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ゆに☆すた ~University☆Star~ えぴそーど6

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 お正月が終わったと思ったらあっという間に受験の日がやってきた。泣いても笑っても、普段どおりに勉強するのは今日が最後。
 いつもの待ち合わせの駅、いつもの待ち合わせの場所、そこでこなたを待つ。
 冬も半ばの朝だけあって、厚着の人や寂しげな枯れ木が目に入る。空はずいぶん澄んでいるけれど。

 学校は三学期に入ってすぐに自習体制になっている。
 それでも私はいつもと同じ時間に同じ電車で登校し、人がめっきり減ってしまった教室の中で黙々と勉強を続けてた。
 この学校の生徒でいられるのもあと僅か。
 わざわざ登校する必要はないのだけれど、できるだけ学校の緊張感を感じていたいからか、平日の勉強場所はもっぱら教室。

 この学校の中としては珍しいのだろう。つかさは調理師系の短大の指定校枠を貰ったので、気が向いたら程度にしかこない。
 もう今からその気になっているのか、気が付くと料理ばかりしているような気がする。
 傍から見るともう受験すら諦めたような行動に、姉として少し危機感を覚えなくもない。
 差し入れ程度にしか私の所に来ない所を見ると、姉離れが進んでいるような寂しさもある。
 ――その分手間のかかる妹が一人増えてるんだけどね。

 平日はつかさを除いたいつもの面子。土日や祝日はこなたと私、みゆきさんとチームが分かれてしまう。
 こなたの家にも私の家にも、お互いの下着とフリース一式くらいは常備されるようになった。私に至ってはこなた家の鍵まで持ってる始末。
 同じ大学を受けるんだと言い出したこなたが、本気でそう思っている結果みたいなものだ。
 一時は『友達の家で勉強なんて……集中できるの?』と心配した私の親や姉たちにとっても、今となっては普通の出来事になっている。
 むしろこういうのは私の家だけで、こなたの家では問題になることすらない。

「おはー、かがみっ! なんだかセンチな雰囲気じゃん?」
「かがみ先輩、おはようございます」
「おはよ、こなた。ゆたかちゃん。最終日だからかもね、いきましょ」

 返事はしたものの、しばらくぼうっとして空を見上げていた。なんだろう、私は緊張しているのかもしれない。
 いつの間にか腕に抱きついているこなたが見上げている。ゆたかちゃんも何だか心配そうな目をしている。
 腕にその体重の一部を乗せて、心配と興味が半分こみたいな顔をしてじゃれてくれるのが心地よかった。
 体を引き寄せて頭を撫でたら、とたんにふにゃっと顔が緩む。そんなことをしながら通学路を歩いてく。

「ああそうそうこなた。センターのときにみゆきに上げたお守り、明日試験だから作ったわよ」
「おぅ? 作ったって……あれって、かがみが作るもの?」
「作るっていっても、外側はそういうのを売ってるとこから買うんだけどね。中身は私が籠めたわよ」
「中身って……もしかして乙女の、伝説のアレデスカ!?」
「おねえちゃん、それってどういうこと?」
「えっと、そのーなんていうかデスネ……」

 ――ああ、世俗にまみれてるわ。
 汚れきったこなたと違って、純粋なゆたかちゃんは意味が分からなかったみたい。
 少女の純粋な言葉に対し、返事に困って縋るような視線を向けてくるけど助けてあげる気もしない。
 自分の言った発言には責任を持って頂かなくてはいけない。存分に反省するがいい。

「何を想像してるのか知らんが……とりあえずご利益の事もあるから伏せておくわ」
「ううう……かがみノってくれない」

 そんな事を言われても、私としては真面目に言ってる訳で。
 軽口の後にあからさまにしょんぼりされても、こちらとしては何も言いようがない。
 話の流れを変えるために、女の子が好きそうな……神聖かつロマンチックなことを教えてあげることにする。



「籠めるっていうのはね。神前で、巫女装束つけて……祝詞唱えながら神楽鈴を鳴らして、神様の力を降ろすって言う儀式のこと」
「な、なんだか本格的だねえ……みてみたかったナ」
「わー素敵ですね、かがみ先輩」
「そりゃ一応私は神社の娘ですから。というかそれは見せちゃいけない儀式だからね」
「つかさのはないんだ?」
「つかさは指定校だったからね。自分のはやらないのが決まりだから、私のはつかさのだけど。はいこれ」
「私が受験のときも作って……頂けますか」
「ええ、もちろん。まぁ、気休めなんだけどね」
「巫女が神社を否定しやがりましたよ、奥さん」
「奥さんって誰よ。日々の努力が大事って事よ。ほらっ」

 制服のポケットに入れておいた、こなたのお守りを白袋に入れて渡してあげる。
 両手で受け取って、お守りを裏返したり観察して……ハンカチで包んでしまうのを見て、そこまで丁寧にしなくてもいいのに、なんて思った。
 ――そんなに大事にしてくれるなら、作ってよかったな。
 そんなことをしながら下級生たちに混じって歩く通学路。なんだか寂しく感じてしまう私だった。

 学校についてゆたかちゃんと分かれ、教室行ったらいつもどおりみゆきが居た。数人、もう参考書を広げてる人もいる。
 挨拶を交わして、机を三角に並べながらちょっとした話をして、いつもどおりの勉強タイム。

 夏を過ぎたころから、だんだんとこなたがこなたでなくなっていくように感じる。
 良く言えば天真爛漫、悪く言えば傍若無人な今までのこなたが影を潜め、静かで理知的なこなたになる。
 勉強中だけというのがこなたらしい。

 スイッチみたいなものだという眼鏡をかけ、ルーズリーフにシャーペンを走らせているこなた。
 目の前の紙だけを真剣に見つめる瞳。そのちっちゃな体全体に纏う張り詰めた糸のような雰囲気。
 質問してくるときの声は、声が変わったわけでも無いのに気を抜くことを許さない。
 ――ほんとに信じられないスイッチだわ。

「しもた、ここ欧米のってくだりで引っ掛け……てことは、ダートマスとアナポリス?」
「また妙な単語並べてるわね。世界史?」
「いやー、自信もって弾いた答えが、見事に間違っててさ」
「確かにこれはちょっと意地悪ですね……設問の文章自体が少しおかしい気もしますし」

 問題集の答え合わせをしていたらしいこなたが呟いて、私たちも手を止めてしまった。
 受け取って見てみたら、確かに引っ掛けというより問題文がちょっとヘンだ。
 模範回答を見てるからそうでもないけど、普通にやってたら私も間違うかもしれない。
 この結果には納得いかないようで、こなたは自前のまとめノートを引っ張り出して、シャーペンをぐるぐる回し始めた。

「むぅ、気がぬけちゃったよ。んー! 体固まってるー。もう二時間か、休憩だねこりゃ」
「そうね、そろそろ私も集中力切れそうだし。みゆきは?」
「ええ、構いませんよ」
「かがみー、おやつーおやつー」
「たぶんクッキーだと思うけど……こら、後ろからとろうとするな! 重いわ!」

 急に席から立ち、私を後ろから抱きすくめながら、つかさ謹製のおやつをねだってくるこなた。
 こんな生活になってから、つかさが毎日ちょっとしたお菓子を用意して渡してくれるようになったので、ハゲタカは収奪に余念がない。



 最近のこなたは、勉強に勤しんでいる時を除いてずいぶん甘えてくるようになった。
 まるで高校に上がる以前、一時期のつかさみたいに私とくっつきたがる。
 高校生にもなって『せっせっせーのよいよいよい♪』なんてするとは思ってもみなかった。
 一体何を考えているのか、時々わからなくなる時がある。

 真剣モードで消費された何かを、それで補充でもしてるかのように感じる。
 じゃれてるときのこなたは、外見相応の幼さで溢れてる。本当に楽しそうにころころ笑う。
 不思議になって聞いたら、『子供のときにしなかったから、今かがみとすると楽しいんだよ』なんて返された。
 そのときなぜかこなたにそっくりだったかなたさんの写真を思い出して、それ以上聞けなくなったんだけど。

「んー、あまいねー。バターいっぱいだね」
「おいしいわねこれ。あんまり食べたこと無い味だわ」
「ええ、これはイギリスで有名なバターと砂糖と小麦粉しか使ってないお菓子ですから」
「へー、イギリスのなんだ」
「ショートブレッドといいます……ただ、確かこれ一枚でおにぎり半分くらいのカロリーがあったはずかと」
「……え?」
「かがみんの顔がひきつった! ぷにぷにー」
「ええいやめんかっ!」

 さすがにおにぎり半個分ともなると、ついつい手が止まってしまう。
 調子に乗ってほっぺたを指先でつついてくるこなたの指を掴んで剥がした。
 こなたはちょっと残念そうな顔をしたけど、しっかり猫口の中にカロリーメイトみたいなクッキーを放りこんでる。
 ――よく気にならないものね……。
 別の意味で羨ましい。

 こなたは甘えるのがものすごく上手。たぶん今までの友達の中で一番、その辺の空気を読むのがうまい。
 私が本気で怒れない、それ以上やったら悪ふざけじゃ済まないよっていう微妙なところに触れそうになると、すぐに引き下がってしまう。
 私の心の中に容易く潜り込んできて、気持ちの悪いところには触れないくせに、気持ちのいいところだけくすぐっていく。
 まるでこなたの手の平で遊ばされているような、操られているような、それで納得できるかと言えばそうでもない微妙な感じ。

 ちなみに最近読んだラノベの影響なのか、突拍子もないことを考えたことがある。
 もし私が男だったらそんな感じのこいつに惚れてたんだろうな、とか。ずいぶん倒錯してて、これじゃゲームと一緒にするな、なんて叱れない。
 ――もちろんそのときの私に、こなたが懐いてくるかどうかは別だけどね。


――――――――――――――――――
ゆに☆すた ~University☆Star~
えぴそーど6 ふたりめのいもうと。
――――――――――――――――――


 ――まったく、この論説文もうちょっとまともに書きなさいよ!
 二人で昨日の入試問題の解きなおしをやってたら、現代文の論説文の半分くらいをミスった事が発覚し、かなりブルーになった。
 試験が終わったからって気を抜いて遊びほうけるのもなんだよねってことで、土日のいつもの勉強会をこなたの家で開催してる。

 もっとも、お互いの問題の解きなおしと答えあわせを兼ねたのだけど。
 私が悩んだ問題を、こなたがすらすら趣意を抜き出して誤答を弾く。相変わらずうらやましい。
 さすが小説家の娘って感心したりもする。遺伝子がそんな風に組まれてるんだろうか。



「どうかがみ、どんなもん?」
「多分、七割前後ね……これだと。配点もわからないし」
「そーだねえ。私は国語は九割近く取れてると思うけど。はー、さすがにまとめてやるとへたばりそー」

 そう言って後ろ向きにこてん、と倒れるこなた。
 端っこにおいてあったお菓子ボックスを引っ張り出してきたと思ったら、こっちにお饅頭を投げてきた。
 シャーペンを問題用紙に落っことしながら、ぎりぎりでキャッチする。

「こら! 食べ物を投げるな!」
「ごめんごめん。なんかもうクタクタになっちゃっててさー」

 ――まぁ私も疲れてるしね……。 
 包装フィルムをはがして、ベットに寄りかかるようにしてお饅頭をかじる。
 こなたは完全にだらけモードに入ったみたいだった。
 おじさんに買ってきてもらったという、通称冬コミボックスから一冊引っ張り出している。
 さすがに私達は参加できなかった。おじさん……参加するのはいいけど仕事はどうしたんだろう。
 お正月に挨拶した時はやけにぐったりした様子だったけど。

「読んでも良いけど、それ一冊だけよ」
「わかってるですよ、かがみ様~」
「様は止めろと何度言ったら……」

 私の許可が出た、と解釈したらしいこなたはうつ伏せになって、脚をぷらぷら投げ出しながら読む体制に入った。
 その格好で器用にお饅頭をちまちまかじってるあたり、なんだか愛らしい。

 ――流石のこなたも英語はギリギリ……か。
 国文科英語の問題用紙のコピーを眺めながら、そこいら走り回ってる回答内容らしい英語をながめた。
 こいつのレベルは秋から冬にかけて恐ろしい勢いで上がってきて、こっちが気を抜くとあっさり撃墜されるくらいになってた。

 国語の問題を改めて見なおしたら、配点が高い分法学部より問題量そのものが多かった。
 選択はこいつらしく古文で攻めてる。ちなみに、私は漢文のほうが好き。英語と同じで単語だけで何となくわかるから。
 何で選択だと必ず古文なの、って聞いたことがある。
 『あさきゆめみし読んで妄想しながら原文読んだら、完璧に古文を把握したのだよかがみん』なんてほざいてた。
 原動力が妄想で、点を取れるのが末恐ろしい。

 漢字の書き間違いを見つけてあららと思いながらレ点をつけたとき、急に肩に重みがかかって髪の毛が触れ合うのがわかる。
 ――はいはい、またですか?
 どうやら甘えたい周期らしい。後ろを向こうとするとほっぺた同士がくっついて、こなたの髪の香りが漂った。

「どしたのよ。休憩してたんじゃなかったの?」
「マ○見ての同人見てたんだけど、ちょっとやってみたいなーと」
「……いちおう聞くが、どんなことだ?」
「じゃーん! これだ!」

 既にスタンバイ済みらしく目の前で開いて見せてきた。見た瞬間、脳内の私は盛大にお茶を吹いた。
 そこに描かれている絵は一見でもかなりのインパクトがあった。見続けるともう気恥ずかしすぎて顔を背けたくなる。
 冷静に、まずは冷静に状況を判断しよう。



 とりあえず、いったいどういうシチュエーションなのかはあえて突っ込むまい。
 聖様に祐巳ちゃんが横向きに抱えられてて、そこまではまぁうん、許せなくもない、と思う。
 祐巳ちゃんが根元をくわえたポッキーを……うん、ふたりでポッキーの恋人食い、ポッキー戦争、言い方はいろいろあるけどそんなのをしている。
 ――本気か、本気なのか? それをするのか。こなたと私で。

「あ、あんたってば……。すぐに影響されるんだから」

 とりあえず声を出す事で、自分の頭を机に打ち付けたくなる衝動を抑える。
 ――って、こなた、既にその手に持ってるポッキーは何なんでしょう?
 どんなコメントをするべきか頭の中で考えてる間に、こなたはお菓子ボックスからわざわざムースポッキーを引っ張り出してきた。
 確かにそのティラミスバージョンは、以前に私がわざわざこなたにリクエストした奴だった。それは認める。

「かがみ、私とじゃだめ……かな?」

 ――あーもう! どーしてそういうときだけ私に罪悪感抱かせるような顔するかな。
 横から乗り出してきたこなたの顔が、息がかかるくらいそばにある。親猫を追いかける子猫みたいに体を摺り寄せてくる。
 嫌なのか、無理なのかといわれると、別に嫌悪するほどのことではない気はする。むしろやってみたいんじゃないかとさえ思う。
 でもそれは私達の間じゃ越えてはいけない一線、という思いが存在することも事実だったりする訳で。

「やっぱり、イヤ……だよね?」

 こなたの表情が泣きそうになり、ちょっとぐずった声になり始めた。
 ――ええい、どうすればいいのよ、一体!
 この顔でずっといられると精神的にとてもよろしくない。まるで小動物を虐待してるような気分になってくる。
 おまけに、こんな風におねだりするときのこなたはかなりしつこい。

「……仕方ないわね。ほら、やってあげるわよ」
「やたー!」

 指でこなたの口のあたりを指しながら、あきれてるような感じでいってみた。本当にそんな感じに言えてるかどうかは……いまいち自信がない。
 もう覚悟はできた、というか無理矢理させられたというのが正答なんだろう、この場合。
 こなたはすぐさまにぱぁと笑みを浮かべて、躊躇なく机のと私の間に滑り込んで太ももの上にお尻を乗せてきた。
 微笑むこなたにつられるように微笑ましくなる……そして心のどこかでうれしがってる自分がいる事に気付いた。そう、気付いちゃったんだよね。
 その気持ちを振り払うように憎まれ口を叩いてみる。

「まったく、泣いた子がもう笑ったってこういう事ね」
「だって嬉しいじゃん。かがみだってちょっとはドキドキしてるくせにー」
「そりゃ、今からやるってイメージ画像見せられたら、普通は落ち着けないわよ」
「むー。こんな感じかな……」

 いくらこなたが軽いとは言っても、ヒト一人に体重を預けられてる。下敷きになっている足は身動きが取れない。
 もぞもぞと体勢を決めていたらしいこなたが、顔を横にして見つめながら右手を腰に巻きつけてくる。
 少し上にあるこなたの潤んだ瞳が見上げる私を見つめてくる。
 耳の裏の辺りまで心臓の鼓動に合わせてドクドクいってる気がする。



「かがみお姉さま」

 一瞬、意識がトびそうになった。
 お茶を吹くどころの騒ぎじゃないくらいのディープインパクト。
 自分の指先まで鼓動が広がる、こなたに気付かれそうで強く抱える事すらためらってしまう。

 鼓動を抑えるように大きく鼻で息をつき、冷静な自分を呼び起こす事に集中する。
 ――姉役だから、ああ祥子さんは祐巳って呼んでるから、名前をそのまま呼べばいい……のかな?
 冷静と思われる自分の回答はただそれだけだった。

「こなた、どうしたの?」
「お姉さま。こちら……よろしいでしょうか?」
「ええ、構わないわよ。これでいいのかしら?」

 おずおずと封を開けたポッキーの袋を差し出してくるこなた。
 ちょっと震える指で少し太めのムースポッキーを一本だけつまみ出す。
 ――私が咥えてる間、こなたが食べるんだよね。

 根元をはぐり、と咥えてみる。ぐらぐらしないように舌の付け根くらいまで入れたら、舌先にチョコの味が広がっていく。
 絵でみるだけでも恥ずかしいが、実際は予想以上に恥ずかしい。誰かに見られたら末代まで祟りかねない。いや、本気で。
 こなたがゆったりとポッキーの袋を床においてから、開いた左手も私の腰に回してぎゅう、と抱きしめてくる。

「お姉さま、後生ですから私が食べきるまでどうかそのままで……」

 どうも私は頭が茹で上がっているらしい。その言葉に素直に頷いちゃってる。
 元々近かったこなたの顔がポッキーに近づいくる。白い歯が見える。
 この状況でこなたって歯並び良いのね、なんて考えてる自分がすこし可笑しく感じた。

「はむ。ちゅっ……あむ」

 数十秒だろうか、意識を飛ばしていたらしい。すでにこなたが先っぽを舐めるようにしている。
 視線を絡ませたまま、少しづつ、ほんの少しづつ、こなたの顔が近づいてくる。
 時折姿を見せる舌とポッキーを舐めまわす仕草が、異様なほど艶かしくて。
 こなたが近づくにつれ、掛かる吐息が盛り上がりに追い討ちをかけてくる。

「ぺろっ……ぱき、ちゅぅ」
「ぱき、ちゅう……」

 口の周りがチョコでべたべたになって来る頃、折れそうになってたポッキーを噛み切って少し吸い込んでみる。
 逆を咥えているこなたが、同じスピードで寄ってきた。
 自然の行為なのだろうか、バランスを取るためだろうか、こなたと同じように腰に手を回してみる。
 応えるように、こなたが背中に回してる手を少し上げて上半身を更に寄せてくる。こなたの顔もほんのり赤い。

「ちゅう、ぺろ……ぱき、あむっ」

 ポッキーが残り少ない。互いのくちびるの距離まで、たぶん2センチくらい。
 その辺でこなたが止まって二人見つめ合う。どちらとも言えない息の音だけが響いている。
 しばらく……どれくらいの時間が経ったのだろう。
 お互いの体温すら感じる事が出来そうな、そんな微妙な距離と、空気。
 愛しさのあまり、背中に回した手を上げて、頭を撫でる。



 それが合図になった。

「ぱきっ」

 こなたが残ったポッキーを折って、くちびるを離してく。私は口元のそれを、咀嚼して飲み込んだ。
 口の周りでべたついているチョコを、舌を回してなめ取る。
 こなたは私が食べるのを待っていたのだろうか。口の中にポッキーの残りを収めてから、ゆっくり噛み始めた。

「こく」

 こなたが残りのポッキーを飲み込んだのが、のどの動きと音でわかる。
 永遠にも思える時間、切り取られたかのような空間、それが抱きしめあった私たちを包んでた。
 その時の私は、こなたのこと以外は何も考えていなかった。

「ありがとうございました。お姉さま」

 そして時間は動き出す、私の意識だけをそこに置き去りにして。
 そばにあったティッシュを引き寄せたこなたが、私のくちびるを優しく拭いてた。
 拭き終わった所で、私はそのティッシュを受け取り、こなたのくちびるも拭きとって、丸めたティッシュを勉強机の上に投げた。
 机の上を転がって行くティッシュペーパーを、呆けた頭のままで見つめてた。

「お姉さま?」

 こなたを抱き寄せた手も、頭を撫でた手もそのままに、動きを止めた私に首をかしげて呼びかけてくる。
 離したくなかった。このまま抱きしめていたかった。もっと、強く強く。そして、折れたポッキーとともに終ってしまった事の続きも。
 でも、戻ってきた私の中のもう一人の自分がそれを許さない。そう、『妹みたいな存在』、『親友』、『同姓』と必死に叫んでる。
 少しづつ浮ついた意識をクールダウンして、祥子様の口調を思い出しにかかった。

「いえ、何でもないわ。どう、こなた、おいしかったかしら?」
「ええ、とても」
「なんだか疲れてしまったわね、一本だけでいいのかしら」
「はい、お姉さま……」

 行為自体に心残りが無かったと言えば嘘になる。でもそれは許されない。
 抱き寄せた手を離してこなたをゆっくりと開放する。
 こなたも素直に離れて、ポッキーの袋を机の上に上げながら隣にぺたん、と座り込んだ。
 ――こなたも緊張してたんだよね、きっと……。
 大きく息をついてからこなたのほうを向いたら、もう完全にいつものこなたに戻ってた。
 あの生意気な子猫みたいな顔でニマニマとこっちを見てる。

「かがみん、デレですかいデレですかい?」
「……ぅ、うるさいわ! あんたが言い出したんじゃない」
「そだね。ちょっと私も目覚めちゃいそうデス」
「いやいやいや、目覚めるな目覚めるな」

 こなたのおちゃらけた物言いにちょっとカチンと来る。
 とはいえ、今回の事はもう記憶の奥底に封印する事に決めた。
 まだ続く強い鼓動の中にチクリと痛みが走った気がするけど、気のせいという事にする。
 ようやく普通にやりとりができるようになったタイミングで、控えめなドアのノックの音がした。


「はーい」
「おねーちゃん達、お疲れさまです。おじさんがお寿司取ったのが届いたよって」
「おおう、そういえばお昼にそんなこと言ってたなぁ」
「あんたの家で出前なんて珍しくない?」

 いつもかわいらしいゆたかちゃんが、ドアから顔だけぴょこんと出して私たちに知らせにきた。
 もしかしてあの最中を見られたんじゃないかと一瞬緊張したけど、その顔は至って普通だった。
 正直、最中じゃなくてよかったとほっと胸をなでおろした。
 邪魔されなくてよかったと思った自分が居たことも確かだったから。
 自分のことまではよくわからない。とりあえず普段どおり、適当に話をあわせた。

「おとーさん、あさって締め切りらしくてさー。ものすごい感じ」
「発表日と一緒なのね。それとお寿司がどう結びつくの?」
「むしゃくしゃして電話したって。あ、あと極上を五人前頼んだ、反省はしていない! って叫んでた」

 ――特上通り越してるよ。
 むしろ極上って有るのか、なんて頭の中で突っ込みを入れる。
 締め切り前の作家さんって大変なんだなあと思いつつ、私たちは階下に降りた。

 そのお寿司は確かにおいしかったけど、トロとかはあるのに何故かマグロの赤身だけはひとつもなかった。
 場所が開いてたからおじさんが食べたんだろうって事になったけど、人数分位は残しておけってこなたが不機嫌だったり。
 今後しばらくのおじさんが不憫でならない。

 そんなこんなで、試験後初の土日の定例会は過ぎ去ってった。
 帰るときに言われたこなたの言葉は、私はきっと一生覚えてるんだろう、きっと。

 ――ねえかがみ、何回か話してたけど。ほんとに、ほんとに二人とも受かってたら、一緒に四年間暮らそーね、約束だよ!


【Finale / えぴそーど6 ふたりめのいもうと。】













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コメント:
  • なのか? GJ -- Mrs,名無し (2010-06-12 13:24:47)
  • たのむよぅ!
    つづきをぉぉぉ。 -- 白夜 (2010-05-26 02:34:28)
  • GJ!です。この後の展開が気になりますね。 -- 名無しさん (2009-07-20 06:26:46)
  • あれ?  続きないの? -- 名無しさん (2009-07-19 00:57:33)
  • お願い! 続きを、つづきをぉぉぉぉぉ!!! -- kk (2008-06-24 00:19:52)
  • いく -- 名無しさん (2008-06-01 22:51:32)
  • GJ!感動をありがとう、
    続きお願いします。 -- 名無しさん (2008-05-31 04:43:06)
  • 続き、続きおぉぉぉ、
    もの凄くきになるぜぇぇぇ!! -- 名無しさん (2008-05-28 21:15:26)
  • 続きを読みたいです! -- 名無しさん (2008-05-01 21:15:20)
  • ポッキーゲームが神に祝福された儀式だということを今知りました。 -- 名無しさん (2008-03-17 21:29:00)
  • あああ気になるぅぅぅ!!!
    頼むから幸せになってくれと勝手なお願いを叫びたくなるほど引き込まれました! -- 名無しさん (2007-11-16 00:40:09)
  • GJ!もう何回も読んでる。続きが読みたい! -- 名無しさん (2007-11-03 18:17:44)
  • これはいい 何回か読んでしまった 大学での話も見てみたいとか思ったりw  -- 名無しさん (2007-10-14 23:55:14)
  • これはGJ!感動をありがとうございました!! -- 将来ニートになるかも (2007-10-01 17:38:38)
  • 設定にも展開にもひとつの無理もない、十分あり得そうな未来。
    なのに、何でこんなに切ないのでしょうか。

    誰かを真剣に想っている人がいて、その想いに誠実に答える人がいる。
    それが『受験』という明確な目標と研ぎ澄まされた緊張感で構成された青春(!)の一時期を背景にして
    とても丁寧に描かれている事が、
    涙が出そうな程に‥いえ、涙してしまいましたが‥切なく胸に響きます。

    よい作品をありがとうございました。
    ぜひ続きを!
    できれば、大学生になった二人の甘い(←ここ、重要)共同生活も♪ -- もずる(省略形) (2007-09-24 19:43:00)
  • 続き作ってください! -- 真 (2007-09-16 17:55:06)

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