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もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら」(2012/12/09 (日) 02:19:53) の最新版変更点

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                 ガ オ ン ッ ッ ! ! ! ―――会場の南西にある牧草地。 ヴァニラ・アイスは『クリーム』の中に姿を隠し、一直線に突き進んでいた。 ときおり暗黒空間から顔だけを出して周囲を確認しつつ、また進むのを繰り返す。 彼の向かう先は主であるDIOの館……ではなかった。 (DIO様はこの殺し合いにおいてわたしの助けなど必要とはすまい。そういうお方だ。  ならば、わたしのすべきことは一つ、DIO様の敵となる『彼ら』を排除すること……  DIO様……このヴァニラ・アイスがジョースター達を必ずや仕止めてごらんにいれます……) ―――殺し合いの場で最初に遭遇したのは妙な言動の男。 わけのわからないことを喋りつつこちらへと攻撃を仕掛けてきたため応戦した。 仕止め切れなかった奴が合流していたのは、あろうことかDIO様の名を利用する愚か者。 (腹立たしいことに顔もどこか似ていた。無論、DIO様には遠く及ばなかったが) 『クリーム』で攻撃を仕掛けるも、予想以上に速い奴らの移動速度と複雑な住宅街に翻弄され、遂には見失ってしまった。 ……まあ、それはいい。気にはなるが、スタンド使いとはいえあんなゴロツキ達などいつでも始末できる。 それよりも今は―――――― 支給された荷物にあった地図を眺める。 見覚えのある場所名に眉をひそめつつも、ヴァニラは自分が行くべき場所を模索し始めた。 (空条邸……奴は、承太郎は死んだ。ならば行く必要などない。  DIO様の館……一刻も早く馳せ参じ………………いや、待てよ) 地図から顔を上げ、辺りを見渡す。 穴だらけになった市街地、その向こうにかすかに牧草地が見えた。 方位磁石でそちらの方角も確認し、再び地図へと目を向ける。 (ここはおそらく地図の南端、フィラデルフィア市街地……  となれば、わたしが向かうべきところは……ここだ!) 目的地を定めたヴァニラは『クリーム』の中に姿を隠すと、一直線に西北西へと向かったのである。 ある意味で、その選択は『幸運』であった。 なぜならば、ヴァニラがまっすぐにDIOの館に向かっていた場合、その針路上の近くにいたのはDIOその人だったのだから。 万に、いや億に一つもありえないかもしれないが、 自身の主を認識できずに『クリーム』でいつのまにか消滅させていたなどというマヌケな事態にはならずに済んだのである。 もちろん、DIOに気が付き、合流していたという可能性も考えれば ある意味で、その選択は『不運』でもあったのだが。 『不運』といえばもう一つ。 実はヴァニラが直進していた牧草地には、参加者が一人いたのである。 彼の名はケンゾー。G.D.S刑務所に服役中の囚人だった。 何所へかは知らないが、歩き続けていたところで彼は妙な異変を感じ取った。 スタンド『龍の夢』を発動して『方角』を確認すると、 驚くべきことに先程確認したときは『大吉』だったはずの自分の進路が『大凶』に変わっていた。 「な、何が一体!?」 ケンゾーは周りに誰もいないことに油断し、いつのまにか安全な方角から足を踏み外していたのである。 慌てて移動しようとするも、その時には既に手遅れ。 一瞬の後、彼の身体は『クリーム』の暗黒空間にバラまかれこの世から消滅していた。 本人に言わせれば、『不運』というより『大凶』というべきかもしれなかったが。 進む『方角』ひとつで『運命』は大きく変わる。それはケンゾーのみならずヴァニラにもいえる事であった。 「……ここか」 こうして、ヴァニラが辿り着いた場所はジョースター邸。 主の宿敵であるジョースターの名を冠する屋敷。 ヴァニラは知る由も無いことだが、そこはある意味で彼の主が『誕生』した場所でもあった。 目的はただ一つ、ジョースターとその仲間の抹殺。 屋敷ごと破壊するという手もあるが、中の構造や潜む人間も分からないまま行うのは愚策である―― そう考えると、ヴァニラは『クリーム』の暗黒空間から完全に姿を現し、入り口に向けて歩き出した。 # ―――会場の最も南西から少し東の地点。 虹村形兆は『バッド・カンパニー』で周囲を確認しつつ牧草地を進んでいた。 その後ろをシーザー・アントニオ・ツェペリが付いていく。 現在、形兆が向かっているのはジョースター邸。 ジョースターの名前が気になるのはもちろん、情報収集のため最も近い建物に向かうのは基本である。 シーザーも何か思うところがあるのか黙って付いて来ていた。 (歩き始めてからここまで二十八分四十五秒……襲うつもりならばとっくにやっているだろう。  ……少なくとも『信用』はできそうだ) 形兆はシーザーをそう評価した。 シーザーに襲われる可能性はまずないと考えた彼は再度自分の荷物を確認する。 調べるうちに気になったのは折りたたまれた紙だった。 裏返しても何も書かれておらず、大して厚みもない紙だったが、開いてみると中から銃が出てきたのである。 (まさか……この紙も、スタンド能力か……?) 驚きはしたが、武器が手に入ったのは幸運である ……と、思ったのは一瞬。 (………………モデルガンか) 調べてみると紛れもない偽物。 ハッタリには使えるかもしれないが、スタンドとはいえ本物の銃があるのだから必要ない。 そう思ってしまっておこうとしたのだが…… 「………………む?」 「どうした?」 後ろから付いてきていたシーザーが耳聡く聞きつけて声をかけてくる。 形兆はモデルガンを紙の中にしまおうと悪戦苦闘しつつ答えた。 「……紙の中に収められん」 「その紙、『使い捨て』だと思うぜ。おれのやつもそうだったしな」 「な、なに!?」 シーザーの言葉に形兆は驚愕する。 (開けると物が出てくる紙なのに、逆に収納することは不可能だと!?  なんということだ……これではキチッとしまうことができないではないか!!) 誰かは知らんが、この紙のスタンド使いとは一度キッチリと話をつけておく必要がある―― 形兆はそう思いつつ、しかたなく懐にモデルガンをしまって次の紙を開ける。 続いて紙から出てきたのはコーヒー味のチューインガム。 (……贅沢は言わんが、もう少し役に立つものは無いのか……?) 形兆は小さくため息を吐きつつ、いつの間にか自分と並んで歩いているシーザーに聞いてみる。 「ところで、お前の紙からは何が出てきたんだ?」 「おれ……? おれは、この石鹸と………………これさ」 シーザーがデイパックから出したのは女物……にしてはやけにサイズが大きい服にアクセサリー、カゴ、テキーラ酒が二本。 「女装セット(テキーラ酒の配達)だそうなんだが……」 「おいおい、こんな服に合うデカイ女が普通いるか? これを着たやつは客観的に自分を見れねーのか?」 「ハッ、違いない。まったく、どんなやつが使ったのか顔を見てみたいもんだぜ」 思わず吹き出しそうになる形兆と、実際に女装した誰かを想像したのか笑い声を上げるシーザー。 とはいえ、二人の間の空気は和んだが実際役に立ちそうにないという意味では変わりない。 形兆は気を取り直すと、先程倒した人面犬の荷物にあった紙を取り出そうとして…… 『バッド・カンパニー』の索敵によって前方に建つ屋敷の前に突然男が現れたということを知った。 既に形兆とシーザーは相手の姿が視界に入る程の距離―――ジョースター邸の門の近くまで来ていた。 見えたのは、ハートのアクセサリーを付けたガタイがいい長髪の……男、だろうか。 「あれは……誰だ?」 シーザーが男を遠めに眺めながら誰にともなく言う。 だが形兆は、自分の目で見たものが信じられない、といった様子で固まっていた。 「おい、お前ッ!」 「………………ハッ!」 シーザーに小声で怒鳴られ、我に返る形兆。 いきなりシーザーの方に向き直ると、早口で話し始めた。 「ここで待っていろ。オレはあの男を『知って』いる」 「本当か?……だとしても、待ってろってのはどういうことだよ?」 「いいから待っていろ」 「あ、おい!」 理由も話さず、反論も許さず、形兆は男の方へと歩いていく。 シーザーは納得できなかったものの、ひとまず様子を見ることにした。 (あいつはJOJOとは別の意味で計算高そうだ、少なくとも考えなしじゃないとは思うが……) 心配というほどではないが、形兆の様子がおかしかったことに一抹の不安はある。 幸い、自分の位置からでも会話は聞き取れそうだったため、シーザーは聞き耳を立てて二人の会話を聞くことに集中した。 # 「ヴァニラ・アイスだな?」 いきなり名前を呼ばれたヴァニラが振り返ると、そこには見覚えのない男が立っていた。 誰かが近づいてくるのはわかっていたが、まさか知らない男に名指しで呼ばれるとは思っていなかった。 自分の名を知るこいつは誰なのか、と警戒しつつ答える。 「………………きさま、何者だ」 「質問を質問で……いや、ここは名乗るのが礼儀だな。オレは虹村。虹村形兆という」 「……虹村、だと……?」 ヴァニラはその名前に聞き覚えがあった。 確かDIO様に肉の芽を埋め込まれ、極東の島国でジョースター達を見張っていたとかいう男の名だ。 しかし、この男が……? 訝しげな表情を読み取ったのか、形兆は言葉を続ける。 「おっと、勘違いしないでもらいたい。おそらく、お前が知っている虹村はオレのおやじだ」 「………………」 「疑っているようだな。ならば今から、おやじとお前達の関係についてオレが知っている限りのことを話してやる」 形兆は話し始める。おやじのこと、DIOのこと、ヴァニラのこと、他の部下たちのこと……………… 無論、DIOの死により肉の芽が暴走したということは伏せて。 ―――虹村形兆は父親が変貌してから10年かけて、肉の芽の治療法を調べるためDIOに関する様々な情報を集め続けていた。 その結果、エジプトでジョースター一行と戦って敗れたとされるDIOの部下の中にヴァニラ・アイスの名があったのを覚えていたのだ。 最も、形兆が興味を持ったのはどちらかといえばそのスタンド能力『クリーム』の方であった。 この世界の空間から完全に姿を消してしまえるスタンド。 自分の弟のスタンドと似てはいるが、それよりも遥かに強力で、それこそおやじを跡形も無く『殺す』ことができるのではないか。 そんな考えを持っていたからこそ、先程ヴァニラを見かけたときには驚いた。 死んだと聞いていた奴が何故ここにいるのだろうか、それとも情報が間違っていたのか。 だが、形兆にとってそんなことはどうでもよかった。 重要なのは、ヴァニラにおやじを『殺して』もらうこと。 今だけは、当のおやじがDIOの部下だったおかげで、こうして会話ができることに彼は感謝していた。 形兆の説明を聞き、ヴァニラはひとまず相手の言っている内容が出鱈目ではないことを理解した。 少なくとも、ジョースター側が決して知るはずのない情報を奴は知っている。 本当に虹村の息子かどうかはわからないが、そう仮定して話を進めても問題は無い、として会話を続けることにした。 「……それで、その虹村の息子がわたしに何の用だ」 「簡単なことだ。『協力』したい」 「……きさまごときの協力が必要とでも思っているのか?」 ヴァニラは相手の要求をにべもなしに断る。 (そもそも、この殺し合いに勝利するのはまぎれもなくDIO様……あのお方は『最強』だ。殺し合いならば勝てる者など考えられぬ。  わたしはあくまで露払い役となるだけだ……もしDIO様と最後の二人になり、自らの首をはねろと命じられれば、  わたしはためらい無く己の首をはねるだろう) そう考えるヴァニラに形兆は質問する。 「ふむ。ヴァニラ、お前は自分が優勝できるとでも?」 「わたしではない。優勝するのは我が主、DIO様だ」 「……ほう。ということは、お前はDIOもまた、殺し合いに参加していると」 「当たり前だろう」 DIOを呼び捨てにする形兆に多少気分を害したものの、何をバカな――と相手にしないヴァニラ。 だが…… 「ならば、この殺し合いを主催したものは、DIOを『強引に』ここに連れてきた。  すなわち、奴よりも優れている……ということではないか?」 「……なんだと!?」 続く質問に激高し、形兆の胸倉をつかむ。 しかし形兆は涼しい顔で言葉を続ける。 「DIOが参加しているのを実際に見たのか、それとも思い込みかは知らんが、  参加しているとすれば先程オレの言ったことは完全に間違いとはいえないだろう。  逆に、もし参加していないとすれば、お前はどうする?」 「……ならば、こんな下らないゲームになど用はない」 相手のペースに引き込まれていると感じつつ、答えを返す。 「つまり、どちらにせよお前は、オレたちはこの殺し合いの主催者をどうにかしないといけないわけだ。そのために『協力』をしたい」 「………………きさまの『目的』はなんだ?」 「主催者を打倒し、このゲームから『脱出』すること」 ヴァニラの問いに形兆が迷いなく答える。 形兆にとって、この言葉は嘘ではなかった。 おやじを殺せるスタンド使いは今、目の前にいるのだから。 逆に、ヴァニラは何も言えなかった。 彼はずっと、主であるDIOが当然この殺し合いに参加していると思っていた。 最初のホールで姿を確認することはできなかったものの、あのとき感じた圧倒的存在感を間違えるはずがない。 しかし参加しているとなると、主催者側は少なくともDIOを無理やり動かせるような『能力』を持つということになる。 ならば、DIOの存在を脅かす者として生かしておくわけにはいかないが、優勝できるのはたった一人。 DIOが優勝するとしても、その時点で主催者は健在ということになる。 殺し合いが終わる前に主催者に挑む方法があったとしても、敵の規模や能力は未知数なのに加えて、首輪の存在が反抗を阻む。 現実的に考えて、自分ひとりで全てをどうにかするというのは不可能に近い。 それが分からないほどヴァニラは愚かではなかった。 そして、もしDIOが参加していないのならば、自分は一刻も早くこのゲームから脱出し、主の元へ戻らねばならない。 その場合でも、やはり主催者の存在が障害となる。 形兆の言葉は、納得は出来なくとも事実には違いないのだ。 相手の胸倉をつかむ手にはもう、力は入っていなかった。 (怒りに任せてこの男を殺すのは簡単なことだが……参加者が減ったとしても現状は何も変わらない。  それに、この殺し合いの直前にテレンス・T・ダービーがジョースター達に敗北した。  仲間と呼べそうなDIO様の部下はもう数えるほどしか残っていない。 『味方』になり得るこの男をここであっさり殺してしまってよいものか?) その思考が、動きを止めていた。 ヴァニラは考え込むそぶりを見せる。 その心の中にあるのは、常に絶えることなきDIOへの異常なまでの忠誠心。 既に、彼の答えは決まっていた。 (DIO様……わたしは、あなたにお仕えする……その考えに微塵も変わりはございません……  もしDIO様がこの『バトル・ロワイアル』に参加していたならば………………  あなたをないがしろにした主催者もまた、必ずやわたしが仕止めてごらんにいれましょう……) ヴァニラは心に想う。 必ず主催者とジョースター達を排除して、DIO様の期待を満たすのだと。 形兆の胸倉をつかんでいた手を離すと、ゆっくりと自分の口を開く。 「………………『協力』とは、どうすることだ?」 「別にたいしたことではない。オレたちは仲間を集め、主催者を討つ。オレたちと共に行動して、その一員となってくれればいい。  もちろん、お前に偉そうに命令するつもりなどない」 「……いいだろう。ただし、きさまが妙なマネをするか、殺し合いにDIO様が参加しており、もしあのお方の意に沿わなければ……」 「その時は、好きにすればいい。オレを殺そうが、どうしようがなァーーーーーーーーッ」 ―――DIOに絶対の忠誠を誓った男は、そのDIOに対する忠誠心ゆえに、折れた。 # 説得を終えた形兆は心の中でほくそ笑む。 (『予定』通りだ) ヴァニラ・アイスは形兆の知る情報の限りでは、DIOに異常なまでの忠誠心を持つ男であった。 そういうタイプは主君に対する危機感をあおり、さらに『主君のためになる』という道を示せば、 寝返るとはいえずともある程度行動をコントロールできる。 (もし説得に失敗した場合は奇襲で首輪を爆破することも考えていたが、予想以上に上手くいった……  後はヴァニラと共に主催者を倒すか、どうにかして殺し合いから脱出し、おやじを殺してもらうだけだ。  ただ、気がかりなのはその前にDIOに遭遇した場合だが……) 会話中は動揺を悟られないようにしたものの、DIOが生きてこの殺し合いに参加しているというヴァニラの確信めいた言葉。 DIOが死んだことでおやじの肉の芽が暴走したことを考えると『生き延びて』いた可能性は低いが、ヴァニラの現実逃避や妄言とも思えなかった。 あるいは、吸血鬼の能力か何かで『生き返った』とでもいうのだろうか? いずれにしても、遭遇したときにやるべきことは決まっていた。 (もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら、オレが直接聞き出してやる! おやじを『治す』方法をッッッ!!) 形兆は心に決める。 必ずおやじをどうにかして、自分自身の『人生』を始めるのだと。 (DIOは実際一度敗れている……すなわち無敵というわけではない。  ならば、戦いになってもどうにかできる『可能性』はあるはずだ。  幸いこちらには吸血鬼に有効な―――) そこまで考えて形兆は思い出す。 「……そうだ、忘れていた。おい、もういいぞ」 シーザーを待機させたのは、吸血鬼の宿敵である彼が会話に参加すると話がこじれる危険性が高かったからだ。 会話はおそらく聞こえていただろうし、説得に成功した今ならばもう大丈夫だろうと考え、形兆は後ろを見て手招きする。 するとシーザーが―――なにやら難しい顔をしながら現れた。 「……誰だ」 「とりあえずお仲間、ということになるんだろうか」 ヴァニラが聞き、形兆もそれに答える。 続いてその視線はシーザーへと向けられた。 「………………」 # ―――シーザー・アントニオ・ツェペリは驚いていた。 会話を聞いていた彼は、最初ヴァニラがディオの部下だと聞き、驚いた。 次いで、形兆の父親に肉の芽を埋め込んだのがディオだと理解し、さらに驚いた。 だが何より驚いたのは、ディオがこの会場にいるかもしれないという点である。 しかし、彼は形兆がヴァニラと手を組もうとするのに納得がいかなかった。 どうして自分の身内の仇である奴の仲間と組もうとするのか。 シーザーをよく知るものならばこの時点で形兆に愛想を尽かし、一人で行動を始めているのではと考えるかもしれない。 何故彼が素直に姿を現したのか、そこにはある『理由』があった。 「……シーザーだ。よろしく」 『誇り』ある自分の姓は名乗らない。教える必要などどこにも無い。 代わりに手を差し出す。 「……馴れ合うつもりなど、ない」 ヴァニラはその手を払いのける。 しかし、シーザーにとってはそれでよかった。 (マンマミヤー……やはりこいつ、『人間』だ!!) 遠くから波紋で探知を行ってもヴァニラは吸血鬼などではなかった。 そして今、手を通して微弱な波紋を流しても相手の手が溶ける様子はない。 柱の男にしろ吸血鬼にしろ、シーザーが今まで見てきた奴らの部下は例外なく『人外』であった。 何故『人間』がディオに従っているのか。 もし形兆の父親と同じように肉の芽で操られているのならばヴァニラは被害者であり、助けなければならない。 あるいは自分の意思でディオに仕えているのならば、許しておくわけにはいかない。 どちらにせよ、ヴァニラの動きに目を光らせておく必要があったのである。 そしてもう一つ。 彼ら、特にヴァニラはディオを探している。 ならば、この二人と共に行動すれば、ディオの元に辿り着けるのではないか? (もしディオがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら、おれが直接とってやる! じいさんの仇をッッッ!!) シーザーは心に誓う。 必ずディオを討ち倒して、一族の『誇り』を受け継ぐのだと。 彼はそのために、不本意ながらもこの二人と共に行動することを決めた。 (この二人には注意するべきだが……待っていろよ、おれのじいさんの因縁であるディオ!!) (DIO様……いるのですか? もし……いるのならば……わたしに道をお示しください……) (オレのおやじに肉の芽を埋め込んだ張本人、DIO……出来れば会いたくはないが、どんな奴なのか……) 三人の『目標』は等しく、されど『目的』は三者三様。 彼らの同行がいつ、どこまで続くことになるかは誰にも分からない。 ともあれ、彼らは屋敷の中へと向かっていった。 ―――最大の鍵となる男が意外とすぐ近くにいる、という事実を知らずに…… &color(red){【ケンゾー 死亡】} &color(red){【残り 89人以上】} 【G-2 ジョースター邸前 / 1日目 黎明】 【チーム 一触即発?トリオ】 【シーザー・アントニオ・ツェペリ】 [能力]:『波紋法』 [時間軸]:後続の方にお任せしますが、少なくともエシディシ撃破後です [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1~2(ベックの物)、トニオさんの石鹸、ジョセフの女装セット [思考・状況] 基本行動方針:主催者(この場にいるなら)柱の男、吸血鬼の打倒 1.しばらくは形兆達についていき、ディオと会ったら倒す 2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく 3.知り合いの捜索 4.身内の仇の部下と組むなんて、形兆は何を考えているんだ? 5.ヴァニラは何故ディオに従う? 事と次第によっては…… 【ヴァニラ・アイス】 [スタンド]:『クリーム』 [時間軸]:自分の首をはねる直前 [状態]:健康、人間 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(未確認) [思考・状況] 基本的思考:DIO様…… 1.DIO様を捜し、彼の意に従う 2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する 3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る 4.あの小僧、自分を『DIO』と呼んでいるだとッ!思い上がりにも程があるッ!許さんッ! ※デイパックと中身は『身に着けているもの』のため『クリーム』内でも無事です。 【虹村形兆】 [スタンド]:『バッド・カンパニー』 [時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1~2(人面犬の物)、モデルガン、コーヒーガム [思考・状況] 基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する 1.上記の目標の為、様々な人物と接触。手段は選ばない。 2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう 3.オレは多分、億泰を殺せない…… 4.音石明には『礼』をする ※他のDIOの部下や能力についてどの程度知っているかは不明です(原作のセリフからエンヤ婆は確実に知っています)。 [備考] ・形兆とシーザーはお互いのスタンドと波紋について簡単な説明をしました(能力・ルール・利用法について) ・ヴァニラは他二人との情報交換は行っていません。 ・三人はまずジョースター邸内を探索する予定です。  その後どうするかは後の書き手さんにお任せいたします。 ※ケンゾーの支給品一式は粉みじんにされました ※ケンゾーの参戦時期はサバイバーによる乱闘が始まる直前からでした 【支給品】 ジョセフの女装セット(2部) シーザー・アントニオ・ツェペリに支給。 ジョセフがナチスの地下施設に潜入しようとしたときの変装に使った服、アクセサリー、化粧道具、カゴ、テキーラ酒二本のセット。 結果はどこからどう見てもバレバレの変装だったため、一目で見破られた。 なにが恐ろしいかってジョセフ本人は自分の女装が見破られない自信があったことである。 コーヒーガム(3部) 虹村形兆に支給。 イギーの大好物であるコーヒー味のチューインガム(箱入り)。 これが無ければイギーは全く言うことを聞こうとしない。 ちなみにコーヒー味のガムは最近ロッテが復刻発売している。 モデルガン(4部) 虹村形兆に支給。 東方良平が仗助に突きつけたモデルガンのリボルバー。 仗助が本物と見間違えるほどの出来だが、弾丸は発射できない。 *投下順で読む [[前へ>獲得]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>Via Dolorosa]] *時系列順で読む [[前へ>獲得]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>Via Dolorosa]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |034:[[揺れる心抱えて]]|[[シーザー・アントニオ・ツェペリ]]|098:[[その男、凶暴につき]]| |025:[[私のDIO様がこんなに来世なわけがない]]|[[ヴァニラ・アイス]]|098:[[その男、凶暴につき]]| |034:[[揺れる心抱えて]]|[[虹村形兆]]|098:[[その男、凶暴につき]]| |&color(blue){GAME START}|[[ケンゾー]]|&color(red){GAME OVER}|
                 ガ オ ン ッ ッ ! ! ! ―――会場の南西にある牧草地。 ヴァニラ・アイスは『クリーム』の中に姿を隠し、一直線に突き進んでいた。 ときおり暗黒空間から顔だけを出して周囲を確認しつつ、また進むのを繰り返す。 彼の向かう先は主であるDIOの館……ではなかった。 (DIO様はこの殺し合いにおいてわたしの助けなど必要とはすまい。そういうお方だ。  ならば、わたしのすべきことは一つ、DIO様の敵となる『彼ら』を排除すること……  DIO様……このヴァニラ・アイスがジョースター達を必ずや仕止めてごらんにいれます……) ―――殺し合いの場で最初に遭遇したのは妙な言動の男。 わけのわからないことを喋りつつこちらへと攻撃を仕掛けてきたため応戦した。 仕止め切れなかった奴が合流していたのは、あろうことかDIO様の名を利用する愚か者。 (腹立たしいことに顔もどこか似ていた。無論、DIO様には遠く及ばなかったが) 『クリーム』で攻撃を仕掛けるも、予想以上に速い奴らの移動速度と複雑な住宅街に翻弄され、遂には見失ってしまった。 ……まあ、それはいい。気にはなるが、スタンド使いとはいえあんなゴロツキ達などいつでも始末できる。 それよりも今は―――――― 支給された荷物にあった地図を眺める。 見覚えのある場所名に眉をひそめつつも、ヴァニラは自分が行くべき場所を模索し始めた。 (空条邸……奴は、承太郎は死んだ。ならば行く必要などない。  DIO様の館……一刻も早く馳せ参じ………………いや、待てよ) 地図から顔を上げ、辺りを見渡す。 穴だらけになった市街地、その向こうにかすかに牧草地が見えた。 方位磁石でそちらの方角も確認し、再び地図へと目を向ける。 (ここはおそらく地図の南端、フィラデルフィア市街地……  となれば、わたしが向かうべきところは……ここだ!) 目的地を定めたヴァニラは『クリーム』の中に姿を隠すと、一直線に西北西へと向かったのである。 ある意味で、その選択は『幸運』であった。 なぜならば、ヴァニラがまっすぐにDIOの館に向かっていた場合、その針路上の近くにいたのはDIOその人だったのだから。 万に、いや億に一つもありえないかもしれないが、 自身の主を認識できずに『クリーム』でいつのまにか消滅させていたなどというマヌケな事態にはならずに済んだのである。 もちろん、DIOに気が付き、合流していたという可能性も考えれば ある意味で、その選択は『不運』でもあったのだが。 『不運』といえばもう一つ。 実はヴァニラが直進していた牧草地には、参加者が一人いたのである。 彼の名はケンゾー。G.D.S刑務所に服役中の囚人だった。 何所へかは知らないが、歩き続けていたところで彼は妙な異変を感じ取った。 スタンド『龍の夢』を発動して『方角』を確認すると、 驚くべきことに先程確認したときは『大吉』だったはずの自分の進路が『大凶』に変わっていた。 「な、何が一体!?」 ケンゾーは周りに誰もいないことに油断し、いつのまにか安全な方角から足を踏み外していたのである。 慌てて移動しようとするも、その時には既に手遅れ。 一瞬の後、彼の身体は『クリーム』の暗黒空間にバラまかれこの世から消滅していた。 本人に言わせれば、『不運』というより『大凶』というべきかもしれなかったが。 進む『方角』ひとつで『運命』は大きく変わる。それはケンゾーのみならずヴァニラにもいえる事であった。 「……ここか」 こうして、ヴァニラが辿り着いた場所はジョースター邸。 主の宿敵であるジョースターの名を冠する屋敷。 ヴァニラは知る由も無いことだが、そこはある意味で彼の主が『誕生』した場所でもあった。 目的はただ一つ、ジョースターとその仲間の抹殺。 屋敷ごと破壊するという手もあるが、中の構造や潜む人間も分からないまま行うのは愚策である―― そう考えると、ヴァニラは『クリーム』の暗黒空間から完全に姿を現し、入り口に向けて歩き出した。 # ―――会場の最も南西から少し東の地点。 虹村形兆は『バッド・カンパニー』で周囲を確認しつつ牧草地を進んでいた。 その後ろをシーザー・アントニオ・ツェペリが付いていく。 現在、形兆が向かっているのはジョースター邸。 ジョースターの名前が気になるのはもちろん、情報収集のため最も近い建物に向かうのは基本である。 シーザーも何か思うところがあるのか黙って付いて来ていた。 (歩き始めてからここまで二十八分四十五秒……襲うつもりならばとっくにやっているだろう。  ……少なくとも『信用』はできそうだ) 形兆はシーザーをそう評価した。 シーザーに襲われる可能性はまずないと考えた彼は再度自分の荷物を確認する。 調べるうちに気になったのは折りたたまれた紙だった。 裏返しても何も書かれておらず、大して厚みもない紙だったが、開いてみると中から銃が出てきたのである。 (まさか……この紙も、スタンド能力か……?) 驚きはしたが、武器が手に入ったのは幸運である ……と、思ったのは一瞬。 (………………モデルガンか) 調べてみると紛れもない偽物。 ハッタリには使えるかもしれないが、スタンドとはいえ本物の銃があるのだから必要ない。 そう思ってしまっておこうとしたのだが…… 「………………む?」 「どうした?」 後ろから付いてきていたシーザーが耳聡く聞きつけて声をかけてくる。 形兆はモデルガンを紙の中にしまおうと悪戦苦闘しつつ答えた。 「……紙の中に収められん」 「その紙、『使い捨て』だと思うぜ。おれのやつもそうだったしな」 「な、なに!?」 シーザーの言葉に形兆は驚愕する。 (開けると物が出てくる紙なのに、逆に収納することは不可能だと!?  なんということだ……これではキチッとしまうことができないではないか!!) 誰かは知らんが、この紙のスタンド使いとは一度キッチリと話をつけておく必要がある―― 形兆はそう思いつつ、しかたなく懐にモデルガンをしまって次の紙を開ける。 続いて紙から出てきたのはコーヒー味のチューインガム。 (……贅沢は言わんが、もう少し役に立つものは無いのか……?) 形兆は小さくため息を吐きつつ、いつの間にか自分と並んで歩いているシーザーに聞いてみる。 「ところで、お前の紙からは何が出てきたんだ?」 「おれ……? おれは、この石鹸と………………これさ」 シーザーがデイパックから出したのは女物……にしてはやけにサイズが大きい服にアクセサリー、カゴ、テキーラ酒が二本。 「女装セット(テキーラ酒の配達)だそうなんだが……」 「おいおい、こんな服に合うデカイ女が普通いるか? これを着たやつは客観的に自分を見れねーのか?」 「ハッ、違いない。まったく、どんなやつが使ったのか顔を見てみたいもんだぜ」 思わず吹き出しそうになる形兆と、実際に女装した誰かを想像したのか笑い声を上げるシーザー。 とはいえ、二人の間の空気は和んだが実際役に立ちそうにないという意味では変わりない。 形兆は気を取り直すと、先程倒した人面犬の荷物にあった紙を取り出そうとして…… 『バッド・カンパニー』の索敵によって前方に建つ屋敷の前に突然男が現れたということを知った。 既に形兆とシーザーは相手の姿が視界に入る程の距離―――ジョースター邸の門の近くまで来ていた。 見えたのは、ハートのアクセサリーを付けたガタイがいい長髪の……男、だろうか。 「あれは……誰だ?」 シーザーが男を遠めに眺めながら誰にともなく言う。 だが形兆は、自分の目で見たものが信じられない、といった様子で固まっていた。 「おい、お前ッ!」 「………………ハッ!」 シーザーに小声で怒鳴られ、我に返る形兆。 いきなりシーザーの方に向き直ると、早口で話し始めた。 「ここで待っていろ。オレはあの男を『知って』いる」 「本当か?……だとしても、待ってろってのはどういうことだよ?」 「いいから待っていろ」 「あ、おい!」 理由も話さず、反論も許さず、形兆は男の方へと歩いていく。 シーザーは納得できなかったものの、ひとまず様子を見ることにした。 (あいつはJOJOとは別の意味で計算高そうだ、少なくとも考えなしじゃないとは思うが……) 心配というほどではないが、形兆の様子がおかしかったことに一抹の不安はある。 幸い、自分の位置からでも会話は聞き取れそうだったため、シーザーは聞き耳を立てて二人の会話を聞くことに集中した。 # 「ヴァニラ・アイスだな?」 いきなり名前を呼ばれたヴァニラが振り返ると、そこには見覚えのない男が立っていた。 誰かが近づいてくるのはわかっていたが、まさか知らない男に名指しで呼ばれるとは思っていなかった。 自分の名を知るこいつは誰なのか、と警戒しつつ答える。 「………………きさま、何者だ」 「質問を質問で……いや、ここは名乗るのが礼儀だな。オレは虹村。虹村形兆という」 「……虹村、だと……?」 ヴァニラはその名前に聞き覚えがあった。 確かDIO様に肉の芽を埋め込まれ、極東の島国でジョースター達を見張っていたとかいう男の名だ。 しかし、この男が……? 訝しげな表情を読み取ったのか、形兆は言葉を続ける。 「おっと、勘違いしないでもらいたい。おそらく、お前が知っている虹村はオレのおやじだ」 「………………」 「疑っているようだな。ならば今から、おやじとお前達の関係についてオレが知っている限りのことを話してやる」 形兆は話し始める。おやじのこと、DIOのこと、ヴァニラのこと、他の部下たちのこと……………… 無論、DIOの死により肉の芽が暴走したということは伏せて。 ―――虹村形兆は父親が変貌してから10年かけて、肉の芽の治療法を調べるためDIOに関する様々な情報を集め続けていた。 その結果、エジプトでジョースター一行と戦って敗れたとされるDIOの部下の中にヴァニラ・アイスの名があったのを覚えていたのだ。 最も、形兆が興味を持ったのはどちらかといえばそのスタンド能力『クリーム』の方であった。 この世界の空間から完全に姿を消してしまえるスタンド。 自分の弟のスタンドと似てはいるが、それよりも遥かに強力で、それこそおやじを跡形も無く『殺す』ことができるのではないか。 そんな考えを持っていたからこそ、先程ヴァニラを見かけたときには驚いた。 死んだと聞いていた奴が何故ここにいるのだろうか、それとも情報が間違っていたのか。 だが、形兆にとってそんなことはどうでもよかった。 重要なのは、ヴァニラにおやじを『殺して』もらうこと。 今だけは、当のおやじがDIOの部下だったおかげで、こうして会話ができることに彼は感謝していた。 形兆の説明を聞き、ヴァニラはひとまず相手の言っている内容が出鱈目ではないことを理解した。 少なくとも、ジョースター側が決して知るはずのない情報を奴は知っている。 本当に虹村の息子かどうかはわからないが、そう仮定して話を進めても問題は無い、として会話を続けることにした。 「……それで、その虹村の息子がわたしに何の用だ」 「簡単なことだ。『協力』したい」 「……きさまごときの協力が必要とでも思っているのか?」 ヴァニラは相手の要求をにべもなしに断る。 (そもそも、この殺し合いに勝利するのはまぎれもなくDIO様……あのお方は『最強』だ。殺し合いならば勝てる者など考えられぬ。  わたしはあくまで露払い役となるだけだ……もしDIO様と最後の二人になり、自らの首をはねろと命じられれば、  わたしはためらい無く己の首をはねるだろう) そう考えるヴァニラに形兆は質問する。 「ふむ。ヴァニラ、お前は自分が優勝できるとでも?」 「わたしではない。優勝するのは我が主、DIO様だ」 「……ほう。ということは、お前はDIOもまた、殺し合いに参加していると」 「当たり前だろう」 DIOを呼び捨てにする形兆に多少気分を害したものの、何をバカな――と相手にしないヴァニラ。 だが…… 「ならば、この殺し合いを主催したものは、DIOを『強引に』ここに連れてきた。  すなわち、奴よりも優れている……ということではないか?」 「……なんだと!?」 続く質問に激高し、形兆の胸倉をつかむ。 しかし形兆は涼しい顔で言葉を続ける。 「DIOが参加しているのを実際に見たのか、それとも思い込みかは知らんが、  参加しているとすれば先程オレの言ったことは完全に間違いとはいえないだろう。  逆に、もし参加していないとすれば、お前はどうする?」 「……ならば、こんな下らないゲームになど用はない」 相手のペースに引き込まれていると感じつつ、答えを返す。 「つまり、どちらにせよお前は、オレたちはこの殺し合いの主催者をどうにかしないといけないわけだ。そのために『協力』をしたい」 「………………きさまの『目的』はなんだ?」 「主催者を打倒し、このゲームから『脱出』すること」 ヴァニラの問いに形兆が迷いなく答える。 形兆にとって、この言葉は嘘ではなかった。 おやじを殺せるスタンド使いは今、目の前にいるのだから。 逆に、ヴァニラは何も言えなかった。 彼はずっと、主であるDIOが当然この殺し合いに参加していると思っていた。 最初のホールで姿を確認することはできなかったものの、あのとき感じた圧倒的存在感を間違えるはずがない。 しかし参加しているとなると、主催者側は少なくともDIOを無理やり動かせるような『能力』を持つということになる。 ならば、DIOの存在を脅かす者として生かしておくわけにはいかないが、優勝できるのはたった一人。 DIOが優勝するとしても、その時点で主催者は健在ということになる。 殺し合いが終わる前に主催者に挑む方法があったとしても、敵の規模や能力は未知数なのに加えて、首輪の存在が反抗を阻む。 現実的に考えて、自分ひとりで全てをどうにかするというのは不可能に近い。 それが分からないほどヴァニラは愚かではなかった。 そして、もしDIOが参加していないのならば、自分は一刻も早くこのゲームから脱出し、主の元へ戻らねばならない。 その場合でも、やはり主催者の存在が障害となる。 形兆の言葉は、納得は出来なくとも事実には違いないのだ。 相手の胸倉をつかむ手にはもう、力は入っていなかった。 (怒りに任せてこの男を殺すのは簡単なことだが……参加者が減ったとしても現状は何も変わらない。  それに、この殺し合いの直前にテレンス・T・ダービーがジョースター達に敗北した。  仲間と呼べそうなDIO様の部下はもう数えるほどしか残っていない。 『味方』になり得るこの男をここであっさり殺してしまってよいものか?) その思考が、動きを止めていた。 ヴァニラは考え込むそぶりを見せる。 その心の中にあるのは、常に絶えることなきDIOへの異常なまでの忠誠心。 既に、彼の答えは決まっていた。 (DIO様……わたしは、あなたにお仕えする……その考えに微塵も変わりはございません……  もしDIO様がこの『バトル・ロワイアル』に参加していたならば………………  あなたをないがしろにした主催者もまた、必ずやわたしが仕止めてごらんにいれましょう……) ヴァニラは心に想う。 必ず主催者とジョースター達を排除して、DIO様の期待を満たすのだと。 形兆の胸倉をつかんでいた手を離すと、ゆっくりと自分の口を開く。 「………………『協力』とは、どうすることだ?」 「別にたいしたことではない。オレたちは仲間を集め、主催者を討つ。オレたちと共に行動して、その一員となってくれればいい。  もちろん、お前に偉そうに命令するつもりなどない」 「……いいだろう。ただし、きさまが妙なマネをするか、殺し合いにDIO様が参加しており、もしあのお方の意に沿わなければ……」 「その時は、好きにすればいい。オレを殺そうが、どうしようがなァーーーーーーーーッ」 ―――DIOに絶対の忠誠を誓った男は、そのDIOに対する忠誠心ゆえに、折れた。 # 説得を終えた形兆は心の中でほくそ笑む。 (『予定』通りだ) ヴァニラ・アイスは形兆の知る情報の限りでは、DIOに異常なまでの忠誠心を持つ男であった。 そういうタイプは主君に対する危機感をあおり、さらに『主君のためになる』という道を示せば、 寝返るとはいえずともある程度行動をコントロールできる。 (もし説得に失敗した場合は奇襲で首輪を爆破することも考えていたが、予想以上に上手くいった……  後はヴァニラと共に主催者を倒すか、どうにかして殺し合いから脱出し、おやじを殺してもらうだけだ。  ただ、気がかりなのはその前にDIOに遭遇した場合だが……) 会話中は動揺を悟られないようにしたものの、DIOが生きてこの殺し合いに参加しているというヴァニラの確信めいた言葉。 DIOが死んだことでおやじの肉の芽が暴走したことを考えると『生き延びて』いた可能性は低いが、ヴァニラの現実逃避や妄言とも思えなかった。 あるいは、吸血鬼の能力か何かで『生き返った』とでもいうのだろうか? いずれにしても、遭遇したときにやるべきことは決まっていた。 (もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら、オレが直接聞き出してやる! おやじを『治す』方法をッッッ!!) 形兆は心に決める。 必ずおやじをどうにかして、自分自身の『人生』を始めるのだと。 (DIOは実際一度敗れている……すなわち無敵というわけではない。  ならば、戦いになってもどうにかできる『可能性』はあるはずだ。  幸いこちらには吸血鬼に有効な―――) そこまで考えて形兆は思い出す。 「……そうだ、忘れていた。おい、もういいぞ」 シーザーを待機させたのは、吸血鬼の宿敵である彼が会話に参加すると話がこじれる危険性が高かったからだ。 会話はおそらく聞こえていただろうし、説得に成功した今ならばもう大丈夫だろうと考え、形兆は後ろを見て手招きする。 するとシーザーが―――なにやら難しい顔をしながら現れた。 「……誰だ」 「とりあえずお仲間、ということになるんだろうか」 ヴァニラが聞き、形兆もそれに答える。 続いてその視線はシーザーへと向けられた。 「………………」 # ―――シーザー・アントニオ・ツェペリは驚いていた。 会話を聞いていた彼は、最初ヴァニラがディオの部下だと聞き、驚いた。 次いで、形兆の父親に肉の芽を埋め込んだのがディオだと理解し、さらに驚いた。 だが何より驚いたのは、ディオがこの会場にいるかもしれないという点である。 しかし、彼は形兆がヴァニラと手を組もうとするのに納得がいかなかった。 どうして自分の身内の仇である奴の仲間と組もうとするのか。 シーザーをよく知るものならばこの時点で形兆に愛想を尽かし、一人で行動を始めているのではと考えるかもしれない。 何故彼が素直に姿を現したのか、そこにはある『理由』があった。 「……シーザーだ。よろしく」 『誇り』ある自分の姓は名乗らない。教える必要などどこにも無い。 代わりに手を差し出す。 「……馴れ合うつもりなど、ない」 ヴァニラはその手を払いのける。 しかし、シーザーにとってはそれでよかった。 (マンマミヤー……やはりこいつ、『人間』だ!!) 遠くから波紋で探知を行ってもヴァニラは吸血鬼などではなかった。 そして今、手を通して微弱な波紋を流しても相手の手が溶ける様子はない。 柱の男にしろ吸血鬼にしろ、シーザーが今まで見てきた奴らの部下は例外なく『人外』であった。 何故『人間』がディオに従っているのか。 もし形兆の父親と同じように肉の芽で操られているのならばヴァニラは被害者であり、助けなければならない。 あるいは自分の意思でディオに仕えているのならば、許しておくわけにはいかない。 どちらにせよ、ヴァニラの動きに目を光らせておく必要があったのである。 そしてもう一つ。 彼ら、特にヴァニラはディオを探している。 ならば、この二人と共に行動すれば、ディオの元に辿り着けるのではないか? (もしディオがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら、おれが直接とってやる! じいさんの仇をッッッ!!) シーザーは心に誓う。 必ずディオを討ち倒して、一族の『誇り』を受け継ぐのだと。 彼はそのために、不本意ながらもこの二人と共に行動することを決めた。 (この二人には注意するべきだが……待っていろよ、おれのじいさんの因縁であるディオ!!) (DIO様……いるのですか? もし……いるのならば……わたしに道をお示しください……) (オレのおやじに肉の芽を埋め込んだ張本人、DIO……出来れば会いたくはないが、どんな奴なのか……) 三人の『目標』は等しく、されど『目的』は三者三様。 彼らの同行がいつ、どこまで続くことになるかは誰にも分からない。 ともあれ、彼らは屋敷の中へと向かっていった。 ―――最大の鍵となる男が意外とすぐ近くにいる、という事実を知らずに…… &color(red){【ケンゾー 死亡】} &color(red){【残り 107人】} 【G-2 ジョースター邸前 / 1日目 黎明】 【チーム 一触即発?トリオ】 【シーザー・アントニオ・ツェペリ】 [能力]:『波紋法』 [時間軸]:後続の方にお任せしますが、少なくともエシディシ撃破後です [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1~2(ベックの物)、トニオさんの石鹸、ジョセフの女装セット [思考・状況] 基本行動方針:主催者(この場にいるなら)柱の男、吸血鬼の打倒 1.しばらくは形兆達についていき、ディオと会ったら倒す 2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく 3.知り合いの捜索 4.身内の仇の部下と組むなんて、形兆は何を考えているんだ? 5.ヴァニラは何故ディオに従う? 事と次第によっては…… 【ヴァニラ・アイス】 [スタンド]:『クリーム』 [時間軸]:自分の首をはねる直前 [状態]:健康、人間 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(未確認) [思考・状況] 基本的思考:DIO様…… 1.DIO様を捜し、彼の意に従う 2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する 3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る 4.あの小僧、自分を『DIO』と呼んでいるだとッ!思い上がりにも程があるッ!許さんッ! ※デイパックと中身は『身に着けているもの』のため『クリーム』内でも無事です。 【虹村形兆】 [スタンド]:『バッド・カンパニー』 [時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1~2(人面犬の物)、モデルガン、コーヒーガム [思考・状況] 基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する 1.上記の目標の為、様々な人物と接触。手段は選ばない。 2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう 3.オレは多分、億泰を殺せない…… 4.音石明には『礼』をする ※他のDIOの部下や能力についてどの程度知っているかは不明です(原作のセリフからエンヤ婆は確実に知っています)。 [備考] ・形兆とシーザーはお互いのスタンドと波紋について簡単な説明をしました(能力・ルール・利用法について) ・ヴァニラは他二人との情報交換は行っていません。 ・三人はまずジョースター邸内を探索する予定です。  その後どうするかは後の書き手さんにお任せいたします。 ※ケンゾーの支給品一式は粉みじんにされました ※ケンゾーの参戦時期はサバイバーによる乱闘が始まる直前からでした 【支給品】 ジョセフの女装セット(2部) シーザー・アントニオ・ツェペリに支給。 ジョセフがナチスの地下施設に潜入しようとしたときの変装に使った服、アクセサリー、化粧道具、カゴ、テキーラ酒二本のセット。 結果はどこからどう見てもバレバレの変装だったため、一目で見破られた。 なにが恐ろしいかってジョセフ本人は自分の女装が見破られない自信があったことである。 コーヒーガム(3部) 虹村形兆に支給。 イギーの大好物であるコーヒー味のチューインガム(箱入り)。 これが無ければイギーは全く言うことを聞こうとしない。 ちなみにコーヒー味のガムは最近ロッテが復刻発売している。 モデルガン(4部) 虹村形兆に支給。 東方良平が仗助に突きつけたモデルガンのリボルバー。 仗助が本物と見間違えるほどの出来だが、弾丸は発射できない。 *投下順で読む [[前へ>獲得]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>Via Dolorosa]] *時系列順で読む [[前へ>獲得]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>Via Dolorosa]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |034:[[揺れる心抱えて]]|[[シーザー・アントニオ・ツェペリ]]|098:[[その男、凶暴につき]]| |025:[[私のDIO様がこんなに来世なわけがない]]|[[ヴァニラ・アイス]]|098:[[その男、凶暴につき]]| |034:[[揺れる心抱えて]]|[[虹村形兆]]|098:[[その男、凶暴につき]]| |&color(blue){GAME START}|[[ケンゾー]]|&color(red){GAME OVER}|

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