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プロローグ~出逢い
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プロローグ
淡い、とても淡いセピア色の夢。
古いフィルム映画をぼんやりと見ているような、そんな曖昧な感覚。 初めて見たような、しかし懐かしいような、そんな雰囲気。 しかし、深く考えようとすると、どうしても集中力が途切れてしまうため、そのセピア色をボンヤリと眺めることしかできない。 まるで靄がかかったような思考力が、何か大切なことを思い出せそうな感覚が、どうしようもなくもどかしい。 頬でもつねってみれば冷静になるかもしれないが、何故かここでは手足というものを感じない。 ただソレがあるだけ、ただソレを見るだけ。 それしかできない空間。干渉は一切ない鑑賞会。 そんなことを考えているうちに映像が流れはじめる。 セピア色の劇場に映るのは静止画の集まり。 一枚一枚の画像がスライドショーのようにただただ流れるだけ。 魔物の登場から始まり、主人公の登場、仲間集め、そして魔物討伐。 ありがちな王道の物語、よくある勇者達の軌跡。 そんなことが幾度かあったのだろうか、何度も場面は変わり、映像は段々鮮明になっていく。 そして、何代目かわからない勇者の時代。 今まで変わらなかった二つのモノといくつかの物、幾度も変わりゆく勇者とお供の三人、一度も変わることのなかった物語。 やめたくないと、永遠に続けたいと、そう感じさせる物語にも終わりはくる。 それは、簡単な幕切れだった。
第一話
「うぅん……」
ピピピッとけたたましいアラーム音によって、意識が連れ戻される。変わらない音、変わらない天井、変わらない日常。違うところがあるとすれば、なにか大事な夢を見ていたよな、そんなモヤモヤだけが胸に残っていることぐらいだろうか。 しかし、それについて考えてる暇などない。まだ鳴り響いている音は、時間的余裕のなさによる警告音と同義だ。急いで支度しなければ、間に合わなくなる、そう急かしているのだ。親切なその小さな箱の言うとおりに、仕方なく布団から出ることにする。 「ふぁ~……」 まだ寝たりないという証拠なのか、勝手にあくびが出る。確かに、昨日は新作のゲームをやって、夜遅くまで起きていた。しかしそれはそのゲームが面白すぎて止まらなかったせいで、悪いのはそんなゲームを作ったゲーム会社であり……。 ……わかった、完全に俺が悪かったな、うん。 もう一度布団に倒れこんでしまいそうな体を律し、どうにか呪縛から抜け出す。 眠たい目をこすり、段々と鮮明さを取り戻してきた意識を頼りに、支度を始めることにしよう。 指定の制服をクローゼットから引っ張り出す。もう二年目になると流石に慣れたもので、少々意識が曖昧だろうが数分で制服姿に着替え終わるのは容易だ。着慣れた制服に袖を通すと嫌でも意識ははっきりしてくる。 とりあえず適当に朝食をとって、学園に向かう事にしよう。
「えー、そうですね、ここはこうなるのであって……」
退屈な授業が続く。授業というものは何故こうも眠りを誘うのだろうか。真っ逆さまに落ちていきそうな意識をどうにか保つ。 「えー、そうですね、それではここを犬さん」 「はい」 席を立つのは、このクラス――いや、この学校の、といったほうが正確だろうか。――におけるアイドルである、犬。成績優秀だが運動音痴、巨乳で清楚、と男のツボを抑えまくった、歩くチャーム発生装置。何故か首輪を巻いているが、それもまた良しという意見もチラホラと聞く。 「先生、できました」 黒板には綺麗な字が列を成している。それがあっているのかどうかは俺の頭ではわからなかったようだが。 「えー、そうですね、席に戻っていいですよ」 「はい」 クラスの男子全員が注目しているのではないか、というほどの視線を浴びながら席に座る姿は、高嶺の花を思い出させる。 「えー、そうですね、ここは、犬さんが書いてくれたように……」 しかし、そんなちょっとしたイベントも俺の意識を数十秒繋いでおくことしかできそうにない。もう一度始まった呪文は、真っ暗な世界への招待状のようだ。 「えー、そうですね……」 段々と声が遠ざかっていく。もう無理だ、これ以上耐えられそうにない。恐らくのこ学園生活最強の敵であろうコイツとのスコアには、今日も黒星をつけることになりそうだ。
「お疲れ様、もう帰っていいよ」
授業が終わった後、やっと帰れると思った矢先に呼び出され、何故か倉庫の整理の手伝いをさせられるはめとなった。 「じゃあお疲れ様でしたー」 「帰り道、気をつけてね」 軽い会釈をし、倉庫を後にする。あたりは薄暗く、もう日が沈みそうだ。 「今日は厄日かな……」 そんなことを考えながら出口を目指す。ふと、視界の端にに誰か、生徒のような誰かの影が見えたような気がした。 「いや、流石に見間違えだよな」 部活をやっている連中も帰った頃だ、こんな時間まで学園内にいるのは俺のような災難な奴か、先生ぐらいだ。こんな時間までいる生徒なんてそうそういないだろう。 しかし、次の瞬間には、俺の目は確かにその誰かを捉えた。 渡り廊下に、腰に手を当て仁王立ちしているその子。普通の女の子ぐらいであろう背丈、茶色のツインテール、睨んでいるようなツリ目、特筆するほどではない胸。ツインテールの根元には金色の玉をした髪留めがある。そして、やけに丈の短い制服。へそが見えているほどだ。 「ん、アンタ……」 あちらもこちらに気づいたようだ。きつい印象を与える両眼がこちらを向く。 「ここの学校の生徒、よね」 「ああ、そうだけど」 「ちょうどよかった、こんな時間だからか誰もいなかったのよね」 スカートのポケットから、小さなメモ用紙を取り出すのが見えた。 「えーと、○○(主人公名)ってのを知らない? ここの生徒のはずなんだけど」 「え? 誰、だって?」 「○○よ、耳が遠いの? 聞き覚えがなかったら別にいいんだけど」 聞こえなかったわけではない、まさかその名前が出るとは思っていなかったのだ。聞き覚えがないわけがないだろう。だってそれは…… 「俺が、○○、なんだけど」 「本当に!?」 いきなりの大声に、体がビクッと反応する。 「ああ、確かに俺は○○だけど」 「そっか、ちょうど良かったわ、今日はついてるわね」 つかつかとこちらに歩み寄ってくる。そしてずいと突き出される手。 「さあ、渡しなさい」 「えっと……?」 「ほら、早く。私には必要なのよ」 いきなりそんなことを言われても、何を渡せといっているのだろうかが全く検討がつかない。手元にある鞄にも入っているのは教材や筆記用具ぐらいだ。 「なにをもたもたしてるのよ」 さらに突き出される手。しかし、渡すものなど何も……あ、そういえば。 「えっと、こんなものでよかったら……」 手には黄色く少しソリのある棒状のものが乗る。手伝いのご褒美としてもらったのだ。 「そうそう、これよ、これ。私の大好物の……」 なんの躊躇いもなくそれを食べ始める。すごい美味しそうだ。バクバクと、凄い速さで食べ終わる。 「ふう、美味しかった。やっぱりバナナは最高ね。……ってこんなんが欲しいんじゃない!」 「うおっ」 流石に全部食べきってから突込みがくるとは思ってもいなかった。しかし、当の本人は結構頭にきているようだ。 「アタシをからか――あ、もしかして、渡すつもりはない、とか?」 「えっと、まず何を渡せばいいのかを明確にしていただけらな、と思うのですが……」 「ここまできて誤魔化そうっていうのね……。こうなったら最後の手段よ……」 怒りのオーラをビンビンに発信してるその女の子の掌から青白い光が溢れだし、強い光がこの場を包む。その一瞬、瞬き程度の間に現れた、現実離れした光景に思考がついていかなくなっていく。 いつもと変わらない風景の中に、見慣れたデザインの制服を来た女の子。その子の手にはミスマッチの大剣。そして、何故か生えてきた猿のような尻尾。 「七支刀ォーーッ!」 一閃。 その剣が振られると、光の斬激が走るのが見えた。そして、後ろの学園長像にぶち当たる。破片が頬を切るのを感じた。 「次は外さないわよ……」 その言葉が聞こえる頃にはすでに足が動き始めていた。とっさに、本能で感じた。 『殺される』 恐怖を感じるなんて段階ではなく、ただ、確信として生まれた。 『逃げなければ殺される』 幸い、足は動いてくれる。もつれることもまだない。全速力で、学園の外を目指す。 「逃げるな!」 後ろから、声が聞こえてくる。追いかけてきてるのは振り返らなくてもわかる。追いつかれたら、そこで人生終了だろう。 校門を出たあたりで、左側に斬激が走り、電信柱が吹っ飛ぶ。 「待て、渡しなさい!」 次は右側のガードレールが捻じ曲がる。当たったら確実にゲームオーバーだ。逃げまくるしかない。 「てぇい!」 石に躓いて体制を崩す。その上、頭の数センチ上を斬激が走った。 「ちっ」 冷や汗が出る。今の石がなかったら首が飛んでいただろう。 「う、うわあああ!」 「待てぇー!」
どれくらい逃げただろうか、体力が尽きてきた。斬激が止む気配はない。
路地を右に曲がる。 小さい路地ならば剣を振りづらいようで、斬激は少なくなってきてはいる。しかし、一発当たれば即終了なのだ、油断などしていられるわけがない。 突き当りを左に。 そろそろ限界だ。足が段々もつれてきそうだ。しかし足を止めるわけにはいかない。どこまで逃げればいいのだろうか。 そんなタイミングで、絶望が目の前に現れた。 「ふふふ、行き止まりのようね」 七支刀と呼んでいたソレを肩に担ぎ、ゆっくりと近づいてくる。尻尾がゆらゆらと揺れているのが目に入る。 「素直に渡せばこんな追いかけっこしなくても良かったってのに……」 振り上げられるソレ。死刑囚の気持ちが今ならわかる。 「死ねぇー!」 すまん親父、俺約束守れそうにないわ。咄嗟に目を瞑る。そして続く巨大な衝撃。 ……あれ、痛くない? 死ぬときはあっさり、って言うが、こんな何も感じないものなんだろうか。恐る恐る目を開けることにする。 「な、何でここに……」 そこにはさっきまでの光景はなく、ボロボロの制服を着、膝を突いている女の子と、帽子を目深に被り、ロングコートを着た黒色の何かがあった。 「そいつが、吉備津彦の――」 ソイツが近づいてくる。助けてくれたのか、と思ったのも束の間、思い直す。今までとは全く違う、別のベクトルの、冷たい恐怖を感じる。ソイツは助けにきたのではない。それだけはわかる。 「そいつにそれ以上近づくな――ッ!」 今までこちらに向いていた切っ先から、ソイツに向かって斬激が走る。今までとは別物の威力。その一閃は確実にソイツを捉えた。 「やったか?」 砂煙が舞い上がり、ソイツの姿が見えなくなる。普通の人間ならば、塵一つ残らないであろう一撃だった。しかし―― 「危ない!」 「――ッ!」 ソイツの手が、その女の子を捕まえる。首を掴んだその手は、軽々とその体をを持ち上げる。 「この程度の力で、オレを倒せるとでも?」 「ぐ、う……」 「フン」 その華奢な体が壁に叩きつけられる。力の差がありすぎる。勝ち目がない。そうはっきりと感じた。 「お前はそこで大人しくしていろ」 ソイツが指を鳴らすと、その女の子の両手両足に、白い光が刺さり、壁に貼り付けになる。そして、こちらに視線を戻す。 「さあ、そろそろお前も終わりだ」 もう一度、指を鳴らす。その音は確実に俺を狙い。 「な――」 俺より小さな体によって遮られた。 「な、なんで」 「逃げ、て……」 倒れこむその子。いつの間にか、先ほどまで持っていた凶器は消えており、生えていたはずの尻尾もない。腕の中の体は、とても華奢に感じ、少し力を入れると折れてしまいそうだ。その体には、先ほどできたであろう無数の傷がついている。 「ふん、身代わりになったところで――」 「おい……」 そんな姿を見た瞬間、何かが切れた。 「てめぇ、こんなことしやがって――ッ!」 湧き上がる激情。頭に血が上る、というより、血が沸騰するようだ。体にある何か、熱いソレが、来る。 「お前、それは――ッ!」 「ここからいなくなれぇー!」 いつの間にか手にあった、自分の体のように感じるその剣で、一撃を加える。手ごたえはあった。 「ぐ……ッ!」 ソイツの体に斜めに一文字の傷が生まれる。ダメージは確実に入っている。 「もう、覚醒してたのか……?」 傷を抑え、後ずさる。もう一撃、もう一撃で倒せそうだ。 しかし、体が重い。手足がもう動きそうにない。まだかかってくるようならもう対応できそうにない。倒れてしまいそうになるが、どうにか踏ん張る。 「もう一発、欲しいか?」 そう言うのが今の俺の全力だ。もちろん、もう一発浴びせられるわけはない。 「フン、精々あがけ……」 そう一言残し、ソイツは闇に消えた。どうにか、乗り切った。 「でも、俺ももう限界っぽいな……」 目の前が暗くなっていく。駄目だ、このまま倒れ――
どこなんだ、ここは。
セピア色の世界。体は動かない。 居るのは俺と、もう一人、酷い時代錯誤している服装の男性。 知っているようで、わからない。初めて見たようで、懐かしい気がする。 その男が、口を開いて、俺に何かを――
ガバッと起き上がる。見慣れた光景、いつも見てる天井だ。
さっきまで、路上で現実離れした戦闘を繰り広げてた気がしたんだが……。夢、だったのか? それにしてははっきりとしているが―― 「やっと起きたわね」 「うおっ!」 急に傍から声がした。そちらを見ると、さっきボロボロだった女の子がいる。 「全く、こんなとこまで運ばせて……。大変だったんだからね」 「ああ、すまん、ありがとう……?」 ボロボロ、だった、はずなんだが。何故か傷は一つもなく、服も綺麗になっている。 「えっと――」 「聞きたいことは沢山あると思うわ。でも、とりあえず、今日はちゃんと休みなさい」 「え、あ、ありが――」 「あ、別に心配してるわけじゃないんだから! アタシのせいとか思われたら嫌なだけよ!」 「う、うん」 何も言えないうちに、全部まくし立てられた。まあ確かに、今は喋るだけでも少々辛い。 「まあ、また明日――そうね、明日の放課後にしましょう。また放課後に今日のところで待ってるから」 今日のところ、というと最初に会った渡り廊下だろうか? あちらの路地のほうが印象には強いのだが。 「それじゃ、また明日」 窓に近づくと、そこから飛び降りる。ダイナミックな退室の仕方だ。いつか真似することにしよう。 うとうとしながら、そんなことを考えていたが、ここが三階だと言う事に気づくのは、明日の朝のことだった。 |
剣入手
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サブイベント
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かけあい
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201 名前: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 投稿日: 2010/07/30(金) 23:28:02.65 ID:wUwayb.0
猿「きー、暑いわね」 犬「本当ですね。特に胸が汗で蒸れてしまって」 猿「そ、そう、特に胸がね、アハハ」 雉「……ペチャパイ」 猿「!!!」 犬「あら、桃様!」 猿「あぁー! あんた何食べてんのよ!」 桃「ん、暑いしな。白玉あんみつだ。バニラアイス付きの」 犬「くぅーん、おいしそうですね」 雉「……シラタマ」 猿「ちょっと、わたしにもよこしなさいよ!」 桃「いやですー、パクパク」 猿「きー!」 犬「では私は桃様のお腰に付けた白玉を……////」 桃「うわわわっ」 猿「ちょ、ちょっと、何してんのよ!」 雉「……キンタマ」 |
BAD END
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ヤンデレ展開
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エンディング
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プロローグ
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――ふと、思うことがある。
今回の事件が、長い時を経て真実を失い、曖昧な事実のみが御伽噺として語られるようになった時、その物語の最後を締め括る言葉は、いったい何なのだろうか? 僕にはわからない。 御伽噺は目出度し目出度しで終わらせなくてはならない、と、街外れの太陽の降り注ぐ森で僕にそう言ったあの子に訊ねれば、あるいはわかるのかもしれないけど、なぜか、僕は、今まで、聞きそびれてしまっていた。
――ふと、思うことがある。
僕たちは、はたして正しかったのだろうか。 僕にはわからない。 ひとつ、確かなことは、この事件が御伽噺として語られる時、その物語の語り出しは、きっと、こうだろう……。
「――昔々、あるところに、桃太郎の子孫がいました」
キビッツ ・プロローグ
赤……、俺の周囲を彩るのは、鮮やか過ぎるほどの赤……。そして、熟しきった果実のようにドロドロと、ハラワタを地面へ吐き出し続けるナニカの死体、死体、死体の山。
どうして俺はこんなトコロに居るんだ? 俺は平凡な高校生で、なのに……、ココはまるで、そう、戦場みたいじゃないか……。
「桃様! 拙者が囮となり、皆の為に道を切り開きますっ。どうかっ、どうかっ、この世に希望を、取り戻して下さい!! 必ず、必ず、温羅をっっ!!」
ボンヤリと考え事をしていた俺に、突然、背後から少女の声がかけられた。驚いて振り返った俺は、更に大きな驚愕を感じてしまう。
――濡れるように黒い髪、それを無造作に白い布で背中へと束ねた少女。こんな地獄のような場所に、不釣合いな美少女が立っていた。 黒く大きな瞳、長く繊細な睫毛、そして、きりりと固く結ばれたピンクの唇。 しかし、その姿は異様……。美少女が全身にまとっているのは、髪と同じような漆黒の鎧。所々にリボンのように結び込まれた赤い紐には、小さな文字で呪文のような文字がビッシリと描きこまれている。そして、なによりもその右手に持っているモノ……。
――それは、不思議な剣だった。いや、それを剣と言っていいのだろうか? ギラリと光を反射するハガネの刀身に、まるでキバのように七つの小さな刀身を生やした存在。その表面には金色に輝く文字がいくつも彫りこまれていた。見ただけでわかる……、その圧倒される雰囲気。美少女が右手に持つソレは……、凄まじい『神器』であると。
「里彦神……、駄目だ。俺達は『仲間』だと言った、そして、俺達は誓っただろう、この世に平和を、平凡な生活を、皆が笑える時代を取り戻すと!! ここで、お前を独り、犠牲にするような俺が、そんな平和を取り戻せるハズがねえっ!! 駄目だっ!! 絶対に皆で揃って帰る、温羅を打ち倒してっっ!!」
俺の喉が勝手に動き、そう言葉を吐き出す。いったい……、俺は……? わからない、何もわからない。まるで夢を見て、誰かに乗り移っているような感覚で……。だが、心の底が震える……。熱い思い、絶対にコイツラと一緒に帰るという断固たる決意が、全身を燃やすように流れていく。
「桃様っ!! 森彦神、只今戻りましたっ!!」
遙か上空から、澄み渡る風のような声。上を見上げれば、そこには両手を真っ白な翼と化した少女が羽ばたいていた。身軽さを追求する為か、鎧はつけておらず、まるで天女のようにも見える輝く和服を着こなしている。色白で細い足、それが空中で可憐に動き、ふわり……と目前へ着地。
晴れ渡った空に浮かぶ雲のように真っ白な髪。背中を越え太ももまでも届く長さ。その髪が見る見るウチに黒く、短く変化していく。 肩でざっくばらんに切りそろえたような髪型、美しい翼だった両手もスルスルと縮みながら、ごく普通の両手へ変化。
「桃様、上空から確認したところ、鬼の残数は約100といった所です。全て屋敷の中へと立てこもっている様子で、残念ながら温羅の姿は……。犬飼武命の鼻だけが頼りです」
「ああ……、わかった。ありがとう、森彦神」
俺の右手がひとりでに動き、森彦神と呼んだ少女の黒髪をサラサラと撫でる。指先に触れるその感触……、上質の絹のような、まるで羽毛のように軽い手触り。
「あ……、桃様……」
「くっ、も、桃様っ、そんな事してる場合じゃないだろっ!! ほら、見ろ、犬飼武命が戻ってきた」
ドンっ、と鋭い打撃を肩に受け、よろめいた俺の視線の先に、不思議な人影が見えた。それは、一人の少女だったが、その移動速度の凄まじさ……。岩が転がりデコボコで不安定な足場を、まるで平坦な地面であるかのように駆けて来る。遠めでもわかる、瑞々しく躍動したそのカラダ。長い足でしっかりと大地を踏みしめ、駆ける喜びを表現するように、地面の上を影のように疾駆する。
(なっ……!? なんだありゃ!? い、犬耳っっっ!?) ぐんぐんとコッチへと駆け寄ってくる少女。その姿をはっきりと見た俺は、内心で驚愕し呆然とする。 ゆるくウェーブされている柔らかそうな茶色の髪。首元にきっちりと結ばれている、まるで首輪のようにも見える防具。そして、鎧越しでしかも遠めでもハッキリとわかる大きな胸のサイズ。だけど、そんな事はどうだっていい。俺の視線はただ一点、彼女の頭部にだけ集中していた。 ヒョコヒョコと柔らかく痙攣するように動いている耳……、そう、それはまさに犬の耳で……。 さっき、上空から美少女が両手を羽にして舞い降りた時も驚いた。だけど、それはあまりに現実離れしすぎていて、驚愕を通り越していた。だが、この少女は頭部の耳以外は完全なる美少女で……。首元に嵌った赤い首輪と相まって、なにやら妖しい欲望が溢れてしまいそう……。
「あうっ、桃様っ!! 犬飼武命、只今戻りましたぁー。偉い? 偉い? 褒めて、褒めて、褒めてっっ」
「うがっ、は、離れろ、犬飼武命。里彦神が怒る……じゃなくて、そ、そのっ、そう、ここは敵陣だぞ、気を引き締めろ」
距離、約5メートルくらいの場所から、瞬時に跳躍し俺の首へと全力でしがみ付く犬耳美少女。俺は何事かを必死で喚きつつ、そのいい匂いのする柔ら間なカラダを引き剥がそうと焦る。触れるカラダ……れは鎧越しのはずなのに、ムニュムニュと柔らかくて、何というか、ずっと触っていたくなる……、
「桃様っ!! もうっ、遊んでないでさっさと行きますよっ!! 駄犬も、さっさと離れろっ!! ぶった切りやがりますよ、テメェ」
絡み合う俺達に落雷のような少女の声が響き渡る。顔を真っ赤に紅潮させ、ブンブンと右手に持った不思議な神剣を振り回す。まずい……、俺の背中に大量の汗が流れ落ちていく。やばい……、なんつーか、目がマジだ。が、俺にしがみ付く犬耳少女は、クスクスと笑いながら、俺の首筋から離れない。
いや、それどころかその豊満な胸を、俺の顔へとグリグリと押し当てて……、鼻へと漂う美少女の甘い香り……、ああ……癒される……。
「だ、駄犬っっっ!! アンタはいつもいつもいつもぉぉおっっ!!」
「くすくすっ、ん? どうしました、お猿さん?」
俺を盾にするように間に挟み、バチバチと睨み合いを始める美少女二人。ああ……、さっきまでの戦い直前の緊張、そして悲壮感が跡形もなく消し飛んでいく。凄まじい馬鹿馬鹿しさ……、さっきまで生きるの死ぬのって考えてたのに……、いや、でも……。
俺は、なんとなく可笑しくなって、クスクスと微笑みながら、ゆっくりと犬耳少女のカラダを持ち上げ、地面へと置き、口を開く。
「よし、皆。行こう。そして、改めて誓う!! 必ずまた四人揃って笑い合うと! 俺達は『仲間』だ。俺は、人ならざる存在として生れ落ち、ずっと孤独だった。虐げられし者達の希望、戦うモノとして育ち、そのまま孤独の中で朽ちていくと諦めていた。だけど……、君達に救われた。だから誓う、俺は、初めての『仲間』であるお前たちと共に、これからも永遠に……、時が終わるその時まで、共に笑い合いながら過ごすと!! さあ、行こうっっ!!」
ゆっくりと瞳を閉じる。赤子の時、最初に瞳を開けた時から、俺に宿っていた異能のチカラ。すでに三歳にして腕の力は石を握りつぶし、駆ける速さは鹿よりも速い。周囲の人々は俺を当然のように人と見ず、ただ、戦う存在、希望装置としてのみ扱った。そんな俺に初めてできた『仲間』。
――俺は、独りじゃない。俺は、コイツラとずっと笑い合って生きる。未来も、その先も……、ずっと、ずっとっっ!!
フツフツと胸の内から、溶岩のようにあふれ出す願い。ただ、『生きていたい』と願う。そして、かつては怨んだ事もあった周囲の人間達の願い。それらが俺の五体隅々へと行き渡っていく。
――そう、あの人たちも、俺と変わらない。ただ、必死に自分の守る者の事を心配していただけで……。だからこそ、俺は、俺は……。
願う……。この世に生きる人々を救えるチカラを。はるか富士の山の頂のように、孤高で、揺ぎ無く、人々の願いを、想いを、ただ無言で受け止め続ける『希望』をッッッ!!!
「――――ッッッ!!! 桃様、それ、それは……、、まさか……、まさかッ!? あ、天叢雲剣」
感じる……、俺の右手へと集まる『願い』。それはただ、大切な人を守りたいという想い。俺の気持ち、そして、俺に縋るしかなかった人々の、自己の命さえ顧みない純粋な『願い』。それら全てが、細い糸のように寄り添い、纏まって、ハガネのように鍛え上げられていく。
――それは、理不尽な暴力による『絶望』に抵抗する人々の『希望』。 喉の奥、胸の中から猛りがあふれ出す。喉の奥から屋敷の奥へ潜む『鬼』そして温羅に対して、宣戦布告、鬨の声が。
「我が名は、吉備津彦神っ!! そして、側へ在るは、楽々与里彦神、犬飼武命、楽々与森彦神!! 我等四名の力を持って、今より、温羅の首、貰い受けるっっ!!」
両目をカッっと見開く。俺の右掌へ吸い付くような感触を感じる。何も持っていなかった右手……、今まで誰とも触れ合わなかった俺の手の中へ、一本の剣が鎮座していた。諸刃造りの刀身が、太陽そのもののように輝きを発し、周囲の鬼気を薙ぐように消し去っていく。
――天叢雲剣、この国の希望。闇を、あらゆる苦難を薙ぎ払う、荒ぶる神が見出せし神器。
それを右手に構え、俺はゆっくりと足を踏み出していく。両脇を固めるように三人の仲間が着いて来る。
真っ赤に染まったた足元の岩、ヌルヌルと滑る血を踏み越えて、俺達三人は迷い無く、前へ、死地へと進んでいった。
※
まで、 んで目覚めたら、主人公の体の中になにか熱い違和感を感じる……って感じでどうかなぁ。 温羅の外見なんかが、>>1の指定、絵師の支援がないから想像できなかった事、それに簡単にラスボスが姿を見せるってのも……と思い、『仲間への絆』『希望』ってのを媒介に「天叢雲剣」を出現させました。つまり、物語後半で主人公が三人娘と共に過ごしたいっって思えば出現する……って案です。 } |
伝説のキビダンゴ
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