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彼女は私にキスをする

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匿名ユーザー

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 冬休みを間近に控えた12月中旬、私はこなたの家に遊びに来ていた。
 いつもどおりにゲームをし、出されたお菓子のほとんどを胃袋におさめ、雑誌を読みながら他愛のない掛け合い漫才を
したりしているうちに、すっかりと暗くなってしまった。
「ねえ。かがみ、明日なんか予定あるの?」
 寝転がって漫画を読んでいたこなたが、私を見上げながら尋ねてくる。
「特にないわよ」
「それなら、今日泊ったら?」
「いいわよ」
 私は床に置いてあるバッグをちらりと見てから頷いた。
 こなたの家になし崩しに宿泊することはたまにあるから、替えの下着などが入ったお泊りセットは常備している。

 ゆたかちゃんが作ってくれた美味しい夕食を頂き、お風呂を借りてさっぱりしてから、こなたと一緒のベッドに潜り込む。
 最初はつま先が冷たかったけれど、毛布に足をもぞもぞとこすり合わせているうちに、だいぶ温かくなってきた。
 暫く続いた沈黙を破ったのは、こなただ。

「ねえ。かがみ」
「うん?」
「かがみって好きな人とかいる?」
「珍しいわね」
 つかさやみゆきを含めた4人の間では、恋愛の話題はとても少ない。
 彼氏持ちがいないということもあるけれど、どこか敬遠しているのか、たまに話が持ちあがっても深く立ち入ることはなく、
それとなしに話題が逸らされてしまう。
 古風な言い方をすれば思春期まっさかりな女子高生だから、恋愛に興味がないわけではない。
 ただ、実際に付き合っている訳ではないこともあり、今一つ、現実的なものとしては、受けとめられないのだ。
 それに、誰と誰が好きとか、付き合っているとかいうレベルの話ならばともかく、それ以上のことを口に出すのは
何かが壊れそうで正直言って怖いのだ。

「いないわよ。こなたは?」
 私の答えに重ねるように、こなたは言った。

「私はいるよ」


 何気なさを装った言葉だったが、私はかなり驚いた。
 既に照明は消してしまっていたので、こなたの表情はよく読みとれなかったけれど、口調は真剣そのもので、
冗談を言っているようには思えない。
「同じクラスの生徒なの?」
「違うよ」
 では誰なんだろう。
 こなたは自他ともに認めるおたくなのだが、性格は明るくて社交的であり、男子に対してもドアを閉ざすことはない。
 しかし、委員会やクラブ活動もしておらず、放課後は私やつかさ達と一緒にいることがほとんどだったので、
特定の生徒と親しくしている場面を見たことはなかった。
「それとも、バイト関係?」
 こなたはコスプレ喫茶で週に1、2回はバイトしている。店長なり、店員なりを好きになったのだろうか。
「それも違うよ」
「もう、誰なのよ」
 正解に辿り着けそうにもないことに少しいらついて、私は口を尖らせた。

「答えを知りたい?」
 こなたが更に顔を近付け、耳元で囁く。
 私は頷きかけて迷う。
 知るということは、ある意味怖いことでもある。
 こなたの意中の人を知ってしまったら、今までと同じように接することができるのだろうか?
 それでも、本能的な欲求は抑えることはできない。
「いいから教えなさいよ」 
 促すと、しばらく躊躇った後でやや低い声が聞こえてきた。

「じゃあ。かがみ、目を瞑って」
「真っ暗なのに?」
「うん」
 腑に落ちないものを感じながらも、言われた通り瞼を閉じる。
 自分の心臓の音と、エアコンの排気音だけが鋭敏になった聴覚に響いている。そして―

 毛布が擦れる音がしたかと思うと、こなたの手が肩にまわされ、あっさりと唇が塞がれた。


「んっ!」
 私は小さく喘いだ。驚きのあまり身体が硬直してしまい、ろくに動かすことができない。
「くぅ」
 一方、こなたは微かに声を漏らしながらも、触れるか触れないかの距離を保って唇を重ね続けている。
 リップも塗らない彼女の唇は、少し乾燥していてなんだかくすぐったい。
 味は微かにするのだけれど、甘くも苦くもない。

 瞼を開くとこなたの顔がどあっぷになっている。
 やはり暗くて表情は読みとれなかったけれど、たぶん、今までのどの瞬間よりも緊張していることだけは分かる。
 こなたは何かに怯えているのか、後ろに回した腕を使って、私をぎゅっと抱きしめている。

「んっ」
 時計の秒針が三度は回るほどの長い間キスを続けた後、こなたはようやく唇を離した。
「こなた?」
 半ば無意識に言った呼びかけに、少女は発した言葉は謝罪だった。
「ごめん」
 こなたの声は、普段の活発な彼女とは比べようもない程に細く、か弱い。
「どうして?」
「ごめんね。かがみを困らすつもりはなかったのだけど」 
 華奢な身体を震わせながら、こなたは半ば独り言をいうように呟き始めた。

「私、前はノンケだと思っていた」
「違っていたわけか」
「うん。かがみと知り合って、仲良くなっていくうちに、どんどんかがみのことが好きになったよ」

 確かに、こなたは私に対してよくスキンシップをしてくることが多かった。
 ベタっと小さな身体を寄せてきて、ふっくらとしたほっぺをくっつけてきたのは、他愛のない女子高生の
ノリだと思っていたのだけれど。
「私の、どこがいいのかしら?」
「かがみは、表面はそっけなかったりするけれど、とっても優しいから」
 いわゆるツンデレというやつだろうか。
「ステレオタイプにいえば、ツンデレなのかな。でも、そういう言葉だけでは括ることができないくらい、
私のことを気にかけてくれるから」
「そんなことないわよ」
「だって、かがみ、私のこといつも心配してくれているじゃない。勉強しろとか、夜更かしするなとか、遅刻するなとか」
「それは、注意しているだけで」
 私は、こなたのだらしないところがとても気になってしまうだけだ。たまに、自分の細かいところが気になりすぎる
性格が嫌になることもあるが、簡単になおせるものでもない。

「ううん。それに感謝しているんだよ」
 叱ってくれることに謝意を示してくれるのは嬉しいけれど、からかってばかりの相手から、面と向かって言われると、
かなりこっぱずかしい。


「あのね。かがみ…… 返事をくれると嬉しいんだけれど」

 こなたは遠慮がちに逸れていた話を戻した。
「ご、ごめん」
 告白されたからには答えを返さなくてはいけない。しかし。

 なんて答えればいいのだろう?

 私は、脳に思考を回転させることを命じた。
 ひとつは、こなたの告白をそのまま受けることだ。ギャルゲ好きなこなたの言葉を借りればGood Endだ。
 私とこなたはめでたく結ばれました、となる。
 しかし、私には女の子を好きになるという感覚が良くわからない。
 友達という意味でならこなたは親友と断言できるほど仲が良いのだけれど、それが恋愛という
関係に発展するものなのだろうか?

 逆に断るという選択肢もある。いわゆるBad Endだ。
 同性とは付き合えないと言って振ることはむしろ普通だろう。
 だが、こなたなしでの高校生活なんてありえないと思える程に、距離が近くなってしまっていた。
 落胆するこなたを見たくないし、振ったことがきっかけで疎遠になってしまうのも怖い。

 だから、今の私はこう答えるしかない。
「ごめん。ちょっと待ってくれる? よく考えるから」
 卑怯な逃げだ。
 しかし、考えがまとまらないのに勢いだけで返事をしては、こなたに失礼でもある。

 ある程度は予想をしていたのか、こなたは微かにため息をついて言葉を紡いだ。
「分かったよ…… ごめん。急にこんなこと言って」
「それは、構わないけれど」
「ねえ。かがみ。」
「なに?」
 こなたは私の手を握って、何故かしみじみとした口調で話し始める。
「恋をするって結構、良いものだよ」
「失恋するかもしれないのに?」
「うん。好きな人を思ってドキドキしたり、その子の何気ない言葉に傷ついたり、逆に天にも舞い上がるほど嬉しくなったり、
そういう経験をすることってとても貴重なのだよ。ゲームでも疑似体験はできるけれどね」
 こなただって女の子だから恋愛に興味がないはずがないことは、頭では分かっているのだけれど、物事に対して
斜に構えているというか、冷静すぎるところがあったから、かなり意外で、新鮮でもあった。

「そろそろ、寝よっか」
「そうね」
「おやすみ。かがみ」
 こなたは口を閉ざすと握っていた手を離し、天井を向いて瞼を閉じてしまう。
「おやすみ。こなた」
 私も同じく天井を見上げるが、同じ感情を共有しているのかは分からない。
 カーテンの隙間から洩れた僅かな光に照らされて、ごくぼんやりと蛍光灯の輪郭が見えるだけだ。
 頭の中は、生まれて初めて受けた告白に対して、どうすればいいかということで占められており、
とても眠れそうになかった。


(おしまい)


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コメント:
  • 「恋をするって結構、良いものだよ」
    深イイ! -- コメント職人U (2010-04-01 00:11:09)
  • 恋、地球博 -- 名無しさん (2009-12-18 09:38:02)

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