自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年12月10日  10:00  日本本土  在日米空軍三沢基地  

「ほう、ほう、ほう、さすがは米軍ですね」  

眩く照らし出された半地下式の格納庫の中に、鈴木の感心したような声が響く。  
今、彼は在日米軍の物資集積所の中にいた。  
彼の目の前には、磨きぬかれた大量の爆弾が置かれている。  

「今回の作戦には可動機の大半を投入します。  
同盟国に対する義務云々以前に、我々には生き残る事が重要ですから」  

彼を案内していた空軍将校が告げる。  
それは、在日アメリカ軍で最大の破壊力を持つ集団が協力を惜しまないと宣言した事を意味している。  

「ですがね、予算措置と補充は確約してもらわないと困りますよ。  
我々は精神力だけで戦い続ける事は出来ないのです」  

釘を刺すことを忘れない。  
実は、在日アメリカ空軍は全責任を日本政府が負うという条件で燃料気化爆弾やクラスター爆弾を量産化研究のために供与している。  
しかし、対地ミサイルや誘導爆弾に関しては自分たちの在庫をなんとか工面し続けていた。  
その在庫を今回、失おうとしている。  

「我々とて、精神力だけで戦い続けられるとは思っていませんよ。  
それを80年前に教えてくれたのは貴国です。  
燃料その他と予算、名誉。  
ご安心下さい。きちんと配分します」  
「そうしてください」  

かくして、この世界では空前の規模の爆撃作戦が決行される事となる。  


しかし、彼らはお互いにわかっていなかった。  
日本政府の真の目的は、在日米軍の本気での協力を得ることではなく、それを通して銃弾一つでも日本に依存しなければならない立場に追い込むことだという事を。  
在日米軍が、日々目減りする武器弾薬食料を、脅威以上の何かと考えていた事に。  
お互いが、そのような事を考えているという事を。  
そして、お互いにそうせざるを得ないと諦めていた事を。  
統合幕僚監部も、在日米軍司令部も、この世界で、出来る限り文明社会から追い出されないように生きていく事を決意していた事に。  
双方の思惑の違いは意味の無い出血や浪費を巻き起こした。  
まあ、それでも日本がこの世界では滅びようの無い超大国である事に変わりは無かったが。  



西暦2020年12月12日  14:00  ゴルソン大陸  日本国北方管理地域  

今日も北方管理地域には銃声が鳴り響いていた。  
大量のゾンビというものは非常に恐ろしい存在ではあるが、それはあくまでもこの世界に限った話である。  
色々な意味でこの世界のものではない自衛隊にとって、特に、城砦に篭った陸上自衛隊にとってそれは射的の目標でしかない。  
交替で撃ち続けた彼らの城砦の周囲に動くものの姿は無く、装甲車輌の車列が銃撃を繰り返す場所にそこはなっていた。  
最優先で弾薬と仕事を与えられた佐藤たちの部隊も、そんな風景の一つとなっている。  

「さすがに自殺していいかな」  

延々と続く単調な射撃ゲーム。  
その中でストレスを発散する事すら許されずに車の中で指揮を続けていた彼の精神力は限界に達しようとしていた。  
    
「我慢してください」  

彼の横で地図を眺めている二曹が心にも無い言葉を発する。  
本当ならば彼らは、ダークエルフと共に空を駆ける現代の騎兵隊となるはずだった。  
だが地を這い、ストレスに晒される環境で引き金を引ける存在が必要だった。  
その為に彼らはヘリを取り上げられ、変わりに装甲車輌を与えられた。  

「我慢できるわけがあるか!」  

佐藤は突然叫んだ。  

「俺は地べたで装甲車とむさ苦しい男たち、原田のクソ野郎は綺麗なダークエルフとヘリコプターで空中散歩!  
俺は何かしたのか!?俺が何か政府の気に食わないことでもしたのか!?  
何もしていない!俺は親父と同じように、国家と自衛隊員が生き延びるための全てをやった!  
出来るだけやったんだ!脅威にも恐怖にも耐えた!全部やっつけた!勝ったんだ!尽くしたんだ!!」  

今日の佐藤はいつもと少しだけ様子が違った。  
その目は釣りあがり、瞳孔は少し開いている。  
口は開きすぎて少し涎を垂らし、身振り手振りは異常に大きい。  

「失礼します」  

二曹は危険を感じると直ぐに彼の頭を抱き寄せた。  
無理やり頭を固定し、殴りつける彼から与えられる痛みに耐える。  


佐藤がギャグ系冒険小説の主人公のように下らない冗談や言動をしていたのには理由がある。  
異世界に飛ばされ、第一基地で戦い、第二、第三基地を守り抜き、ゴルシア駐屯地を、東京を、礼文島を、自衛隊札幌病院を救った。  
それだけの事をしてきた彼に、国家は昇進以外何も与えなかった。  
休暇も、ねぎらいの言葉も、勲章も。  
彼は常に精神の糸を張り詰め、戦い、救い、傷つき、悩み、ここに来ている。  
そんな彼の精神は、限界を超えていた。  
馬鹿のように振る舞い、それに気付かない周りの人間たちと冗談を楽しむほか、彼には精神の均衡を保つ方法はなかったのだ。  
伝説の血を引くわけでもない、異世界の勇者でもない、愛国心に燃える狂信者でもない元三等陸尉の彼には、現実は余りにも過酷だった。  
大勢の部下の命を預かり、貴重な武器弾薬を持たされ、国家の期待を一身に受け、発狂するわけにもいかない立場の彼は、もう限界だった。  


「冗談じゃないぞ畜生!畜生!畜生!」  

恥じらいも無く涙を流し、大声で叫びつつ自分を抑える二曹の背中を叩く彼は、連戦の勇士ではなかった。  
限界を超えた場所に追い込まれたただの日本人男性だった。  
こんな兆候は前から見えていたのに。  
自分の胸にためらいも無く頭をこすり付ける佐藤を見つつ、二曹は思った。  
自分を含めた誰もが彼を救おうとはしなかった。  
所属、立場、信条、階級。  
色々な事を理由に、誰も何も言おうとしなかった。手を差し伸べようとしなかった。  
彼なら大丈夫。  
彼は気にしていない。  
その結果がこれだ。  
装甲車を停車させ、無線を切り、ひたすらに周囲の脅威とも呼べない敵に銃弾を浴びせる。  
彼がこれ以上恥をかかないように、追い詰められないように。  
それほどに気が効くのに、わかっているのに、誰も何もしなかった。  

「ちくしょおぉ!くそぉ!あ・・・」  

怒声を上げていた佐藤が声を漏らし、そのまま崩れ落ちる。  
これ以上は彼の精神が耐えられないと判断した二曹が、強引に締め落としたのだ。  
先ほどまでの狂態が嘘のように静かに眠る佐藤を見つつ、二曹は思った。  
たぶん彼は目を覚ますと、またいつものように振舞うだろう。  
拘束衣を着せられ、隔離された部屋の中で、カメラか窓に向かって言うのだ。  

「ボクが何をしたって言うんですか?そこにいるんでしょうセイラさん。ここから出してください」  

いつもの調子で言うのだ。  

「ボクが一番ガンダムを上手く動かせるんだ」  

そして何事も無かったかのように部屋を出され、指揮を取り、またこうして限界を超えるまで前線に出され続けるのだ。  
いつか、周囲の人間がフォローしきれずに9mm拳銃弾を脳天に撃ち込むまで。  



西暦2020年12月12日  14:15  日本国北方管理地域  陸上自衛隊ゴルソン大陸方面隊第18地区駐屯地  指揮所  

無線は静まり返っていた。  
本来ならば指揮所に対して報告や指示を求める通信が入るはずのそれは、沈黙を保っていた。  

「何が起きたんだ?どうして誰も応答しない?」  

駐屯地司令が苛立った声で尋ねる。  
絶対に安全なはずの装甲車輌に搭乗した連戦連勝の勇士から通信が途絶えて十分。  
彼の精神は安定を失おうとしていた。  

「通信が繋がっている様子がありません。こちらの呼びかけに雑音以外何も帰ってきません」  

通信士が報告する。  
もっとも、ここ十分の彼の報告は全て同じ内容だったが。  

「戦闘ヘリも輸送ヘリもなんでもいい、とにかく偵察を出せ」  
「もう出しております」  

慌てた様子で命じる駐屯地司令に、幕僚は静かな声で報告する。  

「あと数分もしないうちに映像が入ってきます」  
「良くやってくれた」  

独断専行を咎めもせずに、駐屯地司令は礼を言った。  

「映像はいります!」  

通信士が叫び、モニターに映像が映る。  

「なんだ、ありゃあ」  

モニターに映し出されたのは、動かない輪形陣を作り、ゾンビや見たこともない化け物相手に防戦する部隊の姿だった。  



西暦2020年12月12日  14:15  日本国北方管理地域  第18地区のどこか  

「撃て撃て撃て撃て!」  

96式装輪装甲車の銃眼から撃ち続ける部下たちに、まだ若い三曹が叫ぶ。  
彼の部下たちは、もちろん言われるまでもなく引き金を絞り、弾倉を交換し続ける。  
そうしなければ、いかに頑丈な装甲車といえども、敵に囲まれて身動きが取れなくなってしまうからだ。  
信頼に足る、そして上官に持ちたくない幹部No1の彼らの佐藤一尉が搭乗する装甲車が停車してから十分。  
状況は悪化こそしないが、一向に良くならなかった。  
敵軍(あくまでも便宜上の呼び方っだが)の戦力を一兵でも多く減らすという任務は達成できている。  
しかし、積み重なった死体と、舗装どころか整地すら満足に行われていない地形は、彼らの逃げ道を塞いでしまう。  

「撃てぇ!」  

彼らは撃ち続けるしかなかった。  
いつもならば如何なる危険も切り抜ける彼らの上官は、応答のない装甲車に閉じこもってしまっているのだから。  


「・・・・・・」  
「佐藤一尉?」  

ようやく目を覚ましたらしい彼を抱きしめたまま、二曹は尋ねた。  

「・・・・・・」  
「佐藤一尉、指示をお願いします。みんな待っています」  
「・・・・・・」  

しかし、二曹の上官である彼は、唖然とした表情で二曹を見上げる。  

「佐藤一尉?」  

不安そうに尋ねた二曹に、自分の頭の位置を確認した彼は答えた。  

「我が人生に一片の悔いなし!」  

直後に彼の顔面に肘鉄が喰いこんだのは言うまでもない。  



西暦2020年12月12日  16:00  日本国北方管理地域  陸上自衛隊ゴルソン大陸方面隊第18地区駐屯地  指揮所  

「それで佐藤一尉、一体何があった?」  

ようやく駐屯地に帰還した佐藤に駐屯地司令が尋ねる。  
定期業務に過ぎないはずの今回の任務をスリリングな体験に変えた原因を尋ねている。  
  
「それが、良く覚えていなくてですね」  

ばつが悪そうに佐藤は答える。  
彼は自分が錯乱していた事を完全に忘れていた。  
人間の持つ自己防衛本能が、その能力を発揮した結果である。  

「自分が代わりに答えさせていただきます」  

傍らに控えていた二曹が声を出す。  

「なんだ?何があったんだ?」  

駐屯地司令が尋ねる。  
この際、疑問に答えてくれるのならば誰でもいいという態度が現れている。  

「車輌が段差を越えた際に、佐藤一尉は頭部を強打し、意識を失ってしまいました。  
また、その際に通信機のスイッチが切れ、我々はその事に気付かずに介抱をしていました」  
「・・・それだけか?」  
「はっ、申し訳ありません」  

生真面目に敬礼して詫びる二曹。  
それで駐屯地司令は諦めた。  
何か、実戦部隊の間でしかわからない事があったのだろうと彼は理解した。  
それは法令を破らず、かといって当人たち以外には言いたくないことなのだろう。  
ならば、繰り返さないのならばそれでいい。  
決して無能ではない彼は優れた現実認識を示し、問題を終わらせた。  

「今後は、きちんとシートベルトを締めるように。  
解散しろ。ちゃんと休めよ」  

彼は佐藤やその他部下たちを解放し、自身も休息を取るために自室へと戻っていった。  


「本当に何も無かったのか?」  

与えられた宿舎に向かう道で、佐藤は二曹に訪ねた。  

「佐藤一尉が本土ならば警務隊に逮捕されるであろう事以外は何も」  
「そ、そうか、ならいい」  

会話を強制終了させる二曹の言葉に彼は沈黙し、ただ道を歩いた。  
男女の宿舎を分ける分岐路で、二曹は敬礼しつつ再び口を開いた。  

「警務隊に拘束されたくなければ、今後は気を強くお持ち下さい」  
「ああ」  
「それでは、失礼します」  

情けない様子で答礼する佐藤に背を向け、彼女は自室へ向けて足を進めた。  
これからは、自分たちが佐藤一尉を救わなければならない。  
英雄ではあるが、気の良い、少しだけ有能なだけの平均的日本人男性である彼には、それが必要だ。  
歩みを進めつつ、彼女はその事だけを考えた。  
理由はわからないが、楽しかった。  



西暦2020年12月16日  12:00  日本国北方管理地域  陸上自衛隊ゴルソン大陸方面隊第18地区駐屯地  

昼食を取る自衛官たちの上空を、無数B-52L型が通過する。  
新型機を開発する事を許されなかった米空軍が、法律の隙間を潜り抜けて開発したその戦略爆撃機は、見るからに邪悪だった。  
初代とは似ても似つかない形。  
8機のターボファンエンジン、巨大な、瘤だらけの胴体。  
大型化したそこには、信じられない量の通常爆弾を搭載する能力が与えられている。  
その大群が、空を飛んでいた。  
この世界の住人からすれば、この世の終わりにも見える風景。  
それを見上げつつ、自衛官たちは安堵の息を漏らしていた。  
力強いターボファンエンジンの爆音は彼らの代わり。  
遠くから聞こえる巨人の手拍子に似た音は彼らの子守唄。  
何事も無かったかのように再び現れる彼女たちは、彼らがベッドから出る必要が無い事を教えている。  

「まさか、アメリカ空軍が出張ってくるとはな」  

昼食を取りつつ佐藤が言う。  
彼らの頭上では、黒い死神の大群が蠢いている。  

「政府は真面目に報告を受け取ったんでしょうね。  
核兵器を使用しないのは、恐らく使いたくないのではなく、損得計算をしているからなのでしょう」  

佐藤のコップにコーヒーを注ぎつつ二曹が答える。  
何もかもを吹き飛ばす核兵器はこの種の問題に最適な兵器に見える。  
しかし、長期的な視点で考えられる脳を持っている上層部は、それを使う事が嫌だったようだ。  

「まあ、ガイガーカウンターが鳴り続ける牛肉など誰も食べたくないだろうからな」  

注がれたコーヒーを当然のように飲みつつ佐藤は続ける。  

「それで、どうして急にしおらしくなったんだ?  
ああ、俺の魅力に遂に気付いたか。まあ当然といえば当然だあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」  

顔面に遠慮なく注がれたコーヒーによって、佐藤は駐屯地中の人間が振り向くほどの悲鳴を上げた。  
まあ、実際にはそれほど熱くは無かったのだが。  


そんないつもどおりの光景を繰り広げる彼らの上空を、測定に出撃していたヘリコプターたちが通過した。  
滑らかな動きでヘリポートへと向かい、着陸。  
すぐさま扉が開かれ、ダークエルフや自衛官たちが大地へと帰還する。  

「急げ!」  

原田三尉が声を張り上げて担架を担ぐ。  
四機のヘリコプターから気絶したらしいダークエルフたちが次々と担ぎ出される。  
ただならない様子に佐藤たちが腰を上げた時、駐屯地に設置された全てのスピーカーが奇妙なサイレンを鳴らした。  
日本本土に設置された全てのスピーカーもそうだった。  
残念な事にと表記するのか、幸運な事にと言うべきなのかはわからないが、大半の人々はその音に聞き覚えが無かった。  
それは、文字で表記するのならば『プゥウゥゥーーーーーーーー』とでもなる音だった。  
しかし、治安、国防、あるいはそれに関する全てに携わる人々には、特別な意味を持つサイレンだった。  
それは、日本的な表現を用いるのならば以下のような名前だった。  
『国民保護に関わる警報』  
太平洋戦争後、とある政権が苦労して整備したものである。  
使われるはずの無いその音は、日本中如何なる場所にいても聞こえた。  
街中、地下街、電車内、航空機内、テレビやラジオのある室内。  
緊急警報放送を受けることの出来る全ての場所で、その音は鳴っていた。  
そして、日本と佐藤たちの長い一日が始まった。  

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