火の用心

「火の用心、マッチ一本火事の元~」
古風な拍子木を鳴らしながら、俺は町内を巡回している。町内会の持ち回り当番なのだ。
昔からの伝統だし、声を聞く方にとっては風情があっていいかもしれんが、回る方は寒くてかなわん。
早く帰って一杯やりたいとか考えていると、公園の方で何やら明るい光が見える。
誰か焚き火をしているようだ。こっちがわざわざ火の用心を触れ回っているというのに・・・
注意してやろうと近寄って見ると、なんとタブンネの親子だった。母タブと子タブが1匹ずつだ。
「おいこら、こんなとこで焚き火したら危ないだろ、早く消せ!」「ミッミッ!」
俺の言うことが通じているのか否か、とにかくママンネは反抗的な顔で従おうとしない。
ベビンネと、抱えている卵をアピールして何かミィミィ言っている。「子供と卵が寒いでしょ」とでも言うのか。
「知らんよそんなの、とにかく消して・・・」
その時、ママンネが大きく息を吸い込んだ。嫌な予感がして俺は慌てて飛び退く。
次の瞬間、その口から炎が噴き出した。火炎放射だ。あ、危ねえ!俺を焼き殺す気か、こいつ!
ママンネは「ミッミッ♪」と笑うと再び息を吸おうとしている。そうはいかんぞ。
俺はダッシュで駆け寄ると、ママンネの口元を拍子木で殴りつけた。
「ミギッ!」倒れたママンネの口から小さな炎がボッと上がると同時に、折れた歯が数本飛び出した。
まだ油断はならないから、拍子木で顔面が原形をとどめないくらい殴りつける。
「ギィィィ・・・」ピクピク痙攣するママンネは、ベビンネと卵を取り落とした。
ものはついでだから、絶対反抗できないようにと、体重をかけながら両手両足をへし折る。
「ミギッ!ミヒィーッ!」泣き叫ぶ声を聞いて多少溜飲は下がったが、この程度では焼き殺されかけた気が収まらない。
火を弄ぶ奴には、それ相応のきついお灸を据えてやらねばな。

「おい、火がどんなに危険なものかわかってないようだからな、よーく教えてやるぞ」
言いながら俺は、ママンネがあたっていた焚き火の上に卵を転がした。火が消えないように落ち葉を追加する。
「ミッ!?ミーッ!!」腫れ上がった目でも何がされているかわかったらしく、ママンネは悲鳴を上げた。
ずりずりと這いずって焚き火の側へ行こうとするが、変な方向に折れ曲がった手足に激痛が走り、まともに動けない。
そして3分くらい経った頃、卵はポンッと音を立てて爆ぜた。中の水分が蒸気圧となって割れたのだろう。
俺は拾ってきた木の枝で、割れた卵の殻とその中身をママンネの眼前にまで転がしてやった。
卵の中身はもちろん誕生前の未熟児ベビンネだ。見事に茹で上がり、目も魚のような白目になって死んでいる。
「ミッヒィィーン!」滂沱の涙を流すママンネを尻目に、俺はベビンネを掴みあげた。
ママンネに振るわれる暴行を前に、ベビンネは腰を抜かしてプルプル震えながら失禁していたが、
俺に捕まった途端、我に返ったかのように「チィー!チィー!」と暴れ出した。
だが俺は容赦なく、ベビンネの肛門に木の枝を突き刺した。ぐりぐりと内臓まで押し込む。
「チギャァァーー!!」絶叫するベビンネを、俺は焚き火にかざした。たちまち全身に火が回る。
「ヂィィーー!!ヂィィィィー!!」「ンミィィィーッ!!」ベビンネの断末魔とママンネの叫びが交差した。
手足を弱々しくばたつかせる火だるまのベビンネを、俺はママンネの目の前に突き付ける。
「わかったか、お前が焚き火なんてしなけりゃ、ガキ共はこんなことにはならなかったんだぞ」
我が子の悲惨な姿を直視したくないのか、それとも火が熱いのか、ママンネは泣きながらブルブル首を振った。
「わかったかつってんだろ、聞いてんのかコラ」俺は焼き鏝のように、ベビンネをママンネの顔面に押し付ける。
「ミギャアアア!!」不自由な手足では火傷した顔面を押さえることすらできず、ママンネはのた打ち回る。
ようやく俺も気が晴れた。ベビンネは既に息絶えていたので、焚き火に放り込む。
「さあさあ消火消火」俺はママンネを手で押して転がした。下敷きになった卵の殻と未熟児ベビンネがグシャッと潰れた。
構わずにそのまま、焚き火の上まで転がす。「ミビャァー!!」腹を火に押し付けられたママンネは泣き喚く。
俺はママンネを念入りに転がして、火を揉み消した。腹が黒焦げになったママンネは青息吐息だ。
その腹からぼたりと何かが落ちた。火炙りベビンネだ。ママンネの下敷きにされ、内臓が飛び出している。
「ミヒッ・・ミェェェ・・・」嗚咽するママンネの声を背に、俺は公園を立ち去った。
肉の焼けた匂いを嗅ぎつけて、きっと野生の肉食ポケモンがママンネを片付けてくれるだろう。俺は再び巡回に戻るのだった。
「火の用心、タブンネ一匹火事の元~」

(END)
最終更新:2015年03月22日 23:59