自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

030 第24話 行く者達の誤算歌

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第24話 行く者達の誤算歌

1482年5月24日 午前6時20分グンリーラ島

波の音がしとやかに鳴り響き、海水が幾度も砂浜を濡らした。
空はまだ暗いが、洋上の一角では既に明るんでおり、夜明けが近いことが分かる。

「この島なら、別荘を建てて休日に過ごしたくなるなぁ。」

ジョン・ストライカー大尉は、頭を掻きながら隣にいるガンク・ルンキ大尉に言う。

「アメリカ人は、風景のいい場所を見つけると、いつもその言葉を話すのかい?」
「いつもではないが、あんたはそう思うのか?」
「私が聞いた限りでは、それと似たようなセリフはかれこれ10回以上は聞いているよ。」
「10回以上とは、俺の同志がそれだけいると言う事だな。」

と言うと、2人は声を上げて笑った。

「あんたはヴィルフレイングにいたようだから、俺の他にアメリカ人と付き合っているんだろうが、
誰も彼も俺のような奴ではないぜ。」
「では、たまたま似たようなセリフばかりを聞いた、と言うことになるのか。」
「そう言う事だよ。」

ストライカー大尉の言葉に、ルンキ大尉は納得する。

「それにしても、司令官閣下の願いが、ようやく叶えられるな。あれから半年余り・・・・
俺達バルランドは、彼らに対し、苦労ばかりをかけてしまったな。」

「そもそも、インゲなんとかという将軍が救助の必要なしとか抜かしたそうだな。」
「インゲルテント将軍だよ。公爵の爵位を持っていて、バルランドでも10位内に入る貴族だが、
当の本人はアメリカ海軍の将兵を危険な目に合わす事はできん、だとさ。自分は安全な豪邸でのう
のうと暮らしているくせに、よく言う。」

ルンキ大尉の口調には、明らかにインゲルテント将軍を憎んでいた。

ストライカー大尉とルンキ大尉は、5月20日にカタリナ飛行艇に乗って、このグンリーラ島に到着した。
アメリカ海軍は、ヴィルフレイングでバルランド側との折衝役の将校であったストライカー大尉と、
同じくヴィルフレイングに出向していたバルランド陸軍の将校、ルンキ大尉ともう1人の将校、
リワン・フリック少佐を選んでグンリーラに向かわせた。
事前に魔法通信で、グンリーラの部隊と打ち合わせを行うと、カタリナは20日の早朝に出発。
20日の夜にはカタリナは到着し、3人の将校は司令官のベルージ・クリンド中将と主任参謀のレンネル准将と
面会し、救援部隊が来る事をしかと伝えた。
救援部隊来るとの報に、意気消沈していた将兵は活力を取り戻し、今は撤収準備に励んでいる。
アメリカ海軍は現在、輸送船団と護衛艦。
そして、万が一の場合に備えて、空母サラトガとエンタープライズが根幹となるTF15、TF16の
2個機動部隊をグンリーラ島に向かわせているが、それすらも拒もうとする者が、意外にも味方の中にいた。
その者の正体がアメリカ側に知られたのは、出撃前5月19日の時であった。
その日、最初の作戦会議の時の、ファリンベ元帥の様子がおかしい事に気が付いたマックモリス大佐は、
最後の打ち合わせに来ていたアンルーク少将に尋ねてみた。
そして、インゲルテントという名前がアンルークの口から出てきた。
ウォージ・インゲルテント。陸軍大将でバルランド王国有数の名門貴族の当主である。
インゲルテント将軍はバルランド軍首都防衛軍副司令官を務めているが、これまでに南方軍司令官、北東軍司令官
という役職を歴任している。
傍目から見れば、見栄えのある経歴を持つ貴族軍人である。

だが、その性格はあまりいいものとは言えない。
北東軍司令官に任ぜられる前、候補であった将軍が失脚してインゲルテントが就任したが、噂では
インゲルテントが嵌めたのではないかと言われている。
その他にも悪い噂はいくつかあるが、インゲルテント将軍の権力は強大であり、不祥事があっても
もみ消されるのがオチであった。
ちなみに、クリンド中将の後方強襲軍がグンリーラに派遣されるきっかけとなったのも、インゲルテント将軍の
思い付きであった事が判明している。
実を言うと、インゲルテント将軍の他にも、バルランドには性質の悪い貴族軍人が何人もおり、それらが
軍の行動を阻害する事もしばしば起きていると言う。
後に、キンメルからその話を聞かされたハルゼー中将は、

「そのような貴族軍人どもを俺のエンタープライズに連れて来い。
沖に放り出して、サンディエゴまで遠泳させてやる。」

と言って息巻いていた。
そう遠くない未来に、インゲルテント将軍の名は、アメリカ軍将兵、特に母艦パイロット達に
「サノバビッチインゲル訓練生」とささやかれる事になるが、それはまだ未来の話だ。

「そんな将軍、前線に放り出してしまえばいいのに。」
「ちょっと無理だな。逆に奴のシンパに捕まって、前線に連れて行かれちまうさ。
国王陛下やファリンベ閣下も手を焼いているらしい。」
「なら合衆国に連れて来いよ。ウチの国の軍隊、特に海兵隊には、そんな男を可愛がりたい奴がゴマンといるからね。」

ルンキ大尉は苦笑した。

「君が言っていた、自慢のマリンコという奴か。」

「そうだよ。頭は良くないが、度胸がいいのが揃っている。まあ、近接格闘ではあんたらの騎士には
及ばないかも知れんが、それでもあの荒くれ共は頼りになる連中さ。」
「海兵隊か・・・・・・一度はその海兵隊とやらの訓練も受けてみたいものだな。」
「その時は俺に声をかけてくれ。弟が海兵隊にいてな、勇気のある奴はシホットだろうが大歓迎とか言っていたよ。」

2人は雑談を交わしながら、内陸に進んでいく。5分ほど歩くと、急造の陣地に入って行った。
迷路のような陣地や通路を抜けると、個室のドアの前に辿り着いた。
ルンキ大尉がドアを叩いた。
中から返事がして、2人はドアを開けて入る。中には、クリンド中将とレンネル准将、それにフリック少佐が話し合っていた。

「おはよう、ストライカー大尉、ルンキ大尉。今朝は眠れたかね?」

クリンド中将は人懐こい笑みを浮かべて聞いてきた。

「ルンキ大尉はぐっすり眠れたようですが、自分は少し寝付けませんでした。」
「緊張しているのかね?」
「まあ、少し。」

ストライカー大尉は、ここ数日間落ち着かぬ日々を過ごしている。
彼は船団との連絡を取るために、カタリナ飛行艇から積んできた通信機で、船団や機動部隊と連絡を取り合っている。
本来ならば、救出作戦は23日の夜半に行われる予定であったが、23日の午後2時に輸送船団で脱出に使用する輸送船と、
護衛を務める駆逐艦が衝突事故を起こし、一時期隊列が乱れた。
隊列を立て直すのに時間を費やした結果、午後10時の救出決行には間に合わなくなった。
そのため、予定は午後10時から、24日の午前9時に変更となった。

「ちょっとしたトラブルがあったものですから。」

「まあ、そう固くなるものでもなかろう。物事は常に、予想通りに運ぶとは限らん。まあ、大抵人と言う
ものは、順調に推移している時に起きたトラブルがきっかけで、全てが台無しになると考えがちだが、
結果的に上手く行く場合もある。」
「おっしゃる通りです、クリンド司令官閣下。」

ストライカー大尉は苦笑しながら返事した。彼は表情を引き締めて、本題に入った。

「今の所、輸送船団は順調にグンリーラに向かいつつあります。輸送船は減ってしまいましたが、
その分の人数を戦艦、巡洋艦に乗せることに決定しましたので、全員の収容は可能です。」
「そうか。アメリカ側の配慮に感謝するよ。」

クリンド中将は、掛け時計で時間を確認した。時間は午前6時50分を指している。
輸送船団が見え始めるのは午前8時を過ぎる頃だから、まだ時間はある。

「2度目の正直は、どうやら実りそうですな。」

レンネル准将が語りかけてきた。

「我が部隊には栄養失調気味の兵や、病気で苦しむ兵が多数います。本国があなた方アメリカに要請していなければ、
今頃どうなっていたとこか。」
「もはや心配は無用ですよ、レンネル閣下。我々には、常勝無敗のアメリカ海軍がついていますからな。」
フリック少佐が、我が事のように言い放つと、ストライカー大尉を除く皆が深々と頷いた。
(あまり、過度な期待はしないでもらいたいものだ)
ストライカーは内心で反論する。
(確かに勝ち続けている我が海軍だが、それでも戦艦をボロボロにされたり、巡洋艦や駆逐艦を沈められたり、
空母に爆弾をぶち込まれたりしているんだ。それに、本当ならシホット共の制海権下で、貴重な正規空母を
僅か2隻のみで投入するような事は避けたかったんだぜ。隠密作戦だから、敵に見つかった場合の危険度は
馬鹿にならんほど増大するんだが)

ストライカー大尉は、不安の色を表情に出すまいと努力した。
笑みを浮かべるバルランドの将校達は、皆が楽観的な表情を浮かべている。
ストライカーの苦悩には、恐らく気付いていないのかもしれない。
(シホットの怖いおあにいさん達が、気付かない事を願うのみ、だな)


5月24日 午前6時50分 グンリーラ島北北西50マイル地点

空母エンタープライズを中心に据えただい16任務部隊の艦群は、22ノットのスピードで、20マイル先の
哨戒地点へ北上しつつあった。
エンタープライズの艦橋で、コーヒーを啜っていたスプルーアンス少将は、側でぼーっと海を眺めるラウスに声をかけた。
「ラウス君。昨日、ネイレハーツを出た敵艦隊は、どうやら北に向かったようだな。ネイレハーツより北には、
確かマルヒナス運河があるが、シホールアンル海軍はマルヒナス経由で西海岸に艦隊を回航しているのかな?」
「潜水艦部隊が、北上中の艦隊を発見しているのですから、恐らくマルヒナスか、本国の軍港に向かっているの
かもしれません。スパイの情報が入っていないのが、気がかりですけど。」

昨日午前4時、第18任務部隊所属の潜水艦から、10隻以上のシホールアンル艦隊が北上して行くとの連絡が入った。
その2時間前にも、戦艦らしき艦を伴った小艦隊が北上している事から、TF16司令部では本国に向かうか、
マルヒナス運河を経由して西海岸に向かうものと判断している。
ここで、スパイの情報も欲しいところだが、惜しい事にスパイからの情報は入ってきていない。
一方で、ガルクレルフでは、巡洋艦4隻と駆逐艦7隻が、3日前に輸送船を伴って北上して以来、動きは無い。
今の所、西太平洋地域で、シホールアンル軍が救援部隊の動きに気付いた兆候は見られなかった。

「今の所、潜水艦部隊はシホールアンル側がグンリーラの方向に向けて、艦艇を向かわせているとは報告していないし、
作戦は順調に推移していると見ていいだろう。だが、万が一という事も考えて、こっちも策敵機は飛ばさなければならん。」

「司令官、策敵隊は予定通りでよいですね。」
「ああ。予定通りで・・・」

言葉を終えようとした時、スプルーアンスは少しばかり考えてから付け加えた。

「第2索敵隊のアベンジャーは6機から8機に増やそう。それから、待機しているアベンジャーを
何機か雷装待機から外すか。」
スプルーアンスは何気ない口調で、ブローニング大佐に指示した。
エンタープライズの格納庫には、念の為にF4F、SBD、TBF各16機が爆弾、又は魚雷を積んで待機している。
本当は、この時点で攻撃機を用意する必要は無いとスプルーアンスは考えていたのだが、23日の夜になって急遽、
一部の機を待機させる事にした。
この時、ブローニングになぜ攻撃機を用意するのか聞かれたが、

「常に最悪の事態に備えなければならん。特に空母戦闘では、相手を見つけてから攻撃機に爆弾、魚雷を積んでも遅い。
こっちが守りに徹するなら別だが、私としては、敵機動部隊が出てくればなるべく叩きたい。面倒な事は今のうちに
軽くしないといけないからな。」

と言って眠りに着いた。
ちなみに、エンタープライズの搭載機の割合はF4Fが48機、SBD、TBFが各26機であり、SBD、TBFの
大半は索敵に振り向けられる筈であったが、スプルーアンスの一声で計32機が待機に入っている。
その待機している機の一部を、索敵に投入させようと言うのだ。

「念には、念を入れねばならないよ。」
「と、すると、第2索敵隊の発進は少々遅れますな。」
「航空参謀、アベンジャーを追加させる際、装備を外して索敵に加えるまでどれぐらい時間をロスするかな?」

スプルーアンスは、タナトス中佐に質問した。

「魚雷の取り外しに機器の再チェックもありますから、10分か15分は遅れるでしょう。」
「10分か15分か。遅くも無いが、早いとも言えんな・・・・まあいいだろう。第2索敵隊の発進予定を少しずらそう。」
スプルーアンスはタナトス中佐にそう命じた。
「参謀長、ニュートン部隊から何か変わった報告は無いか?」
「TF15も20分前の定時連絡では異常なしと伝えております。」
「ふむ。」
スプルーアンスは表情を変える事無く、司令官席に座った。
「このまま、物事が進めば、そう気を張り詰める必要も無いな。」
彼がそう呟いた時、第1索敵隊のドーントレスが、飛行甲板上で暖機運転を開始した。

午前9時20分 グンリーラ島
波打ち際に接近したボートに、ぼろぼろの服を纏ったバルランド兵が乗っていく。
どの顔も痩せこけ、中には歩く度に、地面に生気を吸い取られているのでは、と思わせるバルランド兵も少ない数では無い。
足取りはしっかりしている者もいれば、抱きかかえられる様にして移動する者など、様々だが、彼らには共通した表情が浮かんでいた。
それは、ようやく祖国に帰れると言う喜びであった。
既に、第1着目のボートが輸送船に接舷してバルランド兵達を船の中に乗せつつある。

「滑り出しは、順調だな。」

ストライカー大尉は、満足したような口調でルンキ大尉に言った。
「この調子で行けば、夕方までには全部隊を収容できるようですね。」
「ああ、その通りだ。最も、何事も無ければの話だが。」
「起きても、船団についている護衛を見たら、その不測の事態も吹き飛ばしてくれるような気がしますよ。」
「あれが、ガルクレルフでオールクレイ級と渡り合った戦艦かね?」

ストライカー大尉の側で船団に見入っていた、クリンド中将が船団の先頭で警戒についている巨艦を指差した。

「ええ、そうです。」
「なんとも、変わった形をしているな。あの艦橋、嵐の時にはひっくり返るんじゃないかね?」
「嵐のに遭遇しても、そう簡単には倒れないよう設計されています。」
「なるほど。それにしても、大砲は何門積んでいるのだね?こちらから見たら8門ほどは積んでいるようだが。」
「12門です。」
「12門だと!主砲をそんなに積めるのかね。」

クリンド中将は呆れたように言う。

「それなら、あのオールクレイ級といえ、叩きのめされるはずだ。」
「とは言っても、ガルクレルフではアリゾナも少々きわどい戦いを強いられていたのですよ。あのアリゾナは、
いつもはペンシルヴァニアという同じ型の片割れを連れているんですが、その片割れの被害が大きすぎて、
未だに修理が完了していないのです。」
「そうか。相手はシホールアンルだからな。手傷を受けぬわけには行かぬか。」

クリンド中将が仕方が無いといった表情で呟く。

「あの巡洋艦。小さい連装砲塔をいくつも載せているが、あの巡洋艦は水上砲戦では役に立つのかな?」

ルンキ大尉が別の艦を見て聞いた。ストライカー大尉は指差された新鋭軽巡に視線を移した。
ジュノーか、サンディエゴであろうが、この2艦は竣工して1年も経っていないため、他の艦と違って塗装が真新しい。
「あれは最新鋭の巡洋艦で、今度配備されたばかりなんだ。名前は俺も分からない。だが、噂によれば、
水上砲戦のみならず、航空決戦も想定して作られた艦のようだ。」
「と、すると。あの小さい砲塔は高射砲も兼ねている、と言う事かな?」

レンネル准将は半信半疑でそう呟いたが、彼の言葉は当たっていた。

「自分も詳しくは分かりませんが、対空火力をこれまで以上に充実させた艦、である事は間違いないでしょう。」
「なるほど。あれがワイバーン部隊と対峙したら、いい光景が見れるかもしれないな。」

レンネル准将が不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
その笑みは、数十分後に別のものに変わる事を、ストライカー大尉は、いや、救助作業に当たる全ての者は予想もしていなかった。


午前9時57分 グンリーラ島北北西230マイル沖

「グンリーラ島が攻撃範囲に入るまで、あと30分という所か。わざわざこんな遠回りしなくても良かっただろうに。」

第22竜母機動艦隊の司令官であるヘルクレンス少将は苦笑しながら言った。

「最短コースで行けばすぐにつけるでしょうが、それでは敵の潜水艦に発見されて、南大陸沿岸沖に跳梁する
アメリカ機動部隊に嗅ぎ付けられる可能性があります。奴ら、獲物を見れば目の色を変えますからね。」
「そうは言ってもな、1000ゼルド以上も南にいるアメリカ機動部隊がこんな辺ぴなとこまで来るはずは無いだろう。
制海権は俺達が握っている。それに、こっちは13リンル以上出せる高速艦ばかりだ。アメリカ野朗が出てきたって
すぐに引き離せるさ。」

彼はそう言いながら、書類に目を通した。

「攻撃隊には150リンル(280キロ)爆弾を積むのか。200リンルまで積めるから問題は無いな。
しかし、攻撃ワイバーンが2艦合わせて54騎というのはちょっと寂しいぜ。」
「戦闘ワイバーンも22騎つけます。グンリーラには病人共しかおりませんから、戦闘ワイバーンも
地上掃討に投入すればいいでしょう。」

主任参謀は淡々とした口調で進言する。
現在、第22竜母機動艦隊には、竜母チョルモールとゼルアレ、それに戦艦ゲングリードに巡洋艦バガック、
ロルレリチャ、テルグレオス、グインギ、駆逐艦13隻が護衛に付いている。
本来は、巡洋艦2隻に駆逐艦10隻が護衛に付いているのみであったが、アメリカ空母部隊の存在を知った後は
対空火力、護衛の強化に努めた。
そのため、竜母部隊には、7隻ある高速戦艦オールクレイ級のうち、1ないし2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦10隻以上
を配備するように決められた。
対空防御用の高射砲、魔道銃は各艦強化されており、チョルモールとゼルアレも高射砲4門から8門に、
魔道銃12丁から39丁に強化された。
だが、シホールアンル側としてはそれでも、強力なアメリカ軍機。
特に急角度で接近してくるドーントレスを防げるか心配だった。
今回、2隻の竜母には、ワイバーン112騎が積み込まれており、攻撃隊のワイバーンが既に甲板上で待機している。
グンリーラ周辺には、念の為策敵用のワイバーン12騎を飛ばして状況を確認させる。
艦隊には直衛を20騎に決め、攻撃ワイバーンが出払った後は、この20騎が母艦を守る要となる。
いつもなら、緊張の面持ちで作業に当たる将兵だが、この作戦に限っては誰もが気楽な表情で仕事をこなしている。
ヘルクレンスは心なしか、いつもよりも作業の進捗状況が早いように思えた。

「リリスティ姉さんの第24竜母機動艦隊も来てくれりゃ、掃除は手っ取り早く終わるんだが。
まっ、無いものねだりしても始まらんから、さっさと片しちまおう。ガルクレルフから出港した
別働隊は順調に進んでいるか?」
「定時連絡では、グンリーラ島の西130ゼルド地点に進出しているようです。正午過ぎには
箒掃除も可能になりますよ。」
「何事も順調か。簡単な任務とは言え、物事が進むのは気持ちがいいものだぜ。」

ヘルクレンス少将は満足そうに笑った。
主任参謀も同調すると、艦橋に魔道参謀が血相を変えて入って来た。

「主任参謀、これを。」

魔道参謀は、持っていた2枚の紙を見せた。

「・・・・・魔道参謀、敵らしき船団とは、どういう事だ?」
「いえ、自分もよく分からないのです。魔法通信の発進元は、7番騎ですが。」
「7番騎だと?」
主任参謀は時間を見、次に艦橋のすぐ隣にある海図室に入った。
そして、7番騎の推測予定位置を確かめた。
「まだグンリーラから北西に35ゼルドほどあるぞ。」
「もしかして、バルランド側の船団なのでは?」
「バルランドか。」

主任参謀は、何度かバルランド海軍がグンリーラの救助作戦を幾度か行った事を知っている。
その救助作戦はいずれも大失敗に終わったが、バルランド側はついに船団をグンリーラ島近海にまで
近づける事に成功したのだろう。

「待て、バルランド側の船団なら、なんでこんな離れた海域にいる?おかしいとは思わんか。」
普通なら、真っ直ぐグンリーラの浜辺なり桟橋なりに近寄って、救助するはずなのに、報告された
位置は明らかにグンリーラ島から行き過ぎている。
普通なら考えられない事だ。とりあえず、主任参謀はヘルクレンス少将に報告しようと、艦橋に戻った。

「おう、何かあったのか?」
「ええ、実はですね。グンリーラ島の近海に不審な船団がいるとの情報を掴みました。」
「不審な船団だと?なんでまた。」

ヘルクレンス少将は顔をしかめた。
主任参謀が次の言葉を言おうとした時、魔道参謀が、さっきとは打って変わった表情で艦橋に入って来た。

「何だね?騒々しい。」

主任参謀は憎らしげな口調で言うが、魔道参謀は気にも留めなかった。
「先ほどの不審船団は敵側の艦隊です!7番騎の報告によりますと、敵はヨークタウン級空母1隻を伴う
機動部隊と伝えてきました!!」

その瞬間、艦橋の空気は凍り付いた。



ちょうどその頃、断雲の中に1つの黒い粒があった。
その黒い粒。エンタープライズから発艦したアベンジャーのパイロットは、これまた興奮した口調で報告を送っていた。

「こちらウィンレー6、シホットの機動部隊を発見した!位置は艦隊より北北西200マイル沖、針路は135度、
グンリーラに向かっている!サノバビッチ、奴ら待ち伏せてやがった!」
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