提督×龍鳳1-444避「君がいるから」

一目惚れした龍鳳ちゃんと結婚して暖かい家庭を築いて幸せになりたい、そんな想いも込めました
でも色々詰め込みすぎてグダグダになっちゃったかも……
注意としては
  • 龍鳳の過去に独自設定あり
  • イベントでコラボした蒼き鋼のアルペジオに関する話題も多少あり
  • 文章がクドかったり、割と趣味に走った所もあり
  • というか長い。エロくないのにとにかく長い
といった所です。
NGは「君がいるから」で

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「提督、今日のお昼もとろろ飯と納豆ごはんにうな重を少々ずつ、おかずににんにくを少々入れたカキフライです。さぁ、召し上がれ」
「これはいつもながらヘビーだな…ご飯は量が二口三口ずつとはいえな…」
「大丈夫です。デザートに料理漫画を見て試してみた反跳甲魚湯(バウンドスッポンスープ)があります」

少女はまだあどけなさの残る顔に自信満々に笑みを浮かべながら言った。
彼女の名は龍鳳。かつて日本に存在した空母龍鳳の力を扱える少女である。
かつては大鯨という潜水母艦の力を持っていた。
いや、今でも料理の上手さという形で持っているというか、それともそれは天性のものなのか。
とにかく彼女は料理がとても上手だった。いや、料理だけではなく掃除洗濯などありとあらゆる家事に精通していた。

パクパク…モグモグ……
「ふう……やっぱり龍鳳の作る料理は美味しいな。いつもありがとう」
「ありがとうございます」
「今日は特にいい天気だし、こうやって屋上でランチというのも中々いいな」
「でしょう。誘ってよかったぁ…………でも、静かですね」
「そりゃあ、ほとんどの艦娘が今この鎮守府にいないからな。
 単に外食に行ったとかそんなんだけじゃなくて、みんな世界中に散らばっているからな」

今艦娘達が鎮守府にいないのは時間の関係だけではない。
たしかに先程まで鎮守府にいた艦娘達は揃って外食に出かけていった。だがそれ以外の艦娘は世界中に散らばっていったのだ。
というのも少し前から深海棲艦による攻撃が大人しくなっていたのだ。
ちなみに数多くの提督や司令官達も予備役にまわったが、俺は上層部の要請により、正式に提督として任命された。
正式な提督となったことで仕事も増えたが、無職になるよりはどう考えてもマシだろう。
それに龍鳳が秘書艦として、いや俺専属の世話役としてついてくれた為に苦しい仕事も頑張れる。

「でも、今でも少しですけれど深海棲艦の脅威はあるのでしょう?いくらここが安全になったからってその内いつか…」
「ああ。だからみんな今の内に世界各国に協力を仰ぎに行ったんだ。新たなる戦いに備えてな。
 他の国では艦娘という存在は確認されていない。
艦娘と深海棲艦との戦いが始まって一年近く経った頃にようやくドイツで三つの艦娘が確認されたくらいだ」
「今まで艦娘は日本が拠点でしたからね。世界各国の深海棲艦に対抗するために新たなる艦娘の存在は欠かせませんね」
「確かにな。だが今いる艦娘達も今のままではこれから激しくなるであろう戦いについていけるかわからない」
「戦艦レ級という存在がありますからね。だから兵器の新開発や強化も行われているのでしょう」
「ああ。けどな…脅威はそれだけじゃない。深海棲艦より遥かに強い霧の艦……はたして今の俺達でもまともに戦えるかどうか……」
「霧の…艦…………?」
「え…………ああ、そうか。龍鳳はあの時はまだここにいなかったんだな……」
「提督……私がいなかった時のこと、詳しく聞かせてもらえないでしょうか……霧の艦についても興味があります」
「……霧の艦はその強さでほとんどの者達が口にもしたくない程の恐怖を植え付けた。
 君に聞かせていたずらに怯えさせてしまわないかどうか……」
「大丈夫です。だから聞かせてください」

【霧の艦】……それは龍鳳が大鯨としてここにくる半年前、世間がクリスマスムードに包まれていた中、突如現れた。
彼女達は艦娘と同じく、旧日本海軍の艦船の力を持った存在
(厳密には日本近海で主に大きな戦いがあった為に旧日本海軍の艦船しか明確に確認されず、
ドイツやイギリスなどではその国の艦船が現れるとの情報が未確認情報ではあるが存在する)である。
だが、生身の人間が科学的・霊的な力を込められた装備を扱う艦娘とは違い、
彼女達はかつての大戦で使われていた艦が何かしらの超科学的な力をもってパワーアップして現代に蘇った存在である。
彼女達、と先程から言っているが、霧の艦は原則的に重巡洋艦以上にメンタルモデルという、女性の姿を模した意識体が存在する。
何故女性の姿なのかというと、人類が艦船関係の公的な表記を残す場合、全て女性系の定冠詞を使用するからだとか。
おそらく我々が旧日本海軍の力を持った兵器を扱えるのが女性しかいないのもきっとそういった理由なのかもしれない。
とにかくそんな超科学的な存在は一般的な軍隊はもとより艦娘の手にすら余る存在であった。
もし霧の艦の協力者達の【蒼き鋼】や、霧の艦隊からの離反者がいなければ恐らく勝てなかっただろう。
霧の艦は攻撃力も高いが、それ以上に、彼女達の厄介さは耐久力にある。調査によると
『クラインフィールドは外部から加えられたエネルギーを別の次元に溜める。
 ミサイルにせよ砲撃にせよ最終的にエネルギー、つまり熱になるので、
 それを超科学的な手段で別の次元に逃している』
との発表があった。
エネルギーの許容量は一定らしいので攻撃を続ければいずれはダメージを与えられるようになるらしいが、正直そこまでダメージを与えるのは至難である。
実際俺以外の提督達は世界中の軍隊の協力もあってクラインフィールドをなんとか撃ち破り霧の艦を破壊したりもしたが、
そこに至るまでに多くの犠牲と消耗もあった。しかも撃破したのはせいぜい量産された軽巡洋艦くらいであり、
それも潜水部隊を囮にし、超重力砲という強力な兵器を使わせず潜水艦に攻撃を集中させたからであり、
重巡洋艦以上の存在は潜水艦には目もくれず(というよりもおそらく攻撃ができず)主力の海上艦隊を超重力砲で破壊し尽くした。
一方、俺達は蒼き鋼にナノマテリアルという物質で武器にちょっとした改造を施してもらえた為、艦娘達が霧の艦にどうにかダメージを与えられるようになったが、
彼女達がいなくなった今、ナノマテリアルも研究用に僅かに残されているだけである。
幸い霧の艦隊は蒼き鋼がいなくなると同時に現れなくなった。
年末年始の二週間という期間だけで、しかも旅客機が通らない一定の海域に深海棲艦と共に現れた為、世間にはあまり知られなかったみたいだ。
しかし霧の艦がまたいつか再び現れるかもしれないし、その時に蒼き鋼達が再び共に戦ってくれるのかわからない。
その上、俺達が撃退したコンゴウも別に総大将というわけではなく、もっと上の存在もいるらしい。
更に恐ろしいことに俺達が戦ってきた霧の艦も本来の性能ではなかったと聞いた。
だから俺達は霧の艦や、本来の敵である深海棲艦との戦いに備え、比較的平和な今こそ、開発と研究を進めていた。

「………私がここに来るまでにそんな壮絶な戦いがあったのですね……」
「ああ……資材だって底を尽きかけた程の激しい戦いだった。あの時は本当にギリギリだった。
 協力してくれた霧の艦の伊401のイオナや重巡洋艦タカオ、高速戦艦ハルナ達に激戦の最中傷付いた体を治してやれなくて、
 治せたのも戦いが終わってからだったことをすまなかったと思っている。
 彼女達がいたからこそブルネイ勤務だった、当時就任一ヶ月の新米提督の俺が霧の艦隊を撃退し、
捕われていた伊401―コードネーム【しおい】―を救出することができて、
 その時の采配ぶりとしおいを助け出した功績が認められて日本に帰って来れてその後正式に提督に任命されたわけだ。
 繰り返すが彼女達には本当に感謝してもしきれないよ……
 ……っと、すまない。つい俺だけが長々と話してしまって…」
「いえ、いいんです。提督は私の知らないことをいつもたくさん教えてくれますし、提督の苦労や過去も少しは知れて嬉しいです」

赤い瞳を爛々と輝かせる龍鳳。過去か……そういえば俺は龍鳳の過去はほとんど知らないな。
他の艦娘達の過去も詳しくは知らないながらも漠然とは知っているのに、
龍鳳とは最近ずっと一緒なのに彼女の過去を知らない。まあ無理に詮索する理由もないけどさ。

「それにしてもそんなに恐ろしい敵がいたなんて……私ももっと強くならなきゃ……
 今のままじゃ、低速の私が文字通りみんなの足を引っ張ってしまいます……」

空母龍鳳は様々なトラブルによって本来想定されていた速度を出せなかった。それが艦娘龍鳳にも再現されている。
だが艦娘は実際の艦船とは違い、本来計画されていたものの実際は行われなかった強化プランが実行された例もある。
重雷装巡洋艦となった木曽、航空戦艦となった扶桑・山城という例がある。
だから龍鳳も改二が来れば本来想定されていた速度を持った高速艦になると信じたい。
このままでは書類上瑞鳳型として分類された瑞鳳、祥鳳、千歳、千代田とは違って一人だけ低速なままで可哀相な気もするからだ。
だが千歳と千代田が史実通り水上機母艦から始まった千歳型の高速艦船であり
瑞鳳と祥鳳が最初から祥鳳型の高速な空母だったことを考えたら
わざわざ大鯨型・龍鳳型と分けられた彼女が高速空母となることもなさそうかもしれない……

カツ…カツ……

「ん……もう全部食べきってしまったか……知らない内に食べてしまったんだな。
 まあそれだけ自然に箸が進むくらい龍鳳の手料理は美味しいってわけだ。
 もし将来結婚したらきっとその家族はきっと幸せだろうな」
「あ……ありがとう、ございます…………」

顔を紅く染めて照れる龍鳳。これがまたとってもかわいいんだよな。龍鳳のこんな顔が見たいから俺は頑張れるんだ。
まあそんなこんなで楽しくランチタイムを終えた俺達は、午後の仕事に取り掛かりはじめた。

「ふぅ~、今日も一日頑張ったなぁ~」

一仕事終えた俺は誰に言うでもなくそんなことを口にしながら風呂場に向かった。
仕事の疲れは風呂に入って落とすに限る。俺は脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入った。

「提督…お背中流しましょうか?」
「いや、別に…………!?」

自然に流しそうになったが、浴室では龍鳳がスタンバっていた。その顔は少し赤かった。
完全に無防備だった俺は前を全く隠していなかった。すぐに隠したがまず間違いなく見られていただろう。
別に見られるくらいなら構わない。小さくて包茎ではあるがそんなことはあまり気にしていない。
だが嫁入り前の無垢な少女に見せていいものではない。

「なんでいるんだよ…」
「提督がお疲れのようですので、私がお背中を流したりして、スッキリさせてあげようと思って…」

胸を強調するような姿でスッキリとか言われたら邪なことを考えてしまう。俺は理性を振り絞ってお断りをした。

「そんな…提督の役に立ちたいと思って…」
「龍鳳だって秘書艦としての仕事の他に家事等もたくさんあって疲れているはずだ。俺のことは気にしないでいいさ」
「……心配をかけてごめんなさい……では…………」

よかれと思って準備して待っていたであろう龍鳳は少し悲しそうな顔をして浴室から出ていった。
龍鳳は低速の艦娘であるが、彼女が低速なのはあくまでも戦いの中での話であり、
日常での彼女はむしろ細やかな気遣いが出来ていて、むしろ速いくらいである。
あまりにも行動が細やかな為に必要以上に疲れさせてしまわないか心配になったりもしている。
俺は龍鳳に頼りすぎないよう、自分で出来ることは自分でやるということを改めて心掛けた。

俺は珍しく長風呂をした。無精髭を剃ったり、鼻毛を切ったり、鼻パックしたり、歯を磨いたり、全身をボディソープで洗ったり……
色々とやっている内に日付が変わっていた。いくら風呂に入った時間が遅かったとはいえこれはマズい。
明日も仕事がある為、早く寝ようと俺は寝室に向かった。
その途中、艦娘候補生の大淀に会った。彼女は色々なお知らせをしてくれる存在である。

「あ…提督……これを…」
「これは……」

大淀が息も絶え絶えに俺に一枚の紙を見せた。

《明後日鎮守府解体につき全員退去を願う。身寄りのない者は住宅用意》

「すいません…急に決まった事なので……」
「確かに文字が殴り書きに近いな」
「これ書いたの昨日ですからね…もう少し詳しく言いますけど、この鎮守府を解体する理由は新たなる戦いに備えて更に頑強な鎮守府を建設する為です。
 それと、近隣の住人達が避難できるようなシェルターも兼ねる予定です。
 あと、防衛強化の為にここに新築する予定の鎮守府と同じ機能を持った建物を日本各地に建設……」

昨日書いたということは解体開始は明日…………急いで荷物を纏めなきゃ!
俺は大淀の話を最後まで聞かず、急いでこのことを伝えに龍鳳の寝室に走った。
寝室には龍鳳の姿はなかった。トイレか何かかなと一瞬思ったが、先程の風呂場での行動を考えたらもしかしたら……そう思った俺は自分の寝室に向かった。
そして寝室では予想通り龍鳳……いや、一人の少女が一糸纏わぬ、正真正銘生まれたままの姿で俺を待っていた。
艦娘は基本的に装備を完全解除はしない。武器はどこかに置いたとしても着ているものを脱ぐことはほとんどない。
防具となる服は、武器とは違い特別な力はなさそうな感じではある。
だが武器と同じく、これもかつての艦船の力が秘められたものである。
力だけではなく、それに乗っていた乗組員達の想いも宿っている。
命に代えても、守るべきものを守ろうとした者達の熱い血潮と想いが宿った聖なる衣……
彼女達が纏いし衣はただの衣などではない。艦娘がその聖なる衣を脱ぐ、それは艦娘ではなく、一人の少女となることを意味していた。

「その格好は…」
「背水の陣です。どうしてもあなたに振り向いてもらいたいのです。
 あなたに振り向いてもらうには、こうして限界まで己をさらけ出す覚悟を…
 いえ、限界を超えてさらけ出すしかなかったんです!
 今この時を…逃すわけにはいかないのです!」

彼女の悲壮な決意が、鈍感な俺にも伝わってくる。
今この時……ということは彼女もあの話を誰かから聞いたのだろうか。

「どうして…どうして俺なんかに……」
「私は……心から、あなたのことが大好きなんです!」
「…………」
「私は……私は物心がついた時から親がいなくて、舞鶴鎮守府の中将に見出だされてここへ連れられて来る前はあまり幸せではありませんでした。
 別に、日々の食べるものに困っていたとか、そういうわけじゃありません。むしろ衣食住は恵まれているといえるほどでした。
 ただ…私を引き取ってくれたお屋敷……そこで私は家事を一手に任され、いつも自分の時間なんて持てませんでした。
 仕事は苦しくはなかったし、他の事をやらされる事もありませんでした……
 でも、誰も私が仕事をすることを当たり前の事だと思い、
 必要としてくれてはいても感謝してくれる人は誰もいませんでした。
 誰にも感謝されず、ただ機械のように家事をするだけでしかなかった私の心は少しずつ閉ざされていきました。
 ある時、お屋敷を訪れた中将に料理の腕を認められて、ここに来るに至ったわけです」

彼女が鎮守府に来るほんの少し前、それまでこの鎮守府の台所を一手に引き受けていた鳳翔が産休を取った。
その時は戦力的な痛手は少なかったものの、食事の質の低下にあえぐことになるのは火を見るより明らかだった。
そして鳳翔の穴埋めとして彼女が中将に連れられてこの鎮守府にやって来た。

『不束者ですが、よろしくお願い致します』

その言葉と共に笑顔を見せていた彼女に俺は一目惚れをしていた。
垂れ目でおっとりとした雰囲気を醸し出す少女で、割烹着を来たその姿は新妻・幼妻ということばがとてもよく似合う。
だがその笑顔もどこかぎこちないものを感じた。心からのものではない、まるで他者からの悪意の干渉から己を守るかのような感じ……
方向性は違うが、まるで時雨を思い出させるような、どこか儚い笑顔……

「でも…この部隊に来て、私の暗かった心は明るくなれました。
 私が作った料理を、いつもあなたや、艦娘のみんなが楽しみにしてくれて、褒めてくれる……こんなに嬉しいことはありませんでした。
 それに、仕事浸けで女の子らしい趣味さえ持てなかった私に、みんなが色々教えてくれて……
 何も知らなかった私にとって、ここでの生活は毎日新鮮で、とてもとても楽しかったです……」

彼女がこれほどまでに苦労してきたとは驚きだった。ろくな苦労もしてこなくてのうのうと生きてきた自分が情けない。
でも俺も艦隊の司令官となって人の命を背負う重さから責任感が生まれ、しっかり成長出来たと思っている。
今なら彼女を迎え入れることだってできるかもしれない。

「だから…私……あなたとずっと一緒にいたいんです!大切な事を教えてくれた、あなたと……ずっと…………」

覚悟に満ちた彼女の眼差しは天地を揺るがす黄金の龍のようであり、その瞳の色は、天の蠍の心の臓、アンタレスの輝きの如く燃えていた。
好きな女性をここまで思い詰めさせて、本気にさせておいてその気持ちに応えなくて何が男だ!彼女にはもう、つらい思いなんてさせたくない!

「……ありがとな」
「……え……」
「本当は俺の方から伝えるべきだったんだ。君のことが大好きだって……
 最初に出会った時から君に惹かれていた。君と一緒に過ごしている内にもっと君に惹かれていった。
 だけど…本当の気持ちを伝えて、もし関係が壊れてしったらと思ったら…何も言えなかった……
 もし俺がちゃんと気持ちを伝えていれば君にこんなことさせなかったはず……
 だから……今こそ伝えるよ……俺の本当の気持ちを…………
 俺は君とずっと一緒にいたい。君と一緒にいた時間、それはとても楽しかった。
 そして、君がいたからこそ俺は苦しいことだって頑張ってこれたんだ。
 だから…ずっと俺と一緒にいてくれ…………これが俺の…答えだ……」

ふにゅっ

二つの唇が触れ合う。それは恋人同士が交わす深い口づけではなく、
小さな子供がするような唇同士を触れ合わせるだけの幼いキスだった。
だが俺にはそれだけでとてもドキドキした。女の子の唇ってこんなに暖かくて柔らかいんだ……それだけでとても嬉しかった。
永遠にも思えた時間のあと、唇と唇が離れた。

「なんて暖かかったのかしら……」

彼女はそう呟いた。そしてしばらくして、彼女の瞳が涙を流しながらいつものような優しい眼差しに戻る。

「……やっと言ってくれたんですね……あなたの気持ちはちゃんとわかっていました。
 でも、私も女の子ですからこういうことは男の人から言ってほしかったですね」
「すまない……」
「でもそういう怖がりで恥ずかしがり屋で、すごく考えがわかりやすい、
 裏表のない人だったからこそ私もみんなもあなたを慕っていたのかもしれませんね。
 私も最初に会った時は、ちょっと怖そうだって思いましたけど、でも実はとっても感情豊かで面白い人……」

そう言われてもそのような態度はあまり軍人らしくないと思えて素直には喜べないが、
自分達ははみ出し部隊なんだって思った方が気が楽になるだろう。
けじめをつけるところはきちんとけじめをつける事を心掛ければそれでいいはずだ。
艦娘は調査によって素質を持つと判明した女性が徴兵され、力を手に入れた存在だが、生身の人間ということになんら変わりはない。
特に年端も行かぬ少女達にはいくら命を背負う宿命を持たされているからといっても、厳しさが先に出るような態度では精神的に参ってしまうだろう。
俺の艦隊の艦娘達の年齢層を考えれば過度な締め付けは萎縮させてしまうだけだろう。
和気藹々としていた方がむしろいざという時に活躍でき、実際にほとんどの局面で結果を残してきた。
関わった人達の心を溶かせるくらいアットホームで、かつ締め付けないくらいにしっかりとするというのが俺の艦隊の強さなのかもしれない。

「それに……ここも……とっても正直みたいで……」

ふと彼女の視線の先を見ると、俺の股間が膨らんでいた。軍服ではなくパジャマだった為にそれが顕著である。

「とても辛そうです…………だから……私で……」
「い、いいのかいきなり!?」
「背水の陣で来たと言いました。私はあなたと…愛しいあなたと一つになりたいのです……」
「……好きな娘にそこまで想われたんだったらもう断る理由なんてないな。いいよ。俺と一つになろう……いや、なってくれ!」
「…………はい……」

求めて応じられたからではなく、求められた事がよほど嬉しかったのか。彼女は笑顔で涙を零した…………

互いに何も着ないまま向かい合う。

「不束者ですが、よろしくお願い致します」

彼女は三つ指をつきながら、この鎮守府に来て初めて言った言葉を再び言った。だが今言われたその言葉の意味は、その時とは違う意味だ…………

「ああ。それにしても……綺麗だ……」

満月の明かりに照らされた彼女の体は本当に綺麗だった。
豊かで、それでいて乳首も乳輪も品位を貶めない程度な大きさの胸、
くびれて引き締まった腰に大きく形の良い、安産型な尻……
さっきは裸だったという事態に驚いた為に、詳しく見なかったが、改めて冷静になって見てみると本当に綺麗だ。

「そんな……そんなに褒められる程のものなんかじゃ…」
「俺は褒めるときはとことん褒めるタイプだからな」
「もう…いじわるなんですから……」

少し不満がちに、だが本心から不満ではないようなかわいい態度が心に来る。

「あなたのおちんちん……さっき見たときはあんなに小さかったのに……こんなに……」

さっきちゃんと見てたのか。小さかったと言われてもあまり頭に来ない俺だが、
言ったなこのっ、と言わんばかりに彼女の豊かな胸を揉んだ。

「…ふぁああっ……そんな……いきなり……」
「あ…嫌だったか?」
「いえ……少し驚いただけです……続けてください……」
「ああ」

俺は再び揉んだ。彼女の胸はマシュマロのように柔らかく、とても暖かい。
形だってよく、揉んでも少ししたらすぐ元の形に戻る。その胸を揉む度に甘く切ない嬌声が響く。
胸を揉むばかりでもいけないだろう。俺は乳首にお乳を求める赤ちゃんのように吸い付いた。

「ひゃんっ!?あっ!あぁああーーっ!!」

彼女の嬌声が益々大きくなる。俺は構わず吸い続けた。もう片方の、吸われていない左胸も右手で重点的に攻めた。
左手は体中の色んな場所を攻める。
髪の毛――彼女の髪は青系統の色が混じったような、綺麗な黒髪である。
しっとりとした雰囲気でありながら、触ると意外とべたつかず、さらりとしている。髪の臭いもよさそうだが、生憎と俺は今おっぱいに夢中だ。
次に背中――産毛一つなく、まるで上質な絹のようである。尻――軽く叩いてみると、小気味良い音と共にぽよんとする。
二の腕――弓矢を使っているからなのか、意外と筋肉質である。意外と、だから女性的なイメージを損なうほどのものではない。
俺は体を隅々まで愛撫している内にあることに気が付いた。彼女の体には傷一つ無い。
もちろん細かい、一見して目立たない、日常でつくような傷は多少なりともあるが、戦場に出ている身でありながら、戦闘で負ったような傷が一つもない。
小破どころか中破・大破までしたこともあったのに傷一つ無い。
艦娘は肉体は普通の人間と変わらないゆえに、武器防具のように治せるものではない。これは多分きっと…………

――ありがとう、【龍鳳】……今まで彼女を護ってくれて……――

俺は心の中で、かつての英雄達と艦に礼を言った。

「ん………ここばかりじゃなくて………こっちも………」

彼女は視線を自身の下腹部にやり、指をそこに指した。
俺はそこにある小さな穴に試しに小指を入れてみた。入口はきつい。結構濡れている…
…と思ったものの、女性経験0の俺はこれでもまだ不十分じゃないかと思った。
彼女も間違いなく男性経験ないと思われるため、もっと濡らそうと俺はそこに顔をやった。

「きゃあっ!?そんな…口で……」

そこは汚いですよと言わんばかりに止めようとする彼女だが俺は止まらない。
単調にならないような舐め方をしたり、唇をカバーにして彼女のクリトリスを甘噛みしたりと様々に攻める。

「や……やめて……くださ……これ以上……私……」

彼女の絶頂が近いのだろう。俺はラストスパートをかけ、乳首も攻めた。

「あっ、そんな、そんなこ…あぁあーーーーーっ!!!!」

思いっきり絶叫する彼女。同時に俺の顔に液体が勢いよくかかる。
これが……潮吹き……か……?
俺は少ない知識を搾り出して答えを導き出した。だとしたら俺は彼女を絶頂させられた……
大きな鯨みたいに潮吹きさせることができた……?
彼女の方を見てみると放心状態だった。
少し時間が経ち、正気に戻った彼女は……

「……ああっ!?ご、ごめんなさい、こんなはしたないことを……」
「いや、いいんだよ。こうなったってことは君が気持ちよかったって証だと思うからさ…」

俺は彼女を責めなかった。彼女も安心したのか、俺を受け入れようとする。

「あ……あの……わたしの……ここに……あなたの……おちんちん……入れてください……
 私が今までずっと守りつづけてきた処女……あなたのものに……してください……」

恥ずかしそうに、だが振り絞るように俺に懇願する。
俺は無言で頷き、これまでになく固くなったちんちんを彼女の秘部に先端を当てた。
皮はちゃんと剥いてあるし、綺麗に洗ってある。そして俺はゆっくりと貫こうとする。

「ん……くっ……」

だが中々入らない。処女膜が最強の盾となって俺のちんちんの侵入を防いでいた。一旦止める俺。

「これから君に痛い思いをさせてしまうかもしれない」
「わかっています……あなたと一つになる為に大切なことならば、耐えてみせます……」

遠慮しないで、と言うような感じで俺に答えた。ならばもう、躊躇うことはない……
俺は目を閉じて、一点に全ての力を集中させた。そして、目を開き、覚悟を決めた力強い眼差しで、腰を軽く引き、一気に貫いた。

ぶちっ!!!

そんな音と感触がした。俺のちんちんは一気に彼女の膣内へと入っていき、先端に何かが当たると同時に根元まで飲み込まれていった。

「きゃああぁぁぁぁーーーーーーー!!!!あっ……あっ…………!」

まるで真紅の衝撃に貫かれたかのように、今までにないくらいに彼女は叫び声をあげた。
もし防音が完全でなければみんなが叫びを聞いてここへやってきただろう。
結合部を見てみると明らかに色の違う、少しだけドロリとした感じの液体が流れていた。
月明かりだからわかりにくいけど、間違いなくこれは彼女の血……
今まで穢れを知らぬ清らかで無垢な少女であったという証であり、
俺はその最後の時を知る男であるという証であった…………
彼女の膣内は物凄くきつく俺のちんちんを締め付けてきた。
それはまるで百匹の…いや、千匹の龍に絡み付かれているような……
いや、そんなことを考えようとする余裕なんてもうなかった。もう射精は止められそうになかった……

「ごめん…もう…」
「……いいです…中に…思う存分出して…ください……あなたの想い……受け止めさせて、ください」

そういって彼女は脚で俺の腰を締め付けてきた。俺だって我慢はしない。
俺は唇を彼女の唇に押し付け、鈴口を子宮口に押し付けた。

びゅるっ……!

精液がドロリと尿道を駆け抜けた。腰が抜けそうなくらい気持ちがいいだがそれでも鈴口を子宮口から離そうとはしなかった。

びゅるん…びゅるるん…びゅるっ……

彼女の胎内に俺の溜まりに溜まった純白な想いが解き放たれる。

どくんっ…どくん…どくっ……

まだ出てる。今までにないほど出てる。結合部から勢いよく溢れ出しているのがわかるくらい出てる。
はっきりいって尋常じゃないくらいである…………もしかしたら昼食に食べた精のつくものが効いているのか……
色々と考えている内に射精は止まった。俺は射精の余韻に浸っていた。

「…………すっ、すまない!入れてすぐに勝手に出してしまって……
 君が痛がっているのに一人だけ気持ち良くなって、本当にごめん……!」

正気に戻った俺は自分のしたことの重大さに気付き、彼女に詫びた。

「……いいんです……さっきとっても気持ち良くしてもらいましたから…………
 それに……私の処女をあなたにあげられて本当によかった……私のここに…
 あなたの想いと…赤ちゃんの素を受け止めさせてもらえて……本当に……よかった…………」

彼女は痛かったであろうに、それでも健気にいる様に、俺の目から涙が零れた。

「どうしたの……ですか……泣いているなんて……?」
「だってよ……嬉しいんだよ……初めての相手が君で……君の初めての人になれて……
 それでこんなに気持ち良くてさ……ああっ、もう何言ってるんだか……」
「……やっぱりあなたにあげることができて本当によかったです……素直に喜んでくれているのですから……
 ……どうやらあなたのおちんちん、まだ固いみたいですね……いいですよ、動いてください。大丈夫です、少し慣れてきましたから……」

彼女がそう言うならと俺は腰を動かした。
ずちゅっ……ぬちゃっ……
ちんちんを出し入れする度に響く淫らな音。
先程の射精によって胎内に吐き出された精液が膣内から零れようとしているのだろう。それが潤滑油となって互いを滑らかに擦り合わせる。
「一度出したのに、また……」

彼女の締め付けはきつくて暖かくて溶けてしまいそうなくらい気持ちがいい。

「ん……私も……そろそろ…………ふぁああぁぁっ!!」

彼女は絶頂に達したのか、彼女が俺を一段ときつく締め付けた。

ビュルルルルルッ!!

先程とはうって変わって、粘度の低い感触が駆け抜けた。粘度が低い為に勢いが強く、それが先程とはまた違った快感をもたらす。
ちんちんが脈動し、彼女も俺から搾り出さんと律動し、膨らみと締め付けのタイミングが一致した時、その時がとても気持ちよかった。
彼女の胎内は先程吐き出された精液で既に満たされていた為に、今出した精液はほとんどが結合部から溢れ出していた。精が付きすぎである。
射精が一段落すると俺は余韻に浸ることなく腰をまた動かした。彼女もそれに応えるかのように俺を受け入れ続けた。

気が付けばもう空は明るくなっていた。俺達は一晩中愛し合ったのだ。これはちょっとマズイな…という顔をする俺。
どうしたの?と、彼女は疑問を俺に投げかけた。俺は思い出したかのように新鎮守府建築の為に現鎮守府の解体作業が明日から始まるということを告げた。

「そんなことがあるなんて……急ですね」
「え?知らなかったのか?じゃあ背水の陣と言ったのは……」
「……あれはあなたが私以外の人とケッコンカッコカリとかいうことをするんじゃないかって思って……
 私は皆さんとは違ってあまり強くありませんから、私がこれ以上強くなることなんてないと思って……
 だって最近は近海で敵が出てきても私を全然出撃させてくれませんし…力がないから必要とされていないんじゃないかって…」

彼女の言う通り最近彼女を演習以外で戦わせていない。それは彼女が弱いからではなく、傷付けたくないからという思いである。
思えば彼女が初めてここに来た時も艦娘としてではなく、一人の少女としてやってきた。
中将は彼女を戦わせたくなくて、彼女の暗い心を明るくさせる為にここに連れて来たのかもしれない。
鎮守府で生活をしている内に彼女は明るくなっていった。
だが彼女がみんなと打ち解ければ打ち解けるほど、他の艦娘達が傷付いているのに自分だけが安全な所にいることに我慢ができなかったのかもしれない。
ある日彼女は決心した。艦娘になろうとしたのだ。
中将は快く思わなかったものの、彼女に適性のある艦が新しく存在が確認された潜水母艦大鯨と判明した時、
仕方ないと思いながらも艦娘になることを認めた。
しかし、大鯨は史実だと空母へ作り替えられる予定があったにも関わらず、艦娘大鯨は艦娘龍鳳に改造する余地はなかった。
艦娘大鯨の開発には中将も関わっていたらしい。
艦娘大鯨の外観が割烹着を意匠としたものだったのも、龍鳳への改造が不可能なのも、
彼女を激しい戦いの中に送り出したくなかったからなのかもしれない。
彼女より幼い艦娘だってたくさんいる。だがそういった者達はほとんどが深海棲艦によって親兄弟を奪われた、言わば戦災孤児であり、
深海棲艦への復讐心だけが生きていく糧であったが為に、誰も止めることが出来なかった。
しかし彼女は元々深海棲艦とは何の関係もない少女である。だから艦娘にしようと適性検査をさせなかったのだろう。
しかし大鯨はみんなが傷付いて帰ってくることに心を痛めていた。
自分が強くなればみんなを守れる。そう思った大鯨は俺に空母龍鳳に改造してもらえるよう頼んできた。
俺は中将に彼女の思いを伝えた。中々応じない中将に対して俺は勲章を四つ集めることを条件に大鯨を龍鳳に改造できるようにしてくださいと頼んだ。
中将はどうせ無理だろうと思ったのか、やっと了承を出した。
俺は全力で頑張った。勲章を得る為に深海棲艦打倒に力を入れた。
みんなも大鯨の心配する顔を見たくなかったのか、頑張ってくれた。
こうして勲章が四つ集まった。中将は驚きを隠せなかったみたいだが、口約束とはいえ仕方ないと、大鯨を龍鳳に改造する設計図を作成してくれた。
こうして大鯨は龍鳳に改造されたが、速度が他の瑞鳳型とは違い低速という、史実通りとはいえ重大な弱点があった。
龍鳳は更に改造されることにより空母龍鳳の本来の速度を持った高速空母へとなれると信じ戦いつづけた。
しかし改造されて龍鳳改になっても速度が高速になることはなった。
戦力として不安が残ってしまうが、もしかしたらこれも戦いに出したく内が為だったのかもしれない。
俺も一目惚れをした女性である彼女に更に惹かれていく度に戦いに出して傷付けたくないと思うようになった。
だがそれは、彼女の心を傷付けただけなのかもしれない……
……それでも俺は彼女を傷付けさせまいと、強くなくても俺は君の側から離れないと説得をしようとした。

「……でも、あなたと結ばれて、何だかふっ切れちゃいました。
別にケッコンカッコカリくらいだったら広い心で見てもいいかな……って。
 だってケッコンカッコカリと結婚は違うものでしょう」
「そうだな。ケッコンカッコカリはともかく、俺個人として結婚したいと思うのは君一人だけだ」

どうやら彼女は完全に立ち直ったようだ。俺が心配する必要はなかったようだ。

「……っと、いけない!明日から解体作業が始まるんだった。急いで片付けをしないと!」
「では私は朝食の準備をしますね」
「ああ。ただあんまり精のつくものはいらないからな。結構大変になりそうだし……」

俺は布団に目をやった。布団は大量の白濁で汚れ、血も点々としていた。

「はい。では、いつものようにお味噌汁と卵焼き、鮭の切り身で」
「緑茶はとびっきり渋いのを頼むな」

「さぁ、召し上がれ!」

いつも通りの朝のメニュー。何の代わり映えもしないメニューだが、それこそが大切なものかもしれない。
朝食を美味しそうに食べている俺を、彼女ははにかんだ笑顔で見つめていた。
ふと、俺は彼女の左手薬指に何かが光っているのを見た。

「その左手薬指のは……」
「これですか?これは前にあなたから貰った指輪です」

彼女が付けていたのは、エメラルドグリーンのリングにクリスタルが付いていた指輪であった。
とあるアニメで、龍鳳と読みの音が一緒な少年キャラクターが付けていたものをモチーフにしたもの、言わばキャラクターアイテムだった。
キャラクターアイテムみたいなものといっても値段はそれなりだったが。

「今度改めて新しい指輪を…」
「別にいいですよ。私はこの指輪も結構気に入っていますから。それにこれを見ているといつも思い出すんですよ。
 あなたがとても怖がりで恥ずかしがり屋さんでとってもかわいい人だって」
「でも何だか自分の気持ちを隠した感じがして…」
「言葉には出てなくても態度で丸分かりでしたよ。いつものあなたは他の子に名前に絡んだネタとかをやっても、わざわざこういうことはしませんでしたし。
 いつもは他人に自分のお金をあまり使わないあなたが私の為にお金を使うのは、
 私に特別な好意を抱いているからだろうってみんな言ってましたよ」

まあみんなには他の日常生活も含めてほとんどが態度でバレバレっていう自覚はありました。
それが正直と捉えてくれたのはまあ嬉しい話だ。とにかくこれからはあまりケチケチしないようにします。

「……まあ心の中で思うのは勝手だけどあんまり言わないでくれよ。素直なのも場合によっては考え物だろうし……」
「では私のお願いを聞いてもらえますか?」
「何だ?」
「私をあなたの家に連れていってください」
「え…」
「大丈夫です。提督の護衛という名目なら、きっと許してもらえるかもしれませんし」
「でも俺の家って汚いからなあ……片付けだって出来てないだろうし…幻滅されたくないからなあ……」
「では私も掃除を手伝わせてもらいますね」
「あ…ああ…………もし許可が下りたら俺と一緒に来てくれ。父さんと母さんに紹介したい」
「はい」

それから数ヶ月が経った。


「ん…………この子、ちゃんと飲めたみたいですね」

赤ん坊にお乳をあげている彼女の顔は少し緊張があった。

トントン。ゲップ

「よかった……ちゃんと最後までできたみたい……」
「すみません、手間をかけさせてしまって…」
「いえ、いいんです。お困りでしたでしょうからお役に立てて嬉しいです」
「本当にありがとうございます……」

彼女を連れて実家に帰っていた俺は近くの寺へ紅葉のライトアップを見に行っていた。
紅葉とイチョウのコントラストに見とれていた時、子連れの母親が切羽詰まった顔で俺達にミルクありませんかと尋ねてきた。
すると彼女は自身が授乳しようと申し出た。お乳は別に出産しなければ出ないものではない。妊娠中にも出ることはあるらしい。
そう……彼女のおなかの中にはあの時結ばれて実った俺達の愛の結晶が宿っていた。

「ちゃんと飲めて…この子はえらいですね。はい」

彼女は赤ん坊を母親に返そうとした。だが返そうとした途端赤ん坊は泣き出した。
その場にいたみんなは困り果てた。しばらくして彼女は

「はい、いい子ですからねー。わがまま言わないでお母さんの所へ帰りましょうねー」

彼女に優しく諭すように語りかけられた赤ん坊は大人しくなり、母親のもとに戻ってもグズらなかった。

「うふふ、いい子ですねー」

彼女は赤ん坊の頭を撫でて褒めた。赤ん坊は嬉しそうに笑った。

「本当に手間ばかりかけてごめんなさい……それでは…………」

母親は一礼をして去っていった。その一幕を見て俺はある話を思い出した。潜水母艦大鯨は居住性がとても良かったということを。
大鯨の艦娘であった彼女には大鯨のような居心地の良さがあったのだろう。
天性のものなのか、後天的に身についたものなのか。
なんにしろあの赤ん坊も居心地の良さを本能的に受け止めていたのだろう。
俺だって彼女に包み込まれていると気持ちが高ぶりながらもとても安らぐ。

「ふぅ……紅葉のライトアップって綺麗ですね。夜は艦載機が飛ばせないからあまり好きじゃありませんでしたけど…
 でもこの木々や、春の夜桜に夏の花火とか見てたら好きになっちゃいそうです……
 あ、艦載機で思い出しましたけど最近あまり鍛練していませんでしたから腕が落ちているかも……
 このままでは、戦いについていけなくなりそうですし……」

彼女は最近鍛練をしていない。それは身重になったからだけではなく俺の家の家事なども行ってくれていた。

「……俺は何も敵と戦うということだけが戦いとは思わないな」
「はい?」
「戦いってのは、その人それぞれで違うと思うんだ。例えば俺個人としては代々続いてきた家と土地を守り、次の時代へと受け継ぐこと……
 まあ土地の管理とかは提督の仕事があるから中々出来ないけど、提督としていっぱい稼いでいるから他人に任せられるけどね。
 俺は軍人だけど俺自身が深海棲艦と戦えるわけじゃない。けどみんなに指示を出すことによって深海棲艦と戦える。
 今の戦いはこの近くに出来る予定の新鎮守府の食料や、兵器の整備の為の部品の確保の為に協力を仰ぐ……
 早い話が営業みたいなものだ。営業なんて俺には絶対無理だって思っていたけど、
 君達を養っていく為に…と思っていたら自然と頑張れるようになったよ。君がいるから、俺もみんなも頑張れるんだ」

彼女か家に来てから、色々なことが変わった。家には事前に連絡していたとはいえ、それほど片付いていなかった。
それを見た彼女の表情は固まったが、すぐに

『早速掃除用具を買いに参りましょう!大掃除の準備です!』

と俺に無理矢理運転させて掃除用具を買いに行った。

あれほど彼女が怒ったのは俺は見たことがない。だが怒ったといえるのはそれくらいであり、以降は穏やかなままだった。
俺は彼女にストレスを与えまいと頑張り、いつもは言われて嫌々やることが多い母さんも自分から進んで掃除をするようになった。
その為父さんもイライラすることもなくなり、家庭は穏やかになっていった。全ては彼女が来てくれたおかげである。

「私がいるから……あの、褒めてくださってありが……っくしゅん!」
「風邪か!?寒くなってきたから早く帰らないと」
「ええ…早く帰らないと義父様と義母様も心配なされるでしょうし…っきゃあっ!」
「しっかりしろ!」

俺は立とうとしてよろけた彼女を何とか支えた。

「大丈夫か!?」
「ええ。この子も……でも足をくじいたみたいで……ごめんなさい……」

空母龍鳳はかつての戦いを生き延びた。だが無事にというわけではなく、空襲により航行能力を失っていた。
彼女も空母龍鳳のように……そんな不安が一瞬過ぎったが、すぐに思考を切り替えた。

「心配するな。君の足は絶対に守ってみせる。もし守れなくても、その時は俺が足になる!」
「…………本当に……本当にありがとうございます……」

彼女は申し訳なさそうに、だが嬉しそうに涙を浮かべた。

それから更に月日が流れた…………

「ん……これでいいわね……」
「ええ、とても似合っていますよ。はい」
「ありがとう、鳳翔さん」

今日は新しくできた鎮守府で新しい部隊の結成式がある。
でも、メンバーはみんな見知った顔。久々にみんなに会えます。

「それにしてもよく似合ってるわね。まるで武家のお姫様みたい……」
「でも赤ちゃんを背負っているって、あんまり……」

この子は本当は連れてくるつもりはなかったけど……
普段はとてもいい子なのに今日に限って私から離れようとしない。
もしかしたら、きっとお父さんとお母さんの格好良い姿が見たいのかもね。

「何言ってるんですか。母は強し、という感じがしますよ」

艦娘龍鳳となった私は、とても凛々しいってあの人に言われたことがあります。
可憐さの中に凛々しさがある……潜水母艦大鯨も初々しい幼妻や新妻みたいでかわいいって言われたこともありました。

「あ……龍鳳……久しぶり……」
「時雨……久しぶりですね……」
「この子が龍鳳と提督の愛の結晶なんだね……この子も僕が守るよ」
「時雨……沈まないでくださいね。あなたが沈んだら、みんな悲しみます」
「あっ、龍鳳、この子が龍鳳の子供なんだね。かわいいねえ」
「ふふっ、そうね。それにこっちもかわいい子かもね……」

時雨との再会、そしてロシアから戻ってきた皐月と如月。本当に久しぶりです。
如月がこっちって言ったけど、実は私のおなかの中には二人目がいるのです。
初めての子供を産んでしばらく経ったあと、私達は求め合うことができなかった分求め合いました。
その結果、また新しい命を授かったのです。

「それにしてもここに新しい鎮守府を建てるなんてね。いくら提督の故郷に近いからって……」
「テートクの故郷とか、そこは関係ありまセーン!」
「ここは中京工業地帯に近い場所ですからね。産業を守るためには当然のことでしょう」
「なんでもいいんじゃないですか。提督と龍鳳がいるところが、私達の鎮守府なのですから」

台湾から戻ってきた愛宕、金剛、高雄、榛名。相変わらずね。

「龍鳳さんがいてくれて嬉しいのです。みんな龍鳳さんのお料理がまた食べられることを楽しみにしていたのですから」
「そうよ。でも龍鳳さん、一人で無理しちゃダメよ。私達に頼っていいんだからね」

雷電姉妹と呼ばれる少女達が私の姿を見て喜ぶ。

『戦いってのは、人それぞれで違うと思う』

……あなたの言葉の意味、今こそ身を以て悟りました……
みんなが帰ってくる所を守ること、帰ってきたみんなが安らげる場所を守ること……
それは艦娘の命を守ること。これが私にとっての闘いだと……

「【龍鳳】……私に……力を……!!」

たとえ血が流れ、肉体は消えても、その想いは残る。
そしてその想いの力はとても強く、尊く、そして、永遠である――――
あの人はそういうことを信じるような純粋な人。だけど、今なら私もそれを信じられる。
私は誰にも聞こえないような小さな声で【龍鳳】に祈った。

「おっ、龍鳳。それにみんなも」
「あ、あな……提督!」
「提督!!」

龍鳳や、集まったみんなが一斉に叫ぶ。

「深海棲艦もパワーアップして攻めてきたみたいだけど、こっちだってパワーアップしたんだからネ!」
「それは頼もしいな。おっと、そろそろ時間だな」
「それじゃ、先に行くね」

艦娘達は俺と龍鳳を残して走っていった。

「また賑やかな日々が始まりますね」
「ああ。深海棲艦は強くなった。だけど俺達も強くなった。負けるはずなんてないさ」
「そうね……私達もそろそろ行きましょう」
「ああ」

正直言って、これからの戦いは激しいものだろう。
だが俺は負ける気なんてしない。今までずっと女神が傍らにいてくれたからだ。
彼女がいたからこそ、今までどんな苦難も頑張って超えることができた。
だからこれからもどんな困難だって乗り越えていけるだろう。そう…………

「君がいるから――――」

―完―


これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

最終更新:2015年08月22日 14:13