闇に舞い降りた美少女-ミコト- ◆cITP41rF6Y



夜の闇が侵食する森の中。
この闇の中で少女吉川ちなつは十三年の生涯で感じたことの無い未知の恐怖に怯えていた。

(いや、死にたくない、死にたくない、死にたくない)

このときのちなつの思考は既に末期にあった。
生きたいではない。死にたくない、ただ助かりたいだけ。
結論を先延ばしにして、ただ逃げている。
恐怖に駆られた人間の最後に陥る典型的な負けの思考。
しかし背後には死神の鎌がかけられている。
相馬光子、この殺し合いの舞台で最も迅速にやるべき事を理解し行動に移している。
支給されたナイフを持って最初に発見した獲物である吉川ちなつの襲撃を敢行していた。

「なっ、なんで!?どうしてっ?」

困惑しながら走って逃げるちなつ。追う相馬。

だが、距離は一行に離れる事が無い。
ちなつにとって不幸な事に、現在の場所は整備のされていない森。
そしてちなつはまともに整備されていない森を歩くような経験の無い中学一年生。
故に走っても決して速い速度が出せるわけではない。
それに加えて、心理的脅迫的な焦り。
この悪条件の重なりが空回りとなって、走る足を遅くする。

それに対し、相馬の足取りは軽い。
追う者の余裕。
万が一ここで逃がしても相馬は失う物は無い。
それが距離を徐々に詰めていく。

やがて二人の距離は遂にゼロとなる。

「きゃっ!」

きっかけはちなつの転倒。
足をもつれさせたのだ。
しかしそれは偶然ではない必然の事。
闇雲に怯えながら走れば転倒など当然の事象。
そしてそれを見て少しだけ歩を早める相馬。
それで距離は無くなり、相馬は自分の下で倒れたまま震えるちなつを見下す。

「フフフ、追いかけっこはおしまい?」
「あっ、いっ、いやです。こんなの……」

相馬がナイフを逆手に持ち、ちなつへと振り下ろそうとする。
月光が刀身を怪しく輝かせる。

「っ!」

水音。
ちなつのスカートから突如として水が湧き出る。
地下水が湧き出たなどではない。
ちなつの恐怖がリミッターを振り切り、その結果として下着を濡らし、更にはスカートまでを濡らしたのである。

「あっ!ああっ!あああ」

それはもちろんちなつも感じる。
恐怖による失敗。それは羞恥で顔を赤くさせる。
しかし止める術は無い。
恐怖で感覚を失い、ただ生暖かい水が下半身を濡らすのを見つめるしかない。

「あらあら。おもらししちゃったの?本当に情けないわね」

ゆっくりとした言葉を紡ぎながら相馬はナイフを振り下ろす。
けれど

「えっ?」

相馬の間の抜けた声。
突然の光線がナイフを弾く。
そして、新たな少女が闇から降り立つ。

「あんた、何してるの?まさか本気で殺し合いなんてする気?」

その少女。名は御坂美琴。
短髪の女子中学生。
それが相馬光子と相対する。

「……」

相馬は即座に感じ取る。
先ほどの光線の正体こそ知らないが、目の前の女子は紛れも無く強者であると。
闇の世界を生き抜いた相馬であるが、それはあくまでも性の快楽に溺れる男を肉体により篭絡しただけである。
純粋な命のやり取り、死線を潜り抜けた回数では目の前の少女の足元にも及ばない。
今、この場では相馬には勝機は無い。

「言っておくけど、殺し合いをするなら容赦しないわよ。あたしは人殺しなんて絶対に許さないから」

そういって相馬を睨みながら、腰を抜かしているちなつへと駆け寄る。

「大丈夫?怖かったわね」
「あっその……」
「………着替えないとね。街のほうへ行けば着替えぐらいあるでしょうからそれまで我慢してね」
「………」

失敗を優しくフォローされて、ちなつは火が出るほど赤面する。

(ああ、なんて優しいの。ちなつ……スキになっちゃうかも。でもちなつには……結衣先輩ってひとが居るのに)

と、全く関係ないことを考えるちなつ。
だが、この光景を黙って見届けていた相馬はあることを思った。

(なっ!)

正に青天の霹靂。相馬に電流が走る。

(この隙、私の背中を見せるなんて……こんな隙はありえない。これなら……この隙を利用すれば勝てる)

相馬はポケットに忍ばせた第二の武器を取る。
武器はスタンガン。
相馬に支給された武器の一つ。
ナイフに比べると殺傷能力は劣るが、ノーモーションで接近しスイッチを押せば一時的に相手を行動不能にさせられる。

(これで動きを止めてからナイフでトドメ。これで……)

相馬は勝利を確信し、ゆっくりと接近する。
必殺を狙い、恐る恐ると美琴に近づいていく。

「何?あんた何のつもり?」
「いっいえ、私も怖くて」

美琴は相馬の接近に気付いている。
だが相馬は怯えた演技をして、襲撃を敢行すべくスタンガンの間合いに入る。

「……そう、それならいいわよ。でもそれならこの子に謝って……うっ」

言い終える前に炸裂する電流。
相馬はスタンガンを最強にして美琴の背中へとぶつけた。
これで美琴は倒れるはずだった。
だが―――

「ふふ、これで……きゃあ」
「これ……何かな」

美琴は素早く振り返り、相馬の手首を取る。
その手にはスタンガンが握られている。

「うっ……うそ?」
「残念ね。あたし電流とか平気だから」
「っ?」

ありえないことだった。
人間であれば、どのような屈強な男でも強力な電気には弱いはず。
それは人間の絶対の弱点。逆に言えば、武器として使えば克服不能な云わば確実な対人兵器にもなる。
しかし、それが通じない。
それは常識では考えられない現象。

「さて………どうしようかな?」
「あっああ、ごめっ、ごめんなさい助けてぇ」

相馬はスタンガンを落とし、地面に倒れると涙を流しながら謝罪の意を伝える。

「本気で謝ってる?あんたあたしまで殺そうとしてたよね」
「そんなぁ。冗談ですぅ」

更に涙を流して謝る相馬。
するとスカートから流れ出す水。
あまりの恐怖から失禁してしまったのだ。
それはスカートまで水浸しにする。

「ああっ、いやぁっ、止まってぇぇ」

必死でスカートの上から押さえつけるが意味は無い。
どうしようもなく、濡れそぼるだけだ。
そして、目の前の少女のどうしようもない失態を見て思わず美琴は溜息をつく。

「ふう……あたしはもういいわ。あんたは良い?許しても」

美琴は背後で倒れたままのちなつへと言葉をかける。

「えっ…………はい。構いません」
「そう、ならいいわ。良かったわね、この子が優しい子で」
「はいぃありがとうごまいます」
「なら行こうか。二人共着替え必要でしょ」
「うう、そんなこと言わないでくださいよ」

美琴が歩き出し、それに続いてちなつもついていく。
そしてその二人の後に少し遅れて相馬。

(上手くいったわ。これで完全に油断してるはず。今度こそ隙をついて、殺してやる)

相馬はまだ心は折れていなかった。
逆襲の一手を待ちながら、今はまだ従順な少女の仮面を被り歩いていく。


【一日目・深夜 F-3 森】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康。
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式 不明支給品1~3 ナイフ スタンガン
基本行動方針:仲間と一緒に生きて帰る。人殺しはさせない
1:ちなつと相馬の着替えを探す。
2:佐天さんと初春さんを探す。黒子はしばらくは大丈夫でしょ


【吉川ちなつ@ゆるゆり】
[状態]:健康 スカートと下着が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
基本行動方針:皆と一緒に帰る。
1:着替えがほしい。


【相馬光子@バトル・ロワイアル】
[状態]:健康 スカートと下着が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1(武器じゃない)
基本行動方針:どんな手を使っても生き残る。
1:美琴を殺す隙が見つかるまでは仲間のフリを続ける。
2:着替えがほしい




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最終更新:2012年09月12日 18:47