自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年9月21日  12:30  上陸地点  

「ちゃんと迎えに来てくれよな」  

艦隊へと戻っていくヘリコプターを見送りつつ、佐藤はそう呟いた。  
彼の周囲には周辺警戒に当たる隊員たちの姿がある。  

「佐藤一尉、指示をお願いします」  

いつの間にか彼の横に現れた二曹が言う。  

「前進する。日が沈むまでに目標地点に到着するぞ」  

彼の言葉に隊員たちは頷き、そして彼らは移動を開始した。  
目標は、この先にある小さな砦。  
その中にいるとされている、精霊たちである。  

「しかし、おかしいといえばおかしいよな」  

隊列の真ん中を歩く佐藤が、誰ともなしに呟く。  

「なにがでしょうか?」  

前を見たまま二曹が尋ねる。  

「俺たち陸上自衛隊が、海自さんの艦隊まで使って精霊を助けに行くんだぞ。  
生まれてから随分と経つが、こんな話は初めてだ」  
「夢があって良いじゃないですか」  
「ああ、俺たちが見送る側だったらそうだな」  

佐藤の返答を聞いた二曹は、彼の方を不思議そうに見た。  

「どうかされたんですか?何か悪いものでも拾って食べられたのですか?」  
「いや、なにね。こんな事がこの先も続くのかと思うと、ちょっとな」  

彼の返答を聞いた二曹は衝撃を覚えた。  
いつもならばここで普段の調子に戻るはずである。  
その佐藤が、反応するどころか将来への不安のような事を言い始めている。  

「一尉、その」  
「考えてもみろ」  

珍しくうろたえた二曹に彼は続けた。  

「俺たちも前線に出るというのに、あのネーチャンと来た日には、原田の野郎とイチャイチャしているんだぞ?  
どうして俺にもああやってくれないんだ?  
俺はこの先も、あんな光景を見せられながら前線に行かないといけないのか?  
もっと僕にも優しくしてよ?」  

最後が疑問形になったのは、彼のヘルメットに高速で89式小銃のストックがめり込んだのが原因である。  
普通の人間ならば脳挫傷を起こしかねない衝撃であったが、極めて残念な事に、佐藤は痛みしか与えられなかった。  

「ここで彼を殴った事を、二曹は生涯後悔する事になる」  
「縁起でもない事をモノローグのように言わないで下さい!」  

二曹は怒鳴りつつ半長靴で蹴りつけ、そのまま倒れた彼を置いて行軍を続けた。  


「怪我一つないとは、主人公補正って奴ですかね」  

後ろを歩いていた陸士長が笑いつつ彼を助けて言った。  
殆どの隊員が倒れた彼を放置して進む光景を見て、さすがに見るに見かねたらしい。  

「そんなものがあってたまるか」  

助け起こされつつ佐藤は答えた。  

「第一、それならば俺の周りにはもっと美人がたくさんいなければならないだろうが」  
「確かにそうですな」  

苦笑している陸士長と共に、彼は隊列に復帰した。  



西暦2020年9月21日  16:30  森の中  

「よし、ここらで大休止だ。  
原田一曹、部下と共に警戒態勢を取れ。  
それ以外は休憩」  

それだけ言うと、彼は地面へと座り込んだ。  
長い前線経験が、部下の前でそうする事を彼に許していた。  

「原田一曹殿、十分間だけお願いします。  
その後は佐藤一尉殿が周辺警戒の訓練を行いたいそうです。大休止の間ずっとね」  
「はぁ、わかりました」  

気の抜けた返事を残して原田は去っていった。  
ついでに二曹も去っていき、残された佐藤は先ほどの陸士長に話しかけていた。  

「俺、この作戦が終わったら実家を継ごうと思ってるんだ」  

陸士長は一瞬驚いた顔をし、そして次の瞬間には笑みを浮かべて答えた。  

「なるほど、それでは自分は御社の部長職を希望します」  

彼の回答に佐藤は満足そうに頷き、そして笑顔のまま答える。  

「いいね。俺たちの会社をでかくしようぜ、日本一の企業にね」  
「それはいいですな。そうと決まれば帰国次第自分は彼女に結婚を申し込みますよ」  

佐藤は愉快そうに笑った。  

「いいねいいね、とりあえず無事に帰ったら酒おごれよ」  
「わかりました。はて?妙な物音が聞こえますな。  
ちょっと調べてきます。なに、直ぐに戻ってきますよ」  
「フッ、貴様が出る必要はない、私直々に相手をしてやろう」  

楽しそうに死亡フラグを立て続ける二人の前に、死神が現れた。  
その死神は、陸上自衛隊の戦闘服を身に纏い、二等陸曹の階級章をつけていた。  
それは佐藤の恐怖に引きつった顔を楽しそうに眺め、言った。  

「佐藤一尉殿?交替の時間ですよ・・・立ちなさい」  
「ゲェー!二曹!」  

呂布と遭遇した雑兵のような声を挙げた佐藤は、そのまま問答無用で連行されていった。  
なお、今回の大休止は一時間を予定している。  



西暦2020年9月21日  17:30  森の中  

自動小銃やその他重火器を抱えた隊員たちが配置に着く。  
照準が前方の砦に向けられ、そして誰もが命令を待つ。  

「始めろ」  

佐藤の命令をもって作戦は開始された。  
最初に攻撃を開始したのは、敵陣に危険なまでに接近した火炎放射器を装備した隊員だった。  
彼らは前方の人間に向けて、一切の遠慮なくトリガーを引き絞った。  
一直線に伸びる火炎が、水分を多く含んだ人体を燃え上がらせる。  

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」  

敵陣から絶叫が聞こえる。  
だが、彼らはそれに動じず、別の目標に向けてトリガーを引き絞る。  
再び絶叫が聞こえ、そしてそれと同時に警告の叫びが上がる。  

「撃て」  

再び佐藤は命令を下し、今度は銃火器による攻撃が開始される。  
薄暗い周囲を照らし出す人体にライトアップされた敵軍は、なすすべもなく攻撃を受ける。  
暴れる馬をいなしていた騎士が馬上から吹き飛ばされ、ようやくの事統制を取り戻そうとしていた槍兵たちがなぎ倒される。  
自衛隊による虐殺が始まった。  

「左だ!」  

佐藤の叫びと共に夕闇を切り裂いて炎が走る。  
絶叫が聞こえ、燃え盛る何かが走り回る。  
それなりの戦力がいたはずのこの砦は、完全に自衛隊の射爆場に成り下がっていた。  
現代戦ならば的にされておしまいの火炎放射兵たちは、ここでは最強の兵器だった。  
彼らは四方八方に遠慮なく火炎を放ち、そしてその攻撃は確実に敵の命を奪っていった。  
悲鳴と絶叫が支配する戦場に、馬の嘶きが乱入したのはその時だった。  

「三時方向!」  

火炎を放つ隊員たちのちょうど後ろにある藪を突き破り、無数の騎兵が現れる。  
彼らはサーベルを振り上げ、雄たけびを上げ、そして直後に悲鳴を上げた。  
黙ってみているはずがない佐藤たちによる攻撃が開始されたのである。  

「撃てぇ!」  

佐藤の命令と共に銃撃は開始され、まず最初に先頭にいた指揮官らしい男が落馬した。  
直後に彼の愛馬も地面に倒れる。  
5.56mmNATO弾は決して大きな破壊力を秘めた装甲貫徹力を持っているわけではないが、人間に対してならば十分すぎる威力を持つ。  
ましてや、音速で殺到する銃弾に対して騎兵突撃をかければ、その威力はより一層高まる。  


「思っていたよりも早く終わりそうだな」  

安堵したように言いつつ、佐藤は敵陣を見た。  
既に敵軍の組織的抵抗は不可能に思われる。  
上位者も部下たちも、一切の区別なくして飲み込む高温の火炎。  
それは空爆や砲撃に比べれば随分と狭い範囲ではあるが、スケールの小さいこの戦場では十分な面制圧である。  
無謀にも攻撃を挑んできた敵兵たちは既に大半が焼死しており、それ以外の者たちは武器を捨てて撤退の最中であった。  
  
「追撃しますか?」  
「弾がもったいない、周辺警戒だけしておけ。突入用意」  

部下たちに周辺警戒をさせると、佐藤は直ぐに砦の中へと侵入を始めた。  



「おしまいだ、もうおしまいだ」  

両手で頭を抱えた男性たちが連行されていく。  
大半がローブを着ている。  

「なんなんだこいつら?」  

先の戦闘の間、彼らは全く登場しなかった。  
もし出てくれば、正確には攻撃に成功していれば、こちらとて無傷ではすまなかった。  

「おい」  

直ぐ隣を連行されていた男に声をかけられる。  

「さっさと歩け!」  

男を連行していた隊員が、後頭部を殴りつける。  
だが、男は苦痛に表情を歪ませつつも、こちらに顔を向けてくる。  

「いい、何か用か?」  

隊員を制し、佐藤は尋ねた。  

「お前ら、何者だ?どうやってこの島に来た?何が目的だ?」  
「それをお前が知る必要はない。連れて行け」  

必死に尋ねてきた相手に冷たい言葉を残し、佐藤は男を連行させた。  
相手の質問内容は、佐藤を安心させるものだった。  
何処の国の軍隊で、何を目的にどのような手段でここへ来たのか?  
それが全て伝わっていないのならば、この作戦は大成功である。  

「目標は発見できたか?」  
「かあさまはどこ?」  

佐藤の問いに答えるかのように、一人の少女が現れた。  
透き通るように白い肌。  
将来が楽しみになるバランスの取れた体つき。  

「実は、私は君の父親ダァ!」  

全く遠慮のない一撃が佐藤の頭部を襲い、彼は通路の壁へと激突した。  

「大丈夫だ。直ぐにあわせてあげるからな」  

遠のく意識の中で、彼は二曹のそんな言葉を聞いた。  

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