自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

044 第36話 夜海のロウソク

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第36話 夜海のロウソク

1482年8月16日 ジェリンファ沖西南150マイル沖 午前2時

バルランド海軍第23艦隊に所属する巡洋艦ウォンクコーデは、隷下の巡洋艦1隻と駆逐艦6隻で、
輸送船14隻を取り囲みながら時速6リンルのスピードでジェリンファに向かっていた。

「この行程も、あと4分の1で終わりですな。」

ウォンクコーデの艦長であるルイック・リルク中佐は、副長の声を聞いて頷く。

「毎度の輸送任務とは言え、夜間の当直は疲れるな。」

リルク艦長は欠伸をかみ殺しながら副長に返事した。
バルランド王国は、陸路での兵員輸送の他に、定期的に海路での兵員、物資輸送を行っている。
毎度、輸送船の積荷は違ってくるが、大体が食料や大砲の弾薬、兵の甲冑や剣といった必要物資に、
500人から1000人単位の兵員をバルランド北部に送っている。
今回は、14隻中、5隻の輸送船には食料や弾薬、6隻には武器や医薬品、衣類等、3隻には合計で
1個連隊2200人の兵員と物資を乗せている。
この部隊はバルランド王国北部を守る第97軍団の増援部隊であり、到着後は97軍団に加わって
シホールアンル軍に備える予定だ。

「眠気覚ましに、茶でも飲まんか?」

リルク艦長は、伸びた不精髭を撫でながら副長に聞いた。

「では、一杯いただきましょうか。」
「よし、分かった。従兵!眠気覚ましに茶を淹れてくれ。2杯だ!」

リルク中佐は従兵にそう告げると、従兵は艦橋の奥に引っ込んでいった。
間もなくして、従兵が茶を持って来てくれた。その時、艦隊司令官が艦橋に上がってきた。

「やあ諸君、おはよう。」
「おはようございます。といっても、まだ真夜中ですが。」

艦長は茶を飲みながら、司令官であるウォロ・ルークン少将に言った。

「おはようを言うには早すぎたかな。それよりも、わしも茶を一杯貰おうか。」

艦長は従兵に茶をもう一杯淹れてくれと頼んで、従兵はさっきと同じように奥に下がっていった。

「航海は順調かね?」
「ええ。いたって順調です。今日の正午までには、ジェリンファに到達するでしょう。」
「ふむ。それなら良いな。それにしても艦長、君はいい軍艦を欲しいとは思わないかね?」
「いい・・・軍艦ですか?」

ルークン少将の言葉に、リルク艦長は困惑した表情で反芻する。

「そうだ。我が海軍の艦艇は、シホールアンルやマオンドの艦と違って性能が低すぎる。
その気でかかれば、敵艦を叩き沈める事が出来るが、いつまでも性能の低い艦ばかりでは、
乗っている将兵に申し訳が立たない。」

バルランド海軍は、慢性的な艦艇不足に悩んでいる。
緒戦で少なからぬ艦艇を失っているバルランド王国は、以降のシホールアンル海軍との決戦を避けて艦艇を温存してきた。
しかし、性能はシホールアンル軍の軍艦に劣っており、上層部ではシホールアンル側の艦艇を上回る性能を持つ
艦の自己開発、又は購入を行おうと躍起になっている。
リルク中佐の指揮するウォンクコーデはレーダル級巡洋艦に属する。
性能は全長84グレル(168メートル)幅8.4グレル(16.8メートル)
基準排水量4300ラッグ(6450トン)速力は13リンル(26ノット)
武装は6.3ネルリ(16.1センチ)連装砲を3基6門積んでいる。
シホールアンル側のルオグレイ級や、旧式に分類されるオーメイ級にさえ太刀打ちできない。
駆逐艦のほうは14リンルまでしか速度が出せず、砲も3ネルリ砲4門しか積んでいない。
しかし、そのシホールアンル側はここ最近、バゼット半島の北側までしか艦隊の行動範囲を定めていないため、
半島の南側海域の制海権は南大陸軍が握っている。
そのため“安全海域”を航行する輸送船団は、順調に物資、兵員を運び続けていた。
「まあ、ここの海域は安全だからいいが、敵に立ち向かうとなれば、この艦ではやり合いたくないな。
せめて、アメリカ軍の持つニューオーリンズ級やブルックリン級を我が海軍にも欲しい物だ。」

ルークン少将はため息混じりにそう呟いた。
アメリカ海軍のこれまでの活躍は何度も聞いている。
ルークン少将は、ここ最近米海軍の巡洋艦、とりわけブルックリン級軽巡に惚れ込んでいた。
何よりも、シホールアンル側の巡洋艦を圧倒する15門の主砲に魅力的な発射速度、それに意外に頑丈な艦体。
彼にとっては、まさに理想の巡洋艦であった。

「司令官、ここ最近はシホールアンル側は表立った行動を見せていませんが、司令官はどう思われます?」

艦長の質問に、ルークン少将は肩をすくめた。

「さあ。私はシホールアンルの軍人じゃないから、あまり分からんよ。だが、私の意見からすれば、不気味だな。」
「不気味・・・・ですか?」

リルク艦長の言葉に、ルークン少将は頷く。

「本来ならば、奴らは必ず動き出す。陸か、海で。今までそうしてきたのに、あの4月の攻勢失敗以来、
シホールアンルは目立った動きを見せていない。つい最近は、ヴェリンス共和国に攻勢を仕掛けて、
領土を完全に分捕ったが、そのままミスリアルに雪崩れ込むと思ったら、何故か国境線でピタリと止まった。
そこが、私には分からん。」

ルークン少将は顔をしかめながら言う。
彼としては、ここ最近のシホールアンル側の動きが鈍い事に、彼らの意図を分かりかねていた。
彼のみならず、南大陸連合軍首脳部や、果てはアメリカ南西太平洋軍司令部までも、あれこれ予想は立ててみるのだが、
いずれの首脳部も、頭を悩ませていた。

「まっ、前線の一指揮官が、あれこれ考えても仕方あるまい。今は、この輸送任務を無事終わらせる事に集中するのみだ。」

そう言って、ルークン少将は艦長の肩を叩く。

「所で艦長。君にはジェンリファで、馴染みの者が居ると聞いたが?」

ルークン少将は人の悪い笑みを浮かべながら、リルク艦長に聞いた。
リルク艦長はなぜか気まずそうな表情を滲ませる。

「どうしてそのような事を聞かれるので?」

リルク艦長は苦笑しながらルークン少将に言った。その時、

「未確認艦、本艦隊に接近!」

突然、艦橋に飛び込んできた緑色の軍服を付けた将校、魔道将校が彼らに報告して来た。

「未確認艦だと?位置は?」

すかさず、リルク艦長が聞き返した。
「はっ。反応は本艦隊より北北西方面、距離は9ゼルドです。」
「9ゼルド?馬鹿に近いな。」

リルク艦長は顔を険しくしてそう呟いた。
突然、砲声が轟いた。

「!?」

リルク艦長とルークン少将は顔を見合わせた。

「司令官!」
「て、敵だ!」

ルークン少将は慌てふためいたように叫んだ。その直後、上空に赤紫色の光が、ぱあっと煌いた。
この照明弾の色は、シホールアンル軍の使う照明弾の物だ。つまり、

「シホールアンル軍だ!全艦戦闘用意!」

ルークン少将は声をわななかせながら命令を発した。
ウォンクコーデの艦内で鐘の音が鳴り響き、眠っていた乗員達が飛び起きた。

「敵艦隊発見!これより戦闘に移る。総員、戦闘配置につけ!」

艦長の鋭い声音が伝声管を伝って艦内に響いた。誰もが仰天しながら、それぞれの配置に付いて行く。

「これより、第23艦隊は敵艦隊を迎撃する!輸送船団は全速力でジェリンファに向かえ!」

艦橋では、ルークン少将が魔道将校に、指揮輸送船に送る魔法通信の内容をメモに取らせている。

「取り舵一杯!」

艦長の指示に従い、ウォンクコーデの艦体が左に振られていく。
輸送船の周囲から離れた寮艦がウォンクコーデの後方に着き始めたとき、敵艦隊が砲撃を開始した。
砲弾は、ウォンクコーデの左舷側海面に落下し、水柱が吹き上がった。
ウォンクコーデが、敵と反航戦の態勢を取った時、艦長は命令を下した。

「目標、敵1番艦、撃ち方はじめ!」

リルク艦長が命じ、ウォンクコーデが前部4門の主砲を放った。
弾着を確認する前に、敵艦隊から第2射が放たれる。
ウォンクコーデの右舷側海面に水柱が立ち上がる。水柱の本数は軽く10は超えていた。
互いに高速のまま、距離を詰めていく。
ウォンクコーデが4回目の斉射を行った時、周囲に水柱が立ち上がり、次いで被弾の衝撃が艦体を揺さぶった。

「中央部に命中弾!」

伝声管から乗員の悲鳴じみた報告が届いた。

「こっちはまだ夾叉も得ていないと言うのに。」

ルークン少将は歯噛みしながらそう呟いた。
ウォンクコーデが第5射を放つが、その10秒後に飛来してきた敵弾が周囲に落下し、うち数発がウォンクコーデを打ち据えた。

「第3砲塔被弾!砲塔要員全員戦死!」
「後部艦橋に命中弾、死傷者多数、衛生兵をよこして下さい!」

悲痛めいた報告が、次々と送られてくる。その時、魔道将校が青ざめた顔つきで艦橋に現れた。

「敵艦隊の陣容は、巡洋艦5、駆逐艦12です。」
「なんだと?」

ルークン少将は、敵の余りの多さに愕然とした。
第23艦隊の持ちえる艦は、巡洋艦2、駆逐艦6である。それに対し、敵は2倍の戦力でこっちに向かって来た。
それも、敵艦はいずれも、こちら側の艦の性能を凌駕している。これでは、到底勝ちようが無い。

「おのれぇ・・・・徹底的に殲滅する腹だな・・・・・・だが、」

ルークン少将の目に、狂気めいたものが混じった。

「ただではやられん!面舵一杯!敵艦隊の針路を塞ぐ!」

彼の命令の下、ウォンクコーデ以下8隻のバルランド艦隊は、やや間を置いた後、ウォンクコーデを順番に敵の針路を塞ぎにかかった。
回頭中にも、敵艦隊の砲撃は止まない。回頭しようとした駆逐艦が1隻、7.1ネルリ弾を2発食らった。
2発のうち、1発は艦首の喫水線に命中し、艦首の下側部分を大きく食い千切って海水が艦内に侵入し、スピードがみるみるうちに衰えた。
慌てて、後続艦が避けようとするが、時既に遅し。
大音響と共に、損傷した駆逐艦の後部に激突し、完全に停止してしまった。
そこに、敵駆逐艦の砲弾が殺到する。
たちまち、多量の砲弾を叩きつけられた不運な駆逐艦2隻は、短時間で燃える松明に変換させられた。
そして、シホールアンル艦隊はルークン少将の決意を嘲笑うかのように、先頭の2隻だけを回頭させ、
同航戦の態勢を整えて、残りは輸送船団に向かわせた。

「我々を素通りするとは!全力で持って叩きに来い!この腰抜けめが!!」

ルークン少将は、第23艦隊を迂回して輸送船に向かっていく残りのシホールアンル艦に罵声を浴びせる。

「艦長!こうなったら」

彼はリルク艦長に新たな指示を下そうとした時、敵艦の砲弾が落下してきた。
その中の1弾は、艦橋を直撃し、艦橋に詰めていた者全てを戦死させた。
護衛艦8隻が海の松明と化して10分後、別の海域でも火の手が上がり始めた。
炎はぽつ、ぽつ、と。
それはロウソクに火をともすように増えていき、最初の火の手が上がって10分後には14の炎が海上でゆらめいていた。
遠めで綺麗に写ったそのロウソクの火は、さほど間を置かずにぽつぽつと消え始めた。

1482年8月18日 バルランド王国ヴィルフレイング 午前8時

ヴィルフレイングの一角にある木造の2階建ての建物。
その中にある南太平洋部隊司令部で、5人の男たちは額を寄せ合って地図を睨んでいた。

「ここで、輸送船団は襲われたと言うのだな。」

男の中の1人。南太平洋部隊司令官、チェスター・ニミッツ中将は地図のとある一点を指差した。
その点。バルランド王国領ジェンリファから南西150マイル沖に付けられた罰印。
この罰印は、16日未明、シホールアンル艦隊の突然の襲撃で全滅させられた、バルランド軍護送船団が進んでいた位置だ。

「バルランド側は、巡洋艦2隻と駆逐艦6隻で輸送船14隻を護衛していたようです。バルランド側の報告では、
午前2時の定時報告を最後に連絡が途絶え、翌17日ジェリンファの海岸で沈没船の残骸が漂着しているのを
現地の部隊が確認したようです。今もって護衛艦、輸送船の1隻も入港しない事から、敵艦隊に1隻残らず
沈められたものと判断します。」

参謀長のスプルーアンス少将は、怜悧な口調で説明した。

「巡洋艦2隻、駆逐艦6隻の護衛艦隊を沈めるには、最低でも巡洋艦3、4隻、駆逐艦8から10隻は必要です。
バルランドの護送艦隊は最低でも巡洋艦4隻、駆逐艦10隻程度の敵艦隊に襲撃されたものと推定します。」

作戦参謀のポール・ルイス中佐がスプルーアンスに代わって説明する。

「その事からして、この敵艦隊はバゼット半島を大きく迂回してから、この輸送船団を襲撃したのでしょう。」
「解せんな。」

ニミッツは首を振った。

「なぜ敵は遠出までをして輸送船団を襲ったのだ?確かに、バルランド海軍はシホールアンルよりは装備が劣るが、
制海権は我が方にある。太平洋艦隊の空母部隊も幾度と無くこの海域に進出して警戒に当たっていた。
敵にとってはあまり踏み込みたくない海域なのに、どうしてこのような危険な事をするのだね。」
「恐らく、味方の士気向上のためではないでしょうか?」

スプルーアンスが言って来た。

「ここ最近、シホールアンル側は目立った勝ち戦をやっておりません。そのため、前線の将兵の士気が落ちてしまった。
そこで、一見大博打のような作戦を立ててそれをやった。と、私は思います。あるいは」

スプルーアンスは、視線をジェリンファ沖から、何故かヴィルフレイングに向ける。

「何かを誘っているのか・・・・・」

その言葉に、ニミッツが反応する。

「何かを誘っている、か。レイ、誘っているとは、つまり我々の事かね?」

スプルーアンスは無言で頷いた。

「最新のスパイ情報では、今の所、敵の竜母部隊はエンデルドに留まっていますが、戦艦が、2、3隻ほど足りぬようです。」
「戦艦が2、3隻ほどか。参謀長、もしこのような輸送船団を殲滅する場合、攻撃側は高速艦で目標を攻撃するだろう?」
「そうです。敵の竜母はエンデルド、しかし、7隻いたはずの戦艦が2、3隻足りぬとなると、シホールアンル側は
襲撃艦隊に戦艦を組み込んでいる可能性があります。その敵戦艦は、27、8ノットの速度が出せるオールクレイ級でしょう。」
「と、なると。バゼット半島の南海岸沖には、戦艦を含む敵艦隊がうろついていると言う訳か。」

ニミッツは気難しそうな表情を浮かべる。

「バルランド側から護衛に関して、何か言ってきそうだな。」
「護衛任務に関して、ですな。」

情報参謀のバイエル・リーゲルライン中佐が発言する。

「そうだ。バルランド海軍の艦艇は、南大陸の中では一番の性能だが、シホールアンルやマオンド海軍の艦艇に
比べたら性能は低い。そのため、バルランド側が護衛に関して何か言ってくるかもしれん。私としては、
少々気が乗らんのだが。」
「もしかして、司令官はバルランド海軍の事を気に成されているのでしょうか?」

リーゲルライン中佐の質問に、ニミッツは頷いた。

「我々が頼りになるのはいい事だが、この国の軍は貴族の影響力が高い。そのため、我々が活躍する度に
またぞろ訳の分からん事を言ったりするかもしれん。」
「つまり、嫉妬・・・・ですな?」

スプルーアンスの言葉に、ニミッツは大きく頷いた。

「そうだ、レイ。だが、嫉妬を抱くのは仕方なかろう。本来、主役であった彼らは、突然転移してきた我々に
活躍の場を奪われたのだ。嫉妬を抱く者が出てきても、仕方あるまい。話はずれたが、今後はバルランド側の
要請があった時に、どの任務部隊にどの艦を付けて送り出すか、それを今から話し合おう。」

ニミッツがそう言った直後、作戦室に通信将校が現れた。

「ニミッツ司令官。バルランド軍上層部から船団護衛を要請したいとの報告が入りました。」

通信将校が持っていた紙の内容を読み上げた後、ニミッツ中将はほら来たとばかりに苦笑した。

「早速、お呼びがかかったな。」

ニミッツ中将は、スプルーアンス参謀長に意味ありげな口調で言った。


翌日午後2時、ニミッツの姿は、再びヴィルフレイングにあった。

「諸君、バルランド側は我が太平洋艦隊に対して、船団の護衛を要請してきた。出発は2日後の早朝だ。」
「取り決めが早いですな。」

スプルーアンス少将は眉をひそめながら言う。

「つい2日前に、船団全滅の憂き目を見たというのに、それでもバルランド側は船団輸送を強行するのですか。」
「前線部隊の士気を下げぬ為には、物資補給は大事であると言われたよ。インゲルテント将軍は、なかなか強かな人だ。」

ため息混じりにニミッツはそう言った。

「決まったからには仕方ない。レイ、現在出港できる艦隊は?」
「キッド提督の第2任務部隊はすぐにでも出港できます。それから4日後には、第17、14任務部隊が整備と補給を
終えて西海岸に向かう予定です。」

ヴィルフレイングには、現在第2任務部隊と第14、17の任務部隊が待機している。
ハルゼーの率いる第16任務部隊は、東海岸沖を北上して敵の警戒に当たっている。
このうち、第2任務部隊は既に出撃準備を整えており、2日後の出港は可能である。

「第2任務部隊の編成はどうなっている?」
「第2任務部隊は、戦艦アリゾナ、ペンシルヴァニア、重巡ニューオーリンズとアストリア、駆逐艦16隻で編成されています。」
「巡洋艦が足らんな。他の戦隊から2隻、巡洋艦をTF2に回そう。」
「TF15のサラトガは今整備中で港内から動けません。ですので、TF15から巡洋艦を2隻ほど回してはどうでしょうか。」
「そうだな。では、それでいこう。TF2に回す巡洋艦は・・・・」

ニミッツは考えた。TF15に所属する巡洋艦は重巡洋艦のサンフランシスコと軽巡ボイス、ホノルル、アトランタである。
もし、敵が水上艦艇で押せば、手数の多いボイス、ホノルルが最も役に立つであろう。
しかし、万が一の事も考えて、アトランタ級も加えた方が良いか?
しばらく黙考したあと、ニミッツは決断した。

「ボイスとホノルルにしよう。それから、万が一の事も考えて、護衛空母のロング・アイランドと水上機母艦のラングレーを加えよう。
これなら、敵艦隊がどこにいようが、日中の間はラングレーの索敵機で常に、艦隊の周囲を警戒できる。」
「では、司令官。TF2司令部にはホノルルとボイス、ロング・アイランドとラングレーを加えると伝えます。」

スプルーアンスの言葉に、ニミッツは頷いた。

「TF14のレキシントンとTF17のヨークタウンの航空兵力は、今の所どうなっている?」

ニミッツ中将は航空参謀のエディ・ウィリス中佐に聞いた。

「両艦とも、戦闘機はこれまでの戦訓から、ほぼ半数近くか、半数以上を積んでおります。これにドーントレスやアベンジャーを
通常編成で乗り組ませてあります。両任務部隊の搭乗員の技量は相当向上しております。」
「ヨークタウンとレキシントンのパイロットは他艦と比べると新人の比率が多いからな。今は敵さんの竜母がエンデルドに
留まっているからいいが、対機動部隊戦闘になった場合は少し不安だな。」

2ヶ月前までは、ヨークタウンとレキシントンのパイロットはほぼベテランが占めていた。
しかし、本国での搭乗員大量養成がスタートすると、教官不足が生じてきた。
海軍上層部は実戦経験のある母艦航空隊から搭乗員を引き抜いて、教官配置に付かせたが、ヨークタウンとレキシントンでは、
引き抜かれた搭乗員が他艦より多かった。
今は配属されてきたばかりの新人が、その穴を埋めているが、実戦経験の無い搭乗員がどこまでやれるか。
ニミッツ中将はその事にやや不安に感じている。

「下手糞でない事は確かです。使えますよ。」

ウィリス中佐は自信ありげな口調でニミッツに語りかけた。

「そうだな。さて、まずは第2任務部隊を出港させて、グレンキアの近海でバルランド軍の輸送船団と合流させよう。」

ニミッツ中将はそう言って、艦隊の派遣を決定した。


その翌日、第2任務部隊は予定よりも早くヴィルフレイングを出港、一路西海岸へと向かった。
3日後にはTF14とTF17が後を追う予定である。
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