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夜の公園にて

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匿名ユーザー

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「あきらさん、あきらさーん。
……また寝ちゃったみたいですね。もう番組も終わるのに。
えーと、最後にメールを紹介して終わろうと思います。
えー、『白石さんはあきらさんによくきつい事を言われますが、あきらさんの事を嫌になったりしないんですか?』
似た内容の物が結構来てるみたいですね。
嫌になった事はないです。
何故かって?それはーー
おっともう時間ですね。それではまた来週!」

「あきらさん、ラジオの収録終わりましたよ」
「すー……、すー……」
「仕方ない、送って行きますか。
幸い家もスタジオからそれほど遠くないし、あきらさん軽そうだから背負って行けるだろうと思います」
ビルから出ると、白石は夜の空を見上げた。
「そういえば、初めてあきらさんと出会ったのもあんなふうに満月が出てたなあ………」


話は半日前に遡る。
「あたし小さい頃からこの業界にいるんだけどさ、二年前スランプに嵌まって凄く悩んでたのよ。
しまいにはやめる一歩手前だったわ。
すぐそこの公園のベンチで色々考えてたらね、誰かが声をかけて来たのよ。
暗くて顔はよく見えなかったけど、近所の中学の制服着てた。
なんかわからないけどそいつは暖かくて、あたしはいつのまにか悩んでる事を吐き出してた。
そしたらそいつなんて言ったと思う?
ならやめちゃえば、って抜かしたのよ!
『そんなの絶対いや!あたしはね、この仕事でみんなに愉しさや夢、希望をあげたいの!
あたし自身がそうだったからね!
だからどんな事があってもやめたりしないんだから!』
って胸倉掴んで叫んだわ。
叫んだ後、あたし自分の最初の気持ちを思い出してはっとなったわ。
すっかり忘れてたのよね。
『良かった。どうやら悩みは吹っ飛んだみたいですね。
……羨ましいですよ。僕にはそれだけ熱心になれる物がないから』


『おっと、そろそろ帰らないとまずいな。
……寒そうですね。ちょっと待って下さい。
よっと』
『何これ?』
『見たら分かるでしょう、Yシャツです。
ああ、返さなくていいです。
ファンのプレゼントと思って下さい。
それじゃ』
『ま、待って!』
『何ですか?』
『……その、ありがとう!』


「なんて事があったのよ。
どう思う?」
「そ、それは――」
「それは?」
「……とっても良かったですね」
「なんか棒読みな気がする」
「そ、そんな事ありませんって!」
「ふーん、ま、別にいいけどさ」

再び現在。白石は例の公園に来ていた。
「よっと。少し休憩するか。
……あきらさん、まだ寝てますか?……寝てるみたいですね」
返事がない。まだ寝てるようだ。
ベンチに降ろし、自分も腰かけながら白石は独り言を呟く。
「……あきらさん、朝の話なんですけど、実はその相手僕なんですよ」


「僕はしっかりと覚えています。いや、忘れられません。
ありがとうって言った時のあきらさんのあの笑顔を。
だから、三月にラジオ番組の関係で偶然再び会った時はとても嬉しかった。
あきらさんが気付いていないのにはちょっとがっくりしましたが。
朝の話、本当は『あれは僕なんです』って思わず言いそうになりました。
でも、言いませんでした。話をするあきらさんがとってもいい顔をしていたから。
もしそれが僕だって知ったら、あきらさんのいい思い出に傷がついてしまう。
だから、言えませんでした……
あきらさん、まだ寝てますか?」
首を向けずに聞く。返事はない。
「あきらさん、僕は今とても楽しいです。
結構あきらさんの僕への態度が厳しいってメールが来るんですが、裏を返せば僕に裏表なくぶつかってきてるって事ですから僕はむしろ嬉しいです。
……今、解った事があります。
どうして二年前の事を忘れられなかったのか。
どうしてあの時のあきらさんの笑顔がまだ鮮明に思い出せるのか。
それは、僕があきらさんの事を――」
そう言いながら顔を向けると、そこには目をぱっちり開けたあきらの顔があった。
「あっ、あきらさん!?
い、いつから起きてたんですか!?」
「そうねー、ラジオの収録が終わってあんたに背負われた所からは確実に起きてたわよ」
「じゃあ、ま、まさか、今までの僕の言葉も……」
白石の顔が青ざめる。
(馬鹿だ、本当に自分は馬鹿だ!
あの時あきらさんの相談を受けてたのが自分だってばれたらどう思うか、そんな事は火を見るより明らかだ。
下手をすればこの仕事自体やる気を無くすかもしれない。
取り返しのつかないことをーー)
「知ってたよ」
「……え?」
「あれがあんただって事、ちゃんと分かってる」
「で、でも、暗くて顔が見えなかったって」
「うん、見えなかった」
「じゃあなんであれが僕だって……」
「声よ、こ・え。
あんたの声って結構特徴があるからねー。
ま、最初は思い出せなかったけど」
白石の全身から力が抜けた。
呆れたのではなく、安堵のためである。
「朝その事話した時にあんたが突っ込んで来るかと思ってたんだけど、まさかそんな風に考えてたとはね。
白石、あんたもう少し自分に自信を持ちなさい。
あんたが思ってる程あんた自身は悪くないんだから。
なんだかんだでラジオでもちゃんとやれてるしね。
わかった?」
「は、はい!」
「うん、よろしい。
……あの時、本当にありがとう。
これからもよろしくね」
二年前よりいくらか大人びた屈託のない笑顔に、白石は一瞬言葉を失った。
「も、勿論、喜んで!」

「ところでさあ、さっきあんたあたしになんか言いかけてなかった?
たしかあきらさんの事が、って」
「い、いや、それは、その……」
「早く言いなさいよ。
我慢は身体に良くないよ?」
「いえ、なんでもないです、忘れて下さい」
「何、あたしが起きてるとまずい事なの?
あたしに聞かれたらまずい事でも言おうとしてた?」
「いや、そ、その……
あ、あきらさんの事をす……」
「す?」
「す、素敵だなって言おうとしたんです」
「ふーん……つまり、それまでは素敵じゃなかったと、そういう意味?」
「いや、そうじゃなくて……」
「………ヘタレ」
「ん?何か言いましたか?」
「んーん、別に。
それにしてもさあ、あの時あんたあたしに気障っぽい事言ってこのYシャツ被せたわねー」
「だあぁー、その事は忘れて下さい、いやほんとに!」

夜の公園に、楽しそうな二人の声が響き渡っていた。



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コメント:
  • 白石×あきら系は、つまんなさそうだと思って敬遠してましたが、
    思いの外いいものですね。 -- 名無しさん (2012-12-27 15:01:33)
  • あぁそんなことがあったのかww -- 名無しさん (2009-05-23 14:27:22)

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