時間外授業

時間外授業(じかんがいじゅぎょう)は粕谷紀子の漫画作品。SEVEN TEENスペシャル1988年4月号に掲載。

登場人物

  • 青木この実 - ジャスミン女子学院一の秀才。
  • 大原麗花 - 大原建業の社長令嬢。この実に激しいライバル心を燃やす
  • 上川井悠弥 - 麗花の従兄弟。

あらすじ

青木この実は全国模試でトップとなり、学院長から表彰される。一方、建築会社の令嬢・大原麗花は、学院長に一番になるのは自分のはずだったと抗議する。しかし、父親の金で事前に問題を入手したにもかかわらず回答欄を間違えたためだと一笑され、悔しさに燃え上がる。

この実は帰宅後も規則正しく生活し、両親も不思議がるほど。その様子を外から観察する、麗花と少年。麗花の調べ上げたスケジュールと10秒と狂わない正確さに、少年も驚く。麗花は大原建業のワゴン車の中で、この実の機械のような冷静さを苛立ちながら訴える。

そして、その少年、麗花のイトコ・上川井悠弥に、"人間"であることを確認した上で、

「きみの人間らしさで、あの青木この実のコンピュータをぶっ壊してほしいの!」

と依頼する。そして、麗花の父が所有するゴーカート場の会員権を条件に、この実を誘惑することに。

悠弥はこの実の尾行と観察を始め、歩く早さまで毎日同じ生活なことに呆れ驚く。この鉄壁のスケジュールを崩すために彼が行ったのは……必殺母性本能攻撃!こと、この実の通る路上に倒れ込んだ。しかし、この実は目の前に少年が倒れていても、冷静に近くの交番で救急車を呼んでもらうだけだった。

「つまらないことに、1分もとられてしまった」

次の日、悠弥は昨日の礼を言う名目でこの実を待ち伏せ。あの手この手でこの実をお茶に誘ったり、会話をしようとするが

「時間とエネルギーのムダだわ。ムダなことはきらい」

と一蹴されてしまう。悠弥はついに怒りを爆発させ、再び彼女の気を惹こうと様々な手に出るが、すべて徒労に終わる。

ジャスミン女子学院の小テストで、この実は再び全教科満点の一番を取り生徒の前で表彰される。彼女曰く、勉強の秘訣は「勉強したことを忘れない」それだけだと言う。麗花は、またこの実が目立ったことに腹を立て、悠弥は当てに出来ないと、自ら行動を開始する。トップにならなければ気が済まない、と。

そして父に「隠し金庫のある場所を、マルサの女にばらす」と半ば脅迫するように、青木家の周辺を地上げし、毎晩騒音を立てる。すると、この実は珍しく授業中に居眠りするようになり、効果覿面。尾行していた悠弥も、この実のペースが狂い心身とももろくなっていることに気づく。やがてこの実は電車の中で眠りに落ち、寝言で「ダイ…ゴロー…」とつぶやく。悠弥は夢を観て泣くこの実を見て、彼女もまた人間であったことに気づく。

麗花は青木家の真横で騒音を立てるのに参加していた。しかし、住民の苦情を受けた警官が現れ、麗花とその一派に注意する。すると麗花はカラオケ大会をしていただけとごまかし、マイクを片手に歌いだす。その歌声に警官も聞き惚れ、また麗花も今までにないときめきを感じていた。

翌日、寝不足でふらつくこの実に、悠弥は学校を休むよう勧め、腕を支える。しかし木の実はあなたには関係ないと突っぱね、悠弥は大五郎でなくて悪かったと言い返す。この実には何のことか分からず、また顔を背けて歩き出すが、この実はぼんやりしてしまう。

そこへ、少年が連れていた犬が車の前に走り出し、この実は「大五郎」と声をかけて飛び出す。…悠弥が彼女と犬と一緒に反対側へ跳んだのでみな無事だった。この実は犬を抱きしめて「大五郎、よかったね」と話しかけるが、飼い主の少年の犬を返してほしいという一言で我に返る。

「大五郎!大五郎が死んじゃった、大五郎!」

とこの実はポロポロ泣き出してしまう。悠弥は誰も死んでいないと励ますが、この実はかつて飼っていた犬・大五郎のことを話しだす。

一年前の朝、この実は散歩中に綱を離してしまい、そして大五郎は道に飛び出して死んだのだった。そして、この実は何も手に付かないほどショックを受けるが、高校受験を控えていたため、わざとびっしりスケジュールを作り、その通り何も考えずに行動して来たのだった。いまは時間がない、悲しむのは受験が終わってからでよい、と。

…それを悠弥に話したこの実は、彼女自身が不思議なほどに涙が止まらない。

「1年分の涙だろ、泣けよ」

「だってすごくムダよ、なんの役にも立たない」

「いいじゃないか、いまはたっぷり時間があるんだ」

目をこすり、まじまじと悠弥の顔を見つめるこの実。やがて恥ずかしそうに顔を背け、いつもの通学路の花や空気や空の美しさに気が付く。

「あの…、あなたの名前、まだ聞いてなかったわ」

…しばらくして、悠弥は麗花に例の話を降り、ゴーカート場の会員権をあきらめる旨を伝える。ところが、麗花はあんなのはどうでも良く、どうせ余っているから会員権をあげる、という。悠弥は唖然とするが、麗花は歌手になることを決めたので、もうこの実がトップになろうとどうでも良くなったのだ。

「きっと芸能界でトップになってみせるわ」

と笑顔で豪語する麗花に悠弥は呆れ、ため息をつく。

やがて、青木家周辺の地上げも収まり、この実は悠弥とデートに行くことに。帰り時間を問う母に、この実は

「わからない!」

と満面の笑みで答えた。

(終わり)

最終更新:2009年03月04日 15:11