自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年12月16日 13:22 日本国北方管理地域 第18地区のはずれ

「どーなっとるんだこれは」

 佐藤は唖然とした表情で前方を見ていた。
 先ほど大声量で歓迎の意を表明した相手は、一瞬で死亡していた。
 胴体を含む無数の場所に被弾し、そして今、普通科隊員たちによって止めの銃弾を叩き込まれている。

「この世界では強いと表現される防御力が、幸運な事に5.56mmNATO弾の貫通力に負けていたのでしょう」

 物足りなさそうな様子の二曹が淡々と語る。
 戦闘は、終了していた。
 この遺跡の中に動くものはなく、そして彼らは無傷でそこに立っている。
 聞けば本土では非常事態宣言に近いものまで発令されたというのに、こんなオチとはな。
 佐藤は煙草に火をつけた。
 奇声が上がったのはその瞬間だった。
 全員がそちらを見る。
 遺跡内部へと続くらしい通路。
 そこから無数の化け物が這い出してくる。
 
「撃て!」

 虐殺は再開された。


 それから五分、戦闘は継続されている。
 もっとも、通路の入り口に対して円陣を組んだ彼らが引き金を絞り続けているだけなのだが。

「となると、我々はその魔王とやらを倒しにいかないといけないわけですな」

 無線機に向かって溜息と紫煙を同時に吐き出しつつ佐藤は言った。
 敵の指揮官らしきものを倒したというのに一向に状況が終わらない理由を、無線機の向こうにいる鈴木とエルフの協力者は教えてくれた。
 敵の本当の指揮官を倒したのならば、現在戦闘中の敵軍は消えて無くなるはずである。
 それが消えないという事は、つまりこの遺跡のどこかに倒すべき敵がまだ生存している事になる。

「わかりました。車輌から降りなければならないのは嫌ですが、好き嫌いを言っている場合ではありませんな」
<ご理解に感謝します。御武運を>
「ありがとうございます。どうやら我々にはそれが大量に必要なようです」

 無線を切り、下車する。
 既に二曹以下選抜された隊員たちが整列している。
 全員が屋内を制圧するという訓練と実戦の経験を持ち、そして空挺レンジャーの資格を持った精鋭たちである。

「中に入って敵のボスを倒してこいとのご命令だ」
「自分以下全員、準備は完了しております」

 二曹が敬礼する。
 佐藤は色気のある答礼をし、自分の小銃を肩にかけた。

「さっさと行って、ちゃっちゃと済ませてくるぞ」

 彼らの出撃を待っていたかのように、敵は潮を引くように遺跡内部へと消えていった。



西暦2020年12月16日 13:27 日本国北方管理地域 遺跡内部

「ありがたい話だな」

 先導する陸士たちの背中を見つつ、佐藤は言った。
 遺跡内部は頑丈な石造りの斜坑で、ただただ地下へと降りていくだけだった。
 途中に敵は確かに存在したが、そんなものは自動小銃の敵ではなく、そして恐れていた小部屋や曲がり角からの奇襲は一切なかった。
 
「油断は禁物ですよ。特に敵の考えが読めないときは」

 油断なく警戒を続けている二曹が小声で注意する。
 ここは完全な敵陣である。
 どんなトラップ、あるいは隠し玉が用意されているかわからない。
 ぞろぞろと歩く二個分隊。
 懐中電灯だけが光源となる暗闇の世界で、彼らはいつ果てるとも知れぬ道を歩き続けていた。
 通路は何度か折れ曲がりつつも地下へと進み続け、やがて微かな光が見える。

「三人先行しろ、動くものを見たら遠慮なく撃てよ」

 陸曹に指名された陸士が三人、物音を一切立てずに小走りで先行を始めた。
 彼らは部隊から離れていき、やがて立ち止まった。
 二人がその場に留まり、一人が駆け足で戻ってくる。
 
「巨大な空間があります。奥にステージのようなものも」
「敵の姿は?」
「ネズミ一匹いませんよ」
「罠だろうが、乗らないわけにはいかんよな。俺と一個分隊で内部を調べる。
 二曹たちは通路を確保、非常時には全力で」「支援に駆けつけます」

 言葉を遮った二曹を佐藤は睨んだ。
 しかし、二曹はそれを平気で無視して部下たちに指示を告げる。

「戦闘開始と同時に三名が地上へ伝令に進む。残りは敵の規模によるが支援せよ」

 一同は苦笑しつつ戦闘準備を進める。
 
「二曹、貴様な」
「ここまで来ておいてけぼりはなしですよ一尉」

 赤くなった顔を隠すように二曹は乱暴に答え、自身の装備を点検した。
 その様子を見つつ、佐藤は戦場では誰もが素直な自分に出会えるという名言を思い出していた。
 まあ、俺ほどのイケメンならば仕方がないかと口に出してしまうのが彼の限界だったが。

「動くものは撃て!」

 顔面に無数の打撲を負った佐藤が、唇から血を流しつつ叫ぶ。
 それでも隊員たちは訓練と実戦経験から学んだ通りに行動し、室内を次々と点検する。
 自分たちの頭上、背後の壁面、目に入る限りの全て。
 部屋は非常識なほどに広大だったが、彼らの視界の範囲で異常や敵意を示すものは何もなかった。
 たった一つを除いて。


 唐突に数名の隊員が発砲する。
 誰もが発砲する隊員ではなく、銃弾の飛んでいく方向を見る。
 そこには、今まさに銃弾を受け、倒れようとする女性らしい姿があった。
 見事なプロポーションは女性でしか創り出せないものであったが、紫の髪と人間ではありえない巨大な羽が彼らに発砲を許可した。
 それは着弾の衝撃で吹き飛ばされつつ地面へと倒れた。

「確認しろ」

 二曹が短く命じた。

「回避!逃げろ!!」

 駆け出しつつ佐藤が絶叫した。
 直ぐに全ての隊員がそれに従い、一同は全力で入り口から離れた。
 直後に落石。
 正確には落石してきていた巨大な岩が、入り口付近を押しつぶした。
 猛烈な粉塵が巻き起こる。
 逃げ惑う隊員たちの悲鳴が聞こえる。
 戦闘開始から数秒、彼らは地上から孤立した。



西暦2020年12月16日 13:40 日本国北方管理地域 遺跡内部

 ようやく粉塵は収まろうとしていた。
 もちろん室内はライトで照らされている場所以外暗闇に閉ざされていたが、それでも絶望的な状況である事は誰もがわかる。
 彼らが入ってきた入り口は、完全に押しつぶされていた。
 岩というよりも岩盤と呼ぶべきそれは、多少の対戦車ロケット弾ではどうしようもないように見える。
 
「被害確認」

 軽く咳き込みつつ佐藤が命じる。
 点呼が行われ、一人も欠けていない事がわかる。
 続いて装具点検。
 小銃一つと三つのライトが岩盤に押しつぶされた事がわかる。
 彼らは、未だ戦闘能力を有していた。

「警戒を怠るな!」

 陸曹たちが命令する。
 陸士たちは言われるまでもなく、懸命に目を凝らした。
 幸いな事に、今のところ問題はない。

「何か動いています!」
「それなら撃てよ!」

 陸士の叫びに佐藤が答え、彼らは発砲を再開した。
 どこかに消えてしまったはずの、敵の大群が現れたのだ。

「敵襲!全周警戒!!」
「前だ!銃弾を叩き込んでやれ!!」

 ようやく収まりつつある土煙のなかで、彼らは戦闘を継続し続けた。
 叫び、引き金を引き絞り、次々と弾倉を交換した。
 もちろん敵も黙って見てはいない。
 叫び、引き裂かれ、打ち倒されていく。
 次々と銃弾を撃ち込まれ、絶命していく。
 それらは確かに恐ろしい存在だった。
 何もかもを引き裂くであろう強靭な肉体。
 触れただけで人体を切断できる鋭い爪。
 頑丈な鎧をやすやすと噛み砕ける牙と顎を持つものもいた。
 しかし、それだけを武器に自衛隊に戦いを挑むのは、例え不意打ちだったとしてあまりに無謀だった。

「異常なし!」

 この部屋の出口を点検した陸士が叫ぶ。
 彼らの周囲には無数の化け物の残骸が転がっており、傍目にも危機を脱した事がわかる。

「損害は?」

 周囲を見回しつつ佐藤が尋ねる。

「負傷者が二名、重傷者一名、これはもう助かりません。
 それと殉職五名です」

 同じく周囲に警戒の目を向けている二曹が答える。

「そうか、随分とやられてしまったな」

 一切の感情を感じさせない声音で答えつつ、彼は歩き出した。
 立ち止まったそこには、左腕と胴体の一部を抉り取られた一人の陸曹が、血の塊を口から吐き出しつつ倒れていた。

「すまんな」
「任務ですから」

 手短に詫びた佐藤に、陸曹は激痛をものともせずに笑顔で答えた。

「手早く願います」
「わかった。遺言は?」

 腰のホルスターから拳銃を取り出しつつ佐藤は尋ねた。
 
「すまんが俺が実行可能なもので頼む」

 無表情の佐藤にそう言われた陸曹は、少し考えてこう言った。

「佐藤一尉殿、宇宙を、手にお入れ下さい」
「実行可能なもので頼むといっただろう」

 苦笑しつつ、彼は拳銃を構えた。

「だが、この世界程度ならば任せておけ。お前らの死は無駄にはせん」
「感謝します」

 そう答えると、陸曹は目を閉じた。
 佐藤は目を見開いたままで拳銃を構えなおし、発砲した。



西暦2020年12月16日 13:59 日本国北方管理地域 遺跡最深部
  
「何処まで降りるんだ」
「これ以上は、ガス検知器なしでは嫌ですね」

 呆れたように呟いた佐藤に、二曹は冷静に答えた。
 あれからいくつかの広間を越え、その代償として四名の陸士たちを失った彼らは、疲労しつつも戦闘能力を残していた。
 どうやって入れたのかはわからないが見上げるほどに巨大なドラゴンに対戦車ロケットを打ち込んだ。
 群がる化け物の集団に銃弾のスコールを浴びせかけた。
 死してなお動き回るゾンビの集団を再起不可能なほどに粉砕した。
 そうして、彼らは歩き続けていた。
 
「ようやく終わりみたいですね」

 通路の先から微かに見えてきた明かりに、一人の陸士が安堵の声を漏らす。

「もうネタも尽きただろう。いよいよ親玉だといいな」
「そうですね。あと二回ほど交戦したら、伝説の剣か弾薬箱を探しに行かないといけません」
「銃剣があるだろう。それに無限に広がる精神力を持ってすれば、帝國軍人にできない事はない」
「私は普通の陸上自衛官なので、弾薬と部下なしには何も出来ませんね」

 よほど疲れているらしい二曹は、佐藤の言葉に普通に返答している。
 その後も下らないやり取りを繰り返しつつ、彼らは最後の部屋へと入った。

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