World Embryo   ◆jN9It4nQEM


「やあ、また会ったね」

秋瀬或が辿り着いた時、全ては終わっていた。
しくしくと泣いている少女が二人。
安らかな顔をして永遠の眠りについた少女が一人。

「そちらの少女は初めましてだね。僕は中学生探偵、秋瀬或。
 今後ともよろしく」

或は結衣と出会った時と変わらず気さくに自己紹介をする。
顔つきは変わらない、穏やかな笑み。
目の前にある死を怖がりはしない、驚きもしない。

「どうやら僕はここに来ることが遅かったみたいだ。
 最も、僕がいてもこの人を助けることは出来なかっただろうけど」

誰も死なないままで殺し合いが終わるなどありえない。
最初からそう考えていた或としてはこれはある種の必然。
約束された死。
だから怖くもないし驚きもしない。

「殺し合いは正常に運行しているようだ。改めて確信したよ、ここには乗った参加者もいる。
 あまり悠長にはしていられないね」

騙し裏切り殺して殺されてまた騙し裏切り殺して殺されて。
殺し合いは揺るがない。悪意を持つ参加者が消えない限り決して揺るがない。
或はわかっている。この世界には終わりしかないと。終わりの始まりはもう止めることはできないのだと。

「おかしいよ……」

或の言葉を遮るかのようにか細い声が辺りに響く。声の主、竜宮レナは或を理解できなかった。
目の前に立つ少年が同じ人間とは思えない。

「貴方は、悲しくないの? 人が死んだんだよ? さっきまで言葉を交わしていた人が死んだんだよ?」

レナは悲しかった。殺し合いに乗った親友、自分たちを庇って死んでいった一人の少女。
詩音が狂気の笑みを浮かべながら拳銃を向ける姿、真希波が自分達を庇って死んでいく姿。
だがこの少年は死んでいった真希波を見ても眉一つ動かさない。
異常だ。冷静にもほどがある。

「そうだね、じゃあ君は泣けばこの人が喜ぶとでも思っているのかい?」 
「……っ」
「ここでは選択肢を間違えると死ぬんだよ、人は簡単に。君も、僕もこの世界では役目を終えたら、ね」

或はあくまで冷静に現実を語る。殺し合いは甘くない、誰だって死ぬ可能性があるのだと。

「そんなの、おかしいよ……! 人が死ぬなんて、涙を流さないなんて」
「おかしくないよ。誰も死なない殺し合いなんてわざわざ開催すると思うかい? そんな馬鹿なことはない。
 現にその女の子も死んだ、絶対に死なないなんて絶対にありえない。
 それに僕の流す涙は既に予約済みなんだ。ここで泣いてしまったら浮気になってしまう。
 そもそもこんな状況で冷静さを失うのは愚の骨頂だよ」

レナは或に次々とまくし立てられ言葉が詰まってしまう。或の論理で構成された言葉に反論ができない。
そもそも自分が声を大にして反論できる立場なのだろうか。
何もできなかった自分。詩音を助けられずに逆に助けられる始末。
自分が余計なことをしなければ真希波は死ななかった。
そう、真希波を殺したのはレナのようなものだ。

「さてと、船見さん。答えは得たかな?」

自己嫌悪に陥っているレナを無視して或は淡々とした言葉で今まで何も言葉を発さずに黙っていた結衣に顔を向ける。
いきなりの自分への質問に結衣はビクリと体を震わせて反応する。
答え。自分が存在する意味、ここに呼ばれた意味について。
依然として結衣の中では答えの出ない質問だ。

「…………」

沈黙が数秒間続く。答えられないものを答えることなんてできない。
結衣がここに存在する理由。そもそも理由なんてあるのだろうか。
考えても考えても自分の拙い頭では想像がつかない。

「さすがに考える時間が短すぎたかな? それじゃあ君はどうだい? 自分が存在する理由。その意味を答えられるかい? 君はこの地獄で何を望む?」

結衣が答えられないと判断したのか、或は質問の矛先をレナへと向ける。
再び数秒間沈黙が続く。そして、レナの口から出た言葉は弱々しくはあったがしっかりとした意志を兼ね備えた答えだった。

「帰りたい。こんなはずじゃなかった日常に帰りたい。この人の分までみんなを助けたい。人を信じたい。
 私は、私が正しいって思えることをしたい。この島で誰かを助ける、それを私が存在する理由にしたい……!」

それは例え思考がぐちゃぐちゃになってもはっきりと言える願い。
殻の中に閉じこもっていた自分を助けてくれた圭一みたいに誰かを助けること。
今度こそ迷わずに人を信じ、正しいと確信できることをしたい。

「うん、それも答えの一つだね。つまり君は誰かを助けるヒーローになりたいってことか。
 いい理由だ。いきなりの質問に対しての協力、ありがとう。それじゃあお礼といっては何だけどアドバイス」

或は朗らかな笑みを浮かべながらそして以前と同じように二人の間を通り抜ける。
そして瞬間、少し振り返って。

「よく周りを見て、それからどうすればいいか落ち着いて考える、この状況では探偵に限らずにいえることだね。」
 そうすれば最善の手段は導き出されるんじゃないかな」

レナの耳にかすかに届くくらいな小さな声で囁いて。
今度こそ或は振り返らずに歩いていく。

「それじゃあ、二人によい未来を」



【B-5/山中/一日目・黎明】


【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:未来日記(詳細不明、薄らと映る未確定エンド表記)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~2)
基本行動方針:この世界の謎を解く。
1:……。

【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:精神的ショック(大)
[装備]:wacther@未来日記
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~2)
基本行動方針:友達に会いたい。
1:???
[備考]
『The wachter』と契約しました。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~2)
基本行動方針:知り合いと一緒に脱出したい。正しいと思えることをしたい。
1:???

[備考]
B-5エリアに真希波・マリの遺体(ディパックに基本支給品一式及び、眠れる果実@うえきの法則、ワルサーP99(残弾12)、奇美団子(残り4個) が入っています)が倒れています。



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最終更新:2012年04月15日 14:46