借金のカタ

私は赤ん坊の頃から育ててきたタブンネと、仲良く幸せに暮らしている。
しかし、ある日私の経営していた会社が倒産してしまい、多額の借金を抱えることになってしまった。
家には借金取りのポケモンマフィアが押し掛け、家も家具も持ち物全て取り立てられてしまった。
そして彼らは私の愛するタブンネをも奪おうとした。
他の物なら何でもいいからタブンネだけは勘弁してくれと私は泣きついた。
しかし彼らは意地の悪い笑みを浮かべただけで、私の頼みを一蹴し
嫌がるタブンネの耳を引っ張って連れて行こうとした。
私はタブンネを取り返そうと必死に食い下がったが、マフィアの強烈な拳を腹と顎に喰らい情けなくも床に倒れ伏せてしまった。
マフィアは「返して欲しかったらこれだけの金を用意してきな」と
請求書を置いて、泣きながら私に助けを求めるタブンネを乱暴に扱いながら帰って行った。

その後私は、住む場所も失い橋の下や駅の構内などを転々としながら
タブンネを抱いて寝る感触を懐かしみながら枕を濡らす日々が続いた。
例え浮浪生活であろうともタブンネさえ居てくれればそれでよかった。
マフィアが提示した請求額は幸いにも現実的な物であったため
一日も早くタブンネを取り返したい一心で、私は日雇いの薄給重労働などに
毎日朝から晩まで勤しんでいた。
食べること寝ることも惜しみ、何も疑わずただ働き続けた。
そして、一年も経った頃だろうか、私には永遠にも感じられる長い時間だった。
もうすぐタブンネに会える――。期待に胸を躍らせながら私は貯まった金を持ちマフィアのアジトへと駆けていた。
大急ぎでドアを抜け、タブンネを預かって待っているマフィアの元へ急いだ。

「よう、早かったな。今連れてくるからちょっと待ってな。」と
息を切らして入ってきた私にそう言ってマフィアは奥の部屋へと引っ込んだ。
あぁもうすぐだ…。タブンネも私に会えるのを心待ちにしてくれているだろうか。
早くあの柔らかな頭を撫でてやり、暖かい体を抱きしめてあげたい。
今や私の頭の中はそれだけだった。
すぐに戻ってきた彼は私に何やら大きな袋を投げて寄こした。
中を見てみると桃色の肉がどっさりと入っていた。
「新鮮な内にさっさと食っちまえよ。」
何が何だか分からず困惑している私に彼はそう投げかける。
笑いを噛み殺しているかのような彼の悪意に満ちた表情で私ははっとした。
思わずもう一度袋の中身を見返してみる。
まだ生暖かい肉の温もり…
そして肉の中に紛れた何だか見覚えのある青いつぶらな瞳がこっちをじっと見ていた。
私はこの肉の塊の正体を理解してしまった。

私は目の前が真っ暗になった――――――。
最終更新:2014年06月20日 21:49