西暦2021年2月16日 18:00 ゴルソン大陸 日本国西方管理地域 ゴルシアの街南東10km地点
「動きはありません」
偵察から戻った隊員が報告する。
「驚くほどずさんな警備状況ですね。
皆殺しにしてくれといっているようなものですよ」
その後に丁寧にされた報告は、彼の受けた印象を補強するものだった。
敵は自分たちが何を目的としているのかもわからないような状態で、日本国の管理地域に拠点を設けていた。
一人で行動している日本人女性を人質に取り、預けられた死体を時間まで地下に保存しておくこと。
「それでは始めようか」
佐藤の言葉を持って、この非常に簡単な鎮圧作戦は始まった。
ハンドサインだけで号令を下された自衛隊員たちは、無言と無音を維持したまま砦へ接近した。
手には自動小銃、足には拳銃。
戦闘服には手榴弾が取り付けられている。
「3人」
先頭の陸士が小声で伝える。
全員が小銃を構え、周辺を警戒する。
<<撃て>>
無線で短く命令が発せられ、既に照準を済ませていた陸士は引き金を絞った。
銃声が周囲に鳴り響き、放たれた銃弾は数十メートルの距離を一瞬で飛び越えて若い盗賊の頭蓋骨とその内部を破壊した。
「今の音は何だ!?」
「何事だ!」
現状を把握できていないらしい盗賊たちの言葉が聞こえてくる。
先頭の陸曹が突入を命じる。
「なんだあこりゃあ!」
扉を開けて表に出てきた盗賊が叫んでいる。
どうやら射殺された若い盗賊を発見したらしい。
そこへ容赦なく銃弾を叩き込みつつ、自衛隊員たちは突入を継続する。
無人になった扉の左右に複数の隊員が取り付く。
年嵩の陸士長が手信号と顎で命じ、二人の陸士が手榴弾を用意する。
他の隊員たちが扉から顔を背けるのを待ち、安全ピンを外し、一瞬の間をおいて投擲。
二度の爆発と同時に、爆風と破片が開口部から飛び出す。
再び陸曹が手信号で突入を命じ、隊員たちは無言のまま突入を開始した。
西暦2021年2月16日 18:08 ゴルソン大陸 日本国西方管理地域 ゴルシアの街南東10km地点
「手早かったな」
まるで演習の後のようにリラックスして戻ってきた隊員たちに佐藤が声をかけた。
「人数も武装も練度も事前に教えられた連中が相手なんです、演習みたいなもんですよ」
笑顔で陸曹が答える。
至近距離での発砲か白兵戦でもやったらしく、その顔面には返り血がこびり付いている。
「それで、捕まってた記者は?」
質問された陸曹はその表情から笑みを消した。
沈鬱な表情を浮かべ、砦付近で衛生の手当てを受けている女性を見る。
「色々と不愉快な思いをしたようですよ。
お会いするのでしたら二曹を先頭にしたほうがいいでしょう」
「そのようだな。敵の生存者は?」
部下たちに撤収の準備をさせていた二曹を呼びつつ佐藤は尋ねた。
「全員射殺しました。人数も確認済みです」
「ならいい、二曹、あちらの女性のところへ予備の被服をお届けしろ」
「了解しました」
女性の状態を見た二曹は、持ち込んでいた予備の被服を片手に女性へと歩いていった。
「ありがとうございました」
予備の戦闘服を身に纏い、ミネラルウォーターで顔を洗った女性は、佐藤に弱弱しい笑みで礼を言った。
「いえ、到着が遅くなり申し訳ありませんでした。
大陸管理局から聞いた話では、我々の駐屯地へ取材にこられたとか?」
「はい、滞在は今日を入れてあと一週間を予定しています」
この大陸への玄関口に設けられている大陸管理局は、全ての人間に目的と目的地、滞在期間の記録、大陸を離れる際の確認を義務付けている。
その理由について、表向きには行方不明事件の早期発見のためとなっている。
「民間の方への協力は惜しみません、何かお困りのことがありましたらいつでも門を叩いてください」
「ありがとうございます」
笑顔でそう告げた佐藤に対し、女性は自分の足元に一瞬視線を落としてからそう答えた。
逃亡を防ぐためか、盗賊たちは彼女の靴を取り上げ、使用不可能にしていた。
「街中をあれこれと見て回られたいとは思います。
ですが、この付近は危険です。大変申し訳ありませんが、街までご同行願います」
そう告げると、佐藤は笑顔で軽装甲機動車を手で示した。
「あ、あの、ありがとうございます!」
「いい記事を書いてくださいね」
元気良く頭を下げた女性に対して、佐藤は笑顔で答えた。
「出発するぞ」
女性を乗せた車両が出てからおよそ10分後、炎上する砦を背後に佐藤は出発を命じた。
内心では、公安調査庁派遣監督官に対して怒りを抱いている。
あの男は、日本人女性が拉致され、不愉快な体験を強制されている現場を無視し、後始末を佐藤に命じた。
彼が一言命じれば、この世界における協力者がそれをやめさせただろうにである。
「あのクソ野郎が」
「一尉」
無表情のままそう呟いた佐藤に、二曹が声を掛ける。
「なんだ?」
「駐屯地からです。施設がヘリポート建設のために来たとか」
「ヘリポート?聞いていないが?」
書類仕事の遅さに定評のある彼だったが、さすがにそれほど
「とりあえず、戻るまでは搬入にとどめさせます」
「そうしろ。ああ、可能ならば道の舗装を依頼しておけ」
窓の外を眺めつつ命じる。
不意に異常を感じる。
良く見れば、暗い森の一角が不自然に明るくなっている。
「駐屯地に連絡、到着が遅れるとな」
何気なく彼がそう告げるのと同時に、併走する車両から異常を告げる報告が入ってきた。
地図では何もないはずの地域で、火災が発生していると。
「動きはありません」
偵察から戻った隊員が報告する。
「驚くほどずさんな警備状況ですね。
皆殺しにしてくれといっているようなものですよ」
その後に丁寧にされた報告は、彼の受けた印象を補強するものだった。
敵は自分たちが何を目的としているのかもわからないような状態で、日本国の管理地域に拠点を設けていた。
一人で行動している日本人女性を人質に取り、預けられた死体を時間まで地下に保存しておくこと。
「それでは始めようか」
佐藤の言葉を持って、この非常に簡単な鎮圧作戦は始まった。
ハンドサインだけで号令を下された自衛隊員たちは、無言と無音を維持したまま砦へ接近した。
手には自動小銃、足には拳銃。
戦闘服には手榴弾が取り付けられている。
「3人」
先頭の陸士が小声で伝える。
全員が小銃を構え、周辺を警戒する。
<<撃て>>
無線で短く命令が発せられ、既に照準を済ませていた陸士は引き金を絞った。
銃声が周囲に鳴り響き、放たれた銃弾は数十メートルの距離を一瞬で飛び越えて若い盗賊の頭蓋骨とその内部を破壊した。
「今の音は何だ!?」
「何事だ!」
現状を把握できていないらしい盗賊たちの言葉が聞こえてくる。
先頭の陸曹が突入を命じる。
「なんだあこりゃあ!」
扉を開けて表に出てきた盗賊が叫んでいる。
どうやら射殺された若い盗賊を発見したらしい。
そこへ容赦なく銃弾を叩き込みつつ、自衛隊員たちは突入を継続する。
無人になった扉の左右に複数の隊員が取り付く。
年嵩の陸士長が手信号と顎で命じ、二人の陸士が手榴弾を用意する。
他の隊員たちが扉から顔を背けるのを待ち、安全ピンを外し、一瞬の間をおいて投擲。
二度の爆発と同時に、爆風と破片が開口部から飛び出す。
再び陸曹が手信号で突入を命じ、隊員たちは無言のまま突入を開始した。
西暦2021年2月16日 18:08 ゴルソン大陸 日本国西方管理地域 ゴルシアの街南東10km地点
「手早かったな」
まるで演習の後のようにリラックスして戻ってきた隊員たちに佐藤が声をかけた。
「人数も武装も練度も事前に教えられた連中が相手なんです、演習みたいなもんですよ」
笑顔で陸曹が答える。
至近距離での発砲か白兵戦でもやったらしく、その顔面には返り血がこびり付いている。
「それで、捕まってた記者は?」
質問された陸曹はその表情から笑みを消した。
沈鬱な表情を浮かべ、砦付近で衛生の手当てを受けている女性を見る。
「色々と不愉快な思いをしたようですよ。
お会いするのでしたら二曹を先頭にしたほうがいいでしょう」
「そのようだな。敵の生存者は?」
部下たちに撤収の準備をさせていた二曹を呼びつつ佐藤は尋ねた。
「全員射殺しました。人数も確認済みです」
「ならいい、二曹、あちらの女性のところへ予備の被服をお届けしろ」
「了解しました」
女性の状態を見た二曹は、持ち込んでいた予備の被服を片手に女性へと歩いていった。
「ありがとうございました」
予備の戦闘服を身に纏い、ミネラルウォーターで顔を洗った女性は、佐藤に弱弱しい笑みで礼を言った。
「いえ、到着が遅くなり申し訳ありませんでした。
大陸管理局から聞いた話では、我々の駐屯地へ取材にこられたとか?」
「はい、滞在は今日を入れてあと一週間を予定しています」
この大陸への玄関口に設けられている大陸管理局は、全ての人間に目的と目的地、滞在期間の記録、大陸を離れる際の確認を義務付けている。
その理由について、表向きには行方不明事件の早期発見のためとなっている。
「民間の方への協力は惜しみません、何かお困りのことがありましたらいつでも門を叩いてください」
「ありがとうございます」
笑顔でそう告げた佐藤に対し、女性は自分の足元に一瞬視線を落としてからそう答えた。
逃亡を防ぐためか、盗賊たちは彼女の靴を取り上げ、使用不可能にしていた。
「街中をあれこれと見て回られたいとは思います。
ですが、この付近は危険です。大変申し訳ありませんが、街までご同行願います」
そう告げると、佐藤は笑顔で軽装甲機動車を手で示した。
「あ、あの、ありがとうございます!」
「いい記事を書いてくださいね」
元気良く頭を下げた女性に対して、佐藤は笑顔で答えた。
「出発するぞ」
女性を乗せた車両が出てからおよそ10分後、炎上する砦を背後に佐藤は出発を命じた。
内心では、公安調査庁派遣監督官に対して怒りを抱いている。
あの男は、日本人女性が拉致され、不愉快な体験を強制されている現場を無視し、後始末を佐藤に命じた。
彼が一言命じれば、この世界における協力者がそれをやめさせただろうにである。
「あのクソ野郎が」
「一尉」
無表情のままそう呟いた佐藤に、二曹が声を掛ける。
「なんだ?」
「駐屯地からです。施設がヘリポート建設のために来たとか」
「ヘリポート?聞いていないが?」
書類仕事の遅さに定評のある彼だったが、さすがにそれほど
「とりあえず、戻るまでは搬入にとどめさせます」
「そうしろ。ああ、可能ならば道の舗装を依頼しておけ」
窓の外を眺めつつ命じる。
不意に異常を感じる。
良く見れば、暗い森の一角が不自然に明るくなっている。
「駐屯地に連絡、到着が遅れるとな」
何気なく彼がそう告げるのと同時に、併走する車両から異常を告げる報告が入ってきた。
地図では何もないはずの地域で、火災が発生していると。