自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2021年2月23日 19:30 日本本土 東京都新宿歌舞伎町 クラブ『GOKUDO』

 突然、往来が途絶えた。
 いつもならば歩道を埋め尽くすほどに行きかう人々は消え去り、路上には駐車車両しか存在しない。
 店の前に立っていた客引きや、それを見守る若い構成員たちが困惑する。
 
「どうなってやがる?」
「わからんが、どうにも嫌な予感がするな。中に知らせて来い」

 頷いて店内に入っていく仲間を見送った彼の視界に、赤い光が見えた。

「手入れか?」

 彼の視界には、こちらへ向けて接近する警察車両の集団が映っている。
 しかし、強制捜査にしては様子がおかしい。
 それに、護送車の横にいる暗い色の角ばった車両は、どうみても自衛隊の装甲車である。

「こりゃあ、大変だ」

 他人事の様に呟いた彼は、足が震えている事に気がついた。
 どうみても相手は、こちらを殺しに来ている。
 きっと、自分たちは皆殺しにされてしまう。
 だが、黙って殺されたりはしないぞ。

「武器を持ってこい!ありったけだ!!」

 彼ほどではないが怯えている客引きに対して、彼は大声で命じた。



西暦2021年2月23日 19:33 日本本土 東京都新宿歌舞伎町

「クラブGOKUDOって、ベタな名前ですよね」

 先頭を進むパトカーの中で、まだ23歳の若い巡査は助手席の先輩に言った。
 
「どこの誰が運営しているのか分からないよりも、はっきりと極道会と看板をつけている方が安心感があるそうだ」

 助手席で拳銃の安全装置を確認している年上の同僚は、そう答えて拳銃をホルスターに戻した。

「そんなもんなんですか?」

 前方を見つつ呆れたように彼は訪ねた。
 このクラブは暴力団が運営していますと言われて、安心感など出てくるのだろうか?
 女性よりも腰に下げた9mmけん銃の方によほど魅力を感じる彼にとっては縁のない世界の話だった。

「暴力団でまともというのも変だが、大きな看板を背負っている組の支配下にあれば、明朗会計なんだとよ。
 まあ、こちらとは見張りやすくて助かるから、それだけでも十分だがね」

 生返事を返しつつ、ハンドルを握る彼はそれにしても、と窓の横へ視線を向けて続ける。

「どうして自衛隊なんかが出張ってくるんですかね?
 我々だって拳銃を持っているし、そもそも天下の往来でこちらに向かって堂々と発砲する奴がいるはずが」

 ないでしょう?と続けようとしたが、それは無理だった。
 突然屋根を抜けて殺到した銃弾が、彼の操るパトカーとその同僚を穴だらけにしてしまったのだ。

<<応戦せよ>>

 隊内無線で命令が下され、96式装輪装甲車の上部に設置された重機関銃が敵を向く。
 そして、微調整の後に発砲が開始された。
 銃撃に対する防御など考えているはずも無いビルへ向けて、必殺の銃弾が放たれる。
 窓ガラスが砕け散り、外壁が見る見るうちに破壊されていく。

「警察官は装甲車の影へ!応戦はするな!」

 拡声器から増幅された声量で命令が放たれ、警察官たちは慌てて装甲車の陰へと逃げ込む。
 その間にも銃撃は継続され、ようやく統制を取り戻した彼らが気づいた頃には、銃撃戦は終結していた。

「至急至急!攻撃を受けている!敵は機関銃で撃ちまくってくる!増援を早くよこしてくれ!」

 まだ損傷していない無線機に向かって警察官が叫んでいる。
 それを尻目に自衛官たちは装甲車の後ろに並び、発砲を続ける敵へ対して容赦の無い反撃を開始した。
 とはいえ、市街戦の準備を整えた正規の陸軍に対し、いかに重武装しようとも民間人が勝てるはずも無い。 
 クラブ『GOKUDO』までの道は、僅かな時間で切り開かれた。
 敵は建物の中に頑丈なスチール机や雑誌、その他家具を並べて防壁としたかったようだ。
 しかしながら、12.7mm弾はそのような柔らかいもので止まるような貧弱な物ではない。
 
「前進!ん?」

 目標へ向けて出動しようとした時、彼らの前方に横道から複数の車両が飛び出してきた。
 それらは衝突しそうなほど短い間隔で、道路を封鎖するように縦列駐車をする。

「やったれぇぇ!」
「ころぉぉせぇぇ!!」

 それらの車両から雄たけびを上げて男たちが飛び降り、車列を縦に発砲を開始する。
 彼らは手に見慣れた拳銃や自動小銃を持ち、ご丁寧な事に機動隊の防弾盾を構えている者もいる。
 それで全ての謎は解けた。
 どうして東京事件の際に現場から消えた武器弾薬が度重なる捜査と呼びかけでも発見されないのか。
 どうして広域指定暴力団とはいえ民間人が自動小銃を多数使用できたのか。
 どうして彼らはここまで必死なのか。
 自衛隊と警察の合同部隊は、一瞬だけ沈黙した。
 そして次の瞬間、彼らは一斉に猛反撃を開始した。
 何の躊躇もなしに対戦車ロケット弾が発射され、手榴弾が投擲され、機関銃弾が放たれる。
 国産の高級車で構成されたバリケードはそれら全てに敗北し、あるものは構成員を巻き込んで爆発し、別なものは鉄板も人体も関係なく切り裂かれる。
 戦闘は一分と経たずに終了した。
  
「至急至急、こちら警邏302、敵は警察および自衛隊の遺棄銃火器で武装、多数の警察官が死傷、被害確認中、SATの派遣を要請する」
<<こちら本部、SATは手が空いていない、現地の自衛隊と共同し、無力化を実施せよ>>
「警邏302了解!」

 怒鳴るようにして無線を切る。
 彼が本部と不毛なやり取りをしている間にも、自衛官たちは戦争準備を整えていたらしい。
 装甲車が重苦しいエンジン音を立てて前進を開始し、物陰に隠れた複数の自衛官たちがロケットや重機関銃を構える。

「おいおい」

 その光景を目にした彼は、そう呟くのが限界だった。
 次の瞬間、一斉射撃が開始され、殺到する銃弾とロケット弾によってクラブの正面玄関は完全に破壊された。
 装甲車の上に設置された機関銃が旋回し、二階部分へ銃撃を開始する。
 その間にも降車した自衛官たちは前進を継続し、遂に建物の玄関横へと到達する。

「手榴弾!」

 陸曹が叫び、五人の陸士が複数の手榴弾を手に取る。
 素早くピンを抜き、破壊されたドアだった部分へと投げ込む。
 閃光、轟音、絶叫。
 スタングレネードと通常の破片手榴弾をミックスした攻撃は、破滅的な打撃を店内に加えたらしい。
 あくまでも逮捕を前提とする警察と違い、軍隊の攻撃には容赦というものが無い。
 特に、理性が吹き飛び、実戦経験が不足し、怒り狂っている軍隊には。

「撃てぇ!」

 号令と共に銃弾の嵐が叩き込まれ、再び複数の手榴弾が投擲される。
 ここまで来て陸曹はようやくハンドサインを用いる。
 二名ずつ突入、三秒後、二秒後、一秒後、今。
 彼らは完全に破壊され、所々で火災すら発生している屋内へと突入を開始した。

923 :物語は唐突に ◆XRUSzWJDKM :2008/09/01(月) 00:14:44 ID:???
 照明が破壊された店内は薄暗かったが、あちこちで燃えている装飾品や人体が照明代わりとなっている。
 そのおかげで、一階部分の制圧はスムーズに進んだ。
 まあ、生存者が皆無であった事もその原因の一つであるが。

「一階二階制圧完了」
「次だ」

 報告と命令を手短に取り交わし、一同の関心は上階へと移される。
 この建物は四階建てとなっており、一階と吹き抜けになっている二階部分が店舗、それ以上が事務所となっている。
 目当ての物品が店舗にあることが無い事を知っている彼らは、だからこそ容赦の無い攻撃を実施できた。
 ここから先は、少しばかり丁寧に攻撃する必要があるな。
 手榴弾を片手に階段を上っていく部下たちを見つつ、陸曹はそう思った。



西暦2021年2月23日 19:36 日本本土 東京都新宿歌舞伎町 クラブ『GOKUDO』3F

「どうすりゃいいんだよ」

 受話器を叩きつけつつこの場を任されている極道会若頭は呟いた。
 先ほどから始まった自衛隊の攻撃は、全くの躊躇が無かった。
 階下との連絡は完全に途絶え、先ほどからどの番号へ掛けても電話が繋がらない。

「若頭、駄目です。無線も使えません」

 屋上から降りてきた年配の組員が報告する。
 通信の妨害があったという事は、次は電気か?
 彼の想像を肯定するように、電気が消え、組員たちがざわめく。

「畜生、全員ぶっ殺してやる!」
「若頭ァ!やってやりましょう!」

 戦意は旺盛であるが、旺盛な根拠は何も無い。
 だから俺は嫌だったんだ。
 彼は憂鬱そうに内心で呟いた。
 あの薬物は今までの合成麻薬やなんかとは随分違う。
 それに、自衛隊や警察の銃火器を回収して武器にするなどやっていいことではない。
 さっきの通り、実際に使用されたところを確認されれば、連中は容赦なく攻撃してくるに決まっている。

「おい、窓際に立つな、狙撃されるぞ」

 拳銃片手に窓から外を伺う部下に声を掛ける。
 しかし、その警告は遅かった。
 三人の部下の頭部が弾け、遅れて銃声が響く。

「やばいっす!」

 屋上で無線機を扱っていた一人が階段を駆け下りてくる。
 怪我を負った様子はないが、全身が血に塗れている。
 通信とライフラインの切断、狙撃、いよいよか。
 彼が最後の覚悟を決めた時、唐突に電話機が鳴った。
 誰もが唖然とし、そして最初に立ち直った彼が受話器を取る。
 一瞬息を吸い込み、覚悟を決めて尋ねる。

「・・・もしもし?」
「初めまして、自分は陸上自衛隊の交渉人です」

 電話の相手は、驚くほどに平坦な口調で丁寧語を話す男だった。

「降伏を勧告します。
 従わない場合、攻撃を再開します」

 平坦な口調で淡々と話す相手は、大声で怒鳴りたてるよりもよほど恐ろしい。
 そして、その言葉の内容から相手の目的が見えてくる。
 殲滅でも確保でも、別にどちらでもいいというわけか。

「回答は?」

 どうするべきか。
 警察ではなく自衛隊からの呼びかけ。
 つまり、今までの警察への働きかけは全て無駄になったわけだ。

「裁判は受けられるのか?」
「回答は?」

 ああ、わかったよ。
 古参の連中を見回す。
 全員が同意したように首を縦に振る。

「降伏する」

 こうして、一連の取り締まり作戦は終了した。
 もっとも、取締りなどという言葉は警察に協力するための名目であり、事実上は殲滅であるが。

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