蟲毒の華

女である。夜風を孕んだ金色の髪を棚引かせ、朱色の帯に夜に溶け込んでしまいそうな藍色の着物を着飾った女が、
カランカランと下駄の音を鳴らしながら、歩いていた。
異様な光景であった。今宵に上がった幕は蟲毒。血が血を呼ぶ陰惨な殺し合いである。
その中を女は恐怖など微塵も見せずに平然と、暗闇を掻き分けるように力強く歩いていたのだ。
だがそんなものより遥かに異様なのは、女の額に生えた赤い角であろう。
その女は人の姿形を取りながら、その角で以って明らかに人間であることを否定していた。
さもありなん。その女こそ、星熊勇儀。現代を生きる妖怪――真(まこと)の鬼である。


漆黒の闇から這いずり出るように、もう一人の女が現れた。
おかっぱ頭の銀色の髪の上に蝶のような形に結んだ黒いリボン、緑のベストにフリルの付いた同色のスカート。
その出で立ち通り、少女である。しかし、その手には少女の稚気とは反し、冷たい水に浸けていたかのように妖しく光る一本の刀。
その殺意の煌きを往来にて放つは、まさしく血に飢えた狼――否、剣の鬼であった。


「名は魂魄妖夢……『冥界の神アヌビス』のカードを暗示とするスタンド使い。星熊勇儀と見受けた。おまえの命、貰い受ける」

「正面から正々堂々か……あんたみたいな人間が、まだいたとはね。どうやら地上を去るのは、早すぎる決断だったらしい。
まあ、後悔はその名の通り、後でするとして……いいよ、かかって来な! 暴れる奴には暴れて迎えるのが、礼儀ってね!」


神速の踏み込みである。勇儀の言葉の後には、もう目の前に刀を振り下ろす妖夢がいた。
その斬撃を迎えるは、無造作に掲げられし勇儀の腕。何ら武器も防具も付けていないただの腕である。
しかしそれが鬼の、とすぐに知らされたのは、攻撃を加えた当の刀――アヌビス神であった。


『にゃ、にゃにィィ~~~~~~~ッッ!!?』


アヌビス神の驚きが示す通り、刀は勇儀の腕を切り落とすことなく、僅かな切傷を与えるだけで終わっていたのだ。
そしてその驚倒の隙に送られるは、怪力乱神の勇儀の拳。


「知らなかったのかい? 鬼は頑丈なのさ。ついでに教えといてやるよ。鬼は力持ちもでもあるのさ!」


山をも動かすと言われる鬼の怪力である。妖夢の前歯は全て弾け飛び、そこにあった顔はボールのように吹っ飛び、
何メートルも地面を転がっていった。
しかし、その妖夢の顔からはニヤリと笑みが零れる。不気味な笑顔であった。
歯は無くなり、鼻骨も折れ、鼻血がとめどなく流れるそこで、魂魄妖夢は口角を吊り上げて笑っていたのである。


「憶えたぞ! その怪力、その頑丈さ……確かに憶えたぞ!!」


妖夢の獣の如き咆哮と二度目の斬撃。怪我の痛みをものともせず、一瞬にして間合いを詰め、瞬息の剣を袈裟斬りに放つ。
そして先と同じように出迎えた勇儀の腕を、今度の刃はするりと音も立てずに通り抜けた。
斬ったのである。美しさを感じさせるほどの切断面を残し、アヌビス神は鬼の腕を綺麗に切り落としたのだ。
更に先の返礼と言わんばかりに、驚愕の色を顔に映す勇儀に向けて、逆袈裟の斬り返し。それは燕も逃れることの叶わぬ刹那の間であった。


血しぶき上がり、勇儀の着物を新たに朱色に染め上げる。しかし意外なことに、そこには屈辱に顔を歪める魂魄妖夢がいた。
それもその筈。圧倒的な鬼の力を前にして、これ以上の身体の怪我、ならぬ損壊を恐れた魂魄妖夢は、十分な踏み込みが出来なかったのである。
必殺の機会を自ら手放す。十分な失態であった。とはいえ、刀が届かなかったというわけでもない。
勇儀の豊かな胸には、刃による深い傷跡が残っていた。


「っつう! 全くこういう時は萃香のペッタンコな胸が羨ましいね。今度会った時に、胸を小さくする方法でも訊いてみるか」


おっぱいである。それがなければ、一撃目はともかく二撃目は完全にかわせた攻撃であった。それだけに眼下にあるものが恨めしい。
着物の裂け目からは、着物の窮屈さを抜け出そうと、たわわに実った白い果実が飛び出してきている。
零れ落ちそうなそれは、今の闘いにおいて右腕の損失よりも厄介な代物であることは明確であった。
さてどうしたものか。勇儀は妖夢との距離を一旦取り、怪我の痛みなど露知らず、と残った腕で暢気におっぱいを弄ぶ。


「随分とお気楽な様だが、今からすることを見せても、果たしてそのままでいられるかな?」


剣呑な台詞を傲岸に言い放ち、妖夢は足元にあったものを空中へ蹴り上げた。切り落とした勇儀の腕である。
そしてそれが輪を描きながら地面に向かう中、妖夢は刀を持たない左手で掴み取り、大仰に刀と共に構えた。


「二刀流! 柄がなくて、ちょいと持ちづらいが、この通りよッ!!」


ドン、と地響きが聞こえ渡った。足元には一際大きなクレーター。妖夢は勇儀の腕で地面を叩いたのである。
鬼の腕。アヌビス神の一撃にも耐え、怪力を生み出す筋肉。妖夢が持つそれこそ凡百の武器を越えた至高の武器である。
しかし、それを否定するかのような音が一つ。今度はズン、と地響きが聞こえ渡った。目の前には太い幹の大きな杉の木。
何と勇儀は身の丈の十数倍をあろうかという杉の木を片手で軽々と引っこ抜き、これまた軽々と担ぎ上げたのだ。
怪力乱神。それを体現する星熊勇儀は心底楽しそうに笑顔で口を開く。


「強いね! 気に入ったよ、魂魄妖夢! 最初は荒木と太田の野郎共をぶっ飛ばしてやろうかと思っていたけれど、そんなものはやめだ、やめ!! 
あんたみたいな奴がいるのなら、このバトルロワイアルに興じてみるのも悪くない。さあ、駄目になるまで、お互い全力で愉しもうじゃないか!!」

「フン、鬼風情が面白いわ! この私は剣の達人! 私は誰よりも強い! 私に斬れぬものなどない! だから……!」

『だから、俺は絶対に……絶~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ対に負けなあいのだあああああああああ!!』


鬼と鬼の殺し合ひ。これこそ蟲毒の華にて候。今宵、血の雨止むこと侍らぬ。


【D-2 猫の隠れ里/黎明】
【魂魄妖夢@東方妖々夢】
[状態]:前歯全部喪失、歯茎出血、鼻骨骨折、鼻血ダラダラ、アヌビス神に精神を乗っ取られている
[装備]:アヌビス神@第3部 、星熊勇儀の右腕@現地調達
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2(刀剣類が無いことを確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:全員斬り殺す。
1:星熊勇儀を殺す。
2:一対一の状況を作り、一人ひとり斬り殺す。
3:『アヌビス神』のスタンドについて知っている者を、優先的に仕留める。DIOも例外ではない。
※魂魄妖夢の参戦時期は東方神霊廟以降です。
※能力制限の程度については、後の書き手さんにお任せします。
※アヌビス神の参戦時期は、承太郎に敗北し刀身をナイル川に沈められた直後ですが、完全に修復されています。
※アヌビス神は霊夢から、幻想郷の住民についての情報を得ています。
※アヌビス神は、現在『咲夜のナイフ格闘』『止まった時の中で動く』『星の白金のパワーとスピード』
 『鬼の怪力と頑丈さ』を『憶えて』います。


【星熊勇儀@東方地霊殿】
[状態]:右腕欠損、胸部裂傷、おっぱいポロリ、ハッピーうれピー♪
[装備]:着物、大きな杉の木@現地調達
[道具]:ランダム支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:全力でバトルロワイアルを愉しむ
1:魂魄妖夢と勝負をつける
2:たゆんたゆんに揺れるおっぱいをどうにかしたい
3:右腕を取り返す
4:萃香にどうすればおっぱいが小さくなるか訊くwww
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます


<星熊勇儀の右腕>
スタープラチナの力を憶えたアヌビス神の一撃にも耐える頑丈さと怪力を生み出す筋肉で出来た鬼の腕。
その形状故に持ちづらいが、威力と耐久性は一級品。そんじょそこいらの武器よりは、遥かに優れた代物である。


<大きな杉の木>
日本固有種の常緑針葉樹。
幹の太さは成人男性4人分の胴回りほど、長さは20メートル前後。
『丸太』に使われる木でもあり、その威力と頼もしさはとある漫画で実証済み。

026:紫の式は妖しく輝く 投下順 028:Golden Weather Rhapsody
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遊戯開始 星熊勇儀 051:廻る運命の輪
最終更新:2013年11月05日 22:20