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みゆきさんの心の内

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匿名ユーザー

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「……でさ~、またそれが臭いんだよね~」
「まだやってたのか、アンタは」

いつものように、泉さんが元気に話していらっしゃいます。
今日は睡眠時間も足りているようですね。頭のてっぺんに飛び出した、ひと房の髪の毛も、生き生きとされています。
かがみさんも、つかささんもお元気そう。とても微笑ましい、朝の光景です。

だから……今日は、今日こそは言えるかもしれません。
今までずっと、いつかは言おうと思ってきた、あの言葉を。

泉さんのテンションが、上がってきているのがわかります。
私の鼓動も、高まっていくのがわかります。

……そして、ついにその時がやってきました。

「あの臭さは、もはや芸風と言っても過言じゃないね~、うん」
人差し指を立てて、泉さんがそう言い放ちました。

――い、今ですっ!


「な……何でですかっ!」


……『ぴしっ』と言う音が、聞こえたような気がしました。
泉さんが、かがみさんが、硬直したまま私の顔を見つめています。
横で笑っていたつかささんも、目が点になっています……

緊張が後悔に変わり、背筋をぞくり、と冷たいものが走っていきます。

「……あ、あの、その……」

「あの……みゆきさん?」
遠慮がちに口を開いたのは、泉さんでした。
「私、何か気に障ること言っちゃったかな? ……だったらその、ゴメン」
視線を落として、つぶやくような小さな声で。

ち、違うんです、泉さん。そうじゃないんです……

「みゆき……あんたが声を荒げるなんて珍しいわね。……何かあったの?」
気遣ってくれるような、優しげなかがみさんの声が心に刺さります。
「ゆ、ゆきちゃん……?」
つかささんの声も、心なしか震えています……

「……こなた、あんた悪乗りしすぎなのよ」
眉をひそめ、となりの泉さんに視線を送るかがみさん。
「あうぅ……」
泉さんの頭の毛が、まるでお塩を振った青菜のように萎れてしまっています……

「……いえ、あの、……そうじゃないん……です……」
やっとの思いで、声を絞り出すまでに、どれほどの時間が経ったのでしょうか。
時間的にはほんの数秒なのでしょうが、私の中ではまるで永遠にも思える、その時間。
「そうじゃない、って、何が?」
かがみさんの声も、どことなく遠慮がちで。

……まるで、私と皆さんの間に、まるで深い亀裂ができてしまったような……

「……すっ、すみませんっ! 本当にすみませんっ! ごめんなさいっっ!!」

皆さん……本当に、本当にごめんなさい。
ただ、ただ私は……

「み、みゆきさん?」
「私……一度、その、かがみさんのように突っ込んでみたいと思ってたんです! それだけなんですっ……」
私は、ただ頭を下げることしかできませんでした。
目頭から零れた雫が、少しずり落ちたブリッジに滴り落ちて……

「ほぇ?」
涙で歪んだ視界の隅へ、青い何かが覆いかぶさってくるのが見えました。

「……なぁぁぁんんだ、そーゆーことだったのかぁ」
まるでスイッチが切り替わったかのように。泉さんの声が、明るさを取り戻しました。
「もう……びっくりさせないでよ~」
かがみさんとつかささんの声が、穏やかなハーモニーを奏でます。

「私、いつも皆さんの『ノリ』についていけなくて……気も利かなくて……だから、私……わたし……」
「みゆき、そんなコト気に病んでたんだ……ほら、涙拭いて」
鼻と耳から眼鏡の感触が消えて、代わりに柔らかいハンカチの感触が、私の目元や頬を優しく拭っていきます。
「無理しなくてもいいんだよ、みゆきさんはそのままが萌えるんだから。自分のスタイルでいくのが一番だよ」
泉さんの優しい声が、私の心をほぐしていってくれます。
「そうだよ、ゆきちゃん」
肩に感じる暖かい感触に視線を向けると、つかささんが私の横で、そっと肩を抱いてくれていました。

「そうよ、みゆき。無理して突っ込む必要なんてないわよ、こんなのに」
いつもの調子を取り戻して、かがみさん。
「そうそう、ツッコミならここに強烈なのがいるから十分だよ」
かがみさんを横目で見ながら、こなたさんのにんまりとした顔。
「ちょっと待て、おい」
すかさず、かがみさんの声が被さります。

それは本当に自然体で、どこにも無理がなくて……

「そうですね……やはり、慣れないことはするものではありませんね」
それぞれの自然体に戻った、皆さんの雰囲気に支えられて。
私もやっと、いつもの微笑を浮かべることができました……

「……でも」
人差し指を立てて、泉さん。
「その意気や良し!だよ、みゆきさん。ツッコミっていうのは、これでなかなか奥が深いもんでね~……」
「はぁ?」
「……あの、泉さん?」
「みゆきさんの場合、普段とのギャップを強調したほうがよさそうだから、関西弁で言ったほうがいいかもね」
「ちょっと待て、アンタついさっき逆のこと言ってたトコでしょうが!」

かがみさんのジト目にも怯まず、泉さんのテンションが再び上がっていきます。

「あと、ジェスチャーもあったほうがいいヨ。肘をこう曲げて、相手の脇腹めがけて……『何でやねん!』」
どこで会得されたのでしょうか。一分の隙もない、完璧なポーズから繰り出された左手が、私の脇腹を軽く叩きます。
「って、こんな感じね。じゃあ早速、まずは素振り100回!はい、やってみよー」
「あ、あの~……」

「ちょっと、こなた!どこまで悪乗りする気よアンタは」
会話に割り込むように、かがみさん。
「んー、そだね、桜藤祭の演し物にできるぐらいまではレベルアップしてほしいかナ」
「演し物にすんなっ!」
「おお! これ! これだよ、今の呼吸! みゆきさん見てた? この『間』が大事なんだよ!」
「おーーーいっ! 話を聞けーーっ!!」


……『適材適所』という言葉があります。
私たちの間にも、それぞれの立ち位置、というものがあるのだと思います。
無理はしないで、自分の立ち位置をキープしていくのが、結局一番なのでしょうね……
素直に、そう思えました。


……泉さんは、まだ私の新たな立ち位置を模索されているようですが……


― おしまい ―













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  • みゆきさん新境地なるか? -- 名無しさん (2011-04-29 03:54:34)
  • こういうの、読みたかった。GJ -- 名無しさん (2008-04-06 02:51:06)

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