「ハァ……ハァ…………ッ!」

近づいてくる。一歩、また一歩。
動けない。まるで自分の体が石になったかのように。
脚は言うことをきかず、ただただ震えるのみ。身体を支えるのでいっぱいっぱい。
手に持った竿が揺れる。攻撃? とんでもない。竿を持っている、そのこと自体が奇跡みたいなものだ。
試しに力をこめてみる。弱弱しく、申し訳程度の圧力が竿にかかり、ペッシは『まだ』自分の手が機能してることを理解した。

「ううう、ウゥゥゥ…………ッ!」

呼吸が、うまくできない。恐怖? 緊張? 脅え?
全部だ。負の感情を全てごった煮、放り込み、ごちゃ混ぜにされていると考えてほしい。
背負いきれない感情はとめどなく腹の底からわき上がりペッシを圧迫していく。身体的にも、精神的にも。

口の中に沸き上がった酸っぱいもの。胃が縮み身体がよじれる。
噴水でも頭についてるかのようにとめどない冷や汗が流れ落ち、また流れる。
だめだ……もう、限界だッ…… こんな状況にいるぐらいなら、もう、いっそのこと……ッ


「ククク…………」


ビクゥッ!!

感情を読み取られたかのように笑い声が鼓膜を震わした。薄暗がりの中、ぼんやり見える相手の輪郭は巨大の一言。
まさか相手は……自分の感情すらわかるのか? いや、まさか……ッ
その間も相手との距離はどんどん縮まっていく。列車二本分はゆうにあったであろう距離が短く、短く。

殺るなら……もうこの距離しかないッ
薄暗い町中、住宅街。まだ許容範囲だ。闇夜であろうと相手の姿形は見えている。
スタンド、『ビーチ・ボーイ』! この距離、この的のでかさなら外しようがないッ
どれだけ自分に自信がなかろうが、この条件なら殺れるッ いいや、殺らなきゃ……殺られるッ!

「『ビーチ・ボーイ』!!」

高速で弾き飛ばされた針は目標へと一直線に向かって行く。
弾丸にも勝るとも劣らない速さ。例えスタンド使いであろうとこいつを避けることは不可能。対処するのであれば必ず防御に回るはず。
それこそが彼の狙いッ 一度針が体内に入り込んでしまえば……後は焦る必要もない。
ジワリジワリ追いつめるのも、命を盾に交渉・恐喝してしまうのもこちらの裁量次第ッ 圧倒的アドバンテージッ

「……えっ」

そう、“普段”のペッシであればなんてことはないであろう。
キツ~く厳し~い“兄貴”の前で萎縮していようとも、流石のペッシも10mに満たない距離でスタンド攻撃を外したことはなかった。
だが今の状態、状況、環境はッ! まさに“普通”とはかけ離れたものッ!
異常、極端、最悪ッ! 今のコンディションはまさに想定される範疇を大きく超えていたッ!
そしてなにより―――

「相手が悪かったようだなァ……“坊主”」

鼻には大きなリング、頭に巻くは民族風ターバン。筋骨隆々、溢れんばかりのエネルギー。
二メートルを超える大男の名はエシディシ。柱の男 ――― 人は彼のことそう呼ぶ。

エシディシは一瞬の間にペッシの背中を取っていた。低く轟くような甘美な声。うめき声が遮るように同じ方向から聞こえてきた。
振り向くペッシ。相手は何もしない。堂々と身を隠すことなく、ただ含み笑いとともに直立するのみ。
瞬間、ペッシは後悔。微かに残っていた赤みがペッシの顔から消え、能面のように真っ白となった。

エシディシの存在を知覚した時から、途切れ途切れに聞こえていた謎の声。
あまりにも大きすぎた恐怖を前にかき消されていたが、面と面を向かい合わされては嫌でも目に、耳に飛び込んでくる。

男は“食事中”であった。右肩と右腕からニョキッと生えた異形のものがだらしなくぶら下がっている。
柱の男の生体ッ 身体全体を使っての捕食ッ! 無造作にはみ出ているものは“残りかす”だ。暗殺チーム、ホルマジオという男の名前の食べカス。
体に乱雑に突き刺さるホルマジオの頭部と右腕。未だ完全に殺されることなく生殺し、その中途半端さがグロテスクな様子に拍車をかける。

「ペッシィイィにげるんだぁあぁあぁ……」

白目をむき、口角から泡を飛ばし、焦点が合わぬ目で、それでも仲間に対し叫び続ける。
狂ったテープレコーダが見慣れた顔から耳慣れた声で叫び続けている。言葉にすれば簡単だが、こんなにも残酷で、こんなにも惨い。
エシディシがペッシに近づく。歩くたびにゆらゆらとホルマジオの僅かに残った腕と首が揺れた。

「……ゥゥッ!」
「にげ、るんだぁあぁぁあぁ…………」
「…………うわああああああああああああああああああああああ」

極限状態のペッシが選んだ選択肢は攻撃。追い込まれたネズミ、猫をも噛む。
半べそに錯乱状態のヤケクソ。超至近距離から二度目の釣針がエシディシにむかって飛んでいく。
だが相手は猫、なんてクソ優しいものではない。飛んできた釣針をいとも簡単にキャッチ。そして腕の筋肉が爆発するかのような力で糸を引っ張ったッ

釣竿を放り投げればよかったのに。だが極限まで追い込まれた時、果たして人はそんなに冷静になれるだろうか。
ペッシは掴んでいた『釣竿』に引っ張られ、空を飛ぶ。釣針の持ち主、エシディシの元へ向かい、飛んでいく。

ペッシの視界。迫ってくる肉体、凶暴な笑みの男。
エシディシが大きく、大きくなっていき……エシディシとの距離が近づき、近づいていき……。
最後に見たのは視界一杯にふさがる鍛え抜かれた肉体。そして―――




ズルゥゥゥウ……









真夜中の住宅街。肉をすり潰すような、気味の悪い音が響いていた。

「ほうほう、なるほどなるほど。ほかになにかルールはあるのか?」
「スタンド本、体との距離が遠……く離れれば離れ、るほど、パワーや細かい作業ができなってい、く」
「FUM……どおりで興味深いなスタンドとは。人間も随分と進化したものだ」

食事、兼、情報収集。虚ろな表情のペッシの上半身がエシディシの腹から突き出ている。
前菜“ホルマジオ”をぺろりと平らげ、第二の料理へ。腹が減っては戦ができぬ、を文字通り体言する柱の男。
ジュブリ、ジュブリと音をたてる肉体。消化は順調に進んでいる様子である。

と、その時 ――― 熱心に食事と尋問を続けるエシディシの耳が、不意に乾いた音を捕えた。
あぐらをかき、道のど真ん中に座り込んだエシディシの耳に飛びこむ、固いコンクリートを踏み叩く音。
会話を続けながらも反響音からその距離を探る。100メートル、角を曲がる……50メートル、同じ通りに出た。

近づいてくる靴音。構わずペッシとの会話を続けるうちに、音はどんどん大きくなっていく。
スタンド能力の基本知識、形状、種類、能力例。現代の人間のギャング組織について、ペッシという人物とその周辺関係。
聞けることは聞きだし、覚えるべきことは覚える。そうする間にも靴の音はだんだんと大きくなっていく。
やがてこれ以上無視できない、とエシディシが判断するまでに距離は縮まり……ピタリと脚は止まった。

――不審、戸惑い。
――背を取ったというのに何もしないとは。
――人間は人間が“食べられてる”のをみると大なり小なり喚くはずだがなァ。

だが会話はやめない。やがて聞きだすべき事を聞きだし終えると、まるで飛び出た引き出しを棚にしまうかのような気軽さでペッシの頭を軽く押しこむ。
体内に消えていく一人の人間だったモノ。暗殺を専門とする二人の男、怪物を前にその腹を満たしたのみ。
立ちあがり少し伸びをすると、満腹となった胃をポンと一触り。そうして、ようやく振り返った先に立っていたのは一人の男。

食事を邪魔することなく、殺気を振りまくでもなく。
“異端” ――― エシディシは意図せず溜息を漏らしてしまった。
彼の最大のライバルにして時間つぶしの相手、波紋戦士に限りなく近く、限りなく遠いような存在が目の前にいた。

「……待たせたかな?」

何故だか笑いがこぼれる ―― コイツは何だ? ちょっと面白そうだぞ。
近かった距離をさらに詰める。超至近距離、そう呼べる距離からジロジロと舐めるように相手を見つめる。
表情、ほんのわずかだが強張る。筋肉、収縮あり。体温上昇。発汗、活性化。呼吸、乱れ気味。
確かに圧力(プレッシャー)を感じる人間の自然反応が観察できるというのに……この男は何か違う。だがその“何か”がわからない。
何だかわからんが、いいぞ、“これ”は。暇つぶしになりそうだ……ッ

「唐突だが自己紹介させていただく。名はリンゴォ・ロードアゲイン。きっかり6秒だけ、それ以上でも以下でもない、時を巻き戻すことができるスタンド使い。
 スタンドの名は『マンダム』。右手首に巻いたこの腕時計のつまみをスイッチとして……マンダムはその能力を発動する。
 その間の記憶はしっかり残っている。時を巻き戻せば『し終わった』という記憶だけが残る。
 そして何度でも……時を戻すのに6秒以上感覚を開ければ、時を巻き戻すことができる」
「ほぅ……それで、その時を操るスタンド使いがこの俺に何の用かな?」
「このオレを『殺し』にかかってほしい。公正なる果たし合いは自分自身を人間的に成長させてくれる。
 卑劣さはどこにもなく……漆黒の意志による殺人は、人として未熟なこのオレを聖なる領域へと高めてくれる。
 『男の世界』。乗り越えなければならないもののために、オレは……戦わなければならない」
「……男の世界。男の世界か! フッフッフッ……! こいつは面白い。お前は何処か他の人間とは違うと思っていたが、なんてことはない、いつの時代も人間は変わらぬものだなァ?
 波紋戦士も誠実さとやらを大切にしていた奴がいたぞ。正々堂々、騎士道精神だと言ってな。尤も、このエシディシを前に敢え無く散っていったがね。
 下らんなァ……何を望んでそう早死にしたがるのだ? 何故人間は繰り返しても学ばぬマヌケばかりなのだ、UNNN?」

敢えて大げさに笑い声をたてる。笑いが堪えぬとあたかも本当に感じているかのように。
効果のほどは定かでないが、目の前の人間の顔に、僅かだが赤みがさした。微かな隙間を縫いこの男の激情を感じる。ほの暗く、底の知れない漆黒の激情が。
笑いが一段落するもニヤニヤ笑いをひっこめることはしない。それでもエシディシはゆっくりと腕組を解く。余裕綽々な態度は崩さない。あくまで自分は上、コイツは下だ。
仮に目の前の男の言葉が本当であるならば攻撃手段は何らかの武器、兵器。未だ経験が少ないスタンドとやらで攻撃されれば足元をすくわれることもあろう。だが白兵戦でこ

の柱の男を相手しようと……?
笑止ッ たかが人間が随分となめ腐ってくれるでないかッ

エシディシから発せられた熱が見えぬ力となり、リンゴォに襲いかかる。
男は黙って本来銃を納める場所からナイフを二本取り出す。左右一本づつ持つと、手に馴染ませるように、ぐっと力を込めた。
怖気づく様子、なし。一歩も引かない。エシディシを前にしても決して押し負けるようなことはない、力強い眼光。そこらの獣よりよっぽど飢えと渇きに満ち溢れた目つきだ。


果たして目の前の人間はどれだけ自分を楽しませてくれるであろうか? せいぜい時間つぶしになればいいが。
一体どれほど持つだろうか。試してみたい。死を前にしてもその冷静さ、保っていられるか。


戦いの合図 ――― 何の合図もなしに、だが本能的にであろう、二人は後ろに同じ距離だけ下がった。視線に映るは互いの姿のみ。
極寒の冬の夜のような、身体が引き締まっていく感覚。今の緊張感を表すのであれば、そう言える。
張りつめた糸。断ち切るのはどちらか。互いに交わる視線。王者の余裕と漆黒の意志。



かたや表情は余裕の笑み、侮蔑と嘲りを込め――
かたや表情は殺意のこわばり、敬意と覚悟を込め――



自然と両者が口にする。どちらからともなく口を開いた。



「「よろしくお願い申しあげます」」











キィイン!

甲高い音とともに銀色の破片が空を舞い……くるくるくるくる、回転。
刃を下に向けたまま直角と言っていい角度で、その折れた切っ先がアスファルトに突き刺さった。
“四つ目のナイフ”がこれで駄目になった。残りは二本。
左から頭部を狙った一刺し。狙われた大男はあくびを噛み殺しながら一瞥することなく、その脚を一閃。矢のような速さ、オモチャの人形かのような柔軟性。
エシディシの蹴りが襲いかかり、手に持っていた刃物をかっさらっていった。ご丁寧にも、その足の指で挟んで。
これで“五本目”。

「……ッ!」

何でもないように見えた一撃。それですらただ事でないダメージを拳に負わせる。
左手を抑え、その場で片膝を突くリンゴォ。体力も限界に近かった。ほぼ一方的に攻め続けていたというのに、彼が果たしたことはただいたずらに体力を消耗したのみ。

「もうおしまいか? お前の言う“公正”とやらを満たすには、あとどれぐらいハンデを与えればいいのかな? NN?」
「ッ!」

獣のような勢い。なんの警戒も見せずに無防備に近づいたエシディシに、リンゴォは懐に隠していた最後の一本を突きたてようと飛びかかる。
だが当然のように組み伏せられる。“動いてから”反応する。それでことたりてしまう。本質的に違うのだ、男と柱の“男”では。
駄々をこねる子供から取り上げるように武器は手からもぎ取られ、ぽいと放り投げられた。
必死で抵抗するリンゴォ。片手で大の男を押さえつけるエシディシ。果たして全力の何十パーセント、いや、何パーセントを使っているのだろうか。
子供と大人、それ以上の差が二人の間に横たわっていた。

「人間的に成長……漆黒の意志による殺人……それがこの結果だとしたならば、滑稽だなァア、リンゴォ・ロードアゲイン!」
「こ、ろ…………せ」
「殺せ、とな? 死を望むか。まるで死が勇敢である証拠であるかのようだな」

ヒュウ、ヒュウ、とリンゴォの喉が荒れ、乱れる。首を掴まれ押さえつけられているのだ。
柱の男がその気になれば今すぐにでも彼を殺すことができる。ほんの少し力を込めれば。ほんの少し手首に力を込めれば。
だがしない。しばらくの間リンゴォを黙って見つめ、そのまま時が流れる……。そしてエシディシは手を離し、立ちあがった。
なにごともなかったかのように。無関心、無興味。

「なッ!?」

興が削がれた。期待した分、がっかりだ。スタンド、兵器、武器。だが本質的な部分は変わらない。
人間はどこまで追っても人間。コイツもただの変わり種の中の一人。命を大切にしない、ただの“蛮勇”なだけ……。

「“食後”の運動としてはなかなかだったな。さて、どうするか……カーズとワムウははたしてこの場にいるのだろうか。
 しまったなァアア~~~さっきの説明とやらの時に探しておくのだったなァ。
 まあいい、仲間を探すのも一興。誰もいなければ皆殺しにして、さっさと奴らの元に帰るのみだ」

あたかも戦闘などなかったかのように。自分のデイパックに近づくと、エシディシは中から地図を取り出そうと無防備な背中を見せる。
呆然とするリンゴォ。だが次の瞬間、ばね仕掛けのように先ほど弾き飛ばされたナイフに飛びつき――

「ガフッ」
「思いあがるなよ、人間……! いつでも殺そうと思えば殺せるのだッ」

車にはねられたかのような勢いで、住宅の生け垣に突っ込むリンゴォの体。殴られたのか、蹴られたのか。それすらわからなくなるような速度の攻撃。
ひたひたと裸足の脚が地を蹴る音。目の前を通り過ぎていく男の体。
リンゴォは重くけだるい右手を必死で動かす。生垣に突っ込んだ際骨が折れたのかもしれない。それでも無理やり手を動かし、動かし―――


ドォオオオ―――――…………ン


二人は馬乗りになった状態まで『巻き戻る』。エシディシは上、リンゴォは下。
パチクリ、と目を瞬かせる上の人物。説明には聞いていたがまさか本当に時が巻き戻るとは。体験した時の動きに少し新鮮さを感じた。
が、彼の行動に変わりはない。リンゴォをすぐ近くの民家の壁に叩きつけると、再び歩き出す。
さて、どこを目指そうか。次の目的地は……

ドォオオオ―――――…………ン

繰り返す。何度であろうとリンゴォは繰り返す。エシディシ、二度目の時空体験。
大きな窓が目立つ一軒の民家。次の瞬間、ガラスをまきちらし傷だらけになりながら窓から突っ込む一人の男。。歩き出す大男。

ドォオオオ―――――…………ン

煙突に突き刺さるリンゴォの身体。

ドォオオオ―――――…………ン

マンホールに落とされるリンゴォ。

ドォオオオ―――――…………ン

燃えるごみは月・水・金。ゴミ箱に逆さに突っ込まれる。

ドォオオオ―――――…………ン



…………




「いつまでやれば気が済むのだ? いい加減オレは先に進みたいのだが、リンゴォよ」
「何度でも繰り返せる、そう言ったはずだ……。ここを出て行きたければオレを殺すしかない……。
 『男の世界』は……光輝く道を前進するのみッ オレを殺せないであるのであれば……貴様はうそつき、ということになる……!」

頬をかるく掻く。困ったことになった。正直もはや男の道なんぞはどうでもいい。うそつきになろうが恥知らずと言われようが、元々自分の性格上、人間の戯言なんぞは気にならない。
だがここでリンゴォの口車に乗せられてコイツを殺してもそれはそれで面白くない。
勝った負けた、ではないが傷一つ負わなかった相手の思い通りになるというのは何か気に食わない。さて、どうしたものか。
しばらくの沈黙の後、エシディシは何かひらめいた表情。そして笑顔。それもとびッきりの。
倒れ伏すリンゴォに近づくとニヤニヤとした笑みを浮かべる。そして大げさに溜息を吐くと、仕方あるまい、そう言った。

スッと掲げられる手。リンゴォは目を細める。
彼は知っている。その手がどれだけ素早く力強く動くのか、どれだけ切れ味鋭い刃となるのか。
自分の心臓を一突きせんと手が動く、と思われたが……

ガッ!

顎を掴まれ、口を覆われる。思わず漏れた苦悶の声も、その掌に押され消えてしまう。

「ところでリンゴォォオオ~~~……、貴様イイ身なりをしているなァ?
 ガンマンのなりに給料はイイのか? ン? そもそもどうやって生計を立ててるのだ? 農夫か? 暗殺業か?
 にしてもオシャレだなァ~~。こじゃれた服装、無骨なホルスター、ちょっと生えたダンディな顎髭。
 どれをとってもオレには真似できんなァ~~まったくうらやましいかぎりだ!」

なにか、嫌な予感がした。だがどうしようもできない。どうしようもできないからこんな状況に陥っているのだ。

「そしてなにより……素敵な素敵な腕時計をお持ちだなァ―――!?」

くぐもった叫び声はかき消された。右肘辺りをオーブンで焼き焦がされたかのような熱、そして針が千本は流し込まれたかのような猛烈な痛み。
目の前で火花が散り、どうしようもならないような悲鳴が抑えきれずに湧き上がる。まるで体の中で怪物が暴れまわっているかのようだ。
地べたに這いつくばり、身をよじるリンゴォを残し大笑いのエシディシはその場を後にする。
その手にリンゴォの『右腕』を持って。


「BAOOOOOOOOOOOOOOO!! この時計は、腕ごと借りて行くぞ、リンゴォ―――ッ!!
 返してほしければ、力づくで奪うがいいさッ UHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


そして笑い声は次第に小さくなり……やがて聞こえなくなった。








ジャガーがジャングルを駆け回るように、エシディシも現代のジャングル、鉄筋と瓦の森を飛び跳ねて行く。
清々しい気分……イイ気味だッ 死を畏れないものへの最大の屈辱ッ 見逃『される』という行為ッ!
今頃奴は一体どんな顔をしているだろうか? 悔しみ? 悲しみ? 案外もう野垂れ死んでいるかもしれない。
腕一本持っていかれたのだ。あのまま失意に沈み、治療もせずに放っておいたならば長くは持たないであろう……。

「NN?」

と、そこでエシディシは奇妙な事に気づく。自らが所持するデイパックが細かく振動している。まるで中で何かが暴れているような。
はて、どうしたものだろうか。好奇心に負け、足をゆるめ、一休憩。中から何が出てくるのだろうかと期待に胸を膨らませ―――

「!?」

デイパックの中から『貸してもらった」リンゴォの腕が飛び出てきた。流石の柱の男も何千、何万年生きてきたとはいえ、空飛ぶ片腕なんぞは見たことも聞いたこともない。
とはいえ、これはエシディシの戦利品にして借りたもの。猛スピードで飛んでいくリンゴォの腕を改めて捕まえようとして―――

「やめだ」

爆発的な跳躍のため収縮した両腿の筋肉がゆるんでいく。これもきっとスタンド能力の一つだろう。一体どんなスタンド能力か、検討もつかないが……だからこそ興味深い。
皆殺しにするといったが、そいつはちと軽率だったかもしれない。まだまだここには面白いものがたくさんありそうだ。スタンド、人間、波紋戦士……。
ワムウとカーズの元に帰るのは当分先になりそうだな。何、俺たち柱の男にとってたかが2日や、3日。そうかわらんことだ。

「ゆっくりしていくとするか」

そう呟くと屋根の上にどっかりと腰をおろし、改めてデイパックの中身を確認し始めた。
噛み殺そうとしても笑いが次々と漏れ出てくる。そして、何処かで期待している自分がいた。あの『男』がまたあの『右腕』をつけ、自分に立ち向かってくることを。








「あの~~……大丈夫ッスか~~? 一応傷とか、怪我とかは治したんですけど、まだどっか痛む場所とっかあったりするんスかねェ?」

例え体は元に戻ったとしても、心は元には戻らない。
奪われた『誇り』は自らの手で取り戻さなければ意味がない。
『納得』ッ! ジャイロ・ツェペリの言葉がリンゴォの頭の中で浮かんでは消え、沈んでは浮かび上がる。
許されないのは奴の行為ッ 命を馬鹿にしたのではない。奴は『男』を馬鹿にした。『男の世界』を侮辱したッ

「弱ったなァ~~、ほんと大丈夫ッすか? あ、もしかして俺のことが信用ならねェとかですか?」

だが、どうしてそうなったのだ。激情に駆られた自らを遮りぽつりと、呟くもう一人の声。
そもそも『男の世界』を証明できなかったのは奴のせいか。奴に非があったのか。
証明できなかったのは、誰だ。誰に対してだ。お前は一体何に『納得』できてないのだ。

「……お前は」
「俺っすか? あれ、聞いてなかったンすか。仗助、東方仗助っす。アンタ名前は?」
「オレか? オレは、……オレの名は…………―――――」


宙ぶらりんの覚悟。シャボン玉のように激情がはじけ、残ったのは不抜けた男に指針を失った羅針盤。
今まで信じて生きてきた。できないならば死あるのみ、そんな覚悟で我武者羅に、ただひたすらに歩んできた『男の道』。
DEAD OR ALIVE ――― だからこそ『生き残ってしまった』自分は一体何者だ。オレは今、どこを歩いている? これからどこを歩けばいい?


無事に戻った右腕、それの手首を辺りを男は何度も何度も撫でていた。
見慣れた腕時計。震える手でそのつまみをつまむが……それを捻ることができなかった。

ひび割れた覚悟。向けるべきのない殺意。オレは……何だ―――?



【ペッシ 死亡】
【ホルマジオ 死亡】

【残り 140人】


【D-6 南東/1日目 深夜】

【エシディシ】
[時間軸]:エア・サプレーナ島でジョセフの指で拳を突き破られた瞬間
[状態]:健康、満腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3(エシディシ・ペッシ・ホルマジオ)、不明支給品1~6(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:面白そうなので少し遊んでいく。
1.とりあえずデイパックの中を確認。
[備考]
ペッシからスタンドの基本知識、暗殺チーム等の情報を得ました。詳しくは後続の書き手さんにお任せします。





【E-4 北東部/1日目 深夜】

【リンゴォ・ロードアゲイン】
[時間軸]:ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
[スタンド]: 『マンダム』
[状態]:健康、屈辱、怒り、???
[装備]:DIOの投げナイフ半ダース(内2本、折れている)
[道具]:基本支給品、不明支給品1
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
[備考]
精神状態が落ち着けばマンダムが回復する『かも』しれません。後続の書き手さんにお任せします。

【東方仗助】
[時間軸]:???
[スタンド]: 『クレイジー・ダイヤモンド』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。
1.目の前のおっさんから詳しい話を聞く。
2.承太郎さんとジジイ?が、死んだ……?!
[備考]
時間軸は後続の書き手さんにお任せします。





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前話 登場キャラクター 次話
GAME START エシディシ 049:Break My Body/Break Your Soul
GAME START 東方仗助 047:憤怒
GAME START ホルマジオ GAME OVER
GAME START ペッシ GAME OVER
GAME START リンゴォ・ロードアゲイン 047:憤怒

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最終更新:2012年12月09日 02:02