「獲得」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

獲得」(2012/12/09 (日) 02:19:19) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

突然だが、皆は賭け事は好きかい? ハッキリ言って俺は大好きだ――あ、いや言い直そう。一部の競技を除いて好きだ。 どうも俺は競馬や競艇は好きになれない。だって『自分でやらない』んだもん。 そりゃ情報収集とかさ、大事だとは思うよ?でもその手に握ってるのは馬券とかじゃなくてトランプやサイコロだっていう賭け事の方が好きなんだよ。 ただ、問題なのは……そんな強くないんだよ俺。持ってる運は並、イカサマの技術も大してないし、それに…… え?あぁ話?ごめんごめん、それじゃ―― ●●● 「おまたせ。台所にあった砂糖と塩、それに小麦粉とかいった袋。それとティースプーン。ボウル」 ミラションと名乗った女はゴソゴソとテーブルに物品を置き始めた。本来こんな面倒な質問などする気はないが一応訪ねておく。 「それで何をするんだ?」 「うっさいわね。こっちは碌に休みもせず準備したんだ。食事くらいとらせろ。  大体アンタの方は『シンプルな勝負が良い』って言ったきり寝てたじゃあねーか。  で……これらの粉を、ホラまだ未開封。開けるわよ。ボウルにブッ混む」 ボトルの水を飲み、パンを口に頬張りながら作業をするミラションを俺は黙って見ていた。 銀色の容器の中が白で埋め尽くされる。むわっ、と巻きあげられる粉に目を細める。 「ったく……アタシ一人にやらせといて後でイカサマだなんだって文句タレないでよね?まあこのボウルじゃ二人いっぺんにかき混ぜるのは無理だけど。  さて、出来上がり。こっち来なさい」 言われるままに立ち上がり、ボウルを覗き込む。細かい粉(小麦粉といったか)や荒い粉(砂糖や塩だろう)が混じったもの。 沸き上がる疑問を率直に尋ねる。 「……この粉をどうする?」 「二人で交互に一掴みずつテーブルに盛る。もちろんボウルに入ってる全部よ。  これで大きな一つの粉の山が出来る」 言われるまま粉を手にとってはテーブルに盛り、またボウルに手を突っ込む。 俺が五回、ミラションが六回その動作をしたところで丁度ボウルが空になった。 手をはたきながら目線を使ってもう一つの要素にミラションの注意を促し、また尋ねる。 「このスプーンは?」 「山の頂点に挿す。かき混ぜる方を上にして、そうそれで良い。これで完成」 テーブルの中央に、こんもりと盛られた粉、そこに挿さるスプーンという、奇妙な山が完成した。 それを満足げに見てミラションは俺の方を向く。 「ルールは単純。交互にこの粉を手で掻いていく。スプーンをテーブルに落とした方が負けよ。  やった事無い?『棒倒し』よ」 ●●● サンドマンにおおよそのルールを説明する……と言っても、倒した方が負け、それしか説明しようがない。 「なるほど。大体わかった。細かいルールはどうする?」 理解の早い相手だってのがせめてもの救いかしら。向こうから決めなきゃならないことを聞いてくるってのは悪い流れじゃあない。 「そう、うーん、まずは一度に掻く量の最低限を決めなきゃね。任せるわ、どのくらいがいい?」 これを決めておかないと試合が進まない。“ハイ一粒掻きましたー”とかやってられないっての。ね? 「なら、必ず“指を三本以上使って、一目見て分かる量を”掻く。どの指を使うかは問わない」 なかなかセンスあると思うわコイツ。随分妥当な案を出すじゃない。 「そうね、そのくらいが丁度いいかしら。他には?」 「スプーンはテーブルに触れなければいくら傾こうが“倒れた”と見なさない。  掻いた後十秒間は倒れたか否かの判定時間とする。」 スラスラと答えてくる。ホントに初めてなの?後はそうね…… 「それに付け加えるなら自分の番の制限時間は――三十秒。パスは当然不可。そんなもんじゃない?」 後は“何でもアリ”だ。これは言わなくていい。分かってるんでしょうね?戦うってのがどう言う事か…… 「良し、ならば始めよう」 こうしてエメラルドを、あるいは支給品を賭けた戦いが静かに幕を開けた。 ――ま、私は賭ける気なんてサラサラないけど。 先攻はコイントスで私。 まずは中指、薬指、小指の三本の指で水を掻くように粉をこそぎ取る。 さらさらと山が静かに形を変えるけど、まだまだ余裕のようね。 それを受けてのサンドマンの初手。人差し指と中指、薬指を使った熊手のような動きで問題なく粉を払ってきた。 なるほどなるほど。ただのコスプレ野郎ではなかったって訳ね。 二順目、三順目と順当に試合が進み、五順目の後攻、サンドマンが動きを見せた。いや、見せたと言うのはちょっと違う。動きを変えてきた。 「へぇ……親指と人差し指、中指で摘む動作に変えたかい?ちょっとビビり過ぎなんじゃあないの?」 ちょっとだけ煽ってみる。確かに、そろそろヤバいかな、とは私も思っていた。 だけど自分からこのスタイルに変えるのは勝負にビビっているようで気に入らなかった。 それを先にサンドマンがやってくれるならありがたいことこの上ない。 「ルール上は問題ない。さあ、お前の番だ」 短く返してくるサンドマンには余裕も焦りも感じさせない表情が張り付いたまま。眉ひとつ動かさないあたり、結構ギャンブラーの素質あるかもね、アナタ。 「なるほど、流石は『砂男』砂の動きならよくわかるってところかしら。まあ砂じゃないけど。  ……それじゃあ私もそれにならって摘む動作に変えようかしらね」 黙ったまま山を睨みつけるサンドマンに対して私は笑いをこらえるのに必死だった。 確かに私は三本の指を山の真ん中、ややサンドマン寄りに突っ込んだ。だが、空手ではない。 ククク……水に浸したパンをこの粉の中で絞ったらどうなる?中の粉が固まって良いことなんかないッ! 一見安定するように感じるが、それは全てを水浸しにした場合! 粉の塊に触れればそこからバランスを崩して山は崩れるッ!まさに地雷ッ! そして……粉まみれになったパンを引きずりだせば、それがそのまま“摘み取った粉”になる! 「ふう……十秒経った?さあ、貴方の番よ。」 相変わらずサンドマンは黙ったまま。つまり見抜けなかった。イコール敗者。 だいたい、パンの突っ込み方なんて聞かれたって教えないわよ。私しか知らない秘密の技だからイカサマって言うの。 「分かった、俺の番だな」 案外あっさり返事が返ってきた。ま、せいぜい頑張ってね。 ここから先は如何に塊を避けつつコイツの番に回すかが課題ね。まあ問題ないでしょ。 ●●● 「……何かしたか?」 突っ込んだ指先に違和感を感じる。先程よりも粉が重い。ミラションを睨みつけ俺は尋ねる。 「何のこと?仮に私がイカサマしてたとして、そんなもんその場で言うのが暗黙の了解ってもんでしょ?  後から喚くなんてみっともないし、見抜けなかった奴が間抜けなのよ?違う?」 それもそうだ。現場か証拠を押さえなければただの虚言。家に置きっぱなしにしていて見つかった白人の本、あれと同じだ。 だが、こんなところでやすやすと支給品を奪われる訳にはいかない。 そして、理解した。このゲームは『何でもアリ』だと。 山の中ほどまで沈んだ俺の指先から数ミリ奥……おそらくは濡れているのだろう。触れればそこから山が崩れ落ちると言う算段か。 だが触れなければどうという事もないだろう。逆に言えば相手がそれを触らざるを得なくなるまで耐えきれば良いだけの話だ。 三本の指で粉を摘み出す。指の形に開いた穴を埋めるようにサラサラと流れた粉がスプーンを僅かに傾かせる。 しかし、それが倒れるには至らない。長いとも短いとも思わない、普段通りの十秒間が過ぎた。 「……どうやらお前の番に回るようだな」 ふう、と粉を飛ばしてしまわないように顔を逸らして溜め息をつく。 ミラションから見れば俺が安堵してひと息ついたように見えるだろう。だがそれはブラフ。俺はこの勝負、安堵だけじゃあなく緊張も恐怖もしていない。 ここから先は持久戦にはならないだろう。むしろ、超がつく短期決戦になる。問題なのはいつ、どこで今の『吹く音』をテーブルに張り付けるかだが。 そう考えながら椅子に座り直し…… ぞっ―― 「ワタシは『オマエ』の心の影――オマエ、今『ルール』を破ったな?」 急に背後から来た悪寒に振り返る。目の前には毛皮を頭から被ったような……スタンドがいた。 「私は何もしていない。ただ、アンタがルールを破った事を自分で知ってたから『取り立て人』が現れた」 ミラションが呟く。つまり彼女のスタンドだと言う事か。そしてソレは俺のデイパックを摘み上げ、こちらを睨む。 「ソモソモ……エメラルドに対シ、支給品ダケでは額が釣リ合ワナイナ。  紙ニ入ッテタノハ、ホッチキスとフライパン。合わせてもせセイゼイが20ドルッテトコダナ。  ドウスル?足りない分ヲ?思イ浮カベロ……大切なモノを」 その言葉に対し、俺は素直に思い浮かべた。心の底から大切に思っているものを。 一秒、 二秒。 三秒…… 「何してる!マリリン・マンソンッ!コイツから『金目のモノ』を奪いとれッ!」 「……」 スタンドが硬直したことに狼狽するミラションの方を向きなおす。 「俺が心の底から大切だと思っているものは故郷の土地、それだけだ。  そしてそれは今、白人の手にある。俺はそれを奪い返すために『何をしてでも』カネを手に入れるぞ」 俺の言葉にミラションがヒッと小さく喘ぐ。よっぽどスタンドに自信があったようだが…… 「な、なら内臓だッ!マリリン・マンソン!さっさとえぐり出せぇッ!」 そして、絞り出されたその叫びにも取り立て人と呼ばれるスタンドは動かない。 「牛の胃袋は食えるらしいが……人間の内臓なんか、どうするんだ?」 ●●● 背筋に嫌な汗が伝うのが分かった。 コイツは……このインディアンはコスプレ野郎なんかじゃあない。本当に―― 『内臓が高値で売れる事を知らない正真正銘のインディアン』だった。 だとするなら取り立て人は動かない、と言うより、動けない。 本当に大切なもの(土地だと?バカバカしい)が嘘でなく、しかも自分が所有しているものじゃあないから動けない。動きようがない。 サンドマンがバンとテーブルを叩き私の顔を覗き込む。ゆっくりとその唇が形を変える。 何を言うかは分からないが私にとっていい話でない事は直感で理解できるッ!やめろ……やめてくれ…… 「まあいい、払ってやろうじゃあないか。足りない分は俺がこれから『得る』カネだ。  俺はそいつらからカネをもらう。アレは俺が『稼いだ』もので、俺じゃなければ手に入れられなかった。だから俺のカネだ。  取り立てたければそいつのもとを訪ねるんだな。サンドマンのカネを寄越せと。取引の相手は――」 汗だくの手でテーブルをひっくり返す。 「マリリン・マンソンッ!早くそのクソボケから内臓と言う内臓をエグり出せエエェェェ――――ッッッ!!!」 舞い上がる粉が霧になる。 体中の汗にそれが絡みつく感じがして身体が重い。 次第に視界が晴れ、その先にいたのは…… 「惜しかったな」 巻き髪の中年男だった。 「確かに――我々と彼とは取引をした。報酬こそ“後払い”にしていたが、確かにな。  ゆえに、現在我々が預かっているそれは、紛れもなく彼のカネだ……彼が生きている以上はな。死ねば支払いも反故だがね」 状況を理解できていない私を見かねてか、そいつが喋り出す。 「あ……アンタは?い、いやそれよりも、ここはどこだ?」 粉のせいか、それとも緊張、あるいは恐怖のせいか?ひどく喉が渇き、声がかすれた。 「質問は一つずつにしてくれないか?……まずは『アンタは?』に答えてあげよう。私の名はファニー・ヴァレンタイン。  そして、サンドマンは私個人とではなく、我々『アメリカ合衆国』と取引をしたんだよ。  さて、ここからは君の十八番じゃあないのか?『思い浮かべろ、大切なものを』我々と彼との間にあった取引額に見合うようなね」 ヒッ―― もう声に出せていたかどうかすら分からない悲鳴を挙げて私は後ずさる。 「……どうやら、君の負けのようだな。ん?いや勝ってるのか?  サンドマンが思い浮かべた金の在りかが分かって、それを今現在取り立ててるんだから……そう言う意味では勝者は君だと言っていい。  そうだ、ついでに二つ目の質問にも答えてやろう。ここの場所、それは『秘密』だ。  気味のスタンドは非常に優秀で、それゆえここに辿り着いた。だが、それは『ルール違反』だ……このゲームのな。  だから本体である君もこの場に連れてきた。わかるか?この事態を私は許したりはしない」 ドムッ、と鈍い音がした。 ●●● 視界が白から元の部屋に戻った時、俺の目の前にあったのは首がちぎれて死んでいるミラションだった。 何があったのか想像する必要はない。『相手が死ねば勝負なし』と言ったところか。 まぁ、何にせよ戦利品は頂いておくとしよう。粉まみれになって転がっているエメラルドを手に取り、そっと息を吹きかける。 吸い込まれそうな深い深い緑色が、俺の心を少しだけ明るくしたように感じた。 ミラションの支給品もデイパックに詰め込み、考える。必要なのものは、情報だ。 スティーブン・スティールがこのゲームを主催している以上、S・B・Rレース参加者もいるだろう。 いずれにせよ参加者と接触し、情報を集めて回る。 全てはカネのため……いや、故郷のために。 建物を出て、明るみ始めた空に一瞥をくれた後、俺はいつものように走り出した。 ●●● うん、この辺でやめとこうかな。この二人の話はまた今度ね。 いやぁ~まさかイイ大人がマジ顔で棒倒しやるとは俺も思わなかったよ。ハハハ。イカサマ出来るんだね、あのゲーム。 そして、ミラションは早々とこのゲームの本質に首を突っ込んだ。 まあ、何にせよ相手が悪かったって事――ん、いやちゃんと取り立てに行けたあたり自分が優れてて、それで死んだのか?まぁ、どっちでもいいか。 さて……最初に聞いた質問の答えを聞いてなかったな。君たちは賭け事好きかい? ん、俺?普段はカードとパチンコ。あとは彼等がやってたみたいな棒倒しとか、そう言うゲームっぽいギャンブルが好きだね。 最近は麻雀も始めて勉強中だよ。チートイツとかスーアンコーとかね。いやいや、まだ下手っぴさ。 でもね、今練習してるんだよ。握力でもって白の牌を作るのをね…… &color(red){【ミラション 死亡】} &color(red){【残り 89人以上】} 【F-8→?-? どこかの路上 / 1日目・黎明】 【サンドマン(サウンドマン)】 [スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』 [時間軸]:SBR10巻 ジョニィ達襲撃前 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品×2(ただしパンは一人分)、ランダム支給品1(元ミラションの物・確認済み)、サンドマンの両親の形見のエメラルド、フライパン、ホッチキス [思考・状況] 基本行動方針:金を集めて故郷に帰る 1.故郷に帰るための情報収集をする 2.必要なのはあくまで『情報』であり、次に『カネ』。積極的に仲間を集めたりする気はない。 [備考] ミラションの支給品(ミラションが食べたパン以外の基本支給品、ランダム支給品1)を自分のデイパックの中に入れています。 ミラションとサンドマンがいた建物の一室には粉が散乱しており、また首輪が爆破されたミラションの死体があります。 [支給品情報] フライパン:第4部、JC35巻に登場。ネズミ(虫喰いではない)戦において針を防ぐために仗助が使ったもの ホッチキス:第5部、JC50巻に登場。サーレー戦で負傷したミスタの手当てにフーゴが使ったもの *投下順で読む [[前へ>人魚姫]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら]] *時系列順で読む [[前へ>人魚姫]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |027:[[勝負師ミラション真夜中の賭け事]]|[[ミラション]]|&color(red){GAME OVER}| |027:[[勝負師ミラション真夜中の賭け事]]|[[サンドマン]]|101:[[大統領、Dio、そして……]]| |000:[[オープニング]]|[[ファニー・ヴァレンタイン]]|103:[[第1回放送]]|
突然だが、皆は賭け事は好きかい? ハッキリ言って俺は大好きだ――あ、いや言い直そう。一部の競技を除いて好きだ。 どうも俺は競馬や競艇は好きになれない。だって『自分でやらない』んだもん。 そりゃ情報収集とかさ、大事だとは思うよ?でもその手に握ってるのは馬券とかじゃなくてトランプやサイコロだっていう賭け事の方が好きなんだよ。 ただ、問題なのは……そんな強くないんだよ俺。持ってる運は並、イカサマの技術も大してないし、それに…… え?あぁ話?ごめんごめん、それじゃ―― ●●● 「おまたせ。台所にあった砂糖と塩、それに小麦粉とかいった袋。それとティースプーン。ボウル」 ミラションと名乗った女はゴソゴソとテーブルに物品を置き始めた。本来こんな面倒な質問などする気はないが一応訪ねておく。 「それで何をするんだ?」 「うっさいわね。こっちは碌に休みもせず準備したんだ。食事くらいとらせろ。  大体アンタの方は『シンプルな勝負が良い』って言ったきり寝てたじゃあねーか。  で……これらの粉を、ホラまだ未開封。開けるわよ。ボウルにブッ混む」 ボトルの水を飲み、パンを口に頬張りながら作業をするミラションを俺は黙って見ていた。 銀色の容器の中が白で埋め尽くされる。むわっ、と巻きあげられる粉に目を細める。 「ったく……アタシ一人にやらせといて後でイカサマだなんだって文句タレないでよね?まあこのボウルじゃ二人いっぺんにかき混ぜるのは無理だけど。  さて、出来上がり。こっち来なさい」 言われるままに立ち上がり、ボウルを覗き込む。細かい粉(小麦粉といったか)や荒い粉(砂糖や塩だろう)が混じったもの。 沸き上がる疑問を率直に尋ねる。 「……この粉をどうする?」 「二人で交互に一掴みずつテーブルに盛る。もちろんボウルに入ってる全部よ。  これで大きな一つの粉の山が出来る」 言われるまま粉を手にとってはテーブルに盛り、またボウルに手を突っ込む。 俺が五回、ミラションが六回その動作をしたところで丁度ボウルが空になった。 手をはたきながら目線を使ってもう一つの要素にミラションの注意を促し、また尋ねる。 「このスプーンは?」 「山の頂点に挿す。かき混ぜる方を上にして、そうそれで良い。これで完成」 テーブルの中央に、こんもりと盛られた粉、そこに挿さるスプーンという、奇妙な山が完成した。 それを満足げに見てミラションは俺の方を向く。 「ルールは単純。交互にこの粉を手で掻いていく。スプーンをテーブルに落とした方が負けよ。  やった事無い?『棒倒し』よ」 ●●● サンドマンにおおよそのルールを説明する……と言っても、倒した方が負け、それしか説明しようがない。 「なるほど。大体わかった。細かいルールはどうする?」 理解の早い相手だってのがせめてもの救いかしら。向こうから決めなきゃならないことを聞いてくるってのは悪い流れじゃあない。 「そう、うーん、まずは一度に掻く量の最低限を決めなきゃね。任せるわ、どのくらいがいい?」 これを決めておかないと試合が進まない。“ハイ一粒掻きましたー”とかやってられないっての。ね? 「なら、必ず“指を三本以上使って、一目見て分かる量を”掻く。どの指を使うかは問わない」 なかなかセンスあると思うわコイツ。随分妥当な案を出すじゃない。 「そうね、そのくらいが丁度いいかしら。他には?」 「スプーンはテーブルに触れなければいくら傾こうが“倒れた”と見なさない。  掻いた後十秒間は倒れたか否かの判定時間とする。」 スラスラと答えてくる。ホントに初めてなの?後はそうね…… 「それに付け加えるなら自分の番の制限時間は――三十秒。パスは当然不可。そんなもんじゃない?」 後は“何でもアリ”だ。これは言わなくていい。分かってるんでしょうね?戦うってのがどう言う事か…… 「良し、ならば始めよう」 こうしてエメラルドを、あるいは支給品を賭けた戦いが静かに幕を開けた。 ――ま、私は賭ける気なんてサラサラないけど。 先攻はコイントスで私。 まずは中指、薬指、小指の三本の指で水を掻くように粉をこそぎ取る。 さらさらと山が静かに形を変えるけど、まだまだ余裕のようね。 それを受けてのサンドマンの初手。人差し指と中指、薬指を使った熊手のような動きで問題なく粉を払ってきた。 なるほどなるほど。ただのコスプレ野郎ではなかったって訳ね。 二順目、三順目と順当に試合が進み、五順目の後攻、サンドマンが動きを見せた。いや、見せたと言うのはちょっと違う。動きを変えてきた。 「へぇ……親指と人差し指、中指で摘む動作に変えたかい?ちょっとビビり過ぎなんじゃあないの?」 ちょっとだけ煽ってみる。確かに、そろそろヤバいかな、とは私も思っていた。 だけど自分からこのスタイルに変えるのは勝負にビビっているようで気に入らなかった。 それを先にサンドマンがやってくれるならありがたいことこの上ない。 「ルール上は問題ない。さあ、お前の番だ」 短く返してくるサンドマンには余裕も焦りも感じさせない表情が張り付いたまま。眉ひとつ動かさないあたり、結構ギャンブラーの素質あるかもね、アナタ。 「なるほど、流石は『砂男』砂の動きならよくわかるってところかしら。まあ砂じゃないけど。  ……それじゃあ私もそれにならって摘む動作に変えようかしらね」 黙ったまま山を睨みつけるサンドマンに対して私は笑いをこらえるのに必死だった。 確かに私は三本の指を山の真ん中、ややサンドマン寄りに突っ込んだ。だが、空手ではない。 ククク……水に浸したパンをこの粉の中で絞ったらどうなる?中の粉が固まって良いことなんかないッ! 一見安定するように感じるが、それは全てを水浸しにした場合! 粉の塊に触れればそこからバランスを崩して山は崩れるッ!まさに地雷ッ! そして……粉まみれになったパンを引きずりだせば、それがそのまま“摘み取った粉”になる! 「ふう……十秒経った?さあ、貴方の番よ。」 相変わらずサンドマンは黙ったまま。つまり見抜けなかった。イコール敗者。 だいたい、パンの突っ込み方なんて聞かれたって教えないわよ。私しか知らない秘密の技だからイカサマって言うの。 「分かった、俺の番だな」 案外あっさり返事が返ってきた。ま、せいぜい頑張ってね。 ここから先は如何に塊を避けつつコイツの番に回すかが課題ね。まあ問題ないでしょ。 ●●● 「……何かしたか?」 突っ込んだ指先に違和感を感じる。先程よりも粉が重い。ミラションを睨みつけ俺は尋ねる。 「何のこと?仮に私がイカサマしてたとして、そんなもんその場で言うのが暗黙の了解ってもんでしょ?  後から喚くなんてみっともないし、見抜けなかった奴が間抜けなのよ?違う?」 それもそうだ。現場か証拠を押さえなければただの虚言。家に置きっぱなしにしていて見つかった白人の本、あれと同じだ。 だが、こんなところでやすやすと支給品を奪われる訳にはいかない。 そして、理解した。このゲームは『何でもアリ』だと。 山の中ほどまで沈んだ俺の指先から数ミリ奥……おそらくは濡れているのだろう。触れればそこから山が崩れ落ちると言う算段か。 だが触れなければどうという事もないだろう。逆に言えば相手がそれを触らざるを得なくなるまで耐えきれば良いだけの話だ。 三本の指で粉を摘み出す。指の形に開いた穴を埋めるようにサラサラと流れた粉がスプーンを僅かに傾かせる。 しかし、それが倒れるには至らない。長いとも短いとも思わない、普段通りの十秒間が過ぎた。 「……どうやらお前の番に回るようだな」 ふう、と粉を飛ばしてしまわないように顔を逸らして溜め息をつく。 ミラションから見れば俺が安堵してひと息ついたように見えるだろう。だがそれはブラフ。俺はこの勝負、安堵だけじゃあなく緊張も恐怖もしていない。 ここから先は持久戦にはならないだろう。むしろ、超がつく短期決戦になる。問題なのはいつ、どこで今の『吹く音』をテーブルに張り付けるかだが。 そう考えながら椅子に座り直し…… ぞっ―― 「ワタシは『オマエ』の心の影――オマエ、今『ルール』を破ったな?」 急に背後から来た悪寒に振り返る。目の前には毛皮を頭から被ったような……スタンドがいた。 「私は何もしていない。ただ、アンタがルールを破った事を自分で知ってたから『取り立て人』が現れた」 ミラションが呟く。つまり彼女のスタンドだと言う事か。そしてソレは俺のデイパックを摘み上げ、こちらを睨む。 「ソモソモ……エメラルドに対シ、支給品ダケでは額が釣リ合ワナイナ。  紙ニ入ッテタノハ、ホッチキスとフライパン。合わせてもせセイゼイが20ドルッテトコダナ。  ドウスル?足りない分ヲ?思イ浮カベロ……大切なモノを」 その言葉に対し、俺は素直に思い浮かべた。心の底から大切に思っているものを。 一秒、 二秒。 三秒…… 「何してる!マリリン・マンソンッ!コイツから『金目のモノ』を奪いとれッ!」 「……」 スタンドが硬直したことに狼狽するミラションの方を向きなおす。 「俺が心の底から大切だと思っているものは故郷の土地、それだけだ。  そしてそれは今、白人の手にある。俺はそれを奪い返すために『何をしてでも』カネを手に入れるぞ」 俺の言葉にミラションがヒッと小さく喘ぐ。よっぽどスタンドに自信があったようだが…… 「な、なら内臓だッ!マリリン・マンソン!さっさとえぐり出せぇッ!」 そして、絞り出されたその叫びにも取り立て人と呼ばれるスタンドは動かない。 「牛の胃袋は食えるらしいが……人間の内臓なんか、どうするんだ?」 ●●● 背筋に嫌な汗が伝うのが分かった。 コイツは……このインディアンはコスプレ野郎なんかじゃあない。本当に―― 『内臓が高値で売れる事を知らない正真正銘のインディアン』だった。 だとするなら取り立て人は動かない、と言うより、動けない。 本当に大切なもの(土地だと?バカバカしい)が嘘でなく、しかも自分が所有しているものじゃあないから動けない。動きようがない。 サンドマンがバンとテーブルを叩き私の顔を覗き込む。ゆっくりとその唇が形を変える。 何を言うかは分からないが私にとっていい話でない事は直感で理解できるッ!やめろ……やめてくれ…… 「まあいい、払ってやろうじゃあないか。足りない分は俺がこれから『得る』カネだ。  俺はそいつらからカネをもらう。アレは俺が『稼いだ』もので、俺じゃなければ手に入れられなかった。だから俺のカネだ。  取り立てたければそいつのもとを訪ねるんだな。サンドマンのカネを寄越せと。取引の相手は――」 汗だくの手でテーブルをひっくり返す。 「マリリン・マンソンッ!早くそのクソボケから内臓と言う内臓をエグり出せエエェェェ――――ッッッ!!!」 舞い上がる粉が霧になる。 体中の汗にそれが絡みつく感じがして身体が重い。 次第に視界が晴れ、その先にいたのは…… 「惜しかったな」 巻き髪の中年男だった。 「確かに――我々と彼とは取引をした。報酬こそ“後払い”にしていたが、確かにな。  ゆえに、現在我々が預かっているそれは、紛れもなく彼のカネだ……彼が生きている以上はな。死ねば支払いも反故だがね」 状況を理解できていない私を見かねてか、そいつが喋り出す。 「あ……アンタは?い、いやそれよりも、ここはどこだ?」 粉のせいか、それとも緊張、あるいは恐怖のせいか?ひどく喉が渇き、声がかすれた。 「質問は一つずつにしてくれないか?……まずは『アンタは?』に答えてあげよう。私の名はファニー・ヴァレンタイン。  そして、サンドマンは私個人とではなく、我々『アメリカ合衆国』と取引をしたんだよ。  さて、ここからは君の十八番じゃあないのか?『思い浮かべろ、大切なものを』我々と彼との間にあった取引額に見合うようなね」 ヒッ―― もう声に出せていたかどうかすら分からない悲鳴を挙げて私は後ずさる。 「……どうやら、君の負けのようだな。ん?いや勝ってるのか?  サンドマンが思い浮かべた金の在りかが分かって、それを今現在取り立ててるんだから……そう言う意味では勝者は君だと言っていい。  そうだ、ついでに二つ目の質問にも答えてやろう。ここの場所、それは『秘密』だ。  気味のスタンドは非常に優秀で、それゆえここに辿り着いた。だが、それは『ルール違反』だ……このゲームのな。  だから本体である君もこの場に連れてきた。わかるか?この事態を私は許したりはしない」 ドムッ、と鈍い音がした。 ●●● 視界が白から元の部屋に戻った時、俺の目の前にあったのは首がちぎれて死んでいるミラションだった。 何があったのか想像する必要はない。『相手が死ねば勝負なし』と言ったところか。 まぁ、何にせよ戦利品は頂いておくとしよう。粉まみれになって転がっているエメラルドを手に取り、そっと息を吹きかける。 吸い込まれそうな深い深い緑色が、俺の心を少しだけ明るくしたように感じた。 ミラションの支給品もデイパックに詰め込み、考える。必要なのものは、情報だ。 スティーブン・スティールがこのゲームを主催している以上、S・B・Rレース参加者もいるだろう。 いずれにせよ参加者と接触し、情報を集めて回る。 全てはカネのため……いや、故郷のために。 建物を出て、明るみ始めた空に一瞥をくれた後、俺はいつものように走り出した。 ●●● うん、この辺でやめとこうかな。この二人の話はまた今度ね。 いやぁ~まさかイイ大人がマジ顔で棒倒しやるとは俺も思わなかったよ。ハハハ。イカサマ出来るんだね、あのゲーム。 そして、ミラションは早々とこのゲームの本質に首を突っ込んだ。 まあ、何にせよ相手が悪かったって事――ん、いやちゃんと取り立てに行けたあたり自分が優れてて、それで死んだのか?まぁ、どっちでもいいか。 さて……最初に聞いた質問の答えを聞いてなかったな。君たちは賭け事好きかい? ん、俺?普段はカードとパチンコ。あとは彼等がやってたみたいな棒倒しとか、そう言うゲームっぽいギャンブルが好きだね。 最近は麻雀も始めて勉強中だよ。チートイツとかスーアンコーとかね。いやいや、まだ下手っぴさ。 でもね、今練習してるんだよ。握力でもって白の牌を作るのをね…… &color(red){【ミラション 死亡】} &color(red){【残り 108人】} 【F-8→?-? どこかの路上 / 1日目・黎明】 【サンドマン(サウンドマン)】 [スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』 [時間軸]:SBR10巻 ジョニィ達襲撃前 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品×2(ただしパンは一人分)、ランダム支給品1(元ミラションの物・確認済み)、サンドマンの両親の形見のエメラルド、フライパン、ホッチキス [思考・状況] 基本行動方針:金を集めて故郷に帰る 1.故郷に帰るための情報収集をする 2.必要なのはあくまで『情報』であり、次に『カネ』。積極的に仲間を集めたりする気はない。 [備考] ミラションの支給品(ミラションが食べたパン以外の基本支給品、ランダム支給品1)を自分のデイパックの中に入れています。 ミラションとサンドマンがいた建物の一室には粉が散乱しており、また首輪が爆破されたミラションの死体があります。 [支給品情報] フライパン:第4部、JC35巻に登場。ネズミ(虫喰いではない)戦において針を防ぐために仗助が使ったもの ホッチキス:第5部、JC50巻に登場。サーレー戦で負傷したミスタの手当てにフーゴが使ったもの *投下順で読む [[前へ>人魚姫]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら]] *時系列順で読む [[前へ>人魚姫]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |027:[[勝負師ミラション真夜中の賭け事]]|[[ミラション]]|&color(red){GAME OVER}| |027:[[勝負師ミラション真夜中の賭け事]]|[[サンドマン]]|101:[[大統領、Dio、そして……]]| |000:[[オープニング]]|[[ファニー・ヴァレンタイン]]|103:[[第1回放送]]|

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: