自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

106 外伝10

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tapper

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449 :外伝(またはパラレル):2007/12/31(月) 08:12:16 ID:OiXF2z220
DD215ボリーは排水量1,190トン
平甲板型(フラッシュデッカー)又は四本煙突(フォーパイパー)と呼ばれるクレムソン
級駆逐艦の一隻だった
ボリーとその姉妹達は1919年度計画で156隻が建造された
これに1915年度計画で建造されたカードウェル級とウィックス級を加えると1915
年から1922年の間にアメリカが建造した平甲板型駆逐艦は279隻に達する
あまり沢山つくってしまったのでアメリカはその後10年以上駆逐艦を作らなかったしロ
ンドン条約で104隻を廃艦にしたりバミューダの海軍基地の99年間の使用権と引き換
えに50隻を英国に引き渡したりした
そしてシホールアンルとの戦いが始まるとさすがに艦隊型駆逐艦として使うには旧式すぎ
るものの補助戦力としてはまだまだ使いでのあるフラッシュデッカー達のうちあるものは
高速輸送艦として、またあるものは水上機母艦として軍務に復帰した
そして新造時の4インチ平射砲を3インチ両用砲に換装し三、四番発射管を撤去した跡に
爆雷投射機を設置して東海岸の哨戒任務に就いたボリーを待っていたのは獰猛な海の怪物
だった

ガオン!ガオン!ガオン!
艦首と右舷上構、そして後部甲板室上に装備された3インチ単装砲が火を吹く
青い海に白い航跡を曳きながら疾走する黒い背鰭の根元に弾着の火花が上がるものの遅延
信管付きの徹甲榴弾は滑らかな鱗に弾かれ空中で爆発した
「クソッタレ!3インチ砲弾をハネ返しやがった」
クロマティ砲術長が怒声をあげる
ノーフォーク沖のチェサピーク湾で単独哨戒任務についていたボリーは新型かあるいは染色体の異常による変異体か3インチ50口径砲の直撃に耐える皮膚と30ノット近い水中移動速度を持つ特大のベグゲギュスに襲われていた
ゴオン!
ベグゲギュスの体当たりを受けて艦齢20年を越える旧式駆逐艦の船体が軋み溶接箇所が
剥がれて海水が流れ込む
異常に発達し瘤のように盛り上がった頭部の鱗を破城槌にしてボリーの左舷中央に亀裂を
生じさせたベグゲギュスは艦底を潜って右舷側に躍り出る
「爆雷攻撃用意、浅深度射法!」
デミル艦長の命令を水雷長のドーソン大尉が艦内電話で右舷爆雷投射機の要員に伝える
一旦遠ざかった黒い背鰭がUターンして戻ってくる
キャットウォークから身を乗り出してタイミングを計っていた艦長が叫ぶ
「爆雷攻撃始め!」
「1番撃て!2番撃て!3番撃て!」

450 :外伝(またはパラレル):2007/12/31(月) 08:14:47 ID:OiXF2z220
水雷長の号令とともにアルファベットのKの字に似た形からK砲と呼ばれる爆雷投射機か
ら撃ち出されたドラム缶型のMk6爆雷が空中に飛び出す
3インチ砲をハネ返す怪物もTNT火薬136キロ分の爆圧を至近距離で受ければ何らか
のダメージを負うだろう
その期待を嘲笑うかのようにベグゲギュスは艦尾方向に向って鋭くカーブを切り爆雷が着
水した時には安全圏まで遠ざかっていた
そしてぐっと深く潜りボリーの艦底を真下から突き上げると全長320フィートの駆逐艦
は激しく震動し甲板から海上に放り出されたオルセン二等兵を目撃したエドワーズ曹長が
叫んだ
「誰が本艦を離れていいと言ったか―――ッ!」
さらにボリーの左舷側に浮上したベグゲギュスは甲板にのしかかると21インチ三連装魚
雷発射管を咬み千切り再び海中に姿を消した
「スクリューをやられました」
「ボイラー室に浸水です」
次々に入る被害報告を聞き遂に総員退艦を命じる艦長
最後まで艦橋に残っていたデミル中佐がハッチを潜ると止めを刺そうと接近してくるベグ
ゲギュスが見えた
飲み込もうとして喉につかえたのか一本だけ口から飛び出した魚雷発射管が葉巻を咥えているように見える
「ふざけやがって」
ラッタルを下って艦橋後部のスポンソンに設置された水冷式の銃身を持つ50口径機関銃
M1921に取り付いた艦長はコッキングハンドルを引いて薬室に銃弾を送り込むとまっ
しぐらに突っ込んでくるベギゲギュスの顔に狙いをつけてバタフライトリガーを押し込む
「地獄で笑え!」
通常発射管に収まった魚雷は機関銃弾が当ったくらいでは爆発しない
だが発射管が架台からもぎ取られた衝撃で魚雷が起爆状態になったのか破損した魚雷から
推進剤が漏れていたのか発射管に着弾の火花が上がった直後、轟音とともにベギゲギュス
の頭が吹っ飛んだ
猛烈な爆風に飛ばされ海面に向ってダイブしながらデミル中佐は中指をおっ立て「ワイル
ドバンチ」のウイリアム・ホールデンのように叫んだ
「ざまあ見ろ糞野郎!!」

日差しはあたたかく、やさしく、しずかだった
意識を回復したデミル中佐は自分が機関長に支えられて甲板の破片らしい角材の切れ端に
上体を預けていることに気付いた
「ほかの乗組員はどうした?」
潮流に流されるうちにバラバラになってしまったらしいと語る機関長はその辺にタバコで
も買いに行くような調子で言葉を続けた
「なに、西に向って泳ぎ続ければバージニアかノースカロライナのどこかに辿り着きます」
「楽天的だな君は」
「せっかくすごい土産話が出来たのに息子に聞かせる前に死ぬ気はありませんよ」
「ああ、死ぬほど怖がらせてやれスピルバーグ少佐」
二人は並んで角材に摑まるとバタ足で進み始めた

451 :外伝(またはパラレル):2007/12/31(月) 08:18:15 ID:OiXF2z220
投下終了です
余談:古本屋で創元推理文庫の「眼下の敵」を100円で購入、読み終わったらDVDを借りよう

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