タブンネ2016-2

僕はただのトレーナー。ようやく仲間達も進化し、バトルにも慣れ今は買い物からの帰り。


「ごはんにしよう」
帰宅後僕は一番最初からの相棒ネイティオと夕食を運び家族を眺める。

ミロカロス、ライチュウ、オニゴーリ。みんな進化した心強い仲間。
まだまだ子供なイーブイ、もちろん将来は決まってる。

そして、ニンフィア。

「フィッ…フッ…」
え?これ四つん這いのタブンネじゃね、って?違うよタブンネが進化したニンフィアだよ!
ちゃんと耳もたってるし、触か…このだらんとした触手。リボンもかわいいだろ?

「なっ?」
「……フイッ!」
四つん這いでプルプルしながらニンフィアは返事する。
どうやって進化したかはこれから説明するよ。その前にこの進化前のタブンネとの出会いからかな

あれは数日前の帰り道
―――――――――――――――「またタブンネか」
路地裏から保健所職員に回収される苦悶に満ちた顔をしたタブンネの死体。
いつもの事だが、このタブンネが何故死んだか急に気になったんだ。まあどうしようもないから帰宅を急いだけど。

そして途中自宅近くの粗大ゴミ置き場で弱っていた若い♀タブンネを見つけた。

ネイティに通訳してもらうのに出したら一瞬たじろいだが、家族とはぐれ、意地悪な人間とそのポケモンに酷い目に合わされたという話を聞けた。
タブンネらしく酷いタブ生を歩んできたと思うと、すごいおもしろいなあと思った。
その時は、身の上を聞いたら経験値にしようと思い連れ帰る事にした。もちろん本心は読まれないようネイティにブロック頼んでね。

タブンネは涙を流して感謝していた。

帰宅後タブンネはヒンバス、ユキワラシ、ピカチュウに挨拶するが、部屋のソファで寝息をたてるイーブイに表情が凍りついていた。
ネイティが僕に流してきたタブンネの思考は、嫉妬畏怖etc。
少し様子を見るために小間使いとしてうちにいないかと提案した。

なんでそんなことするかというと、僕はこないだ友人から興味深い話を聞いたんだ。

タブンネはイーブイが嫌い。と

ノーマル同士だがあちらは適応力という爆発的な力を秘めていて、尚且つ先見性もある。
強くなりたいタブンネは楽に進化できて様々なタイプを得られる事に羨ましさと嫉妬を抱いている。
さらに可愛く、映画の看板もこなしグッズ等の常連。自分達とは違い狩られるだけでない誰からも大切に愛される存在(ここいらは過剰表現かもしれんが)

さらにニンフィアの発見が決定付けたのかもしれない。同じ白とピンクの体毛、青い目、そしてフェアリー。
タブンネも進化できるようなったらしいが、限定的であり特殊な進化石を必要とし常時形態維持できない。
トレーナーも色々手間がかかり、互いにもおもしろくはないはず。
さらにニンフィアは可愛がられると進化するというのだから、それがトドメとなったのだろう。
どこで知ったかはわからんが、本能や潜在的に人気者や愛されるキャラになりたい願望からかもしれない。
ともあれ一番の宿敵としてまずはイーブイなんだろう。

100パーじゃないだろうけどとにかくイーブイ達への嫉妬も確かなものだと感じつつある。


このタブンネその類いだったのだが今出ていくと…と思ったのか環境を受け入れたようだ。
他のポケモン達に迷惑をかけるようなことはしない、部屋も別という条件も良い方に受け取った。
ネイティを除くヒンバス他は皆俺の意思を嫌々ながら理解してくれたようだ。

幼いイーブイだけは友達が増えた的なニュアンスだったが。
まあイーブイの遊び相手(様々な意味で)にもいいだろう。ただ害を及ぼしたら死ぬより素晴らしい思いをすることになるけどね。
というわけで、うちのタブンネこと♀ンネの生活が始まった。

僕はタブンネを頭がいいポケモンだと思ってる。
相手の感情を理解できるってことはその感情を自身持ち合わせてるからだろ?
そんな表現豊かだからこそ、苛めや虐待のターゲットになってるのかもしれないがね。
―――――――――――――――

ここからはニンフィアになったまでの♀ンネの激闘編。

拾ってから特別何事も無く生活は続いたが、一週間後ついにボロを出した。
帰宅するとタブンネが目に涙を溜めながら、俺の趣味部屋の前でオロオロしてた。
ドアが開きっぱなしだった部屋を覗くと棚の進化石全てが落下し散らかっていた。
さらに青いポロックも吐き出したように唾液まみれだ。

正直皆に被害が無ければ私物はどうでもいい。
ネイティを出し、♀ンネを正座させ理由を聞いた。

やはり進化が羨ましく我慢が限界を越えたから石を触ってみたらしい。結果は言わずもかな。

ここ最近ヒンバスはミロカロス、ピカはライチュウに、ユキワラシはオニゴーリに進化した。
それもあったのだろう。
まあポロックに関してはいつもヒンバスだけもらってたのが羨ましかっただけだろうが、青は口に合わなかったようだな。

正直僕はこいつをいじめたり差別したりせず、あくまでも小間使いとして扱ってきた。
階段下物置だが個室を与え、食事も同じ物を与え欠かした事も無い。監視つきだがイーブイの遊び相手もさせてやった。

まあ正直こうなるかと思ってはいたが実際やられると頭にくるわ。
コレクション荒らしたのに変わりないし、一時の感情に流されるタブンネらしいのだろうが、それは許さん。

まあ一週間暮らして不満や苦痛が減ったから自我を出してきたのか…ここで甘い顔するとイーブイになにかしそうだ。
そうならないようにも、タブンネを遊んで…いやなんとかしてやろう。
おっと、虐めないよ?あくまでも理性的にね。


「♀ンネ」
「ミィ……」
「進化してみるか?」
「ミ?」
「お前は頑張ってるからな、そういうことだよ。(ほんとに面白いな)」

ネイティに本心をブロックしてもらいながら♀ンネに希望を持たせた。ちなみに♀ンネと接する時はいつも感情ブロックしてもらってる。
まあこいつは僕に触角をあてるような素振りはせずに、僕の表面の感情しか理解してないみたいだが念押しで。

逆に僕の本心を理解しているネイティは何度も笑いを堪えきれずにいたがいつもの無表情で隠せている。

♀ンネが言うには、「イーブイみたいな色んな進化したいミィ!」ってことらしい。やはり宿敵に負けたくないらしいが退化できねえぞ?
表向きは仲良くしてても、イーブイに対抗意識もってるのはとっくに把握済みだ。
おもしれえ。イーブイのように扱ってやろうじゃねえか!タブンネ進化作戦が始まった。

「さて、これを見てくれ」
ブイズが並んだクリアファイルを見せる。BW版だからニンフィアはいない。
「どれがいいの?ちなみにニンフィアは3DSが無いから無理な(というかうちのイーブイが最初だボケ)」

♀ンネは一瞬不満げな表情になったが、逆らうわけにはいかないと思ったのだろう。10分悩んでようやくグレイシアを指差した。

「いい趣味だね。進化方は…」
グレイシア。スラッとした体躯や、ツンツンしてそうな容姿はやはり♀としたら憧れだろう。
さあてやるか、通訳はネイティよろしく。

庭に大きな金だらいに水を汲み、オニゴーリを呼ぶ。

「ここに氷はってくれよ」
「あいよ」

息を吸い込み金だらいに氷を張って去っていった。
至って僕は真面目だよ?

「さあて♀ンネちゃん?グレイシアは見ての通り氷だ。氷で進化するんだよ?さあここにつかれ」
♀ンネは冷水に指先をつけのたうつが、その姿にネイティのこめかみに血管が浮く。

こいつだけは♀ンネの本心を知ってる。僕に従っているものの内心かなりイラついているのはわかってるの、ごめんね。
ネイティは♀ンネを浮かせ金だらいに頭からぶちこんだ。

「ミッフィヤアアアア!」
暴れて飛び出ようとする♀ンネを僕が押さえつける。水しぶきが冷たいけど我慢我慢。
「こんなんでのたまうならグレイシアは夢だぞ!」
その言葉が効いたのか♀ンネは顔を真っ青にしながらも「ミッ!」と気合いを入れ、胸に握りこぶしを置き、冷水に肩までつかった。

俺達は縁側に腰掛け耐える♀ンネを見守った。
が、数分もしないうちに真っ青になり金だらいのフチに身を寄せ動かなくなった♀ンネ。

勿体ないが氷治しと元気の欠片を与える。
「グレイシアはあきらめるか?」
タブンネはしばし黙った後「ミウン」 と頭を下げた。

  • グレイシア失敗・


「さて休まず次いくぞ」
特性再生力でも完全回復してないからか元気少ないが次はリーフィアを指差した。
うん、まあ草タイプか。僕はあの葉と頭の形が可愛いと思う。
ただあれもグレイシアみたいに特定の場所なんだよなあ。なんかいいアイデアは…

ネイティが庭の伸びきったボーボーの雑草を指した。
「そうか!よし♀ンネ、リーフィアは草だ。あの雑草みんな抜いて綺麗にしてこい」

「ミッ!」
草むしりくらいは楽だと思ってるらしく、勇んで草を抜き始めた。
楽しようとするのが頭きたから進化しなくてもそれを指摘してやろう。そんな風に俺は思っていた。
「………」
とろい。特性不器用でもないくせに不器用でさらに素手だから草で手を切り血を流していた。
痛みを堪え必死に草むしりする姿はタブンネが純真と呼ばれるのがよく解った気がする。
にしてもやはりのろい。僕の方がすぐ終わりそうだ。

いつのまにか縁側に座ってたライチュウがスーパーの特売品チラシを眺めていた。今日は野菜と果物が安いらしい。
今日は野菜スープにでもしようかな。

「さぼるなよ!」
そういい僕はライチュウとネイティを連れ買い物に出掛けた。

帰宅後、庭を覗くとベタッと座り込み、草を適当にぶっちぶっちして投げる♀ンネがいた。
野郎…なんだあの投げやりは…
ガラスから室内を覗くと留守番連中が菓子をボリボリ食いながらビデオを見ていた。

ああ、たしかにあんな様子で自分は草むしりなら嫌になるわな。
だからって努力を怠るのは許さん、進化は厳しいんだよ。
僕は♀ンネを厳しく叱り、その甘えを指摘しリーフィアを諦める事よう言った。
傷だらけの手を見てもそんな弱い意思から感情はわかず、用意してたすごい傷薬ではなく普通の傷薬を使った。

♀ンネは弱々しく頭を下げたが、草むしりは半分も終わってなかった。

  • リーフィア失敗・


夜。皆の夕食を済ませ、物置自室でチビチビスープを飲む♀ンネに声を掛けた。
「よう、どうだ?諦めるか?」
「………ミィッ!」
あきらめないもん!的なニュアンスでスプーンを握りしめガツガツスープを食い始めた。

「まあ僕も今休暇中だからさ、時間はあるから明日もがんばろうな。おやすみ」



翌朝。朝食を済ませ洗い物をする♀ンネは一息つくと自分からクリアファイルを僕の元へ持ってきた。

次に指差してきたのはブースター。予想つくと思うけど、庭の焚き火に飛び込み火傷を負った。
さすがに死にかけたので買い物がてらセンターで回復させてやった。

完全回復して調子乗ったのか、次はシャワーズ。水に沈めて窒息寸前まで押さえつけてやったがやはり無理だった。
口から水を吐き出す様は水鉄砲のようだ。しかし技ではねえ…

次はサンダース。電気を扱うなんてどうしたらいい?
ああ、本職がいたか。

「ライチュウ!」
「タブンネに電気浴びせればいいの?」
「ああ、思いっきりやってくれ。」

「いいの?」
「ミッミッ!」
胸を叩きアピールする♀ンネにかましたのはかみなり。
すると♀ンネが爆発した。濡れたままだったのを僕は失念していたんだ。
センターに逆戻りになったのはいうまでもない。

  • 初代三属性失敗・



♀ンネと僕、ネイティは趣味部屋に戻っていた。
五連敗したからかかなり消沈している♀ンネ。指でカーペットをくるくるなぞりながら何度もため息をついていた。

石で簡単に進化したライチュウ
お菓子食べて楽に進化したと思ってるミロカロス
でもオニゴーリのように戦って怖い思いして進化はしたくない。これはなんか矛盾してる気がする

いつ聞いたのか知ったのかは詮索する気はないが、そんな感情が伝わってきた。
だいたいお前の目的はイーブイじゃないのか?なんで前だけじゃなく右も左も後ろも見るんだよ情けない。
しかし悪いがこの程度であきらめられては困る。極限まで頑張らないと様々な意味で意味が無い。
ん?なつき…そうか!

「あのさ、特別な事しなくとも進化できる手段はあるぞ?」
「ミッ?」
瞳に輝きが戻る姿にイラッとするが、僕はエーフィブラッキーの進化方を説明した。

ライチュウを呼び、なつきのなんたるかを説明してもらう。
簡単に言えばポケモンが俺をすきになるというわけだからね。

それを聞いた♀ンネちゃん。何度も自身の体を眺めたり、腕を触ったり頭を触る。
その様子を眺めてると僕に向かいにっこり笑った。

ああ、そう、なつきMAXってアピールなわけね。

「じゃあなんで進化しないのかね?このアメ食ってみろよ。MAXなら進化するぞ」
「ミッ♪……………ミィー」
僕の疑問に、なんで進化しないの?って♀ンネは頭をかしげる。

これはおもしれえな、純真も行きすぎればただのお花畑通り越して荒野だ。
もっと遊ぶか。

「それはお前が僕を信頼してねえ証拠だな。見ろ、ライチュウは僕を信頼しきってる。お前は俺を信頼してねえんだな」
急激に♀ンネの目に涙が浮かぶ。笑いを堪えるネイティによれば、
「ミィは自分自身の心に嘘を言ってないミィ!ご主人様がだいすきミィッッ!」
という感動的なものだった。

どうしたらと悩んでいると、ライチュウがたくみな話術で♀ンネを説いた。

「昨日の草むしりみたいなテキトーな意思だから進化しないんだよ。もっとご主人に奉仕しないと」
「どうしたらいいミィ」
「もっとお手伝い頑張ったら?」

さらなる矛盾のような気がするが僕はそのアイデアに同意した。

♀ンネはすぐさま「ミッ!」と気合いを入れぽてぽてと箒を掴み廊下をはきだした。
その純真さに関心しつつ、僕は内心大爆笑だった。

しかしやはりタブンネ、予想通りになる。
ひたすら家事仕事をするのはいいが、気合い入れすぎて今までに無い失態をおかしまくった。
食器を割り、バケツの水をぶちまけ、カーテンを破いた。
ポケモン部屋に危害はないが、他の被害はかなりのものだ。

さらにブラッキーは夜ということから、睡眠をとらずそれこそ不眠不休で働いた。
深夜でも何かか壊れたり倒れる音がする。
明らかにイーブイ達も不機嫌な顔をしだしたから、止めにいって少しびびった。
不眠からバサバサのボロボロになり、汚い手でごちゃごちゃにベッドメイクする♀ンネは不気味な顔に変貌した。まさにゾンビンネか?

ライチュウも自分で言ったことだが、あまりの酷さに顔に手をあてため息をついた。
何気にライチュウにため息つかせるとはやるじゃねえかこの♀ンネ。
気づいてるかわからんが、なつき→石と少なくともイーブイより楽で二回もいい思いする進化なんだけどね。

初日もたず♀ンネはダウンした。

  • エーフィブラッキー失敗・


朝イチで行ったセンターの帰り。僕、ネイティと♀ンネは公園のベンチでジュース飲みながら休憩していた。

そんな中公園の噴水前で、僕も実物をみるのはのニンフィアが飼い主と仲良さそうに散歩していた。
やはり周りから注目されて可愛い可愛いとまるでアイドルのようだ。
その可愛い姿に魅入る♀ンネ。ジュースを飲み干し、ミィも頑張るって気合いをいれる姿はやはり諦めてないらしい。

ネイティは自分のイーブイでないからか興味ない素振りでゴミカゴに空き缶三つをサイコキネシスで放り込んだ。
そのコントロールに関心してると、ゴミカゴ背後の植え込みからカササと音をたて、タブンネが現れた。

薄汚さからここに住み着いてる野良だろう。カゴに手をかけ、ひっくり返し缶を振りわずかな水滴を口にしていた。
が、すぐに作業服を着た男性が現れ野良ンネを殴りだした。

「いつもやってたのかお前か!この野郎!誰が掃除してんだ!」
「ミッミッ!ミィ!」
ゴミ袋を抱え後ずさりながら片手を突きだし必死に嘆願する野良ンネ。
平和な公園での激闘だが他の人間やポケモンも見向きもしない。それが風景の一部であるかのようであり、何よりニンフィアに夢中だ。

そんな激闘を見ていると、隣で♀ンネが震えていた。ネイティがその♀ンネの思考を僕に流す。

拾われる前はこういう生活をしてきたのだ。それが目の前で自分ではないにしても起きてる。
まあ今が幸せだから余計に恐怖が増幅されているんだな。だからって僕は何も感じねえけど。

「オラァッ!保健所こいよオラァッ!」
「ミーッ!ミィーッ!ミャアアアアアッ!!」
清掃員に触覚と耳を乱暴に掴まれ、引き摺れていくタブンネ。

そんな中♀ンネの耳が動く。なんだ?と思ったら♀ンネはベンチから飛び降り植え込みに走っていった。
後を追う。あれと一緒にされたらたまんねえよ。

植え込みの裏は死角になっていて、そこにはガリガリに痩せたベビンネ二匹が集められたゴミの中で小さく鳴いていた。
さっきのの子で、母の悲鳴に反応したんだろう。

何故か♀ンネは二匹に近寄るが、僕は制止した。
「さわんな!どんな病気あるかわからん。放置しろ」
だがそれに反論するよう涙を溜めて僕に叫ぶ。

「ミィッ!ミィミッあのベビちゃん達も助けてほしいミィ!ミィと同じタブンネミィ!ベビちゃん達泣いてるミィ!」
遅れてきたネイティから通訳が流れてきた。
♀ンネは限界まで俺になついているからこそ僕を信頼し、自分と同じように同族を助けてほしい。と
かつて自身ができなかったことにしたい。と

だから?正直俺はイラッとした。図々しすぎる、立場理解してるのか?そもそもタブンネでなくともそんな気はない。
今なら感情ブロックを解除してもらってもいい。
こいつはなんだかんだで今の不の無い生活に溺れ自分が飼いタブという上位種とか思い始めたんだろうか?ならふざけんな。

おもしろ半分でやってたがどうやら間違った自惚れを抱かせてしまったようだ。僕にも非はあるだろう、しかしこれはどうか?

ならそれを最大限活かしてやる。飼われたタブンネは何しなきゃいけないかをな。

「野生の薄汚いタブンネ二匹があらわれた。いけっネイティ、飼いタブンネ」
俺の言葉に一気に不安な顔をする♀ンネ。ネイティは「全部お先にどうぞ」の意思表示。

「やれよ、往復ビンタ。はやくしろ。触ったのの消毒なら後でしてやる」
目にいっぱい涙を溜めて顔をフルフルする♀ンネ。

「ほらみろ、逆らうなんてなついてない証拠だ。八つ当たり覚えっか?フェアリー技じゃなくてよ!?」

涙をボロボロ流しながら、手を振り上げる姿は実に感動的だ。
暴力は嫌だとかいう腑抜けはいらない。
その姿にベビも殺気を感じたか弱々しく鳴く。

「ミッ……ミイイイイイイイイ!!」
♀ンネは振り上げた手をそのまま振り降ろしベビンネに叩きつけた。

「……チィィ…」
手加減したのか当たり所がよかったのか、苦痛を与えただけだ。死にかけのベビを一撃で倒せないとかなんなんだ?

「お前まさか往復ビンタこれ一発じゃないよな?乱数のせいか?レベル上げなきゃ。やれよ」
♀ンネは涙を堪え再びベビを叩くと、今度はよかったらしく鼻が潰れ絶命した。

「おっ、ネイティが進化したぞ!」
ネイティオに進化した、やったね!
それを見てか♀ンネから、焦りと羨ましさと嫉妬と悲しみが伝わってくる。ネイティオに進化したからか、かなり鮮明な情報だ。

「はいワンモア」
♀ンネが血が付着した震える手を再び振りかざした時

「チ…ィィ…」
なんと片割れがよろよろと兄だか姉だかわからんが動かなくなったベビに抱きついて涙を流し始めた。
もはや♀ンネも精神が限界のようで、ドサッと地に膝をついたその姿に思わずイラっとする。

「じゃあここにいろ、お前は進化しないイーブイ以下の薄汚い捨て野良タブンネだ、昔みたくゴミ暮らしで保健所いけ。じゃあな」

背を向ける僕とネイティオ。♀ンネは僕達とニンフィアとベビを何度も見て、僕のズボンをちびっと掴み「ミィ」と鳴いた。

やはり僕を選んだ。さらに頭に流れ込むのはあの裕福な暮らし、そして最期の望みであるニンフィアへの進化願望。
そんな都合の良さにネイティオも何の感情も発してない。
そして♀ンネは意を決したように残ったベビを何度も叩いた。その感情は進化したいそれだけのため。

♀ンネは血に染まった手、ネイティオを交互に見ては涙を流した。
進化しない自分になのか、ベビを思ってか、どちらかは言うまでもないだろう。

「帰るぞ」
帰る間ずっと♀ンネは僕のズボンを離さなかった。手で払っても何度も掴んできた。

帰宅後、♀ンネは一日中ちんたら仕事し、ボーッとしては僕の仕事を増やした。
そしてついにやった。

洗濯物で遊んでいたイーブイを♀ンネが叱りつけたのだ。
ふざけんな、僕は洗濯物なんてどうでもいいんだ。服が毛だらけでも喜んで着る。
もちろんイーブイは素直に謝ったが、うちではしつけは年長ネイティオの仕事であって貴様のすることじゃない、リーダーの立場を奪うな。

ネイティオ同伴で尋問するとやはり昼間のアレが関係あったようだ。調子こきやがって。
周りと違い進化できない不満に合わせ、死にかけのベビとは違いやりたい放題のイーブイにもう我慢できなくなったと。
だから何様だこいつ、八つ当たりはまだおしえてねえだろ。

どっちにしろこうなったからにはもういい、僕は冷たく言った。
「お前は所詮タブンネだった、すぐゴミ山に帰れ。うちにはいらん」

♀ンネは涙を撒き散らしながら土下座して泣きわめく。
「ごめんなさいミィ!ごめんなさいミィ!捨てないでミィ!イーブイちゃんに謝るミィから!!」

だからといって許さない、いよいよ時期が来たようだ。僕は♀ンネを地下倉庫につれだすとネイティオも無言で続いてきた。

「望み通りニンフィアにしてやる」

そう告げ、地下室の鍵を閉めた。
ここまで来たからには徹底的にやってやるからね。

♀ンネは工具や危険物しかない地下部屋に怖がらず、ニンフィアという単語に反応したのかミッ!となんと笑顔で返事した。
それが僕の心の引き金となり、何故か頭にタブンネを苦しめたい欲望が沸きだしてくる。
なんといえばいいのか、わからないがこれが醒というやつなのか。
やはりタブンネにはそういう惹き付けるものがあるのだろう。


ネイティオも僕の気迫に圧されたのか、指示に無言で従い♀ンネに念を送る。

「ミグッ!?」
僕の指示は金縛りだ。大の字に体を固定され身動きが奪われた♀ンネ。

「今からニンフィアに進化させてやる、ただこの進化はとても苦しくつらいが我慢できるか?」
今更だがピチューみたいな幼対期がなく、そもそも進化を知らないタブンネはその意味を完全に理解していないのはもはや明らかだ。
実際氷責め等の苦しみを経て、同族殺めてでも掴みたい自身の幸福の為なら我慢できるだろう。

工具入れからナイフを取り出した。♀ンネはその輝きに多少たじろぐも
「いいな?」
「ミン!!」
最期のチャンスと解ってるのか、今までに無い強さを秘めた瞳で答えた。


「ミギャアアアアアッ!ングアアアアアッ!」
地下室に咆哮が響くのは俺は♀ンネの膝にナイフを刺し入れているから。
そもそもブイ系は四足だ、二足のタブンネはそこから直さなきゃ。
以前にみたペンドラー人間というホラー映画で人間を四足にするときは膝の皿だか靭帯を切除していた。
医学知識は無いのでそれらしい部位を断つ。
反応からして凄まじい激痛だろうが、♀ンネの意思はそれを上回ったのか。気絶せずに耐えている。
ネイティオが僕の頭に送ってくるのは♀ンネの痛みに苦しむ感情、僕への信頼、ニンフィアになりたい願望。
鮮明な凄まじい量の情報が頭になだれ込み、ネイティオが珍しく焦りながら遮断するか聞いてきたが止めないと伝える。

これがいいんじゃないの。ってのは悪どいかな?

金縛りと麻痺なんて同じだろうとか思ってたが違うらしい。
再生力はどこまで適応されるかは不明だが、徐々に血は止まり傷口は塞がってきていよう見える。
こんなんだから虐待のターゲットになるんだろう。思わず笑みが溢れた。

金縛り解放指示を出すと、♀ンネは四足歩行になった。

「いい感じだよ」
そういうとなんとひきつった笑顔を見せた。
ニンフィアの進化条件は直接触れあうこと、これも立派なパルレ。部位が完成する度にハートがついているはずだしね。

次は耳だ。ニンフィアは耳が立っている、それをする知識が俺にはある。
ヘルガー達の祖先は耳をたたせるために、断耳と呼ばれる切除処置をする。
耳を持ち上げ削ぎ落とす。膝よりマシなのか麻痺したのか苦痛に顔を歪める程度だ。
半分になった耳をたて、そこに矯正用に棒をテープではりつけると、とりあえず耳は長さは足りないがマシな見た目となった。
耳は二つ、二回激痛を堪え処置は終わるが休む時間はない。

次は耳の触角。あちらはこんな巻いてなく、風になびくものだ。
千切れない程度に引き伸ばすが、やはり巻いてしまう。
♀ンネは失禁していた。やはり敏感な部位であるぶん痛みもすごいのだろうが、気絶しない。
ニンフィア現物を目の当たりにしたのが効果的だったのだろう。

しかしどうしたもんか…そもそも神経が…板を裏当てし、トンカチで潰すことにした。

「ミグゥェェ」
ブリブリ糞までもらすがやめないよ、生物と住む以上いちいち糞に躊躇はしない。
触角は伸びきり、波打ってはいるがなんとかダラッと垂らすことに成功した。見た目もぺらっとしていい感じ。
しかし襟元の触手はどうするか。しかたなくナイフで皮膚を首から脇下まで長方形に切り取り剥がすことにした。

「ミエエエッ!エンッ!?ミバア!ミグウウッ!」
「うるせえな…」
とりあえず血はすぐ止まるだろう。なんとかそれっぽく皮膚は垂れ下がった。

血が止まった後はイメージ掴み用にさっき用意しといたニンフィアの写真を眺め、尾の毛を刈っていく。
♀ンネもニンフィアの写真を眺め、よだれを垂らしつつ笑顔だ。尾はチャームポイントなんじゃなかったっけ?

ここで難点。ニンフィア目はタブンネより薄いのはどうしたら。触角先端や尾は染めればいいが。
漂白剤でもぶっこむか?しかし失明したら後々の計画が…ここは妥協するか。

休憩もせず僕は♀ンネの毛を刈りながら、黄ばんだような体毛部に脱色剤を馴染ませていた。
よく見ればタブンネは黄ばんだ色でニンフィアは純白だ。
こっちはマスクしてるからいいが、悪臭に苦しむ♀ンネは実にいい顔だ。
切除された部位の剥き出し皮膚に滲みるんだろうなあ。

すっかり血は止まっているが、耳や皮膚の切除部までは再生していない。成功だ、このまま皮膚が張れば元には戻らないだろう。
最後にミュージカル品箱からリボンを二つ取りだし、左耳下と襟首に直接縫い付ける。
さすがに今更針くらいじゃ顔が歪むだけか。

「ミィーッ…ミィィ…」
あ、そうそう鳴き声か。みーみーじゃダメだな。何とか鳴き声もそれっぽくしてやろうと思い、とある記述を思い出した。
とあるタブンネ文献によればフィッと鳴く個体のレポートがあり、たしか歯を抜いたと書かれていた。

「ミィーフゥー…ミギィッ…!」
「ミじゃねえだろ!」
口を開きペンチで次々歯をぶちぬいてやった。

「フィ……フィッ……」
成功だ。ニン フィ ア だからな!


作業は終わった。♀ンネには催眠術でこの場に寝かせ、僕達は上に戻る。一晩寝れば回復するかもな。
血のついた服を皆に見られないようすぐ様風呂に入り、洗浄。久しぶりに疲れた。

風呂上がりにイーブイが♀ンネを探しているようだった。なんだかんだでイーブイは♀ンネが気に入ってたのだ。

「ニンフィアに進化してるからな明日会えるよ」
そういうと
「わたしもニンフィアになるんだよね?おそろい♪」
と笑顔を見せ、その笑顔で僕の疲れは吹き飛んだ。その日が楽しみだ。
おやすみみんな。おやすみ、♀ンネいやニンフィア。


翌朝、地下に向かうと四つん這いで四本の触手をダラダラ引きずりながら室内をぐるぐる回る♀ンネことニンフィアがいた。
「おはよう」
そう言うと
「フィーッ♪」
と鳴いた。

しかしあれだけの激痛や精神の苦痛に耐えたのは驚きだ。もう壊れてしまったのかと思ったが、
これが元来タブンネが持つ底力…なわけないか。


僕はニンフィアを皆が待つ部屋につれていった。
「ニンフィアだ、よろしくな。」
「フィッ!フィ!」
顛末を知ってるネイティオ以外場は凍りついたが、イーブイはキャッキャとニンフィアにまとわりついていた。

♀ン…フィア自身も笑顔で対応している。ようやく同じステージに立てたんだ、幸せが伝わってくる。
もう嫉妬する必要はないのだろう。

  • ニンフィア成功・


ってわけで長くなったけどこんな経緯があったの。
ここからは現在の話。

三日たったんだけど、やっぱ異変は起きたよ。

たしかにニンフィアに進化したが、見た目は改造タブンネだし。本物ようにスラッとした体躯や足ではないからね。
まだ慣れてないのか何をするにも五歩も十歩も遅れ、イーブイと遊ぶにも昔のようにはいかない。
うちのポケモン達もなんだかんだで役に立ってた♀ンネを認め出していたのか、現状役立たずの♀ンネを邪魔物のようにしだした。

まず♀ンネは手を使えない為か食事もままならなくなった。
食い方も不安定で食器から溢し、歯が無いことからフーズも飲み込むことしかできず、溢して汚しては綺麗好きなミロカロスから注意された。

排便排尿も勝手が違いすぎてガーター頻発し汚しては、それを掃除するのにも勝手が違いすぎる。

そんな姿にオニゴーリにいたってはいびりだしはじめ、それが皆にも伝染したのかいびりは暴力に発展していった。
イーブイは幼さ故の残酷か、それらが遊びにしか見えていないようで、たまに乗っかったりすることも。

反撃しようとしても、他の連中が逆襲する。イーブイは皆から可愛がられてるからね。


今じゃ部屋の隅で身を丸めているのが♀ンネの日常になりつつある。
食事も排泄も我慢してるようで、もう少ししたらニンフィアみたいな体型まで痩せるんじゃねって感じ。

もはや現実に精神すり減らしてるみたいだね、あの根性はどこいったか。
やっぱ夢は夢なんだろうなあ、見てるうちが一番シワアセって。

親友ってか唯一仲良くしてくれるイーブイがニンフィアに進化したらどうなるんだろうね?もうハートは充分だからすぐだと思うが。
したら記念に鏡でもプレゼントしてやるか!並べて記念撮影もいいかも。
ああ、楽しみだなあ。なにがって?真ニンフィアもだが、♀ンネの絶望する姿だよ。
なんだかんだで本格的に自分の姿見せてないんだからね。

それに絶望してももう以前のようなタブンネの姿や生活には戻れない。
一生ニンフィアの紛い物として現物を目の前に、指すらまともにくわえられない不自由さがついてまわるだろうし。
まあ、それもいいか!僕は夢を叶えてあげたわけだし。

とにかくタブンネを見直せた充実した休暇だった。どうせなら全タイプ制覇するのも楽しそうだな。
もちろん人力でね。

終わり
最終更新:2016年04月03日 01:10