kairakunoza @ ウィキ

ひとりの存在

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匿名ユーザー

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 ん~…っと……
 静かな朝に目覚めて私は体を起こす。
 近くに置いてあった時計で現在の時間を確認した。
 うん、いつもどおりね。
 ベットから離れて伸びをした。

「ふぅ…」
 どうせつかさはまだ寝てるだろうし起こしに行ってやるか。

 自分の部屋を出てすぐにつかさの部屋の前に向かう。
 なんの前触れもなくつかさの部屋のドアをあけてみた。
 しかし、その部屋の中にはつかさの姿が見えなかった。
 …先に起きて下に行ったのかしら?
 ま、たまにはこんなこともあるわね。
 でも、あの子にしては早いし珍しいわね…


 いろんなことを考えながら下に降りたが、それらの考えは全て打ち砕かれた。

 誰もいなかった。
 この家に。

 洗面所、居間、お父さんとお母さんの部屋、
 それに姉の部屋、家のどこを探してもいなかった。

 台所にすら誰も居なかった。
 なぜ?この時間なら台所には必ず誰かはいるはずだ。
 お母さんはもちろん、お父さんもいるはず。
 けど、あるはずの姿がないのはおかしい。

「嘘…よね?」
 こんな現実…あるわけないわよね…?
 どこのビックリ企画…?          

「おーい」
 …
「誰かー!」
 …
「誰かいないのー?」
 何回か大声を出して呼びかけてみるけど、当然その声はむなしく家の中に響くだけだった。
 音もしない。音がするものと言えば私の呼吸と足音と心臓の音ぐらいだった。
 その中で出てくる時計の針の音が耳を突く。

 なぜ誰も居ない?私を置いてみんなで出かけた?
 私に内緒で?そんな内緒の話してたらすぐにつかさの様子で分かるはず。だからそんな事はない。


 しかし、私はそんな事があるかもと思って家の廊下を歩いて玄関に靴があるか確かめに向かっていた。
 玄関に向かう時の廊下はいつもより長く感じた。
 その廊下を照らす朝の太陽の光が妙に暗くも感じた。

 歩いて向かった先…玄関にはなかった。
「嘘…でしょ?」
 私の靴以外がいつもの場所からきれいに消えていた。 

 どうして……どうして誰もいないの…?

 誰も…いないはずはない…。
 そう思った。          
 …
 もう、私は居ても立ってもいられなくなって行動を起こした。
 まず起こした行動は電話だった。
 こなたの家へ。繋がらない。
 次にみゆきへ。繋がらない。
 日下部にも繋がらない。
 峰岸にも…。
 知ってる限りの電話番号にかけた。
 誰も出なかった。
 居間に行ってテレビもつけようとしたが電源すらつかなかった。

 いつのまにか私は自分の部屋に戻っていて着替えをしていた。
 着替え終えたら脇目もふらずにすぐに家を出た。

 家を出て最初に向かったのが神社だった。
 ここなら誰か…いるはずだ。
 しかし、歩いても歩いても人影は見当たらない。
「ほんとに誰もいないの…?」
 こんな不安がたくさん溜まって行く。
 そんなはずはない。
 だけど、目の前の光景…朝からのことを考えたら怖くなってきた…。

 神社から離れるも人はいない。ただただ家が建ってるだけ。
 このまま駅へ向かってみる。
 家が並んで建ってるのが少し腹立たしく感じた。
「誰の…いたずらよ…」
 呟いて見るけど当然周りに誰もいないから反応はなし。   

「つかさ」
 呼んで見るけどもちろん反応はなし。
 しかしそれだけでも『なぁに、お姉ちゃん?』というつかさの声が聴こえてきそうだった。

 駅へ来るも途中、車のエンジン音も人の足音も聞こえなかった。
 聞こえて来る物は自分の呼吸と足音と心臓の音だけだった。

 太陽の光が妙に眩しかった。
 それを受けて私はもう昼なんだと思った。

 元からこの町は静かだったけどさらに静かに、そして落ち着いていた。

 駅のすぐ近くに立っているけど電車はいつになってもここには来る気配もなかった。
 飛行機、車、バイク、自転車、人、犬、猫、鳥さえも見えなかった。
「どうすれば…いいのよ…」
 涙が出てきそうになるが堪える。
 もう、どうしようもなかった。
 駅から離れても離れても誰も居ない。
 人が集まりそうな場所に行っても誰も居ない。

 何も音がしないこの空間がさらに寂しく感じさせる。
 それに人の温かさを全く感じさせなかった。
 この町全体が冷たくなっている。

 私は周りを見渡す。
 私の目に映るものは建ち並ぶ家と長く続く道路とたまに生えている木々ぐらいだった。
 人っ子一人いない所がこんな感じだなんて私は思ってもいなかった。

 わずかな希望を探るように頭の中でなにかが起きるのを期待している私がいた。

 しかしそれももう…だめだと思った。
 こんな状況ではなにもかも潰されてしまう。そんな気がした。

 …
 私は無意識の内に大声を出して叫んでいた。
「誰かぁーーーーーーーーっ!!」

 叫んだ瞬間、私の目の前がそこで暗転した。



「っ…」
 …
 暗闇の中に私は目を覚ました。
「はぁ…はぁ…」
 今のは夢だったのよね…?

 自分の頬をつねってみる。
 痛い。
 目が完全に覚めきっていた。
 そこで私はやっと現実に戻ったという事がわかった。

 誰もいない世界…かぁ…
 夢でもとてもいやなものね…。
 忘れたいけど忘れられなかった。

 少しリビングに行って落ち着こうと思ってベットから離れて廊下に出るためにドアを開けた。
 廊下は真っ暗だった。
 そして、廊下に足を出した瞬間つかさの部屋から小さな物音が耳に入ってきた。

 勉強でもしているのかしら?
 でも……今、何時よ?
 夜遅くだったらつかさが起きてるはずがないわね…。

 少しの思考を頭の中でめぐらせて、
 階段に向けて足を動かしていたつもりが、つかさの部屋に向けて足を動かしていた。

 ハッと気付いた瞬間その部屋の前に来てドアを開けていた。
 …
 ドアを開けた音に反応してすぐに帰ってきた音が大きく布が擦れ合う音だった。
 部屋の中は真っ暗だった。


「つかさ?」
 声を出してその名を呼んでみる。

 …
 返事はなかった。
 いないなんて事はないわよね…?

 しかし布団がちょっとだけ動いたのに気付いた。

「つかさー?」
 もう一度口を動かして呼んでみる。

「お姉ちゃん…?」
 返事が帰ってきた。
 その声の内容は間違いなく私の事を指したものだった。
 …よかった。もしかしたら誰もいないと思っていたこそ、とても安心した。
 そして、私をお姉ちゃんと呼ぶ存在はただ一人。つかさしかいなかったからだ。

「つかさ、そこにいるの?」
 私はまた確認した。
「うん…ここに、いるよ…」
 暗闇の中でもベットの上で布団を被っているつかさを確認する事が出来た。
「お姉ちゃん…こっちに来て欲しいな…」
 気のせいなのか、つかさの声が微かに震えて聞こえた。
「分かったわ」
 なにも考えずに返事をしていた。

 暗い部屋の中を歩いてつかさが横になっていたベットに座る。
「それで、なに?」
「えっとね…一緒に寝て欲しいんだ…」
 今、つかさがどんな表情をしているのかある程度は予想が出来た。
 何かを怖がっている。そんな感じがつかさから感じられる。
「そんな怖がらなくてもいいわよ。私がいるから…ね?」
 とにかく私はつかさを落ち着かせるよう頑張る。
「うん…」

 なんでここに来てるんだっけ…?
 えっと、下に行って落ち着こうと思ったらいつのまにかつかさの部屋に来て…、こうなってるわけか…。
 今はつかさを落ち着かせようとしてるけど、逆に私がつかさに落ち着かされてるような気がしなくもない……。

 私はつかさと一緒に横になった。
 この状態だとつかさの吐息が感じられる。
 そして、髪の感触も匂いも。
 つかさが近くにいるということを嫌でも自覚させられる。

「お姉ちゃん…聞いて欲しいことがあるんだけど…」
「ん、なに?いいわよ、言ってみて」
「さっき…お姉ちゃんがここに来るちょっと前までに見てた夢なんだけど…」
 夢…ね…。
 夢と聞いてすぐに浮かび上がってきたのは、思い出したくもなかった夢だった。


「それで、その夢に誰もいなかったの。私以外の人が…」
 え……?
「お姉ちゃんもお母さんもお父さんも…近所の人も、町の人も…誰もいなかったの…」
 まさか…つかさが話してる夢の内容って…。
「電話をかけても、駅に行っても、歩いても歩いても誰もいなかった…」
 私が見た夢と…。
「探しても探しても同じような景色だけが続いていただけ…」
 同じ…?
「その辺りで目が覚めて、今…お姉ちゃんが来てくれたんだ…」
「そう…」
 こんな返事ぐらいしか出来なかった。

「それが…とても怖くて冷たくて…何もなかった…」
 …やっぱり私達は双子なのね。寂しがりやは私もつかさも変わらない。
 そう。私はあの夢が怖くて冷たかったからつかさの部屋に来たのかもしれない。
「だから…目が覚めた時も怖くて…誰もいないと思って、部屋の中から出られなかった…」
 物音がしたのはそういう事ね。
「…あそこのドアが開いた時も怖かった。けどお姉ちゃんだと分かってからとても安心出来た」
 私も…つかさがいると分かってからとても安心出来た。

「お姉ちゃん…聞いてる?」
「聞いてるわよ。つかさは寂しがり屋なんだと思いながらね」
 人の事言えないけどね…。
 どうして私は強がりなんだろうと思う。
「うぅ…」
「それより早く寝ないの?明日も早いでしょ?」
「うん、そうだね」

 つかさの返事だけしか耳に残らなかった。

 そして私はつかさと一緒に目を閉じた。



 10分ぐらいはたったか、それでもあまり眠れなかった。
 気付いた時にはつかさはいつのまにか寝息をたてて私を抱き枕みたいにしながら寝ていた。
 …少し、苦しいじゃない…。そんな抱きつかなくても私はどこにも行かないわよ…。

 ま、たまにはこういう事も悪くはないわね。
 私は、つかさの頭を撫でてあげる。
 つかさが幸せそうな表情をしてるのが少し見えた。
 この子といたらあんな夢もすぐに忘れることが出来そうだった。
 そう思うぐらい、私はつかさを支え、つかさに支えられてる事が分かった。

「ぅ…ん…お姉ちゃん…どこ……」
 寝言か…。
 やれやれ…。
「…むにゃ……どこに…いくの……」
 ばかね。ここにいるじゃない。
 どっか行こうとしてもあんたが抱きついてるから無理よ。

「つかさ、おやすみ」
 夜の挨拶をして私は目を閉じた。


おしまい












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  • シンクロしてる -- 名無しさん (2010-10-28 16:05:11)

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