提督×鳥海「ここにいる理由」18-381

380 :名無しの紳士提督:2015/12/25(金) 22:17:00 ID:F.hV5l7U

どうも、いつも鳥海のSSを書いている者です
今日はクリスマスなので二つ投下します
一つ目は別世界観での鳥海の話です
今まで投稿した鳥海のお話とは内容が違います
独自設定も満載です
NGは『ここにいる理由』でお願いします


381 :ここにいる理由:2015/12/25(金) 22:17:39 ID:F.hV5l7U

12月25日はクリスマスである。
家族で過ごす日という認識もあるが、
日本では恋人同士で過ごす日という認識が強い。
ほとんどの独身者はクリスマスを一人で過ごしているだろう。
まあよくて友達や同僚と過ごすか。
俺はというと部下と二人きりで過ごしていた。
いや、そういう言い方は少し違うかもしれない。
俺達は深海棲艦との戦いの後始末をしていた。
数年前の8月15日、深海棲艦という謎の存在が突如現れ、世界を恐怖に陥れた。
それを完全に討ち滅ぼしたのはクリスマスから17日前の12月8日の事である。
それは74年前、日本が世界を巻き込んで一度破滅へと向かいはじめた日であった。
そして今、破滅へと向かっていた世界を日本が救った日でもあった。

「……さん……司令官さん……」
「ん…」
「起きましたか、司令官さん?」
「あぁ………はっ!?」
「大丈夫ですか司令官さん」
「すまない、寝てしまったよ」

鳥海という秘書的な存在の声に俺は目を覚ました。
眼鏡をかけた彼女は秘書というイメージがぴったりだろう。
服装が全然秘書っぽくない事は忘れよう。

「仕方ありませんよ。ずっとお仕事していたんですから。
 最近もあまり寝てないのでしょう?」
「夜遅くまでやっていたからな」
「司令官さん…いつもお疲れ様です…」
「ありがとな鳥海」

戦いの後始末に追われていた俺を鳥海が労ってくれた。

「ふぅ…………ったく…もう終わるだろうと思っていたのに、
 まさかミスがあったなんてな……
 もう鳥海一人で十分と判断したのはミス判明前だけど、
 慢心せずに他のみんなにも手伝ってもらえばよかったかもしれん」
「ごめんなさい、私の力が及ばず……」
「君のせいじゃないさ。それよりも仕事の続きを…」
「大丈夫です、もう終わってました」
「終わってた……ああ、私の分は終わらせて気が抜けて寝てしまったか。
 本当は君の手伝いをするべきだったのに…すまない…」
「気にしないでください、司令官さんはお疲れだったんでしょう?
 私が司令官さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから……」
「本当にありがとう、鳥海……まあ仕事が完全に終わっても寝るしかなかっただろう。
 そもそもクリスマスに仕事があろうがなかろうが俺にはほぼ関係なかったし」


そう。独り身の俺にはクリスマスなんて関係ない。
寂しいかもしれないけど、殊更ひがむ気もない。

「あの……司令官さんはもし今日仕事が早く終わっていたらどうしていましたか?」
「どうしていたかな……深海棲艦との戦いに全力を尽くしていたから恋人なんていないし……
 むしろ仕事があって君が手伝ってくれたのが皮肉にも異性と過ごせたという事に繋がったな」
「異性と……」
「あ……」

しまった。つい口が滑ってしまった……

「鳥海、その…それは……」
「……あの………司令官さん。もし仕事がミスがなく終わったら……
 これからの時間も一緒にいてよろしいでしょうか?」
「え……?」

女性からクリスマスを一緒に過ごそうと言われたのは
30年近く生きてきて初めての事だった。
恋人同士という関係にあったわけではなかったのだが、
俺には恋人なんていないし、鳥海にも恋人はいない(はず)。

「……ああ、いいぞ」
「ありがとうございます」

俺は鳥海の誘いを受け入れ、その返事を聞いた鳥海の顔は嬉しそうだった。
その鳥海の顔を見た俺は遠い過去に抱いたある想いを心の中に蘇らせていた…………


「なあ鳥海、お前、どういうつもりだ……」
「どういうつもりって……夜戦、ですよ」

あの後仕事は何のミスもなく完全に終わった。
俺は鳥海を自分の部屋に誘ってみて、了承したので連れて行った。
そして一緒にケーキを食べたりして過ごしていたが、
鳥海がベッドに腰掛けて服をはだけさせながら、
少し恥ずかしそうに俺を誘うような行動をしてきた。

「クリスマスに男女が二人きりでいてすることといえば、こういうことじゃないのですか?」
「確かにそうかもしれないけど……でも…」
「私はかつて司令官さんに命を救われました。だから夜戦で少しでもお返しできれば……」
「助けられたって…だけど君は深海棲艦との戦いで俺の期待に応えてくれたじゃないか」
「そうですけど…でも、あの時司令官さんを不安にさせちゃいましたから……
 大破しながらも出撃しようとした私を『俺はもう大切な人を失いたくない』
 って言って引き止めようとしてくれていましたから」
「あ…ああ……」

確かにあの時の俺は大切に想っていた人を何もしなかった為に『また』失う事を恐れていた。

「だから司令官さんも私のことが好きなんだなって思ったんです。司令官さん、そうでしょ?」
「ああ………確かに俺は君の事が好きだ………」
「よかった……」

鳥海の表情は安堵の表情だった。少し暗さも感じたが……

「だったらしましょうよ。しない理由なんてないでしょう」
「だけど…」
「もしかして自信がないのですか?」
「自信がない…確かにそうかもしれない。君を苦しめてしまわないかって思ってしまってな。
 俺は女性とそういった事なんてした事ないからわからなくて……」
「司令官さん、経験なかったのですか!?」

鳥海が凄く驚いた表情をしながら声をあげる。

「ないさ。意外に思うかもしれないけどな」
「本当に意外です。司令官さんは結構スケベなところがありましたし」

俺が割とスケベな事は大抵の艦娘は知っている事だ。
同僚の若い提督達と猥談していたのを青葉に聞かれていて、
そこから艦娘達にも知れ渡ったからな。
幸いな事に日頃真面目に仕事をしていた為か、
艦娘達からは呆れられる事はあれど幻滅される事はなかった。
特に鳥海がこんな俺を軽蔑しなかった事は素直に嬉しかった。


「確かに経験はないがそれくらいで怖じけづいたりはしないさ。
 それくらいで君とするのを諦めたりはしない」
「じゃあ私としてくれないのは私が人間じゃないからですか……?」

人間じゃない…………
そう、鳥海は人間ではない。艦娘という存在である。
艦娘…………それはかつての世界大戦を戦った軍艦が悠久の時を越えて蘇った存在である。
なぜ人間の女の姿になったのか、それはわからない。
だが、なぜこの時代に蘇ったのか……それは深海棲艦という存在を討ち滅ぼす為と言えるだろう。
深海棲艦は艦娘が現れる少し前に突如現れた存在である。
深海棲艦は艦娘とは違い、人間の姿だけではなく、不気味な化け物の姿をしたものもあった。
その力は恐ろしいものだった。破壊力こそ70年前の兵器レベルであったが、
軍艦とは違い人間とほとんど変わらぬ大きさでそれ程の破壊力を持つ存在は脅威であった。
だが深海棲艦の一番恐ろしいところは我々のあらゆる攻撃が通用しない事だった。
破壊力で勝る近代兵器も精々相手を吹き飛ばしたり足止めをしたりするのが精一杯で、
深海棲艦に傷を付ける事は不可能であった。
そして人類は制海権も制空権も失い、
生まれ育った大地すらも深海棲艦によって破壊されていった。
そんな絶望の中、艦娘は現れた。
彼女達は70年前の艦船の生まれ変わりを自称していた。
人間達も最初は彼女達の事を信じられなかったが、
人類に対して敵意を持つ者はなく、
70年前の戦争を生きた人間達の証言等も彼女達の語った事と同じ部分があった為、
彼女達に対し訝しがれど悪意を持つ者はいなかった。
もっとも、それは深海棲艦を唯一討ち滅ぼせる存在である事が一番の理由かもしれない。
深海棲艦を討ち滅ぼし続ける彼女達を見てそんな事言ってる暇なんてないと思うだろう。
かくして、艦娘と人類の連携によって深海棲艦は完全に滅びた。
だが深海棲艦が滅びた事により艦娘達はその存在理由を失ってしまったかもしれない。
そして深海棲艦と戦う為に現れた艦娘は、
深海棲艦滅亡と共にこの世界から消えるのではないか……
確かな答えこそなかったが、そう考える人間も艦娘もたくさんいたのだった…………

「それも違う………とは言い切れないかもしれない。
 心のどこかでそう思っているかもしれないから。
 けどそれも違う。俺が君の誘いに応えられないのも…
 …俺が君を愛していいのかと不安になってしまうのも…」
「不安?どういう意味ですか?
 別に誰かが誰かを愛することは、
 迷惑さえかけなければいいんじゃないんですか?」
「…………」

口が滑った…かもしれないけど、喋らなかったところで複雑な想いを抱いたまま生きていき、
いずれすれ違いの元になってしまい、悲しい事になるだろう。だから俺は覚悟を決めた。


「……聞いてくれないか……」
「え…………はい……」

鳥海の顔が真剣な顔になった。俺は言葉を続けた。

「俺が君を好きになった理由……
 それは俺が昔好きだった人と君がとても似ているからなのかもしれない……」
「…………」
「……その子は俺が物心ついた時から……好きだった幼馴染の女の子だった…………」

俺は思い出したくない……楽しかったからこそ、今思い出す事が辛い事を思い出しながら続けた。

「ずっと一緒で……それが当たり前だった……
 俺は馬鹿で…あの子に色々としてしまったけど……それでも時間が経てば仲直りしていた……
 俺は…それに甘えていたんだろうな……変わらない日常………
 ある時もちょっとした軽口を言った。
 怒っていたけど、また仲直りできるって思って謝らなかった。
 だけど………それが繋がっていた絆を断ち斬ってしまったんだ。
 卒業式の時も仲直りする事なく喧嘩別れしてしまった。
 住んでる所が一緒だからまたいつか会えるだろうって思っていた。
 でも……二度と会う事はなかった…………」
「…………」

鳥海の顔が少し驚きと悲しみ混じりになった。

「俺は後悔したよ…………どうしてあの時すぐに謝らなかったのか……
 なぜ人の気持ちがわからなかったのか……やりたかった事がたくさんあったし……
 ずっと一緒に生きてきた彼女と…もっと色んな事をしたかった……けど、もう……」

「…………」

鳥海は何とも言えない複雑な表情をしていた。

「…………すまない、こんな事を言って…でも君の姿は本当に初恋の子に似ていて、
 俺が君を好きになったのもそのせいなんじゃないかって思えて、
 君と一緒にいるのは俺が初恋の女の子と出来なかった事を
 君を代わりにして行う自己満足なんじゃないかって……
 だから俺には君を愛する資格なんてないかもしれない……
 君をかつて好きだった人の代わりに愛してるかもしれないって知られたら、
 愛想尽かされるんじゃないか……
 あの戦いが終わってからそう考えてしまうようになったんだ……」
「…………そうやって勝手に思い込んで諦める。それが自己満足なんじゃないんですか……」
「な…」

鳥海の口から出た言葉はあまりにも意外な言葉だった。


「だってあなたの言っていることは、あなた自身のことしか考えてないんじゃないでしょうか。
 自分で勝手に怖がって、私の気持ちとか、全然考えてるようには思えませんから……」
「…………」

そう言われればそうなのかもしれない。俺は何も言い返せなかった。
俺は昔から自分の中でばかり考えてしまい、
相手を自分に都合よいように善く解釈したり悪く解釈したりしていた。
相手の気持ちがわからなかったし、面と向かって聞くのが怖かった。
自分の気持ちを相手に知られて、そのせいで相手との関係が壊れてしまう事を恐れ、
そのせいで相手に誤解されてしまい関係が壊れてしまった事もあった。
その反省のつもりで今は正直に言ったがそのせいで駄目に……
いや、諦めるかよ。鳥海は俺の事を好きだと言ってくれた。
なら、俺が鳥海に諭されて間違いに気付いたと言おう。そう思って…

「……でも私も自分勝手なのかもしれませんね」
「は?」

鳥海に謝ろうとしたら意外な事を言われたのだった。

「艦娘がこの世界に生まれたのは深海棲艦を倒すためかもしれない。
 だから深海棲艦を倒してしまった今、
 役割を失った艦娘はじきに消えてしまうのではないかと思って……
 だから私は司令官さんの大切な人という役割を得てこの世界から消えてしまわないようにした。
 そう、私だって自分の勝手な都合で異性を利用しようとして……
 こんな酷いことしようとした私なんて……」

鳥海は己を責めていた。まるでかつての俺みたいに……
確かに酷いかもしれない。けど俺には一つ気になる事があった。


「鳥海、俺を利用してまでこの世界に残ろうとした理由は何なんだ?」
「理由…ですか……あなたに助けられた恩返しがしたかったからです。
 私は数十年前に艦としての生涯を終え、
 そして長い眠りの後に艦娘としてこの体でこの世界に再び生まれました。
 どうやって、何故艦だった私たちが艦娘という存在として蘇ったのかは私や他の艦娘……
 そして人間たちの誰もわからない。
 だけど私は蘇ってすぐ、何故生まれ変わったのかという疑問を深く抱く時間もなく、
 深海棲艦という存在を見てそれが敵だと本能的に思って戦いました」

鳥海の話を聞けば艦娘は深海棲艦と戦う為にこの世界に蘇ったと考えるのも不思議ではないだろう。

「そう、あの時の君はこの世界に蘇ったばかりって言ってたな。
 なんにせよあの時君が俺を助けてくれなかったら今俺はここにいなかったよ」

俺はかつて海で深海棲艦と直接戦っていた。志願したわけではなく徴兵的な形で戦士にされたのだ。
鍛えた戦士達は深海棲艦との戦いで海に散っていったり、
生き延びても再起不能だったり長い入院生活をするハメになったりしていた。
そんなわけで戦力はどんどん減っていき、戦いの素人さえも戦場に送られていった。
しかし戦える力のある者達ですらまともに戦えないのに、
付け焼き刃で素人同然な人間が戦える道理ではなかった。
技術的な進歩こそあれど深海棲艦撃破という事だけはどうしても不可能だった。
俺も深海棲艦と戦ったが駄目だった。周りの艦が次々と沈んでいく中、
俺の乗っていた艦も被弾してついに死を覚悟した。
だがその時だった。俺の艦を狙っていた深海棲艦が突如吹き飛んだ。
鳥海が砲撃したからだ。それが俺と鳥海の出会いだった。
普通は人が海に浮いていれば驚くだろう。
だが俺には鳥海が女神に見えた。深海棲艦を撃破したというのもある。
彼女によって深海棲艦は撃破された。彼女は俺の乗っていた艦に招かれた。
彼女を間近で見た時俺は一緒驚いた。俺がずっと想いを抱いていた少女と似た雰囲気だったからだ。
髪の長さや胸の大きさこそ違っていたが、
俺が小さかった頃に抱いていた想いと似たような想いが芽生えていた。

「だけど、私が敵を全て倒したと思い込んで確認を怠ったために
 隠れていた敵の私への攻撃からあなたが私をかばって大怪我をして…」
「気にするな。今生きてるからそれでいい。
 それにあの時君をかばわなかったら君も俺もみんな死んでいたさ」


あの時の俺は他人を助けたというよりも半ば死に急いでいたという感じがした。
もちろん死にたいと思ってやったわけではない。
今まで人の役に立てた記憶がなかったから、
死ぬとしてもそれが他人の為になるなら、って感じだった。
実際鳥海を助けた理由も好きだった人に似てたからではなく、
深海棲艦を倒した彼女が無事なら彼女が深海棲艦を倒し、
生き残っていた者達や、世界を助けられるかもしれない、
だから自分が犠牲になる事になっても構わないと思ったからだ。
鳥海を庇って深手を負う事になった俺は、
鳥海が深海棲艦の生き残りを撃破したのを見てそう思って意識を手放した。
まあ幸いにも命に別状はなかったらしく俺は何とか生き延びた。
しばらく安静にしていれば動けはする状態だったからまた戦場に送られるのだろうと思っていたが、
俺達が鳥海と出会った前後に各地で他の艦娘と邂逅したとの報告が多数あり、
その艦娘達が集まって艦隊を結成し、人間ではなく艦娘が戦いの主役になった。
艦娘の運用は人間達の艦隊の運用とは勝手が違う為、
指揮経験を持った者と素人との差がほとんどない状況だった。
俺は他の者達と共に艦娘の指揮方法を模索しつつ猛勉強した。
結果、俺は艦娘を指揮する『提督』になった。
そして俺は艦娘や世界中の人々の命を預かる者の一人として深海棲艦と戦ったのだった。

「だからさ、あの時は互いに助け合っていた形だから、俺だけが君を助けたなんて…」
「……深海棲艦との最後の戦いの日、私は命を落としかけました」
「え?ああ……」

いきなりの言葉に俺は思わず驚いた。


「あの深海棲艦が鎮守府を攻めようと迫っていた日、
 私は傷付き疲れ果てていて、艤装もほとんど破壊されていました。
 それでも……傷付いた艦娘達の中では私が唯一戦える力を持っていました。
 だから無傷だった他の艦娘達と共に深海棲艦を迎えうったのです。
 司令官さんの引き止めも無視して……」
「そうだ。君が傷付いた体で出撃して、もし何かがあったらと思ったらつい……」
「そして私は奮戦したもののあと一歩というところで沈んでしまった……」
「あの時は本当にもう終わりだと思ったよ……」
「私もそう思いました。
 でも…………薄れゆく意識の中、私の脳裏に様々なものが浮かんできたのです。
 司令官さんの姿……それも司令官さんの小さかった頃の姿が。
 そして司令官さんがたくさんの人達と楽しく遊んでいた思い出が……
 その中で一際大きく鮮やかに輝いていた、私に似た少女の笑顔……………………」
「…………」
「その時…出撃前に司令官さんから言われた言葉が頭に響きました」
「……確か………『大切な人をもう二度と失いたくない』って、あの時君に言ったんだったな……」
「ええ。その言葉と…私の脳裏に浮かんだ、私に似た少女の姿…その二つが結び付き……
 どんな事情だったのかわからないけど、
 あなたは昔好きだった人と一緒になれなくて、その事が心残りとなっていて、
 もし私まであなたと永遠に別れてしまう事になってしまったら…………
 そう思うととても悲しい気分になり、ある思いが芽生えました。
 この人を支えたい……悲しませたくない………もう独りにしたくない…………」

落ち着きながら喋っていた鳥海だったが、その声に徐々に感情的になっていった。

「そう思っていたら…私の傷付いた身体が癒され、壊れた艤装も蘇りました。
 そして、改二になれなかった私が、ほんのひと時とはいえ改二になれた……
 もしかしたら、あなたへの想いが、きっと奇跡を起こしたのかもしれません」
「……確かにあの時の事は本当に奇跡だったのかもしれないな」
「私も驚きました。あんなことが起こったことに……
 でもあなたへの想いが私を再び蘇らせ、深海棲艦を打ち倒させてくれた。
 そして深海棲艦との戦いを終わらせてくれた……
 そう、あなたが私を…いえ、世界中の人々を救ったんです」

世界中の人々を救ったのはあくまで結果論だ。
鳥海があのまま沈んでいても、他の艦娘が深海棲艦を倒していただろう。
だけど鳥海を救った事……それは間違いなく俺が救ったと言えるのかもしれない。

「だから私は救いたい。私を、世界を救ってくれたあなたの心を……
 あなたの心の中にいる大切な人……その人と出来なかったこと、やり残したこと……
 その未練のすべてを私が受け止め、再び立ち上がらせてあげたい。
 人ならざるものだった私が人の……女性の身体を持ってこの時代に蘇った。
 それも、あなたの心の中にいる大切な人の面影を持つ少女として……
 それが私に与えられたもう一つの運命なのかもしれません」


運命…か。重巡洋艦鳥海の進水日は俺に命を与えてくれた人の一人がこの世に生まれた日…
重巡洋艦鳥海の戦没日は俺に命を与えてくれた人の一人に命を与えてくれた人がこの世を去った日……
偶然かもしれないけど、数々の偶然は重なると運命となるのかもしれない。
理屈になってないかもしれないけど……鳥海は俺の大切な人の全てだと、そう言える気がした。

「深海棲艦を討ち倒す艦娘としての運命、そして……
 あなたの悲しみを癒す者として……だから…………」

俺を見つめる鳥海の瞳はまるで全てを貫く蠍の心臓のアンタレスのように紅く輝いていた。
彼女が俺を想う気持ちは間違いのないものだろう。
たとえ自分が誰かの代わりとしてしか見られなくとも、
抱いた想いを最後まで貫き通すだろう。
そこまで覚悟を決めた彼女を俺が拒むなんてできやしなかった。

「…………ありがとう……鳥海…………そこまで俺を想ってくれて……」
「司令官…さん……」
「君が俺を想っているから消えたくないと思う気持ちと同じくらい
 俺も君に消えてほしくないと思っている。
 俺は君と一緒に生きていきたい、君と幸せになりたい。
 君と一緒にいつまでいられるのかはわからない…
 けど!俺はもう後悔なんてしたくない!何もやり残したくない!だから…」
「ありがとう…好きです……ん!」
「ッ!?」

言葉を紡ごうとしたが言葉で遮られ、紡ぎ直そうとしたら唇を閉じられた。
だがそれは拒絶の意味ではなかった。
目の前に彼女の顔があった。彼女は自らの唇で俺の唇を塞いでいたのだ。
柔らかくて、温かくて、きっと人間のそれと本当に変わらないような…………
俺のドキドキは止まることなくどんどん加速していった。
これからの事に期待するかのように…………


「もう……準備は出来ています…いつでも…いい…です……」
鳥海は俺が少しでも早くできるようにしようとしたのか自分で自分を高めていっていた。
確かに俺には経験がないが…いや、何も言うまい。
俺は鳥海が指で開いた秘部を詳しく見る為に顔を近付けた。

「…おかしく…ない…ですか………」

鳥海は少し震えた声で聞いてきた。
経験のない俺には正しいのかどうかはわからなかったが、
本等で見たものとそれほどの違いは見られなかった。
俺が言うのもあれだが、経験のない処女のそれっぽかった。

「多分……な……」
「そう………」
「鳥海………挿れるぞ…………」
「…………」

鳥海は軽く頷くと眼を閉じ、力を抜いて受け入れようとしている風に見えた。
俺は熱く、硬くなっていたちんちんを手で添えながら
鈴口を鳥海の膣口にキスさせるように当て、入れようとした。
しかし入らなかった。ちんちんの先端は鳥海の大切な場所の入口、
そこを護る清らかなるヴェールに阻まれた。
その瞬間、とてつもない射精感が俺の股間に込み上げてきた。
今までの自慰での経験上それがもはや止められない事はわかっていた。
俺は外で出すわけにはいかないと思いっきり鳥海の膣内に突き入れた。

プチッ!

「くぁっ!?」

全力で突き入れたからなのか、高い音をたてて処女膜が敗れたような音がした。
俺はほぼ一瞬で鳥海に根本まで飲み込まれる形で最奥まで辿り着いた。
膣内の感覚は人生の中で今までに感じた事がないくらい温かくて気持ちのいいものだった。
だがそれを感じでいる暇はなかった。鳥海の膣が更にきつく締め付けてきたのだ。
異物挿入に備えて身体が阻止しようと勝手に反応したのかもしれないが、
俺の突き入れがあまりにも速く、逆に入ってきたものを離すまいとした形になっていた。
もはや射精寸前だったとはいえ、
それによってもたらされた気持ちよさは俺の射精を更に早めたのだった。


びゅるん

それは解き放たれた。
期せずして一ヶ月ほど溜め込んでいたからか、
自分でもかなりの粘度を感じた。

びゅるっ…びゅるっ…びゅるっ…

凄く…気持ち良かった。尿道を駆け抜ける快楽と、
ちんちんが粘膜を押し広げるように膨らむ時に感じる快楽が……

びゅるっ…びゅるっ…びゅるん…

粘膜と粘膜が触れ合っている感触がこれほど気持ちの良いものとは思わなかった。
気持ちいいだろうとは思っていたけど、それは射精の時の律動くらいに思っていた。

びゅるん…びゅるん…びゅる…
まだ出てる……まるで俺がずっと吐き出さずに内に押し止めていた想い、
それを全て吐き出すかのように……
だけど、その想いは鳥海への想いではない。
鳥海に似た、かつて俺の心の中にいた大切な人への想い…
それを鳥海への想いに乗せて解き放っているのかもしれない。

びゅる…びゅる…びゅる…びゅる…

ここまで…ここまで溜め込んでいたのか……それを鳥海は受け止めてくれていてくれる…
それが、本来自分へ向けられなかったかもしれないものだとしても……

びゅる……びゅる………びゅ…………びゅ…………

俺は快楽に酔いしれながらも様々な事を考えていた。

びゅ………………びゅ……………………

やっと射精が終わった。思えば自分だけ気持ち良く………鳥海は!?
ほとんど自分の世界にいた俺は鳥海の心配なんてしてなかった。
俺は鳥海の顔に目をやった。鳥海の顔は少し虚ろだった。


「鳥海……」

俺は言葉に力が入らないながらも思わず呼び掛けた。
すると鳥海はこちらに反応して俺の顔を見た。

「………終わった……の…………?」
「…………」

俺は鳥海の問い掛けに隠す事なく正直にただ頷くだけだった。
俺だけ勝手に気持ち良くなったんだ。
文句言われたり責められたりしても仕方ないだろう。
しかし鳥海は俺に対して笑顔で答えた。
痛みを耐えるかのような感じではあったが、確かに笑顔だった。

「ありがとう…………」

俺も少し笑顔になりながらもそう言って感謝の気持ちを表し、
そしてそのまま意識を手放した…………


俺は目が覚めた。覚めたとはいっても瞼はまだ閉じていた。目が覚めたのは重さを感じていたからだ。
俺は目を開いた。そこには鳥海が俺の目の前にいた。俺は仰向けのまま、鳥海に乗られていたのだ。

「ふふっ、起きましたか」
「鳥……か……………うおっ!?」

意識がはっきりしつつある中、鳥海が裸であり、俺も裸であり、
二人のあそこが結合していて、少し赤く汚れているのに気付いた時、
俺の意識は完全にはっきりとした。

「あ、そ、その……き、昨日はすまない!」

俺は昨日の事について謝った。

「初めてだったのでしょう?仕方ありませんよ」
「そ、そうじゃなくて…いや、それもそうだけど、
 自分だけ勝手に気持ち良くなったあげく寝てしまって……」

俺は本当にすまない気持ちだった。

「最近お仕事ばかりでまともに眠っていなかったんでしょう。仕方ありませんよ」
「けど…」
「それに、あなたの寝顔、とっても安心しきった感じで、穏やかな顔でした。
 少し前に仮眠していた時は、穏やかでなくて、
 険しい顔をしていましたから…心配してましたよ……」
「そうか…心配かけてごめんな」
「でももう大丈夫みたいですね。何だか昨日までと比べて元気な気がしますし、
 それに………こっちもとっても元気です…………」
「ん………」

鳥海が結合部の方に目をやった。俺は勃起していた。

「あ……これは、だな…男特有の…」
「わかってます。でも昨日はすぐに終わっちゃいましたし、だからもっと楽しみましょう。
 あなただってもっと気持ち良くなりたいでしょうし。
 ふふっ、大丈夫ですよ。昨日からずっと私の中にあなたがいましたから。
 だから激しく動いたりしても……ね」
「……鳥海がそう言うのなら!」

俺は鳥海が下になるように体勢を変え、早速腰を動かした。
激しく、と所望していたがさすがに最初からそうするのはどちらにもつらいと思い、
まずはゆっくりと動いた。


「うぅ……ん……」
「鳥海…」
「大丈夫…あまり痛くない…です…」

鳥海はそう言ったが少しだけ苦悶に満ちた表情だった。俺はスピードを落とした。
鳥海の顔から苦しみが少し消えた気がしてそのまま続けた。
しばらくして滑りがよくなってきた気がしたのでまた少しずつペースを上げた。

じゅぷ……じゅぷ……

膣内が濡れてきたのか水音も立ってきた。
その音が俺を更に興奮させ、腰の動きを早める。
俺は求めた。まるで心に残る思い出を作ろうとするかのように。
艦娘はいつ消えるのかはわからない。
明日どころか下手したら次の一瞬にも消えてしまうかもしれない。
しかしもしかしたら考えが間違っていて、艦娘は消えたりしないかもしれない。
どちらにしろ根拠なんてものは何もない。
楽しい思い出があれば後で苦しくなった時に余計につらくなる。
だけど、何もしなければ、何もしなかった事を後悔するだろう。
どちらにしろ後悔するのならやるだけやる。
俺は心の中の欲のままに動き続けた。そしてその時はまたやってきた。

「鳥海っ…もう…出る…」
「っ…ええ…来てください………全て受け止め…」


ドクン!

鳥海の言葉が終わらない内に射精してしまった。

びゅーっ、びゅーっ

一晩経ったとはいえ二回目の射精。最初の時よりも勢いがある気がした。

「くぅ…ん……うぅ……」
「ぁ…ぁぁ……ぁ……」

俺は我慢なんてしなかった。ただただ奥に腰を押し付けていた。
少しでも『今ここにいる』鳥海に子種を植え付けるかのように……
艦娘が人間の精子で受精し、着床して、子を成せるのかどうかはわからない。
それでも……それでも俺は今、心から愛している女性との間に子供が欲しかった。
俺と鳥海が愛し合った証…鳥海を繋ぎ止めるもの…鳥海がこの世界にいた証……
僅かな希望を信じ、俺は鳥海に全てを吐き出していた。
鳥海もきっと、俺と同じ事を考えながら、欲望とも言える愛の全てを受け止めていた。

「ん……あ………お腹の中………あなたので…暖かい………」
長い射精が終わった。鳥海の顔は昨日と同じく嬉しそうだった。
自分のお腹の中に感じる暖かな感覚……
それが自分が今生きていると彼女に実感させているのだろう。

とりあえずこれでひとまずの終わり……
かと思ったら射精が終わったにもかかわらずちんちんは硬さを保っていた。

「鳥海、もっと…」
「もっとください…」

俺も鳥海も求める気持ちは一緒だった。
俺は今目の前にいる女性を愛する事しか考えてなかった。
俺はまた動こうと腰を引こうとした。が、引けなかった。
鳥海が脚でがっちりと締め付けていたからだ。
俺は鳥海と目を合わせた。鳥海が少し恥ずかしそうな笑顔をしながら脚を解いた。
俺は再び…いや、三たび彼女を愛しはじめた…………


そして、それから半年が過ぎた…………

「あの戦いからもう半年も経ちましたね……」

鳥海は今も俺の傍にいた。

「ああ……鳥海、さすがにこんな体でそんな格好はどうかと思うぞ」
「摩耶の言う通りね。いくら艦娘鳥海としての正装とはいえ、お腹を出すのはまずいわよ。
 あなただけの体じゃないんだから、しっかりと着込みなさい」
「それにしても提督も隅に置けないわね。
 今6ヶ月なんでしょ?つまりクリスマスの時に………きゃあっ」

鳥海だけでなく高雄型の重巡洋艦姉妹も……
いや、艦娘みんながまだこの世界に存在していた。

「しっかし、お前がまさかあたし達の上官で居続けるなんてな」
「深海棲艦との戦いで頑張った結果が認められたらしいからな。
 まあ割と無茶ばかりしていたけどな。
 別に俺は提督の座に今でも居続けるつもりなんてなかったけど、
 提督辞めたって食っていけるとは限らんからな。
 だから活躍が認められて提督でいられる機会を得たなら、
 俺はその期待に応えて提督で居続けるつもりだ」
「まあ、子供がもうすぐ生まれますから安定したところにいたいですしね。
 ご両親にも心配をかけたくないでしょうし」
「安定…か…」
「摩耶、どうしたの?」
「だってさ……あたし達艦娘っていつ消えてもおかしくないよな」
「そうかもしれないわね。艦娘が深海棲艦と戦う力を持って生まれたということは
 深海棲艦がいなくなった今、艦娘の存在理由がないかもしれないから」
「鳥海は提督にとって大切な存在となることで存在を保とうとした……
 いえ、それは後付けの理由ね。
 提督が鳥海を好きで、鳥海も提督に想いを抱いていて……
 それは人間の持つ恋心を艦娘も持っていたということかもしれない……」
「でも鳥海だけじゃなくて艦娘みんながまだこの世界にいる……
 ……もしかしたら艦娘そのものにまた別の役割があるのかもね。
 例えば深海棲艦がまだどこかにいて今は表に出てきてないけどまたいつか蘇って、
 その時のために私たちがまだ消えることなくこの世界にいるのか……」
「もしかしたら艦娘が次に戦う相手は人間かもしれません……
 艦娘はかつて艦だったころも日本を守るために戦い、そして守り切れず敗れてしまいました。
 だからこの国を守るために艦娘は未だに居続けている……
 …もしかしたら私たちの力が侵略に使われたりも…」
「そんな事!人間同士の愚かな争いなんて二度と……
 そりゃあ攻められたなら戦うが、相手を不当に侵すような事なんて、絶対に!」

高雄の不安がる言葉につい強く反応してしまった。


「提督……?」
「……俺は悲劇は二度と繰り返させない……過ちは二度と繰り返させない……」

俺は決意した。提督として、戦争という行為を二度と起こさせない。
そして艦娘達を人に仇為す存在にさせないと。

「……お前、本当に昔と比べて変わったな」
「摩耶……」
「昔出会ったばかりの頃は頼りなかったけどさ、
 深海棲艦との戦いの終わり頃には随分と立派になったよ。
 そん時でも対深海棲艦の時くらいしか頼りになる感じがしなかったけど、
 今はもう十分立派だぜ」
「そうね。これなら鳥海ちゃんを安心して任せられるわね」
「鳥海が提督を好きと知った時はほんのちょっと不安になったわ。
 鳥海の決めたことだから私たちがとやかく言えることじゃなかったけどね。
 今の提督は本当に立派でかっこいいわ、うふふっ!」
「姉さん……ありがとう……」

姉に認められた鳥海は本当に嬉しそうだった。もし姉達に反対されていたら…
それでも俺への愛は貫いていたかもしれないけど。


「ところで鳥海、あなたは今は改二じゃないみたいね」
「ええ…」
「私や愛宕はかつて改装され、摩耶も改装こそされなかったけど対空能力を強化された。
 だけど鳥海は何の改装もされなかった」
「あたしでさえ改二になれるかどうかって感じで、まあ何とか改二にはなれたけど、
 かつて改装されなかった鳥海は改二になることができなかった」
「はっきり言って絶望的だったわ。でも…どうしてあの時だけ改二になれたのかしら?
 鳥海ちゃん、全てを失い沈み行く中、突然光に包まれたと思ったら艤装を再生……
 いえ、変形させて燃料も弾も全て回復して、
 そのまま最後の深海棲艦と戦い、そして打ち倒した……」
「あの時の艤装、間違いなく改二……もしかしたらそれ以上かもしれない。
 見たこともないくらい光り輝いていた……
 戦いが終わった後は元に戻ったわ。それからはもうあの時みたいにはならないけど…
 一体どうやってあんなことになったの?」
「どうやってって……あの時は司令官さんをもう独りにはしたくないって強く思って…」
「もう?」
「私の中に……重巡洋艦鳥海としての記憶や…
 そこに乗っていた人たちの記憶とは明らかに違う情景…
 幼い頃の、楽しそうに女の子と遊んでいた司令官さんの姿が見えて…」
「…鳥海が見たものが本当に提督の過去の記憶だとして、どうしてそれが見えたのかしら?」
「提督、お前鳥海に何かしたか?」
「特に何も……ん……いや、まさかな………」
「何か心あたりでもあるのか!?」
「落ち着いて摩耶!」
「かつて俺は鳥海を深海棲艦から命をかけて庇った事があった……
 その時は何とか二人とも助かったけど……
 その時に血を多く流してしまって、
 周りにいた他の奴らから輸血されなきゃ危なかったくらいで……
 つまり鳥海や艤装に、命をかけた俺の血が大量にかかったって事……だよな?」
「ええ…あまりにも多くの血が流れて……本当に心配しました……」
「じゃあ、提督の血のせいなのか?」
「俺の血だけじゃないだろう。俺が鳥海を想う気持ちと鳥海が俺を想う気持ち、
 それらが俺の命をかけた熱い血潮と合わさって奇跡を起こした……
 それくらいしか考えられないな」
「そうだって証明することは出来ないけど、違うとも言えないな……」
「だけど愛の力が起こした奇跡だなんてとても夢がありますよね」
「でも愛の力が起こした奇跡の最も足るものは提督と鳥海の間に、愛の結晶を作った事ね」


愛宕の言っている事はもっともな事だろう。
そりゃあ愛のない関係であろうとも生まれるものもある。
命が生まれる事、命を育む事は本能であり、
愛というものは人間が考えた綺麗事に過ぎないものかもしれない。
けど…俺は愛を信じたい。
俺が鳥海に子供を宿させられたのは彼女を想う気持ちがあったから。
彼女が人間との間に子供を作れるかどうかわからない、
彼女がいつか消えてしまうかもしれない。
そう思ってもなお、俺は彼女への愛を伝えないではいられなかった。
愛を伝えぬ内に時が愛を伝えられなくしてしまい、後悔なんてしたくなかったから。
だから愛は形となった。これは人間同士でも変わらない事のはずだろう……

「艦娘が人間との子供を母としてその身体に宿す……
 私たち艦娘という存在も人間と変わらぬ生殖能力を持つということが言えるかもしれないわね」
「でもさ、人間と艦娘のハーフってのは一体どんな子供が生まれるんだ?
 男と女で能力に差があるのか、そもそも生まれた子供はどっち寄りの存在になるのか……」
「なんにしても、もし力を持って生まれたとしたら、どんな酷い事になるか……」
「人間の科学力は戦争に関係して進歩してきたという事実はあります。
 遺伝子工学の進歩によって、能力者がたくさん生まれて、また悲惨な戦争が起きてしまう……
 もちろん、今の段階では断定は出来ないから杞憂に終わるかもしれないけど……
 それでも今いる艦娘という存在だけでも悲劇を生み出してしまうかもしれない」
「そうなるくらいならいっそみんな消えちゃえば…」
「…何かを犠牲にしなきゃ、何かが解決しないとか、
 そんなのは嫌だな……綺麗事かもしれないけど、でも……」
「提督…」

また同じ話題になった。それだけみんな不安を抱いている事のあらわれなのかもしれない。

「何もしようとせず、ただ楽な方へ流されて不幸になるなんてのは、もうゴメンだ」
「あの時の戦争も、流れの末に起きたという側面もありますからね」
「戦争が起こる理由はそれぞれ違います。
 領土が欲しい、資源が欲しい、支配をしたい、支配から解放されたい、
相手が自らの信じるものと相容れない存在である、長年の怨嗟を晴らす………
多くの場合妥協をして戦争を回避しようとつとめますが、妥協が出来なくなった時。その時…」
「戦争が起きるってわけだ。いくら口では戦争反対って言ったって、
 追い詰められた奴が我慢なんてできやしないだろうさ」
「だからこそ戦争が起きないように一人一人が動かなきゃならないんだ。
 何をすればいいのか具体的な事がわからない俺には他人に偉そうな事は言えないけど…………
 高雄、愛宕、摩耶、鳥海……君達や他の艦娘達には戦争の悲惨さを伝えてほしい」
「戦うために造られたあたし達が戦争の否定とか説得力ないんじゃないのか?」
「確かにな。だが、戦争の悲惨さを伝えられる人間は、今この時代にはもうほとんどいない。
 恐らく君達ぐらいだろう、これからもずっと正しく伝えられるのは」
「確かにそうね。私たちはあの戦争の記憶を完全に覚えている。
 戦争がどのようなことだったのか、そしてその結果どうなったのか……」
「だったらあたし達は伝えてかなくちゃならないな。いつ消えちゃうかわからないしさ」


深海棲艦出現前の日本は戦争への道を進もうとしていた。艦娘が日本に多く現れたのは、
永遠に戦争放棄をすると誓ったはずの日本が再び過ちを犯すことを防ごうとしたからかもしれない。
もしかしたらそれが艦娘が未だにい続ける理由なのかもしれない。
艦娘に寿命があるのかどうかはわからない。
見た目の年齢から人間と同じように歳を重ねていくのかもわからない。
でも鳥海は俺の子供を宿した。創作だと異種族での絡みには寿命差の問題とかもあるが、
それがわかるのは今ではないだろう。ならば考えても仕方のない事だ。

「でも日本とかを守りながらというのは大変そうね」
「それでもやらなきゃならないさ。後悔なんてしない為にな。
 だからみんな、力を合わせて頑張ろう!」
「はい!」
「うん!」
「おう!」
「ええ!」

四人の声が同時に響いた。
誰も未来の事なんてわからない。何が起こるか、いつ死ぬか……
予想は出来ても、その時にならなければわからない。
今まで当たり前だった事が今から当たり前でなくなるかもしれない。
だから人間は頑張る事が出来る。
最悪の未来から逃れる為。今の幸せを守る為。より良い未来へと向かう為。
俺はかつて頑張る事が出来なかった。その時に出すべき全力を出すことが出来なかった。
今までの日常がずっと続くと思っていた。
苦しい事があっても何とかなると思い、その日暮らしをしていただけだった。
だから俺は大切なものを失ってしまった。
時間、金、友達、知識、そして、ずっと一緒にいたかった大切な人を……
俺は後悔した。全力を出してひたむきに生きる事をまったくしてこなかった事を。
だから俺はもう二度と後悔しないよう全力で生きようと誓った。
俺は今、戦争の悲惨さを知っている艦娘という存在と共に在る。
戦争もその時にすべき事をせずに流されてしまった為に起こってしまったという事もある。
だから俺は悲劇を二度と繰り返さない為に彼女達と共に戦争を否定し続ける。
今ある命、これから生まれて来る命を守る為、
そして――愛する人と離れる事なく人生を共に歩み続ける為に――


―完―



+ 後書き
402 :名無しの紳士提督:2015/12/25(金) 22:39:21 ID:F.hV5l7U

以上です
今回はいつもの人間=艦娘とは違い、
かつての艦船=艦娘という感じで書きました
書いていた時にリアルで精神的に辛いことがあり
11月上旬に書き始めたのに途中で停滞して1ヶ月以上かかってしまいました
自分にはシリアスよりな話は向いていないのかもしれませんね……


これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

最終更新:2016年09月15日 16:42