非エロ:長門2-645


その眼光、その威圧、その佇まい、まさに圧倒的存在。彼女は堂々と歩いていた。彼女を待っている一人の男とその後ろにいる女たちに向かって。
「私が戦艦長門だ、よろしく頼むぞ」
凛とした声だ。誰の耳にも届き、鼓膜を歓喜に――――――または敵側だったら恐怖に――――――震わせる声だ。
「敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」
彼女、長門は目の前にいる者達の仲間となったのだ。男は右手を差し出した。
「君を待っていたよ。君の力が必要なんだ。長門」
長門は不敵に笑った。それこそ長門が求めていた言葉だったからだ。
長門も右手を伸ばし、男の手を強く握り締めた。
戦艦長門の、戦争が今始まる。


世界中の海域に突如謎の組織が現れた。組織という言葉も適切ではないかもしれないが、とにかく何かが現れたのだ。漁に出た船は沈められ、海が荒れ、おどろおどろしい雲が立ち込め、恐ろしい怪物が人々を脅かしていた。人間たちはその何かを深海棲艦と名付けた。人間たちには深海棲艦と太刀打ちできる力を持っていなかった。普通の人間の場合に限るが。
普通の人間に限らない場合がある。その深海棲艦に対抗できる唯一の組織は、特別な人間たちのグループだった。それは戦時中に活躍した誇り高き日本の艦船の意思を受け継ぐ女性・艦娘と、その艦娘の力を引き出せる能力を持つ提督だ。世界を繋ぐ海に蔓延る深海棲艦に世界各国の艦娘と提督は力を合わせて拮抗し、被害を抑えている。これは昔に起きた人間と人間の戦争ではない。人間と怪物の、お互いの生存をかけた戦争なのだ!
そして戦艦長門の歴史を己自身のものとして受け入れている女性は、この戦乱の中で興奮と期待に心が震えていた。思う存分に戦えるという喜びと、前世の自分の悔いをこの戦いを通して昇華できると思ったからだ。長門は目の前にいる男の目を見据える。顔立ちは穏やかであったが、目には力強さを感じた。数々の戦況を乗り越えてきた目だ。この男の下なら自分は充分に、いやそれ以上に戦える。長門はそう確信した。
「さて、君を正式に我々の仲間として歓迎する前にやってもらいたいことが一つある」
手を離した時に提督が厳かに言った。
「何だ?入隊試験のようなものか?何でも構わないが…… もちろん全力でいかせてもらうぞ」
長門は自分の拳と拳を合わせた。鉄の篭手がぶつかり合って高い音が鳴った。
「いや、試験とかそういったものではない。なぁに簡単なものだ。そう気負わなくてもいい」
「盃でも交わすのか?それも悪くはないな」
提督は頭を横に振った。
「お酒を飲む訳でもない。ただ、パンツを私に渡せばいい」
「あぁ、なんだそういうこと……… ……… ……… ………」
長門の顔が強張った。
「……すまない、よく聞こえなかったのだが今何と言った?」
「長門のパンツを私に渡して欲しい」
「……… ……… て、手ぶらで申し訳ないが私はパンは持っていないんだ……作り方も分からない…」
「パンじゃないよ、パンツだよ、パンツ。下着だ。股間に穿くものだ」
長門はまじまじと提督の顔を凝視した。男の顔は至極普通であり、そこに下品な嫌いは感じない。後ろにいる艦娘たちを見渡しても、戸惑った様子のものは誰一人としていなかった。すると提督の隣にいた金髪碧眼の青い隊服の者がクスクス笑った。
「提督~ダメですよ、長門が困ってるじゃない~」
あぁよかったと、提督を咎める声を聞いて長門は安心した。
「他の子がいる前だとさすがに恥ずかしいわよ~慣れてないんだから」
「あぁ、そうだな!長門がようやく来たから興奮して配慮が足りなかったな…愛宕ありがとう」
「いえいえ~」
「ちょおおおおおおおおおおおおおおおっと待った!!!!!!!!!」
穏やかに会話をする愛宕と提督を大きな声が邪魔をした。
「いや!!!なにが!!そういう問題ではないだろう!!どういう!!ことだ!!いやおかしいだろ!!下着を渡せなど何を考えているんだこの破廉恥が!!」
怒気により顔を真っ赤にさせ長門は怒鳴った。愛宕はまぁまぁとのほほんとした笑顔で長門の肩を叩く。
「通過儀礼だから大丈夫よ~」
「何が!大丈夫!!!なんだ!!!」
「あとここでは私たち艦娘のパンツは提督が手洗いすることになってるの。よろしくね~」
「はああああああああああああああ?!?!そんなこと許せるか!!」
パンツを脱ぐだけでも許しがたいのにパンツを洗濯するだと!?しかも手洗いで?!提督が?!何故!どうして!冗談にも程があるぞ!
「落ち着いてよ姉さん」
艦娘の集まりの中から見覚えのある姿が出てきた。妹の陸奥だ。
「陸奥!!どういうことなんだこれは!冗談なんだろ?!私をからかうための遊びか?!」
「もぉ~遊びは火遊びだけでお腹一杯よ~ からかってなんかいないわ。提督が私たちのパンツを洗ってるのよ」
陸奥は当たり前のように言いのけた。
「私も最初はビックリしたけど、慣れたらどうってことはないわ」
「…!乙女が!それでいいのか!いいか男が女の下着を洗うなど……そんな不純な行為を許してもいいのか?!その下着でこの男が……」
「し、司令官さんを悪く言うのはやめるのです!」
陸奥の後ろから小さな少女が出てきた。
「司令官さんはそんな人じゃないのです…司令官さんはとても優しくて…電たちのことをちゃんと考えてくれて…大事にしてくれるのです。そんなことは言わないでください」
自身を電と名乗る少女は、体と声を震わせながら長門に抗議をした。恐らく長門が怖いのだろう。それでも提督を擁護する為に長門の前に勇気を持って立っていることが伝わった。その健気な姿が良心にチクリと刺さる。長門は改めて艦娘たちを見渡した。みんな提督を心配しているように見え、そこには提督への反発や怒り、侮蔑などは一切感じなかった。そして提督は長門の批難にも関わらず凛とした佇まいだったが、その表情にはどこか寂しさと傷心を滲ませていた。
完全に長門の立場が悪かった。
「わ……悪かった。そ、その…初対面でそういうことを言われるとは思っておらず…つ、つい興奮してしまった。お前たちがそこまでこの提督を慕っているのなら、そう悪いやつではないんだろう……陸奥もあぁ言っているし…… うん、うん……」
電の顔が明るくなった。
「ほ、本当にそう思ってくれます?」
「あぁ………うん、多分」
「ならパンツを脱いでくれますか?」
「断る」
はわわっと電はまた泣きそうな顔になった。長門は居た堪れなくなって陸奥に助けを求める。
「大丈夫よ姉さん。恥ずかしいのは最初だけ」
ダメだった。長門は絶望した。
「と…とにかく私は脱がない!脱がぬぞ!」
「それなら解体か改修の素材コース、どちらがいいかしら~?」
「そんなの……!  はぁ?!解体?!素材?!」
愛宕の発言に長門は面食らった。愛宕はニコニコしながら死刑宣告をする。
「ごめんなさいね~それが入隊の決まりなの。出来ない子は解体か素材にしてさよならしちゃうわ~」
「!?正気か?!私は長門だぞ?!レアリティが高くボスドロ限定かつ建造成功例も低確率な私を?!使いもせずに解体か素材?!!?」
「うーん、でも今じゃあ姉さんより鶴姉妹の方がレア度が高いんじゃないかしら」
「三隈さんや鈴谷さん、熊野さんもなのです」
「えぇいうるさい!!」
長門の怒号に愛宕は我関せずというようにただ笑っていた。
「で、どうします~?解体と素材?」
「それは……」
「あ、私あとちょっとで対空がMAXになるの。解体よりも私の素材になって欲しいわ」
「む、陸奥…!お前…!自分の姉に向かってそんな…!!」
唯一の味方だと思っていた妹の陸奥の言葉に長門の鋼鉄の心は溶けそうだった。
「で、どうするのよ姉さん」
周りの視線が長門に突き刺さる。長門はここから消えてしまいたい気分だった。先ほどまで高揚していたあの気持ちは何処へ行ってしまったのだろう。やっと戦えると思ったのに、まさかの展開に心が挫けそうであった。戦艦長門としてのプライドを取るか、捨てるか。二つに一つ。しかし、長門にはまだ小さな希望が残っていた。

「………一つ言っておくが、私はパンツではない。フンドシだ」

そう、長門はフンドシだった。しかも白フンだ。現代社会の女性が好んで着けるような下着をつけてはいない。このことを公言することは避けたかったが、それが長門の最後の希望だった。これで提督が諦めてくれれば自分はその通過儀礼をせずとも――――――

「なんだ、そんなことか。問題ないぞ長門。フンドシでも」

ダメだったー!長門はガックリと頭を垂らした。
「私なんて穿いてなかったのに、提督がドン引きするくらい何度も土下座してきたから穿くようになったの~うふふ」
愛宕がのほほんと言った。
「姉さん、提督はただ下着を洗うのが趣味なだけでそれ以外は……そういうことは欲求して来ないわ。パンツも丁寧に洗ってくれるし、新品みたいな状態で返してくれるの。確かに最初は恥ずかしいけど、慣れたらどうってことないわ。みんなやってるし」
陸奥は長門の手を掴んで上目遣いで見つめる。
「私だって姉さんと一緒に戦いたいわ…でもどうしてもダメだっていうなら、せめて私の素材になって欲しい。でも素材になるよりもまた一緒に戦ったり、ご飯食べたり、お話したりしたいわ……ダメ?」
陸奥のおねだりする目に長門はたじろいだ。長門も勿論、陸奥とまた共に戦うことを望んでいる。今まで会えなかった間の話も聞きたい。陸奥の後ろから電も長門を見上げていた。
「…………… 分かった。脱ぐ、脱げばいいんだろ……」
長門はすべてを諦めた。ヤッター!と周りから歓声が聞こえた。
「じゃあ姉さんの部屋に案内するわ。ここじゃあ脱ぎ難いでしょ?」
「……いらん」
えっと陸奥がキョトンとした声を漏らした時には既に長門の両手はフンドシにかかっており、――――――そして一瞬で解かれた。
きゃぁ!と可愛らしい悲鳴が一部で沸き起こったが、長門は堂々と、少し頬を赤らめながら白いフンドシを提督に差し出した。
「私にここまでさせたんだ。貴様の手腕に賭けよう……私の期待を裏切るなよ」
提督は力強い目で頷いた。
「あぁ…任せてくれ。改めて歓迎する、長門」
そして提督は白フンを握り締めた。


~~~

「……渡したのはいいが予備がない……」
「姉さん、とりあえず私のパンツを穿いておく?普通のだけど」
「…借りても大丈夫か…」
「姉さんだからいいわよ。それじゃあ下着を買いにいきましょ?お金も頂いたし」
「…あの男は本当に全員の下着を洗っているのか?」
「えぇ、ちゃんと手洗いでやってるわ」
「……ここに何人の艦娘がいるんだ?」
「うーん、確か120人くらいかしら?」
「……それを手洗いで……」
「しかもどれが誰のか分かるのよ」
「全部!?」
「一部は名前を書いている子もいるけど、私は書いてないからね~ 特徴的な下着の子もいるけど大体は似たり寄ったりでしょ?それでも間違えないのよ」
「……ある意味すごいな…」
「あと直接提督に下着を渡してね。誰かに預かってもらって一緒に渡しても受け取ってくれないから」
「………」
「戦闘の指揮も優秀だから安心してね」
「……あぁ、うん……うん……」

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数日後。

(おや、あれは確か…)
「司令はん、これお願い」
「ありがとう黒潮」
(……ん!?あれは…スパッツじゃないか…!?)

「おい、えっと……黒潮?」
「あ、長門はんどないしたん?」
「今提督にスパッツを渡していなかったか…?」
「せやで~あ、スパッツ着用しとる子はみーんなパンツじゃなくてスパッツ提出なんや」
「…ほ、ほぅ………そういえば潜水艦たちはどうしているんだ?水着なのか?」
「あぁ~あの子らはパンツやで~」
「え?!み、水着を着ているのにか…?!」
「中にパンツ穿いてるんやって」
「………」
「あ、でも長良はんはブルマやった気ぃする~」
(……ここに残ることを選んで良かったのだろうか……)

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最終更新:2013年10月17日 19:18