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誕生日の日に咲いた花

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匿名ユーザー

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 他の皆よりも、体の弱い私。
 そんな私の中で生まれた蕾は、見落としてしまうほどに小さくて。
 私自身、その存在に気づいたのはここ最近だった。
 かといって、その蕾がなんの蕾なのか、皆目見当もつかなかった。
 だけど私は、無意識のうちにその蕾に水をやり、暖めて、花が咲くのを待っていた。
 小さくても生き生きとしたそれが、なんだかとても大切なものに思えたから。






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『誕生日の日に咲いた花』

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 心地よい朝の光りに、ゆっくりと目を覚ます。
 目覚まし時計に目を向けると、針は6時を指していた。少し早く目が覚めてしまったみたい。
 かといっても、目覚めがよくて目はばっちり覚めている。
 体の向きを変えベッドに手を突き、力を入れて立ち上がると、スプリングがギシッと音をたてた。
「……あれ?」
 部屋を見渡して気づいたことがある。カレンダーがなくなっていた。
 おかしいな、ここに置いてあったはずなのに……
 取り敢えず私は手早く着替えを済ませて、リビングへ向かった。

「あれ?」
 またもやリビングで違和感。テレビがついてない。リモコンに手を伸ばして、電源と書かれたボタンを押す。
 テレビはうんともすんともいわない。壊れちゃったのかな……
 確認するためにテレビに近づこうとした時。
「あ、ゆーちゃんおはよ」
 後ろからかけられた声に振り返ると、きちっと制服を着こなしたこなたお姉ちゃんが立っていた。
「おはようお姉ちゃん。あのね? テレビがつかないんだけど」
「あー、それね。今ちょっと壊れちゃってるからつかないんだ。明日辺り新しいの買いに行くから我慢してね」
「あ、うん。それはいいけど」
 そういえば昨日もテレビ付近でおじさんが何かやっていた気がする。
「でもそれだと天気予報とか見れないね、お姉ちゃん」
「まぁ仕方ないでしょ。取り敢えずご飯でも食べよっかゆーちゃん。手伝ってくれる?」
「うん。それにしてもお姉ちゃん今日は早いよね」
「ん~、なんとなくね」
「そうなんだ……」
 お姉ちゃんと会話を交わす。そこでも違和感があった。
 お姉ちゃんの言葉がなんだかそっけない。
 機嫌……悪いのかな。




 一緒に朝食を食べている時も、あまり会話が続かない。
「今日は天気が良いねお姉ちゃん」
「そだねー」
 まるで、会話を続けるのが億劫なようなお姉ちゃんの返事。
 心臓がキュッと締め付けられるようで切ない。
 あ、もしかしてお姉ちゃんあの日なのかな……あの日?
「ねぇお姉ちゃん、今日って何日?」
「今日は20日だよ、ゆーちゃん」
 やっぱりそうだ……今日は私の誕生日。
 ってことは、お姉ちゃんのそっけない態度はきっと、あれだ。
 漫画とかで読んだことがある。突き放して寂しくさせておいて、あとでびっくりさせて喜ばせようっていう。
 お姉ちゃん私がこんなのに引っかかると思ってるのかな。私だってもう高校生なのに……
 ……でも、私のためにそういう計画を立ててくれてるんだ……そう思うと、すごく嬉しい。
 私の、口許は自然と緩んでしまう。
「どったのゆーちゃん?」
「ううん、なんでもない♪」
「……変なの」
 一度そう見えてしまうと、お姉ちゃんの冷たい態度も、なんだか暖かくて可愛らしく見える。
 朝ご飯も、いつもより美味しく感じた。
 今日の夜が今から楽しみ♪
 先に行くねというお姉ちゃんに続いて、いつもより早めに家を出た。





「おはよーみなみちゃん、田村さん、パトリシアさん」
「おはよ……」
「オハヨーデスゆたか」
「おはよう小早川さん。それでさその人のことなんだけどね」
 3人もなんだかそっけない態度。私を一瞥すると、すぐに3人で話し込んでしまった。
 みんなもそうなんだ……こなたお姉ちゃん、皆にも声かけておいてくれたのかな。
 私は気づかないふりをして机に座り、授業の準備をし始めた。
 その間も3人の様子をチラチラ見ていると、みなみちゃんと目が合う。
 あ、慌ててそっぽ向いてる。みなみちゃんクールなのに、演技は苦手なんだね。えへへ。
 それがなんだか嬉しくて、授業中笑顔を隠すのに苦労した。
 いつもより学校が終わるのが長く感じた。




 放課後。案の定、3人は用事があるといって先に帰ってしまった。
 久しぶりに一人で歩く夕暮れ時の帰り道。楽しそうな親子連れやカップルに視線が動く。
 結局、休み時間も昼休みも、4人でいっしょにいたにはいたけれど、会話なんてあってないようなものだった。
 廊下ですれ違ったお姉ちゃんの友達、かがみ先輩、つかさ先輩、高良先輩
 それから日下部先輩、峰岸先輩も、なんだかよそよそしかった。
 理由は分かっていても、やっぱり寂しい。
 でも、それももうすぐで終わる。家に帰れば、きっとみんなが私の誕生日を祝ってくれる。
 ケーキはどのくらい大きなケーキなんだろう? クラッカーとか鳴らすのかな、私びっくりしちゃうかも。
 プレゼントはなんだろう? ……お姉ちゃんは、どんなものをくれるんだろう。
 私はワクワクしながら、泉家のドアを開けた。


「……?」
 家の中からは物音がしない。てっきり入った瞬間にクラッカーを鳴らされると思っていた私は少し拍子抜けしてしまった。
 靴を脱ぎ、揃えてからリビングに向かう。音をたてないように忍び足で、リビングの前にたどり着く。
 扉をそっと開けて、中を盗み見た。
「……誰もいない」
 リビングには誰もいなかった。飾りつけもしていないし、ご馳走の匂いもしない。
 なんでだろう……私はリビングを後にして、自室へと向かった。
 その途中で、こなたお姉ちゃんの部屋からなにやら音が聞こえた。
 私は期待を胸に扉を開く。
 お姉ちゃんがテレビに向かってコントローラーを操作していた。
 私に気づいたお姉ちゃんが、ゲームをポーズしてこちらに首だけを向けてくる。
 その顔はいつものかがみ先輩やつかさ先輩、みなみちゃんたちに向ける飄々とした顔で
 いつも私に向けてくれている、優しい顔ではなかった。
 お姉ちゃんが私だけに向けてくれるその笑顔が、密かに自慢だった。
 体の真ん中が、ズキンと痛む……どうして?
「あ、おかえりゆーちゃん……どうかした?」
「……た、ただいま!! えっと、お姉ちゃん、何してるの?」
「ゲームだよ。見れば分かるでしょ?」
「あ、うん……そう、だね」
「何か用でもあった?」
「……な……んでも……ないよ……邪魔して、ごめんなさい」
「そ」
 耐え切れずに、首を引っ込めてドアを閉めた。
 最後に聞こえた声は、まるで私の心臓を冷たい氷の刃で抉るように、感情のない言葉だった。
 どうして……どうしてお姉ちゃんは私に笑ってくれないのだろう……
 昨日までは……私の大好きな笑顔を、私だけに見せてくれたのに……
 私……お姉ちゃんに嫌われるようなこと……したのかな。




 沈んだ気持ちのまま、お風呂に入る。
 この気持ちはシャワーでも洗い流すことはできなかった。
 大好きなはずのお姉ちゃんの作った夕ご飯も、味がしなかった。
 暖かいお湯が、体に沁みるような錯覚を覚えた。
 お風呂から上がって、自室のベッドに横たわる。
 こんなに気持ちが苦しいのはなんでだろう。
 誕生日を祝ってもらえなかったから? ……ううん、違う。
 きっともっと深いところ。根元の部分。それが何かは分からないけど。それだけは分かる。
 薄い胸の奥で燻って、それは外に出たがっているのに、私自身がそれを躊躇っているみたい。
 今回の件が、それを加速させてるのだろう……
 そんなことを考えながら、この現実を受け入れぬように、私はズブズブと夢の中に落ちていった。






 雨音に目を覚ます。
 結構大降りみたいだ。ゆっくりと起こした体は、なんだか重く感じた。

 ……。

 お姉ちゃんに謝ろう。このままなんて嫌だから。あの優しい笑顔を見られないなんて……嫌だから。
 なんで機嫌が悪いのか分からないのに、謝るだけ謝るなんて、ふざけてるかもしれないけれど。
 許してもらえなくても、謝ろう。お姉ちゃんと、かがみ先輩たち、それからみなみちゃんたちにも。
 鏡の前に立つ私は、ひどい顔をしていた。目は充血して、髪はぼさぼさ。
 こんな私じゃ、誰も受け入れてなんかくれないよね。櫛で寝癖を大人しくさせて、頬を軽くピシャピシャと叩く。
 うん。がんばろう。急いで着替えて、部屋を出る。お姉ちゃんは部屋にいなかった。
 どうやらもう起きたみたいだ。身を翻して、リビングへと向かう。
 どうやって謝ろう……ど、土下座とか? そんなので許してくれるのかな……
 謝罪の方法も定まらないまま、私はリビングの扉を開けた。





パン!! パン!! パパパン!!

「!?」
 突然鳴り響く銃声……じゃなくて、これは……クラッカー?

『誕生日おめでと――!! ゆたかちゃん』
「おめでとうございます♪」
「おめでとう、ゆたか」
「誕生日おめでとう!! ゆたか!!」
「おめでと、小早川さん!!」
「おめでと……ゆーちゃん」
「え? え?」
 そこには、満面お笑顔の皆がいた。
 部屋中に施されたデコレーション。美味しそうなご馳走。私が願った光景だ……でも。
「えっと……私の誕生日……昨日なんですけど」
「え?」
 皆驚いたように顔を見合わせている。日日を間違っていたことに驚いているのだろうか。
「もしかしてゆーちゃん、まだ気づいてないの?」
「え? 何が?」
「今日、20日だよ?」
「……ふぇ?」
 ふと、昨日なかったはずのカレンダーが目に入った。
 今日は日曜日。その枠の中心には、大きく『20』という数字が書かれていた。
 ど、どうして? 確かに昨日20日って。
「昨日私が20日って言ったのは嘘だよ」
「え? え? どういうこと!?」
「だから、昨日は19日だってこと。ゆーちゃんにばれないようにカレンダーとか時計とか、いろいろ細工しておいたんだよ」
「クラスの方では、私達3人が19日だということをばれないように、いろいろ裏で手をまわしたりしたんスよね♪」
 え? ってことは……
「ゆーちゃんはまんまと私達のドッキリ&サプライズにひっかかったということさ♪」
 頭の中が真っ白になった。
「いやー、でも本当にうまくいくとはね。私絶対無理だと思ってたわよ」
「ゆーちゃんが天然で助かったねぇ。これならつかさにも通用するね」
「こ、こなちゃん!! どういう意味!?」
 笑顔で笑う皆。
 ポカンとしていた私に、お姉ちゃんが向き直った。
「改めて……ゆーちゃん、誕生日おめでとう」
 私に向けられた笑顔は、私の大好きな優しい笑顔だった。
 向日葵のような、それでいてコスモスのような……私の大好きな笑顔。
 私の心に咲いた小さな花。
 私は……そこでやっと理解した。
「お゛ねぇぢゃぁああぁあああん!!」
「うお!? ちょ、ちょちょちょ、ゆーちゃん!? どうしたのいきなり泣き出して!? 顔ひどいよ!?」


 あぁ……そうか……私は、お姉ちゃんのことが……





 そのあとはともかく大変だった。
 どうやら皆私が寝ている間に、徹夜で飾りつけとか料理をしたみたいだった。
 みんな眠かったからか、テンションがおかしかった。
 日下部先輩はいきなり服を脱ぎ始めるし、峰岸先輩は『あ~ん』とかいいながらつかさ先輩のおでこにおかしをくっつけるし。
 つかさ先輩はずっと笑ってるし。高良先輩はジュースと間違ってお酒を持ち出して、ゆいお姉ちゃんと飲み比べをして勝っちゃうし。
 おじさんは『俺は勝ち組だあああああああああああああああ!!』とか叫びながらどこかに走っていっちゃったし。
 田村さんはパティさんと一緒に、お姉ちゃんが言うにはアニソンを大声で歌い始めるし。
 1億だとか2000年とか8000年とか
 愛してるううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!
 とか言ってた気がする。みなみちゃんは正座して寝てた。すごい。
 特に驚いたのがかがみ先輩。何日もかけて練習したのだと、突然ドジョウ掬いをし始めたの。涙を流しながら。
 それをお姉ちゃんは手を叩きながら笑ってた。
 でもときどきこっちを見て、私の体を心配してくれる。それがすごくうれしかった。




 ようやく皆が静かになったのは、夜の9時。
 部屋は荒れ放題。みんなも荒れ放題。みんな女の子なのに……
 苦笑いしつつ、私とお姉ちゃんで毛布をかけて周る。
 全員にかけ終わったところで、お姉ちゃんと並んで端っこに腰かける。
「お姉ちゃんは眠くないの?」
「眠いよ? でもまだ寝たくないんだよね……もうちょっとゆーちゃんとお話したいし」
「……ありがとう、お姉ちゃん」
 窓の外を見ると、星が瞬いていた。
「お、雨止んだね」
「うん……あ、そうだお姉ちゃん、ひどいよ」
「ふぇ? な、何が?」
「私を喜ばせるためだったとしても、あんなに冷たく私に当たるんだもん」
「そ、そうだったっけ? とにかくばれないようにばれないようにって、感情を表に出さないようにしてたから、よくわかんないや」
「むぅ~」
「あはは、ごめんごめん、そんな膨れないの♪ まぁそんな顔もかわいいけどさ」
 天真爛漫な笑顔を向けてくれるお姉ちゃん。
 私のこころも暖かくなる笑顔。
「誕生日会……どうだった?」
「……いままでで一番……楽しかった」
「そっか……」
 そしていきなり、優しい笑顔になる。そのたびに、私の心臓が大きく高鳴る。
「ゆーちゃん、こっちおいで」
「……うん」
 膝立ちになって、お姉ちゃんの傍に寄る。
 私よりも少しだけ大きな体に寄りかかる。お姉ちゃんはその暖かい手で、優しく頭を撫でてくれた。

「ちょっと寒いね……よっと」
「あっ」
 少し力を入れて引き寄せられる。
 体の大部分がお姉ちゃんと密着している感触に、鼓動が早くなった。
 心臓さん、そんなに自己主張しなくても分かってるよ。
 近くに余っていた毛布を掴んで二人で包まると、さっきよりも暖かくて、お姉ちゃんの優しい匂いがした。
 少しの間その匂いに浸りながら、私は呟いた。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん?」
「すぅ……すぅ……」
 あ……寝ちゃったんだ……少し残念。
「がんばってくれたもんね……お姉ちゃん」
 たまにはいいよね、とお姉ちゃんの頭を、精一杯の優しさを込めて撫でる。
 さらさらで気持ちい。
 あ、そういえば、私のことを不安にさせたお返ししなくちゃ。
 私は、お姉ちゃんの頬にかかった髪の毛をかきあげて、短くキスをした。
 これくらいはいいよね。
「みぅ……」
「えへへ……擽ったかったかな……」
 ずれた毛布を直して、お姉ちゃんの胸に蹲る。
 不器用で優しい、私のお姉ちゃん。
 その暖かい体に包まれて、ゆっくりと目を閉じた。
 規則正しい、トクントクンという音を聞きながら、私は眠りにつく…… 


 ――お姉ちゃんにもらった最高のプレゼント


 ――体の真ん中で咲いた、この暖かい気持ちを


 ――いつか、大好きなお姉ちゃんに



 ――伝えられますように




【 fin 】













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  • 最初鬱展開かと思いきや綺麗な話で良かった
    というか誕生会のノリがこなフェチシリーズのそれですよねww -- FOAF (2014-02-08 03:36:53)
  • いい話でした
    ……と、ここまで読んで『俺これ読んだ後作者みて唖然となった』のコメを見て、
    改めて作者ページ開くと……あなたでしたか
    なんて人だ、ここまで芸が広いなんて。感服しました。 -- 4-320 (2009-10-28 23:05:26)
  • 作者すげぇ(いろんな意味でw
    GJです! -- 名無しさん (2009-10-28 22:20:56)
  • 俺これ読んだ後作者みて唖然となった(色んな意味でwww -- 名無しさん (2009-03-20 18:09:10)
  • 改めて作者殿の才能に驚愕(ガタガタブルブル -- 名無しさん (2008-08-28 02:55:21)
  • 心にいい穏やかな話をありがとう!!! -- 名無しさん (2008-05-08 00:55:06)
  • 和んだ。ゆーちゃんは素直だから大好きだよ
    -- 九重龍太 (2008-03-26 00:14:03)
  • 和みました -- 名無しさん (2008-03-17 15:25:39)
  • みなゆたよりもこなゆたが好きです
    例え異端と言われようとっ! -- 名無しさん (2007-12-21 13:53:33)
  • 心温まるお話GJでした -- 名無しさん (2007-12-21 09:02:55)

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