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カケラ 12

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匿名ユーザー

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12.

「全く、一体何処にあるのよ!!」
「ヒーッヒッヒッヒッヒ!! そう慌てんな、あんま焦ってっと、『正解』を見逃しちまうぜ!!
 我が焦燥感にかられし美少女、ヒーラギカガミ?」
この馬鹿に『美少女』呼ばわりされると何か腹が立つ。特に、こういう糞忙しい時は尚更だ。
「一々五月蠅いわね!! アンタが本の形をしていたら百発ほど殴りたいくらいよ」
「おーおーおーおー、変な小説にハマるのも程々にしておいた方がいーぜ? 我が───」
「あー、もう!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!!!
 いいからアンタは黙ってて!!!!!」
首からぶら下がるペンダントに向かって大声で怒鳴る。
しかし、その直後、私の頬は朱に染まる。
思い切り恥ずかしい事をしてしまった。
『な、なんやこの子、いきなり叫んでん』
『あのいとはん、何してん?』
『そんなん気にゃせんとき。ほな行くで』
私の怒鳴り声で立ち止まってしまった多くの通行人が、私に可哀相な『モノ』を見る目でジロジロ見てくる。
流石に「何見てんのよ!」と通行人にまで怒鳴り散らすつもりは無かった。
種を蒔いたのは私なのだから。

私は今、名古屋で拾った『オマケ』と共に米原駅のとあるロッカールームに居る。
列車を降りてからしばらくプラットホームをうろうろしつつ、着信を待っていたのだが、
すぐに改札を出たのはバカマルコが突然「『気配』がする」と言い出したからだ。
「そういうのはさっさと言いなさいよね」
「言おうと思ってたけど、おめーがギャーギャーうるせーから黙ってたんだよ!! 我が怒れる増幅器・ヒーラギカガミ」
誰が増幅器(アンプ)だ。

あの時、私が小田原駅の第三ロッカーで見付けたのは、乗車券の入った封筒と、一つの鍵だった。
その鍵は明らかにコインロッカーで使われている物であり、乗車券が「米原」となっていた事から、
この鍵は米原駅のロッカーのものだと推測していた。
しかし、この鍵、一つだけ問題があった。

何とこの鍵、肝心な番号札が付いていない。
これだと、何処のロッカーを開ければいいのかが分からない。
だから、私は鍵が刺さっていないロッカーの鍵穴に片っ端から鍵を突っ込んで、『当たり』を探していた。
バカマルコが少しは役に立つかと思ったら、この手の魔法は使えないという。
それどころか、「俺は魔法なんか使えねぇ」の一辺倒で、全く役に立たない。
「ホント、肝心な時には役に立たないのね」
「ヒッヒッヒ!! 無駄口叩いてねーでさっさと探そうぜ? 我が貪欲なる探求者・ヒーラギカガミ?」
「誰が探求者だ!!」
私は自ら進んで探しているのではない。そりゃ確かに私は『現代』へ帰るための『鍵』を探しているけれどね。


ふぅ。

「ここで最後ね」
「だな」
駅舎、在来線改札口、新幹線改札口、近江鉄道改札口、裏通り、全てのロッカールームの鍵穴をチェックした。
しかし、今のところこの鍵で開けられるロッカーは無い。
駅の中は全滅。仕方なく、私は西口のバスターミナルをうろうろしてみる。
そこでやっと見付けたのが、この、最後のロッカールームだ。
早速、鍵の刺さっていない穴を探す。が………、

そのロッカールームはバスターミナルの外れにあり、あまりにも存在感が薄い。
場所もあまりに中途半端で、利用者は殆ど居ないようだ。
つまり、どの扉も鍵は刺さったままだっ……………………ん?
「おい、カガミ、一番下」
「な、何?」
某小説に登場する『コキュートス』に良く似たペンダントから響く声を聞き、私は一番下、中央よりやや右手の扉に注目する。

鍵は刺さっていない。
つまり、中に『何か』が入っている。

静かに鍵を差し込む。今までとは違って、鍵は奥まで入った。
「あ、開けるわよ……」
「お、おう。どーんとやっちまえ」
「うん。せ、せ、」
せーの!!

カチャ。

乾いた金属音が解錠の合図をする。
すると─────────、

「わーーーーーーーっ!!!!!!!」

「きゃぁぁぁああああ……………って、この馬鹿!!」
「ヒャーッハッハッハッハッハ、ヒヒャーッハッハッハッハ………げほっげほっ、
 やーっぱカガミはからかい甲斐があるなぁ、ヒーッヒッヒッヒッヒ」
「お、お、驚かさないでよ!! し、しししし心臓止まったらどうすんの!?」
胸の鼓動がアップテンポを刻む。今ユーロビートの曲を流したら夕方まで踊れるかしら?
バカマルコの明らかに度を超えた悪戯のせいで、私は何をしようとしていたのか危うく忘れるとこだった。

「アンタ、次やったら(現代へ帰った後に)金槌で粉にしてあげっから」
仕返しも兼ねてバカマルコを脅してから、一度深呼吸をして、それからロッカーの中身を確認する。


ロッカーの中には白い巾着袋が入っていた。この大きさといい、袋の質感といい、小学校の時の給食当番を思い出す。
が、やけに『重い』。
中身は何だろう?
おそるおそる、巾着袋の口を開けて、その『中身』を取り出す。中身は更に風呂敷で包まれていた。
風呂敷を解いて広げると、やたら『物騒』なモノが入っていた!!
「ちょっ………『コレ』で何しろって言うのよ?」
「おー、こいつは凄ぇや。いいモン貰ったな? 幸運に恵まれし銃騎士・ヒーラギカガミ?」
「で、でも……………」
私は戸惑いを隠せずにいる。
バカマルコの変な称号からも分かる通り、中に入っていたのは拳銃だった。
が、造りはかなり雑で、どうやら『本物』では無さそうだ。
「で、アンタ、何でそんなに驚いてるの?」
私が『凄ぇ』と叫んだペンダントに訊いてみる。不気味に光る赤い宝石が、キラキラと輝きを増している様に見える。
「おう、コイツはなぁ、俺が持ってる『チカラ』を使って攻撃出来る、特殊な銃なんだぜ。名前は忘れたけどよぉ」
忘れたのかよ。何となく『トリガー○ッピー』に似ている様な似ていない様な。
「まぁ、持っていて不自由はねぇ。『もしも』の事があったら役に立つかも知れねーぜ? ヒッヒ」
相変わらず巫山戯ているのか本気で言っているのか分からない。
その『もしも』の時ってどういう時よ?
「ヒッヒッヒ、その時が来たら教えるぜ? 好奇心旺盛なチンピラ・ヒーラギカガミ?」
誰がチンピラだ。
おそらく『拳銃』というキーワードから『そのスジの人』を連想したのだろうが、あまりにもベタ過ぎるからもう少しヒネりなさいよ。
「取り敢えず、後々役立ちそうだから持って行く事にするわね」
私は手に持ったおもちゃ(の様に見える)拳銃を裸のまま巾着袋に入れ、その巾着袋をトートバッグの中に入れた。

「あら? 奥にまだ何か入っているみたいね」
ロッカーの奥にはまだ何か入っていた。
一番下にあるロッカーだったから、巾着袋を出した時には全く気が付かなかった。
『それ』は、部分的に欠けている、角の取れた三角形をした『石』だった。
「うほっ」
ゴリラか。
「呆気無く見付かったな。我が美しき時の旅人・ヒーラギカガミ?」
「えっ?」
初め、コイツの言っている意味がさっぱり分からなかった。
が、すぐに理解した。
「も、もしかして…………」
「『鍵』だ」
あっさりと答えやがった。


私はあまりにも呆気ない展開に泡を喰らった。
何と、私が『現代』へ戻るための『鍵』がいきなり出てきた。
『鍵』と言ってもロッカーや扉に付いている「鍵」ではない。『手掛かり』という意味での『鍵』だ。
「喜ぶのはまだ早ぇぜ? 歓喜に囚われし美少女・ヒーラギカガミ」
私の感情は、まだ喜びには達していない。驚きを隠せず、動揺している。
その『石』は黄色くすぅっと透き通っていて、とても綺麗な石だった。
手のひらに収まる程の小さな『カケラ』。
何となくだけど、その小さな『カケラ』にとても底知れぬ強大な『チカラ』が込められて………いるような気がした。
「マルコシアス」
「あいあいよー」
「これで私、『現代』へ帰れるのね?」
「だからまだ『喜ぶのは早ぇ』っつったろ? ヒヒッ」
あ、確かにそう言ったわね。
「『鍵』ってのは、ここでは『条件』みたいなモンだ。その『カケラ』だけじゃあ『現代』へ帰るだけの『チカラ』が足りねーぜ?
 人間じゃぜってー出来ねー事すンだから、多寡が知れた『チカラ』じゃ帰れる訳ねーだろ? 分かるか?」
「分かってるわよ。つまり、他にも条件を揃える必要がある、って事でしょ?」
「おう、分かってるな。我が長けき賢者・ヒーラギカガミ」
どうでもいいけど、さっきからコロコロコロコロ私の称号が変わるわね。
「条件は『物』だけじゃねぇ。『者』も必要だ」
「声だけじゃ同訓異字の区別はつかないわよ」
「俺よりも数億倍賢い頭は眠ったままか? 『者』つまり『人』が要るって事を言ってんだぜ。ヒヒャッ」
「そ、それくらい分かってるわよ。アンタねぇ、人がボケたらツッコミなさいよ」
「おめーはどちらかと言うとツッコミの方がお似合いだぜ? 我が美しき漫才師・ヒーラギカガミ」
「あー、もう!! うるさいうるさいうるさい!!」
「そっくりそのままお返しするぜ? 我がブッ壊れたアンプ・ヒーラギカガミ」
「お前絶対何時か潰す」
「ヒヒャッハー!! 上等だ、何時でも殺ってやんぜ? ヒヒッ!!」
私とペンダントは、通行人の危険物を見る視線を完全に無視しつつ、ロッカールームの前で言い合っていた。

そろそろ行こうかと思った矢先、携帯電話がブルブルと震える。
「おほっ、次は何だ?」
「待ちなさいよ。今出すから」
そう言って私は銃と『石』の入ったトートバッグと、変な漫画本がギッシリ詰まった紙袋を持ってトイレへ向かう。
本というのは意外と重いモノで、今回の『旅』で一番大変なのは、この紙袋を持ち運ぶ事だった。
ポケットから携帯電話を取り出し、サイドボタンを押して開ける。
どうでもいいけど、このサイドボタン、左手で操作する私には使い辛いのよねぇ。
またしても、メールの送り主は無記名であった。そのメールの内容は、

『東口のロッカー、47番の扉を開けよ』

多分、また乗車券と『鍵』が入っているのだろう。
そう思った私は用を済ませたフリをしてトイレを出て、東口の改札口へ向かった。


またしても駅の移動は大変だった。
米原駅は幸手駅の様に反対側へ行く通路が駅構内に無く、改札を通ってから跨線橋を渡るか、
駅から離れたところにある踏切を渡らなければならない。
非常に不親切な設計だ。

───────幸手駅?
はて、どうしてこの駅が頭に思い浮かんだのだろう?
「おーおー、どーした? 今日の空は晴れてんぜ? 陰雲に巻かれし少女・ヒーラギカガミ?」
「……………行くわよ」
「お…………おう」
ペンダントが始めて『口』を閉じた。口無いけど。


ロッカーに入っていたのはやはり乗車券だった。
区間は「米原→岡山」となっており、何故か赤穂線経由となっている。
どうせ入れるのなら巾着袋と『石』の中に入れておけば良かったのに。
反対側まで行って、また戻るの、結構大変だったんだからねっ。
何で私を走らせるのかしらねぇ。

ああ、個人的には西ノ宮(現:西宮)で阪急に乗り換えて甲陽園に行きたいわね。
え、何の話かって? べ、別にいいじゃない。

〈ヒャッハー!! あの姉ちゃん乳でけぇ!! うほっ、こりゃたまらん〉
〈恥ずかしいから私の脳内で興奮するな。バカマルコ〉
私と奴にしか通じない声。私が名付けたペンダント・マルコシアスの持つ『チカラ』の一つ。
ただ……………。
〈何だおめー、餅妬いてんのかぁ? おめーだってガキの割には『ある』と思うぜ? 貧相な容姿の持ち主・ヒーラギカガミ〉
〈五月蠅い。〉

今私達が今乗っているのは、姫路行きの普通列車。緑とオレンジの塗装は『あの』大垣夜行を連想させるので気分が良くない。
車内は昔の宇都宮線や東海道本線の電車と良く似ていて、車内はボックスシートで、扉付近だけベンチタイプのシートとなっていた。
やけに天井が高いなぁと思ったら、車内に冷房は付いていない様で、冷風ダクトが無い代わりに扇風機が一列に並んでいた。
電車は4両編成を2つ繋ぎ合わせた恰好で、私が乗っている車両は緑とオレンジだけど、後の4両は白にブルーのラインが入っていた。

垂直で狭いボックスシートに知らぬ顔と向かい合わせに座る。進行方向後ろ向きはどうも気分が悪い。
そして、私の首からぶら下がっている、ハタから見れば私には不似合いな程お洒落なペンダントは、
先ほどから斜向かいに座っている女性を『見て』、やたらとハイテンションになっている。
(顔は見えないけど、きっとニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべているに違いない)
そのバカマルコが見ている女性は、私よりも少し上、つまり20代半ばくらいの人で、これまたエラい美人だった。
おまけに、(現代の基準でも)スタイルが良く、何故かお腹の方に贅肉が付いてしまう私は少し分けて貰えないかと思ってしまった。
〈んだよ。おめーだって一生懸命祈ってりゃ、『出る』べきトコも『出る』様になんぜ。
 ま、おめーのナイスバデェなんか誰も見やしねーけどな、ヒャッヒャッ〉
〈何が言いたい?〉
〈カガミの場合、お望みの所に『肉』が付く時は、全身がセキトリみてぇになってる時だからな!! キーッヒッヒッヒッ!!〉
〈マルコぉ? ちょっとバッグの中に入ろうか?〉
今のはホントにムカついた。お前、それ、セクハラだって事、分かって言ってんだよな?!
〈おー、恐ぇ恐ぇ、人間に「やめろ」と言われたぐれぇで俺が素直に「はい、そうします」何て言うと思ってんのか?
 悪い冗談はよせよ。ヒッヒッヒッぶふぉ?!〉
バッグの内ポケットに入れて、思いっ切りぶっ叩いてやった。

例え『ヒト』の形をしていないくても、『男』というモノはこんなにもだらしがないのかと思うと、
別に『恋』なんてしなくてもいいや、と思ってしまう。
そりゃ私だって『女』だから、男の子の事は人並みに気にしてるわよ。ウチのクラスの男子はどれも頼り無いけど、顔は悪くないのよねぇ。
ふと、峰岸の幸せそうな笑顔が思い浮かぶ。私も彼氏が出来たら、やっぱりあんな風になるのかしらねぇ。
でも、今はいいわ。


普通列車は順調に東海道本線を下り、いつの間にか琵琶湖の脇を通り抜けて山科駅に到着していた。
「彦根」「近江八幡」「野洲(やす)」「草津」「膳所(ぜぜ)」といった聞き慣れない駅名が続く。
路線の名前も走っている車両も同じだけど、雰囲気が全然違う。
東海道本線の路線の長さを実感しつつ、「今、私は旅をしているんだなぁ」と心中で語った。
一方、自身の体力の消耗は非常に激しく、某RPGに例えれば4桁あったHPが今30位にまで減っている。
無理もない。私は昨日の朝からずっと起きっぱなし(飛ばされる時に意識を失ったけど)で、一睡もしていない。
車内は足下の暖房のほか、私の座っている窓側席は光の暖房まで効いているのでむしろ暑い。
ああ、だんだん頭がぼうーっとしてきたわ………………。

………………
…………
………

『次は、東淀川、東淀川だす。東淀川を出ますと、新大阪に停まります』

〈カガミ、カガミ〉
「っん~~~~~」
突然脳内に届いた『声』に反応して、大きく伸びをする。
どうやら途中で居眠りをしていたようだ。

〈大丈夫か? 今日はどっかで休んだ方がいいな。ヒヒッ〉
コイツは人をからかっているのか、本当に心配しているのか、たまに分からなくなる。
〈だ、大丈夫……岡山まではまだ時間あるんでしょ?〉
〈さぁな、俺も行った事ねーから分かんねー、ヒヒッ〉
〈ところで、今、何処?〉
〈新大阪の手前だ〉
って事は、そんなに寝ていないのね。

私が寝惚け眼で車内を見渡す。乗客が何人か入れ替わっており、バカマルコがニヤニヤしていた女の人も途中駅で降りたようだ。
時間帯が時間帯のせいか、車内はそれ程混雑していない。
かといって車内が静かであるという訳でもない。関東と違ってこっちの車内はどこもかしこも会話で盛り上がってる。
しかし、迷惑にならない程度なので、それほど気にならない。

列車は高架橋の下に入り、新大阪駅に到着した。この高架橋は、おそらく新幹線のものだろう。
〈この列車じゃ時間掛かってしょーがねーから、でっけー駅に着いたらもっと早ぇ奴に乗ろうぜ? 全国各駅停車のトラベラー・ヒーラギカガミ〉
普通列車よりも速い列車と言ったら、思い浮かぶのは新幹線と伊勢崎線の急行くらいしか思いつかない。
てか、なんだその称号は? 私は鉄道オタクではない。

『次は、新大阪、新大阪だす。新幹線広島・博多方面はお乗り換えだす』
大阪訛りの車内放送が静かな車内に響く。


そこへ、何やら騒がしい連中が隣の車両からやって来た。
一番関わりたくない人種、いわゆるヤンキーが2人………だけでなく、落ち着いた雰囲気の高校生も1人居た。
時間帯を考えると、学校が休みなのか、サボっているのかどちらかだろう。私も人の事言えたクチじゃないけど。

「ほんでな、その時のタダやんがな、何やこう、手ぇを相手に向けたらな、向こうがドバッっていきなし倒れてん。エラい驚いたわ」
「ハハハ、そらまたエラい話やなぁ」
「い、いや、僕、何も……」
「なんや、タダやん超能力者か。ワシも何か使えへんかなぁ。こうやって、こう……」
「でけへんでけへん、お前は補習でもやっとれ」
「何や、タダやんエラい人気もんやなぁ。
 すまん! 『東』のモンと聞いて、初めは勝手に好かん奴って思うてん。『きじ』のお好み奢るさかい、許したって」
「アホか、ほんなんで許す訳あれへんやろ。たこ焼きも付けい」
「あー、ワシ、たこ焼けへん」
「うわー、おったわー、たこ焼けん奴がおったわー」
「別に僕は気にしていないよ。実は僕もたこ焼きの作り方知らないし、家にたこ焼き器も無い」
「あー、このアホは気にせんでええわ。タダやん大阪来たばっかりさかい、道具屋筋にでも行って買えばええ」
「そんなん梅田でも買えるわ」
「喧しいっ、たこ焼けん大阪人は黙っとれ」
「しゃーないやん、うちオカンがたこを……ってあいたたたたたたた」
「そないな事言うんはこのクチかぁ?」
「あいたたたたたた、堪忍したってぇや。口延びたらどないすんねん」
「もうええわ」

いきなり車内が賑やかになった。
〈カガミ〉
〈何?〉
〈次で降りるぞ〉
〈へ? 岡山はまだまだ先よ?〉
〈『気配』がする〉
〈分かった〉
『気配』の一言で何を言いたいのかが分かった。マルコシアスは『鍵』の気配を感じたのだ。

『次は、大阪、大阪だす。神戸方面へおいでのお客はんは、先発の新快速にお乗り換え出来ます』

不思議な(何となくそう思った)3人組の漫才をボックスシートで聞いていると、『タダやん』と呼ばれた優しそうな人と目が合った。












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