1.


古よりその存在を幻獣たちによって封印されてきた,三闘神・・・.彼らがまたこの地上に降臨し,世界を滅びの道へと向かわせるような・・・.そんな予感を,誰もが考えていた.

"この世界は一体どうなってしまうんだ?!"

"なんだか,すごく嫌な予感がする・・・"

"でも,俺たちが戦うしかないんだ!"

などなど.


三闘神の力で天空に浮かび上がった浮遊大陸,「魔大陸」・・・.それまでの青空と一画を成し,上空より異彩を放つ「それ」は,世界中の人々に禍々しさを与えていた・・・.一方で,魔導の三神・三闘神の力を利用して完全なる世界征服を企むガストラ皇帝と宰相ケフカの動きを止めようと,魔大陸に上陸した者たちがいた.彼女たちは,帝国軍空軍兵器・エアフォースを撃破し,飛空艇ブラックジャック号から魔大陸へ上陸した.


「いやぁ~,あのエアフォースを倒せたのも,このリルム様のサンダラのおかげだネ!」
そう言い自慢げに話すリルムを,ティナとセリスは微笑ましげに見ていた.その二人の様子に気付いたリルムは,
「な・・・何笑ってんのさ?」
と返した.ティナは,彼女が持っている魔石に触れ,こう言った.
「あのね・・・リルム.この魔石・・・『マディン』は,私のお父さんの力がこもっているものなのよ.だから・・・ね?大切にしてね」
リルムは思わず呟く.
「え・・・,ティナの・・・お父さん?」
と.続いて,セリスがリルムに聞いた.
「リルムのお父さんって,どんな人なの?」
リルムは答える.
「リルムのお父さん・・・覚えてない・・・」
セリスは片膝をつきリルムと背を同じくして,
「私と同じね.・・・辛いでしょ?本当は・・・?」
と,語りかけるように問うた.そんなセリスを見て,ティナは止めに入ろうとしたが,それまで少し俯いていたリルムがいきなり,
「ううん.全然.あのじじいがいるから平気だよ.そんなことより,早く先に進もう,先に」
と言い先頭を切って歩き出したので,ティナとセリスは急いで彼女の後に続いた.

リルムが元気そうに歩く一方,後に続くティナとセリスの二人は,互いに話していた.
「ねぇティナ.『あのじじい』って・・・?」
「ああ,そうよね,セリス.あなたはサマサのことをあまり知らないのよね.『あのじじい』ってリルムが言ったのは,彼女を幼い頃から育ててきたストラゴスのことよ.血は繋がってないけど,一生懸命育てた,って言ってたわ」
「そう・・・.まるで私の場合のシドみたいね・・・」

一連の会話が終わり,黙々と魔大陸を歩き進む三人は,やがて一人の男が横たわっているのをみつけた.彼の者の名は・・・.
「シャドウ?!どうしてあなたが此処に?」
ティナが真っ先にその男・・・シャドウに対してそう呼びかけた.するとシャドウは,セリスによって差しのべられた手につかまり起き上がり,気怠そうにしてこう言った.
「帝国め・・・.必要なくなったらあっさりと殺しにかかってきた・・・.ふっ,まるで昔の俺みたいじゃないか.今,帝国に反感を覚えているということは・・・俺も一応『正義の味方』なんだろうか・・・」
「シャドウ・・・?あなた何を言っているの・・・?」
ティナがそう尋ねると,彼は,
「知りたいか,ある男の過去を?しかし,今はその時ではないようだぜ」
シャドウは指で中空を指すと,三人はその方向へ注目した.そこには・・・多種多様の魔物が群れを成し,今にも彼らを襲いかかろうとしていたのだった.


数十回の戦闘の後,彼らは魔大陸の内にある,聖なる小部屋にて休憩をとっていた.
「やっぱり・・・リルムのサンダラがないとダメなんだよ・・・」
「そのようね・・・リルム・・・.私たち・・・魔法組はアスピルが無いと息が続かないわ・・・ねぇ,ティナ?」
「そうね・・・セリス.ここで一旦テントを張って一晩明かすのはどうかしら?シャドウも・・・いいでしょ?」
「別に構わんが,俺は寝袋で寝かせてもらう」
そのシャドウの一言に対し,「え?どうして?」とティナが聞いたのを呆れたのか,息切れしながらもセリスとリルムが,男女が臥所を共にするとはどういうことかを説明したのだった.

そうして,魔大陸での一夜がやって来た・・・.


夜の魔大陸は,昼間のとはまた違った意味で不気味だった.「禍々しさ」は残りつつも,異様な静けさが耳を痛くする.魔大陸の聖なる小部屋から出て,一人夜風に当たっていたリルムは,形見の指輪をちらつかせながら眼下に広がる一大景色を見ていた.地上には,僅かに明かりが点々としていた.

あそこには,人が住んでいるんだ.サマサの村の方はどうだろう?私が育った愛しき故郷.そこを,悲劇の場にした,あのうひょひょ野郎は絶対許せない.なんとしてでも止めなければ―.

そんなことを考えていたリルムの側に,一人の男がやってきた.
「リルム」
男は彼女の名前を呼んだ.リルムはハッと我に返り,
「な~んだよ.まっくろくろすけか.インターセプターちゃんは?」
「今は,ティナとセリスの番をしている」
「・・・何しに来たの?」
「お前に,忠告しよう思ってな.あまり・・・無理をしないことだ.それから・・・,本心を隠すのはあまり健康的ではない」
リルムは返す.
「なっ・・・!なにさ,アンタだって無理したり,他の人に自分を語らないって聞いてるよ!なんでそのアンタが私にそんなことを言うわけ?!」
シャドウは何も答えず,ただ一言,
「その指輪・・・大事にしろよ」
と言って,去って行った.

リルムは,そんなシャドウの態度に釈然としないまま,聖なる小部屋へと戻って行った.そこには,ティナとセリスが眠っているはずだったが・・・.誰もいなかった.リルムは,どうしたんだろう,と思い,聖なる小部屋を隈なく調べてみた.

"ひょっとしたら,ここは「聖なる小部屋」なんかじゃなく,魔物の巣だったりして・・・!ティナとセリスは,魔物に食べられちゃったのかも?!"

などと考えている内に,自身が今いる部屋に,「奥の部屋」が存在することに気付いた.やっと気付いたその部屋にリルムは入ると,そこにはティナ,セリス,そしてシャドウがいた.

皆,リルムが入って来たことに気付かずに,その奥の部屋の更に奥にある「何か」を凝視していた.それは・・・一体なんだというのだろう?
「ねぇ!皆,どうしたの?」
リルムがそう尋ねると,三人とも振り返った.ティナが恐る恐る「何か」を指差すと,思わず,リルムも先程まで三人がそうしていたように,凝視した・・・.
「なに,これ・・・?」

そこには,今にも壁から這い出て来そうにしている一人の男が,石となって壁に埋まっていた.


2.


「なに,これ・・・?」
リルムが唖然として,壁に埋まっている石でできた男を見ていた.セリスは,ティナに向かって言った.
「ひ・・・ひょっとして,これが三闘神の内の一つ・・・?」
ティナは返す.
「いえ,それは違うと思うわ.この石像からは確かに強い魔力を感じるけど・・・.私たちが持っている魔石から感じられる魔力とはどうやら種類が違うものらしいのよ」
「つまり,幻獣を生み出した三闘神の魔力でもない,と・・・.そういうことね?」
「そうよ,セリス」
そこで,シャドウが言うことには,
「では,此処は俺たちには用はない場所ということだ.明日のためにも,早く寝た方が良い.そぉら,行くぞインターセプター」
と.
「ちょっと!リルムを置き去りにする気?!待てよ,まっくろくろすけ~」
リルムがこう言うと,シャドウは帰る歩を止めた.続いて,ティナが言った.
「待って.二人とも.この石像を調べることで,魔大陸・・・いえ,この世界の秘密が分かるかもしれないわ.もしかしたら,魔大戦の記録が記されているかもしれない」
「今後のためにも,役に立つかもしれないということね?」
セリスは,そうティナの言葉を汲み取り,言う.
「でも,どうやって調べるの?石像に下手に触ったら,何か悪いことが起きそうな気がするわ」
「俺もそう思う」
シャドウが二人の会話に入って来た.
「これは帝国の・・・ケフカの罠かなんかじゃないのか?俺たちを此処に閉じ込めて,魔石を強奪するという・・・」
ティナはそういう言葉にものともせず,
「いいえシャドウ,少なくとも帝国の罠ではないことは確かね.だって,帝国でも未開の地の魔大陸のはずなのに,罠の置きようがないもの」
「さ・・・先回りしてるかもよ?!」
「リルム・・・そうであっても,彼らの目的は,三闘神のみのはず.私たちを今更罠にかけてどうするのよ?」
「それは言えてるわね」
セリスがティナに同意し,やがて,シャドウ,リルムも同意し,結局四人で石像を調べることになった.

壁から今にも這い出ようとする男の石像・・・.彼は,一着のローブを身にまとっていた.四人で調べ始めてから,十数分が過ぎようとしていた.黄土色をした石像は,壁から今にも出て来たそうだ.彼は,後ろ,つまり壁の方を振り向いていて,その表情は・・・不安と焦りだろうか,その二つの感情が読み取れる形相をしていた.やがて,リルムは,
「あ!壁の隅っこに何か刻まれているヨ!」
と,皆に知らせた.皆がリルムの背中越しに,その「刻まれている」ものを見る.やがて,ティナが呟いた.
「これは・・魔導記憶語ね」
セリスが聞く.
「魔導記憶語・・・?」
「ええ,そうよ.私がまだ幻獣界で育てられていた頃,言葉の先生に教えてもらった言語よ.これを唱えると,過去の記憶が実際の事象として現在に一時的に蘇るの.魔導記憶語・・・懐かしいわ,覚えているかしら・・・.読んでみるわね?」
ティナは,リルムの前に立ち,片膝をついてその「魔導記憶語」を読み上げた.

"哀れな冥界王ジェイド ここに眠る"

「たったそれだけ?」
「いえ,リルム,読んだら新しい文字が出て来たわ」

"まだ世界が再誕してして間もない頃のこと"
"混沌とした地上を治めるため 天界の者達は"
"一人の男をそこへ送った"

「文字はここで終わっているわ」
ティナがそう言うと,
「・・・!!!」
彼女と石像の男は青い光を帯び始め,キュピィィィンと,まるで音叉を鳴らしているかの如く,二人の魔導の力が響き合った.やがて石像は白い光を放ち,そして石がはがれ生身の人間の肌が露わになり,男は,まるで今壁の向こうからやって来たかの如く四人のいる部屋へ跳んで来た.そして,彼は語り始めた・・・.

「我が名は,ジェイド・ポテンシャリク・・・.死者の魂が集まる,冥界の王だ・・・.魔導の力を持つ娘よ,この私を石の状態から解放してくれて,大変ありがたく思っている.礼の言葉を改めて言わせてもらおう.ありがとう.

さて,私を一時的に解放してくれたお礼に,何かを語ろうと思うのだが・・・」
「まず,この魔大陸について教えて下さい」
ティナがそう言うと,ジェイドはまた語り出した.
「そうかそうか.この魔大陸は・・・,実を言うと,冥界の入り口なのだよ.魔大陸と,三闘神との関係は知っているかな?」
「はい,ある程度は・・・」
「そうであったか.この六番目の幻想・・・いや,世界が数回再誕された後,私はこの魔大陸と共に,この地上を視る為にやって来たのだ.だが,神とは愚かな者・・・.天界の者たちは,幾度も世界が再誕され,母星・ガイアも星の力が衰え始めているというのに,またもや神の使いを地上に遣わしたのだ・・・」
「その『神の使い』とは・・・?」
「うむ,言うまでもなく,三闘神のことだ.天界の者たちは,地上に『魔導』をという力をもたらすために・・・いや,恨みを晴らすためにも,三体の闘いの神を遣わしたのだ・・・」
「恨み,とは?」
「地上の生命が,自らの思い通りに上手く動かない為か・・・,もしくは,過去は天界の者でありながら,地上の者と例えばこのように親しくしている私への・・・であろう」
「ジェイドさんも天界の人だったんですね」
「ああ,そうだ.実を言うと,だ.私が石になって壁に埋まっていた・・・というのは,天界の者たちによる企てなのだ.私は過去に,天界より14人の僕を引き連れて地上に降りてきたが・・・.とあるきっかけで私は,その僕たちに誅殺されるのだ.その場面を・・・その僕たちから殺されまいと逃げる私の哀れな私の姿を,天界の者たちはいとも容易く再現し,石像になら使めた.この屈辱感が分かるだろうか・・・?」
「分かります,酷い話ですね・・・.ところで,その天界の人たちは,三闘神を遣わした後,ただ地上を見ているだけだったのですか?」
「その通りだ.天界の者たちはただ見ているだけ・・・.・・・ん?なんだ,その青白い剣は・・・?それは地上のものではないな」
「はい.アルテマウェポンという剣です」
「なんと!三闘神は,石化した後に,自分らを解放せんとするものを防ぐため番人を生み出したと聞くが・・・.その番人と同じ名を冠する剣を地上に与えるとは・・・.天界の者たちも,まだまだ見るところはありそうだな!」

ジェイドは,胡坐をかきながらそう語り終えると,豪快に笑った.ティナは,そんな彼に問う.
「あの・・・.魔大陸については・・・?」
と.ジェイドは返す.
「おお,そうであった.そもそも,この魔大陸は,『浮遊大陸』だ・・・」
彼はまた,語り始めた・・・.


3.


「おお,そうであった.そもそもこの魔大陸は,『浮遊大陸』だ・・・.

ここで皆に簡単な質問をするが,いいかね?皆は,死者の魂が集まる『冥界』という言葉を聞いて,何を思い浮かべるかな?」
ジェイドはそう問うた.数秒間の沈黙の後,ジェイドは問い直した.
「では『死』についてパッと思い浮かぶものは?」
と.すると,シャドウが即答した.
「俺は何人もの人間を殺めてきたアサシンだ・・・.少なくとも,良い死に方は出来そうにもないだろうさ」
続いて,ティナが言った.
「あの・・・私・・・『死』そのものが良く分からない・・・.今生きていることの本当の意味すらも考えたこともなかったのに・・・.でも不思議なものね,死を考えようとしたら生きることを考えるようになるなんて・・・」
「私の場合は・・・」
セリスは続ける.
「私の場合は,ティナと大分違うわね.軍人として,常に生死の間をくぐり抜けてきたから・・・.それに,シドが昔こう教えてくれたわ.人は死んだら,その生き方によって天国か地獄に行くか振り分けられるって」
「ほほう」
セリスが言い終えると,ジェイドがそう呟いた.そして,彼は続けて言った.
「その天国と地獄についてだが・・・」
しかし・・・.
「待てよ,このムキムキ男!リルムの言葉も聞けっつーの!」
「ああ,すまない.では聞こうか」
「うん.昔,じじいから教わったことがあるんだ.『アヤマチ』を犯すと,人は死んだらとてつもなく恐ろしい場所に落とされるって」

このリルムの言葉を聞いたジェイドは,語り出した.
「うむ.正しく私が待っていた応えそのものだよ!ポイントは,『地獄』,『落とされる』だ.良いか,皆.これからこの世界の仕組みを簡単に教えよう.まず・・・人・・・いや,この地上における生きとし生ける者全ては,生前どんな行動を起こそうとも,必ず『冥界』という場所にやって来る.そして冥界とは・・・.この星の中心核に位置する,とても地下深~い場所なのだ」
「この星の中心核には何かがあるんですか?」
「うむ.よくぞ聞いてくれた.この星・・・ガイアの命の源・大水晶石だ.この大水晶石のおかげで,死した魂は冥界にて肥やされ,そして新しい生命となってまた地上に生まれ変わるのだ.この一連の魂の移動・・・ループを,我々は『魂の循環』と呼んでいる.・・・要するに,だ.生前に何をしようが最期に送られ来るのは冥界だけ.天国や地獄などというものは存在しないのだ」
「じゃあ,生きている間は,何をしても良いってこと?!このまっくろくろすけみたいに人を沢山殺しちゃっても?」
リルムがジェイドにそう問うた.彼は応える.
「いや,決してそうではない.死した魂には,生前の記憶が伴っていて,その記憶の内容によって,次に生まれる命の質が違ってくるのだ.

それで話を大分戻すが・・・.冥界という一つの界について話そう.冥界が地下深い場所にある,ということは先程も言ったが,ポイントはその入り口は何処か,なのだ」
「冥界が地下深くなら,地上の何処かに冥界へと繋がる洞窟みたいのがあるのでは・・・?」
「やはりそう考えるか.実は,その冥界の入り口こそ,この浮遊大陸・・・魔大陸にあるのだよ」
「何故地上にではなく,浮遊大陸に?」
「地上の悪しき者どもから冥界を・・・大水晶石を守るためだ.この世界では三闘神に封印させてあった魔大陸だが・・・.まさかその封印が解かれるとは・・・」
「さっきからずっと引っかかっているんだけどさ.どうして『魔』大陸じゃなきゃいけなくなったの?」
リルムがまたしてもジェイドにそう問うた.ジェイドは,少し難しい顔をして,こう言った.
「うむ・・・そう来るか・・・.そのことを説明するには,浮遊大陸の起源から説明しなければならぬな・・・.

世界が数回再誕されるより遥か昔の古の話だ・・・.遥か昔・・・天界の使者である月天使・アモルと,地上人で最も徳が高いとされた娘・プシュケが恋仲であった頃の話だ・・・.この星,ガイアは,超文明で栄えていた.古の時代に,超文明を築く基盤となる超科学が在したのだ.なかでも古代の科学者・オーエンは,当時まだ地上に在した水晶石を削り取り,その欠片を浮遊石・タキオンとして浮遊大陸を造るのに至った.浮遊大陸は,地上から離れ,後に起きた超文明の大崩壊の被害を受けずに済んだが・・・.天界の者たちは大いにその浮遊大陸が気に入ってな.古代人・・・と勝手に呼んでいるが・・・の遺産として,冥界の入り口にありがたく使わせてもらっている,というわけだ.『魔』大陸成ら使めたのは,三闘神が初めて地上に降臨した場として,この浮遊大陸が相応しいと思ったからなのだよ」

一連のジェイドの語りを聞き終え,ティナたち四人は,話の筋を大まかにまとめようとしていた.一方のジェイドは目を瞑り,胡坐をかきながら静かに呼吸している.四人の中で一番に話を切り出したのはセリスだった.
「色々話が飛んでいるところがあるけれど・・・.まず,ジェイドの話を総括すれば,魔大陸・・・浮遊大陸を造ったのは,遥か昔の科学者だったオーエンという人で間違いないわよね?」
「そうね」
ティナが続ける.
「そして・・・この魔大陸には,亡くなった人たちの魂が集まる冥界という場所の入り口もある,ということもね.冥界には大水晶石があって・・・」
「その大水晶石が,亡くなった命を生まれ変わらせてくれる,っていう話だったよネ!」
と,最後にリルムが付け加えた.
「まっくろくろすけもなんか喋れよう~」
リルムがそうせがむと,シャドウは,
「俺が言いたいことは他の皆に全て言われたのでな.何も言うことは無い」
と,一言だけ早口で言ったのだった.

そんな四人を見て,ジェイドは,名残惜しむかのように,
「取り込み中,すまないが」
話し始めた.
「幾度となく世界の再誕を見守ってきた私だが・・・そろそろその役目も終わりを迎えるべき時が来たようだ.此処,冥界の入り口も,他の誰かに管理を譲る時が来たのかもしれぬ.それで,だ.黒魔法ブレイクを使えるおぬしら三人の力で,私をもう一度石化させ封印してはくれぬか・・・?私は,本来あるべき私,冥界王に還らなくてはならぬ.どうだ?やってくれるか?」
ジェイドの頼みを,引き受けた三人,ティナ,セリス,リルムの三人は,同時に黒魔法・ブレイクを唱えた.曰く,

「さんにんがけブレイク!」

三人の魔法の力が一つになり,やがてジェイドは再び石と化したのだった・・・.


4.


冥界王ジェイドとのやりとりがあった夜が明けた日の朝のこと.冒険者たちは,魔大陸の更なる奥へと進もうとして準備をしていた.ティナとセリスは早起きをして,テントを片付けていたし,シャドウはインターセプターにエサをやっていた.リルムはというと・・・.

テントを片付けられ,リルムは二人に起こされようとしていた,その時だった.

「待って,お父さん,お母さん・・・私を置いていかないで・・・」

そんな寝言を聞いて,真っ先に反応したのが,インターセプターだった.かの犬はシャドウに向かって吠えた.ティナとセリスは,どうしてインターセプターがシャドウに吠えているのか不思議がっていたが,当の本人・・・シャドウは,全く気にも留めていないようだった.やがて,その吠えでリルムが目を覚ますと,彼女は起きがけに,
「ねぇ,じじい・・・お腹減った・・・」
と零し,起き,今自分が置かれている状況を見て,赤面した.


朝の魔大陸もまた,静かだった.地上より遥か高く昇ったかの大陸は,一段と炎星に近くなったためか,邪悪な光が降り注ぐようになった.また空気も薄くなったためか,すぐに息が切れてしまう.そんななか,聖なる小部屋から出た四人は,昨晩,自分たちと相対した男のことで話題が尽きなかった.

「それにしても驚きだわ」
セリスが話し始める.
「ジェイドはこう語っていたわよね?『生前に何をしようが最期に送られ来るのは冥界だけ.天国や地獄などというものは存在しないのだ』って.私・・・ずっとシドの言葉を信じていたから・・・その・・・ショックで・・・」
「私もそうよ,セリス.でも忘れてはいけないような,気になることも言ってたわね」
今度はティナが話し始めた.
「『死した魂には,生前の記憶が残っていて,その記憶の内容によって,次に生まれる命の質が決まってくる』って.それで,私,考えたの.『死ぬ』ってどういうことかを・・・」
ティナの語りの最後の方を聞いたシャドウは,皆に気付かれないように,彼女の語りに耳を傾けた.

「人は・・・いえ,全ての命は今まで育まれてきたなかで培った記憶を大切にして生きていると思う.そして,その命が尽きると,『死した魂』となって冥界にやって来る.それで・・・.ここからは私の考えだけど,魂は・・・一度冥界の土に埋められ,また次の命として生まれ変わるための準備期間を与えられているんじゃないか,って・・・」
「なるほどね」
セリスが応じる.
「ジェイドが言ってた『冥界にて肥やされ』という部分を,あなたなりに考えてみたのね?」
ティナは返す.
「そうよ.そして冥界で育った魂の萌え木が・・・大水晶石の力によってまた地上で生まれ変わる・・・.これが,ジェイドの言っていた『魂の循環』の仕組みだと私は思うのよ」
「それがあなたの考えなのね.私は別個で『大水晶石』について考えてみたわ」
今度はシャドウは,セリスの方に耳を傾けた.

「まず・・・私たちの住むこの星が『ガイア』と呼ばれていたなんて知らなかったわ・・・.それに,この星の中心核に冥界があって,大水晶石っていうものがあるなんて,更に驚きよ.そもそも,大水晶石・・・って,言葉だけ聞くとすごく無機質っぽくない?そういうものが,私たちの住む星の命の源だと聞いた時・・・,最初は信じられなかった・・・.でも・・・でもね?星も,私たちと同じ,生きもので,大水晶石はガイアの心臓みたいなものだと思えば受け入れられるわ.そう,心臓,で思い出したけど,私たち地上の命は,ガイアにとって血液の成分みたいなものかもね・・・」


「あとは・・・」
と一言,シャドウがそう言うと,リルムが
「なーんか小難しいことばっかり喋ってるけど・・・.二人とも,一番大事なこと忘れてない?・・・・・・・・・要するに,結局あのおじさんって誰だったんだろうね?ってことだよ!」
と,急に話し出した.ティナとセリスは,驚くことなく,嫋やかにしていた.
「なんだよー,そのいかにも『あなたが話すのを待ってました』みたいな素振りは?!今朝だって恥ずかしかったんだからー,もう~!」
リルムはシャドウに弱キックをかまし,
「イカ墨野郎も何か喋れよう~」
と八つ当たりした.そこでシャドウは言う.
「あと残った話と言えば・・・浮遊大陸を発明したオーエンとその背景くらいか.ああ,リルムの言う通り,ジェイド本人に関しても謎だらけだったな」
リルムは話し出した.
「ジェイドって・・・あのムキムキした体に,ローブを着た男だけど・・・.最初に自己紹介したよね.名前と,冥界の王だって.でも,ジェイドは元々天界の人だったんだよね.そう話してたもんね.リルム,ちゃんと聞いてたヨ!」
ティナは,リルムの頭を撫でた.リルムは続ける.
「それで,一番良く分からなかったのが・・・,アモルとプシュケだっけ?あの話が一番ややこしくて全然分かんなかったなー.あと,もっと気になるのが,『六番目の幻想』とか,『世界が数回再誕された』とか・・・.リルム,なんのことかさっぱりで・・・」
最後の二つの言葉にティナとセリスは
"それ,それよ!"
と言わんばかりにリルムに刮目したのだった.

リルムは更に続ける.
「なに,『六番目の幻想』って?六番目,ってことは一番目とか三番目とかがあるわけ?そして,それは別世界の出来事なの?あと,『幻想』って言っちゃってるけど,私たちはちゃんと今を生きているんだよ!それは決して夢物語じゃない!」
「リルム.落ち着くんだ.そんなに大声を出してしまったら,ベヒーモスの群れがやって来るぞ」
熱っぽくなったリルムを,シャドウが諫めた.
「うん・・・.ごめん・・・」
ティナはそんな謝るリルムの頭を撫でながら,
「不思議よね.『世界が数回再誕』だなんて.私たちが生きているこの世界の他にも,別の世界があった,ってことかしら?」
と一言を呈した.セリスは,
「そうよね・・・,再誕,つまり『再び生まれる』ってことだから・・・世界が『あった』,と考えるしか・・・.ああ,でも待って.私たちが大水晶石で生まれ変わるように,大水晶石・・・ガイア自体も,別のもっと大きな何かで生まれ変わる・・・とか?」
と言った.

新たな考えが生まれ話が続くようだったが,シャドウが,
「皆.前を見ろ.あれは,ジェイドが言っていた,三闘神が生み出した番人じゃないか?」
と注意を促したので,皆は戦闘態勢に入った.これから何が起きるかも分からないままに・・・.






最終更新:2013年06月19日 18:10