
中央の8階建てと思われる塔を中心に放射状に広がるこの村は、塔以外全ての建築物が炎を吐き出している。
塔の周囲には敵軍と思われる集団が多数おり、どうやら生存者はこの建物に立てこもっているようだ。
<イブニングライナー01より各機、塔の周辺を狙えるか?>
すぐさま否定的な答えが返ってくる。
多少なぎ払う事は出来るが、建物に近づきすぎている連中は狙えない。
万が一にでも弾が当たってしまえば、大変な事になる。
彼らは、この塔の中に立てこもっているであろう人々を救出するために来たのだから、それは許されない。
地上部隊はまだなのか?
手早く周波数を切り替えると、イブニングライナー01の操縦者は無線へと呼びかけた。
<こちらイブニングライナー01だ。地上部隊はまだか?>
<本日も桜空輸をご利用いただきまして誠にありがとうございます。
こちらは機長です。降下地点まであと一分少々となりました>
まったく陽気な機長だ。
離陸前からこの調子だったが、まさか戦場でもこの調子とはね。
<こちらイブニングライナー01、地上部隊はまだか?>
ああよかった、このまま戦闘が終わっちゃうのかと思ったよ。
まぁ、終わってくれて構わんが。
こちらはちょいと離れた場所を移動中。
まったく、連中は大したもんだな、人間相手にまったく躊躇なく発砲してやがる。
先行する戦闘ヘリ隊から連絡が入る。
えっと、周波数は向こうが合わせてくれてるからこのままでいいんだよな?
<こちらエヴァーズマン。感度良好。なんでそっちは電車で、こっちはBHDなんだ?>
<こっちがその系統の名前じゃあ縁起が悪いだろ?>
こっちだって縁起が悪いわい。
<まあごもっともだ。それでスーパー61、用件は?>
<その名前はやめろ。市街地、というほど広くはないが、そこの中央に塔がある。
敵軍がなぜかそこに集中している。敵しかいないかどうかを確認して欲しい>
<了解した。こちらは村の東から突入する。周辺の掃除を頼む>
<わかった。オワリ>
最後だけ規則に従った形式で通信は終了した。
既に部下たちの戦闘準備は完成している。
さあ地上戦だ。誰一人死なずに帰還するぞ。
<こちらは機長です。これより降下を開始します。
シートベルトをしっかりとしめ、安全装置をご確認下さい。
なお、当機の定員は決まっている。減る事は許さない、以上だ!>
機長のアナウンスと同時に、ヘリは急激な降下を開始した。
見る見るうちに地面が接近し、そして急減速の後にヘリは地面へと降り立った。
「よし、始めるぞ」
ドアが開かれ、俺たちは戦場へと足を踏み入れた。