西暦2020年8月15日 21:58 日本本土
「ご覧下さい!自衛隊の誇る最精鋭部隊、習志野空挺部隊が登場しました!!」
テレビの中では、女性のレポーターが興奮した様子で叫んでいる。
彼女は大陸から帰還したばかりの習志野空挺部隊、その帰還式典を中継していた。
「・・・のように、自衛隊は大陸での積極的な民主化活動を、精力的に行っているようです。
それではスタジオに戻します。大木さん?」
「はい、大木です」
画面が切り替わり、都内のスタジオが映し出される。
神経質そうな眼鏡の男が画面中央に座っている。
「自衛隊の活動もあり、食料、資源の大陸からの供給は、ますます活発になっていく事でしょう。
それでは次のニュースです。
新潟県新潟市で警察官が殺害された事件で、新潟県警はテロを含めた様々な視野から捜査活動を行っていると発表しました。
新潟県警本部前から、吉田さんのレポートです」
食料、資源が大陸から流入を始めているこの時期、日本国内は平和だった。
石油の安定した供給から電力制限は解除されており、また、配給される食糧も、従来に比べると質・量共に向上していた。
救国防衛会議はそれをどこそこ省のおかげと強調せず、あくまでも『我々が行った』という表現を行っているため、国民の多くは彼らを心から支持していた。
「国民の支持率はなおも向上しています」
救国防衛会議の面々は、その言葉を聞いても表情が優れなかった。
「また、資源、食料の供給も、初期投資に力を入れたおかげで順調です。
現状を維持できれば、今年度秋には相当量の収穫が望めます。
資源に関しても同様です。
鉄道の敷設が順調に進んでいる事から、石油の供給も好調です。
パイプラインの建設さえ終われば、さらなる安定供給が望めるでしょう」
「もうそれはいい」
経済産業省の代表の報告を遮り、統幕長は警視庁の代表に話を振った。
「上陸した敵の工作員は発見できたのか?」
「えー、現在のところ捜索中であります」
「逃走経路は?敵の目的は?協力者はいると考えていいんだな?」
「敵の目的は不明です。
また、敵は現在も逃走中であり、車輌を奪われたという通報、あるいは不審者を見たという報告もありません。
この事から、反体制的な思想を持つ人物が協力しているものと思われます」
そこまで言うと、警視庁の代表は語るべき言葉を失った。
現在警察が掴んでいる情報および想定している事は、全て伝えてしまったからである。
「公安の方はどうなのかね?」
着席したままのオールバックの男性に統幕長が尋ねる。
刑事警察とは異なる情報源と思考を持つ公安警察の代表ならば、何かを掴んでいるかもしれないと思ったからである。
「それならばまず、そちらの情報本部に尋ねてみるべきではありませんか?」
「それはもう聞いた。警視庁の方と変わらぬ見解だった。
国内の思想犯についてならば、そちらの方が詳しいだろう?
なにか、ためになる情報はないのか?」
統幕長の質問に、公安の代表は溜息を漏らしつつ答えた。
「運転免許を持っていて、自家用車を所持している思想的に反体制的な人物。
それだけでもかなりの人数があります。
それに加えて、昨年の自衛隊との戦闘で身内を殺された者もかなりの人数です。
友人や親戚や同志がそこで死んだ者も、と考えていくと、私はこの会議室にいても安心できないくらいです」
静まり返る室内で、彼は言葉を続けた。
「もちろん我々は我々なりに行動を開始しています。
ご安心下さい、必要な情報が手に入れば、皆さんにお知らせしますよ。
失礼、電話のようです」
言いたいことだけ言うと、彼は携帯電話を取り出しつつ勝手に退出していった。
後に残された一同は、自分たちの敵が想像以上の多い事に青くなりつつも、今後の方針についてを話し合おうとした。
扉が破るように開け放たれたのは、その瞬間だった。
「統幕長!!」
飛び込んできたのは、部屋の外で待機しているはずの副官だった。
会議中は内線電話を使わなければならないのにも関わらず、彼はノックもせずに全力で飛び込んできた。
「何だ?落ち着いて言ってみろ」
一瞬で非礼を咎めるべきではないと判断した統幕長は、極力穏やかな口調で尋ねた。
「新潟市内で爆弾テロです!」
「なんだと!!」
警視庁の代表が叫びつつ立ち上がる。
直後に彼の携帯電話が鳴り始める。
「ここで通話して構わん。
それで、被害状況は?」
「じぇ、JR新潟駅内部の五箇所で爆発がありました。
駅構内に進入していた各線が被害を受け、被害者の総数は不明との事です!」
「ふざけやがって!やりやがったな!!」
民間人に多数の被害が出たと聞いた瞬間、統幕長の理性は消え去った。
誰もが唖然と彼を見る中で、電話に答えていた警視庁の代表が口を開いた。
「爆発は連鎖的に発生したようです。
新幹線乗り場付近の喫茶店で第一の爆発。
次に付近の男性トイレ、ゲームセンター、その先のファーストフード店、最後は更にその先の連絡通路という順番だそうです」
「被害状況は!?」
吼えるように統幕長が尋ねる。
「わ、わかりません。
爆発の影響で新幹線ホームが崩落しており、また、駅の反対側に逃げようとした民間人が将棋倒しになっているとの事です」
「警察はすぐに緊急配備と救援を。
陸上自衛隊からも出せるだけの応援をだせ」
「「わかりました!」」
警視庁の代表と陸幕長は、同時に答えるとそれぞれの携帯電話相手に怒鳴りだした。
メンツを丸潰しにされた挙句に多くの国民を殺傷された救国防衛会議の行動は早かった。
駐屯地で待機していた部隊は軒並み防衛出動の名目で狩りだされ、民間の医療機関からは拉致同然に医師や看護士が動員された。
発生から二時間が経過した23時、新潟駅前は、ロータリーから近隣の百貨店まで全てを徴発した自衛隊による野戦病院へと形を変えていた。
「ご覧下さい!自衛隊の誇る最精鋭部隊、習志野空挺部隊が登場しました!!」
テレビの中では、女性のレポーターが興奮した様子で叫んでいる。
彼女は大陸から帰還したばかりの習志野空挺部隊、その帰還式典を中継していた。
「・・・のように、自衛隊は大陸での積極的な民主化活動を、精力的に行っているようです。
それではスタジオに戻します。大木さん?」
「はい、大木です」
画面が切り替わり、都内のスタジオが映し出される。
神経質そうな眼鏡の男が画面中央に座っている。
「自衛隊の活動もあり、食料、資源の大陸からの供給は、ますます活発になっていく事でしょう。
それでは次のニュースです。
新潟県新潟市で警察官が殺害された事件で、新潟県警はテロを含めた様々な視野から捜査活動を行っていると発表しました。
新潟県警本部前から、吉田さんのレポートです」
食料、資源が大陸から流入を始めているこの時期、日本国内は平和だった。
石油の安定した供給から電力制限は解除されており、また、配給される食糧も、従来に比べると質・量共に向上していた。
救国防衛会議はそれをどこそこ省のおかげと強調せず、あくまでも『我々が行った』という表現を行っているため、国民の多くは彼らを心から支持していた。
「国民の支持率はなおも向上しています」
救国防衛会議の面々は、その言葉を聞いても表情が優れなかった。
「また、資源、食料の供給も、初期投資に力を入れたおかげで順調です。
現状を維持できれば、今年度秋には相当量の収穫が望めます。
資源に関しても同様です。
鉄道の敷設が順調に進んでいる事から、石油の供給も好調です。
パイプラインの建設さえ終われば、さらなる安定供給が望めるでしょう」
「もうそれはいい」
経済産業省の代表の報告を遮り、統幕長は警視庁の代表に話を振った。
「上陸した敵の工作員は発見できたのか?」
「えー、現在のところ捜索中であります」
「逃走経路は?敵の目的は?協力者はいると考えていいんだな?」
「敵の目的は不明です。
また、敵は現在も逃走中であり、車輌を奪われたという通報、あるいは不審者を見たという報告もありません。
この事から、反体制的な思想を持つ人物が協力しているものと思われます」
そこまで言うと、警視庁の代表は語るべき言葉を失った。
現在警察が掴んでいる情報および想定している事は、全て伝えてしまったからである。
「公安の方はどうなのかね?」
着席したままのオールバックの男性に統幕長が尋ねる。
刑事警察とは異なる情報源と思考を持つ公安警察の代表ならば、何かを掴んでいるかもしれないと思ったからである。
「それならばまず、そちらの情報本部に尋ねてみるべきではありませんか?」
「それはもう聞いた。警視庁の方と変わらぬ見解だった。
国内の思想犯についてならば、そちらの方が詳しいだろう?
なにか、ためになる情報はないのか?」
統幕長の質問に、公安の代表は溜息を漏らしつつ答えた。
「運転免許を持っていて、自家用車を所持している思想的に反体制的な人物。
それだけでもかなりの人数があります。
それに加えて、昨年の自衛隊との戦闘で身内を殺された者もかなりの人数です。
友人や親戚や同志がそこで死んだ者も、と考えていくと、私はこの会議室にいても安心できないくらいです」
静まり返る室内で、彼は言葉を続けた。
「もちろん我々は我々なりに行動を開始しています。
ご安心下さい、必要な情報が手に入れば、皆さんにお知らせしますよ。
失礼、電話のようです」
言いたいことだけ言うと、彼は携帯電話を取り出しつつ勝手に退出していった。
後に残された一同は、自分たちの敵が想像以上の多い事に青くなりつつも、今後の方針についてを話し合おうとした。
扉が破るように開け放たれたのは、その瞬間だった。
「統幕長!!」
飛び込んできたのは、部屋の外で待機しているはずの副官だった。
会議中は内線電話を使わなければならないのにも関わらず、彼はノックもせずに全力で飛び込んできた。
「何だ?落ち着いて言ってみろ」
一瞬で非礼を咎めるべきではないと判断した統幕長は、極力穏やかな口調で尋ねた。
「新潟市内で爆弾テロです!」
「なんだと!!」
警視庁の代表が叫びつつ立ち上がる。
直後に彼の携帯電話が鳴り始める。
「ここで通話して構わん。
それで、被害状況は?」
「じぇ、JR新潟駅内部の五箇所で爆発がありました。
駅構内に進入していた各線が被害を受け、被害者の総数は不明との事です!」
「ふざけやがって!やりやがったな!!」
民間人に多数の被害が出たと聞いた瞬間、統幕長の理性は消え去った。
誰もが唖然と彼を見る中で、電話に答えていた警視庁の代表が口を開いた。
「爆発は連鎖的に発生したようです。
新幹線乗り場付近の喫茶店で第一の爆発。
次に付近の男性トイレ、ゲームセンター、その先のファーストフード店、最後は更にその先の連絡通路という順番だそうです」
「被害状況は!?」
吼えるように統幕長が尋ねる。
「わ、わかりません。
爆発の影響で新幹線ホームが崩落しており、また、駅の反対側に逃げようとした民間人が将棋倒しになっているとの事です」
「警察はすぐに緊急配備と救援を。
陸上自衛隊からも出せるだけの応援をだせ」
「「わかりました!」」
警視庁の代表と陸幕長は、同時に答えるとそれぞれの携帯電話相手に怒鳴りだした。
メンツを丸潰しにされた挙句に多くの国民を殺傷された救国防衛会議の行動は早かった。
駐屯地で待機していた部隊は軒並み防衛出動の名目で狩りだされ、民間の医療機関からは拉致同然に医師や看護士が動員された。
発生から二時間が経過した23時、新潟駅前は、ロータリーから近隣の百貨店まで全てを徴発した自衛隊による野戦病院へと形を変えていた。