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君に届け

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匿名ユーザー

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『シャボン玉に願いを込めながら吹いて、見えなくなるまで
それが割れなかったら、その願いは叶うんだよ』
うんと小さい頃に教えて貰ったおまじない。
二人の姉のうちのどちらだったか、それとも両親だったのか
誰が教えてくれたのかはもう覚えてないけれど。
今だったら、どんな願いを込めるだろうか?


『君に届け』


「かーがみーんっ!」
「うおっ!?」
廊下で勢いよくこなたが背中に飛び付いてきた。
…まったく、二つの意味で心臓に悪いから止めて欲しい。
いきなりの衝撃に驚いただけじゃない理由で高鳴る胸の鼓動を
悟られないように、まだ背中に張り付いているこなたを引っぺがす。
「で、なんなのよ」
「んー、昨日のテレビで壊れにくいシャボン玉の作り方
っていうのをやっててネ。懐かしくて作ってみたんだけど、
作りすぎちゃって」
もったいないからおすそ分け、とか言いながら
こなたが私の手に小ビンとストローを渡してくる。
「おま…小学生じゃないんだから…」
はあ…とため息を付くけど突き返すような事はしない。
「むう、たまには童心に返ってみるのもいいもんだよー?」
「あんたはたまにじゃないでしょーが」
ぷくっと膨れるこなたの頬をつつきながら、答え返す。
「あ、そろそろ次の授業だから行くね」
これ以上、ぼろを出さない内に離れる事にする。
「ん、じゃねー」

最近の私はやばい。
こなたを好きだって自覚した日から、抑えようとすればするほど
溢れそうになるこの想いを、持て余している。
日に日に気持ちは大きくなっていって、正直そろそろ限界な気がする。
不毛だな、と心の中で自嘲する。
私かこなた、どっちかが男の子だったらこんなに悩む事もないんだろう。
女の子同士だからとか、それ以上に、
今の関係を壊してしまうのが怖かった。
貰った小ビンとストローを握りしめながら
教室へと入っていくこなたを見つめる。

どうしたらいいんだろう?伝える事も、ましてや諦める事もできない。
何十回と繰り返したこの問いに、今日も答えを出す事が出来ず
私もまた、自分の席へと腰をおろした。


「お姉ちゃん、帰ろー?」
放課後、つかさがこなたと一緒に私の教室に入って来た。
「ごめん、今日は用事があるから先に帰ってて?」
一瞬、こなたの眉根が寄せられたような気がするけど、
次の瞬間にはいつもの笑顔になる。…気のせい…かな?
「そっか、じゃ、つかさ帰ろっか」
「うん、じゃあねお姉ちゃん」
手を振りながら、帰る二人を見送ってから
私はまたひとつため息を付く。
気付かれていないだろうか。
自分が限界に近づいている事を知って、私はほんの少しだけ
こなたと顔を合わせるのを減らすようにした。
もちろん、今日も用事なんてない。

(さて、どうやって時間を潰そう…)
用事があると言った手前、あんまり早く帰ると怪しまれるし
かといってこれからどこかに行く気にもならない。
ふと、鞄の中に入れた、あの小ビンの事を思いだした。
「あ…シャボン玉…」
こなたの言うように、童心に返るわけじゃないけど
いい暇つぶしにはなるかもしれない。
(さすがに教室でやるわけにはいかないし…屋上…?)


鞄を持って屋上へと向かう。
普段からそんなに人が来る所ではないし、放課後と言う事もあってか
屋上には、誰も居なかった。
ふわり、と風が頬を撫でる。
柵ぎりぎりの所まで近づいて、鞄から小ビンとストローを
取り出して蓋を開けた。
シャボン玉なんて何年ぶりだろう?
覚えているのは誰かの言葉。
幼かった私とつかさは、何度も吹いては割れていく
シャボン玉に落ち込んでいたっけ…。
おまじないだとか、占いは信じていないけれど
少しだけならいいかもしれない。
ストローの先をビンの中の液体につけて、ふうっと
鮮やかな色彩を放つ空に向かって吹いた。
「好き」とか「一緒にいたい」という気持ちを込めて。
いくつも舞い上がったシャボン玉が、夕焼けにきらきら照らされているのが
泣きたくなるぐらい綺麗だった。
壊れにくいといっても段々と膜が薄くなっていって
一つ、また一つと割れていく。
ふわふわと不安定に浮き沈みを繰り返す姿が、まるで私の心のよう。
だけど、たった一つ残ったシャボン玉が
オレンジ色の空へ、まるで溶けるようにすうっと消えていった。


「え……?」
光の加減かも、と目を凝らしてもう一度見てみるけど目に映るのは
雲一つないオレンジ色の空だけで。
割れたのが消えたように見えただけかもしれない。
それでも、口に出さずにはいられなかった。
「叶うかな……」
「何が?」
「ずっと一緒に居たいって…」
「誰と?」
「それは…ってええ!?」
反射的に質問に答えていたけど、居るはずのない人物の声に
驚いて振り向く。
そこにはさっき帰ったはずの――こなたが居た。
「んな…な、なんでここに…?つかさは!?」
「忘れ物があるっていって先に帰ってもらった。
…で、誰と?」
こなたがいつになく真剣な顔で、一歩づつ近づいて来る。
逃げ道を探すけど、後ろはすぐ柵で、逃げられない事を悟る。
「…最近、私たち…っていうか主に私、を避けてたよね?
…それが、原因?」
「――――――っ!!」
バレてた。上手くやってたつもりなのに。
違う、と言いたいのに言葉が喉の奥で絡まる。
ぱくぱくと、酸欠の金魚みたいに、ただ口を開けたり閉じたり
する事しかできない。
何も言えずにいると、突然こなたが立ち止まった。
手を伸ばせば届く距離なのに、なぜかひどく遠い所に居るような錯覚を覚える。
「…そうだよね。好きな人が居るんなら、そっちの方に
行きたいよね。私たちがいたら邪魔、だよね。
ごめん、これからはもっと気をつかうからさ」
もう一度、ごめん、と言いながら、こなたが
もと来た方へと戻ろうとする。
「ま…待って!」
今、呼び止めなきゃいけないような気がした。
拒絶されたらどうしようとか、そんな考えは
意識の外に追いやって、叫んだ。
「こなた、だからっ!!」
「……何が?」
足を止めて、でもこっちは振り向かずにこなたが答える。
覚悟をきめて言う。
「だからっ!私が好きで、ずっと一緒に居たいのはこなたなのっ!!」
「え………?」
こなたが私を見たけど、私はこなたから
目をそらして、心の中にあった想いを全部吐き出す。


「こなたを避けてたのも、今日用事があるって嘘ついたのも
全部、これ以上こなたと一緒に居たら
抑えられなくなりそうだったから…!」
今の私の顔は夕焼けに負けないぐらい真っ赤に違いない。
暫くの沈黙の後、呟くようにこなたが言う。
「かがみも…?」
……え、『も』って…?

「私もかがみの事、好きだよ。友達として、じゃなくて」
ぽつりぽつりとこなたが話し始める。
「みゆきさんとつかさは気付いてなかったみたいだけど、
かがみの様子がおかしかったから、つかさに協力してもらって
後をつけてみたら、さっきのが聞こえて…」

いきなりの事に頭が上手くまわらない。
こなたも、私を?

「かがみに好きな人が居るなら諦めようと思った。
…やっぱり、世間的には認められないしね」
こなたの顔がびっくりするぐらい近くにあって、
自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえる。
背中に手を回されてぎゅっと抱きしめられ
でも、とこなたが私の胸に顔を押し付けながら続ける。
「かがみも、好きだって言ってくれるなら、
もう離さないから、ね?」
望むところじゃないか。
漸く思考が回復してきて、私もこなたの小さな体を抱きしめ返した。


「かがみん顔真っ赤ー」
「うるさいっ!あんただって赤いじゃないか!」
手を繋いで一緒に帰りながら軽口をたたき合う。

シャボン玉に乗せた願いは無事に届いたみたいだ。
おまじないも、案外バカにできないものなのかもしれない。
そう認識を改めつつ、私はこなたの手を握り直した。













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コメント:
  • GJ! -- 名無しさん (2022-12-30 14:08:59)
  • かがみ×こなたの傑作です! -- チャムチロ (2012-08-29 12:13:22)
  • 顔の筋肉が緩む・・・。
    こういう話がもっと欲しいなww -- taihoo (2008-08-08 20:57:09)
  • 短いのに頬がゆるむ……
    「よかったね^^」って言ってやりたい。 -- 名無しさん (2008-07-15 22:08:30)
  • テラいい話 -- 名無しさん (2008-07-15 21:11:21)
  • イイハナシダナー -- 名無しさん (2007-10-09 15:42:26)

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