自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

057 第49話 リー戦隊奮戦

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第49話 リー戦隊奮戦

1482年 10月24日 午後10時 ノーベンエル岬北北西70マイル沖

アメリカ機動部隊から抽出され、輸送船団攻撃に向かっていた襲撃部隊は、潜水艦ナーワルの報告を元に
北東に向かっていた。

「参謀長、味方潜水艦が敵戦艦1隻に魚雷を命中させて、戦列から引き離したそうだが、1隻減った分、
私達も幾分楽になったな。」

襲撃部隊の指揮官に任じられた、第5戦艦戦隊司令官のウィリス・リー少将は、傍らに立って話を聞いている
参謀長のリューエンリ・アイツベルン大佐に言った。

「確かに。ですが、まだ油断できません。敵艦隊には依然として、4隻ないし5隻の戦艦があります。
戦艦はジュンレーザ級とオールクレイ級の2種類、砲の口径は33センチと、我々の戦艦より劣りはしますが、
あちらは5隻で、数の優位は敵にあります。」
「それに対し、こっちは3隻。ジュンレーザ級、オールクレイ級共に33センチ砲8門搭載で、合計で40門。
こっちは16インチ主砲9門搭載、合計で27門。数字の上ではシホールアンル側が有利だな。だが、そう悲観する事でもない。」

リー少将はそう言いながら、周りを見渡した。
リーとリューエンリがいる場所。そこは、戦艦ワシントンの艦内にあるCICである。
CICには各種レーダーの表示機が並べられ、その前には、操作する兵がPPIスコープを睨んでいる。

「こちらにはレーダーがある。SGレーダーなら、敵に見つかる前にこちらが相手を見つけることが出来、
正確な射撃が出来る。」
「しかし、敵にも探知魔法を使う魔法使いが乗っています。大西洋方面では、20マイル以上離れたマオンド艦隊が
TF26を捕捉し、砲戦を挑んでいます。」

「ふむ。魔法使いか・・・・・あいつは始末に悪い。」

リーが顔を眉をひそめながら唸った。

「だが、それは腕のいい魔法使いの話だろう。並みの魔法使いなら、SGレーダー並みの探知能力は持たぬと聞いている。
これはクレーゲル魔道士から聞いたことだが。」
「それでも、用心したほうがよろしいでしょう。」
「そうだな。まずは、敵艦隊を見つけることが先だな。」

リー少将とリューエンリはひとしきり会話を交わすと、再び黙って敵との対決を待った。
午後10時30分、ついにレーダーが反応を捉えた。

「レーダーに反応です!北東の方角、方位45度方向に反応。数は10隻。反応、増大中です。
速力は12ノット!」

レーダー員の言葉に、リューエンリはリー少将に顔を向けた。

「司令官、敵艦隊です!」
「うむ。ついに見つけたな。」

リー少将は表情を変える事無く返事した。
彼はマイクを取ると、直ちに全艦に向けて指示を伝えた。

「全艦に告ぐ。我が艦隊の方位45度方向、距離20マイルに敵艦隊を発見した。これより、我々は全艦を挙げて
敵に決戦を挑む。各艦の健闘を祈る!」

次いで、リー少将はワシントンの艦長を電話で呼び出す。

「艦長、速度を28ノットに上げよ。敵と一戦交えるぞ。」
「アイアイサー」

それから間もなく、ワシントンのスピードは24ノットから最高速度の28ノットに上がった。
距離は20マイルから19マイル。19マイルから18マイルと縮まっていく。

「敵艦隊の反応は今の所無いな。サマービル部隊はすぐに敵が向かって来たといっていたが、どうやら、
敵艦隊の魔法使いの腕は、飛び切り優秀ではなく、並みだな。」
「なるほど。今に敵が向かってくるのかと思っていましたが、このまま気付かれずに近寄って、
有利な位置から砲撃を加えた方がいいでしょう。」
「私もそう思っている。相手は強力な護衛を持っているからな。とりあえず、14マイルまで近付いてから砲撃に移ろう。
レーダー射撃でも、遠くからの及び腰では当たる物も当たらん。」

リーは襲撃部隊をもう少し、敵艦隊まで近づけることにした。
その間にも、敵艦隊との距離は縮まっていき、レーダーの反応は増えつつある。
16マイルまで接近した時、レーダーの光点の一部がやにわに動き出した。

「一部の敵艦、反転しつつあり。反転中の敵艦は単縦陣を形成しつつあり!」

その報告に、リー少将は舌打ちした。

「やはり思い通りに行くほど、甘くは無いな。レーダー員、敵の詳細知らせ。」
「敵艦隊は4つの単縦陣を形成しつつあります。そのうちの1つの単縦陣の反応が大。戦艦クラスかと思われます。」
「何隻だ?」
「5隻です。」

リーはしばしの間、考えた。

今、こちらの存在を察知した敵艦隊は反転し、こちらに近付きつつある。
敵艦の主力のうち、戦艦と思しき艦は5隻。
それに対してこちらは3隻だ。
16インチ砲搭載の新鋭戦艦とはいえ、幾分不利な戦いを強いられるのは目に見えている。

「・・・・・最初は仕方ないな。」

リーは頭の中で最初のやり方を決めると、再びレーダーを見続けた。
それからしばらくして、米艦隊に向かって来る単縦陣が4つ出来上がった。

「敵巡洋艦9!主力艦群の前方へ突出します!左舷前方から向かいつつあり!」
「キンケード少将に指令。敵巡洋艦群を撃滅せよ!」

リーはキンケード部隊の巡洋艦6隻に敵巡洋艦部隊の相手を任せた。
次に敵駆逐艦20隻が右舷から突っ込もうとするが、これも味方駆逐艦16隻引付けられて行き、残ったのは
5隻のシホールアンル戦艦と、3隻の米戦艦のみとなった。


「敵巡洋艦、面舵に転舵!」

巡洋艦部隊司令官であるトーマス・キンケード少将は、旗艦アストリアの艦橋から、暗闇の向こうの敵艦を見つめていた。

「敵艦隊、30ノットの速度で回頭中。距離は14000メートル!」
「ようし、敵さんも乗ってきたな。」

キンケード少将はまず、敵巡洋艦が戦艦群に向かうのを防ぐべく、敵艦の前方を塞ぐ形で取り舵に転舵した。

このままでは集中砲火を食らうと確信した敵艦隊の司令官は面舵に転舵した。
結果、互いに同航戦を挑む形で洋上を突っ走っていた。

「右砲戦!砲撃用意!」

キンケード少将は鋭い声音で、アストリア以下の巡洋艦に指示を伝えた。
前部の8インチ3連装砲2基が右舷に向けられ、暗闇の向こうのシホールアンル巡洋艦へと向けられる。
今頃、敵艦隊でもこちら側に砲身を向けているだろう。

「CICより報告。敵速30ノット。距離14000メートル。徐々に接近しつつあり。針路は変わらず。」
「ようし。艦長試合開始だ。撃ち方始め!」
「目標、敵1番艦。撃ち方始め!」

キンケード少将の指示の下、アストリアの8インチ砲が咆哮する。
レーダーから送られて来る情報を下に、推測した敵の位置に向けて、各砲塔の1番砲が放たれる。
順繰りに、後方の巡洋艦も射撃を開始する。
しばらくして、第1射が敵艦の左舷側海面に着弾した。

「第1射、敵艦の左舷側海域に着弾。」

続いて、2番砲が砲撃する。この時、敵艦隊の方から発砲炎が浮き上がった。
やがて、アストリアの上空に緑色の光が輝いた。照明弾である。
2番砲が砲撃して10秒後に3番砲が放たれる。第3射は敵艦を飛び越して右舷側に水柱を上げた。

「レーダー射撃といえど、すぐに命中弾を得る事は難しいな。」

キンケードは小さい声で呟く。敵1番艦から第1斉射が放たれる。

「やはり斉射で来たか。」

アストリア艦長は別段驚く事も無くそう言う。
敵が交互撃ち方をやらずに、すぐに斉射に入る事は既に予想済みである。
1番砲が再び発砲した直後、何かが空気を裂いて落下してくる音が聞こえた。

「敵の弾か。」

キンケードが呟いた瞬間、アストリアの左舷側海面に水柱が立ち上がる。
水柱の数は6本である。
(オーメイ級だな)
キンケードは水柱の数で、敵巡洋艦の艦型を見破った。
シホールアンル海軍が主に配備している巡洋艦は、オーメイ級とルオグレイ級である。
前者は7インチ口径の主砲を6門、後者は8門装備している。
アストリアが対決しているのは、オーメイ級巡洋艦と言う事になる。
敵艦が第2斉射を撃った。それと同時にアストリアも第7射を撃つ。

「ノーザンプトン、夾叉されました!」
「何ぃ?」

見張りの声に、キンケードは思わず耳を疑った。
ノーザンプトンは、今年の5月までは第5巡洋艦戦隊の旗艦であり、乗っている乗員の錬度も高い。
その証拠に、ガルクレルフ沖海戦ではシホールアンル巡洋艦を叩きのめしている。
キンケードとしては、ノーザンプトンが最初に有効弾を出すだろうと思っていた。
ところが、件のノーザンプトンが先に夾叉されている。

「敵にも腕のいい奴がいるのだな。」

キンケードはそう呟いた。その時、ノーザンプトンの右舷に6本の水柱が立ち上がる。
落下地点はアストリアより500メートル離れている。

「第7射、敵艦を夾叉しました!」

見張り員が弾んだ声で報告して来た。

「ようし。次か、その次あたりで命中が出るぞ。」

アストリアの艦長は笑みをこぼしながら、そう言う。
敵艦も第3斉射を放って来る。敵の斉射弾が殺到してくる前に、アストリアの2番砲から第8射が叩き出される。
そう間を置かずに、敵の斉射弾が落下して、アストリアの右舷に水柱が吹き上がる。
落下地点がこれまで以上に近距離であったのだろう、アストリアの艦体が僅かに揺れる。
水柱が崩れ落ちた時、敵1番艦の中央部付近に発砲とは異なる閃光が発せられた。

「敵1番艦に命中弾!」
「一斉撃ち方に移行する!」

すかさず、艦長は交互撃ち方から一斉撃ち方に切り替える。
弾道が良好であるなら、後は9門の8インチ砲で一気にカタをつけるのみだ。
敵1番艦が20秒ほどの間隔を置いて第4斉射を撃って来た。
砲弾の飛翔音が極限にまで大きくなった直後、アストリアの左舷側に水柱が吹き上がる。
6発の7.1ネルリ弾が左舷側70メートルの位置で着弾し、水中爆発の衝撃がアストリアを再び揺さぶる。
その直後、アストリアの9門の8インチ砲が一斉に火を噴いた。

艦橋の前面が一瞬真っ白に染まり、9発の8インチ砲弾が敵艦に向かっていく。
敵1番艦も負けじと、第5斉射を撃った時、周囲に水柱が吹き上がり、その中に2つの閃光が煌いた。

「2弾命中!」
「ようし。砲術科、いいぞ。その調子だぞ!」

艦長が満足気な表情を浮かべて、砲術科に褒めの言葉を送る。
その時、アストリアの周囲にも水柱が吹き上がる。水柱は左舷側に2本、右舷側に4本である。

「艦長、こっちも夾叉されたぞ。」

キンケード少将は戒めるように艦長に言う。額にじわりと汗が滲んだ。

「こうなったらどちらがノックアウトするか、殴り合うまでです!」

第1斉射から18秒後に第2斉射が放たれる。
第2斉射は3発が敵1番艦に命中、その直後、中央部から火災を発生させた。
すぐ後に敵1番艦も第6斉射を放った。
砲弾の飛翔音が、今まで以上に大きく聞こえた。
(こいつは来るな)
キンケード少将は内心そう思った時、艦の周囲に砲弾が落下した。
2度ほど艦が激しく揺れ、何かが壊れるようなけたたましい音が響いた。

「右舷中央部に敵弾命中!3番両用砲、28ミリ機銃座1基破損!」

被害報告を聞いた艦長は、一瞬安堵したような表情を浮かべる。


敵1番艦がまだ健在なうちに、主砲塔の1基でも使用不能になれば不利になる。
被弾と同時に艦長はそう危惧していたのだが、それが的中せずに済んだので、内心ホッとしたのだ。
お返しだとばかりにアストリアが第3斉射を発砲した。
火災を起こしている敵1番艦に、更に3発の砲弾が前部と中央部に命中した。
命中の瞬間、敵艦の前部側から火炎が吹き上がり、その中に棒状のような物が混じっていた。
これだけでは敵1番艦は参らない。敵艦も矢継ぎ早に第7斉射を放つ。
だが、敵1番艦からの発砲の閃光は先と比べて小さい。
先の命中弾は前部に集中している。その時の1弾が、敵の第1砲塔を叩き潰したのであろう。
敵艦の第7斉射が落下してきた。1発がアストリアの後部に命中し、2つあるカタパルトのうち、1本を真ん中から叩き折る。

「カタパルト損傷!火災発生!」

その報告に目を剥いた艦長が、すぐに消火せよと命じる。
夜戦では、火災を発生すれば、それが格好の目標となり、敵弾を次々と吸い寄せる副作用を生む。
そうなれば、最悪の場合、艦体中をあちこち打ち抜かれ、蜂の巣の如き様相を呈するであろう。

「主砲塔は1つ潰したんだ。こっちが有利なのは変わらないぞ。」

艦長が、自分に言い聞かせるかのようにそう呟いた時、アストリアが第4斉射を放つ。
今度は1発のみが中央部に命中する。
先と比べれば命中弾の数は少ないが、これは中央部の火災をより大きくする結果をもたらした。
だが、敵も強かであり、アストリアに向けて第8斉射を叩き込んで来る。
4発中、1発がアストリアの中央部に命中し、5インチ砲1基と20ミリ機銃2丁を叩き壊す。
アストリアが第5斉射を放ち、敵1番艦に殺到。4発が敵1番艦の中央部から後部に満遍なく命中する。
命中の閃光が上がる度に、敵艦の艦上で甲板の破片が飛び散り、火災がより拡大して行く。
都合13発もの8インチ弾を浴びた敵艦だが、それでも30ノット以上の速力を保ち続け、アストリアに
向けて健在な7.1ネルリ砲4門を撃ちまくる。

今度はアストリアが2発受けた。1発は第1煙突の横側の右舷甲板に着弾して、機銃と高角砲を吹き飛ばし、
2発目が左舷後部の、もう1つのカタパルトを直撃し、これも叩き折って火災を発生させた。
アストリアも第6斉射を放ち、新たに5発を叩きつける。
この被弾によって、前部甲板、中央甲板の火災がより一層酷くなるが、それでも4門の7.1ネルリ砲を撃つ。
唐突に艦橋の目の前がカッと白く光る。
その次の瞬間、金属的な叫喚が鳴り響き、艦橋のスリットガラスが音立てて砕け散った。

「くそ、今のは凄かったな。」

キンケード少将はよろめきながらも、敵1番艦を双眼鏡で見つめる。
お返しだ、とばかりにアストリアも第7斉射を放つが、キンケードはこの斉射が、先の斉射よりもどこか頼りなさげに思えた。
一瞬首を捻りかけたが、彼は艦長の言葉を聞いて、どうして頼りなさげに思えたのか理解できた。

「なにぃ・・・・第2砲塔損傷だと!?・・・・・そうか。砲塔の真正面から弾を食らったのか。」

艦長は電話の口の向こう側にそう言いながら、艦橋の目の前にある第2砲塔を見てみた。
先ほどまで、8インチ砲弾を放っていた第2砲塔が、3本の砲身のうち、2本が根元から大きくひび割れ、真っ黒に染まっている。
先の敵弾は、1発が砲塔の真正面に着弾した。爆発エネルギーは砲塔内に及ばなかったものの、飛び散った破片が
3本の砲身のうち真ん中と右側の2本を切り刻み、衝撃が砲塔内の装填機構に重大な損傷をもたらした。
幸い、火災は発生しなかったものの、第2砲塔は使用不能に陥ってしまった。
アストリアが放った斉射弾は敵1番艦の前部に2発が命中した。
その10秒後に敵1番艦も発砲するが、その時には後部砲塔のみが火を噴いていただけであった。
この斉射弾はアストリアの右舷側海面に空しく水柱を吹き上げたに留まり、その後の第8斉射で中央部と後部に命中弾を浴び、
内1発が艦深部の機関部を損傷させ、第9斉射が敵の後部砲塔を叩き潰したところで、敵艦は力尽きたように隊列から落伍していった。

「敵1番艦沈黙!」

艦長は敵1番艦の撃破を高々に宣言した後、目標を2番艦に変えようとした。
この時、見張りから悲痛な叫びが上がった。

「ノーザンプトン大火災!スピードを落としています!!」

アストリアは敵1番艦の強靭さに舌を巻きつつも、なんとか戦闘不能に陥らせたが、米巡洋艦群の全てが
アストリアと同じような戦いをしているわけではない。
2番艦ヴィンセンスは命中弾4発を受け、中央部の機銃、高角砲に損害は出ていたが、主砲塔や機関部は無事であった。
その代わり、ヴィンセンスも空振りを繰り返し、ようやく3発の砲弾を敵に叩きつけ、調子が出始めたところだ。
ペンサコラは敵3番艦相手にアストリア以上の激しい殴り合いを行っていた。
ペンサコラは敵3番艦(これもオーメイ級)の前部第2砲塔と、後部の第3砲塔を吹き飛ばし、中央部と後部から
大火災を起こさせていたが、ペンサコラもまた、後部の第3、第4砲塔を叩き潰され、後部艦橋が破壊されて
大破に等しい損害を負っている。
それでも、敵3番艦とペンサコラは飽く事無く、互いに砲弾を叩き込み続けている。
不運に見舞われたのはノーザンプトンであった。
ノーザンプトンは敵4番艦のオールクレイ級巡洋艦と撃ち合ったが、敵は第3斉射で夾叉を、
第4斉射でいきなり4発を命中させた。
この時、ノーザンプトンでは1発の敵弾が破片でSGレーダーを破壊してしまった。
ノーザンプトンは光学照準に切り替えてから砲撃を続行したが、6度ほど空振りを続けた。
ようやく、8インチ弾2弾を敵に叩きつけた時は、7.1ネルリ弾を16発受けており、第1、第2砲塔は破壊され、
艦橋にも命中弾を受けて艦橋要因のほぼ全員が戦死してしまった。
止む無く、生き残った副長の指揮の下、隊列から離脱しようとした時、敵弾が新たに4発命中した。
そのうちの1発は前部第2砲塔のすぐ横に命中した。
その命中箇所は、2度ほど7.1ネルリ弾が着弾しており、強度が弱くなっていた。

敵弾は強度の弱くなった装甲に穴を穿ち、弾薬庫に達してから炸裂した。
その刹那、ノーザンプトンの前部から火山噴火さながらの火炎が吹き上がった。
敵弾は弾薬庫に収められていた数百発の8インチ砲弾を一斉に誘爆させ、爆発エネルギーは上へ。
そして、横や下にも向かった。
艦体は爆風に食い破られ、ノーザンプトンは第2砲塔の部分から断ち割られた。
ノーザンプトンが沈没確実の被害を追った2分後、更なる悲劇が米巡洋艦列の最後尾で起こった。
アメリカ巡洋艦6隻のうち、最後尾の2隻はブルックリン級軽巡である。
5番艦ナッシュヴィル、6番艦サヴァンナは2隻で5隻の巡洋艦と渡り合っていた。
敵5、6番艦はナッシュヴィルを、7、8、9番艦はサヴァンナを相手取り、これらは相手がブルックリン級だと分かると、
死に物狂いで主砲を撃ちまくった。
この5隻の巡洋艦は第24竜母機動艦隊からの増援であり、うち6、7、8、9番艦はまだ新しいルオグレイ級である。
数からしてシホールアンル側が優勢だが、相手は2隻とは言え、15門の速射砲を備えた化け物である。
他の味方がブルックリン級と対戦して、幾度も苦い目に合っている事は、各艦の艦長たちは知っている。
そのため、シホールアンル巡洋艦は目の色を変えてこの2隻の制圧にかかった。
ナッシュヴィル、サヴァンナに多数の7.1ネルリ砲弾が降り注ぐ。
だが、砲弾はなかなか2隻の軽巡に命中しなかった。
この猛砲撃に対して、ナッシュヴィル、サヴァンナは定石どおり、交互撃ち方から入った。
ナッシュヴィルは第5射で、サヴァンナは第7射で夾叉を得ると、しばらく沈黙する。
10秒ほどの間に、ナッシュヴイル、サヴァンナが各1発ずつを初めて被弾する。
それに触発されたかのように、2隻のブルックリン級軽巡は本来の姿を現した。
47口径6インチ3連装砲15門の主砲が一斉に放たれ、15発の砲弾がショットガンの散弾のごとく、
敵艦の周囲に落下する。
その6秒後に第2斉射が、そのまた6秒後に第3斉射が、そしてまた6秒後に第4斉射と、多量の6インチ弾が
雨あられとシホールアンル艦に襲い掛かる。
シホールアンル艦の7.1ネルリ砲は21秒に1発の速さで砲弾を放てる。
だが、ブルックリン級はその間に3回砲弾を撃てた。

真っ先に狙われたシホールアンル巡洋艦5番艦、7番艦は1分間の間に2回か、3回の斉射を放ち、
それぞれが12発又は24発の砲弾をブルックリン級に放つ。
それに対して、ナッシュヴィル、サヴァンナは1分間の間に、砲1門につき10発。
艦全体で150発もの6インチ砲弾を放っていた。
この間に、5番艦は19発、7番艦が16発を被弾していた。
最初に狙われた5番艦、7番艦は悲惨さを極めた。
ブルックリン級の斉射弾が降って来るたびに艦体が激しく揺れ、破片が高々と飛び散る。
艦上に設置した魔道銃、高射砲が細切れにされて、しまいには小石ほどの大きさに分解されて海にばら撒かれる。
こちらがあと6秒ほどで撃ち返せると希望を持つと、ブルックリン級はその希望を刈り取るかのように
15門の6インチ砲を乱射して来る。
強固な装甲で覆われたはずの平な中央部甲板が、みるみるうちに醜いあばた状の凹凸に変えられる。
強度の弱くなった装甲部に3発から4発の6インチ砲弾が叩き付けられ、敵弾が艦内に踊り込んで炸裂する。
機関部にぶち込まれた6インチ砲弾が炸裂し、動力として機能していた魔法石が魔道士と共にひとしなみに粉砕され、
艦の動力が一斉に止まる。
ブルックリン級が斉射に移行してからわずか5分足らず。
その5分足らずの間に、5番艦は58発、7番艦は46発の6インチ砲弾を食らい、艦全体を蜂の巣状に打ち抜かれ、
火達磨になりながら速力を落としていく。
唐突に、7番艦が閃光を発し、大音響と共に真っ二つとなって轟沈した。
そのままの勢いで、ナッシュヴィル、サヴァンナは6番艦、8番艦に挑んだ。
確かに、ブルックリン級は強い。
5、7番艦に満足な反撃をさせぬままあっという間に撃沈破した事は、本級の優秀さを如実に現すものである。
だが、その強さも最初だけであった。
いかなブルックリン級といえど、数の優位には敵わなかった。
ナッシュヴィル、サヴァンナは5、7番艦を痛めつけている間、自艦もまた6番艦や8、9番艦に撃ちまくられていた。
砲を別の敵艦に向けた時、ナッシュヴィルは13発を、サヴァンナは17発の7.1ネルリ弾を受けていた。

特にサヴァンナの損害は酷く、8番艦に向けて発砲を開始した時は後部の第4、第5砲塔は破壊され、
中央部から後部にかけて大火災を起こしていた。
それでも機関部は無事であり、残り9門の6インチ砲を初っ端から斉射で砲撃した。
またもや始まった6インチ砲の高速射撃は、瞬く間に8番艦を捉え始める。
後にブルックリン・ジャブと呼ばれる矢継ぎ早の砲撃に、敵8番艦は一寸刻みに艦体を痛めつけられていく。
だが、同時に8番艦、9番艦からの砲撃も、容赦なくサヴァンナに放たれ、次々と命中していく。
1発の敵弾が、まだ健在であった2本の煙突のうち、第2煙突の根元に突き刺さって爆発する。
根元から叩き折られた煙突が、右舷側甲板に金属的な叫喚を上げながら、無傷の機銃座を押し潰しつつ、倒壊する。
別の1弾は、奇跡的に無傷であった水上機用の燃料タンクに命中し、禍々しい火炎がサヴァンナの後部一面に広がる。
まだ火炎は瞬く間に後部艦橋に広がり、生き残っていた後部艦橋の要員が、生きながらバーベキューにされていく。
別の7.1ネルリ弾がまとまって中央部に命中する。
炸裂が粗大ゴミに変換された機銃、高角砲の残骸を跳ね飛ばし、
他の火災が新たに起きた火災と合体してサヴァンナの艦体を炙っていく。
巨大な炎を中央部から後部にかけて身に纏いながらも、サヴァンナは前部3基の6インチ砲を6秒間隔で必死に撃ちまくる。
だが、シホールアンル艦の新たな斉射が、ちょうど破壊された5番砲塔に落下した時、砲弾が不運にも、
シホールアンル側にとっては運良く、弾薬庫の砲弾、装薬を誘爆させた。
誘爆は、第4砲塔弾薬庫の誘爆を招き、次の瞬間、サヴァンナの後部から真っ白な閃光が走った。
シホールアンル艦の乗組員達は、目の前のブルックリン級から発せられる閃光に目潰しを食わされ、呻き声をあげる。
次に目を開けた時、サヴァンナは中央部から後部にかけて真っ赤な火災炎を吹き上げながらも、
艦首を心持ち上げた状態で、海上に停止していた。
サヴァンナの散華を目にしたナッシュヴィルの乗員達は、戦意を衰えさせるどころか、より熱く滾らせた。
ナッシュヴィルの周囲に多量の7.1ネルリ弾が落下する中、ナッシュヴィルは修羅と化して
目前のシホールアンル艦に向けて、撃ち減らされた6インチ砲を撃ちまくった。

一方で駆逐艦部隊も、敵駆逐艦部隊と激しい乱戦を繰り広げていた。
駆逐艦部隊の方は、巡洋艦部隊よりはやや有利な形で戦闘を展開している。
しかし、敵シホールアンル艦もまたしたたかであり、米駆逐艦に魚雷を発射させまいと、頻繁に転舵を繰り返して、
米駆逐艦の艦長を悩ませていた。
双方はこのままでは埒が明かぬと見て、接近しながら主砲を乱射した。
互いの砲弾が上空で交錯し、彼我の艦艇の周囲に水柱が上がり始める。
被弾した艦はすぐさま炎上し、それが敵側の照準をやりやすくして、より多くの砲弾を受けた。

巡洋艦群、駆逐艦群がほぼ互角か、やや押され気味の戦いを繰り広げている中、戦艦同士の砲撃戦は、
反航戦の体制で始まろうとしていた。

「敵戦艦部隊。右舷前方13マイルに接近!時速25ノットで尚も接近中です!」

レーダー員が敵との距離を読み上げる。

「反航戦を挑んでくるか・・・・・このままだと、いつ始まってもおかしくないな。」
「てっきり、同航戦を挑んで来るかと思ったのですが。」

リー少将の言葉に、リューエンリは少し納得しがたいとばかりに眉をひそめる。

「我々は28ノット。敵は25ノットです。反航戦を挑んで、もし我々の戦艦を1隻でも打ち漏らせば、
敵には後がありません。あの戦艦部隊の背後には、輸送船団がいます。戦艦が1隻でも暴れ込めば、
もはや目も当てられぬ結果になるのは分かるはずなのですが。」
「参謀長。確かに君の言う通りだ。敵の司令官は・・・・もしかしたら迷っているのでは無いかな?
手っ取り早く終わらせる反航戦でやるか。時間はかかるが、堅実な同航戦でやるか・・・・・
君は、敵がどう出ると思う?」

リーの問いに、リューエンリは即答した。

「同航戦を仕掛けてくるでしょう。彼らの任務は、大事な輸送船団を守る事。我が方の戦艦を1隻でも
逃がさぬと考えるのならば、必ず頭を抑えに来るでしょう。いや、そうしなければ、我々は捕まえられません。」

その時、敵艦隊が回頭を始めた。

「敵艦隊、面舵に転舵!」

その言葉に、リーは頷いた。

「参謀長の言う通りだ。このまま進んでも、頭から敵の一斉射撃を受けてしまうな。戦隊進路変更!取り舵一杯!」

リーの命令が発せられてから40秒後、ワシントンの艦体が左に振られ始めた。

「敵艦隊と同航戦を行う。だが、発砲する前に、敵艦隊との距離を20000メートルまで広げろ。」

やがて、米戦艦3隻は、敵戦艦5隻と並び合う形になったが、シホールアンル側は発砲する事無く、
逆に開いた距離を縮めようと、徐々に近付いて来る。

「敵艦隊、徐々に近付きます。現在、距離18000!」
「参謀長、どうやら敵さん、夜間は20000メートル以内の距離で砲撃するらしいな。」
「20000メートル以内ですか。今も距離を詰めつつあるとすれば、夜間の砲戦距離は16000から
5000と言うところでしょうか。」
「恐らくそうだろう。だが、敵さんが砲撃できる距離まで、近付くのを待つ義理は無い。」

そう言って、リーは決断した。

「砲戦用意!目標、左舷方向の敵戦艦!」


シホールアンル海軍は、夜戦を行う際には5.4(16200メートル)ゼルドまで近付いてから、
砲撃戦を行うのが決まりとなっている。
この時も、ジュンレーザ級戦艦ジェクラ艦上のウランク・バルグランス少将はその砲戦距離に達してから
砲門を開く予定であった。

「敵の生命反応が徐々に近付きつつあります。司令官、あと少しで砲戦開始であります。」

面長で、鼻の下に八の字髭を生やした中年の魔道参謀が、自信ありげな口調で報告して来た。

「距離はどれぐらいだね?」
「現在、5.7ゼルドを切りました。」
「うむ。」

バルグランス少将は鷹揚に頷いた。

「たった3隻で来るとは、舐めた真似をしてくれる。目に物を見せてやるぞ、アメリカ人共!」

彼は、唸るような口調で呟いた時、不意に左舷側の海面から発砲炎と思しき閃光が走った。

「!?」

一瞬、バルグランス少将は何が起きたのか理解できなかった。

次に聞こえてきたものは、待機を切り裂きながら落下して来る轟音であった。

「撃ってきたのか!まだ射程内とはいえ、5.6ゼルド以上もあるのだぞ!」

バルグランス少将は信じがたいと言わんばかりの表情で叫んだ。
その刹那、ジェクラの左舷側に3本の水柱が立ち上がった。
その大きさたるや、これまで見てきた水柱より高く、太かった。

「なっ、なんて大きさだ!」

初めて見る16インチ砲弾の着弾に、バルグランス少将は度肝を抜かれていた。
水柱が晴れない内に、敵戦艦はまたもや砲撃してきた。
そして、第2射の砲弾はジェクラの右舷側を飛び越した。
これで、水柱がジェクラより離れていれば、ただのメクラ撃ちとして笑えただろう。
だが、この水柱は、ジェクラより150メートルという僅かな距離で立ち上がっていた。

「馬鹿な!視界の悪い夜間、まだまだ遠距離といってもいい場所から、どうしてこんなに精度の良い射撃が!?」

彼が驚いている間にも、敵戦艦は第3射を放つ。この砲弾もまた左舷側のさほど離れていない海面に落下した。

「司令官、撃たせて下さい!」

唐突に、ジェクラの艦長がバルグランス少将に言って来た。
既に、砲身はアメリカ戦艦のいる方向に向けられており、いつでも砲撃は可能だ。

「このまま撃たれっ放しでは我慢なりません!射撃許可を!!」

バルグランス少将の決断は早かった。

「よし、砲撃を行う!敵1番艦にジェクラ、リングスツ。敵2番艦にロジンク、オールクレイ。
敵3番艦にクロレクを割り当てる。調子に乗るアメリカ人を叩き潰す!」

バルグランスの命令を受け取った各艦の艦長は、まずアメリカ戦艦の位置を確認するために照明弾を撃った。
舷側の高射砲から3発の照明弾が放たれ、しばらくして3つの光が、暗闇の向こうを明るくする。
照明弾の向こう側に、おぼろげながらも戦艦らしき姿が見える。
これまで、絵で見て来たメリーランド級やアリゾナ級等といった旧式戦艦ではない。
艦橋は、それまでのアメリカ戦艦の特徴であった、籠マストや三脚マストではなく、尖塔のようなすっきりとしたものだ。
思いのほか綺麗に纏まった艦上構造物の前、後部に砲塔と思しき物が3つある。

「対空火器、速力を向上させた噂の新鋭戦艦だな。」

バルグランス少将はすぐに分かった。この間のバゼット海海戦で初めて姿を現した、謎の新鋭艦である。
その性能は、3連装式の主砲を3基装備し、大きさはこれまでのアメリカ戦艦を凌ぐと思われている。

「オールクレイ級と同格の戦艦だな。ならば、貴様の首。不肖バルグランスが刈り取ってやろう。」

バルグランス少将は、不敵な笑みを浮かべながら、砲撃を続けるアメリカ戦艦を睨み付けた。
敵戦艦の第4射がジェクラの左舷側に着弾して、これまた物凄い水柱を吹き上げる。
(まさか、敵は対空火器、速力のみならず、砲力も強化させたか?)
バルグランスは何気なくそう思ったが、その次の瞬間、彼は背筋が冷たくなった。

「司令官、発砲準備完了です!・・・・・・司令官?」

我を取り戻したバルグランスは、ジェクラ艦長に向き直った。

「あ?おお、すまんな。全艦、撃ち方始め!」

45口径7.1ネルリ砲8門が轟然と咆哮した。
やがて、おぼろげな姿の敵戦艦に13ネルリ砲弾が降り注いだ。
敵戦艦の前面に8本の水柱が立ち上がる。その1秒後に新たな水柱が上がった。
2番艦のリングスツも、目標は敵1番艦である。
2艦合計16門の砲が、敵戦艦1隻に対して注がれているのだ。
(これなら、いくら新鋭艦とはいえ・・・・こっちより上の砲力を持つ艦とはいえ長くは耐えられまい)
バルグランス少将は余裕の笑みを漏らしたつもりだが、傍から見ると、笑みはどこか控え目に感じる。
その水柱の合間から、閃光が煌いた。敵戦艦が主砲を放ったのだ。
そして、敵弾はジェクラの左右に落下した。左舷に1本、右舷に2本。

「きょ、夾叉されました!」
「魔道参謀!距離は!?」

バルグランスは、叫ぶような口調で魔道参謀に言った。

「距離は・・・・・5.5ゼルドです。」
「・・・・たった5回の砲撃でか!?」

バルグランスは驚愕した。
夜間の砲戦で、斉射を10回ほど繰り返しても、目標を夾叉出来ぬ事は頻繁にある。
ジェクラの砲術科は、ベテランばかりが揃っているが、その彼らとて、目標を夾叉したのは最短で7射だ。
それなのに、アメリカ戦艦は第5射で、こちらを正確に捉えている!

「一体、敵戦艦の砲員は、どのぐらい腕利きが乗っているのだ?」

バルグランスは搾り出すような口調でそう言った時、ジェクラの8門の主砲が火を噴く。

それと同時に、アメリカ戦艦も第6射を放った。
やや間を置いて、不意に上空から空気を切り裂く音が聞こえ始める。
威力の大きい攻勢魔法が、頭上を通過するような音だ。その音は、すぐに大きくなった。

「これは」

当たる。ジェクラ艦長はそう言おうとしたが、言えなかった。
突然、大地震のような衝撃がジェクラを大きく揺さぶった。

「うおっ!?」

今まで経験した事の無い衝撃に、バルグランス少将は床に転倒してしまった。
揺れが収まると、すぐに主任参謀が起こしてくれた。

「司令官!お怪我は!?」
「あ・・・・ああ。大丈夫だ。何ともない。」

バルグランス少将はしきりに頭を頷かせる。

「被害報告!敵弾、左舷中央部に命中!第3甲板兵員室で炸裂、火災発生!」
「応急修理班、被害箇所に急げ!早く火を消せ!」

艦長がすかさず、指示を飛ばす。
その一方で、バルグランス少将は今受けた衝撃が忘れられなかった。

「今の衝撃・・・・・・もしかして、敵の主砲は15ネルリ相当の主砲なのか・・・・?」

彼は、対峙するアメリカ戦艦に向けて問いかける。
そのアメリカ戦艦からは、何の反応も無い。
代わりに、ジェクラ、リングスツが発砲し、その砲弾がアメリカ戦艦の前方に着弾する。
(一体・・・・・貴様の持つ主砲は・・・・どれぐらいの大きさなのだ?)
バルグランス少将の問いは、アメリカ戦艦の斉射で返された。
まるで、身を持って知れと言わんばかりに。


戦艦ワシントンは、第6射で命中弾を出した後、一斉撃ち方に移行した。
その間、敵の第2斉射弾がワシントンの右舷600メートルの海域に落下し、10本以上の水柱吹き上げさせる。

「敵1番艦と2番艦がこのワシントンを集中攻撃しています。精度はさほど悪くありませんな。」

ワシントンのCICで、戦況を見守っているリューエンリは、リー少将に向けて怜悧な口調で言う。

「確かにな。あちらさんも主力戦艦だ。大事な戦艦に下手糞を乗せるほど馬鹿ではあるまい。
確かにこっちは斉射に移行したが、戦況は良いとは言えん。勝負はここからだぞ。」

リー少将は真剣な表情で、そう断言した。
ドドォーン!という強烈な轟音と衝撃がCICにも伝わって来た。

「うぉ・・・・流石は16インチ砲9門の斉射。艦内にあるCICにもしっかり伝わりますな。」

リューエンリは半ば驚いたような口調で言った。

「君は巡洋艦乗りだから、戦艦の斉射を体験するのは初めてだったな。まあ、最初は少々きついが、
慣れたら頼もしく感じるぞ。」

リー少将が微笑みながら、自慢するように言ってくる。

「最初の斉射弾で何発命中するか。できれば、この斉射弾で敵の重要な部位を傷付けて貰いたいものだ。」

その頃、艦橋上では、ワシントン艦長のハワード・ベンソン大佐が、敵艦を双眼鏡で眺めながら艦の指揮を取っていた。
第1斉射を放った20秒後、敵1番艦の周囲に幾本もの大水柱が吹き上がり、敵艦からも発砲炎とは異なる閃光が光った。

「敵1番艦に2弾命中!」

第1斉射から30秒後に第2斉射が放たれる。ドドォーン!という雷鳴のような砲声が、闇夜に響き渡る。
敵1番艦も撃ち返して来る。
先の命中弾の影響であろう、敵1番艦は中央部と後部から火災を発生させている。
だが、その発砲炎は先のものと変わらない。
第2斉射弾が敵1番艦の周囲に落下して水柱を吹き上げ、束の間敵1番艦を覆い隠す。
その時、敵艦の斉射弾も落下してきた。
10本以上の水柱がワシントンの周囲に吹き上がる。
いきなりガガァン!という何かに叩かれる様な衝撃がワシントンを震わせた。

「敵弾、右舷中央部及び第3砲塔に命中!右舷第2両用砲損傷!」

その言葉を聞いたベンソン大佐は思わず舌打ちした。

「2発か。恐らく、今の射弾は敵2番艦の物だな。」

ワシントンに命中した2発の13ネルリ弾のうち、1発は右舷第2両用砲に直撃し、木っ端微塵に吹き飛ばしたが、
装甲を貫く事は出来なかった。
2発目は第3砲塔の天蓋に命中して炸裂したが、これも砲塔にかすり傷を負わせただけであった。
第3斉射が敵1番艦に向けて放たれる。この斉射弾は、敵1番艦の艦体に2発命中した。
第2斉射弾は1発が中央部に命中していたが、これは不発弾であり、敵艦に突き刺さっただけに終わったが、
次の2発は通常通り、信管を作動させた。
双眼鏡の向こうの敵1番艦から2度閃光が煌いた。
1つは前部甲板、もう1つは中央部分であり、前部甲板からは火炎と共に破片のような物も吹き上げられた。
だが、敵1番艦は相変わらず8門の13ネルリ弾をワシントンに向けて放って来た。
この時の斉射弾は、ワシントンに3発の命中弾を与えていた。
2発は右舷中央部に命中したものの、分厚い装甲の前に弾き返された。
残る1発は後部甲板に命中し、2本あったカタパルトと、28ミリ4連装機銃2基を根こそぎ粉砕し、火災を発生させた。

「後部甲板より火災発生!」
「ダメージコントロール!後部の命中箇所の火を消せ!」

艦長は素早く、ダメコン班に指示を下した。火災を起こせば、敵の砲撃はより一層正確になって来る。
ワシントンは、これまでの戦艦より高速かつ、頑丈ではあるが、戦艦の主砲弾を繰り返し受けてしまえばそれ相応の被害を受ける。

「敵にダメージは与えているが、ここで敵の主砲塔なり、艦橋なりに16インチ砲弾をぶち込まんと、後がやばいかも知れん。」

ベンソン大佐は額の汗を拭いながら、ぼそりと呟く。
第4斉射が放たれ、砲弾が敵1番艦めがけて殺到していく。敵艦も、ワシントンの発砲と同時に、斉射弾を放つ。
互いの砲弾が上空ですれ違い、そのまま目標に落下していく。
敵1番艦の周囲に水柱が上がった直後、ワシントンの周囲にもドカドカと砲弾が落下し、35000トンの艦体が揺さぶられる。
衝撃が4度、ワシントンを襲った。

3度目の衝撃は特に強く、ベンソン大佐は危うく床に転倒しかけたほどだ。
10秒ほどの間を置いて、被害報告が届けられた。

「第2砲塔に敵弾命中せるも、砲員は全員無事。以降の操作に支障なし!」
「右舷甲板に2弾命中!右舷第1両用砲全壊!火災発生!」
「左舷後部に命中弾!火災発生!」

ベンソン大佐は思ったより酷くやられたなと思いつつも、それらの報告に対して、1つ1つ適切な指示を下していく。
(敵1番艦はどうなっている?)
彼は内心で呟きながら、双眼鏡で敵1番艦を見てみた。
敵1番艦は、後部の火災が先程より酷くなっている。
(あの火勢の大きさだと、敵艦の後部砲塔の1基ぐらいは潰したかな?)
ベンソン大佐はそう思ったが、その時、敵1番艦が発砲してきた。
発砲炎は前部と後部に見えた。が、後部の発砲炎は先程よりも、明らかに小さかった。
(よし!敵の砲塔を1基潰したぞ!)
彼は、敵の主砲塔を1基潰した事でワシントンが有利に立つだろうと思った。
ワシントンも第5斉射を放った。
敵艦の斉射弾が着弾する前に、中央部付近と後部付近に3つの閃光が光った。
その直後、艦の前面に水柱が吹き上がった。
ワシントンにも5発の敵弾が命中する。
3発は装甲板に弾かれたが、1発は前部甲板の非装甲部に命中し、夥しい破片が主砲塔や甲板上に撒き散らされる。
5発目は右舷中央部の第3両用砲と第2両用砲の間に命中し、第3両用砲は破壊され、残骸と化していた第2両用砲座から
折れた砲身や、破片が海上にばら撒かれる。

「ワシントンに対して、敵さんは2隻で挑んでいるからな。命中弾も多くなる。」

ベンソン大佐が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた時、ワシントンも第6斉射を発砲する。
この斉射弾は、敵1番艦の前部と中央部、後部部分を満遍なく叩いた。
前部に命中した砲弾は、第1砲塔の天蓋を突き破って内部で炸裂し、爆発によって2本の砲身は吹き飛び、
砲塔自体も原型を留めぬまでに破壊された。
中央部に命中した砲弾は装甲を突き破って第3甲板の兵員室で炸裂し、多数の寝具や私物が粉砕され、
僅かなチリのみが残される。
後部を叩いた砲弾は後部甲板に命中し、第4甲板にまで到達して炸裂した。
重傷を負った1番艦だが、それでも艦橋や残りの主砲、機関部といった重要部はまだ無事であり、新たな斉射弾を
ワシントンに向けてたたき出した。
今度はワシントンが砲弾をぶち込まれた。
4発の砲弾は中央部と後部に叩き付けられた。
中央部に命中した砲弾のうち、1発がワシントンの装甲に弾き飛ばされるが、2発目が破壊された第3両用砲と
射撃用レーダーの間に命中。
この爆発で根元を叩き折られたMk5レーダーは甲板に倒壊し、先端のレーダー部分は折れて、海中に叩きつけられた。
後部甲板の2発はいずれも装甲を貫けず、その場で炸裂したが、その命中箇所からも小火災が発生した。
舐めるなとばかりにワシントンが第7斉射を撃つ。
この時、後方からオレンジ色の光がぱあっと煌き、すぐに消えた。

「ノースカロライナ大火災!損害大の模様!」
「何だって!?」

いきなりの凶報に、ベンソン大佐は後ろを振り向いた。ワシントンの姉であるノースカロライナは、艦橋からでは死角になって見えない。
この時、ノースカロライナは敵3、4番艦と撃ち合っていた。
リー少将はワシントンに敵1、2番艦、ノースカロライナに3、4番艦、サウスダコタに5番艦を割り当てた。
ノースカロライナは敵3番艦を砲撃し、既に敵艦の主砲2基を使用不能にし、更なる斉射弾を浴びせようとしていた。

だが、ノースカロライナ自身も14発の敵弾を受けており、前、後部の非装甲部や中央部から火災を起こしていた。
そして、敵の新たな斉射弾がノースカロライナに命中した時、それは起こった。
新たに被弾した弾は4発。そのうちの2発が中央部の右舷第5両用砲にほぼ同じ場所に命中した。
戦場というものは、時として残酷な一面をもたらす。
先の1発が命中した時、台座の装甲は辛うじて耐えた。
だが、連続してやって来た敵弾には耐え切れなかった。
2発目の爆発はそう後部を叩き割り、エネルギーの過半を両用砲弾庫にまで及ばせた。
そして、200発分の5インチ砲弾が一斉に誘爆したのである。
ノースカロライナは火炎を吹き上げ、爆発エネルギーは後部艦橋を一部焼き、第2煙突を焦げた炭のごとく、
真っ黒に染め上げた。
その瞬間、シホールアンル艦隊では一気に歓声が上がった。
今まで何発のもの砲弾を浴びても、平然としていたアメリカ戦艦が、火炎を吹き上げて苦しんでいるのだ。
萎えかけていた士気は一気に向上し、ここぞとばかりにノースカロライナを滅多打ちにする。

「ノースカロライナに更に命中弾!ノースカロライナ、主砲沈黙したままです!」

その報告を聞いたリー少将は、初めて焦りの表情を見せた。

「司令官。敵1番艦を戦闘不能に陥れた後は、本艦とノースカロライナ、サウスダコタで敵1艦に砲撃を集中し、
1隻ずつ討ち取ったほうがいいかもしれません。敵は5隻。こちらは3隻です。」

リューエンリはリーにそう進言した。

「このままでは、ノースカロライナは袋叩きです。」
「・・・・そうだろうな。だが、今の所は大丈夫だ、参謀長。」

リー少将は、どこか自信ありげな口調でリューエンリに言った。

「大丈夫・・・・ですか?」
「そうだ。ノースカロライナは、確かに砲は沈黙しているが、ノースカロライナからは主砲が使用不能になった、
という報告は届けられていない。この場合は通信設備が損傷して報告出来なくなったという事も考えられるが、
その時は発光信号で状況を伝えてくる。それが無いのならば、最悪の事態に陥ったか、
あるいは単にレーダーがやられただけか。」

その時、ノースカロライナから通信が入った。

「ノースカロライナより報告!我、レーダー使用不能、これより光学照準に切り替えて砲撃を行う。」

続けて、サウスダコタからも報告が入った。

「サウスダコタより報告!我、敵5番艦を撃破せり、敵5番艦は沈没しつつあり、我が艦の損害、被弾9、
右舷側両用砲3基、機銃28丁破損、目標を敵4番艦に変更して砲撃を続行す。」

その報告に、リューエンリとリー少将は顔を見合わせた。

「サウスダコタかやりよったな。竣工から1年も経たない新米艦だが、乗員の腕は確良いな。」
「そのようですな。それよりも、ノースカロライナは健在です。サウスダコタが敵4番艦を砲撃すれば、
敵4番艦はサウスダコタを相手取らなければなりません。そうなれば、ノースカロライナもやりやすくなりますな。」

その刹那、グァガアン!というけたたましい轟音と、衝撃がワシントンを揺さぶった。

「今のは危なかったな。」

リーはため息をつきながらそう呟いたが、10秒後に行われた斉射で、彼は何かが欠けたなと思った。

この時、艦橋ではベンソン大佐が目眩を起こすような報告が届けられていた。

「第2砲塔基部に命中弾!第2砲塔旋回不能!」
「旋回不能だと?砲塔はどうなっとる!?」
「砲塔は無事ですが、被弾の影響で旋回盤が歪んだため、砲の旋回が不可能になりました。」
「砲の旋回が不能・・・・・なんてこった!」

ベンソン大佐は叫ぶように言うと、受話器を叩きつけるように置いた。
ワシントンの損害は無視できぬ物になっている。
前部甲板、後部甲板の消火は思うように進捗せず、中央部付近の火災は拡大の一途を辿っている。
主砲は立った今、第2砲塔が使い物にならなくなった。
ワシントンが第8斉射を撃つ。
6発中、1発が新たに敵艦の後部艦橋に命中した。
ベンソン艦長からは、背の低い後部艦橋の上部が、火炎を吹きながら打ち砕かれる様子が見て取れた。
既に、互いの距離は12000メートルまで接近しており、互いにノーガードの殴り合いと化している。
敵1番艦が前部砲塔を煌かせて、斉射弾を送り込んでくる。1番艦、2番艦合計12発の13ネルリ弾が、
ワシントンに降り注ぎ、新たに3発が有効弾となる。
ワシントンも撃ち返す。
第9斉射が1番艦に向けて弾き出され、やや間を置いて、敵1番艦の周囲を巨大な水柱が立ち上がる。
その中に2回の閃光が発せられる。
水柱が崩れ落ちた時、敵1番艦は艦首を沈み込ませていた。
命中した2発の16インチ砲弾のうち、1発が敵1番艦の艦首横に命中した。
炸裂した砲弾は敵1番艦の艦首をざっくりと引き裂き、その大穴から大量の海水が艦内に流れ込んできた。
あっという間に2000トン近い海水を飲み込んだ敵1番艦は艦首を沈み込ませ、速力を著しく低下させた。
それでも新たな斉射弾を送り込んできたが、砲弾はワシントンを大きく飛び越えていった。
敵1番艦に対して、ワシントンは第10斉射を放つ。

6発中、1発が前部第1、第2砲塔の真ん中で、1発が後部の艦尾部分に命中した。
爆炎が吹き上がり、敵1番艦は艦全体を黒煙に覆われながら、やがて海上に停止した。

「敵1番艦撃破!」

見張りから、敵1番艦撃破の報告が聞こえる。

「よし!目標を敵2番艦に変更!」

ベンソン艦長の指示の下、第1、第3砲塔が敵2番艦に向けられる。
その敵2番艦は、相変わらずワシントンに向けて斉射弾を放って来る。
残る残存戦艦は3隻。こちら側も3隻だが、ノースカロライナは先の集中射撃がたたって満身創痍だ。
苦しいのはシホールアンル側は、アメリカ側も同じである。
だが、事態は米側有利に進みつつあった。

「前方より未確認艦!高速接近!」

新たな報告に、ベンソン艦長は眉をひそめた。

「敵か?」
「おそらく、敵・・・・いや、敵ではありません!あれは味方です!」

見張り員が、強張らせた表情を次第に緩めていく。
前方に現れた未確認艦。それは、敵駆逐艦部隊を打ち破った味方駆逐艦部隊であった。

駆逐艦部隊は4個駆逐隊16隻で、敵駆逐艦20隻と渡り合った。
最初、駆逐艦部隊司令官である、エルハルト・ブライトン少将は魚雷攻撃で持って敵駆逐艦部隊を早めに片付けようと考えた。
だが、敵駆逐艦は回頭を繰り返して、アメリカ駆逐艦の魚雷攻撃を何度も断念させた。
最後には激しい撃ち合いとなった。
その結果、アメリカ側はデューイ、ブルー、マグフォードが撃沈され、フレッチャーとリバモアが大破したが、
敵駆逐艦8隻を撃沈、5隻を大破漂流させて残りを追い散らした。
駆逐艦オバノン艦上のブライトン少将は6隻を巡洋艦部隊援護に、オバノンを初めとする5隻を戦艦部隊の援護に回した。
2つに分かれた駆逐艦部隊のうち、最初に目標に辿り着いたのはブライトン自ら率いた部隊であった。

「おうおうおう、リー戦隊は派手にやってるな!」

駆逐艦オバノン艦上で、司令官であるエルハルト・ブラウトン少将は、互いに砲弾を叩き込み合っている戦艦部隊の
戦いぶりを見て、陽気な口調で叫んだ。

「ノースカロライナが酷くやられてますな。」

オバノン艦長は、ノースカロライナを指差しながら言う。
ノースカロライナは、右舷側から濛々たる黒煙を引きながら、16インチ砲弾を敵戦艦に向けて放っている。
重傷は負っているが、自慢の主砲はまだ健在のようだ。

「ようし!これより敵戦艦部隊を雷撃する!リー戦隊と敵戦艦部隊の間に入るぞ。雷撃距離は5000だ!」

ジャービス少将の号令の下、オバノン以下4隻は36ノットのスピードで突進し始めた。
味方戦艦群は3隻とも戦列に留まって砲撃しているが、いずれの艦も各所から火の手が上がっている。
一方で敵戦艦3隻の内、後方の2隻は盛大に黒煙を吹き上げているが、先頭の1隻は損傷が少ないようで、煙を引いていない。
その先頭艦の周囲に16インチ砲弾の着弾と思しき水柱が吹き上がる。

水柱は6本上がり、4本が左舷側、2本が右舷側で立ち上がっている。
ワシントンは夾叉を得たのだ。次か、その次辺りで命中弾が出るだろう。
オバノンを始め、ジャービス、デイビス、ニコラス、モンセンが、主砲弾が飛び交う海面に突っ込んでいく。
主砲の射程距離に達すると、5隻の駆逐艦は5インチ砲を発射した。
各艦5門、又は4門の5インチ砲が4秒おきに放たれ、曳光弾が敵戦艦に注ぎ込まれる。
そのうちの1発は、敵3番艦の艦橋に命中して、艦橋要因多数を死傷させた。
対して、敵戦艦からは副砲の反撃等は無い。
恐らく、相次ぐ被弾で大半が破壊されたのだろうとブライトン少将は確信した
やがて、5隻の駆逐艦は敵と反航する形で雷撃距離5000に到達した。

「5000です!」
「各艦、魚雷発射せよ!」

ブライトン少将が大音声で命じた。
オバノン、ニコラスから5本、ジャービスから4本、デイビス、モンセンから5本。
計24本の53センチ魚雷が3隻のシホールアンル戦艦に殺到した。
5隻の駆逐艦は、5インチ砲を乱射しながら、リー戦隊、敵戦艦部隊との間をすり抜けていった。
シホールアンル艦はアメリカ駆逐艦の雷撃に、慌てて回頭を命じたが、その時には、魚雷は舷側に迫っていた。
まず、先頭に立っていた2番艦が艦首に魚雷を食らい、次に中央部に被雷した。
次に3番艦が3本被雷し、その直後、後部部分から大爆発を起こして転覆した。
最後に4番艦が魚雷2本を被雷。
うち、中央部に命中した1本は不発であったが、艦尾に受けた魚雷はしっかり起爆し、推進器を破損した4番艦は
速力を急激に衰えさせた。
辛うじて拮抗していた砲撃戦は、ブライトン隊の乱入によって、一気にアメリカ側有利へと傾いて行った。

それから10分後。サウスダコタが敵4番艦を沈黙させた後、3隻の米戦艦に砲撃を行うシホールアンル艦はいなかった。
CICに詰めているリー少将とリューエンリは、砲戦が味方の勝利に終わった事で、やや安堵した表情を浮かべていた。

「敵戦艦3隻撃沈、2隻大破ですか。こちらはノースカロライナが主砲塔2つを使用不能、右舷中央部火災と艦首に
浸水して判定は大破。我が艦とサウスダコタが主砲塔1基を使用不能にされて共に中破。あれだけ激しい砲撃戦にも
かかわらず、1隻も沈まなかった事は幸いでしたな。」
「敵の主砲弾がわが戦艦の装甲を貫けなかった事と、味方駆逐艦が乱入してきた事が幸いしたな。問題は大破して、
速力が低下したノースカロライナをどうするかだな。それと、敵の輸送船団だ。」

その時、リューエンリの側に通信将校がやってきた。通信将校は彼に紙を渡してきた。
内容を一読すると、彼はリー少将に視線を向けた。

「司令官、キンケード部隊から報告です。我、味方駆逐艦と共に敵巡洋艦4隻撃沈、3隻を撃破せり。わが方の損害は
ノーザンプトン、サヴァンナ喪失、ペンサコラ、ナッシュヴィル大破、アストリア中破、ヴィンセンス小破。
これより貴隊と共に輸送船団撃滅に向かう。どうやら、巡洋艦部隊もなんとか敵に打ち勝ったようです。」

リューエンリの報告に、リー少将は深く頷いた。

「こっちもかなりやられたな。特にノーザンプトン、サヴァンナと、巡洋艦を相次いで2隻失ったのは痛いな。
だが、まだ仕事は残っている。この残された戦力で、敵船団に殴りこみをかける。」

リー少将は、意を決したような表情で言うと、無線機のマイクを握った。

「襲撃部隊の諸君!強力な敵護衛艦隊との戦い、誠にご苦労であった。我が部隊は、これより残存勢力を持って
敵輸送船団撃滅に向かう。最後の仕上げだ、抜かりの無いように任務に当たれ!私からは以上だ。」

リー少将は短い訓示を言い終えると、マイクを元に戻す。
この時、ワシントンのSGレーダーには、18マイル先の輸送船団が映っていた。
最初にレーダーで敵船団を捉えた時、その無数の光点は立派な隊列を組んで進んでいたが、今では、その隊列は半ば崩れていた。


173 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/06(金) 15:02:54 ID:4CUjn9IY0
ここで艦名表の一部を投下します。

エセックス級空母初期
CV-10エセックス
CV-11ボノム・リシャール
CV-12イントレピッド
CV-13フランクリン
CV-14タイコンデロガ
CV-15ランドルフ
CV-16ゲティスバーク
CV-17レンジャーⅡ
CV-18バンカーヒル
CV-19ハンコック
CV-20ベニントン
インディペンデンス級軽空母
CVL-21インディペンデンス
CVL-22プリンストン
CVL-23ラングレーⅡ
CVL-24タラハシー
CVL-25ベローウッド
CVL-26モントレイ
CVL-27フェイト
CVL-28カウペンス
CVL-29キャボット
CVL-30サンジャシント
CVL-31ノーフォーク
CVL-32ロング・アイランドⅡ
CVL-33シアトル
CVL-34ライト
エセックス級空母後期
CV-35ボクサー
CV-36シャングリラ
CV-37アンティータム
CV-38ヴァリーフォージ
CV-39オリスカニー
CV-40グラーズレット・シー
リプライザル級大型正規空母
CV-41リプライザル
CV-42キティホーク
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