自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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彼は怒り狂っていた。  
100年のにわたって誰も足を踏み入れなかった彼の家に、エルフの若い女がやってきたのは少し前になる。  
彼女は言った。  
愚かな人間が、貴公の住処を荒らしに来る。  
奴らとは話し合いは通じない。  
殺すか、殺されるか。  
その時の彼は、鼻で笑って彼女を追い返した。  
殺すか殺されるか?  
下等な人間に何が出来る?  
この森に住む精霊たちに誑かされ、同族同士で殺しあうことくらいしか能がないというのに。  
やがて見た事のない格好をした人間の集団が現れた。  
奴らは見る見るうちに集落を作り上げた。  
そこで彼は、愚かな人間に教育を与える事にした。  
おお人間よ、100年程度で忘れてしまうとは情けない。  
こちらを殺す気か。やれるものならばやってみよ。  
だが、愚かなのは彼だった。  
気がつけば、十体以上の若い命が散っていた。  
自身も、鱗を貫く謎の魔法で傷を負っていた。  


住処に帰った彼は、一切合財にけりをつけることにした。  
一族を召集し、一撃で全てを終わらせることにした。  
100を超える集団。  
竜族の怒りを持ってすれば、いかなる存在とて止める事は不可能、だった。  
何かが飛び込んできた事は理解できた。  
魔力の欠片も感じない、高速の物体。  
それが炸裂した時、最初に命を飛ばしたのは彼の息子だった。  
次々と炸裂する物体、見えない敵。  
長らく戦いと無縁だった一族は、ただひたすらに前進することしか出来なかった。  
そして現れた銀の鳥。  
放たれる何か。  
我らより早いものなどいなかったのに、これは一体何事なんだ?  
次々と落とされていく同族を、彼は眺める事しかできなかった。  
唐突に現れた銀の鳥は、やがて唐突に飛び去っていった。  
奴らを許すわけにはいかない。  


戦ってみて解った。  
動きに余裕がありすぎる。  
彼は勝ったと確信した。  
敵は遊んでいる。  
敵の戦いのルールは、まだ完成されてはいない。  
だが、気がつけば、彼は落ちていた。  
土ぼこり。  
周囲からは悲しげに呻く同族たちの最後の声が聞こえる。  
左前足が落ちている。  
翼はズタズタだ。  
背中が異常に軽い。  
だが、まだ足がある。  
生きている。  
やってやる。人間たちを、一人残らず喰ってやる。  
彼は人間の集落の方を向き、全力で走り出した。  



西暦2020年3月26日  06:21  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地  西方陣地  

「目標六千!」  

対地レーダーに取り付いた隊員が叫ぶ。  
号令を待たずに全員がそれぞれの火器を構え、そして発砲許可を求める。  
天空を睨んでいた自走高射機関砲が、その砲身を前方へと向ける。  
基地中から装甲車輌が集結してくる。  

「目標!前方敵生物!撃ぇ!!」  

89式片手に陣地へとやってきた佐藤が号令を発し、そして迎撃が始まった。  
未だ正面部隊から消えていない自走高射機関砲が、軽やかに砲身を動かして発砲を開始。  
轟音が鳴り響き、巨大な薬きょうが周囲に散らばる。  
それに負けじと12.7mm重機関銃が弾幕を張る。  
気の早い何人かは、銃声に押されて小銃や軽機関銃を発砲し始める。  
戦車がいないことを除けば、そこは総合火力演習の場と言える賑やかさだった。  

双眼鏡の中で次々と被弾し、肉をそぎ取られ、それでも進撃を止めない相手に、佐藤は恐怖した。  
何故だ。  
直撃した機関砲弾が残っていた腕を吹き飛ばす。  
何故止まらない。  
残っていた翼が細切れになり、さらには肩までもが吹き飛ばされる。  
どうして止まらないんだ。  
小銃弾が弾かれる。重機関銃の弾丸が、傷口に突き刺さる。機関砲弾が肉を吹き飛ばす。  
どうして奴は止まらないんだ。  
視界の中で、ドラゴンは口を大きく開いた。  
見る見るうちに、巨大な炎が現れる。  
なんて、なんてこった。  
あんなのを喰らったら全員が、死ぬ。  


突然、視界一杯に広がっていたドラゴンの頭部が消えた。  
連続して放たれる機関砲弾が、そこを細切れの肉片に変えてしまったのだ。  
脳からの命令を受け取らなくなった肉体は、それでもなお数歩前進し、殺到した対戦車ロケットの集中砲火を受けてバーベキューになった。  
現代科学は、数百年の寿命を持ち、いかなる勇者でも傷一つ負わせられないだろうと言われたこのファイヤードラゴンを、惨殺した。  
この日を境に、第三基地への襲撃は終わった。  
僅かには生き残っているであろうドラゴンたちは、臨戦態勢の陸空自衛隊に恐れをなしたのか、二度と姿を現すことはなかった。  
それを感謝しつつも不思議がった自衛隊員たちであったが、彼らは知らなかった。  
彼らは、一つの種を絶滅させたのだ。  
もちろんの事、全てを見届けていたエルフ第三氏族の女は、自衛隊の実力に恐怖していた。  
アレは、自分たちだけではどうしようもない。  
どこかの国を焚き付けるだけでも足りない。  
もっと強い、何かが必要だ。  
最良でも相打ちに持ち込めるような、邪悪でも何でもいいから強力な何かが。  
彼女は可能な限り早くその地を離れた。  
時間はあまりにも少ない。  
万が一にでも自分たちの関与が発覚すれば。  
今日のドラゴンは、明日のエルフだ。

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