自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

065 第56話 アボルヅランクィ収容所

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
第56話 アボルヅランクィ収容所

1483年(1943年)1月28日 午後7時 バルランド王国アボルヅランクィ

アボルヅランクィは、バルランド王国の東南部にある寒村である。
ここは首都から800キロ、ヴィルフレイングから30キロ離れた位置にあり、周囲には高い山が聳え立っている。
季節は冬であり、アボルヅランクィは一面雪景色に覆われていた。
その寂れた町に立てられた、異質な建造物の群れ。この建造物郡は、1年前まではどこにも存在しなかった。
だが、82年の2月から、このアボルヅランクィにやって来た異世界の同盟軍。
アメリカ軍の手によって、5ヶ月をかけてこの広大な建造物郡は出来上がった。
収容所は5万の捕虜が収容できるように設計されており、14人入りの小屋が多数造られ、その小屋の群れは大きく3つの区画に
分かれ、管理がしやすいように工夫が凝らされていた。

その日、エフォルト・ラランバグ軍曹は、自分のベッドで仰向けになりながら天井の電球をぼーっと見つめていた。
顔立ちは端整であるが、まだ少年といっていいような顔つきだ。体つきは華奢に見えるが、そこそこ鍛えられている。
紫色の髪は肩口まで伸ばされ、どこか気品を感じさせる。
見る人が見れば、エフォルトがどこかの貴族出身者と思うだろう。
実際、彼は中流貴族の出である。

「おい、エフォルト。上映会が始まるぜ。」

部屋の僚友が声をかけてきた。11月から一緒の部屋で過ごす事になった、彼と同じ捕虜だ。
エフォルトは眠そうな視線を僚友に向けた。

「ああ・・・・もうそんな時間か。悪りぃ、先に行っといて。」
「チッ、付き合い悪いな。じゃあ、先行っとくぜ。」

僚友は苦笑すると、そのまま部屋から出て行った。

「はぁ・・・・・どうして、俺はこんな所にいるんだろう。」

彼は、ここに収容されてから、数え切れないほど繰り返した言葉を呟いた。
脳裏に、今まで体験して来た収容所生活の出来事が浮かんできた。


運命の10月24日。彼の所属する魔法騎士師団は、突然のアメリカ艦隊の艦砲射撃を食らった。
エフォルトは第72魔法騎士師団第2歩兵連隊、第3大隊の第4中隊に属しており、中型輸送船には第3大隊の全ての部隊が乗っていた。
目標地点であるラランジルスまで、間も無くの地点にまで迫った時、アメリカ艦隊が襲撃し、思う存分暴れ回った。
アメリカ巡洋艦の集中射を食らった直後から、エフォルトの記憶は途切れており、気が付くと、負傷した戦友と共に板材に掴んで海上を漂流していた。
彼はその時、2つのショックを味わった。
1つは、自分も誇りに思っていた精鋭魔法騎士団が、一方的に叩き潰された事。
そして、もう1つは、今まで自分達の仲間を殺しまくっていたアメリカ軍艦艇が、掌を返したかのようにあちこちで救出活動を行っている事だった。

「何で助ける?俺達は負けたんだ・・・・・負けた敵は殺すのが当たり前だろう・・・・?」

その時、エフォルトはアメリカ人達が行う行動が理解し難かった。
頭が混乱している間にも、エフォルト達の近くに巡洋艦と思しき軍艦がやって来た。
その傷ついた軍艦は、エフォルト達を光源魔法らしきもので見つけるや、短艇を下ろして強引に引き上げた。
彼は、探偵が来た時には、アメリカ兵の何人かを道連れにしてやろうと思った。
だが、思いのほか疲労困憊した体は、彼の思いとは裏腹に、自然と救助を求めた。
彼は、クリーブランドという名前の巡洋艦に引き上げられた後、安心したためか、急に気を失った。
それから3日間、彼は昏睡状態に陥り、次に目を覚ました時は、アメリカ軍の輸送船によって、後方に送られている時であった。
11月3日に、彼らはヴィルフレイングに到着し、そこからトラックという不思議な乗り物に乗せられて、どこかに運び込まれた。
そして、着いた場所がこのアボルヅランクィである。
収容所には、驚く事にびっしりと居住施設があった。
エフォルトは、収容所といっても小さなテントが支給されて、そこで生活するのだろうと思っていた。
実際、シホールアンルではそのように行っている。

最も、敵に厳しい帝国軍はあまり捕虜を持ち帰らないが・・・・・・
収容所の外周には、金属製の縄や網が張られており、所々に監視塔が設置され、機銃らしきものが収容所内に向けられていた。
収容所は東側の区画をA区画、北側の区画をB区、西側の区画をC区画と呼ばれている。
エフォルトは、西側にあるC区画と呼ばれる収容施設郡の中に住む事になった。
時に11月5日。彼の驚きの生活はここに始まった。
収容される建物は、木造一階建ての小屋だが、充分な広さがあり、寝室には狭いながらも、14人分のベッドがあった。
部屋の少し開けた場所には、簡易ながらも大きな丸いテーブルや椅子があり、そこで談話する事も出来た。
不自由しないでもないが、必要最低限なものは揃っていた。
アメリカ側から見れば、本当に必要最低限な物しか置いていない小屋だったが、シホールアンルの捕虜達は、まるでどこぞの宿泊施設みたいだと思った。
中には、

「俺の実家より豪華だぜ!」

と言う農民出の兵もいるほど、捕虜達は驚いていた。
驚きはこれだけではなかった。
なんと、食事もきっちり付いていたのだ。
それも朝、昼、有の三食である。そして、量も少なくなかった。
シホールアンルの捕虜収容所では、大抵が1食のみ、たまに2食であり、栄養失調で死ぬ捕虜は多い。
それに出される料理の味も不味いため、捕虜達からはかなり不評だった。
だが、彼らに出される料理は、意外なほど美味であり、特にスパムやコーンビーフという物を使った料理はなかなかの味であった。
収容所に連れて来られて3日が経った、11月9日。
エフォルトのいる収容施設の捕虜14名は、取調べのために収容所の中心部にある石(コンクリート製)で作られた建物に連れて行かれた。
彼を含む14名の捕虜のうち、半分の7名がそれぞれ個室に入れられた。
30分経つと、先に入った者達と入れ替わりにエフォルトらが個室の中に入った。
部屋の中には、机が2つ、向かい合う形で置かれており、その1つにはアメリカ軍人が座っていた。
部屋の隅には、腕章を付けたアメリカ兵が立っている。

「やあ。まずはそこに座ってくれ。」

面長で、黒髪のアメリカ軍人はぶっきらぼうな口調でエフォルトに座るように進める。
エフォルトはアメリカ人の指示に従って、椅子に腰を下ろした。

「まずは自己紹介と行こうか。私はロバート・マシュー。階級は曹長だ。君の取調べを担当する事になった。よろしく頼むよ。」

彼はそう言うと、右手をエフォルトに差し出した。

「君の名前は?」
「・・・・・・・・エフォルト。エフォルト・ラランバク軍曹だ。」

エフォルトは、やや小さい声音で自らの名前を言った。

「小さい声だな。もうちょっと張りのありそうな感じかなと思ったんだが、まあいい。」

マシュー曹長はそう言いながら、筆箱から鉛筆を取り出した。

「さて、話をしようか。まずは君が所属していた部隊を教えて欲しい。」
「・・・・・・・・」
エフォルトはしばらく黙った。

「どうした、少年?若いくせに元気ねえぞ?」
「元気を無くした原因を作ったのは、あんたらだろ?アメリカ人。」

マシュー曹長の能天気な口調に、エフォルトは彼を睨み付けた。

「まあまあ、落ち着け。俺が今聞きたいのは君の所属していた部隊だ。」

「・・・・シホールアンル帝国陸軍、第72魔法騎士師団だ。俺はその部隊に所属していた。俺の師団は、他の部隊と共に
ラランジルスに侵攻する予定だった。不幸にも、あんたらの軍艦のせいでこんな場所にまで来ちまったけどな。」
「ふむ。」

マシュー曹長は頷きながら、何かをノートにメモしていく。エフォルトはその字を見ようとするが、字は全く読めない。

「魔法騎士団か・・・・・・君の所属しているその魔法騎士師団とやらは、噂ではかなりの精鋭部隊だそうだな。」
「ああ、そうさ。個人技能では格下共には全く引けを取らない。俺の師団は、3年前には敵の1個軍4万を、奇襲で壊滅させた事もある。
お前達アメリカ軍にだって充分戦えるぜ!」

エフォルトは、明らかに見下したような目付きでマシュー曹長を見つめた。
彼は、アメリカ軍が圧倒的に強いと、前々から聞かされていたが、

『その強さは重火器ばかりに頼っての事。俺達が至近距離に迫って猛攻を加えりゃ、銃しか使えねえアメリカ人共は皆殺しさ!』

と言ってアメリカ軍を恐れていなかった。

「なるほど、そいつはおっかない物だ。まあ、そんな魔法騎士団でも、海の上では射的の的に過ぎんがね。」
「貴様・・・・・・!」
「文句でも何でもない。俺は事実を言っているだけだが?」

エフォルトは顔を真っ赤に染めた。だが、マシュー曹長の言葉は続く。

「君はこう思っているだろう。抵抗も出来ない輸送船を軍艦で一方的に撃ちまくるのは卑怯だと。確かに、傍目から見れば
そうなるだろうな。だがな、あれは立派な戦術なんだよ。」
「な・・・・なんだ・・・と?」

エフォルトは困惑した表情を浮かべる。

「頭に血が上りすぎて分からんだろうが、厳密に言えば、君らの国も似たような事はやってる。北大陸戦線では戦術の一貫として、
市街に立て篭もる敵部隊を、シホールアンル軍は町もろともワイバーンで焼き、大砲で打ち砕いた。結果、多数の軍人のみならず、
市民までもが犠牲になった。これも一見容赦の無い行動だが、結果としてその国は戦意を失い、以降の戦いをやりやすくした。」

マシュー曹長はずいと、やや前のめりになる。

「弱い部分を徹底して叩く。そして、相手に心理的ダメージを与える。それが戦いと言う物だよ。分かるだろ?」
「・・・・・・・・・・」
「君は魔法騎士団にいた時期がまだ短かったかもしれんが、それが戦いだ。どこの国でも、似たような事はやるんだ。
戦争をしとるのだからな。戦争を。」

マシュー曹長はそう言い放った。
エフォルトは貴族出身の軍人ではあるが、魔法騎士団は決して、権力の力で入れる部隊ではない。
魔法技術はともかく、一般兵以上に体力がなければ、入ったとしても過酷な訓練に耐えられずに脱落するか、運が悪ければ死ぬ。
彼は地道ながらも、着実に力をつけてきたため、魔法騎士団に入隊できた。
入ってから既に2年半が経過していたが、エフォルトの部隊は、この南大陸戦には1度も参加していなかった。
そのため、実戦を経験していないエフォルトは、先輩達の体験談でしか戦場と言う物を知らなかった。
先輩達の体験談には、マシュー曹長の言ったような、住民を無為に犠牲したという言葉は出て来なかった。
それでも、経験者の言葉として素直に受け止めていた。その彼にとって、マシュー曹長の言葉は衝撃的であった。

「要するに、何でもありって事か。」
「そうなるね。」
「・・・・・・なあ曹長。俺は前々から疑問に思っていた事があったんだ。」
「疑問?それは何かな?」

マシュー曹長は首をかしげた。

「なんで、俺達を助けたんだ?捕虜を取れば、後々面倒な事になるだろう。まさか、敵を殺しても、恩賞とかが無いのか?」

「恩賞ねえ・・・・・給料ならあるな。月に1度貰える金だ。あと、戦功を挙げた奴には勲章がもらえるよ。」
「そうじゃない。よくあるだろう。敵兵1人に付き金貨何枚とか。」
「・・・それか。お生憎様、俺達はそんな物は無いんだ。」
「けっ、恩賞なしとは、貧乏な国だな。」
「貧乏ねえ・・・・・俺としては、敵を皆殺しにて大金稼ぎなんて野蛮な事しないでも、月に1度貰える給料プラス、各種手当てで充分だがね。」
「なんだ。だからあんたらは、こんな大量に捕虜を取るのか。哀れだねぇ。」

エフォルトはフンと鼻で笑ったが、

「無闇やたらに殺しまくる馬鹿共よりはましさ。」

マシュー曹長はしたり顔で言葉を返した。

「敵は殺すもんだろう。」
「そう。敵は殺すもんだ。」
「ならば、敵が投降しようが、後腐れ無くす為に一気に殺っちまうのが早いだろう。俺が言いたいのはな。アメリカはなんで、
俺達を捕虜に取ると言う“めんどくさい”方法を取るのか、っていう事だよ!」

エフォルトが腹立たしげに叫んだ。
捕虜になって以来、彼は一向に止めを刺さぬアメリカ人達が理解できなかった。
古来からの戦争では、相手を捕虜にするという行為は流行らなかった。
捕虜にしても、後は奴隷として手懐けるか、どこぞの寒村に押し込むかといった、生きてもろくな事をさせなかった。
だが、アメリカは彼らに対し、ちゃんとした食事を与え、戦争が終わるまで立派な(アメリカ側からしたら最低に近い)住居を与えた。
それに、仕事といっても適当な道具を作ったりする程度だ。
外周を完全武装のアメリカ兵に見張られていることを除けば、これはかなり楽な生活である。

「それは、逆じゃないのかな?」

マシュー曹長は、どこか哀れみを含んだ口調で言った。

「逆・・・・・だと?」
「そうだ。君は敵はすべて殺せと言っている。確かに後腐れ無くするにはそれが手っ取り早いだろう。戦場では、常に勝者が正義だからな。だがな。」

彼は、今まで緩んでいた表情を引き締め、真剣な表情でエフォルトを睨み付けた。

「殺すばかりが能ではない。殺して、後は何が残る?何も残らないだろう。そんな野蛮なやり方はな、俺達にとって、全て過去の遺物なのさ。
俺達の戦争のやり方はな、抵抗を続ける敵には武力を持って滅ぼし、戦意を失った物にはあえて手は出さない方法でやっている。一昔前までは、
俺達の祖先も君達と似たような事をやった。今のアメリカはそうやって出来たんだ。」
「ハッ、似たような事をやったって?あんたらも同じじゃないか。」
エフォルトが嘲笑を浮かべた。
「そう、同じだな。だが、後に残ったのは深い後悔と、埋めようも無い溝だ。それが分かって初めて、俺達の祖先は馬鹿な事をした。
失敗したと学んだんだ。その失敗を踏まえた上で、俺達は別の方法で、後腐れ無く事を収めようと考えた。だから、俺達は不用意に
捕虜を殺したりしない。やれば昔の馬鹿な先祖達と一緒だからね。」

マシュー曹長は、そう言ってからニヤリと笑った。

「要するに、やりすぎたら、別の意味でめんどくさい事になる。他の国から「アメリカはシホールアンルと一緒」、という文句が出そう
だからな。それを言わせないために、君達はこうして、ここに集められているんだ。」

その不思議な曹長と交わした会話時間は30分程度だった。
彼と話したためか、エフォルトの疑問は解消されていた。なぜ、アメリカ人達は捕虜を殺そうとしないのか。
彼は言った。

「悪者はいくら時代が流れようと、悪者にされてしまうからな。そうならないために、俺達は捕虜を得るのさ。
これも、後の戦争をやりやすくするためさ。」

アメリカ人達の思考は、甘すぎるのか、それとも先を読んでの物なのか、しばらくは分からなかった。

12月には入るまでは、単調な収容所生活が続いた。
エフォルトは12月2日に、新たな物を見、そして驚かされた。
その日、収容所内にある大きな木造の建物に200人ほどが集められた。中には、正面に白い幕が垂れて、その前方に椅子が並べられていた。
部屋の奥には、2つの円盤らしき物が付けられた、不思議な物体が置かれていた。
200人ほどの捕虜が、渋々と言った表情で続々と中に入り、思い思いに椅子に腰を下ろした。
全員が座ると同時に、1人のアメリカ人将校が、満面の笑みを浮かべながら白い幕と、捕虜達の間に立った。
「ようこそシホールアンルの少年、少女達よ!本日はアボルグランツィ映画館に起こしいただきありがとうございます。
長い収容所生活で君達は暇を持て余しているでしょう。そんな君達に、我々からいい物をプレゼントしましょう!」

眼鏡の将校はそういい終えると、パチンと親指を鳴らして、他の衛兵が部屋の明かりを消した。
それと同時に、白い幕に何かが写った。

「?」

最初、エフォルトは何が起こったのか分からなかった。咄嗟に後ろを振り向いた。
そこには、先ほど見かけた不思議な物体が、黒い口から光源魔法と似たような物を吐き出していた。
物体からは音が鳴っている。
やがて、白い幕に不思議な光景が写った。なんと、見た事もない絵が勝手に動き回っている。
それも、恐ろしく滑らかだ。

「こ・・・・・これは・・・・・!」

誰もが初めて目にする動きまくる絵、映画というものに口をあんぐりと開けていた。
彼らが唖然とする間にも、映画は進んでいく。

幕に写っている黒く、丸い耳を持つ不思議な生き物、よく見るとネズミに似た主人公が、人間のように大笑いする。
かと見るや、その生き物が驚いて飛び上がり、真っ先に逃げ出していく。
しかし、逃げ出す事もかなわずに、突如ハイスピードで流れてきた大岩に潰され、次の瞬間には体が平面状となって、目だけを瞬きさせる。
唐突に、何人かが吹き出した。その何人かのうち、1人はエフォルトであった。
物語が進んでいくうちに、200人のシホールアンル人は映画に引き込まれていった。
気が付けば、映画は終わっており、誰もが満足したような表情でエンドロールを見つめていた。

「よし、映画はこれまで。どうでしたかな?皆さん楽しめたようですが。」

部屋が明るくなり、出てきた先ほどの将校が、明るい表情でそう言った。
彼の言葉に、シホールアンル捕虜達は表に出さなかったものの、内心では面白いと思っていた。
「今皆さんに見てもらったのは、ディズニー映画という物です。ディズニー映画は、今日見てもらった物の他にも、色々あります。
今日はこれだけですが、次回は別の映画を見てもらいます。これからは、月に2度、映画鑑賞を行いますので、楽しみにしておいて下さい。
それでは!」

と、最後まで勢いの良い将校は、彼らの前から立ち去った。
その後、彼らは映画の余韻を残したまま、各々の収容施設に戻って行った。
エフォルトは、正直にあのディズニー映画という物を楽しめていたが、終わった後には言いようの無い敗北感に満ちていた。
彼は知ってしまったのだ。
アメリカは膨大な兵力を保有しながら、その片手では、あのような完成度の高い映画を作る事が出来る。
それも、映画という物を知らなかったエフォルト達を、一目で釘付けにするほどの作品を。
その後に、知り合いとなったマシュー曹長に聞くと、他にもいい映画はあると言っていた。
つまり、アメリカは軍事のみならず、大衆を楽しませる事にも心を砕いているのだ。
シホールアンルでも、文化芸能は盛んであり、首都では劇団の公演が月に1度の割合で行われている。
だが、アメリカはシホールアンルのそれすらも上回っている。
映画1本で、エフォルトはアメリカと、シホールアンルの国力の差を垣間見たように思えた。

あれから1ヶ月以上が経った。
雪が降りしきる中、収容施設の内部は少し寒い。だが、凍死するほどではない。

「さてと、映画でも見に行くかな。」

エフォルトはぶっきらぼうな口調で言いながら、ベッドから立ち上がった。
今日は、先週とは違ってディズニーではなく、実写というものを使った映画を上映するそうだ。
名前はモダンタイムズというものだが、内容は見てからのお楽しみだ。
収容所生活に慣れた今では、アメリカ人達の流す映画が楽しみになってきている。
あの日以来、エフォルトはアメリカの国力と言う物を知った。
いや、知らされたと言ったほうが正しい。
数万人分の食料や必要物資を、惜し気もなく投入し、それを満足にこの収容所に運び込む輸送能力。
毎度驚かせる、映画という物の新たな神秘。
日々見せる、アメリカの真の力に、シホールアンルの捕虜達は本国が勝てない事を嫌が応にも知らされた。
シホールアンルの上回る国力を持つアメリカが、時間は掛かれども、本国を揉み潰す事は時間の問題であると誰もが確信していた。

「俺の戦争は、あの地獄の海を見た時からもう終わっちまったんだ。本国の連中も、ヴィルフレイングから運ばれて来る膨大な物資を
直接見たら、少なくとも今の考え方を変えるだろう。ああ、魔法さえ使えれば、スパイよりも細い情報を遅れるのに。」
彼は、自らの魔法が使えぬ事を、この日ほど残念に思った事はなかった。
アメリカ軍は、魔法使いの捕虜に対しては、能力を抑える薬を気づかぬうちに飲ませているために、
魔道士達は全く魔法が使えなくなっている。
薬は、バルランドでも腕の良い魔道士(名前は分からないが女らしい)が作った者で、薬1回で最低でも3ヶ月は魔法が使えないようだ。
その薬さえなければ、彼はマシュー曹長がうっかり漏らした言葉を、事細かに伝えられるのだが・・・・・

『兄が海軍にいるんだが、83年にはエセックス級という新型の空母が10隻程度、前線に配備されるらしい。
少し小型の空母は83年中に2、30隻が前線に出るようだ。』

彼がうっかり漏らした情報はこれだけ。たったこれだけだ。
だが、エフォルトにとっては衝撃的だった。
彼は陸軍軍人だが、ミスリアル侵攻前に海軍の事は多少勉強していた。
竜母は建造が2、3年、小型の物でも1年ほどかかるそうだ。とても10隻単位の数は一時に揃えられないだろう。
それでも、大量の竜母揃えるシホールアンルの工業力は世界一だと思っていた。
だが、アメリカのそれは異常すぎた。話半分としても総計で20隻以上の空母が、まさにうじゃうじゃと出てくるのだ。
これを聞いたエフォルトは、3日間ほど、アメリカの物量に叩きのめされ、崩壊していく本国の夢を見てしまった。
それが影響してか、彼はここに収容された時よりも体重が落ちてしまった。
だが、今や何も出来ぬ存在となったエフォルトは、ただ待つしかなかった。

「俺達は・・・・・・とんでもない奴らと戦ってたのか。」

エフォルトは陰鬱そうな表情になりながらも、気を取り直して外に出て行った。
外は、相変わらず雪が降っており、空模様はどこか暗かった。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 星がはためく時
  • アメリカ軍
  • アメリカ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー