「ねぇ、『アンサー』の話、聞いた事ある?」
 そう言ったのは天ノ川中学校2年の宮ノ下さつき。少し赤みの混じった茶色い髪をお下げにしている活発そうな少女だ。
「『アンサー』?何だそれ?」
「知ってます。10台携帯電話を用意して、1台目から2台目、2台目から3台目・・・・・そして10台目から1台目に電話をかけると『アンサー』に繋がるってやつですよね。9人目まではこちらの質問に答えてくれますが、10人目だけは逆に質問されて、答えられなければ液晶から手が出てきて体の一部を取られるそうです」
「・・・レオ君、詳しいね」
 上から青山ハジメ、柿ノ木レオ、今井澪。さつきと同じ学校に通っている。さつきとレオ、ハジメと澪は各同じクラス同士だ。ハジメとレオは保育園時代からの幼馴染で親友、というか悪友だ。ハジメはスポーツ万能なのだが、女子のパンツに興味を示す悪い傾向が有る。レオは「(自称)天ノ川中学校一の心霊研究家」でお化けの話をし始めると止まらないが、メンバーの中では1番の臆病者だ。澪はかなりの小動物好きで、裁縫が得意なのでよく小動物のマスコットを作っている。
「私のクラスでも噂になってますわ。試した人はいないようですけれど」
 そう言ったのはさつき達より1つ年上の恋ヶ窪桃子。絶世の美少女でかなりの天然少女でもある。霊感が強い。
「だよねぇ。何かあやし・・・・・」
「じゃあオレ達で試せばいいじゃん」
「「「「は?」」」」
 ハジメの突拍子もない発言に、4人が声を揃えて言った。
「誰もやってないならオレ達でやろうぜ!全員ケータイ持ってるし、ウソかホントか確かめたいだろ?」
「まぁそれはそうなんだけど・・・・」
「おし決定!!えーとメンバーはさつき、レオ、今井、清原、江藤、高橋、圭太、桃子さん、オレと・・・・鈴原!おし決まり!!」
「鈴原?誰ですかそれ?」
「オレのクラスメイト。こーいうことすげー好きな奴でさ」
「へぇ」
「レオ君!ハジメ、関係ない人まで巻き込まないでよ!」
 さつき以外は誰も反論しなかった。既に決定事項になっているようだ。抵抗はもう無駄だと直感的に感じたさつきはそれ以上口を挟まなかった。
「んじゃ放課後旧校舎の講堂に集合!!」

 放課後、メンバー全員が集まった。もちろん携帯電話は持参している。
「くじ引きで順番を決めようぜ!」
 ハジメが用意してきたくじで順番を決める事になった。全員がくじを一本ずつ掴み、一斉に引いた。全員が思い思いの表情をしている。ハジメがメモ帳を取り出して順番を確かめ始めた。
「1番!」
「はい」
「今井だな。2番!」
「はいっ!」
「さつき・・・と。3番!」
「私です」
「桃子さん・・・・4番はオレで、5番!」
「オレオレ!」
「鈴原だな。6番!」
「はいはーい!」
「清原・・・で、7番!」
「はい」
「圭太だな。8番!」
「はーい!」
「高橋・・・・で、9番!」
「私ー!」
「江藤・・・って事は最後は・・・・」
「レオ君?」
「・・・・はい」
 くじ引きの結果、1番最後はレオに決定した。レオは幼い頃からくじ運が悪く、神社のくじ引きでは必ず「凶」を引いた。もちろん言うまでもなく幼馴染のハジメはその事を知っている。
「・・・・・ハジメ、もしかして僕のくじ運が悪いのを知っててくじ引きにしたのでは・・・・・」
「そ、そんなことは・・・・・」
 明らかにバツの悪そうな顔をした。図星だったようだ。澪が間を取り繕うように言った。
「とりあえず始めようよ。私からだよね」
「ううん。みんな一斉にかけるの。澪ちゃんは私、私は桃子ちゃん、桃子ちゃんはハジメ、ハジメは鈴原君、鈴原君は美園ちゃん、美園ちゃんはともみちゃん、ともみちゃんはあやちゃん、あやちゃんはレオ君、レオ君は澪ちゃん」
「レオ!よかったな!!」
「ななな何がですか!?」(真っ赤)
「ごまかすなよ!」
 ハジメはそこまでは当たり前の大きさの声で言ったが、そこからは小さな声でこっそりレオに耳打ちした。
〔今井のケータイ番号が分かって!〕
〔(ボッ!)〕
「レオ君どうかしたの?」
「なななんでもありませんよ!早く始めましょう!」
 みんなで番号を教えあい、準備を整えた。
「みんな、いい?いくよ!せーの・・・・・」
〔ピッ!〕
 さつきの合図でみんな一斉に発信ボタンを押した。そして数秒後―――
【私は、アンサー】
「!!」
「澪ちゃん?」
「・・・アン、サー・・・・」
「えっ!?」
【質問は?】
 本当に繋がった。アンサーは質問を要求してきた。澪は慌てて質問を考え、口にした。
「あっ・・・えーと・・・あなたは本当に『アンサー』なんですか?」
【私はアンサー】
「あっ、私だ。えーと・・・・『魂』ってなんなの?」
【魂は生命エネルギーの源】
 それから、あやまで順調に回った。そして運命の10人目―――
「し、質問は?」
【・・・お前が本当に”守りたいモノ”は何だ】
「えっ・・・・・」
(守りたいモノ・・・・?何でしょう・・・・・。何を守りたいんでしょう・・・・)
【答えられぬか。ならば】
「!!」
 アンサーが合成音によく似た声でそう言った、次の瞬間―――
ドサッ!!
「レオ君!?」
 レオは倒れた。1番近くにいた澪はすぐに駆け寄った。が―――
「意識が・・・・・無い・・・・」
「えっ・・・・・?」
 その一言で全員が回りに集まってきた。

 一方レオの意識の方は、真っ暗な空間にあった。
「ここ・・・・は・・・・」
【ようこそ】
「!?」
【私の精神世界へようこそ、少年】
「精神・・・世界・・・・・?」
【ここは私の意識、幻想の世界】
「幻想・・・・・」
 どこからか聞こえてくる「アンサー」の声。姿は見えない。アンサーは合成音によく似た声で言った。
【ようこそ、私の幻想の世界へ。ここでなら、どんな願いも叶う。少年の望む世界を見せよう】
 そうしてレオは幻想の世界へ―――


      • ん・・
    • 君・・
『レオ君!!』
「・・・・澪・・・・・さん・・・・?」
『どうしたの?ボーっとして』
「・・・・澪さん、隣のクラスですよね?」
『私はレオ君と同じクラスだよ。さつきちゃん達は隣のクラス』
「・・・・え?」
『それより、今日これから何か用事ある?』
「別にありませんけど・・・・・」
『じゃあ一緒に買い物に行かない?欲しい物があるんだけど』
「い、いいですよ」
 一方そのころ、さつき達は―――

「ど、どうしよう・・・・」
「まさか本当に・・・・」
 全員が動揺していた。まさか本当に「アンサー」が出るとは思っていなかったからだ。これは予想外の出来事だった。
「どうしよう・・・・オレが試そうなんて言ったから・・・・・」
「ハジメのせいじゃない!みんな同意してたし・・・・・私が『アンサー』の話なんてしなければ・・・・」
「誰のせいでもないよ。諦めるのはまだ早い」
「澪ちゃん・・・?」
 それまで黙っていた澪が口を開いた。その瞳は確信に満ちている。
「みんな協力して。レオ君を助けよう」
「でもどうやって・・・・」
「私に任せて」
 澪が思いついた方法とは一体?

 レオはまだ幻想を見せられていた。
【ここにいればいつでも見せてやろう】
「いつでも・・・・」
 アンサーはレオにささやきかけ、取り込もうとしていた。
【全て忘れて、自分の望む世界を手に入れられる】
「望む世界・・・・・」
 レオは本当に取り込まれそうになっていた。その時―――
「レオ君!!」
「・・・澪・・・・さん・・・・・?」
「早く!ここから逃げよう!!」
 突然、澪が現れた。少し後から、さつきとハジメが走ってくるのが見える。訳の分からないレオの隣に立った澪は息を切らしながら言った。
「間にあってよかった・・・・・」
「どうやってここに・・・・?」
「『黄泉ネット』を利用したんだ。それより、逃げるぞ!!門が閉められたら出られなくなる!!」
【待てぇ!!逃がすものかぁ!!】
「うるせぇ!!てめぇの相手してる暇はねぇんだよ!!レオ、時計あるか!?」
「は、はい!!」
「貸せ!」
 ハジメはレオから銀色の懐中時計を受け取り、マジックで文字盤に何かを書き込んでレオに返した。
「・・・これは・・・・!」
「何でもいいから呪文を唱えろ!!」
「えっ!?え~と・・・・『我は迷わない!我は迷わない!』」
【ヤメロォ!!】
「我は迷わない!我は迷わない!我は迷わない!」
【ギャァァ!!】
 時計が光を発すると同時にアンサーの声が消えた。時計に霊眠したのだろう。ハジメがそれを見届けた後、言った。
「よし!行くぞ!!」
「ええ!」
「うん!!」
「行こう!」
 4人は一斉にかけ出し、門をくぐった―――

「・・・・ここは・・・・」
「旧校舎だ!!」
「・・・よかった・・・・・」
「・・・戻ってこれたんですね・・・・・」
 気がつくと、そこは旧校舎の講堂だった。4人は無事戻ってきたのだ。一瞬沈黙した後―――
「あ――――――!!」
 静寂の中、レオの声が響いた。その顔は少し青ざめている。さつきがいぶかしげに問い返した。
「ど、どうしたの?」
「と、時計・・・・・」
「時計?」
「・・・・あの懐中時計は、去年誕生日に澪さんから貰った物なんです・・・・澪さん、ごめんなさい!!」
 アンサーの霊眠に使ったあの懐中時計は、レオが誕生日に澪から貰ったものだったのだ。とっさの事で気にする余裕はなかったが、今更になって後悔した。土下座して謝るレオに、澪は首を横に振りながら言った。
「いいよ別に。みんな無事に戻ってこれたんだから。ところで、さっき何を描いたの?」
「六芒星。前レオが言ってただろ。『円形の物に六芒星を描けば万能の魔法陣になる』って」
「はい。でも、よく覚えてましたね。あの時は嫌そうだったのに」
「耳にタコが出来るほど言われれば覚えるっつーの」
「あはは・・・・・そうだ。レオ君、ハジメ、お願いしたい事があるんだけど、良いかな?」
「何ですか?」
「何だよ」
 さつきはカバンから「お化け日記」と書かれた小さな日記帳を取り出し、レオに渡した。そしてにっこり笑い、レオとハジメに言った。
「今回のアンサーの事、2人が書いてくれないかな」
「ええ!?い、いいんですか!?」
「今回は2人が書くべきだよ。私は何もしていないし、2人の連携で霊眠出来たんだから。お礼と言っちゃ何だけど、書いて欲しいんだ、レオ君に」
「オレはいいのかよ」
「もちろんハジメもだよ。いつも呆れながらしっかり話を聞いてる事も分かったし。ちょっと見直した」
「ちょっとって何だよ。・・・・ま、いっか。レオ、お前書いてくれよ。オレ字ヘタだし、アンサーの事もレオが一番分かってるだろ?」
「ええ、まあ・・・・」
「そうですわ。未知のお化けを自分の知識と思いつきだけで霊眠させたんですからね」
「あ・・・じゃあ・・・・」
「書き終わったら返してね。落ち着いてからでいいから」
「はい」
「よし!んじゃなんか食いに行こうぜ!さつきのおごりで!!」
「何で私がおごらなきゃいけないのよ!!」
 他のメンバーが騒いでいる中、レオと澪は隅で話していた。レオの手にはあの懐中時計が握られている。
「本当にありがとうございます。危険を承知で来てくれて・・・・」
「いいの。私もレオ君を助けたかったから。別の方法もあったかもしれないけど、あれ以外思いつかなかったんだ」
「でも、どうやって来たんですか?ハジメは『「黄泉ネット」を利用したんだ』って言ってましたけど」
 レオの問いに澪は頷いて、自分の携帯電話を見ながら答えた。
「うん。ケータイのインターネットアクセスで黄泉ネットにアクセスしたんだ。手書きで道路の神様のお札を用意したんだけど、3人分しか作れなかったんだ」
「それで3人が・・・・でもすごいですよ。みんなが混乱してる中で考えられるなんて。僕なら絶対無理ですよ。それに、3人が助けに来てくれたとき気付いたんです。”守りたいモノ”に」
「?」
 そしてレオはそれまで俯いていた顔を上げ、はっきりとした声で言った。
「僕が守りたいモノは、僕を見守ってくれる人達です」
「・・・・そう・・・よかった・・・・・」
「え?」
「本当はね、その事に気付いて欲しかったの。レオ君が、アンサーの質問に答えられずに気を失った時・・・・」
「・・・・・」
 レオはしばらく閉口したが、突然思い出したように言った。
「・・・・動かないんです」
「え?」
「懐中時計の事です。『アンサー』を霊眠させたときから・・・・」
 レオの言葉に、澪は少し考えてから答えた。
「六芒星が劣化するか時計が動き出したとき、アンサーは霊眠から覚めるんじゃないかな。その時計が止まっている限り、アンサーの『時』は止まったままだと思う」
「・・・そうですね。そろそろ帰りませんか?」
「うん。・・・・・あ、ちょっと待ってて」
 澪は立ち上がった。が、何かに気付きハジメ達のところへ行った。そしてさらりと、言ってはいけない事を言ってしまった。
「ん?今井どうした?」
「青山君、数学のノート早く返してね。期末テストの勉強に使いたいから」
「あ、ああ・・・・・」
 ハジメはバツの悪そうな顔で返事をした。次の瞬間、さつきの低い声が背後から聞こえてきた。
「ハ~ジ~メ~」
「な、なん・・・・・」
「あれだけ人に迷惑かけるな言っておいたのに、どういう事よ~!!」
「ま、待ってくれ!!これには深い訳が・・・・」
「問答無用!!」
「レオ君、帰ろっか(ごめんね、青山君・・・・)」
「は、はい(ハジメ、自業自得です・・・・)」
 さつきのハイキックがクリティカルにヒットしてハジメは気絶した。そしてレオと澪はそれを何のコメントも出来ずにそのまま帰って行った。

 レオは帰宅後、親に小1時間ほど叱られた後お化け日記を書いた。
「6月14日 今日『アンサー』を霊眠させた。アンサーは10台の携帯電話があれば呼び出せるが、危険を伴うため絶対に呼び出してはいけない。
霊眠方法は時計の文字盤に六芒星を描き、『我は迷わない』と5回唱える」

お終い


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最終更新:2007年04月11日 12:15