自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

067 第58話 作戦会議

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第58話 作戦会議

1483年(1943年)2月3日 バルランド王国首都オールレイング 午前9時

その日、南西太平洋軍司令官であるドワイト・アイゼンハワー大将は、海軍のキング、キンメル両提督と共に、オールレイングの
バルランド軍総司令部に設けられた会議室に座っていた。
会議室には長方形のテーブルが置かれており、3人は入り口の向かい側の、真ん中辺りの席に座らされた。
3人がこの会議室にやって来たのは9時5分前であり、その時にはバルランド側の代表が席についていた。
バルランド側は国防軍総司令官のファリンベ元帥に、対シホールアンル討伐軍司令官のインゲルテント大将、それに海軍総司令官の
ウルング・ヴィルバ大将がテーブルの右端に座っていた。
それから9時までの間に、ミスリアル、カレアント、グレンキア、レースベルン公国の将軍や提督達が会議室に集まった。
全員が集まった事を確認したファリンベ元帥は、椅子から立ち上がり、まずは挨拶をした。

「皆さん、ご多忙の折、このオールレイングにまでお越しいただきありがとうございます。」

ファリンベ元帥は謙った口調でそう言った後、早速本題に入った。

「さて、皆様方に集まってもらったのは他でもありません。今、南大陸に居座り続けるシホールアンル軍にいつ攻撃を仕掛け、
どのように追い出すか。今日は来るべき反攻作戦について協議を行いたいと思います。」

そう言うなり、ファリンベは一礼する。会議の参加者達も、それぞれが頭を垂れた。

「まず、反攻作戦の開始時期について協議を行います。」

アイゼンハワーは、ファリンベ元帥の言葉を聞くなり、早速来たなと思った。

「反攻作戦の開始時期は、各国の軍指導部より様々な意見が出ていますが、今の所、作戦の開始時期は2つにまとまっています。
1つは、今から1ヵ月後を目標にして準備を行うか。あるいは9月に反攻作戦を開始するか、この2つです。」

ファリンベ元帥の言葉が終わるや、インゲルテンド大将がゆっくりと、だがすかさず立ち上がった。

「現在、カレアント公国中部のループレングには総計で70万。他の戦線では合計で30万の敵部隊が配備されています。
その中で重要な役割を果たしているのは、やはりループレングに張り付いているこの70万の軍です。しかし、シホールアンル側の
南大陸侵攻軍は、同盟国アメリカの艦隊が補給妨害作戦を行ったため、物資の補給量が落ち込みつつあります。それに加えて、敵の
前線や後方には、これもアメリカ軍の航空部隊が猛攻を加えております。今、ループレングの敵軍は、昨年と比べて確実に弱体化
しているはずです。この機会を逃さずに、我が連合軍は一気呵成に反抗を開始するべきです!」

インゲルテント大将は、やや熱に浮かされたような口調でそう言い放った。
彼の言葉に同調したのか、カレアント軍とグレンキア軍の将軍がうんうんと頷く。

「我々には、アメリカという頼れる味方が付いています。去年の4月に起きたループレングの一大決戦では、アメリカ軍は
圧倒的な火力でシホールアンル軍を退けました。アイゼンハワー将軍。兵力も格段に増強された今なら、シホールアンル軍ごとき、
物の数ではありますまい?」

インゲルテントは自信に満ちた表情でアイゼンハワーに視線を移した。
アイゼンハワー大将は軽く一礼してから、口を開いた。

「勿体無きお言葉感謝いたします。確かに、我が軍の戦力は、去年よりも倍以上に膨れ上がっています。去年4月に行われた
地上戦では、確かに我が軍は圧勝しました。現状のままで構成を開始しても、敵を押し上げる事は出来るでしょう。」

アイゼンハワーは穏やかな表情で、しかし、眼つきはやや鋭くしてからインゲルテントを見据える。

「ですが、“一応、押し上げるだけ”です。」
「何ぃ?」

アイゼンハワーの言葉を口にしたインゲルテントが、僅かながらも顔を歪めた。

「ループレングに布陣する我々の軍勢はシホールアンル軍70万に対し、およそ70万近くと、ほぼ互角です。これなら、
やり方さえ間違えなければループレングからシホールアンル軍を叩き出せます。しかし、敵をカレアントから叩き出せるか?
と言われれば、難しい話です。」

「ですがアイゼンハワー閣下。あなた方の陸軍は素晴らしい兵器を擁しております。特に戦車という物は強力ではありませんか。
それに、あなた方の軍には強力な航空部隊も付いておる。これなら、あなた方からしてみれば劣っている武器しか持たぬシホール
アンル軍なぞ、鎧袖一触ではないですか。」
「インゲルテント閣下のおっしゃる通りです。確かに我が軍は強力です。しかし、鎧袖一触と言う訳には行きません。」
「何を言われるのですか。あなた方は今まで連戦連勝で勝ち続けたではありませんか。それとも、味方の兵を死なす事が恐ろしいのですか?」

インゲルテントは容赦の無い口調でアイゼンハワーに言った。誰もがそれは言い過ぎと思った。
キンメルの隣に座っていたミスリアル軍の代表であるマルスキ・ラルブレイト中将が不快そうな口調で言ってきた。
「インゲルト閣下。それはいささか、無礼ではありませんか?確かにあなたの気持ちは分かりますが、戦争とは相手がある事です。
戦地で散っていく味方兵を少しでも少なくするのはどこの国も同じですぞ。」
「なるほど。しかし、考えすぎて時期を逃すのは、戦術として下の下であると、私は思います。それよりも、私はアイゼンハワー閣下
と話しているのです。ラルブレイト閣下とはお話していません。」
「・・・・・・!」

一瞬、そのエルフは不快な表情を浮かべたが、すぐに何も無かったかのように元の無表情に戻った。

「インゲルテント。口が過ぎるぞ。」
「しかし総司令官閣下。攻勢の時期は今です。弱体化しているシホールアンル軍など、アメリカ軍も加えた我々なら、
8月までには南大陸から叩き出しています。この時に、各国の足並みが揃わねば、機会を永遠に失いますぞ!」

会議室は、インゲルテントのお陰ですっかり気まずい空気になってしまった。
キンメルは、インゲルテントを見て内心辟易していた。
(なるほど、これが“悪い貴族軍人”という奴か。このような輩がバルランドには多いと聞いているから、ヴォイゼ国王陛下は
大変だろうなぁ。こんなんでよく南大陸の中心国家になったものだ)
彼がそう思った時、アイゼンハワーがようやく口を開いた。
「まあまあ、ここはひとまず落ち着いてお話をしましょう。我々が集まったのは、シホールアンル軍に対しての反攻をいつ、
どのようにしてやるか。その事を決めるために集まったのでしょう?ならば、その話を続けようではありませんか。」

アイゼンハワーは、軍人らしからぬ温和な表情で皆に、特にインゲルテントに対して言い放つと、彼は改めて、インゲルテントと顔を合わせた。

「インゲルテント閣下。貴官の気持ちはよく分かります。しかしながら、貴官は間違ったことを言っておられる。」

会議室にいた将軍達の視線が、アイゼンハワーに集中された。

「まず1つめに、貴官はシホールアンル軍が弱体化していると言われました。ならば、なぜ我が陸軍航空隊は、弱体化している
筈のシホールアンル軍に対して300機以上の航空機を失ったのですか?」
「そ・・・・それは・・・・・・」

インゲルテントは思わず口ごもった。
アメリカ軍機が何機も撃墜されているとは知らされていたが、実を言うと、彼は正確な数字を知らなかった。
せいぜい100機程度は犠牲になっているだろうとしか思っていなかったのだ。

「はっきりと言います。シホールアンル軍は、全く弱体化していません。我々行ったのは敵を足止めしただけであり、実質的には
敵はまだまだ健在です。それに、敵軍には見慣れぬ新型兵器が続々と前線、あるいは後方の物資集積所に配備されつつあり、
敵は質の面で昨年よりも強化されています。」
「ですが、アメリカ軍は依然としてワイバーン圧倒できていますぞ。」
「できていません。」

アイゼンハワーはきっぱりと言い放った。
「圧倒できているのなら、とっくにカレアント上空からワイバーンはいなくなっています。しかし、敵のワイバーンは、一時は
減っても、またどこからか新手の部隊。それも腕の立つ部隊を送り込んできています。送られて来る敵ワイバーン部隊には、
勿論新兵も多く含まれているでしょう。ですが、今や敵ワイバーン部隊は我が戦闘機隊、爆撃隊の対抗策を確立しております。
このため、ここ3ヶ月間は敵ワイバーンの撃墜率は下がり続け、逆に我が航空部隊の被害は上がり続けています。
昨日のカレアント北部の空襲でも、我々は敵の後方支援施設を破壊し、ワイバーン14機を撃墜しましたが、我が方も対空砲火と
ワイバーンの襲撃で爆撃機4機、戦闘機5機を失っています。」

アイゼンハワーは一旦言葉を切る。大きなため息を吐いてから、次の言葉を口にした。

「もはや、現在の戦力では昔のような、連日圧勝という事は不可能になっているのです。それにもう1つ。明らかに強化されて
いるシホールアンル軍を8月までには南大陸から追い出せる、と言われましたが。この戦力のままなら、8月どころか、
10月になってもカレアントの北部で戦っているでしょう。インゲルテント閣下のみならず、皆様もなぜであるか?
と思われるでしょう。答えは明白です。我々アメリカ軍が圧勝しても、あなた方の軍も勝ってもらわねば、進撃は進まぬからです。」
「貴官は我らの軍が足手まといと言われますか!?」

インゲルテントが顔を真っ赤にして怒鳴った。彼のみならず、カレアントやグレンキアの将軍、提督たちもそうだそうだと言う。
ファリンベやミスリアル、レースベルンの将軍はずっと押し黙っていた。

「あなた方の軍に、我々が持つ戦車や装甲車はありますか?銃や長射程の武器はありますか?」

アイゼンハワーの穏やかながらも、棘のある言葉に、誰もが言葉を失った。

「シホールアンル軍には戦車はありません。装甲車もありません。しかし、長射程の砲、それに、獰猛なワイバーンがおります。
我々は無論、あなた方の軍も支援しますが、それとて限界はあります。例え、全軍が勝ち続けても、侵攻速度は遅くなり、
やはりシホールアンル軍の南大陸からの駆逐は遠い先の話になります。」

アイゼンハワーの言葉通りであった。同じ世界の国同士であるシホールアンルや南大陸ですら、装備の優劣に差が出ている。
劣悪な装備しか持たぬ軍が、すんなりとシホールアンル軍を叩きだせる筈が無かった。

「ならば、敵の補給線に対する締め付けを強化すればよろしいでしょう。」

インゲルテントの左隣に座っていたバルランド海軍総司令官である、ツォルヅ・ファグ大将が言って来た。

「我々海軍には、まだまだ優秀な艦艇が残っています。これに、アメリカ海軍の全力を投入して、南大陸のみならず、
北大陸の南部沿岸に空襲や砲撃を仕掛ければ、補給を経たれた南大陸のシホールアンル軍は早々と干上がります。」
「不可能です。」

唐突に、無遠慮な口調が会議室に響いた。
その声は、それまでじっと黙っていたアーネスト・キング作戦部長のものであった。

「太平洋艦隊の戦力は充分とは言えません。それに、我々が行っている空母部隊の機動作戦や、潜水艦部隊の敵航路襲撃は、
確かに補給線を脅かす目的で行っていますが、これはいわば、嫌がらせのような物であり、敵の心理的な効果を与える事が目的でもあります。」
「ならば、わが海軍も加わり、これを一層本格的にすればいいでしょう。」
「現状では無理です。それ以前に、バルランド海軍も参加すると言われるが、満足な対空火器を所有せぬのに如何にして行動できますか?
はっきり申し上げまして、バルランド海軍は今はまだ使えません。」
「キング提督!それは我が海軍に対する」
「侮辱でも何でもありません。私はただ、本当の事を申し上げている事。それに、先ほど我が軍は連戦連勝と言われましたが、
陸軍は確かにそうです。だが、海軍は昨年8月のジェリンファ沖海戦では敗北し、そのすぐ後に行われた第1次バゼット半島沖海戦でも、
運が悪ければ正規空母2隻喪失という事態も起こり得ました。幸いにも、敵が反転したお陰で勝ちを拾いましたが、それが無ければ
明らかに負けです。他の勝利を得ている海戦でも、我が軍は犠牲が絶えず、去年の10月にいたっては、海戦の規模がより大規模なために
初の正規空母喪失を経験し、少なくない航空機と艦船を失いました。あなた方が無敵と言った海軍でさえ、このような被害を受けるのです。
そこにバルランド海軍が加われば被害が拡大するのは火を見るより明らか。昨年8月16日のあの事件がそれです。」

キングの言葉に、海軍総司令官は顔を真っ青に染めた。

「鎧袖一触、ですか・・・・そうなれば心も晴れるのですがね。」

キングは皮肉気にそう言うと、口を閉じた。

「しかし、貴国はレーフェイル方面にも侵攻軍を派遣しようとしています。ですが、レーフェイルにいるマオンド軍はシホールアンルより
脅威にならず、貴国の本土にはマオンドは手も足も出せません。そのレーフェイルに侵攻する軍を、こちらにまわせば、1ヶ月後は
無理としても、2ヵ月後には戦力も揃うでしょう?」

インゲルテントは尚もアイゼンハワーに噛み付いた。

「確かにその手があります。ですが、合衆国はこの南大陸戦線と同時に、レーフェイル侵攻も重要な課題として位置付けています。
圧制に苦しんでいるのは、この南北大陸のみならず、レーフェイル大陸も同様なのです。いや、むしろきついのはレーフェイルの
被占領国でしょう。何しろ、マオンドの占領政策はシホールアンルと違ってかなりまずいようですからな。」

「ならば、アメリカ側としては、どうすれば、この南大陸で行われる反攻作戦は順調に推移されると思われます?忌憚の無い意見をお聞かせ願いたい。」

ファリンベ元帥が真剣な表情で言って来た。
アイゼンハワー大将は頷いてから返事した。

「まず、作戦の開始時期を9月にする事です。9月になれば、我が南西太平洋軍は戦力が揃い切ります。
又、この時期には現存の戦闘機を凌駕する、新鋭戦闘機や、新型の爆撃機が続々と配備されますので、これによってほぼ全戦線の支援が
可能になり、予定では9月開始から、その3ヵ月後の12月あたりまでには、敵シホールアンル軍を南大陸の入り口までに追い詰めることが出来ます。」
「海軍も同意見です。」

キングがアイゼンハワーの後に続く。

「9月までには、太平洋艦隊には空母や戦艦の他に、各種補助艦艇や後方支援部隊を送り込む事が出来ます。新造艦艇の配備は
大西洋方面の分もあるので、一気にとは行きませんが、それでも大西洋方面よりは多く回される予定です。」

キングが隣のキンメルに目配せをし、キンメルが頷いた。

「現在、太平洋艦隊には新鋭正規空母のエセックス級を中心に、4月から新造艦が配備されます。予定では、9月までには
エセックス級正規空母5隻に4隻のインディペンデンス級という軽空母が艦隊に配備されます。もっと視野を広げますと、
今年中には正規空母は7隻、本国の造艦状況によっては10隻の配備も可能であり、現在建造中の巡洋戦艦は6月に竣工し、
10月には実戦配備され、新鋭戦艦もほぼ同時期に配備の予定です。先の話で、今しか攻勢の時期は無いとおっしゃられていましたが、
我が合衆国では、戦力の拡充する本年度中盤からは侵攻のチャンスはより大きく、そして確実に目標を達成できると見込んでいます。」

キンメルが言い終わった後、会議室はしばらく静まり返っていた。


会議はその後、2時間に亘って続けられた。
最初こそ、険悪な雰囲気が流れたが、アメリカ側代表の意見が言い終わった後はとんとん拍子に話は進み、最後は反攻作戦の開始時期は
9月にするという事で会議は終了した。

2月4日 午後7時 バルランド王国首都オールレイング

オールレイングの北側にある一軒のきらびやかな建物の中に、ウォージ・インゲルテント大将はやや不服そうな顔を浮かべてワインを飲んでいた。
いつもの軍服は着ておらず、彼は黒い私服をつけていた。ここは、首都の郊外にある彼の自宅である。

「とにかく、反攻作戦の時期は一通り決まったそうだね、将軍。」

ソファーに座る白髪の、やや小太りな中年男性が彼に言って来た。その男は、バルランド王国の財務大臣である、ミルセ・ギゴルトである。

「一応決まりましたぞ、財務大臣閣下。しかし、敵も戦力を強化しているのなら、尚の事、反攻作戦をやらなければなりませんのに・・・・・
アメリカという国は少々贅沢に慣れ過ぎていますな。」

インゲルテントは、日々南大陸に尽くしているアメリカをそう切り捨てた。

「数を揃えば容易に攻略できる、か。その数が揃うまでの時間はどうなるのだ?シホールアンルの怖い所は、戦力が強化し始めたら、
早い時間で対抗国の装備を上回ってしまうところだ。アメリカはそれを知っているのかね?」

ギゴルトの隣に座っていた痩身の中年男、ガヘル・プラルザー内務大臣が危惧するような口調で言った。
それに、インゲルテントは首を振った。

「知らんでしょうな。それ以前に、彼らは異世界から来た“新人”です。まだまだ知らない事も多いでしょう。」
「相手を知らん事では、我々も同じでしょう?」

今度は先の2人とはやや若い声が聞こえた。インゲルテントは30代後半と思しき男性、労働商業副大臣のハバル・スカンヅラに顔を向けた。
「確かに。」
「特に信じがたいのはあの国の国力だ。彼らは召喚されて以来、常に先頭に立って戦っている。召喚されて1年以上になるが、少なくない
戦力を失ったはずだ。なのに、かの国の本土からは膨大な物資が、延々と送り届けられてくる。戦力に関してもそうだ。
ヨークタウン級、レキシントン級を上回る新鋭空母が1年で最低7隻も配備されるとは、はっきり言って信じ難い。もしかしたら、
アメリカはこの世界の魔法技術を、遥かに凌駕する魔法技術を持ち、あの物資は魔法の壷でも使って出しているのではないですか?」

「それは流石に分かりかねますな。」

インゲルテントは大げさに肩をすくめた。

「しかし、今月の中旬から、我が国や、各国から選ばれた留学生、もしくは北大陸の志願兵、総計2000人がアメリカに派遣されます。
彼らの報告を見れば、すぐに分かるでしょう。」
「来月に反抗を開始できんのは、不満だが仕方あるまい。アメリカは大事な同盟国だ。ここで機嫌を損ねては後が厄介だ。」

ギゴルトがぶっきらぼうな口調で言う。

「それはともかく、遅くなったとはいえ、反攻作戦の開始時期が決まった事は大きな一歩でしょう。それだけは喜ばしいことです。」

インゲルテントは薄い笑みを浮かべながら、3人の高官にそう言った。

「同感だな。」
「アメリカ様々ということですな。」

ギゴルトとスカンヅラは互いに言い合った。

「それにしても、ヴォイゼ陛下も頑張るものだな。」

プラルザーはそう呟いた。どこか、嘲笑するような含みがある。

「あのようなまともな国王がいたからこそ、我々は南大陸連合の中心になった。だが、真面目だけで国は維持できぬ。いずれは、玉座から降りてもらわんと。」
「いいのですか?私は国王陛下に忠を尽くす軍人です。そのような不穏当な発言は控えたほうがよろしいかと。」
「またまた冗談を。貴官があの小僧に報告なぞするまいよ。何せ、この中でヴォイゼを一番嫌っているのは君だからな。」

その言葉に、インゲルテントは大きく高笑いした。

「まあ、確かにそうですな。それ以前に、あなた方も国を引っ張る高官ではありませんか。」
「なあに、小僧の手助けをしてやってやるまでだ。いずれ、戦争が終われば・・・・・」

ギゴルトは最後まで言わなかった。

「とにかく、戦争が終わるまでには、しっかり“国王陛下”を助けてやらねばなりません。それまでは、我々は気付かれぬように
与えられた仕事をこなしましょう。それはともかく。」

インゲルテントは言葉を切り、パンと手を叩いた。
それから間も無くして、メイドが酒や料理を持って来た。テーブルに料理が並べられると、インゲルテントは持っていたグラスを掲げた。

「今日は、偉大なる一歩を祝して楽しもうではありませんか。」


1483年(1943年)2月5日 午前10時 バルランド王国ヴィルフレイング

ハズバンド・キンメル大将はその日、ヴィルフレイングの南西太平洋軍司令部で、アイゼンハワーと話し合っていた。
「しかし、オールレイングでの会議はいささか疲れましたな。インゲルテント大将があんなにも攻勢論をぶち上げて来るとは、予想以上でしたな。」

「それも、なんとか丸く収まってくれました。インゲルテント大将は意外と気難しいですが、話は分かるようでしたな。
我々がしっかり説明してやったお陰で、奴さんは会議の最中は静かでした。」
「何はともあれ、お二人には非常に感謝していますよ。」

アイゼンハワーは、キンメルと、ここにはいないキングも含めて、改めて感謝した。
キングは、あの会議の後、すぐにDC-3に乗ってアメリカ本土にとんぼ帰りして行った。
作戦部長兼合衆国艦隊長官という役職は思いのほか忙しいらしく、キングは会議の終わり頃になると、次の仕事が待っているなと呟いている。

「いや、アイゼンハワー閣下もなかなかでしたよ。見事にあの将軍に捻じ込んでやりましたな。」
「あの時は一瞬、頭に血が上りかけましたよ。まあ、私は大人ですので、なんとか押さえ込むことが出来ましたが。」

そう言うと、2人は大きく笑い合った。

「それ以上に、キング提督のあの容赦の無い口振りには、私も内心ヒヤッとしましたよ。」
「キングさんは元々ああいう性格ですからね。目上の人に対しても間違っているなと思っている事はずけずけと言ってしまいますから。
確かに、あの時は私も言い過ぎだなとは思いましたが、バルランド側に思い知らせるためには、かえって良かったのかも知れません。」

キンメルは苦笑しながらそう言った。

「それにしても、今月中旬に送られる南大陸からの留学生ですが、応募人員はかなり集まったと聞きましたぞ。」
「私も正直驚きましたよ。キンメルさん、今回の応募定員は最終的に2万人になったそうです。もちろん、厳正な審査の上で選抜しました。」
「それは私も聞いています。なんでも、南大陸にはシホールアンルシンパのスパイがごろごろいるようですからな。そいつらを本土に忍び込ませたら大事ですよ。」
「審査の結果では、何人かスパイが混じっていたようですが、そいつらは全員が応募枠から叩き出されたようです。この2万人の留学生は全員がシロですよ。
しかしですね、私が驚いたのはそこではありません。2万人に対して、何人が応募したと思います?60万人ですよ。」
「60万人!?」

キンメルは思わず素っ頓狂な声を上げた。

「こいつはたまげましたな。定数の約30倍ほどの人が殺到したのですか。」
「そうです。2万人でもかなりの数ですが、60万人と言えば、それこそ1つの小国が丸々大移動するのと同じです。」
「いやはや、人気があるのも良いのか悪いのか、思わず悩んでしまいますな。」

キンメルは引きつった笑みを浮かべる。

「まあその分、アメリカという国を知りたいという人がこんなに居るという証明にもなります。我々がこの世界をファンタジーの
世界と思っているように、彼らも、我が合衆国をある意味ファンタジーの世界として見ているのでしょう。」
「なるほど。」

キンメルは納得したのか、深く頷いた。彼はコップの水を3分辺りまで減らすと、再びアイゼンハワーに聞いてみた。

「所で、義勇兵の募集はどうなりましたか?」
「思いのほか順調です。この南大陸には、北大陸から流れて来た各国の残存軍が相当数おり、その数は10万ほどに上ります。
我々は、先の北大陸の侵攻に対する備えとして、この10万の兵達に義勇兵の参加を募りました。結果として、5万ほどの北大陸兵が応募に乗りました。」
「ほう、結構な数ですな。」
「その中でもいくつか興味深いのがりまして、私としてはレスタン王国の兵に興味を抱きました。」
「レスタン王国の軍人ですか。彼らはどのような人なので?」
「正確には、軍人と民間人のごちゃ混ぜなのですが、彼らは1万人ほどがこの南大陸に流れ付きました。ここからは、私も耳を疑ったのですが、
キンメル提督はヴァンパイアはご存知ですな?」
「まあ、人並みには存知ておりますが・・・・・まさか・・・・」

キンメルは水を口に含みながら、飲むのを止めた。

「そう、そのまさかです。レスタン人はヴァンパイアの国なのですよ。」

キンメルは思わず水を噴出しそうになったが、辛うじて耐えた。

「ちょ・・・・閣下!それは本当ですか!?」
「本当も本当ですよ。現に私は見ましたからね。」
「もしかして、彼らは太陽の日を浴びたら」
「ご心配なく。」

キンメルの危惧を、アイゼンハワーにこやかな笑みで打ち消した。
「私が会ったのは太陽も真っ盛りの8月の正午。その時は晴れでしたよ。ちなみに、彼らにヴァンパイアの話を聞かせたら、とんでもないデタラメだと
一蹴されましたよ。まあ、彼らが血を好むのは確かなようで、誰にでも吸血衝動というのがあるようです。とは言っても、流石に、無闇やたらに
人の血は吸わないと言ってましたよ。そんな事するのは旧祖のよっぽどのろくでなしぐらいだそうです。」
「居ない訳ではないのですな。」
「正確には、居ない訳ではなかった、と言うほうが正しいでしょう。」
「旧祖と言いましたが、それは一体どういう事なのです?」

「元々、レスタン王国は旧祖と新祖に分かれていて、旧祖が国を統治し、指示する側で、新祖が軍を率いたり、普段の生活で経済を支える
役目だそうです。いわば貴族と平民ですな。南大陸に逃れた彼らは全てが新祖であり、残りはレスタンに取り残されたか、戦争中に死んだ
ようです。実を言いますと、シホールアンルは、この小国のレスタン王国を思いのほか重要視していたようです。」
「レスタン王国は小国。しかし、シホールアンルは大国です。何故小国を重要視するのです?」
「原因は、レスタン人の習性にありますな。レスタン人は、外見はエルフに似ている以外はほぼ人間と一緒で、他に特徴があるのは、
犬歯が発達している事です。しかし、彼らは主に夜に生活の営みを得ており、特にレスタン軍は、夜間の戦闘においてはかなり強力だったようです。
このレスタンという小国は過去に2度ほど、シホールアンル本土に大規模な夜間攻撃を仕掛けて、大戦果を上げており、今度のシホールアンル皇帝は
夜の戦の名人であるレスタンに真っ先に侵攻して、大損害を出しつつも2週間で占領したようです。その際、レスタンにいた800万の人口のうち、
300万がこの侵攻作戦で失われたようです。」
「なるほど、小国といえども、その実力は侮れなかったのですな。しかし、アイゼンハワー閣下、我が軍に応募して来たレスタン人はどの方面に使われるのです?」
「彼らには、9月にノースロップ社の要人と、陸軍航空隊の幹部に会って貰いました。」
アイゼンハワーはそう言うと、執務机に戻って、引き出しから何枚かの紙を出した。

「レスタン人の中には、300名のワイバーン乗りやそれに携わった地上勤務員がいました。夜間の戦闘でかなりの功績をもたらした
者もおります。その彼らに、新しい翼を与えるのですよ。」

アイゼンハワーは、一枚の紙をキンメルに渡した。

「つい最近、ノースロップ社から渡された、新鋭機のイラストです。既に正式採用されており、P-61と名付けられます。」
「P-61ですか。」

キンメルは、まじまじとそのイラストを見た。
機体はP-38を髣髴とさせる双発双同であり、胴体はP-38よりも大きい。胴体後部上方には、旋回機銃らしきものがある。

「名称にはブラックウィドウ(黒き未亡人)と名付けられ、予定通りに進めば、本格的な夜間戦闘機に仕上がります。」
「ほほう、夜の眷族であるヴァンパイアを、夜間戦闘機に乗せるのですか。なるほど。」
「彼らがP-61に乗るまでには、様々な困難が待っていますが、彼らは新しい翼を得るためにはどんな難しい事でもやってのけると言っていましたよ。」
「戦力化されれば、実に頼もしいですな。」
「ええ。レスタン人の志願兵は、他の北大陸の志願兵と共に2月中旬に3回に分けて本土に向かいます。

ちなみに、彼らも厳正な審査を全てクリアしていますから、その点に関しては安心ですよ。」

と、アイゼンハワーは太鼓判を押した。

「さて、問題は9月までの間、シホールアンルがどうしているかですな。」

キンメルは緩んでいた表情を引き締めた。

「シホールアンルは度々、とんでもない奇策を使っていますからな。奴さんは出来る者が多い。」

キンメルの言葉に、アイゼンハワーは頷いた。

「その通りです。気が付いたら、大事な要所をあっと言う間に襲って来た、なんて事も考えられます。」
「対抗策としては、南大陸の全軍の警戒態勢をこれまで以上に強化する事でしょう。地味ながらも、大事なことです。」
キンメルはそう言ってから時計に視線を移した。時間は10時30分を回ろうとしている。
「もうこんな時間か・・・・それでは閣下。そろそろ出発の時間ですので、自分はこれで。」
「そうですか。」

2人は立ち上がると、執務室の入り口まで歩いた。

「それでは閣下。」
「またいつかお会いしましょう。」

キンメルとアイゼンハワーは互いに握手を交わし、キンメルは執務室から退出して行った。
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