自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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西暦2020年8月16日  10:15  日本  東京都新宿区某所  

「嫌な感じだな」  

防弾チョッキにヘルメットを着用した警官が、噴出す汗を拭いつつ巡回を行っている。  

「嫌だなぁ、確かに。  
このクソ熱いのに、絶対に防弾とメット装備の上で巡回するようにだときたもんだ」  
「そうじゃない。テロがあったのは新潟だろ?  
検問だって張ってるのに、どうして都内でここまで警戒が必要なんだ?」  
「そりゃあお前、アレだけ派手にやる連中だぞ。  
新潟を狙って東京を狙わない理由はないだろう」  

不思議そうに尋ねた同僚に、彼は呆れたように説明した。  

「しかし新幹線は吹っ飛んで、高速その他は全て検問だろ?  
どうやって都内に入ってくるんだ?」  
「検問は検問であって封鎖じゃない。  
ヤバい物を持っているんなら一般道を使う手だってある。  
検問が怖いのならば宅配便で送るって手だってあるしな。  
それに、新幹線がなくなったって、在来線があるだろう?」  
「おまえ、前の職業はテロリストか?」  

いくつか思いついた移動方法を述べる彼に、同僚は呆れたように言った。  
巡回を続ける警官たちは臨戦態勢にあったが、都内はおおむね静かだった。  
もちろん、この世界では最大の大都市である東京で、人影が絶える事などなかったが。  


「おまわりさん、ちょっといいですか?」  

歩き続ける二人に、一人のサラリーマンが声をかけた。  

「はいはい、なんでしょうか?」  
「すいません、なんかウチの会社の前に変な石が置かれてまして」  
「石?どれくらいの大きさですかね?」  
「こぶし大っていうんですかね?  
そんなに大きいものじゃないんですが、新潟の事件のあとですし」  
「はぁ、まぁ一応見てみますか」  

明らかに気乗りしない様子の警官たちは、サラリーマンに誘導されてビルの前へと移動した。  
そこでは地面に置かれた石を取り囲むように人が集まっていた。  

「はいちょっと開けてくださいね。失礼しますよ」  

人の間をすり抜けつつ、警官たちは石へと近づく。  

「ほんとにただの石だな」  
「警邏9より本署、住民からの通報で、不審物調査のために現場に到着しました」  

一人が感想を呟き、もう一人は無線で報告を行った。  

「そうです、見たところただの石です」  

報告している警察官に緊張がなかったとしても、彼を責める事はできない。  
石ころ一つで血相を変えて報告する警官がいるとしたら、むしろそちらが問題である。  

「おい、色が変わってないか?」  
「だよな、なんだあれ、赤くなってるぞ」  

サラリーマンたちが口々に言う。  
突然、石に近かった女性が崩れるようにして倒れた。  
すぐさま警官が駆け寄り、女性を抱き起こす。  

「大丈夫ですか!?私の声が聞こえますか!  
おい!救急車呼べ!」  
「わ、わかりました!」  
  
警官たちは互いに声を上げ、そして次の瞬間、彼らは周囲の人々と共に消し飛んだ。  
この日の爆発は、多少の時間差を置いて都内各所で発生していた。  



西暦2020年8月16日  15:00  日本本土  防衛省  救国防衛会議  

「本日都内で発生した同時爆発テロの死傷者は、現在のところ290人、今後も増えると予測されています」  
「警視庁は何をやっていたのかね?」  

報告を終えた警視庁の代表に、統幕長は疲れ切った声で尋ねた。  
自衛隊からは既にエルフのテロリストが国内の協力者と共に潜入しているという情報を伝えてある。  
にもかかわらず、都内では合計11件の爆破テロが発生しており、死傷者の数は今もなお増加中である。  

「我々は出来うる限りの事をやっています。  
問題は、敵が従来の組織的なテロ集団ではなく、個人的に行動する点にあると、本庁は分析しています」  
「で、その新時代のテロリストに警察では対処できないと?」  
「そんな事は言っておりません!」  

警視庁の代表は、机を叩きつつ叫んだ。  

「既にSATを即応体制で待機させておりますし、機動隊も全て、休暇中のものも呼び戻して準備させています」  
「それでは能動的な行動しか取れないではないか!」  

今度は統幕長が叫ぶ番だった。  
既に事態は別件逮捕などの強引な捜査ですら許容範囲に入るというのに、国内の治安維持を担当している刑事警察が何を悠長な事を。  
統幕長の怒りはもっともである。  

「爆発が発生した場所に部隊を派遣し、警戒と救出活動を取るだけならば我々でも出来る。  
君たち警察は、そこから一歩踏み込んだ、治安維持と捜査活動が仕事だろう!  
それが部隊を即応待機にさせました?そんな事はこっちだってやっている!  
犯人の目星は!?武器の供給ルートは!?敵が潜伏していると思われる場所はどこなんだ!?」  
「武器に関しては、現場を調査している鑑識からは、現在のところ爆薬などの反応がないということで難航しております。  
したがって、敵の正体や潜伏場所、供給ルートなども全て捜査中としか申し上げられません」  
「まてまてまて、爆薬の反応がない?」  

警視庁の代表の言葉に、統幕長は怒りを忘れて尋ねた。  
  
「はい、軍用爆薬から黒色火薬まで、なんら痕跡は発見できないという事です。  
ですが、爆発直前の現場からの報告で見慣れない石を発見したというものがあり、爆発物は何らかの物体に擬装されて配置されている事はわかっています」  
「陸幕長」  
「はい、幸いにも大陸から休暇で帰国している部隊があります。  
すぐに事情聴取を行います」  

報告書に目を通さない、という習慣を持ち合わせていない二人は、エルフ・石・爆発、というキーワードから、すぐに該当する事例を思い出せた。  
かくして、長く続いた大陸派遣任務から一時帰国を果たした不運な一等陸尉が、休暇返上で本国での任務を与えられる事となる。  
その一尉は、佐藤という苗字だった。  



西暦2020年8月16日  18:00  日本本土  防衛省  救国防衛会議  

「はい、状況は確かに自分の部下が大陸で遭遇したテロ事件に酷似しています。  
ダークエルフの協力者からの情報では、問題の爆発物は生命の石と呼ばれているものだそうです」  

休暇中に突然呼び出され、そしてここへと連れてこられた佐藤は、無表情で報告した。  
なんとなく、この先の展開が読めているからである。  

「佐藤君、君は大陸でこの種の事件に実際に遭遇しているんだよね?」  

統幕長が尋ねる。  
嫌な予感を覚えつつ、佐藤は答えた。  

「はい」  
「ふむ、陸幕長?」  
「問題はないでしょう、国内では既に防衛出動の状態ですしね」  

嫌な予感はますます強まっている。  
次の統幕長の言葉が、佐藤には容易に予測できた。  

「ふむ、それでは佐藤一等陸尉、君は公安の下に付き、テロリストの発見と排除の任についてくれ。  
正式な書類はすぐに出そう」  
「・・・了解しました」  
「お待ち下さい!」  

諦めたように答えた佐藤に対し、警視庁の代表は立ち上がって叫んだ。  

「捜査活動を行っているのは我々刑事警察です!  
公安と自衛隊まで動き出すのでは、捜査活動に支障が出ます!」  
「その刑事警察が犯人を発見できないから、我々が動くのだ。  
情報の共有は出来る限り行うし、刑事警察の顔は出来る限り、立てる。  
それで良いではないか」  

着席したまま、公安調査庁の代表が言う。  
その瞬間、警視庁の代表は理解した。  
今回の事件は、情報本部、公安調査庁、公安警察の連合軍対、刑事警察の戦いであると。  
彼の理解は、間違っているにも程があった。  
救国防衛会議は防衛省主導で作られた組織ではあるが、どこそこ省、何々庁といった省庁間のしがらみを越えた、日本国という存在そのものである。  
彼らの目的は国家とそれを構成する国民の生命財産の保全であり、下らないパワーゲームではない。  
  
「わかりました。情報の共有は密接にお願いしますよ。  
それと、実働部隊にはSATからも増援を出しましょう」  

情報戦に関わる恐らくは精鋭部隊と、実戦経験を持つ自衛隊の戦闘部隊。  
そこにわざわざ警視庁の貴重な手駒であるSATを投入したがるという事は、どうやら彼らはパワーゲームを楽しみたいらしい。  

「しかし、指揮系統は統一してもらうよ」  
「純粋な警察活動として支障が出ない範囲でならば、否応はありません」  
「わかった。それでいこう」  

統幕長はこめかみを押さえつつ答えた。  



西暦2020年8月16日  19:11  日本本土  防衛省  

「一尉!!」  

臨時の合同捜査本部の一席に座っていた佐藤は、入室するなり怒鳴り声を上げた二曹に視線を向けた。  
  
「うるさいぞ二曹。外で話そう」  

非難する表情を浮かべた通信士たちの視線を受けつつ、彼は二曹を押し出して廊下に出た。  

「どういうことですか?どうして自分たちが休暇を取り消されたんですか!?」  
「そう怒るな。命令なんだから仕方がないだろう」  
「しかしっ!どうして本土にも部隊はいるのに、大陸から帰還したばかりの我々が出張らないといけないのです!」  

当然のことながら、二曹がここまで激怒しているのには理由があった。  
非常呼集がかけられた時、彼女は見合いの最中であった。  
明らかに不満げな青年実業家に詫びつつ、見合いの失敗を確信していた。  
まぁ、非常呼集に理解を示せないような人物と結婚をするつもりは彼女になかったが。  

「それは、私から謝りましょう」  

どこからともなく現れた公安の代表が話しかけた。  

「どちらさまで?」  
「公安の方だ」  

不審そうに尋ねた二曹に、佐藤が小声で教える。  

「本来ならば全て警察で終わらせるべき事件なんですがね。  
しかし、連続している事件は既に警察力だけでは対処できないところに来ています。  
早急に事態を解決しなければならない」  
「その為に、大陸で治安維持活動に従事していた我々の協力が必要なんだそうです」  
「治安維持活動と言っても」  

それほど大それた事はしていないと反論しようとした二曹に、公安の男はさらに続けた。  

「いつ何があるかわからない状況で、ストレスに耐えつつ日常を維持できる。  
そして、いざと言う時には銃弾で敵を殺傷する事を平然と実行できる。  
我々には、そういう人材が必要なんです」  
「そして、武力による威圧も?」  
「ええ、もちろん」  

公安がほしかったのは、治安維持活動を行う日常に耐性があり、そして人間に発砲する度胸を持った、見える武力だった。  
秘密裏に闇から闇へと消し去っていく殺し屋ではなく、テレビカメラの目の前で圧倒的な武力を振るう軍隊が必要だった。  
だからこそ彼は、うってつけの存在である目の前の一等陸尉たちに最大限の配慮を示している。  

「今のような異常事態下では、武力による威圧が一番最適であると、我々は考えています。  
食料も資源も仕事も用意してくれる、しかし、従わないものには圧倒的な力を振るう存在こそが、安定に役立つとね」  
「捜査はそっちでやってくれるんですよね?」  
「ええ、皆さんは偵察は得意かもしれませんが、捜査に関する経験はあまりお持ちではないでしょうからね」  

全くの正論なのだが、もう少し言い方があるだろうにと思いつつ、佐藤はあいまいな笑みで答えた。  

「ええ、お互いの任務を頑張りましょう」  

笑みを見せつつ立ち去る公安の代表を見送りつつ、二曹は報告した。  

「部下たちは比較的落ち着いています。  
既に与えられた装備の点検を済ませ、待機状態に入っています」  
「よろしい、飲酒はダメだが、喫煙や仮眠は許可する。  
それと、ヘリの使用許可も出ている。お前も来い」  
「挨拶ですか?」  
「そうだ、顔を繋ぐのは大事だからな」  

二人は敷地内に作られた架設へリポートへと歩き出した。  
即効性が求められる治安維持活動に投入されるだけあり、彼らには車輌や航空機を含むありとあらゆる支援が与えられていた。  


「よぉ、休暇取り消しになった部隊ってのは、お前らの事か」  

ヘリポートに到着すると、火のついていない煙草を加えた一尉が二人に挨拶をした。  

「その声は聞き覚えがあるな」  
「あるだろうよ、コールサイン桜空輸とは俺の事だ」  

地上なのにパイロットグラスをかけたままの一尉は陽気に挨拶した。  

「いつぞやは世話になったが、今回も頼むぞ」  
「あいよ、しかし、まさか日本国内で武装した部隊を輸送する事になるとは思わなかったね。  
まぁなんでもいい、俺の身内も新潟の一件でやられている」  

その言葉に、佐藤と二曹は揃って敬礼した。  

「必ずや、仇を」  
「ま、その前にウチのガンナーがやっちまうかもしれないがな」  

軽く答礼し、一尉は機体の傍らでくつろいでいる一団を指した。  
釣られて視線を向けた二人は、一団よりも機体に仰天した。  

「ガンナーって、ミニガンを持っていくんですか!?」  
「上は何でも使えとさ。  
安心しな、降り立つ場所までの安全は俺たちが保障するよ」  

軍隊ものの創作物とは違い、望むだけ与えられる装備と人員に、佐藤は任務の困難さを改めて思い知った。  

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