ジャニコロの丘を歩く男女が一組。
両手で顔を覆い、震えた浅い息をしているルーシー・スティールに対して
ブローノ・ブチャラティが肩を支える以外に何もしなかったわけもなく、泣き止まない少女を励ますつもりで
自分の出身地であるイタリアやこの殺し合いに巻き込まれているかも知れない仲間のことについて少し話した。

――ここに来る直前はサルディニア島にいたんだ。バカンスじゃあなく、まあ、仕事みたいなもんさ。
  知ってるかい? エメラルド海岸と呼ばれる所が美しくて……

――オレの仲間に変わったヤツがいるんだよ。でも信頼できる男だから、もしこの場にいたら合流したいんだが……
  ソイツ、数字の4を極端に怖がるんだ。4だぜ? 変わってるだろ? 良いヤツなんだがなあ。

身の上話をしたのはルーシーを落ち着かせるため、という側面が大きいものだったので
自分がギャングであることはもちろん、彼女を不安を煽るような話は一切しなかった。
ここに来る直前、サルディニア島でチームの一員だったレオーネ・アバッキオが暗殺され悔しい思いをしたことも、
今しがた自分の目の前で見せしめとして爆殺されたジョルノ・ジョバァーナが大切な仲間だということも。
何の力も持たないであろう一般人の彼女が知らなくていいことは隠すべき、というのがブチャラティの判断。
これ以上動揺させる必要なんて無いし、ただの少女をこんな殺し合いに巻き込むことは極力避けたかったのだ。
まるで、ヴェネツィアまでの道中で、自分たちのいる裏の世界に巻き込まないよう
トリッシュ・ウナの質問に対してずっとうやむやな回答を続けていたように。
ルーシーに話しかけながら、ブチャラティは少しずつ自分の現状について考察を始める。

……街並みはイタリアそのものだ。それにしてもどんな方法を使ってオレ達を集め、ジョルノ達を殺したのだろうか?
 主催者の男曰く、100人近くの人間がこのゲームに参加させられている。
 どうにか協力できる人材を集め主催者を打倒したいところだが、今思いつく限りでの大きな問題は二点。
 一つ目は、先の参加者(ジャック・ザ・リパー)のように殺し合いに乗った人物のこと。
 出来れば説得を試みたいが、止むを得ない場合は始末するしかないだろう。
 二つ目は、全参加者に掛けられている首輪のこと。威力の程はジョルノ達が身を持って示している。
 無理矢理外そうとするだけでなく、大きな衝撃を与えただけでも爆発するらしいから適当には扱えない……

少し言葉数が減ったのを察して、少し落ち着いたのか泣き止んだルーシーはブチャラティをジッと見つめ、どうしたの、と問いかける。
何でも無いよ、とブチャラティは囁き、あの教会で少し情報交換しないか、と続けた。



 *



先に中に入って様子を見たブチャラティは誰も居ないからおいで、と合図をした。
窓から差し込む月明かりで十分だと判断したあたしたちは、照明を探すことなく荷物を置き椅子に腰かける。

「オレはさっき歩きながら話したことがすべてだ。仲間のことも、どこから来たかということもね。良ければ君の話を聞かせて欲しい、ルーシー」

「あたしはアメリカ、ニューヨークのトリニティ教会にいたわ。ここはあなたの国なの? 見たことない街並みだったわ」

「ああそうだ。それにしてもアメリカ? なぜそんな遠くから…… 知り合いはいそう? さっきのホールで見かけた?」

主催者のスティーブンが自分の夫だなんて言えるわけがない。
ついさっき悪漢に襲われたあたしを助けてくれたことから、目の前にいるブチャラティという男は正義感が強いのだと想像がつく。
たぶん彼は『良い人』だ。悪を許さず、黄金のような精神を持って行動出来る人物。
だからこそ、真実を告げたらどうなるか分からない。あたしのことを『殺し合いを主催する男の悪妻』だと考えるかも知れない。
問い詰められて、脅されて、殺されるかもしれない。あたしもスティーブンも……
さっきまで泣いていたせいで喉も唇も乾いてしまったわ。唇を舐め、唾液を飲み込み、少しゆっくりと息を吐き出してからあたしはこう続けた。

「いなかったわ、知り合い…… 今は少し落ち着いたけれど、周りを見る余裕も無かったし」

スティーブンに釘付けになって周りを見られなかったことだけは真実。
夫がこんな残虐で卑劣な殺し合いをプロモートするだなんて信じたくない。信じられない。
彼はあたしのことをずっと守ってくれていた。マフィアに売られそうになったあたしを助けてくれた時からずっと。
彼があたしを危険な目に晒すはずがないけど、このブチャラティという男が助けてくれなければ自分が殺されていたのも事実。
スティーブンを信じたいのに!

……ヴァレンタイン大統領が死んだ後に、別の世界から出てきたディエゴ・ブランドーが遺体を持ち逃げしたのをあたしたちは見ている。
つまり、あのスティーブンもあたしの知っているスティーブンとは別人の可能性が存在する?
会って、直接スティーブン本人と話がしなければ……

「君は、オレに嘘をついているな?」

心臓を掴まれたような気がした。なんで? なんで嘘がばれたの? この男は一体……?

「オレね…… 人が本当のことを言ってるかどうかわかるんだ。なぜ君は嘘をついた?
オレは君を助けたことから分かるように、殺し合いに乗る気なんてサラサラ無いぜ。君のような普通の女の子を守ったりもするさ。
さっき話した仲間を探して、主催者を打倒するのが目的だ。なあ、何か隠していることがあればオレに教えてくれないか?」

主催者を倒すですって? スティーブンをどうするつもりなの?
もしかしたらブチャラティはスティーブンの居場所を突き止めてくれるかも知れない。
でも、その後、彼とあたしの身の潔白を証明することは出来るかしら?
既に彼は大人数を巻き込んだ殺し合いを開催し、三人もの人間を衆人環視の場で殺してしまったのに!

トリニティ教会でディエゴ・ブランドーを待っている時に、いいえ、もっと前から、あたしは夫のために命を懸けるって決めていたわ。
スティーブンに会わなくてはいけない。強くそう思う。いつまでも『誰かに助けてもらうルーシー』じゃあない、
自分の手で、自分とスティーブンを守らなければいけない。そのためには、この人と一緒にスティーブンの居場所を探し出す!

「そうだわ。あの、主催者の男は見たことあるかも。ごめんなさい。SBRレースの主催者のスティール氏でしょう?」

何も今すべてを教える必要はない。あたしのファミリーネームも隠したままでいい。
スティーブンに会うために、ブチャラティと行動すればいいだけよ。彼が知らなくてもいいことは隠すべき。
このまま夫に巡り合うことが出来たなら、その時に真実を打ち明ければいいだけ。
隠し事の理由は『主催者のスティーブンがあたしの夫だとあなたに話したら、何をされるか分からず、怖かったから。
あなたが最初に出会った参加者にしたように、あたしもバラバラに殺されてしまうかも知れないと思ったから』とでも言えばいい。
実際にそう思ってるし、今真実を告げた所でブチャラティがあたしに協力的になってくれるかどうかなんて本当に分からない。

「教えてくれてありがとう。ところでSBRレースって何だい? F1みたいなヤツ?」

F1って何だろう。よく分からないけど、外国の方だからSBRのこと知らないのかな?
ところで、SBRの参加者がここに呼ばれた可能性はないのかしら? あたしの知り合いはもうジョニィくらいしかいないけど。
もしいるとすれば、SBR参加者に会うのはマズイ。あたしはとっくに大統領の関係者から追われる身になっているし、
主催者スティーブンの妻だからと恨みを買い、殺しのターゲットにされるかも知れない。
……少しこんなことを言うのは心苦しいけど、『あたしと彼は何の関係も無い』と言うことにしましょう。
それよりも、何か、遠くの方から近付いて来るような音が聞こえてきたけど……

「君も気付いた? あれは車が走ってる音じゃあないか?」

車ってあの? そんな珍しいものがこの近くにあるの? 窓の外を見ても、車が走っているのは分からないわ。

「ちょっと様子を見てくるよ、オレの荷物はここに置いていく。話の続きは後にしよう」

ブチャラティは立ち上がると教会の外へ出ていった。あたしは拷問から解放された囚人みたいだった。
ずうっと放っておいた荷物を確認しながら、見つからないように外の様子を見ておこうかな。



 *



教会に面している少し広い道路に出たブチャラティはルーシーとの会話を思い出しながら車が通るのを待っていた。
助けた時はただのか弱い少女だと思っていたが、涙を拭いてからは力強い意志を感じさせる目をしていた、と評価する。
些細な嘘については――顔の汗の変化だけでなく、唇を舐めたり喉を鳴らしたりする仕草を見て、
彼はルーシーが嘘をついていると判断したのだが――取るに足らないことだと考えることにした。 
少しすると、教会の方に車が近づいてくる。ローマナンバーのワゴン。運転しているのは男。薄い色のスーツに、黒い斑点。
自分の服装に少しばかり似ている、とブチャラティは男を見て考えた。
最も、服装だけでなく社会の闇の中を生きている(生きていた)ギャングという境遇も似ている、と言えるだろう。
――麻薬一つを例に挙げても、その考え方や行動理念すべてが正反対なのだが――
その運転手は、日本のタクシードライバーではないが、
手を上げて道端に立っているブチャラティを見つけると車を止め、荷物を持って降りてきた。

「おう兄ちゃん。オレに何か用か? オレがとんでもねえ悪人ならテメーのこと轢き殺してたぜ」

「そうか、悪人ではないんだな? オレはこの殺し合いに乗らない人を募っている」

月明かりに照らされる二人。ブチャラティの顔は車から降りてきた男にとってひどく青白く見えた。まるで死体のように。

「オレさぁー教会探してたんだよ。教会って大体納骨堂あるだろ? 隣接した墓地は見つからなくても、納骨堂のある教会は多い」

「何言ってるんだ?」

「でもそれよりオレ今すげえモノ見た気分だぜェェー! 墓地や納骨堂に行かなくても死体を手に入れられるんだからな」

「今、何て……」

『闇の中から蘇りし者リンプ・ビズキット…… 我とともに来たれ…… リンプ・ビズキット…… 闇とともに喜びを……』

怪しい呪文を唱え始めた男に対してブチャラティは警戒を強める。
いつでもスタンドを出せるつもりでいるし、そのための間合いを詰める準備もする。
話を聞かない男はスポーツ・マックスと言う名の囚人。彼は目の前のブチャラティへの興味が尽きない。
彼のスタンドの名は『リンプ・ビズキット』。ホワイト・スネイクに与えられた死骸を操るスタンド。
――彼と直接戦ったエルメェス・コステロはそのスタンド能力を『透明のゾンビをつくり出すこと』と表現した――
今のブチャラティはヴェネツィアでディアボロに殺される間際にジョルノから生命エネルギーを与えられた、生ける屍。
心臓がとっくに動いていないことも、呼吸を全くしていないことも、死骸使いにはすべてお見通し。

「何だテメエェェーー! 死体じゃあねーのかよォォオ!」

ブチャラティは自分が既に死んでいることを看破され驚いたが、
スポーツ・マックスは目の前の死体が操れないことにブチャラティよりも大きな衝撃を受け、冷静さを失った。
普通は死体が動いていることに驚きそうなものだが、自ら動き出す骨や生物の死骸を日常的に見る男にとってはそんな常識は通じない。
スポーツ・マックスは一つ勘違いをしていたのだ。本来、彼が操ることが出来るのは生物の死骸。
ブチャラティの身体には生命エネルギーと魂が残っているのだ。生者を操るのは、『リンプ・ビズキット』の領域では無い。

「やれやれ話を聞いてくれ」

「そうだ、殺れば操れるはずだッ! でも何でテメエの身体は動いてるんだよォー!」

尻ポケットに隠していた切れ味の良いハサミを手に、ブチャラティに向かって急接近。
元ギャングの囚人は、刃物を振り回すというあまりスマートではない自身の殺り方には少々うんざりしていたが、
ここで退くよりはこの死体を手に入れて透明ゾンビに使える人材を確保しておく方が有益だと判断した。
どんどん距離を詰めていき、銀色に輝く鋭いハサミをブチャラティの身体に突き刺す。
しかしスポーツ・マックスの右手には男の腹をつらぬいた感覚が無かった。のれんに腕押し、という表現が合うだろう。
ブチャラティの腹には刺し傷では無いスキ間がポッカリと空いている。
『スティッキィ・フィンガーズ』、それはジッパーを繋げて空間を造るスタンド能力。
彼が刺された腹のジッパーを閉じてしまえば、たちまち男の右手はハサミごと腹から抜け出せなくなってしまった。
ブチャラティはもう一度だけ殺し合いゲームについて男に問うたが、
恨み辛みを零すだけのイカレた玩具のようになってしまったスポーツ・マックスを助けることもせず、
首輪に触れないよう細心の注意を払って男の全身をバラバラにし、腹に埋まったままのハサミと右手を後から取り出してやった。
一度殺し合いに乗ってしまったら、元に戻れない哀れな男もいるのだと感じながら、
お決まりの掛け声の後にアリーヴェ・デルチ、と叫び、一仕事を終えた。

バラバラの死体を見て、ブチャラティはこの惨殺死体がルーシーの目に入ることを想像した。
やっと落ち着きを取り戻した少女にこんなものを見せるわけにはいかないな、と結論付け、
幾つのも部位に分かれてしまった死体をパズルみたいに元の形へ戻した。
その後近くの柔らかい地面にスティッキィ・フィンガーズでスキ間を造りだし、死体を埋め、ハサミを墓標の代わりに刺してやった。
自分を襲ってきたゲームに乗った悪人だったが、こんな所に呼び出されて狂ってしまったのだと思い、わずかに同情した。
男が乗って来たワゴンに乗って移動する方が人探しには有効だと考え、
スポーツ・マックスのデイパックを拾ったブチャラティはルーシーを呼びに教会へと戻っていった。



 *



ブチャラティが出て行くとすぐにあたしは荷物を調べることにした。
パンや水、地図等をデイパックの中から外に出していくうちに、余った紙が一枚。
そっと開いてみると、ただの小さな紙切れの中から鉈。これ、良く見たらさっき使った、ディエゴ・ブランドーの首を切り落とした鉈だわ。
ホット・パンツが下水道から『肉スプレー』で出てきたように、ものの大きさを変えるスタンドでこの紙切れにしまっていたんだろう。
この鉈のことを知っているのはスティーブンしかいないから、彼があたしのために持たせてくれたものなの?
確かにあたしは聖なる遺体集めに携わってから、そのつもりは無くても多くの人を手に掛けてきた。
夫を守って、二人で幸せになるために、制止を振り切ってあの首を手に入れた。……いざという時の覚悟ならもう出来ているわ。

そうだ、窓の外はどうなっているかしら? 意外と近くに止まったみたいだから見えるかも。
それにしても、あんな珍しい車を見るのは初めてだわ。男が出てきたけど、口の動きもここからなら見える……
『殺し合い』『納骨堂』『死体』『リンプ・ビズキット』
あッ! あの男刃物を隠し持って…… ブチャラティが危ないッ! ……刺されても平気なの? お腹に刺さっているのに?
それより、ブチャラティの隣にヒトのようなものがいる?
あの男まだ何か言ってるわ。 『死体』『お前が死体』『死んでいる』
どういうことなの? ブチャラティが死体? 奇跡でも起きなければ、死体が動くはずなんて無いわ。
そして、あっと言う間にバラバラになったみたい。たぶんあれはスタンド能力!
ブチャラティの隣にいるヒトがやったようにも見えるけど、怖ろしい能力……
死体に何かしているようだけど、位置が低すぎてよく見えないわ。でも一応片付いたし、彼はそろそろ戻って来るかしら。



 *



教会に戻って来たブチャラティは、行く時には無かったデイパックを背負いながらルーシーに車が手に入ったことを告げた。
バラバラにして土に埋めた男の遺品だ、とは言えずはずも無く、乗っていた男のことは一切話題に出さなかった。
ルーシーとしても、一部始終を見てしまったのだから、特に何も聞く必要が無いと思い、そのことに関してはわかったわ、とだけ返事をした。
彼女がデイパックの鉈以外の支給品について大方説明すると、地図を見てブチャラティは大きな溜息をついた。
ローマだけどローマでは無い狂った地図。ブチャラティは今まで歩いてきた道や建物、そしてこの地点が少し高い場所にあることから
自分たちの現在地点を『ジャニコロの丘』だと判断した。
主催者を打倒するための人材集めと、この地図に乗ったローマを調査するため、ブチャラティは車での移動を提案。
彼はSBRとやらについては車内で聞いても大丈夫だろう、と考えた上での選択だった。

ワゴンに乗りこむと、ルーシーは初めて乗る車に少なからず興味を持ったが、
それよりも先に、隣で運転している男についてどうしても一点だけ調べたいことがあった。
月明かりに照らされたブチャラティの顔をまじまじと見つめる。血の気の無い、土気色をしている。
ギアを握るブチャラティの右手に自分の手を上から重ねる。死体のように冷たい。
どうした、と聞く男に、何でも無いわ、と囁き、人差し指と中指を彼の手首に当てる。彼女が想像していた通り、脈は無い。
年頃の女の子のことはよく分からない、と苦笑いするブチャラティに対し、ルーシーは唇を噛み、また浅い溜息を付いてから、素朴な疑問を投げかけた。



「どうしてあなたは死んでいるの?」



 *



――オレ、何してたんだっけ? そうだ、教会に死体を探しに行くんだった……
  死体を操って、オレが殺し合いに勝ってやる…… ああ、ここに落ちてるのオレのハサミじゃねーか。もうすこしで教会だ……

「ヒヒヒヒヒヒヒヒィィィ、あの承太郎が死んだわァァァァァ DIO様もさぞ喜んでくだしゃるじゃろう」

――なんだこのババアうっせーなァ、コイツも教会目指しているのか。

「ハア、ハア、しかし、年寄りにはこの坂道は億劫じゃのう…… 高台の上からなら、地図にあったDIO様の館がどこに
あるのかすぐ分かると思ったんじゃが、教会を見つけたのは好都合じゃ。納骨堂には我が『正義』の操り人形の元がたくさんいるからのォォ~」

――ババアも納骨堂狙いかよ…… 怪しい感じのするババア系ババアだが声かけてみるか……
  おいバアさん、あんたも教会に用があるのか?

「ヒィィィー疲れるわい、教会まであと少しじゃ」

――聞こえてねーのかこのババア。しょうがねえもっと近づいてから声かけるか。

「ケエェェェェッッーー! あれはわしがジョースター達をブッ殺すために磨いておいたハサミィィ! どうして浮いているんじゃ?」

――ハサミが浮いている? 何言ってんだこのババア?

「ここに来てから我が『正義』を発動するにはなぜかいつもよりもしんどいのじゃが、このハサミが浮いている辺りだけでも霧を巡らせてみるかのォ」

――なんだこの霧 もうメンドくせえなこのババア…… なんか喉渇くしよォ、ババアの脳ミソを喰らえば……

「グエェッ!」


いくら『正義』の霧を自分の周囲に張り巡らせても、スポーツ・マックスは傷ついた死骸ではないので、死霊使いとしてに彼に与える効果は無い。
スタンド使いにはスタンドが見える法則があるが、『透明なゾンビ』になったスポーツ・マックスには誰の目にも映らない。
教会の近くでブチャラティに埋められたスポーツ・マックスは、一度バラバラにされ心停止した後、土の中よりゾンビとして復活。
同じく死骸を操るスタンド使いであり、納骨堂の死体を求めに来たエンヤ婆と教会付近で遭遇。
噛みあわない会話を一通り満喫した後、しびれを切らしたスポーツ・マックスが喉の渇きを満たすことで二人の出会いは幕を閉じた。

エンヤ婆と呼ばれた女の首はすべてスポーツ・マックスの胃の中に収まっていく。
吐き気を催すようなピチャピチャ、ズルズルという咀嚼音がジャニコロの丘の教会前に響く。
もしこの光景を目の当たりにした人間がいるとすれば、耳障りな音だけでなく闇夜に突如浮かびあがった血塗れの口許にも恐怖するだろう。

「あぁ、これだッ! 脳ミソを喰らいたかったんだッ! それでも、まだ、渇くッ!」

渇きを満たし恍惚としている男は本能的に血を求めるリビングデッドそのもの。
蘇ったばかりなので生前の記憶は生前の記憶はほとんど思い出していない。
それでも、墓標代わりに己の死体の上に突き刺さっていたハサミを拾うくらいの知性は残っていたようだ。
頭部を食べた時の残りカスである老女の白髪がはらはらと舞い、地面へと落ちていく。
エンヤ婆は首が無くなったことで、『バトル・ロワイアル』の参加者の喉元にまとわり付いていた煩わしい首輪からは解放された。
スポーツ・マックスは支えを失って地面へ転がっていった首輪には興味を持たなかったし、デイパックにも目をくれなかった。
先程まで彼女を拘束していた首輪と、小さな手に握られていたデイパックは持ち主を失ったままずっと教会の前に放置されるのだろう。

ゾンビに喰われた哀れな老婆は透明ゾンビとしての新たな人生を歩み始め、スポーツ・マックスの後を付いて歩く。
口の周りを紅く染めたゾンビは自分がゾンビだと気付くこと無く、次の獲物を探して闇の中を徘徊する。




【エンヤ婆 死亡】

【残り 120人】




【F-2 ジャニコロの丘/1日目 黎明】



【ブローノ・ブチャラティ】
【スタンド】:『スティッキィ・フィンガーズ』
【時間軸】:サルディニア島でボスのデスマスクを確認した後
【状態】:健康 (?)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×3、不明支給品1~2(未確認)、ジャック・ザ・リパーの不明支給品1~2(未確認)
【思考・状況】 基本行動方針:主催者を倒し、ゲームから脱出する
1.ルーシーと情報交換・会話
2.ジョルノが、なぜ、どうやって…?
3.出来れば自分の知り合いと、そうでなければ信用できる人物と知り合いたい。


【ルーシー・スティール】
【時間軸】:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
【状態】:健康・混乱
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、鉈
【思考・状況】
1.スティーブンに会う
2.ブチャラティに疑問


【スポーツ・マックス】
【スタンド】:『リンプ・ビズキット』
【時間軸】:エルメェスに襲われる前
【状態】:健康 (?)
【装備】:なし
【道具】:エンヤ・ガイルのハサミ、首無しエンヤ・ガイルの死体
【思考・状況】
1.渇きを満たす



【備考】
  • スポーツ・マックスのランダム支給品は『エンヤ・ガイルのハサミ』と『ローマ近くの村にあった車』でした。
  • スポーツ・マックスは自分が死んだことに気付いていません。また、ブチャラティのことも忘れています。
  • エンヤ・ガイルの参戦時期はJ・ガイル死亡後でした。
  • F-2にエンヤ・ガイルの首輪とデイパックが落ちています。

【支給品について】
※ エンヤ・ガイルのハサミ(3部)
パキスタンで承太郎達を待ち構えている時にエンヤ・ガイルが持っていたもの。
生死問わず生き物の身体に傷を付けることで『正義』の操り効果を発揮することが出来るので彼女にとっては必需品。

※ ローマ近くの村にあった車(5部)
ブチャラティ達がサルディニアからイタリア本土に上陸し、チョコラータ達の攻撃を避けてローマに行くために盗んだ車。
盗んだと言っても車の持ち主は『グリーン・デイ』で死亡済み。ジョジョ本編でもブチャラティが運転していた。

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前話 登場キャラクター 次話
GAME START エンヤ・ガイル GAME OVER
002:ある少女の悲運と幸運について ブローノ・ブチャラティ 091:暗いところで待ち合わせ
GAME START スポーツ・マックス 062:神に愛された男
002:ある少女の悲運と幸運について ルーシー・スティール 091:暗いところで待ち合わせ

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最終更新:2012年12月09日 02:14