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カケラ 16

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hakureikehihi

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16.

『ご乗車有り難う御座いました。富山~富山に到着です。
 2番のりばの列車は、金沢行きの北越号です』

「いつか、夢で」
「ええ、会いましょう」

交通の難所・親不知(おやしらず)のトンネルを抜けると、周りの雪は幾分落ち着きを見せた。
富山市内に入ってからは雪は止んでおり、積雪もそれほど多くはなかった。
特急「北越」号は若干雪で遅れたものの、無事に富山駅に到着した。
9両編成のうち、1両の窓ガラスが全て割れているせいか、ホームで待つ客が皆驚きの顔を見せる。
すでにこの車両は1両まるごと閉鎖され、居場所を失った私とかなたさんは、隣の自由席車両へと移動した。
私の服がボロボロのせいで、周りから槍の様に刺さる異様な視線に耐えつつ、なんとか富山まで平静を保った。

私はかなたさんとここでお別れ。次に会うのは………………私が天国に行ってからになるだろう。
もしかしたら、『そう遠くない未来』かも知れないけれど…………。

「気をつけてね、こなた」
「うん、有り難う、『お母さん』」
「何か、そう言われると照れるわね」

ジリリリリリリリリリリ………、
『2番のりばから金沢行き特急列車が発車しまーす。扉閉まりまーす』

笛の合図と共に、一斉に扉が閉まる。
ピーッという甲高い汽笛の音が、クールグレーの空に鳴り響く。
ボンネット型の特急列車は、静かに、静かにホームを滑り出し、
そして、雪景色の中に、消えた。

『私こそ有り難う、また何時か会いましょう』

アナウンスとけたたましいベルに紛れた、かなたさんの声。
私の記憶の中の、最後の母親の声だった。


福井・金沢と並ぶ北陸の主要都市、富山。
10時間にも及ぶ長旅の末、私は遂に2つ目の目的地へと辿り着いた。



富山駅は大きな駅だけど、改札口が一箇所しか無い。
その分、改札口は異様に広く、数人の駅員さんが切符を集めたり鋏で穴を開けていたりした。
「ふぁ~あ、何か色々有りすぎて疲れちゃった。温泉とか無いかにゃ~」
富山駅は富山県の中心地にあるだけあって、ホームは長く、幅も広い。
私は矢波(やなみ)の親戚の家に行く時に何度か通っているので、大まかだけどホームの様子は把握している。
4面あるホームのうち、1面は改札口に直結していて、1面は途中で欠き取られていて更にのりばがある。
残りの2面はいたって普通だけど、一番北側の6・7番のりばは富山港線専用で位置もちょっとずれている。
お父さんの話によると、富山港線は2年前にライトレールという新しい電車に変わったそうで、
富山港線のホームは無くなってしまったという。
ホームには列車が何本か停まっているけれど、人影はまばら。
この寒さなので、皆既に列車の中に乗っているか、改札口の待合室で暖を取っているのだろう。

駅そのものは今もこの時代も大して変わらない。違いと言えば、新幹線の工事現場が無いことと、
「とやま」と書かれた駅名標がJR西日本の色じゃないって事くらいかな。
ホームと改札口は跨線橋と地下通路の2本で結ばれている。
地下通路の方が近いので、こちらを利用する。
いつも列車の窓から見ていたけれど、なるほど、やっぱりこうなっていたか。
ただでさえ寒いのに、地下通路はコンクリート剥き出しで殺風景。おかげで余計寒さを感じる。
おっといけない、床もコンクリ剥き出しでしかも雪で濡れているため、転ばない様に注意、注意っと。
「おわっ?!」
危うくコケそうになった。

「ありがとうございます」
改札口で挨拶する駅員さんに思わずこちらも軽く会釈。
切符を渡して改札を抜けると、そこは意外と雪の積もらない駅前ロータリが広がっている。
取り敢えず、市街地に出ようと思ったのだが───、

ぐぅぅぅぅうううう

「お腹、空いちゃった」
──ので、富山ステーションデパート(今は「とやま駅特選館」)にある食堂で、ちょっと早い夕飯を食べる事にした。



富山と言えば、シラエビ。シロエビではない。それとホタルイカ。
というか、それしか思い浮かばない。
おそらく観光客相手だろう、「白えび天丼専門店」とうたった食堂の暖簾をくぐる。
カウンタだと足が届かないので、4人用のテーブル席を陣取って、定食をおばさんに注文する。

かなたさんの話が何処まで本当なのかは、正直分からない。
ただ、『この世界での私は』特殊な『チカラ』を持っているようで、
あの戦いの時から胸の内に燃え上がる『何か』を感じていた。
リアルの世界では存在するはずの無い、不思議な『星のチカラ』。
それを『感じた』時は、本当に恐かった。
自分が何者なのか、と。
「これ何て灼眼の○ャナ?」とツッコむ余裕も全然無かった。
かなたさんと別れて、今、ようやっと落ち着いた。
少しだけだけど、心に余裕が生まれる。
すると、不思議と前向きに考えられる。ただ逃げてるだけなのかも知れないけれど、ね。

取り敢えず、自身の『チカラ』に関して深く考える事はやめた。
考えるのが面倒になった訳でもない。考えるのが恐かった訳でもない。
ただ、『考えてもそれほど意味がない』と考えたからだ。
兎に角、『今』の私の持っている『チカラ』は、『この世界では』何らかの形で必要なモノであり、
それは恐らく、かなたさんが話してた『星のカケラ』に何らかの形で関わっているのだろう。

富山駅で別れる時、かなたさんはこう言った。
『「星のカケラ」を集めて下さい。私達自身のために、私達の世界のために。
 そして、貴方の世界のために、貴方達自身のために』と。

星の『カケラ』
星の『石』が砕け散った残骸(ザンガイ)。
結局かなたさんが言いたかったのは、私がこの時代で「『星のカケラ』を集めて下さい」という事だった。
その不思議な『石』が、どうやら私……ひいては私達の時代で必要らしい。
この時代では他にする事が無かった私は、この任務を引き受ける事にした。
なぁに、これがゲームだと思えばいい────。

「白えび天丼定食ですちゃ」「よっしゃー!!」
私の掛け声とおばさんの声が同時に重なる。何という不協和音。
「…………」
「…………」
「……な、何ええことあっちゃけ?」
「え……いや、何も」

なんちゅうタイミングで来るんですか、アナタは。
まぁいいや。



早速出された白えび天丼を頂く。感じとしては、桜海老の掻き揚げだが、海老自体が桜海老よりもずっと大きい。
でも、甘海老よりかは小さい。味? ふっふっふ、美味しいよ。そのうち家で作ってみようかね。
でも幸手のマルエツじゃシラエビは手に入らないねぇ。
そういやお父さんが話してくれたっけ?
シラエビ自体は日本じゅうに生息しているらしいけど、食用として獲っているのは富山だけで、
しかも足が早いから富山以外ではそう滅多に口に出来ないレアモノなんだとか。
お父さん、ただ女の子目当てで富山に行ってたのかと思いきや、こんな美味しいものを食べてたのか。
作家故の取材とはいえ、羨ましい。

定食には白えび天丼のほか、お吸い物と漬け物、そしてホタルイカの沖漬けが付いている。
ホタルイカの沖漬けも今回初めて食べるけど、これは、うーん、お酒が欲しくなるねぇ。
飲まないけど。それ以前に飲めないけど(年齢的な意味で)。

お代を払って店を出る時、さっきのおばさんに声を掛けられた。
「あんにゃ、旅の人け?」
県外出身者かと訊かれている。私の雰囲気で分かったのだろう。
富山弁は萌えドリルで散々苦戦したので、単語レベルで何とか覚えている。
「はい、埼t……えっと、青森から」
流石に30年後の埼玉から来たとは言えない。
「青森け? そらえらい遠いとこから来ちゃがね。
 これから何処行くけ? 大阪け?」
具体的な行き先はまだ分からない。お金もそんなに持ってないし。
「そうがけ。ほな、気をつけられ」
挨拶もそこそこに、店を出る。



陽もとっぷりと暮れた富山市内。
私は国鉄駅と地鉄駅に挟まれたバスターミナルの前で静かに目を閉じ、意識を集中させた。

ほうっと胸の内で数時間前に見た『常磐色の炎』が、私をそっと包む……様な感じがする。
私の立っている方角──だいたい南──の後方に何らかの『チカラ』を感じた。
周りの人の視線を感じるけど、そのまま無視してまわれ右をする。
「─────ある」
やはり、私の頭の中に、自分の持つ『チカラ』と同じ『気配』を感じた。
それは、ただじっと、その場に留まっている………そう感じた。
ちょっと、行ってみるか。
かくて、私の富山ダンジョン攻略がスタートした。

再び国鉄富山駅に戻った私は、窓口で初乗り運賃の乗車券を買い、
滑って落ちそうな地下通路を通って富山港線のホームへと向かう。
ホームは電車の停まっている部分だけ何故か低くなっていて、小柄な私は乗り降りに一苦労。
こんなに段差があっちゃ危ないでしょ。
この時代の富山港線は東武小泉線の様な地方ローカル支線らしい雰囲気を漂わせていた。
おそらく東京あたりから持ってきたのだろう、
富山港線の車両はこの時代を基準にしても明らかに古く、4箇所もある扉が「場違い感」を醸し出している。
車内は正に「三丁目の夕日」にでも出てきそうな昔懐かしい電車の雰囲気のそれであり、
茶色のシートとくすんだクリーム色の塗装を見て、何故か東武野田線のやたらと五月蠅い電車を思い出す。
やがて発車時刻となり、文字通りのベルが鳴る。
扉が一斉に閉まり、間抜けなエア音が聞こえると、
ガタンという衝動と共に「ぐるるるるるる」と豪快な音を立てて、電車はゆっくりと発車した。
この音、昔野田線で走っていたやたらと五月蠅い電車のそれに良く似ている。
……野田線で走っていた奴って、意外と大昔の車両だったのか。よく21世紀まで走っていたものだ。感心するよ。

富山港線の水色の電車は、たった2両のミニマム編成で、
まるで路面電車の様にちょこちょこと駅に停車しては、またゆっくりと走り出す。
全体的に速度は遅い。
線路の状態はあまり良くない様で、時折思い出したかの様に現れるカーブではぐらぐらと揺れる。
電車も電車で、走行中にバラバラになりやしないかと内心冷や汗をかいていた。
モータの唸り声と激しい振動、何よりも気になったのは、ギシギシと軋みまくる車体。
大丈夫? ホントに。

敢えて初乗り運賃の乗車券を買ったのは、『気配』を最も強く感じたらすぐに降りられる様にしていたからだ。
降りる時に精算する手間はあるけれど、こうすれば降りたい時にすぐに降りられる。
いっそのこと終点まで同じ運賃にすりゃいいのに。距離短いんだからさ。

と、そんな事を思っていると、ずっと感じていた『気配』が段々と近付いているのが分かった。
『東岩瀬、東岩瀬です』
すぐにでも吹っ飛びそうな轟音を立てて、電車は東岩瀬駅に着く。
隣の大広田駅がかすかに見えるので、駅と駅との間はそれほど離れていないようだ。

ポツンと裸電球の灯る駅舎は、映画のセットに出てきそうなこぢんまりとした佇まいで、
時空旅行中の私に旅情をそそる。
たった1人だけのお客さんである私は、たった1人だけの駅員さんに乗車券を渡して駅を出た。


『気配』はますます近付いた────────。



事故から2日目の18時。
東武伊勢崎線の高架橋崩壊事故からまる一日が経過した。
史上最悪の鉄道事故により、甚大な被害をもたらした現場周辺では、
今も自衛隊や県警のレスキュー隊が共同で救出作業に当たっていた。

18時30分。
それは、その事故のショックも覚めぬ埼玉県内で起きた────。

「ふぅ、疲れた疲れた。ひかちゃんも待ってるから帰らなくちゃ」
仕事帰りの宮河ひなたはJR宇都宮線の大宮駅のコンコースを歩いていた。
気が付けばすっかり綺麗に生まれ変わった大宮駅。
ただ乗り換えるための通路だったこの空間も、今では多くの店舗がひしめきあって、
イオンタウンの様なちょっとしたショッピングモールとなっている。

ひなたが宇都宮線の下りホームへ降りた、ちょうどその時だった。

ドーーーーーーン!!

鈍い爆発音が改札口の方から聞こえ、刹那、ひなたはその爆風で階段から突き落とされた。
幸い軽く打った程度でちゃんと立ち上がる事は出来たが、一体何が起きたのか、彼女には理解出来なかった。


ちょうどその頃、桜園市営住宅にて───。
ひかげは、自分で立てた大型掲示板のとあるスレッドに、妙な書き込みがあることに気付いた。
中国製品の説明書の様な不細工な日本語フォントで書かれたその一文には、こう書いてあった。

『ちょっと競争しない?』

あまりにも唐突で一見無関係そうな書き込み。
ひかげははじめ、この書き込みを無視して情報提供を待っていた。
突如、異変が起きた。
突然パソコンの画面が黒くなり、Linuxらしい白い文字の羅列が延々とスクロールされる。
何者かがネットワークを介して、宮河家のパソコンに侵入し、何らかのプログラムを実行させたらしい。
ひかげはすぐに停止命令をキーボードから送るが、一向に止まらない。
やがて、画面に「25687 : END」と表示された後、パソコンの電源が自動的に切れる。
そして、自動的に再起動し、何事もなかったかの様に数分前の状態に戻った。
「一体、何があったっていうの?」
あまりにも不可解な出来事であった。

何となく部屋の掛け時計を見る。時計は18時31分をまわった所だった。





















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