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ひねくれたがるお年頃

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ぐりぐり。
ぐりぐり。

本を読んでいる私の背中に、なにかが頭を押しつけてくる。これで4度目だ。読書が中断されるのが癪でしばらく続けてきた無視ももう限界だった。私はとうとう本を放り出してしまう。

「あーもう!あんたは猫か!」

振り返った私の肩口に、こなたはすりすりごろごろ、といった感じで懐いてくる。ちょっと可愛い反面、微妙にウザい。
猫口で笑いながら、こなたは意味の分からない話をし出す。

「どうせなら猫みたいな目がよかったなぁ。んで、観測して、かがみを巻き添えにする」
「なんだかよく分かんないけど、断る」
「まあ、確かに嫌だけど。アニメ放映もない生活は……」

一人でぶつぶつ言い出した。ところどころで聞こえる単語は、適応なんたらとかアンテナとか……こいつは一体何の電波を受信しているんだろう?

「相変わらず人のことほったらかしだな……」
「そんなことないよ?ほらほら交差交差」

そしてまたすりすりごろごろ。
こなたの言っていることはぜんぜん理解できないけど、微妙に幸せそうなニヤニヤ顔が妙に腹立つ。手を伸ばしてふにふにのほっぺたを引っ張ってみると、ニヤニヤが横に伸びた。
かがみいひゃい、いひゃいって!とか何とか聞こえてくるけど気のせいだろう。
手を離すと、こなたは大袈裟に頬をさすっていた。そのわりに、なぜかまだ嬉しそうだったけれど。
諦めなのか、呆れなのか、とにかく溜め息がでる。

「……いつかニヤニヤだけ残して消えるんじゃないかって思うわよ」
「ということは、かがみは慌てるウサギさん?」

分かりにくいように皮肉ったつもりだったのに、こなたが話に乗ってきた。

「遅刻はあんたの専売特許でしょうが」
「んじゃあお茶会してる方?」
「狂ってないわよ、失礼な」
「あれってもともと、その時期が発情期だから……」
「殴られたいか」
「あーあーごめんごめんってかがみ」

自然に会話を繋ぎながら、思う。
なんて、ひねくれているんだろう。
核心をつかない話題、核心をつかない言葉、核心をつかない私たちのすべて。
上っ面にせよそれが楽しくて、楽しいから、私は気付いてしまう。
不安なんだな、と。
そんな感情から目を逸らすように、私は話題を拾って先へ進む。

「にしても、意外と詳しいのね。活字は苦手じゃなかったっけ?」
「んー、とあるエロゲの影響で……」
「またそれか!」

勝ち負けがあるわけじゃないのに、なぜか負けた気がする。そして、なんだか悔しい。
こんなどうでもいいことに悔しくなる私と、不安を押し隠している私は、たぶん両立する。というか、している。
そんな気分の私に、こなたがぽつりと言った。

「でも私は『かがみ』の方が好きだからねぇ」
「え?あ、ありがとう……?」

頭の中に?マークを浮かべながら、急にきたストレートな愛情表現に心臓が大きく音を立てる。こなたの次のひとことは、そんなふうに動揺した私を、かるーく地面に突き落としたけれど。

「……かがみ?不思議の国より鏡の国の方が好きって話だよ?」
「あ」
「んー?今一瞬デレた?デレた?」
「うーるーさーいー」

こなたのニヤニヤはますます勢いづいて、勝手に勘違いした私は恥ずかしくって仕方ない。

「いや、好きだよ?かがみ、大好き」
「知ってるわよ、そんなの……ていうか、まずはそのにやけた顔をなんとかしろ」
「おおっ、ますますデレ期ですネかがみさん!」

冷静に返したつもりだったのに、こなたには効果がなかった。
自分で少し照れたのが敗因か。
どうしようもなくなって、放り出した本をまた手に取った私に、調子に乗ったこなたはどんどんもたれかかってくる。背中にぐりぐりと押しつけられるおでこの感触。
きっとさっきよりもっとずっとニヤニヤしてるんだろう。
急に振り返って、ほっぺたひっぱるぞーという手つきをしてみると、満面の笑顔のままでこなたは素早く飛び退いた。
その動きがまるっきり猫みたいで、私は思わず笑ってしまう。

「まったく、あんたはほんとに猫ね」
「んー、猫、ね……」

私の言葉で、こなたは考えるように、少し首を傾げた。

「ねえ、その猫は、生きてるの?死んでるの?」

突然の発言に驚いたけれど、なんとかすぐに応えられた。

「さあ?私はまだ見てないから決まってないでしょ」

文系の私には、今ひとつ理解できなかった概念だった。
こなただって、よく解っていないだろう。そこまで持ち出してくるとは、私たちは今ここで、とても切羽詰まっている、ということだ。
くだらない会話で、ふざけている。おどけている。押し隠している。
思わせぶりなようでいて、言葉の端を捕らえて遊んでいるだけだ。
会話を途切れさせないためだけに私たちは必死で諧謔的であろうとする。いや違う、やっぱり隠している?
自分の思考すらも、噛み合っているようでちっとも噛み合わない。ましてや私たち2人の思考なんて──

「何なら箱を開けてみる?」

こなたがしれっと言い放った台詞に、思考のタスクは中断された。私はその意味を理解しようと、数秒を費やし、そして、理解を放棄した。
観測するだけで干渉されてしまう、私たちはそんな、不安定に揺れ動く感情を抱えている。
だから、あるいはそれが正解なのかもしれない。

「「いたっ」」

がちっ、という音がして、声がハモる。
ちょっと慌てていた。勢いをつけすぎた。
歯がぶつかってしまって、私とこなたは大変痛い思いをすることとなった。

「……ごめん」

謝ると、こなたの方が真っ赤な顔でニヤニヤしている。照れ隠し。素直じゃなくて、素直じゃなさまで素直じゃなくて、そこが可愛いと思う。

「おーかがみん、がっつくねぇ?やっぱり三月──」
「うるさい」

過剰な言葉は遮りながら、私はこなたに触れる。
刻みつけられた孤独と痛みを覆い尽くすため、私たちは触れ合う。
それは逃げだけど、私たちは、間違ってない。向き合うなんて、できっこない。
そんなものにまともに向き合って、傷だらけになるのはごめんだ。

「そういえば、ウサギ族にもトリックスターはいるんだっけ」

ぽつん、と誰に向けられるでもなく放り出された、こなたの言葉。閉じきった独り言なのは、ニュアンスで分かった。
こなたが視線を噛み合わせてくる。こんどは、私に向かって『独り言を』言った。

「どっちなんだろうね、かがみは。それとも黒ウサギなのかな?」
「黒ウサギ……」

私も『独り言を』呟き返す。
こなたはしがみつく腕に力を込めて、答えた。

「私は運命に追いつかれてしまった、ってことだよ、かがみ」

真顔でそんなことを言っておいて、こんなのどうせ全部、ゲームの受け売りだけどね、とこなたは舌を出す。
何からの引用であろうと変わらない。けど、その言葉は、深く静かに私の心へ刺さった。

──運命に追いつかれる。

綺麗で重い言葉だった。
それはいったいなんていうエロゲーの話なんだろう?
気になって仕方ないけれど、聞きそびれたまま手は滞りなく動いてゆく。
こなたのTシャツを捲り上げながら、私は諦めて溜め息をもらした。




「……だいたい猫かと思ってもよく見りゃパンだったりして。しかも一斤」
「あー、もういい。頭痛いわ」













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  • (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-24 02:11:40)
  • ↓こなたはどっかのアニメネタから持って来たにちがいない -- 名無しさん (2011-04-30 23:42:30)
  • まさかこんなところでシュレーディンガーの猫が来るとは…!
    高校では波動学やらない筈じゃ… -- 名無しさん (2008-01-21 00:35:37)

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