自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年1月30日  07:41  連合王国王都内  王城まで2km  

上空を攻撃機が通過する。  
随分と速度を出していたところを見ると、どうやら敵の航空部隊をまた見つけたようだ。  

「進むぞ」  

短く海兵隊大尉が命じ、直ぐに一等陸尉も同意する。  
海岸線で一度交戦した後、敵らしい敵とは遭遇していなかった。  
まあ、時折炎の塊や矢が飛んでくる事があるにはあった。  
しかし、前衛を勤めるレンジャーや海兵隊にとって、姿を晒すローブの男女やライフルよりよほど目立つ弓矢など、脅威のうちには入らなかった。  

「前進だ、腰を上げろ」  
「MoveMove!」  

上陸時と同じように、陸曹と軍曹は仲良く号令を下し、そして兵士たちは前進を開始した。  
彼らがのんびりと休憩を楽しんでいたのには、当然ながら理由があった。  
今は辛うじて市街地だが、ここを抜けると王城まで遮蔽物のない道が続くのだ。  
狙撃や砲撃があるとは思えないが、だからといって気持ちよく休息できる場所ではない。  
そして、敵の司令部は昔ながらの城砦にある。  
空爆や砲撃には無力だが、歩兵による突撃には十分すぎる防御力を有している。  

「まったく、面倒な話だ」  

日本語に明るい海兵隊大尉は、そう呟くと煙草を咥えた。  
こちらには史上最強の艦隊があるんだ。  
日本本土には空軍の空爆部隊も展開している。  
ちょっとあの城まで行ってきて、血みどろの戦いをする必要なんてないのだ。  

「そうぼやかないで下さいよ大尉」  

苦笑しつつ一尉は煙草に火をつけた。  
彼もあの城まで突撃するという名誉は辞退したい心境だったが、爆撃で何もかもを吹き飛ばす事のまずさはわかっていた。  
敵の王に生きていられては困るのだ。  
どこかに落ち延び、徹底抗戦など唱えられては困るのだ。  
国家を、軍隊を動かす諸侯ともども必ず捕らえ、確認を行った上で全員を始末する必要がある。  
日本にも在日米軍にも、第二第三のイラクを楽しむ余裕はないのだ。  

「わかっているよ一尉。さあ前進しよう」  

ブツクサと呟いている上官たちに呆れた表情を浮かべている下士官に押し出されるように、彼らは歩き出した。  
目標は敵司令部、ロマンチックに表現するのならば、圧制と貧困の原因が巣食う悪の本拠地である。  


あちこちから銃声が響いている。  
時折聞こえる鈍い音は、近くに矢が突き刺さる音か。  

「撃ぇ!」  

号令と共に轟音が響き渡り、オレンジ色の何かが塔へと突き進む。  
一瞬の後に矢を無限に吐き出していた塔は消し飛び、悲鳴と警告の叫びが敵陣より聞こえてくる。  

「航空支援はまだか!?」  
「敵航空部隊と交戦中との事!片付けてから来るそうです!」  

まったく、何が敵航空部隊だ。  
せいぜいがセスナ並みの速度しか出せないドラゴンとペガサスの集団だろうが。  
とはいえまあ、頭上から火炎や石材を投下されてはたまらない。  
駆除してくれるのはありがたいことなんだろうな。  
目の前のこいつらは、手元の戦力でどうにかするしかないか。  

「艦隊より砲撃警報!ミサイル来ます!!」  
「まてまてまてまてぇ!!退避だ!何でもいいから遮蔽物の陰に隠れろ!」  

我慢の限界に達した艦隊からミサイルの支援が来たらしい。  
頼むからあの立派な城には当てないでくれよ。  
瓦礫の中から目標の人物を探すってのは面倒すぎるからな。  
大尉の祈りは天に、というか対地ミサイルのシーカーに届き、ミサイルは頑丈そうな正門に飛び込み、それを一撃で粉砕した。  
凄まじい、という他に表現の仕様がない爆発が発生し、砕かれた石材や人体の残骸が舞い上がるのが視界に入る。  

「大尉!危険だから下がって!下がれ!!」  

その様子を満足そうに眺めていた大尉を一尉が引っ張り、そのまま物陰へと押し倒す。  
次の瞬間には人間サイズの岩石が二人のいた場所を通過し、その後ろにあった木に激突する。  

「悪いな一尉」「そう思うのならちゃんと伏せてください」  

粉塵と号令、悲鳴が飛び交う中で暢気に会話する二人の前に、飛ばされてきたらしい敵兵が落下した。  
重そうな鎧を身につけた彼は、地面に叩きつけられ、肉体構造が衝撃に耐え切れず崩壊し、もちろん耐えられなかった鎧と共によくわからない物体へと変化した。  
盛大に血を浴びた二人は、悲鳴を上げるわけでも激昂するわけでもなく立ち上がった。  

「軍曹、負傷者はいるか?」  
「一曹、ウチはどうだ?」  

二人は奇妙なほどに冷静な口調で下士官に尋ねた。  

「はい、ご安心下さい。誰一人欠けることなく戦闘続行可能であります」  
「なんとか全員生きています。まだ行けますよ」  

二つの軍隊の下士官は、次々と入る部下たちからの報告をまとめて伝えた。  
結構な爆発ではあったが、奇跡的に死者は無し。  
敵軍は頼みの綱であった城門を失い大混乱。  

「よろしい、ならば前進だ。敵に立ち直る時間を与えるな。行くぞ!」  
「我々も前進する。海兵隊に遅れを取るな」  


武器を構えた兵士たちは前進を開始した。  
破壊された門からは、いち早く立ち直れた古兵たちが飛び出してくる。  
的確に状況を判断し、瓦礫を避けつつこちらへ向けて突撃を開始する。  
遥かな昔ならば、ここで目を背けたくなるような凄惨な戦いが繰り広げられたであろう。  
ところが、そこで起きたのは、極めて事務的に行われた現代の戦闘だった。  
前進していた兵士たちは、上官の命令を待たずに遮蔽物へと隠れ、発砲を開始。  
自動小銃と軽機関銃が唸りを上げ、敵兵たちは回避行動すら取らずに殲滅された。  

「前進再開!城門を超えるぞ!!」  

辛うじて生き残った数名が退避していくのを見つつ、一尉は命令した。  
周囲には燃え盛る残骸と舞い上がる粉塵、BGMは悲鳴と絶叫。  
その中を、陸上自衛隊とアメリカ合衆国海兵隊は突き進んでいった。  
目指すは謁見の間。  
現地民からの情報によると、敵の国家元首はそこで軍議を開いているらしい。  
城内に突入すれば、そこまでは階段を二回登ればいいだけという情報だ。  

「気合を入れろ!あと一息だ!!」  

一尉の叫びに、全ての兵士たちは足を速めた。  



西暦2020年1月30日  08:32  連合王国王都郊外  王城の北西2km  

「突入した部隊は敵の司令部を制圧したそうです」  

草が突然喋った。  
よく見ると、そこから何か、細長いものが伸びている。  

「敵の国王はやはり逃亡した後のようです。  
敵軍司令部は壊滅、現在首都内では勧告に応じない相手に掃討戦が行われているようです」  
「周辺に異常なし」  
「情報どおりならばここに来るはずだ。見逃すなよ」  
「了解しました」  

いくつかの草が動き、そして再びその場は静かになった。  

「周辺に異常な・・・前方250、数16」  

何か金属が擦れる音がかすかに聞こえる。  
そして、その場は静かになった。  
やがて、大地を力強く踏みしめる音が連続して聞こえてくる。  
現れたのは、豪華な馬車を二台連れた、騎兵の集団だった。  
先頭を突き進んでいた数頭の馬が戸惑ったように立ち止まり、そこに乗っていた男たちは剣を抜いた。  
豪華な馬車が止まり、そこからも剣を持った男たちが出てくる。  
馬車を囲むようにして進んでいた騎兵たちも停止し、やはり剣を抜く。  
周囲は静かだった。  
命令も、怒号も、鳥の声も、足音も、何も聞こえなかった。  
そこは、静か過ぎた。  

「何者かは知らんが、姿を見せよ!我らは栄光ある連合王国近衛騎士団である!  
素直に下れば命は助けよう!下らぬのであれば、討つ!」  

大声で警告を発したのは、近衛騎士団21代目騎士団長である。  
彼は幾多の反乱で常に最前線を駆け抜け、連合王国で最も強く、勇敢な男である事で有名だった。  
ボンクラ揃いで有名な貴族の子の中で、唯一といってよい、有能な上級士官だった。  
彼は公平で、勇敢だった。  
指示に従わぬ有力貴族の子の首を跳ね、手柄を立てた平民の兵士に惜しげなく金貨を与えた。  
そのような上官の下に、無能な、あるいは臆病な部下がいるはずもなかった。  
数代前までは弱兵の代名詞だった近衛騎士団は、生還率と任務達成率の高さで知られる精鋭部隊だった。  
普通の敵ならば、名前を聞いただけでも逃げ出すであろう。  
飛んでくる矢を切り落とす騎士、ファイヤーボールが飛んでくるのを確認してからでも対応できる魔術師。  
命令が下ればゴーレム相手にでも突撃できる勇敢な兵士たち。  
近衛騎士団とは、そのような集団なのだ。  
だが、相手が悪かった。  
そこに展開していたのは逃亡兵狩りを楽しむ盗賊団でも、新たな支配者に寝返ろうとする裏切り者の集まりでもなかった。  
世界最強のアメリカ合衆国軍特殊部隊だった。  


電波で命令が下され、そして銃撃が始まった。  
何かが破裂するような音が連続して聞こえ、音の速度を超えて飛来した銃弾が騎士団長に命中した。  
命中弾は五発、頭部に一発、胸部に二発、下腹部に二発である。  
脳を含む重要な臓器を一瞬で破壊された騎士団長は、32年4ヶ月の命を散らせた。  
  
「騎士団長!」  

騎士団長は、巨大な見えない手で殴り飛ばされたかのように馬上から吹き飛ばされた。  
大声を上げて彼に駆け寄ろうとした臨時団長補佐は、急激に体が重くなっていく感触に気づいた。  
それは、重力を操る魔法ではなく、彼の手に命中した銃弾が動脈を吹き飛ばした事が原因だった。  
そのまま彼は、地面に向けて勢い良く突撃した。  
起き上がる事は、二度となかった。  
部隊を率いる二人が一瞬で戦死したが、残された騎士たちに、それを慌てる時間的余裕は与えられなかった。  
発砲は繰り返され、その度に騎士たちは頭部に、腹部に重大な損害を受けて地面へと倒れ伏した。  
この豪華な馬車を護衛していた全ての人間が打ち倒されるまでにかかった時間は、3分である。  



西暦2020年1月30日  08:36  連合王国王都郊外  王城の北西2km  

「馬車の中にいる奴!出て来い!ゆっくりとだ!!」  

護衛部隊は視界に入る範囲内では全て射殺を確認している。  
あとはこの馬車の中にいるのが誰なのかを確認し、そして射殺すれば終了だ。  
さて、迎えのヘリを早く要請しよう、銃声を聞きつけて敵が集まってきたら面倒な事になる。  
叫びつつ別のことを考えるという器用な事をする隊長の前で、馬車の扉がゆっくりと開かれた。  
最初に出てきたのはアキハバラにいるような扇情的な格好ではなく、ヴィクトリア王朝時代のようなきちんとした格好のメイドだった。  
完全に怯えきっており、瞳には涙を溜めている。  
彼女は周囲に散らばる護衛の死体に目を留め、そして勢い良く嘔吐し始めた。  
ふむ、これは脅威にはならなそうだが。  
自分の娘ほどの少女を射殺する事に罪悪感を感じつつも彼は小銃を構えた。  

「待ちなさい!」  

凛とした声が拡声器を使ったわけでもないのに周囲に響き渡った。  
次に馬車から出てきたのは、見事なプロポーションの女性だった。  
それも、コルセットで無理やり腰を締めているようなものではなく、あくまでも自然体のである。  
だが、それを見ても隊長はなんとも思わなかった。  
強いて言えば、彼女を大地の肥やしにしてしまうことをもったいなく思うくらいである。  

「馬車から離れろ。両手は上に挙げて、ゆっくりと歩け」  

周囲から部下たちが銃を構えて近づいてくる。  
国王の娘なのか奥方なのかは知らんが、彼女は毅然とした態度を崩さずに両手を挙げた。  

「よーし、他にはいないのか?」  
「この馬車にはいないようです!」  
「聞こえているだろう!早く出て来い!!」  

二台目の馬車に向かった連中が賑やかだ。  
どうやら、向こうが本命のようだな。  
視線を向けた隊長の視界に、馬車から引きずり出される太った男が入った。  
兵士に髪を掴まれ、地面に引き倒されているのは、どうやら話に聞いていた国王で間違いないようだ。  

「でかしたぞ」  

隊長は笑顔を浮かべつつ国王らしい男に歩み寄った。  
兵士の手を払いのけ、男を立ち上がらせる。  

「失礼しました国王陛下、お怪我はありませんでしょうか?」  
「な、なにものだ貴様ら、私に手を上げてただで済むと思うなよ!」  

勇敢な事に、男は大声で隊長を怒鳴りつけた。  
だが、言い終えると同時に周囲に倒れる近衛騎士団が視界に入ったらしく、顔を青ざめさせて黙り込んだ。  

「それで?あなたは連合王国国王陛下で間違いありませんな?影武者や他の人間ではありませんな?」  

隊長はあくまでも冷静に尋ねた。  
尋ねられた国王は不思議だった。  
目の前の男は何をそんなに確認したがっているのだろう?  
自分が国王以外の何者でもないことぐらい、考えずともわかるだろうに。  

「貴様は何を聞いているのだ?この私が連合王国国王以外の何者だというのだ?」  

完全に混乱していた彼は、不幸な事にその回答と周囲の状況から導き出される結論に気づかなかった。  
まあ、死の恐怖を感じることなく死ねるというのは、それなりに幸福ではあったかもしれないが。  
乾いた銃声と女性の悲鳴が周囲に響き渡り、そしてそこは再び静かになった。  
死体が散らばるそこに輸送ヘリコプターが飛来したのはそれから一時間後だった。  
栄華を誇った連合王国は、日米合同攻撃隊の襲撃に、一時間三十六分しか耐えられなかった。  

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