自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年1月16日  13:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「それでは後はお願いしますよ佐藤二尉さん」  

笑顔で手を振りつつ鈴木がヘリに乗り込み、彼と外務省の一団は基地へと帰還していった。  
それを見送る佐藤たちは、安全な基地から離れた場所に置いていかれたショックを隠しきれない様子である。  

「二尉殿」  
「諦めろ三曹。防御計画を練るぞ。衛生はあちらさんの負傷者の治療だ。  
直ぐに塹壕と機銃陣地を構築しなければならない。急げ」  
「はあ」  

当面は目の前の問題だけを考えていたい二尉と、何も考えたくなくなった三曹は、直ぐに仕事に取り掛かった。  

一方の鈴木は、帰還するヘリの中で、通信機相手ににこやかに会話をしていた。  

ええ、ええ、そうです。はい。  
佐藤のせがれを置いてきました。  
はあ、死守命令?  
なるほど、嫌われているというのは本当だったのですね。  
違う?まあ自衛隊さんの都合は知りませんからどうでもいいですけど。  
ええ、それよりも開拓団を急いでください。  
そうです、護衛も。他の省庁とは話がついています。  
既に計画は実働しているんです、急いでください。はい、では。  

通信機を切ると、鈴木はようやく笑みを崩して窓の外を見た。  
眼下に広がる野原を、コンボイが移動している。  
どうやら地形はある程度把握したらしい。  
開拓団到着前にはある程度の道路も構築するらしい。  

「さすがは自衛隊さんだな。まぁ精々頑張ってください、私のために」  

彼を乗せたヘリコプターは第一基地目指して飛行を続けた。      


西暦2020年1月16日  15:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「駐屯地司令殿」  
「今度言ったら撃ち殺すぞ」  
「はっ、二尉殿、報告があります」  
「なんだ?」  

陸士たちに混ざって塹壕を掘っていた佐藤に三曹が声をかける。  
ちなみに、二尉なのに一佐並みの仕事を与えられた彼は、感激に身を震わせるどころか、真剣に退役を考えている。  
なにしろ、当然のことながら仕事量と俸給は比例しないからである。  
  
「高度に政治的な問題に、軍事上必要な事、ねぇ」  

遥かな昔より、国家が無理を通すために使われてきた言い回しである。  
それ自体は個人の権利よりも公共の利益を優先する現代国家、そこに属している公務員である以上、異論は無い。  
だが、公務員であっても、その無理を通される側になるとなれば話は別である。  
  
「まったく、何で俺がこんな事を」  
「二尉殿ー準備が出来たところからMINIMIを据えてもいいでしょうか?」  
「かまわん、弾薬の再分配も急げよ。  
陣地が完成した班から大休止だ。警戒は怠るなよ」  
「はっ」  


土を掘る音、瓦礫を積み上げる音。  
銃声と悲鳴ばかりを聞いた昨夜とは違い、彼ら自衛隊員一同は建設的な作業に従事していた。  

「弾薬庫はここにしよう。終わったら再分配だ!急げ!」  

弾薬箱を持った陸士たちに陸曹が怒鳴っている。  

「よーし、この井戸を流用させてもらおう。水質検査を忘れるな!天幕を張るぞ!」  

戦闘糧食の詰まった箱や水のタンクを抱えた糧食班が、井戸に近い場所に拠点を建設している。  

「こちら第一分遣隊、定時報告オワリ」  
  
周囲に瓦礫を積み上げた即席の指揮所では、通信機や周辺監視装置相手に陸曹や陸士たちが悪戦苦闘している。  
そこから視線を動かし、先方は護民の塔と呼んでいる塔を見る。  
暗い表情をしたダークエルフやドワーフたちが、家族や戦友たちの亡骸を埋葬しているのが見える。  
その横に掘られた大きな穴には、昨夜の戦闘で射殺した敵兵たちの死体が投げ込まれ、火葬されている。  
いや、どちらかというと焼却処分か。  


「二尉殿」  
「ん?」  

振り向くと、不機嫌な表情の三曹が立っていた。  

「なんだ?」  
「ですから、どうされますか?」  
「???」  

何故こいつは上官相手に意味のわからない事を言って怒っているん・・・!!??  

「うん、すまん、なんだったかな?」  
「ですから、作業の終わった班から大休止を取らせます」  
「あ、ああ、かまわん。やってくれ」  
「了解しました。できれば二尉殿も少し仮眠を取られては?」  
「うーむ、そうだな、そうしよう。あとは君に任せていいかな?」  
「はい。それでは向こうの天幕へどうぞ」  
「うん、わかった」  

いやはや、昨夜の緊急出動から戦闘終了後の今まで、考えてみれば休みらしい休みをまったく取っていなかったな。  
今のうちに休んでおこう。  
どうせ基地から輸送部隊がきたら休む暇なんてないんだ。  
三曹の言葉に甘えて彼が天幕の中で横になった直後、第一基地より派遣された輸送部隊が到着した。  


西暦2020年1月16日  21:30  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「よーしいいぞー!そのまま!そのまま!!」  

重機が唸りを上げ、頑丈なコンテナハウスを地上へと設置する。  
その傍らでは塹壕に並べられたドラム缶から発電機へと燃料を運ぶ陸士たちの姿がある。  
周囲を暗闇に閉ざされたこの駐屯地では、現在第一基地経由で本土から持ち込まれた様々な機材と人間が活躍していた。  

「災害用コンテナハウス、国家備蓄の燃料、本土の駐屯地から運び出された戦闘糧食の山。  
どうやら、少なくともここを捨石としてみているわけではないのですね」  

需品担当の陸曹となにやら打ち合わせをしつつ三曹が呟く。  
それを聞き流しつつ、佐藤は周囲へと目を向けた。  
先ほどまではただの焼け爛れた村だったここは、現在無数の建設重機が動き回る一大拠点へと変わろうとしていた。  
鉄条網が張り巡らされ、コンクリートで作られたトーチカが建設され、鉄骨で作られた監視塔が立っている。  

「なるほど、機材を既に用意していたからこその死守か」  

夜間だというのに堂々と煙草を吸いつつ佐藤は言った。  
一日だけ持たせることが出来れば、現代科学文明の粋を集めての一夜城を建設できるってわけか。  
  
「二尉殿。輸送部隊の方がお話があるとの事です」  

照明機材に照らし出された駐屯地の中を、恰幅の良い男性が歩いてくる。  
護衛の陸自部隊とは別系統の、今回の任務のために外務省が雇った男らしい。  

「やぁどうも二尉さん」  
「どうも」  

煙草を加えたまま軽く敬礼する。  
礼は失しているが、あいにくと起床時間が24時間を突破した彼にとって礼儀など守るに値する存在ではなかった。  
幸運な事に、先方はそこまで礼儀に煩い人間ではなかったらしい。  
疲れ果てた佐藤に苦笑しつつ、敬礼らしいものを返す。  

「大分お疲れのようですね」  
「ええ、何しろ24時間戦っていますから」  
「それは大変ですな」  

監督と呼ばれている彼は、周囲を見た。  

「工事はあらかた終わりました。明日コンクリの壁を作って終わりです」  
「コンクリの壁?」  
「敵は戦車や戦闘機じゃなくて剣と弓なんでしょう?  
ならば視界を確保できるフェンスよりも、矢を通さない遮蔽物として使えるコンクリの壁の方が使えるだろうと鈴木さんが言ってまして」  

確かに一理ある。  
敵が迫撃砲や戦闘ヘリ、あるいは重砲で仕掛けてくるならばまだしも、せいぜい使ってくる投射兵器は弓矢と魔法程度。  
ならばフェンスよりも頑丈なコンクリートの壁を設置し、監視塔と周辺の天蓋付きトーチカの方が有効である。  
あの鈴木とか言う外務省の男、底は知れないが、少なくとも有能ではあるらしい。  


「ちょっと!困ります!!!」  

佐藤が感心した直後、重機を止めている場所から抗議の声が上がった。  
何事かと視線を向けると、限りなく2Dに近い体型のドワーフたちが、整備中の重機へと群がっていた。  

「なんだなんだ、何事だ?」  

監督と共に駆け出し、作業員たちの傍らで尋ねる。  

「ああ監督と二尉さん。この人たちが」  
「あんたがこの人たちの長かね?」  

髭で顔面を覆われた男が尋ねる。  
確かこれは、ドワーフ族の族長だったな。  

「こんばんわドミトリー殿、どういったご用件でしょうか?」  

脳内で命令を復唱する。


佐藤二等陸尉。君が率いる事になる第一分遣隊は、軍事上の都合から、いかなる事態においても現在位置の死守を命じる。  
また、これは高度に政治的な理由のために詳細は話せないが、現地住民とは可能な限り良好な関係を保ち続ける事。  
なお、技術情報の流出に関しては最大限の注意を払う事。  
我が国の場所、自衛隊の組織構成、一般的な知識。  
どんな些細な事も流出は許可できない。  
治療も食糧の配給も、全ては君とその指揮下の人間で行う事。  
戦闘も、我が方の兵器を使用する場合には、残存兵力に関わらず君たちのみで行うように。  
なお、連合王国相手には君の判断で戦闘を許可する。  
定置式対人散弾発射装置、対物狙撃銃、航空支援などの使用も一任する。  
非常時の際には第一基地を呼び出して『グスタフ』を三連呼する事。  
以上だ。  


遠まわしに死ねと言われている気もするが、二尉に与えられるようなレベルではない権限、かなりの支援。  
それを考えると、ただ単に死んでこいと言うわけではなさそうだ。  

「・・・あんた、聞いているのか?」  
「えっ?ああ、なんでしょうか?」  

慌てて尋ね返した佐藤に、ドミトリーは哀れむような視線を向けた。  

「まぁ、酒も無しに長時間起きているのは辛いよな。  
いやな、簡単な話さ。お前さんらの使っているその機械、ちょいとばかりいじらせてくれんか?」  

なるほど、そういう事か。  
人間の数十倍の仕事をする謎の巨大な機械。  
興味を覚えないはずがないな。  

「大変申し訳ありませんがドミトリーさん。  
あれは大変に高価なものなのです。  
万が一にでも壊そうものならば、私の首がいくつあっても足りません。  
どうかご自重を」  

嘘は言っていない。  
建設重機は安くても数百万円はするものだし、民間資産を自身の権限で損壊させようものならば、恐らく自分が腹を切るだけでは足りない。  
幸いな事に先方も信じてくれたようだし、うん、結果オーライだな。  

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