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プリンセス・ブレイブ!

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 ――許せない。
 ――絶対、許さない。
 ――私の大事なものを……
 ――私の大事な、かがみのものを……!

「かえせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

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 プリンセス・ブレイブ!
---------------

 それは、数分前のこと。
 私とかがみとつかさは、久しぶりにアキバをぶらぶらしに来てた。
 いつものようにDVDを買ったり、モスでおしゃべりしたり。それと、ちょっと珍しく、
かがみとつかさにプレゼントをしてみたり。
 日頃いろいろ迷惑をかけてるからたまにはと思ってたんだけど、その直後……
「きゃっ!」
「お、お姉ちゃん?!」
「か、かがみ!?」
 後ろから誰かが割り込んできたかと思った瞬間、かがみは建物側に吹っ飛ばされていて、
その誰か――男が、前のほうに走り去っていった。
「お姉ちゃん、大丈夫?!」
「あいたたた……う、うん。なんとか大丈夫だけど……あっ!」
「どうしたの!?」
「わ、私のバッグ……バッグがない!」
「えっ?!」
 見てみると、確かにかがみが持っていた白いバッグが無い。
 さっき、かがみに買ってあげたものも入っていたはずだけど……もしかしたら、あいつが
ひったくっていった?!
「つかさ、かがみのこと頼んでもいい?」
「え? えっと、こなちゃんは?」
「私は――」
 私は荷物を置いて、足に思いっきり力を入れると……
「ヤツを、追いかけてくる!」
 全力で、歩道を駆け出していた。
 黒いジャンパーにジーンズ、それと、ニット帽。
 覚えてないわけがない。
 かがみのことを突き飛ばして……大切なものを奪っていったんだから!


「すいません! 通してください!」
 人混みの隙間をぬって、前へ、前へ。
 いつもはちょっとうらめしいこのカラダが、まさか役に立つなんて。
 ほとんどスピードを落とさないで走り続けていると……いた! 道を曲がってる!
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 そのまま細い路地に逃げようったって、そうはさせない。逆に私が得意な道だ。
 路地に入ってから、ヤツは人にぶつかりそうになってスピードを落としてる。しめたっ!
 私は人混みをひょいひょいとかいくぐって、ヤツの背中をとらえた。
 あと5メートル、4メートル、3メートル……今だっ!
「かえせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 思いっきりジャンプして、ヤツの背中に飛びかかる。

 がしっ!

「うおっ?!」
「そのバッグ、かえせっ!」
 そのまま首筋に腕を巻き付けて、ヤツの背中にしがみつく。
 ヤツは一瞬バランスを崩して、ふらつきながら私を振り落とそうとする。
「このっ、止まれっ! 返せっ!」
 でも、私は腕の力を込めてヤツを離さない。
 そのバッグを返してもらうまで……絶対!
「このガキゃ、なめやがって!!」
 体勢を立て直したヤツが、私を背にして電信柱のほうに突っ込んで……

 ごすんっ!

「ふぎゃっ?!」
 あ、頭打った……
 手と足の力が緩んで、ヤツは私は振り落としてまた逃げようとしていた。
 頭がクラクラするけど、絶対逃がすもんか!!
「このおぉぉぉぉぉぉっ!!」
 人混みで前に進むのもままならないヤツの足を狙って、思いっきり飛びかかる。

 がしっ!!

 そして、両足を刈るようにして力いっぱい引っ張った。
「ぐぁっ!!」
 ヤツが盛大に転んだのを見て、私はそのままヤツの背中に乗りかかる。
 立ち上がりにくいよう、両膝でヤツの脇を挟み込んで……

「このっ!」

 ごすんっ!!

「んがっ!」
 そのままてのひらの底で、ヤツの側頭部を打ちすえた。
 それでも、ヤツは抵抗しようとじたばたしている。それなら……
「このっ! このっ! このっ! このっ!」

 ごすっ! ごすっ! ごすっ! ごすっ!

 絶対、絶対、許さない……許すもんかっ!!
 思うに任せて、掌底をそのまま打ち続ける。
「君っ、やめるんだ! もう身動きしてないぞ!」
「はあっ、はあっ……はあっ……」
 一分ぐらいして、ヤツはぴくりともしなくなって……私は、道ばたにいた人に止められていた。
 ヤツの手には、まだかがみのバッグが握られている。
 それを見ただけで、とってもムカつく。
「ふんっ!」
 私はヤツの手を強引に開いて、ヤツからバッグを取り返した。
 傷もないし、中にもダメージは無いみたいだし……よかったぁ、無事に取り返せた。
「あの、君。こいつはひったくりかい?」
 さっき私を止めたおじさんが、私にたずねてきた。
「あ、はい……すいません、今ケータイ無いんで、警察に連絡してもらえます?」
「あ、ああ。わかった」
 そう言って、おじさんはケータイのシェルを開けて電話をかけ始めた。
 他のまわりの人は、ヤツが逃げ出さないよう抑え込んでくれている。
 そして、荷物は無事で……かがみは……?
「こなたーっ!!」
「こなちゃーんっ!!」
 ああ、無事だったんだ。なら……よかった……
 ――やあ、かがみー。
 そう言おうとと思った瞬間、景色が傾いて……

 ――こなたっ、ちょっと、こなた?!
 ――こなちゃん、こなちゃん?!

 私の意識が、そこで途切れた。




 …………
 ……うーん……
 あたま、いたい……
 なんか、ガンガンする……

 ――うーん……
 ――こなた、大丈夫? こなた?

 あれ、誰かが呼んでる……
 いつも聴き慣れた声がするよ……
「うーん……」
 少し痛い頭をガマンして、目をゆっくり開けると、
「……知らない天井だ」
 いや、ホントに知らない天井ですよココは。
「こなたっ、気が付いた?!」
 とか思ってたら、知ってるコの顔がどアップだ!
「お、おー、かがみ?」
「大丈夫? どこかおかしい所はない?」
「うーん、ちょっと頭が痛いぐらいで……」
「頭って……ちょ、ちょっと先生のところに行ってくる!」
「わ、か、かがみー?」
 私が止めようとする間もなく、かがみは部屋の外へとすっ飛んでいった。
 ……ほんと、なんでだろ。とりあえず頭の中をよく整理してみようか。
 アキバにかがみとつかさと来て、いっしょにほっつき歩いて、いろいろ買って、お昼を
食べて……そしたらひったくりに遭って、追いかけて、バックマウントの掌底で仕返しして
……あれ? そこで記憶が途切れてる? んでもって、ここは……病室? 私、どうしてこんなところに来てるんデスカ?
「あっ、こなちゃん! 気が付いたの?!」
 全然心当たりが無いなーと思ってると、つかさが病室に入ってきた。
「や、つかさー。何かあったの?」
「な、何かあったのじゃないよー! こなちゃん、ひったくりの人に頭ぶつけられて気を
失って、病院に運ばれたんだよ?!」
「……あー、言われてみればそんなことがあったような」
 電信柱に頭をぶつけたんだっけ。確かにごつーんとなったけど、気を失うほどのもんじゃ
なかったよーな気がする。
「今さっき、おじさんのほうに連絡入れておいたから。こなちゃん、どこか痛いところとかない?」
「んー、さっきかがみにも言われたんだけど、ちょっと頭が……おわっ!」
 痛いところをさわってみようとしたら、なんか、こ、コブが!!
「うわー、ちょっと盛り上がってる」
「や、やっぱり?」
 つかさから見て腫れてるってことは、結構ヒドいんだろうなぁ……
「明日は休みだからいいけど、明後日は学校だってのに……この頭じゃカッコ悪くて行けないよー……」
「でもこなちゃん、その前に学校行けそう?」
「あー、その点はだいじょぶ。ほら、こんなぴんぴんだし」
 私は笑って両腕をぶんぶんさせた……けど、

 ずきんっ!!

「お、おおおお……」
 あ、頭にひびく……
「む、無理しちゃダメだってば。お医者さんもとりあえず検査したほうがって言ってたし」
「まあ、平気っちゃ平気なんだけど――」
「こなたっ、お医者様が来たわよ!」
 早足で病室に入ってきたかがみは、息を切らせながら私のベッドに駆け寄ってきた。
 ちゃんと病院でも廊下は走らなかったんだねー、感心感心。
「そ、そんなに慌てなくても」
「慌てるわよ、このバカ! 突然走っていったと思って追いかけたら、突然倒れて……」
 私はおどけて言ったけど、かがみの言葉と瞳は真剣で……
「ご、ごめん」
 思わず、しゅんとしてしまった。
「泉さん、脳神経外科の吉水と申します。気分のほうはいかがですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
 でも、ずっとそうしてるヒマもなく、女医さんが私の顔をのぞき込んできた。
 それからはしばらくお医者さんからの問診があって、頭をぺたぺた触られたり、手足の
動きを確認してもらったりしていた。「脳震盪と、緊張感から解放されたことによる虚脱感で
意識を失った可能性が高い」ってことで終わったけど、今日明日は家で安静にしてること、
少しでも体調が悪くなったら必ず病院に行くことって釘を刺されて、ついでに氷嚢を置いて帰っていった。
「すいません、万世橋署の加藤と申しますが……」
 そして、次に入ってきたのはケーサツの人。事情聴取ということらしくて、私とかがみは
ありのままのことを話した。
 犯人は何回か過去にも引ったくりをやってたらしくて「お手柄だ」とも言われたけど、
「こういうのはプロに任せないと、身に危険が及びますよ」とお小言もいただいた。いやー、
今それをむっちゃ実感してます。

 その後は、体調のこともあって警察の人も帰っていって……病室には、私とつかさと、
かがみの三人っきりになった。


 窓の外は、まだ明るい。
 手元にケータイが無いからよくわからないけど、今頃は3時かそのぐらいかな。
 本当ならアニメイトとかも行きたかったけど、そうも言ってられないか。
 氷嚢の冷たさに身を任せながら、私はぼんやりとそんなことを考えていた。
「こなた……」
「うん?」
 さっきからずっと黙りこくっていたかがみが、口を開いた。
「その……さっきは、ありがと」
「いやいや、かがみのためならえんやこらで――」
「でも!」
 おちゃらけて言う私の言葉を、またかがみが鋭い言葉でさえぎる。
「取り返してもらっても、こなたがどうにかなっちゃったら意味ないわよ!」
「……かがみ?」
「いきなり目の前で倒れて、叫んでもぴくりとも動かなくて、ずっと眠ったままで……
怖かったんだから! もう、このままなんじゃないかって!」
 かがみの目の端には、涙が溜まっていて、
「助けてもらったのにお礼も言えないなんて……いっしょに遊びたいのに遊べなくなるなんて
……学校で、ふざけ合ったりできなくなるなんて……」
 ひとすじ、ひとすじとこぼれていって、
「そんなの、考えたくなかったのに……あんたがいない生活を考えただけで……怖かった……」
 声を震わせて……ベッドに泣き伏した。
 初めて見るかもしれない、かがみの涙。それは、いつもの勝ち気な姿とは違った……
「ぐすっ……ふぇぇっ、ううっ……」
 一人の、小さな女の子みたいな姿だった。
 ……最低だ、私って。
「……ごめんね、かがみ」
 かがみを……大切な親友のひとりを、こんな風に泣かせるなんて。
 泣き伏しているかがみの頭に、私はそっと手を置く。
「かがみが傷つけられて、かがみが悲しむって思ったら、パーッって行っちゃって……」
 私は自分でもいつものほほんとしてると思ってるぐらいで、あんなにカッと頭に血が
上ったことは今までほとんどなかったのに……あんなことをしちゃって。
「それに、私のプレゼントを奪われたって思ったら、すっごく悔しくて……
 私ってばバカだから、こんなことしかできなくて……本当に、ごめんね」
 かがみの頭を優しく撫でながら、私はココロに浮かんでくる言葉をひとつずつ伝えた。
 かがみのバッグや、プレゼントしてあげたものだけじゃない。
 かがみとつかさとの時間が、奪われたような気がして……それが、とってもイヤだったから。
「こなちゃん」
「うん?」
 つかさを見上げると、その顔はちょっと悲しそうだった。
「こなちゃんが助けてくれたのはうれしいけど……無茶は、しちゃだめだよ? 私、あのまま
……こなちゃんが、どこか行っちゃうって思ったんだからぁ」
 そして、涙がひとすじ流れていく。
「……ごめん、つかさ」
「ふぇぇぇぇっ……こなちゃん、こなちゃんっ……」
 私がそう言うと、つかさも私に抱きついて泣き始めた。
 ……ありがとう、二人とも。
 こんなバカな私のために、こんな心配してくれて。
 私ってば、なんて幸せものなんだろう。

   *  *  *  *  *

 夕方になると、お父さんとゆーちゃんが病院に来た。本当なら二人とも、この"病院"っ
て場所には来たくないんだろうけど、私の顔を見るとホッとしてくれた。
「お姉ちゃん、大丈夫っ?!」
 ゆーちゃんは入ってくるなり、私の顔をのぞき込んで涙目になっていた。ゆい姉さんにも
電話したらしくて、犯人に対して相当キレてたみたい。
 それに対して、お父さんはと言うと、
「こなた、確かに格闘技は学ばせたが、無茶をしろとは言ってないぞ」
「……はい」
 いつになく厳しい、お父さんの言葉。
 だけど、それは私を心配してのことだから、全部真剣に受け止めなきゃ。
「あ、あの、おじさん! 私が、私が悪いんです。私が油断してたから……」
 かがみがお父さんの言葉を遮ると、辛そうに目を伏せた。
「いや、引ったくりを予防するのは難しいから、そう思うことはないよ。それに、別に無闇に
怒っているわけじゃない。自分が出来る以上のことをしても、下手したら命に関わるわけだからね」
「それは、そうですけど」
 言葉をにごすかがみは、なぜか納得が行かないらしい。私のしたことは、お説教されて
当然のことなんだけど……
「まあ、嬉しい気持ちがあるってのも確かだよ。こなたにこうやって、助けてあげたい
友達が出来たっていうことなんだから」
 そう言うお父さんのまなざしは、普段のスケベおじさんのものじゃなく、あたたかい
"お父さん"のまなざしだった。
 ああ……こうやって誰かに心配されて、いろいろわかることってあるんだ。
「かがみちゃん、つかさちゃん」
「「は、はいっ」」
 そのまなざしのまま、お父さんが二人のほうを向く。
「いつもありがとう、こなたのことを見守っててくれて。今回はこういう形の事件だったけど、
二人がいなくて、一人だけで立ち向かってたら……もしかしたらと思うと、ね」
 暖かいまなざしの中で、少し悲しそうな目をするお父さん。
 きっと、十数年前のこと――お母さんとの別れのことを思い出しているんだ。
「いえ、私こそこなちゃんにはお世話になりっぱなしで」
 つかさが、ふるふると頭を振るとお父さんに頭を下げる。
「私も、本当にいっぱいお世話になってますから」
 そして、かがみも頭を下げると、いつになく優しい表情を私に向けて、
「ありがとう、こなた。本当に……ありがとう」
 私を、そっと優しく抱きしめてくれた。
「そんな、私がいつもお世話になってるんじゃん」
「もう、こういうときは素直に受け取っておきなさい」
『しょうがないわね』と耳元で付け加えられながら、かがみがたんこぶを優しくなでられて
ゆくにつれて……少しずつ、痛みがひいていくような気がした。
 とっても優しくて……あたたかくて、それが体中にしみわたってゆく。
「あの、おじさん」
「あっ……」
 しばらくして、かがみの身体がゆっくりと離れていった。
 それとともに消えてゆくぬくもりが、ココロを寂しくさせてゆく。
「ちょっとお話があるんですけど……今、いいですか?」
「ああ、いいよ」
「それと、つかさもちょっと来てくれる?」
「うん、わかった」
 そう言うと、かがみは二人を連れて病室の外へと向かっていこうとした。
「か、かがみ?」
「ごめんね、こなた。お話をしたらすぐ戻ってくるから、ちょっと待っててね」
 そして、病室から出て行って……ガラッと、ドアが閉められた。
「お姉ちゃん、こぶは大丈夫?」
「あ……うん、大丈夫だよ」
 ゆーちゃんに言われて、私の頭がまたじんじんとしてくるのに気づいたけど、不安に
させちゃいけないと思ってガマンすることにした。

 どうしたんだろ、かがみってば……
 私の身に何かがあったのかなと、一瞬不安がよぎる。
 だけど、それからすぐに戻ってきた三人の表情には、そんな陰りは全然なくて。
 一体なんなんだろうっていう疑問が、頭の中でずっと浮かびっぱなしだった。

   *  *  *

「ふぁ~……」
 のろのろとベッドから身を起こして、大きいあくびをひとつ。
 まだぼーっとしてる頭を軽く振って……おおぅっ、ちょこっと痛い。
 少し違和感が残っている頭を押さえながら時計を見ると、まだ時間は朝の7時を少し回ったところだった。
「せっかくの休日だってのに、早起きしちゃったなー」

 昨日はあの後、かがみとつかさの両親がやってきてお礼されて、お父さんとおろおろ
してたりとかあって、夕方ごろにはみんなで帰ることになった。そして、3連休の今日……
「うー、本当はアキバに出直したいんだけどなー」
 結局、大事をとって布団の中で一日過ごすことになりそうだった。
 大丈夫だとは思うんだけど、お父さんとゆーちゃんからはすごい剣幕でやめてくれと
懇願されるし、それじゃあ行くわけにもいかなくなる。
「仕方ないから、もーちょい寝ときますかねー」
 そうつぶやいて、またタオルケットをかぶりなおそうとしたその時。

 ぴんぽーんっ

 下の玄関のほうから、呼び鈴の音がした。
「誰だろ、こんな朝早くから」
 近所のゴミ当番にしちゃまだ早すぎるし……まあ、私には関係ないか。寝なおし、寝なおし。
 改めてタオルケットをかぶって、ベッドに横たわってと。

 とん、とん、とん、とん

 うん? 誰かが上がってきた? お父さんにしちゃ軽やかな足音だけど。

 こんこん

 って、私の部屋のドアがノックされてるし。
「ふぁ~い」
 まだ眠さでまわりきらない舌で返事すると、がちゃっとドアが開いて……

「おはよ、こなたっ」
「ど、どったのかがみん?!」

 な、何でかがみがひょっこり顔をのぞかせてるんデスカ?!


 少し大きめのバッグを手にしたかがみは、静かに部屋に入ってくるとベッドのそばにやってきた。
「どう? ケガしたところは」
「う、うん、あんまり痛くはなくなったけど」
「どれどれ」
 かがみは中腰になって、こぶが出来ているところにそっと手を当てた。
「うーん……でも、まだちょっと腫れてるわね。あんまり無理しちゃダメよ?」
「いやー、アキバに行こうかなーって思ってたんだけ――」
「ダメ!」
 からかうように私が言うと、あわてたように顔を近づけてくるかがみ。って、あの、
すっごい近いんですケド?
「ちゃんと安静にしてなきゃ。頭のケガは一番わかりにくいんだから」
「は、はいー」
 来た瞬間に思わず飛び起きていた身体を、かがみがそっと押してベッドに寝かせてくれる。
「で……どしたの? こんな時間に来て」
「うん、昨日おじさんと話があるって言ったでしょ?」
「あー、そんなことあったね」
「その時に、ちょっとお願いさせてもらったの」
 かがみはそう言うと、改まったように私に向き直った。
「今日一日、私にこなたの看病をさせてくださいって」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」
 か、かがみが、私の看病っ?!
「って、そんな大げさな! 病気ってわけでもないし、ただのケガだから!」
「そのケガが怖いんじゃない。お医者様も言ってたでしょ、今日は安静にしてなさいって」
「ま、まあ、そりゃーそうだけど」
「それに……昨日のお礼もさせて欲しかったから」
「えっ?」
 昨日の、あの事件のお礼ってこと?
「い、いいってばー。あんまり気にしなくたって」
「……迷惑、かな?」
「うっ」
 か、かがみがいつもはしないような憂いの表情して……って、私はこんなかがみの表情
見たくないってば!!

「じゃ、じゃあ、お願いしてもいいカナ?」
「うんっ」
 表情をこわばらせていたかがみにそう言うと、一転して嬉しそうに笑って、強くうなずいてくれた。
 な、なんか調子狂うなー。いつもだったら「嫌だったら別にいいわよっ」とか言うはずなのに。
「とりあえず、朝ごはんを作ってくるから。ちゃんと寝てるのよ」
「う、うん」
 かがみは私の頭をなでると、また立ち上がって静かに部屋から出て行った……って、"朝ごはん"デスカ?
 たしか、かがみって料理が苦手だったはずでー……お菓子作りのときも、つかさに教えて
もらったから出来たって言ってたよネ?
 そんな心配が一瞬よぎったけど、頭をなでてくれたときの気持ちよさと、かがみの優しい
笑顔を思い出しただけで……なんか、どうでもよくなった。
 お世話をしてくれるっていうんだし、今日はそれに甘えてみよっと。

《ドカーンと星くず蹴散らしてー♪ ちっちゃな海賊っ、大登場ーっ♪》

 もー、またこんな時間なのにケータイにメールが……って、つかさからか。
『こなちゃん、調子どう? 後で私もそっちにいくからねー』
 とか書いてあるってことは、つかさもちゃんとこのことを知ってたんだ。まあ、昨日
病室の外に出て行ったときにつかさもついていったんだから、ちゃんと知ってて当然か。
 とりあえず、疑問に思ったことを返事といっしょに送ってみよう。
『今は大丈夫。ところでどったの? いきなりかがみがお世話するんだーなんて』
 そう打つと、数分してまた『ミトの大冒険』の着信音が流れた。
『昨日のお礼がしたいって、あれから張り切ってたんだよー。まつりお姉ちゃんも
いのりお姉ちゃんもびっくりしてたぐらい』
 いや、なんかびみょーに返答になってないような気がするんですけども。まあ、後で来た
ときにでも聞けばいいか。
 そう思って、机に上にケータイを置こうとした瞬間にまたケータイが鳴った。
『こなちゃんが元気でよかった。こなちゃんが、そこにいてくれてよかったよー』
 ……うーん、なんかわかりにくいけど、喜んでくれてるんでいいんだよね?
 またまた頭の中がハテナマークだらけになりながら、私はベッドに身体を沈めた。





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  • でっかいフラグが立ちました! -- 名無しさん (2011-04-12 23:11:01)

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