非エロ:提督×鳥海16-632「暗く冷たきもの、明るく暖かきもの」

632 名前:もの、もの[sage] 投稿日:2015/04/05(日) 22:39:25 ID:u/1p/F1Y
今日は重巡洋艦鳥海の進水日なので非エロですが投下します
今回は割とファンタジー風な要素も多く、
今までとは多少毛色が違うSSになっていると思いますので
合わないと思った人はスルーしてください




633 名前:暗く冷たきもの、明るく暖かきもの[sage] 投稿日:2015/04/05(日) 22:40:28 ID:u/1p/F1Y





「桜が綺麗……あなたの家の桜の木ってこんなに綺麗な花を咲かせるのですね」

4月5日、私は夫の実家に子供と一緒に行きました。
夫は提督(私は公の場では司令官と呼んでいます)で、艦娘という存在を束ねる存在の一人です。
艦娘は日本、ひいては世界を深海棲艦の魔の手から護る存在です。
そして私も艦娘で、ソロモン海で大活躍した重巡洋艦鳥海の力を発現できるのです。
艦娘も提督も人々を護る使命があるとはいえ、いくらなんでも年中無休は辛過ぎます。
だから夫は父親の誕生日を祝いたいという理由で休暇を取ったとのことです。
実はその日は重巡洋艦鳥海の進水日でもあり、その艦娘である私自身の誕生日でもありました。
私のことを一番に考えていないような気もしましたけど、
血の繋がった肉親が大事という気持ちもわかります。
でも私の誕生日なのに一緒にいてくれないのも淋しいので、
出産後の色々な検査を切り上げて無理矢理に近い形で退院し、一緒に夫の実家に行きました。

「この二本の桜の木のうち、道路側に植えられた木は俺が保育園に行くときに植えられた木なんだ。
 俺が初めて家から出て、しばらくの時間違うところで過ごすからな。
 それで家の方の桜は幼稚園に入る時に植えられたんだ。
 俺の記憶では道路側の桜を幼稚園の時に植えたと思い込んでいたけどね」
「では小学校に入った時には?」
「道路の近くにメイプルの木を二本植えたみたいだ。二本ないと実が成らないらしいからな。
 なんかトラックの運転手だかが間違って引き抜いていったのか、
 詳しい事は知らないけど一本になってしまったけどね。
 それでも実が成る事がたまにあるのは動物達が色々やってくれるからっぽいけどな。
 他にも栗、柿、夏蜜柑、梅、柚子、金柑……沢山の木々があるんだ」
「こんなに素晴らしい自然があなたを育てたのですね」
「素晴らしい…って、今言ったのは食べ物が成る木だぞ」
「あ……」

うっかりしてました。これでは私は食いしん坊だと思われちゃいそうです。



「ほ、ほら、この大きな桜の木、こんなに大きくて綺麗な花を咲かせて」

私はすぐさま話題を変えました。

「……そうだな。桜の木はこんなに大きくなった。けど俺はどうなんだろう……」
「え……」
「俺がは大きくなったのは体だけなんじゃないかって思ってさ。
 俺の家は結構長い歴史があるけど、
 俺はその重さに耐えられるかどうか…と思う時があるんだ……」

まさかこの話題にしたのは失敗だったのでしょうか……


「そんなことはありませんよ。あなたは提督であるのですから十分立派ですよ」
「そうだよな…」
「それに鎮守府のみんなにとってあなたの存在は十分に大きいですし」
「……そうか……」
「……大器晩成……大きな器は早々出来るものではありません。
 じっくりと長い時間をかけてこそ作ることが出来るものなのです。
 だから焦らず、ゆっくりと、でも少しずつ、確実に…………
 大丈夫です。私もみんなも、ちゃんとそばにいますから」
「……ありがとな……」

落ち込みかけていましたけど立ち直ったみたいでよかったです。
この人は時々考え過ぎる所がありますからちゃんと見ていてあげないと。

「それにしてもとってもあったかいですね。子供もぐっすりと眠っていますし。
 太陽の光は眩しいですし、豊かな自然は心を落ち着かせてくれますし。
 海も気持ちいいですけどやっぱり地上が一番ですね」
「…………言い忘れていたことがあった……」

あの人は突然神妙な顔付きで言いました。



「なんですか?」
「最近深海棲艦が島々を破壊しているんだ」
「え…………」

突然の言葉にこちらの言葉が出ません。

「今までは海を行く艦船ばかりが標的だったけど、今は陸地を浸蝕しているんだ」
「そんな……」
「完全になくなってしまった島もあるらしい。
 日本は艦娘のおかげで今の所何とか被害は免れているけど、
 もしもっと強い深海棲艦が出て来たら、果して立ち向かえるのかどうか……」
「……海の底……とても暗く、冷たい……光なき世界……悲しい……寂しい…………」

あの人の言葉が遠くに聞こえるような感覚。
代わりに私に感じられる暗く冷たい海の感覚……
まるで、自分の体とは違う、別の体で感じているような……

「おい、大丈夫か?」
「…え…………あ、ごめんなさい……」
「…まさか『鳥海』の記憶が君に……」

あの人の強い言葉が私を現実に呼び戻しました。
海の底の感覚は私身が体験したものではなく、重巡洋艦鳥海のものなのでしょう。
艦の記憶が私の頭に直接入り込み、五感に感じさせてくる……
艦娘はかつて存在した艦船やその乗組員の力だけでなく記憶も大なり小なり受け継ぎます。
練度の高まった艦娘ほどより多くのものが受け継がれます。
それはまるで人間と艦船・乗組員の境目がなくなり、同化してしまうかのようで……
私が妊娠していた時にも今程ではないにしてもそのような感覚が感じられた事があります。
はっきり言って艦娘の力を発現できる状態にあるという事は
胎教に悪いと言わざるを得ないでしょう。
幸いにも艤装が近くになければそのような事は起こりませんでした。
では何故今このようなことになったかというと、
恐らく私が今『鳥海』の艤装を首飾りにして身につけているからでしょう。
正確には首飾りに鳥海の艤装を収納していると言うべきでしょう。
艤装は日常生活で持ち運ぶにはかなり面倒ですし、
かといってどこかに置いていたら緊急時に対応出来ません。
なのでそういった問題を解決する為に明石さん達を筆頭にした開発チームが
艤装の収縮化、あるいは艤装を収縮収納できるシステムの開発に乗り出し、
それをつい最近完成させたのです。



「収縮システムじゃやはりフラッシュバックを防げないか……
 フラッシュバックを防ぐには
 直接手の届かない位置に置いておけるように転送システムを開発するしかないのか……」
「明石さん達には苦労をかけてしまいますね」
「それが彼女達の戦いだ」
「では私の戦いは何なのでしょうか……」
「君の戦い……艦娘としてならみんなが戦いに勝って無事に帰ってくる作戦を立てる事かな」
「艦娘として……でもでも、艦娘なら戦場こそが戦いの場です」
「確かにな。重巡洋艦鳥海は優れた作戦を立てた一方で
 最前線でバリバリ戦った武闘派という一面もある。
 君がそんな『鳥海』の……兵器としての戦闘欲ともいえるものに取り付かれても不思議じゃない。
 だけど俺は君を失いたくない。提督としても、一人の男としても。
 今の鳥海は限界まで強化されていてこれ以上の強化は今は不可能だ。
 敵も強くなってきている以上これからますます激しくなる戦いに君を出撃させ続けられるか……
 それに…………」

彼は抱えていた子供に目をやりました。
そう、私がいなくなったら彼だけではなくこの子も……
でも、私が艦娘鳥海に選ばれた以上『鳥海』のように武勲をあげなきゃ……
でももし私が沈んでしまったらあの子もあの人も悲しんで、
結果的に多くのみんなを苦しめてしまう……
だけど改装された重巡洋艦高雄と愛宕、対空強化された重巡洋艦摩耶とは違い
重巡洋艦鳥海は史実では改装されなかった。
それに準えるかのように最近摩耶は強化されましたけど
私はまだ強くなる糸口が見えません。
これが鳥海の運命なら仕方ないのかもしれません。
でもでも、私は……力が欲しい……もっと強くなりたい…………ッ!
首飾りを見ながら私は桜の木に願いました。
願ったって強くなれるはずなんてないのに……
そう思っていたら首飾りに桜の花びらがひとひら落ちました。
その瞬間、首飾りがふわりと淡い光を放ちました。



「ッ!」
「!?」

そして一瞬の光が晴れた瞬間、首飾りの形は今までの形から変わっていました。まるでこれは……

「重巡洋艦高雄・愛宕の改装後……みたいな形だ……」
「桜の花びらが落ちたと思ったら…………ねえ、試してみていい?」
「ここでは目立って周りに迷惑がかかる。鎮守府に戻ってからだ」
「はい」

強くなれるかもしれない。私の目の前に光が溢れているようでした。


「重巡洋艦、鳥海…抜錨!!」

鎮守府に戻った私は首飾りを掲げ、叫び声と共に強く念じました。
すると首飾りから光が飛び出して光の粒となり、
その光の粒が上空で艦船の姿を形作っていって……

「あれは重巡洋艦高雄……いえ、重巡洋艦鳥海なの!?」
「重巡洋艦鳥海は改装されなかったはずだぞ」
「でも重巡洋艦高雄・愛宕とも少し違い、重巡洋艦摩耶とも少し違う……」

光が形作った新生鳥海のイメージに『姉』達も驚きを隠せなかったようです。
そしてその新生鳥海のイメージが再び光となって私の体に装着されていき……

「凄いわ!まるで変身ヒロインのパワーアップした姿みたい!」
「重巡洋艦、高雄型四番艦……鳥海!!」

そっちの趣味のある夕張さんについ私もノッて反応しちゃいました。
完全装着してポーズをとりながら名乗りをあげるなんて本当に変身ヒロインみたい。



「ぱんぱかばーん!鳥海ちゃんのパワーアップだよ!」
「意匠は摩耶のそれに通じる所があるわね」
「やったな鳥海!」
「ますます強く、美しく…ねっ!」
「しかし何ですか、桜の花びら…桜の木の力でパワーアップって……」
「そりゃあ艦娘のシステムは艦の記憶云々とかのように純粋な科学だけではなく、
 科学では説明しきれない不思議な力も使われている。特に空母はそれが顕著だ。
 だったら自然の力でのパワーアップもありえない話ではないはずだ。
 鳥海以外が同じようにパワーアップできるってわけじゃないと思うが」
「……もしかしたら怒りや悲しみでパワーアップする艦娘もいつか出て来そうですね……」
「司令官さん、何はともあれ鳥海がパワーアップできたのはあなたのおかげです。
 これからは夜戦などでお返し出来れば…」
「子供が生まれて一段落してまた夜戦するのもいいけど、ちゃんと計画的にね」
「計画的に………………如月ちゃん!」

如月ちゃんの意図は間違いなくあっちの意味でしょう。
っていうか如月ちゃんの目測は少し間違っています。
『また』夜戦をするわけじゃありません。
そっちの夜戦は去年の誕生日プレゼント的に
あの人と関係を持つために仕掛けたものの未遂に終わりました。
というかそもそも私自身そっちの夜戦経験自体なく今に至ります。
だったら何で子供がいるのかって?そういうことだってあるんです!

「冗談は置いておいて」
「冗談だったらやめてくださいよ!」
「いくら強くなったからって過信は禁物よ。
 強いってことはそれだけ慢心する可能性もありますから」

先程とは打って変わった真剣な表情で心配してくれる如月ちゃん。
その言葉には自分は力なき睦月型ゆえに無茶を避け、
生き残る為に全力を出してきたという意図が見え隠れしています。




「司令官も鳥海さんに無理させちゃダメよ。
 周りが何か言ってきたって気にしちゃダメよ」
「わかっているさ。彼女は俺達にとって大切な存在だ。
 彼女がいるから守り続けたい明日があるから」
「司令官……そういうことは鳥海さんと二人きりでの夜戦の時にでも言って……」

如月ちゃんの恥ずかしがる顔が純情さを見せていて
女ながらなんだか可愛いと思っちゃいます。

「そ、そうだな……でもみんなだって同じようなことは考えたことあるはずだ。
 『誰かの為に明日を守り続ける』……
 みんなそんな気持ちで戦っているって俺は信じている。
 そしてその気持ちが守りたい誰かが歩き出す為のロザリオになるということも……」

司令官さんは好きな歌の歌詞とかからの引用を好む節があります。
でもそれは伝えたいことを端的に述べているだけなのでしょう。
人の想いを信じるあの人らしい考え方…でも決して間違っていないと思います。
あの人が戦う理由……それは愛する者と光溢れる暖かい世界で一年後も二年後も……
いえ、ずっと桜の花を見たり、自然を感じたり、色々な事をして笑っていたい。
それは私も同じです。だから私は歩き続けます。
たとえどんな暗闇の中でも心沈むことなく、光溢れる世界が守り続けられると信じて……

―終―











642 名前:もの、もの[sage] 投稿日:2015/04/05(日) 22:54:55 ID:u/1p/F1Y
以上です
今回も独自設定が多くなってしまった気がします
ちなみに独自設定の数々は他の作品でも流用している部分がたくさんあったりします

艦娘が深海棲艦と戦っている理由は艦娘がどういう存在かによっても変わるでしょうけど
人間設定の場合単に深海棲艦と戦える力があるからという理由だけで戦ってるわけじゃないと思っています
提督だって守りたいものがあるからこそ戦い続けているのでしょう

ちなみに今日は一日中雨でしたから外で桜を眺めてる余裕なんてありませんでした
俺も大切な人とお花見をしたり花火を見たり秋の味覚を楽しんだりとか色々したいです……


641 名前:名無しの紳士提督[sage] 投稿日:2015/04/05(日) 22:52:18 ID:Cf7lUL8w
GJです。投下途中に割り込んでしまい、誠に申し訳ない。


643 名前:名無しの紳士提督[sage] 投稿日:2015/04/06(月) 01:13:58 ID:VD/bSEdo

最近鳥海さんにライトが当たって嬉しい
俺設定はもっとやれ!




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最終更新:2015年10月06日 23:24