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Tiny☆Stars『後編その1:秋の邂逅』

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
春にみゆきから突きつけられた疑問は、夏が過ぎ秋になっても解決していなかった。

いや、むしろ悪化したと言っていいかな?
こなたからのメールや電話に出なくなってしまったんだもの。

電話は留守番電話サービスに録音されたメッセージを聞くだけ。
メールも送られてきたものを読むだけになってしまってる。
結果、こなたからの連絡は減ってしまった。

でも、メール本文や録音された声に、私を責める言葉はない。
むしろ、こなたの都合でメールが送れなくなっていることを詫びる文面ばかりだ。
たぶんそれは、こなたの気配り。

高校時代にこなたに言った『こなたは社交性ゼロ』、あれは間違い。
クセこそあるものの、こなたの社交性はズバ抜けている。

なかなか会う機会のなかった峰岸や日下部たちと、あっという間に打ち解けてしまったのが、その証拠。
パトリシアさんや田村さん、岩崎さんとも知り合いになれたのも、こなたがいたからだと言っていい。
ゆたかちゃんがいたからだ、と考えることもできる。
でも、こなたがいなければ、ああまで打ち解けられなかったかも。
たぶん、黒井先生とも。

でも私は、こなたから逃げ出した。
自分自身で理由をつかめないままに。

そして自分が逃げ出したことに背を向けて、大学の仲間と遊んでいた。
楽しんでいるフリをしながら。

そんな私の様子を尻目に、つかさ、みゆき、こなたの3人は、しょっちゅう連絡を取り合っているようだった。
3人の楽しげな様子を思い浮かべ、自分が取り残されたような気になってしまう。
自分から踏み出せば3人の輪の中に入っていけるのに、そう思いながらもその場から逃げ出す私。

この時ほど自分が情けなく思えたことはなかった。

だけどそれを気にしている様子を表には出さずに、大学や図書館へ通いつづける。
自分の中のモヤモヤしたものから逃げ出すように。
まあ、講義を復習したり、学内イベントやサークル活動をしていると、時間が足りなくなるのも事実なんだけどね。

学内や公立の図書館には通いづめで、司書の人たちに顔を覚えられるほどだったりとか。
サークル活動にはほぼ皆勤状態だとか。
おかげで学内の知人友人とは、それなりにやれている。

反面、連休はおろか夏休み中もこなたと会うことはなかった。
そして結局、私の中のモヤモヤ感は消えなかったのよね。



「コスプレ喫茶、ですか?」

先輩からその話が私の元にやってきたのは、そんなある日のこと。

学園祭の催し物として、サークルのメンバーでコスプレ喫茶をやるというものだった。
すでに実行委員会には届済みで、場所も教授のコネでいい場所がとれそうだ、というところまで決まってしまっていた。
仕方がないので衣装などはどうするのか聞いてみたところ、知り合いから借りられることになっているとのこと。

「サイズとか大丈夫なんですか?」

「心配しなくていいよ」

ふいに声をかけられてふりむくと、どこかで見たような男の人が笑いながら立っていた。
少し痩せ型ではあるけれど、神経質そうなところのない男の人。
かもし出す独特の雰囲気が、この人もオタクであることを感じさせている。

どこで見たんだろうと考えていると、男の人はふしぎそうな顔で聞いてきた。

「どうかした?
俺の顔、なんかついてる?」

「い、いえ、違います違います。
ごめんなさい、ジロジロ見ちゃって。
で、矢野先輩……この方は?」

改めて話を持ってきた先輩の矢野さんににたずねてみた。
なんでも友人のツテで紹介してもらった、よその大学のアニ研OBの田村さんだとのこと。
どっかで聞いたことあるフレーズだなあとは思ったけど、あえて気にしなかった。

というより理性が拒否したんだと思う、そんな偶然があることを。

「で、柊さんはどっちにする?
奥で調理をする方に回るか、それともコスプレして接客する方に回るかだけど」

少しだけ悩んだ後、接客する側に回ることを先輩に告げる。
学園祭の喫茶店だもの、大した料理を出すわけではない。
でも、私にできるレパートリーでは喫茶店に向かないのも事実。
お姉ちゃんたちですら私の料理を『男らしい』と評するほどなんだよね。

がんばってレパートリーを増やそうと、みゆきにも教えてもらってはいる。
けど、いまだに上達の兆しが見えないんだよね、これが。
ちょっと思い出して少し凹んだことは、内緒にしておこう。

「よっしゃあ! これで売り上げNo.1はいただいた!」

私がコスプレして接客する、ということに対する先輩たちの歓迎の度合いが凄い。
なんだか、私が接客に回ることが狙い通りらしい。
そんな先輩たちの様子が少し気にはなったけど、決まった以上は本腰を入れるつもり。

で、なんだかんだでその後、男3人、女4人がコスプレをすることに決まった。



それからサークルの仲間は三つの班に分かれた。

一つ目は学祭の実行委員会と打ち合わせたり、機材の手配をする班。
ふたつ目はメニューを考えたり調理法や盛り付けを考える班。
で、三つ目が接客や衣装に似合った動き、さらには店内イベントの練習をする班。

それぞれが連携をとりながら準備をはじめることになったのだった。

「じゃ早速、衣装合わせをしよう。衣装は全部ウチに置いてあるから、みんなウチに来て」

誘われるままゾロゾロと田村さんの家に向かう私たち。
遠いから夕食もごちそうするということで、みゆきとゆかりさんに連絡。

 - そうなんですか。じゃあ今夜は遅くなるんですね。わかりました。はい、ではゆっくりと楽しんできてくださいね。 -

みゆきから聞く、心の底からの優しい声も久しぶりだ。
あの日からずっと、私を心配している声しか聞いたことがなかったから。

「うん、楽しめるかどうかは……まだ゙わからないけどね。
とりあえず、どんなことになるか楽しみにしてる」

私のことばに安心したのか、みゆきの明るく笑う声が聞こえてくる。

 - いいことがあると、よろしいですね。 -

その言葉に少し引っかかりをかんじたけれど、あまり気にも留めずに電話を切る。
田村さんも自宅に連絡を入れていたようだけれど、どんな話をしていたのかはわからない。
このとき聞き耳を立てておけばと、ちょっぴり後悔した。

列車の中ではそれなりにラノベやアニメの話で盛り上がる、小さめの声でだけど。
アニメを見る時間はロクに取れないけれど、なんとか話にはついていけてる。
原作を知っているおかげかな。

会話の中にときどき、独特な言い回しが出てくるけれど、それも理解できた。
たぶん、こなたのおかげ。
あいつと話しているうちにマニアックな用語を覚えてしまったようだ。

もっともこれは、感謝していいものかどうか悩むところだ。

「柊さんって、勉強一筋かと思ったら、けっこうくだけてるんですね」

「やっぱりツンデレだよ、柊さんは」

「ええっ?
ちょっと待って、なんでそうなるんです?」

私の抗議を無視してみんな納得していた。
ああ、これがこなたの言う「脳内補完」って奴ですか。
「一度そういう風に見えたら、そうとしか見えなくなる」っていう。

だけど直後、どこかで見たような雰囲気の笑顔で同級の男子が言った。

「柊さんはツンツンだよ。だって、デレがないもの」

みんながもっと納得していたのには凹んだ。
こういうとこは何とかして欲しい、マジで。
たぶん、ムリだろうけどね。

やがて話が弾む中、時折見る景色に見覚えがあることに気づいた。

(あれ、ここは?)

実のとこ、切符は先輩たちが買ったんで、目的地がわからないのよね。
渡された切符の額面を見て、けっこう距離があるとは思ってたけど。

でも、見覚えのある乗換駅に近づいていったとき、もしやという思いはさらに強くなっていた。
そして更なる幸運を願う自分がいることに少々驚いた、自分はこんなにロマンチストだったかなあと思いつつ。



やがて、よく見知った駅にたどり着く。
そこからバスを乗り継いで、さらに少し歩いたところに、田村さんの家はあった。
少し年季の入った2階建ての一軒家、それが田村さんの家だった。

「さ、ここが俺の家だ。遠慮なく上がってくれ」

うながされるままに玄関に。
みんな落ち着かなさ気にキョロキョロ見回している。
もちろん、私も。

「お邪魔しまあす」

いつまでも玄関先にいるわけにはいかないので、上がらせてもらうことに。
なんだか玄関に出ている靴が多いなあ、と思いながら。

見たことがあるような靴が、1足だけ乱雑に脱ぎ捨ててあるのを直したあとでね。

田村さんの案内で客間に通される私たち。
大きめの客間に案内してくれたあと、田村さんが出て行く。
「衣装を持ってくるんで、しばらく待っててくれないか」と言って。

どんな衣装が出てくるんだろうかとか、うまく接客できるんだろうかと、みんな不安げに語りだす。
でも、せっかくなんだから店内でイベントなんかもやりたいよね、などという声も。

しばらくすると客間に近づいてくる複数の足音が聞こえた。

「ああ、悪いんだけど両手がふさがってるんで、襖を開けてくれないかな?」

田村さんの声に近くにいた私が開けると、大きなダンボール箱を持った田村さんが入ってきた。
だけど、入ってきたのは田村さんだけではなかった。
田村さんの後に続いて、同じように大きなダンボール箱を持った3人の女の子が入ってきたのだ。

ひとり目は田村さんによく似た雰囲気の、メガネをかけた少しボサボサ気味な長髪の女の子。
そして2人目はブロンドのショートヘアーがよく似合う、活発そうなアメリカ人の女の子だった。
もちろん、ふたりとも見覚えのある子だった。

だけど最後に入ってきた女の子に、私の目は釘付けになっていた。
小学生と見間違えそうになるほどに、小柄で長髪の女の子。

私が会いたくないと思い、そしてまた、とっても会いたいと思っている女の子。

その子は、猫を思わせるような笑みで私を見ている。
驚きのあまり私は、大きな声で話しかけてしまった。

「田村……ひよりさん! パトリシアさん! こなたっ! 何であんたたちが?」

「柊先輩、こんばんは」

「かがみ、久しぶりですねえ」

「かがみん、やっと会えたね」

口々に話しかけてくる3人を見て、私は確信した。
というか、これが現実であることを突きつけられたと言った方がいいかな。

そしてその間、私の時間は止まっていた。

誰もピクリとも動くことなく、静寂が8畳の客間を支配している。
なんだか、「ザ・ワールド!」というこなたの声が聞こえたような気がした。
けれど、ほほ笑んでいるこなたの口は動いていない。

たぶんそれは私の心の中で聞こえた声。
こんな時にまでこなたの声が聞こえてくるなんて、どうなってるんだ私。

驚きが薄れると共に私の視界が歪んできた。
そして私の頬を熱いものが流れていく。

たぶんそれは、私の涙。

逃げ出したいけど、近寄りたい、そんな思いが交錯している。
頭の中が冷静になれないまま体だけが動き出す、静寂を破って。
みんな驚いてたけどそんなことにはかまわず、こなたに近づく。

心の奥底で、会いたいと思い続けていた人の名前を口にして。

「こなた……」

歪んだ視界のまま近寄ろうとして足がもつれ、前へと倒れこんでしまった。

こなたはとっさに箱を脇へ落とし、私を抱きとめる。
すると、私の顔がこなたの胸にふわりとおさまった。

「かがみ、大丈夫?」

「うん、ありがとう」

こなたは私が膝立ちの状態になるまで、抱きしめていてくれた。
ようやく落ち着いて話ができるようになったころ、ニンマリ笑いながら言う。

「どれみ、捕まえた」

「莫迦……」

こんな時までアニメネタかい……そう思いつつもうれしさのあまり、それ以上突っ込むことができなくなっていた。
かわりに私もこなたを強く抱きしめる。

「会いたかった、でも……」

「言わなくてもわかってるよ、かがみん」

コツンと額を合わせ、見つめあう。

トクン、トクン、こなたの胸の奥から心臓の脈動が伝わってくる。
トクトクトクトク、私の心臓が早鐘を打つ。

こなたの顔が赤くなってる。
私の顔も赤いだろう。

何も言わずに、ほほ笑みあう。
抱きあう腕に力が入る。

『こなたが好き』

そんな言葉が頭に浮かぶ。
でも、それは愛情?
それとも友情?

整理のつかない私の気持ち。
そこに背を向け逃げ出してたんだ。
この思い、知られたらきっと嫌われる。
そんな思いが背中を押して。

でも、こなたと離れたくないという気持ち。
ずっと一緒にいたいという、私の気持ち。

これだけは真実。

心の中を吹き抜けていた、すきま風がやんでいる。
どこからか湧き出ていた、孤独な思いが消えている。

体の奥から熱い思いが溢れ出す。
こなたの顔を見続けるうち。

抱きあう私たちの間では、2人だけの時間が過ぎていく。

静かに、静かに……




けれどその時間は、あっという間に終わりを告げた。

「ああ、そろそろいいかな?」

呆れ顔で言う矢野先輩に続いて、ひよりさんとパトリシアさんが言ってくる。

「柊先輩、大胆ッスね」

「かがみ、こなたと百合百合だったんですね!」

あわてて離れると私たちが注目の的になっていることに気づく。
何とか誤解を解こうと必死になればなるほど、シドロモドロになってうまく言葉が出てくれない。

「いやあ、バレちゃったね、かがみん」

なに落ち着いてんのよこなた!

それじゃ、まるで私とこなたが……レ、レ、レ、レズだって言ってるようなものじゃない!
あんた、『リアルで百合属性ない』とか言ってたクセに、それでいいの?
と、とにかく否定しなくちゃ!

「ちょ、おま、なに言ってんのよ!
先輩、ひよりさん、パトリシアさん、みんな、違うから!
私とこなたは、そんなんじゃないから!」

ああ、なんか逆効果だったみたい。
みんなの私たちを見る目が生暖かい気がする、なんとなく。

なんとかしなくちゃいけないわね。

このままじゃみんなに誤解されちゃうじゃないの。
こなたと私がレズだって。
それだけは避けなくちゃ!

絶対に!

私のためにも、そして、こなたのためにも!

「柊さん、落ち着いて。
みんなわかってるから、今のが冗談だって」

「へ?」

うつむき気味に考えこむ私に、矢野先輩が声をかけてくる。

見ると、パニックになっているのは私だけだった。
先ほどまで感じていた生暖かい視線は、かけらも存在していないことに気づいた。

あ……これって、もしかして?

「柊さんて、落ち着いたイメージがあったんですけど、意外にあわてやすいんですね」

同じ講義で会うことの多い女の子が、目を丸くしていた。
やっちゃいました、私?
穴があったら入りたい、その言い回しがよく理解できた瞬間だった。

私がへたりこんだ直後、大きな笑い声が部屋中に響いた。
そこから先、話が弾んだことは言うまでもない。



「いやあ、まさか柊さんが『こなたとパティ』の知り合いだったとはねえ」

矢野先輩がにやついた顔で言う。
ああ、コスプレ喫茶をやろうというだけあって同じ穴のムジナだったんですね、先輩。
たぶん、そんな思いが顔に出たのだろう、こなたまでもがにやついた顔で言う。

「まさかお店の常連さんが、かがみの先輩だったなんてねえ」

ああなるほど。
だから『コスプレ喫茶をやろう』って言い出したんだ、矢野先輩。
てか、先輩の趣味全開ですか!

だけど、なんかおかしい。

何でここまでお膳立てされてるのよ。
私とこなたの再会が!

これはたぶん、何かあるな。
そう思った私は、こなたに質問をぶつけてみた。

「ところで、こなたさん。
なんでこんなにも都合よく再会できたのかしらね?」

なかば言いがかりに近い私の質問に、こなたは言葉をつまらせた……って、ええっ!
まさか、あてずっぽうが大当たりなの?
だけど、いつまでたってもこなたは話してくれそうにない。

「あんた、私に隠してることがあるでしょ?
さっさと話しなさいよ!」

私の勢いに気おされたのか、口をモゴモゴさせていたこなたがポツリポツリと話しはじめた。

「い、いやあ。それはね。かがみがなかなか会ってくれないからさ。
あっちこっちのツテを頼って、ね……」

なんでも田村さんは、ひよりさんの2人いるお兄さんのうちの下のお兄さんなんだそうだ。
で、そのお兄さんの大学時代の後輩の友人が、私と同じ大学に在籍していて、その友人の先輩の、そのまた友人の弟が、矢野先輩だということらしい。
なんだかややこしいわね。











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