ツンデレ(仮)な姉 中編

147 :がおー ◆ctpDG7E5wY [sage] :2012/02/09(木) 13:47:42.05 ID:XAgAdBpo (2/6)
 「おはよう。ごめん、遅くなって」
俺が大学の図書館についたのは、10時10分前だった。俺が到着した時には、
彼女は既に勉強を始めていた。テーブルの上にはレジュメとノート、過去問が丁寧に並べられている。
「おはよう、一樹君。私のほうこそ急に誘ってごめんね」
  彼女の名前は三山恵子(みやまけいこ)で、俺と同い年。大学はもちろん学部学科も一緒。
外見の方はといえば、一言でいうと可愛い。愛らしい顔立ちに、小柄な肢体。
それにふわふわと波打つ栗色の髪が、彼女の可憐な容姿にマッチしている。100人いたら95人は「可愛い」
と口をそろえて言うだろう。あとの5人はきっとゲイか熟女好きの男だ。
 性格の方は普段は物静かだが、俺と二人きりになるとよく喋る(よくといってももとが無口なので、一般的なレベルになる)。
本人は隠しているつもりのようだが、非常に嫉妬深い。俺が数少ない女友達と喋っていると、黒いオーラが見え隠れする。
しかし、基本的にはよく気が利き、甲斐甲斐しく俺に尽くしてくれる良い娘なのだ。
 一人暮らしの彼女の家にお邪魔した時は、いつ把握したのか俺の好きな料理をたくさん作ってくれたり、
冬休みの時など懸賞でチケットが当たったとかで旅行に連れて行ってくれたり。
それに、彼女の実家は、どうやらかなり裕福のようだった。



148 :がおー ◆ctpDG7E5wY [sage] :2012/02/09(木) 13:49:29.16 ID:XAgAdBpo (3/6)
 以前、彼女にさりげなく何かほしいものはないかと聞いたところ、やんわりと断られた後
「ずっと一緒にいてほしい」「私に甘えてほしい」
といった旨の返事を戴いた。いつも横暴な姉ちゃんにこきつかわかれている反動か、俺は情けなくもその言葉で泣いてしまった。
そんな俺を、彼女は慈愛をこめた優しい表情で抱きしめてくれた。
かくして、俺の役割はそれまで以上に彼女に甘えることとなり、彼女の役割はそれまで以上に俺の世話を焼くこととなった。
俺が甲斐性なしのヘタレ駄目人間というのは、俺自身も含め周囲共通の見解であるが、
彼女の前では骨抜きになってしまっても仕方ないことだと思う。
俺の生活は、彼女抜きにはだんだんと成立しなくなっていった。



149 :がおー ◆ctpDG7E5wY [sage] :2012/02/09(木) 14:00:19.68 ID:XAgAdBpo (4/6)
 今も、彼女が自分の勉強そっちのけで教えてくれたおかげで、最もやばいと目していた商法が終わったところだ。
 「ふう、こんなもんかな。少し休憩するか」
 「そうだね。あ、私クッキー焼いてきたから、外のベンチにいこ?」
 彼女にそう告げられ、外へと歩く。図書館前の広場にあるベンチに座ると、
冬の風が肌を乱暴に撫でてきた。隣にいる彼女が、一瞬ぶるりと震えた。
「寒いなぁ……。一樹君、あっためて?」
彼女はふにゃふにゃとした笑顔で、俺に小さな身体をすり付けてくる。普段は俺の世話を焼く彼女だが、
時折こうやって甘えてくることがある。上品な猫のようで、とても可愛かった。
 「あのさ、恵はテスト大丈夫なの? クッキー焼くのだって大変じゃないか?」
 「ううん、私は一応普段から勉強してるし、人に教えることで自分も勉強できるから。クッキーだって、結構簡単なんだよ?」
 確かに、昨年度彼女は法学部の成績優秀者として表彰されたらしいので、余裕はあるのだろう。
クッキーだって、器用な彼女にかかれば簡単なことかもしれない。
 「そっか。結局いつも世話になってる俺が言うのもなんだけど、負担だったら言ってな」
 「全然負担なんかじゃないよ。あ、早くクッキー食べてみて。今日のは自信作なんだよ?」
 はい、あ~ん、と口に放り込まれたクッキーをよく噛んで味わう。香ばしいバターの風味と、甘い味が広がっていく。
 ふと隣をみると、彼女は笑顔で……いや、惚けた顔で俺を見つめていた。
クッキーは、自信作というだけあって、とてもおいしかったけど。


150 :がおー ◆ctpDG7E5wY [sage] :2012/02/09(木) 14:01:57.86 ID:XAgAdBpo (5/6)
 朝起きると、一樹がいなかった。最初は家のどこかにいると思った。でも、トイレにもいないし、
風呂場にもいないし、リビングにもいなかった。家中どこを探しても、いなかった。携帯を開くと、メールが一通。
 『ごめん、彼女から図書館で勉強しようって誘われたから行ってくる。買い物はまた今度で』
 ふざけたメールは、一樹からだった。嘘、でしょ?彼女って何?笑えない冗談言わないでよ。
なんで彼女なの?彼女なんていらないでしょ、私と一緒にいて、喜んでたんじゃないの?
買い物、デートの約束は?いつ彼女なんて作ったの?悪い虫がつかないよう見守ってたはずなのに。
なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。
心臓がばくばくと暴れている。一樹に、彼女?彼女と図書館にいる?私のことをいつも優先していた一樹が?私の弟の一樹が?
定まらない思考でメールを送る。『下らない嘘はいいから帰ってきて』『怒るよ?』『今なら許してあげるから』『どこにいるの』『ご飯くらい奢るから一緒にいこ』…………何件も送ったメール。返信は、一時間経ってもついに帰ってこなかった。
 ……助けに行かなきゃ。一樹は優しいから、きっと騙されているんだ。
じゃなきゃ優しい一樹が、私との約束をすっぽかすわけない。
そもそも姉との約束を放棄させる彼女なんてろくでもないやつに決まっている。
待っててね、一樹。

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最終更新:2012年02月16日 15:38
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